はじめに 
けもです。
睡蓮様の＜ショートショートずん虐『妖精コンポスト(小説版)』＞に触発され、私も原作リスペクトのノベライズをしてみたいと思い立ちました。
某動画サイトにて、かつて拝見した動画作品『餓死する赤ちゃんずんだもん』が忘れられず、誠に勝手ながら、覚えている範囲で小説にしてみました。
現在、当該作品を拝見することは叶いませんが、当時、何度も見返したおかげか、結構鮮明に覚えていて嬉しい限りです。
zg_gogo様、素晴らしい動画作品をありがとうございます！！
※何か問題がありましたら、管理人様、お手数ですがこのページごと削除をお願いいたします。
本編
人里近くの、小さな森。
「「ずーん………ずーん………」」
枯れ葉を積み上げた簡易的な巣の中に、妖精の寝息が響く。
幼い妖精…………「子ずん」が2匹。
その寝顔を見ながら、成体のメス…………「ままずん」は、満足そうにつぶやくのだった。
「ああ、なんてかわいいのだ、おちびちゃんたち……ぼくは、なんてしあわせちゃ………………」
この「しあわせ」が、未来永劫続くと、この妖精は信じてやまなかった。
…………………………
次の日。
妖精の朝は、遅い。
「のだ…………？」 「のだ、のだのだ」
太陽が高く昇ると、ようやく子ずんたちが起き出す。
ままずんはというと、枯れ葉の並びを整えて、巣の手入れをしていた。
「おかーちゃ、おかーちゃ！ ぺこぺこ、ぺこぺこ！」 「ずんちゃも、ずんちゃも！ ごはんさん、ごはんさんどこ？」
子ずんたちは、さっそく母親に駆け寄り、「ごはんさん」をせがむ。
愛くるしい我が子の声を聞いたら、その願いを叶えずにはいられないのが、親ずんの性である。
「おちびちゃんたち！ ままずんは、ごはんさんをさがしてくるのだ！ いいこにして、まってるのだ！」
「はーいのだ！」 「はーいのだ！」
親ずんと2匹の子ずんは、互いの「しあわせ」を確認するように微笑み合った。
「…………のだのだのだのだ！」
意気揚々と、ままずんが飛び立つ。
これが、我が子との今生の別れとも知らずに…………………
「これだけあれば、おちびちゃんたちも、おなかいっぱいになるのだ！」
数十分後。
妖精は、2つの大きなリンゴを抱えて、森の中を低空で飛んでいた。
人家へ侵入し、首尾よく盗み出したというわけである。
流石にリンゴ2個ぶんの重さは相当なもので、妖精の飛行速度は遅かった。
そのせいだろうか。
「…………つーかまえたっ！！」
「……え？」
頭上から捕虫網が振り下ろされ、妖精はまんまと捕まってしまったのである。
自分が持ち帰ったリンゴを食べる我が子の「しあわせ」そうな顔ばかりを妄想していたため、気づくことすら出来なかった。
妖精を捕まえた少年は、妖精が持っていたリンゴをその場でしゃくしゃくと齧ると、妖精を無造作に虫カゴの中へと放り込んだ。
この少年は妖精が侵入した家とは無関係で、リンゴのうらみで捕まえたのではなかったことが、唯一の救いだろうか。
それでも、妖精にとって危機的状況なのは間違いない。
「まって！ おねがい！ ここからだして！」
妖精は、虫カゴの中で立ち上がり、前足で壁面を叩き続ける。
「おちびちゃんたちが、おなかをすかせてまっているのだ！」
こちら側がだめなら、今度は反対側の壁面をぽかぽかと殴りつける。
とん、とん、とん、とん、とん…………
妖精の力では、虫カゴを破壊することは叶わない。弱々しい音が繰り返されるばかりである。
「ぼくがかえらなかったら、おちびちゃんたちが！！」
ままずんは、自分の帰りを今か今かと待つ我が子を想う一心で、懇願するのだった。
…………………………
「「おぎゃーおぎゃー！ おぎゃーおぎゃー！」」
森の中の巣では、2匹の子ずんが泣き喚いていた。
普段なら、もう母親が帰っているはずである。
「「おぎゃーおぎゃー！ おぎゃーおぎゃー！」」
起きてから何も口にしていない子ずんたちの腹は、ぶうううううううっ！ と音を立てて鳴る。
「「おぎゃーおぎゃー！ おぎゃーおぎゃー！」」
巣の中には、昨日食べた「ごはんさん」を消化しきったもの…………子ずんたちが排泄した「ずんち」が転がるのみである。
「「おぎゃーおぎゃー！ おぎゃーおぎゃー！」」
