ずんだコンピューティング
最終更新：
nandaka_zunzun 2023年02月18日(土) 00:16:02履歴
作者：nandaka_zunzun 
はしがき
初投稿です。
最初期の液晶は、イカ墨からできているという与太話を聞いたのでN〇Kのドキュメンタリーを換骨奪胎して書いてみました。
VOICEVOXお持ちの方は、なるべく渋い声のライブラリで地の文ナレーションをお楽しみください。
ゆくゆくは要所だけでも動画化したいです。
最初期の液晶は、イカ墨からできているという与太話を聞いたのでN〇Kのドキュメンタリーを換骨奪胎して書いてみました。
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ゆくゆくは要所だけでも動画化したいです。
JNBルポルタージュ：ずんだコンピューティング
「やめてやめて！」「いやあああああー」「たすけて、頭、とらないで！」「ちぎゅれるぅー」「次は僕のばんなのだ！」
工場見学通路に、耳に心地よい、ずんだ虫の悲鳴がこだまする。
東北地方、日本のシリコンバレーと呼ばれるZ県N川沿いに立地するZSM社の工場では、
ベルトコンベヤーに仰向けに手足を固定されたずんだ虫が、人手を一切介さずにロボットアームにより次々と頭部だけを取り外されていく。
取り外された頭部はまだ生きているうちに素早く、タッパーに用意されたずんだ液に漬け込まれる。
「ごぼぼ…」「コロ…チテ…」「ﾁｭﾒ…タイ…」「カヒュ…ウマ…」
ずんだ液は高度に濃縮されており、ずんだ虫に軽い痛み止めと高濃度の栄養を供給し、すぐには息絶えさせないように計算され尽くして精製されている。
詳細なレシピや契約農家への取材は企業機密として固く拒否された。
ずんだ虫は苦痛の中で数時間から数日かけてゆっくり漬け込まれていくが、この時、水分不足や、一定のストレスが長時間続くと、体内で糖分や旨味成分が石膏の結晶のような耐水・耐乾燥結晶として析出する。
この析出した白い結晶が量子回路の一部として利用できるのである。これにより、万一死亡してもその量子回路はシリコン半導体と同程度の耐久力を持つ。
……
いま、日本が世界に誇る常温30量子ビット級コンピューターの核心部は、このずんだ虫の脳を電子回路に組み込むことによって形作られている。
「1.2Gbit、この数字の価値は年々安くなっているのですが」
東北工場長は気持ちよさそうに寝ているずんだ虫を膝に乗せながら私に語った。「1970年代に、ギガ級、1.2Gbitという容量のデータストレージはまだ人類は開発できていませんでしたが、日本には数百年前から山ほどありました。しかも食べられたり戯れに踏みつぶされたり…よく考えれば実に日本人はもったいないことをしてきたものです」
そういうと彼女はずんだ虫の両腕を引きちった。
「へ…！？」ずんだ虫は激痛に目を覚ましたが一瞬何のことか把握できていないようだ。
緑の血が少々工場長室に垂れるが、それよりも悲鳴がやかましい。
「あああああああああああ」「ｲﾁｬｲｲｲﾁｬｲｲｲﾁｬｲｲﾁｬｲ」
「気にせずお茶菓子にどうぞ。ずんだ虫は人類の糧となりインフラとならなければいけません」
東北工場長はずんだ虫をシュレッダー付きダストシュートに放りこむと、ちぎったずんだ虫の腕を私に勧めた。
「東北の本場のものはあまり虐めなくても焼かなくても相当甘いのよ。東京から来られる方はいつもびっくりされるの」
私も早速熱いお茶と一緒にいただいてみる。この甘さは仙台駅のエキナカで食べたずんだ虫の天ぷらより数倍甘い。
……
ずんだ虫は特殊な生き物だ。どの個体も日本語を話し、自称妖精とのたまう胡散臭い存在だが、生物学者はそれにGOサインを出している。
ずんだ虫というのは、その存在のすべてがこのユークリッド三次元空間に存在しているわけではないからだ。
そのため、浮遊器官のように、現在の科学では説明のつかない生態が数多く存在する。
30量子ビットという単位は、ずんだ虫の知能や語彙力の評価指標である小学校低学年程度、約1.2Gbit程度の電子状態を再現する領域を活用している。
ずんだ虫はある程度の語彙力を持っていることが知られているが、その秘密は言語野と、それを入出力できる神経回路を遺伝子構造としてあらかじめ保有していることにある。
あらかじめ脳に日本語ROMがセットされているようなものである。
故に、彼らは生まれて数分でつたないながらも会話が可能であるし、いわゆる足りへんずんはまともに会話ができないし、英語や中国語をネイティブにしゃべるずんだ虫は存在しない。
