作者 睡蓮 イラスト むらさき 原案 ずんちでる、わんわんお 
当初の想定の5倍長くなりました。これまでお付き合いいただきありがとうございました。むらさきさんもイラストありがとうございました。
本編
「「のだぁ！のだのだぁ！！」」
【妖精注意報、妖精注意報。当地域で妖精軍の侵攻が確認されました。付近にお住まいの方は速やかに屋内に避難してください】
予め録音されている妖精軍襲来を告げるアナウンスは、逃げ惑う人々の慌ただしさを醒めた目で見るように、ひどく無機質で冷たかった。
「小夜ちゃん逃げないと！」
どう動いていいか分からず立ち尽くしている小夜ちゃんの手を私は掴み、引き寄せた。しかし小夜ちゃんの足は動かない。
「せ……せっかくのお料理が……！」ﾜﾅﾜﾅ
震える小夜ちゃんの視線の先には、さっき手渡したばかりのずんだ炊き込みご飯が落ちている。何人にも足蹴にされ、ひしゃげた紙皿にくっきりと足跡が押し付けられている。
「さ、よ、ちゃん……？」
ま、まさか丹精込めて作ったずんだ炊き込みご飯を台無しにされたせいで、お姉さんにずんだ餅ごと突き飛ばされたトラウマがぶり返した？そんな、嘘でしょ……また振り出しに……？
うなだれる小夜ちゃんの肩が震え、猫耳がぱたりと垂れ下がる。それからメキメキと耳障りな歯軋りが口腔から鳴り……ん？歯軋り？
嫌なものを感じて私が小夜ちゃんの隣に行って表情を窺うと、小夜ちゃんはがばっと天を見上げ、吠えた。
「よくも私の渾身の料理を台無しにしてくれたなクソ虫どもが！！！1匹残らずごった煮にしてくれるわ！！」
小夜ちゃんがキレた。作った料理を食べてもらえなかった、それもずんだ虫に邪魔されたのがよっぽど腹に据えかねたらしい。何でこの子つい先日までは真っ当に落ち込んでたんだろう。
「ぶち殺してやるさよ！うおおおおおお」
小夜ちゃんは鼻息荒く裏に積んでいたダンボール箱をひっくり返し、散らばった資材の中からまさかの【マグロ解体包丁】を取り出した。そして、それを持つ腕を頭上に上げると勢いよく刀身を抜き、陽光を浴びた刃が白銀の光沢を帯びた。
「えぇ……」
「それ60万くらいするヤツなのだ」
こんなもんあったの初めて見た。いや、包丁ってかほとんどポン刀なんだけどコレ。ずんだ虫に使うにはオーバーキルが過ぎる。何のためにこんな獲物買ったの小夜ちゃん。いや理由だいたい分かるけど。
「料理人の魂である包丁は料理にしか使いません。コイツはあそ……食材調達用です。コイツで妖精軍をまとめて撫で切りにしてやります」
今遊び用って言いかけたな。
「チャンスなのりゃ、にげりゅのりゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！！」ｻﾞｼｭｯ
小夜ちゃんは鈍色の輝きを放つマグロ包丁を、地を這う子ずんに向けて脚をピンと伸ばしたまま尻めがけて突き刺した。
「いぢぃにょだぁぁぁぁぁ！！おい゛くしょにんげん！すばらしーぼくのあにゃるしゃんがダメになっぢゃうだろがのらゃ……ぱ、が……！？い、ぎか……」ﾁｰﾝ
そして手首を軽く捻り、子ずんの傷口を開いて血管に空気を送って窒息させた。かなり手慣れた殺し方だ。
「ふ、ふふ……さぁミコちゃん。行きますよ！」
「逃げたいんだけど」
主に2つの理由で。
ずんだもんのヤツが小夜ちゃんの肩を叩いて引き止める。
「小夜ちゃんやめた方がいいのだ。妖精軍は普通のずんだ虫とは違うのだ。よく見るずんだ虫は口ではぶっ殺すとか血祭りさんにするとか言うけど大半は口だけなのだ。でも妖精軍は違う。マジで殺るのだ。そんなヤツが何百も一斉に来るから自衛隊すら手を焼いてるのだ」