夜になっても、子ずんたちは空腹を訴えて、泣き続けた。
…………………………
次の朝になった。
「「おぎゃー！ おぎゃー！ おぎゃー！ おぎゃー！」」
子ずんたちは、目をかっと見開いて、大声を張り上げる。
「「おゃー！ おゃー！ おぎゃあ！ おぎゃあ！」」
ぶうううううううううううううううっ！！
子ずんたちの腹の虫は、負けじと大きな声で鳴く。
「「おぎゃー！！ おぎゃー！！ おぎゃー！！ おぎゃー！！」」
休まず泣き喚く間にも、体力はどんどん消耗するばかりだ。
それでも、子ずんたちは決して泣きやまない。
こうしていれば、必ず、母親が自分たちの危機を察して、「ごはんさん」を持って帰ってきてくれると信じているからだ。
「「おぎゃー！！ おぎゃー！！ おぎゃー！！ おぎゃー！！」」
母親が巣をあとにしてから、丸一日が経過した。
これだけ経っても、母親が帰ってこない。
そんな現実を信じたくないとばかりに、子ずんたちは巣の中で激しく胎動するのだった。
…………………………
朝方になって、ようやく子ずんたちは泣くのをやめた。
「「はあ、はあ………はあ、はあ…………」」
諦めがついたからだろうか？
いや、そうではない。
ずっと、「ごはんさん」を食べられず、ついに体力の限界が来たのだった。
「「はあ、はあ、はあ、はあ！！」」
子ずんたちの口角からは、ヨダレが糸をひいて垂れ落ちる。
このままでは、死を待つばかりだ。
子ずんたちにも、それはわかっていたのかもしれない。
ようやくその場から動き、自分たちが巣の中に排泄していた「ずんち」に向かって歩く。
「「のだ……のだ…………のだ……のだ…………」」
ややあって、「ずんち」に口をつける2匹。
「ずんち」のカタマリは、ゆっくりと咀嚼され、子ずんたちの腹に消えていった。
…………のも束の間。
「「おええええええええええええええええええええええええええええっ…………」」
2匹とも、激しく嘔吐してしまう。
必須栄養素の摂取や離乳食としての食糞の習性は、ウサギやコアラ等、多くの野生動物に見られる。
だが、この子ずんたちの場合、脳が「ずんち」を、食べ物として受け付けなかったのだろう。
無理もない。
普段から、栄養豊富な「ごはんさん」ばかりを食べて生きてきたのだから。
「ずんち」を食べられないなら、巣の材質である枯れ葉を食うわけでもない。
極限状態であっても、選り好みの激しさは、不変のものだったのである。
子ずんたちの嘔吐は次の朝まで続き、もともと尽きかけていた体力を、さらに消耗させる結果となった。
…………………………
「はぁ……はぁ…………」
また次の朝になって、1匹の子ずんが巣の中でひっくり返り、弱々しく胎動していた。
「はぁ…………はぁ……………………」
もはや、自力で起き上がる体力もない。
もう1匹の子ずんは、助け起こそうという気も起きないのか、虚ろな目でそれを見つめていた。
「はぁ……………………はぁ………………………………………………………………」
ついに、その胎動が止まり、1匹目の子ずんが死んだ。
衰弱による、餓死であった。
体温を失ったその体が、みるみるうちに色あせていく。
「のだ…………のだぁ？」
まだ生きているもう1匹は、異変を察したのか、短く声をあげる。
「うぇーんうぇーん……うぇーんうぇーん…………」
そして、振り絞るような声で泣き叫び始めた。
それは、恐怖からであった。
どれだけ空腹でも、どれだけ苦しくても…………
いずれは、母親が「ごはんさん」を持って帰ってきてくれると。
必ず、自分たちは助かると、信じていたからこその、恐怖。
「うぇーんうぇーん！ うぇーんうぇーん！！」
目の前で、兄弟が死んだ。
いよいよ、自らの死が現実となって迫ってくる。その恐怖から、泣き叫ばずにはいられなかったのである。
…………………………
さらに、次の日の朝。
「のだ……………のだ………………のだ………………のだ………………………」
くっちゃ、くっちゃ………ぢぐっちゅ、ぐっちゅっ…………
巣の中に、子ずんの鳴き声と、汚らしい咀嚼音が響いていた。
何と、動かなくなった子ずんの死骸を、生き残ったもう1匹が、貪り食っていたのである。
共食いであった。