……
無数に日本に生息するずんだ虫からそれこそ無尽蔵に中央処理装置を製造できるZSM社の計算機生産量は世界一位、量子コンピューター市場のシェアの70％を誇る。
では実際に加工工程を見てみよう。
頭部のみになったずんだ虫の数か所に、数センチの銅線を深々と突き刺す。反対側はRS232Cケーブルを通して工場のサーバーにつながっている。
そこから、ナトリウムの超高速反応の振る舞いを計算するプログラムを投入し、正しい範囲の解が得られるかテストする。正常に解が得られることを確認し、パッケージ工程に送られる。
「ｵﾎﾞﾎﾞﾎﾞ」
すでに死亡していたり、解を出力しない場合は、不良品として粉砕されてずんだ液の原料の一部となる。
「ｴｴｯ､ﾄﾞｺｶﾞ…ﾄﾞｺｶﾞﾏﾁｶﾞｯﾃｲﾀﾉﾀﾞ…！？」
最終的な歩留まりは、頭部を取り外す前の「教育活動」により、85％に達する。これはアメリカのズンテル社や台湾のズビアン社のそれよりも10パーセント以上高い驚異的な値である。
この東京ドーム80個分の敷地面積を誇る工場では一日最大30万匹のずんだ虫を処理する力がある。
数百人程度の従業員は本社からの年間計画に基づいた計画立案と、クリーンルームなど、ずんだ虫や自動機械がメンテナンスできない箇所の修繕に当たるだけで平均年収750万円を得ている。これはZ県の労働者平均年収の30％増しである。
従業員はメンテナンス部門と管理部門に詰めているため、工場のほとんどの区画には人影がない。
東北では「1グラム1円」の価格で取引されるずんだ虫が、一個6万円の中価格帯の量子コンピューターの部品として売れるのであるから、会社も、従業員も、地主も、自治体も、周りの農村も笑いが止まらない。
ずんだ虫は福の妖精なのである。
……
東北地方では、近年までずんだ虫は決して心地よい存在ではなかった。
冬の食糧が不足する時期、貴重な食料を荒らす妖精たちはネズミや烏と同じくらい忌み嫌われた。
また、妙に人間を見下すその言動はしばしば子供たちの言葉の荒廃をもたらしたのである。
Z県N市D川沿いでは、1950年代、荒廃する農村におけるずんだ害虫被害が深刻化する様子が、JNBのテレビカメラによって記録されていた。
そこには、あの東北工場長の両親の姿もあった。
「あんこもんの導入により、食害は抑えられていますが、農家にかかるコストは深刻でちゅわ」
「当初の目的であった昔ながらの棲み分けにつきましては万策尽きつつあります」
しかし、このころから、ずんだ虫の現代的な活用方法が実を結んでいた。
「実際にみてみましょうか」東北工場長はずんだ虫が回路に使われている製品が並んでいる社内博物館に私を案内してくれた。
ここは平日の営業時間中しか空いていないので、入館者は一部のマニアや暇を持て余した観光客しかいない。
メインステージに設置されたピアノほどもある巨大な計算機の電源を入れた。見たところ、1950年代に登場したリレー式計算機のように見える。
「電子頭脳の中身は妖精の頭脳。当時のCMソングです。なんだかファンタスティックでしょう」
そういって工場長は計算機のふたを開けた。
回路の真ん中、手足・耳を切り取られ、だるまのようになったずんだ虫が10匹ほど、
巨大な電子計算機の中で、回路基板に特殊なクランプで埋め込まれている。見たところ、緑色の真空管のようだ。
こちらを涙でうるんだ目で見つめてくる以外は。
「ｱﾀﾗｼｲﾆﾝｹﾞﾝｼｬﾝ…」「ﾀｼｭｹﾃ」「ﾊﾆｬｼﾃ」「ﾓｳﾅﾝｶｹﾞﾂﾓﾀﾍﾞﾃﾅｲﾉﾆ」「ｼﾈﾅｲﾉﾀﾞ」「ｺｰｼﾞｮｰﾁｮｳｻﾝ、ﾃｱｼ…ｶｴｼﾃ」
「では、計算のデモンストレーションしますね。なにか適当に10桁くらいの足し算を」
「そうですね…では願いましては」私はゆっくり適当に数字を口に出した。「一五四四八五六六五円なり、八五四七四四四円なり、一一四五一四円では」
「はいはい」ぽちぽち。リレー回路がテンキーを押されるたびにｶﾁｶﾁｶﾁと音を立てる。
「ﾊﾞｶﾆﾝｹﾞﾝｿﾚｲｼﾞｮｳﾔﾒﾛ」
「ﾑﾘﾁｬﾑﾘﾁｬ」
「ｿﾝﾅﾉｲﾜﾚﾃﾓﾜｶﾝﾅｲﾉﾀﾞ」ずんだ虫が騒ぎだした。彼らはリレーの音が何を引き起こすのか知っているのだ。
「計算開始」ポチッ
「ｵﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞ」
ずんだ虫たちがチカチカと発光した。商用100V電流を流されてるのだ。短時間であるがずんだ虫は高電圧をかけると発光する。