肩は叩いたけど持ちはしないようでよかった。
「そんなこと分かっています！しかし、ずんだ虫料理人である私がずんだ虫に背を向けて逃げるなど、料理人としても仙台市民としても私のプライドが許さないさよ！謳歌味亭の名折れになります！！お2人は逃げてください！」
小夜ちゃんはそう言ってずんだもんの手を振り払い、逃げる人混みとは反対の方角を突っ走っていった。あの長モノぶら下げた女の子が前から走ってくるの、側から見たら通り魔にしか見えないだろうな……。
「ああもう……」
私も武器に使えそうなフライパンと、小夜ちゃんほど愛着はないから自分の包丁を持って跡を追った。ずんだもんのヤツも嘆息して、ポケットから小さなスプレー缶を取り出して私の後ろをついてきた。
＊＊＊
「うおおおおおおおりゃぁぁぁぁぁぁ！！！」ｻﾞｸｯ
バザー会場から出て向かった先にある、電車が止まって久しい人気のない駅。その線路の上に小夜ちゃんはいた。
「アイツがもりのなかまをたくさんさらったくしょにんげんなのだ！かならずころちてケジメさんをつけさせてほしいのだ！」
「うるせーのだくちょったれが！！あんなくしょガキになんびきやられてんのだ！！さっさとミンチさんにしろちゃ！」
「コイツなかなかつえーのだ！おもしれぇぶっころちゅぶっ」ﾊﾞｷｭｯ
マグロ包丁をバットのように軽々と振り回し、小夜ちゃんは襲いかかる妖精軍のずんだ虫を正に名の通り捌いている。すでに足元に大量のずんだ虫が両断されて転がってる。私達はそれを電車に隠れて見ていた。
「54、55、56、575859、606162……その程度ですか？まとめてかかってくるさよ！！」
四方から襲いかかるずんだ虫を小夜ちゃんは後ろに目があるかのように逃さず、確実に斬る。あまりの速さに飛び散るずんだ虫の血飛沫が三日月型の衝撃波を散らし、それによって死ぬずんだ虫までいる。
小夜ちゃん、こんなに強かったのか……。加勢しようにも隙が見当たらない。背後から来るのも尻尾で弾いてる。
「つ、強い……これなら小夜ちゃん1人で撃退できるかも……」
「いや、妖精兵が少なすぎるのだ。帯広まで行った知り合いの美食ハンターから聞いてた話と違うのだ。妖精軍は本隊は最低1万で行動するのだ。恐らくアイツらは斥候。すぐに……」
ずんだもんが話を途中で辞め、真上を見上げた。
「オメーら！そんなちいさなくしょにんげんになにをてこずってんのだ！おなじよーせいぐんのへーしとしてなさけねーのだ！」
「な、多ッ……！？」
曇天と見紛うほどに空を埋め尽くすずんだ虫が現れた。コイツらが本隊か。おまけにコイツらは丸腰じゃない。縫い針やカッターで武装している。
その中に、一目で分かる屈強な個体がいる。ソイツだけは武器にサバイバルナイフを持っている。それが下のずんだ虫を鼓舞する。
「さっさとぶちころちぇ！むこーにはせんだいからにげてきたくしょにんげんがどっさりいるのだ！のこさずころちゅのだ！」
「りょー、りょーかいしましたのだ！」
ずんだもんが口を開く。
「アイツが指揮官なのだ。恐らく尉官クラスの妖精兵。昇格試験で大型犬や捕虜の自衛官を倒さないとなれないエリートなのだ」
「FAIRIESの切り札って、ことですか……」
その尉官の命令で、軍勢の形が変わった。尉官ずんだ虫が先陣を切り、全ての個体が小夜ちゃんめがけて急降下した。それでも小夜ちゃんは臆することなく、鋭い眼差しで獲物を構えた。
「……来るさよ」