ここに至るまでに、どれほどの葛藤があったのかはわからない。
極限状態の中、正常な判断能力を失ったのかもしれない。
はたまた、そこに「肉」があれば食べるという、野生動物としての本能だろうか…………
「のだ…………のだ…………のだ、のだ」
くちゃっ、くちゃっ、くちゃっ、くちゃっ…………
同族の死骸とはいえ、「ごはんさん」は「ごはんさん」。
子ずんの胎動は早くなり、その命は繋ぎ止められたかのように思えた。
はぐちゅっ、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ…………
葛藤なんて、最初からなかったのかもしれない。
咀嚼音を響かせながら、子ずんは、夢中で兄弟の死骸を食べ続けた。
…………………………
森で捕まってから、5日目の朝。
ままずんは、あっさりと解放されることとなる。
「…………母さんが勝手に飼っちゃダメだってさ、つまんねーの」
少年は、虫カゴのフタを開け放つ。
興味本位でこっそり飼うつもりだったが、仕事で長らく家を空けていた母親が帰宅したことで、妖精の存在が露見してしまった。
四六時中、妖精は虫カゴの壁を叩きながら喚き続けていたので、隠しようもなかったのである。
「はぁ…………やっと、でられたのだ……」
…………本来なら、「出してもらった」が正しい表現なのだが。
無傷どころか、ご丁寧に森まで戻してもらった礼も言わず、妖精は飛び出した。
「まっててね！ おちびちゃんたち！！」
使命感に燃えたままずんは、我が子の待つ巣に向かって飛び続ける。
「のだのだのだのだ！」
十数分後。ままずんは枯れ葉を積み上げた自分の巣に、ようやく戻ることが出来た。
ままずんを待っていたのは、信じ難い現実であった。
「…………えぇ！？」
必死で枯れ葉を掻き分けて巣に入るや否や、衝撃に打ちのめされるままずん。
愛する我が子が、2匹とも、死んでいたからである。
「そ、そんな………！ おちびちゃんたち…………！」
先に死んだ1匹は、もう1匹に肉を食い尽くされたのか、白骨化していた。
兄弟の肉を糧にして生き延びたはずの2匹目も、四肢を硬直させて冷たくなっていた。
色あせたその体は、二度と動かない。
その見開かれた眼球は黒く濁り、もはや母親を見つめ返すこともない。
「きっと、おなかがすいて、くるしかったのだ…………さびしかったに、ちがいないのだ…………」
ままずんは、ここで何があったかを詳しくは知り得ない。
だが、二度と動かぬ2匹の我が子と、ただ1匹生き残ってしまった自分は、決して「しあわせ」等ではないと、悟るのだった。
「ぼくが、にんげんさんにつかまらなかったら、おちびちゃんたちは…………」
激しい後悔の念が、ままずんを襲う。
だが、そんな「ありそうであり得なかった未来」を想像しても仕方がない。
現に、子ずんたちは死んでいるのだから。
希望の光を失ったままずんの目には、みるみる涙が浮かぶ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！」
我が子を2匹とも失った、ままずんの慟哭が、森に響き渡った。
そんな妖精の悲しみを余所に、虫は歌い、鳥は鳴き交わす。
これが、自然界の日常である。
これが、繰り返されるだけである…………
最後に。
どうしてあの2匹目の子ずんは、共食いまでしたのに、生き延びることが出来なかったか。
子ずんたちは、数日間「ごはんさん」を食べられずに泣き喚いた。そのせいで、栄養失調を起こしていたのである。
2匹目の子ずんが食べた、兄弟の死骸だけでは、失った栄養素を取り戻すに足りなかった。
少しだけ、餓死するその瞬間を、先延ばしにしただけだったのである。
では、どうして、巣から一歩も出ようとせず、ただ死んだか。
一般的な野生動物ならば、食物を求めて、巣を飛び出しても良いはずである。
その答えは、ままずんが発した言葉にあった。
ままずんが、「いいこにして、まってるのだ」と子ずんに言い聞かせてから、巣をあとにしたのを覚えているだろうか。
この親子における「いいこにして」とは…………
「 ま ま ず ん の 許 可 な く 、 巣 か ら 出 て は い け な い 」 ということ。