ずんだ虫は導電性に優れており、特に加工をしなくても同じ神経に電流を流すと、同じ反応を返すようになっている。これは初期の数個分のトランジスタを積載した集積回路に相当する。
この組み合わせをうまく見つけて電子回路に組み付けることで、当時高価だったリレー回路の数を節約することができる。
この1959年製造のリレー式計算機では、生きたずんだ虫12匹を回路に接続することで、当初100個近く要したリレー数をわずか5分の1に節約できたのである。
ｶﾁｶﾁｶﾁｶﾁｶﾁｶﾁ…
「ｵﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞ」
リレーとずんだ虫は心地よい協奏曲を奏で、1950年代基準としてははるかに短時間、20秒足らずで9桁の足し算を実行した。
「計算完了ですわ」
「163,147,623」 ニキシー管の赤い数字が明滅する。スマホで検算すると一瞬で正しい答えが出た。「うーん、御明算」
「ハヒ…ﾊﾋ…」
「このとおり、計算速度は決して早くなく、ずんだ虫は数か月しか持ちませんが、それでも当時の電子計算機市場では革命的でした。ずんだ虫を取り換えるメンテナンスでも利益が出ますし、害虫はその分だけ減る。」
「これって割り算やルートの計算できるんですか」
「当然ですわ。ちょっと時間かかりますけど」
「ちょっとやってみてもいいですか」
「ｲﾔｧｧｧｧ」「ﾕﾙｼﾃｪｪｪ」
……
当初は戦後の食糧難を解決するために、海外の高栄養大豆と一緒に東北地方の奥地から東北地方全域に頒種されたずんだ虫。
たしかにうまみと糖分からくる高カロリーは確かに食糧問題を解決したが、人間の想定をちょっと超えてへこへこ増殖したのがいけなかった。
ずんだ虫を半導体に使うアイデアは、この踏みつぶしても臼で挽いても焼いても食べても、果てしなく増え続け農作物を荒らす厄介者をどうにかしようとして生まれたものだった。
田畑を食い尽くすこいつの死体に戯れに試してみたか定かではないが、このコロンブスの卵のような案を最初に思いつき実行した者はたちまち億万長者になり、
その人に商売を教えた人、財政的につながったものや、血筋のつながったものも容易に日本で最も金持ちな者たちの仲間入りをした。
そして、ずんだ虫の被害に悩み続けた東北地方の町の中で、高速道路や鉄道、空港が整備されているところでは、各地に大小の差こそあれ似たような工場が立地することになった。
1960年代に入ると妖精は金の生る木と認識された。「食べられるエメラルド」「緑のダイヤ」として。
最盛期には北海道南部から北関東まで、ずんだ虫を電子製品や食料品として加工しようとする企業が 40 社以上に達した。
数人しかいない町工場から、財閥系グループ傘下の企業まで、 各社入り乱れての開発競争 ・ 価格競争があまりにも熾烈であった。
当初は田畑や街中で害虫駆除の一環で捕獲した天然物がほとんどであったが、乱獲と品質統一の観点からずんだ虫の養殖化や作業の自動化が進む。
当初手で神経を探り当て、そこに電極を突き刺す職人作業がロボットアームに、数人がかりで手間を擁する山狩りや屠殺工程がただの清潔感あふれる食品加工工程になってしまった。
この結果、資本力の足りない中小企業は再編されるか大企業によって淘汰されていき、
現在は量子コンピューター回路に求められるナノスケールの加工コストをはじめとする資本力の大きさから、ZSM社以下、日本では3社しかない。
現在のわれわれ日本人の高度情報化社会を支えるためのずんだ虫の加工は原則として機械に代替され、
手作業での電子部品への加工は伝統工芸品や、一部のピュアー・オーディオマニア、いわゆる音爾威惨によってのみ行われるようになったのである。
……
リレー式計算機の心臓部に採用されたずんだ虫であるが、
1970年代初め頃には、パッケージされたずんだ虫の脳をそのまま外部記憶装置として利用する方法が確立し、一般に発売されるようになった。
万一持ち出しされても適切な管理ができなけばすぐ死亡し、データが取り出せなくなることから情報漏れも起きにくい点が評価されたのだ。
当初は4匹によるRAID5、100MBitの通常BMD（生体記憶ドライブ）として製品化され、当時、箪笥サイズで原稿用紙数千枚、数MBitの記憶容量しかなかった半導体市場に革命を引き起こした。
この結果、半導体の開発ソースは記憶装置の単純な増産よりも微細化研究にシフトし、貴重な半導体生産能力をプロセスの微細化に振り向けることができた。
ずんだ虫による半導体のコストダウン。これによる半導体製造会社の利潤増大がなければ、ムーアの法則は1970年代には止まっていたといわれている。