まずい！いくらなんでも小夜ちゃん1人では無理だ！加勢しないと！私は電車の陰から飛び出し、小夜ちゃんの元に駆け寄った。怖いけど、隠れたままでいることはできなかった。
「ミコちゃん！？逃げて！」
「もういっぴきガキがでてきたのだ！ぶちころす！！」
ずんだ虫達が迫る。私はフライパンを握り締め、もう片方の手で包丁を持った。
「いや……」
フライパンを私は投げ捨てた。フライパンを盾にしたところでずんだ虫のあの数。大して意味はない。ならば包丁1本に専念すべきだ。
私は包丁を両手で握ると、先陣を切る尉官ずんだ虫を睨みつけた。もしかして今日が私の命日かもと妙に冷静な気分で思った。
「小夜ちゃんミコちゃん！鼻をつまんで腹這いになるのだ！！」
その時だった。
ずんだもんのヤツが私らを庇って前に立つと、持っていたスプレー缶を妖精軍に向けた。何！？催涙スプレー！？そんなもんじゃ気休め程度にも……。
「早く！！」
ずんだもんが怒鳴った。その語気に気圧され、私とミコちゃんは言われるがまま線路の間にうつ伏せになって鼻をつまんだ。
ほぼ同時に、ずんだもんのヤツがスプレーを噴射する音が聞こえてきた。
「「「ワァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜ァ゜！！！！！」」」ﾎﾞﾄﾎﾞﾄｫｯ
そんで、未だかつて聞いたことないほど凄まじい幾千のずんだ虫の悲鳴も聞こえてきた。
「え？何？」
何が起きたのかと私が顔を上げようと鼻をつまんだ指を離した瞬間。
「ゥウッッグッ！？く、くっさ！？な、なんだこれ！？酷い臭いがするんですけど何撒いたんですか！？」
「くっせさよ」
これに比べたらヘドロがフレグランスに思える。怒りすら湧いてくるほど強烈な悪臭が鼻の穴を突き刺した。前に親が買ってきたクサヤやドリアンの臭いの比じゃない。
夏場のゴミ捨て場とかホームレスとかドブとか三角コーナーとか、この世界の臭気を放つもの全てを濃縮したような、そんな悪臭だった。
「え」
だが、驚いたのはボトボトと空からずんだ虫の雨が降ってきたことだった。夥しい数のずんだ虫が死体となって降り注ぎ、当たれば流石に痛い。それに安らかな死に顔の個体がいない。まさかこの悪臭を嗅いでショック死したの？
「ずんだもんさん、それは何ですか？」
「発情タレをベースに作った対ずんだ虫用の毒ガスなのだ。発情どころか憤死させるガス。護身用にHandZに持たされてたけど、まさか使うとは思ってなかったのだ」
これあの発情タレなのか。確かにあれも臭いけどまだ嗅げる臭さだった。あんなものを兵器にするなんてHandZの社長はすごいな。
小夜ちゃんが咳き込み、袖で口元を覆いながら喋った。
「それ、人型のずんだもんさんは大丈夫なんですか？」
「大丈夫なのだ。これは濃度を下げてるから人型は耐えられるのォロロロロロ」ｹﾞﾛｯ
吐いた。やっぱり人型にも効くんだ……。
ひとまず危機は去った。私が胸を撫で下ろし、無碍にもできないからずんだもんの背中を叩いた時だった。
「く、くちょ」
死骸の山から、1匹のずんだ虫が起き上がった。
あの佐官クラスの妖精兵だ。鼻と目から血を流してるけど見開いた瞳に萎縮した気配はない。コイツだけは即死を免れたらしい。
「なにをされたかわからねーけど、オメーらをころちゃねーと、しんでもしにきれねーのだ……よーせいのこわさをおしえてやるっちゃ……」
妖精兵はそう呻きながら、落ちているカッターを拾い上げた。
「ころ、すの、だ……」ﾁｰﾝ