確かに、外の世界は危険だ。様々な生物が、妖精を食べようと狙っている。
体が小さくて動きが遅く、飛行能力もない子ずんは、捕食者にとって格好のエサだ。
だからこそ、ままずんは教育を徹底したのである。
いつもなら…………「ごはんさん」を持ってすぐ帰って来られるような場合なら、この言いつけは真っ当なものだろう。
だが今回、その言いつけが仇となった。
しかも、それだけではない。
子ずんの…………いや、妖精特有の歪んだ認識。
今はどれだけ苦しくても、必ずや、母親が自分のために、「ごはんさん」を持ってきてくれると。
お腹が空いたぶん、寂しかったぶん、怖かったぶん、待たされたぶん…………
いつもの「ごはんさん」とは比べ物にならない、世にも豪華な「ごはんさん」に、ありつけると。
そして、自分が、自分こそが、「しあわせ」になれると。
…………………………
子ずんの死の原因。
自分にとって、「都合の良い可能性」ばかりを、最期まで信じ続けていたこと。
〜終〜
zg_gogo様に、最大限のリスペクトを込めまして
けも
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このページへのコメント
オワタ式生命体なのに片親の時点で生存率激減
呑気に食料確保する前にニートウンコ２個へ最低限の生きる術を教えなかった事で生存率激減
ド底辺のナマモノが味を選択するというつけあがった思考なので生存率激減
以上を条件としてニートウンコ２個の生存率を求めよ
ずんだＡ「ぼくたちはもりのけんじゃだからしなないのだ！」
先生：あなた達は森の欠者です。なにもかもかけているのです。指導ォ！
ずんだＢ「ぼくたちはうみのせいじゃだからしなないのだ！」
先生：あなた達は海の性者です。繁殖し続けないと絶滅するからです。指導ォ！
ずんだＣ「ぼくたちはそらのおうじゃだからしなないのだ！」
先生：あなた達は空の鏖者です。する側ではありません、される側です。指導ォ！
特に証拠は出せませんが作者です。
ノベライズありがとうございます、小説ならではの補完がとても面白かったです。
私の中ではママずんは人間から盗んだ想定では無かったのですが、使った素材がりんごだったがために盗んだと解釈されてしまった形になります。ドングリとかにしとけば良かったなあ…(けもさんの解釈を否定するわけじゃありません)
動画の方は諸事情あって今のところ再公開するつもりはありません。申し訳ございません。
P.S.私はずん太郎じゃない
コメントありがとうございます。まさか、作者様本人にご覧いただけるとは、大変喜ばしく存じます！
なるほど、ままずんは森の中でごはんさんを探していたのが、人間の方から妖精のテリトリーに侵入してきたということですね！その他、解釈等かなり違っている部分ありましたら申し訳ございません…………
作者様のお名前で修正・追記いたします！
いえいえ！
画面や台詞でしか語られない動画の間をどう補完して解釈するかというのがノベライズの醍醐味だと思いますので、特に修正しなくても大丈夫です！
あの動画好きだったので、小説で見れてとても嬉しいです…！
リンゴを盗んだ罪は身の丈に合わず大きすぎる罪だった…害獣が意思を持ったら、自分の残酷な運命を心から呪うんでしょうな
元動画、捕まったままずんが虫かごの中でポカポカするという、10年休まずやり続ければ壊せるんじゃね？くらいの無駄極まる抵抗が可哀想で超かわいいのです
そのあまりの無力さ加減を詳細に文章で描写して欲しかった気もします(批判やお願いではありません)
セラピーずんのタイゾウ爺さんのリンゴ園か横断歩道のお兄さんのリンゴ園のリンゴかも知れないですね？
ママずんのいいつけを守ったからこその死が実に味わい深いです。
>ここに至るまでに、どれほどの葛藤があったのかはわからない。
>極限状態の中、正常な判断能力を失ったのかもしれない。
>はたまた、そこに「肉」があれば食べるという、野生動物としての本能だろうか…………
（中略）
>はぐちゅっ、ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ…………
>葛藤なんて、最初からなかったのかもしれない。
の部分に笑いました。