ちなみに、1980年代、アメリカに電子部品回路としてずんだ虫がコンテナ一つ分輸出された記録が残っている。
しかし輸入したオレゴン・インスツルメンツをはじめアメリカの各半導体企業は結局、ずんだ虫を利用した製品を販売しなかった。
日米貿易摩擦の激しい時期であり、アメリカの環境では消耗が激しいずんだ虫を継続的に日本から輸入するコストと、検疫にかかる手数を嫌い、アメリカでの商品化の見込みなしと判断されたのである。
行く当てのなくなったずんだ虫は、リバースエンジニアリングを兼ねて輸入した各社の従業員の手で「ほぐし」「分解」されたのち、ミリ単位で頭のつま先から足の先までスライスされ、プレパラートにかけられて分析に回された。
今アメリカでは海外産の動物の輸入が困難であるため、戦後すぐに核実験用に米軍に持ち出された数家族を除き、ずんだ虫はプレパラート標本しかいない。
東北工場長は最後にこう言っていた。
「ずんだ虫のおかげで、日本人はこのような豊かな情報化社会を唯一享受できるようになった数少ない民族のひとつとなりましたわ。
それは、かつて箪笥サイズの記憶装置を大枚はたいて買ってくれた企業や国を始めとしたユーザがいたからですわ。
我々はユーザーに常に感謝しながらずんだ虫を加工しているのです」
あとがき
もう少し改訂します。ゆくゆくは挿絵を入れます。
ちなみに、平日の日中しか空いていない社内博物館は、私の愛する勤務先の博物館の形態であります。
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このページへのコメント
基板に載せた状態でもなお発声能力残してるのは
虐を楽しむ分には良いが、普通に使うには余計なノイズを発する事になるからマイナスじゃね？
今回はデモンストレーションなのでリレー式計算機のふたを開けた状態で動かしています。
通常時はふたを閉めた状態ですので、リレーのカチカチ音にかき消されて聞こえない…はず…
あと当時のコンピュータルームに設置する代物なので多少聞こえても騒音に紛れて気にならないはずです。
ええ、どんなに叫んでもだぁれも助けに来てくれない状態になっています。
コメ主さんの言うノイズは、音的な騒音ではなく、電子的なノイズかと…。つまりPCの性能を上げるなら事前に舌を切り取っておいたほうがいいのでは？との趣旨と推察します。
最初期型はおしゃべり機能付きだったけど、改良してく過程で舌も切り取ることになったとか…？
僕はどっちも面白いのでありだと思います笑
ずんだ虫が半導体に・・・！
でも、いくら原材料の調達コストやセキュリティ面で優れていても、流石にずんだ虫ではナノメートル単位の世界には入り込めないでしょうし、いつかは別の半導体に取って代わられそうな予感が
ところで、ずんだ虫の断末魔を「耳に心地よい」と表現するあたり、さてはこのライターは鬼威惨ですな？
ずんだ虫に計算されたストレスを与えて、その頭脳のすべてを可能な限り有効利用することで、なんとか30量子ビット級までの高性能化を図ることができましたが、すでに限界に近い状態です。
日本のずんだコンピューティング企業は、これまで莫大な利潤を得てきましたが、海外の猛追を食らっています。
品種改良でずんだ虫の能力を拡張するか、浮遊器官をはじめとする、現在の科学の範囲外にある仕組みを解明しないことには、いつか追いつかれるやもしれない状態なのです。
完成品はどんな感じになるんだろ？
ずんだ液に浸された脳カプセルに入った感じ?
ありがとうございます。
ヒートスプレッダを外した大きめのCPUを想像してください。
黒い板の中央に、ずんだ液がしみ込んだずんだ虫の顔が取り付けられています。爪で押したり、強い光や熱を与えると目をパチクリするので、かすかに生きているのがわかると思います。
そこから生えている銅線が放射状に配列され、それぞれ複雑な文様を描きながら基盤の基板上の別々の場所に接続されています。
ええ、近いうちに映像化します。
１日３０万って、多すぎ(笑)
そんなに繁殖しているって、１日でも休んだらずんだもんで溢れかえってしまう。そうならないように品種改良して加工しないずんだもんは即日死んで、液体とかになるのか。
ちょっと多いように見えますね。一日、重量にして150tあまりのずんだ虫を加工していることになります。
実際、工業利用が始まるまでは、烏やネズミと並んでごみ戦争の主役でした。繁華街の朝など、空を覆うばかりの勢いだったのです。
この話も近いうちに書くやもしれません。