が、すぐにカッターを手落とし、ぱたりと倒れた。死んだ。相当強いずんだ虫だったんだろうけど、企業の秘密兵器の前にはどうしようもなかったということか。
「オラッッ死ねッッ」ｻﾞｸｯｻﾞｸｯｻﾞｸｯ
小夜ちゃんが念を入れて死体を滅多刺しにする。ついに死ねさよすら言わなくなった。
「ずんだもんさん。ありがとうございました。ずんだもんさんがいなかったら、私達死んでいたかもしれません」
小夜ちゃんがずんだもんにぺこりと頭を下げる。ずんだもんさんは死体の中でまだ息があるのを踏み潰しながら腕を組んだ。
「全くなのだ。いくらなんでも蛮勇が過ぎるのだ。コイツらはこれでも少ない方だったからいいけども」
「はい……」
仙台を襲ったずんだ虫の数は20億を軽く超えたらしいから、それと比較したらコイツらは本当に少ない。同胞に泣きつかれた手前、追い返すわけにもいかないので仕方なく僅かな兵を出したってことなのだろう。
「でも小夜ちゃんはすごいのだ。妖精軍に1人で真っ向から立ち向かうなんて警察官や自衛官だって簡単にできることじゃないのだ」
「そうだよ。しかも小夜ちゃんがあんなに強かっただなんて知らなかったよ。謳歌味亭を二度と失わないために鍛え直したの？」
「え？ずんだ虫への殺意で胸を満たせばあの程度は誰だってカップ麺感覚でできますよ」
小夜ちゃんだけだよ……。
ずんだもんのヤツが手を叩いた。
「さ、帰って調理を再開するのだ」
(ここらへんからグランメゾン東京のテーマ)
動画ファイルへのリンク
＊＊＊
「みんな！先ほどの妖精軍はこの謳歌味亭の小夜ちゃんが討ち取りましたのだ！」
バザー会場では妖精軍がいつまで経っても襲ってこないことを怪訝に思った人達が戻ってきていた。私がどう報告すべきか迷っていると、ずんだもんのヤツが小夜ちゃんの方に手をやって周囲の人の視線を促した。
ずんだもんは顔を隠してるから周りに人型とは気づかれてない。
唐突のことに小夜ちゃんが固まった。
「い、いや全部ずんだもんさんのおかげだったじゃないですか！！」
「構わないのだ。手柄は全部小夜ちゃんのものなのだ。ほらみんなを安心させてあげるのだ」
「ず、ずんだもんさん……はい！」
小夜ちゃんは走って人々の前に立つと、マグロ包丁に突き刺していた尉官ずんだ虫の生首を天に掲げた。言ってなかったけど、小夜ちゃんは今ずんだ虫の返り血を浴びまくってヨーダとかシュレックみたいな肌色になってる。
というかあの生首は何のために持ってたんだろ。戦国時代みたいに獄門に晒す気だったのかな。やりかねない。
「私が妖精軍を退けました！たとえまたコイツらが押し寄せて来ようと、謳歌味亭の金看板に懸けて皆様は私が守り抜いてみせます！！」
そう高らかに叫ぶ小夜ちゃんの顔は、かつてなく誇りに満ちていた。両手に持つマグロ包丁の切先に突き立てたずんだ虫の生首を掲げるその姿はまるで武将のよう。
「す、すごい！謳歌味亭は仙台の誇りだ！」
「武勇と料理、どちらも研ぎ澄まされた英雄だ！こんな子がいる店があって頼もしいぞ！」
「フフフ……さぁ、調理を再開しますよ！よし今日はもうタダです！皆さんお腹いっぱい食べていってください！」
「ちょ、何勝手なこと言ってんの小夜ちゃん！？」
今日のために貯金かなり崩したんだからその分回収しないと大赤字だよ！！
「よし……さて、まずは懐胎したメスずんを茹でてバロットならぬズロットを作りますさよ！！」
「んじゃ、僕はそこらへんの林から食用向きのずんだ虫を補充してくるのだ」
とはいえ料理を楽しそうに作る、弾ける笑顔の小夜ちゃんを前にして、そんな無粋なことを私は言えないのであった……。
＊＊＊
一方その頃、食材を入れた虫カゴの中で。
「ううう……わたちがおちびのころからのもりのおともだち、みんな、ころちゃれたのだ……」
「だちぇ！だちぇ……！くしょ、あのくしょにんげん！どっかいったとおもったらかえってきたのだ！ママずん！しんぱいしなくていいのだ！いのちにかえてもぼくが……えっ？ママずん！？」
「ぐぅっ！？い、いちゃい……おちびちゃんがうまれそーなのだ……」
「そ、そんな、こんなたいへんなときにうまれちゃったら、おちびちゃんをまもれないちゃ……」
「う、うまれりゅ……！」ﾌﾞﾘｯ
「おぎゃーおぎゃ！おぎゃっおぎゃー！おぎゃーのりゃ！！」
「うまれたのだ！たりないちゃんじゃないのだ！とってもかわいいおちびちゃんなのだ！」
「そ、そうなのだ……ぼくのおちびちゃんとはおもえないくらいかわいいのだ……でも……」
「だいじょーぶなのだパパずん！このこはそだててあげられないけど、おちびちゃんにあえただけで、わたちはもうずんせーにくいはないのだ！さ、パパずんもだっこしてあげるのだ！」
「おぎゃっおぎゃ！おぎゃっぎゃ！」
「おーよしよし……おちびちゃんなかないでなのだ……おちびちゃんはかわいいのだ……なんのつみもないのだ……でも、あのくちょにんげんはいのちごいがつーよーするよーなまともなヤツじゃねーのだ……ううっ」
「もうあんまり残ってないですね……ミコちゃん、コイツらでカンバンにしましょうか」
「パパずんがないちゃ……ダメなのだ！きっとうまれかわってもわたちたちはいっしょなのだ！おちびちゃんともつぎはたのしくくらせるのだ！」
「ママずん……ぼくはママずんとあえて、しあわせだったのだ……ママずんとあえて、ぼくのせかいはかがやいたのだ……！でも、やっぱりぼくは、おちびちゃんとママずんと、いつまでもいきていたかったのだ……！」
「さ、まずはメスから。包丁で寸刻みにしてネギトロならぬネギズンにしましょう」ﾋｮｲｯ
「パパずん！さきにいってるのだ！てんごくさんであったらこえをかけてね！だいすきなのだおちびちゃん！」
「ママ、ずん……」
「おとちゃ！おにゃかすいちゃ！ごはんしゃ！ごはんしゃ！おかーちゃのミルクのみちゃいにょだ！！なめなめちてほちーのりゃ！ずんちゃ、おかーちゃおとーちゃとやりたいこと、たくしゃんあるにょだ！」
＊＊＊
夕方。バザーは終わった。
撤収作業もあらかた終わり、皿洗いを終えた私は謳歌味亭のテントの片付けに取りかかった。
「すご……諭吉と一葉めっちゃ入ってる……」
小夜ちゃんが頭に乗って全部タダとか戯言抜かしたけど、ずんだもんの野郎が【謳歌味亭再興支援のお願い】と貼り紙をしたバケツを置いたことで気前のいい人達がおひねりをたくさんくれた。
何か、終始ずんだもんに助けられて腹立たしいけど、いてくれて大いに助かったのは事実だ。素直に感謝しておこう。
そのずんだもんは、おにぎりにしたずんだ炊き込みご飯を弁当用にと小夜ちゃんからもらって、1つを早速頬張っていた。
「うん！うまいのだ！ずんだ虫特有の旨みを嫌味なく、それでいて強く感じるのだ！出汁を使わずにここまで素直に味を引き出せるのは至難の業なのだ。小夜ちゃん、さらに腕を上げたのだ」
「そんな、ずんだもんさんの燻製のタマタマです」
薫陶の賜物だよ。ずんだもんの金玉スモークしてどうすんだよ。ずんだもんの前だからって難しい言葉使わなくていいのに。
「こんな旨い飯を食べさせられたら、僕もそのまま引き下がるわけにはいかないのだ。とっておきのずんだ虫料理を教えてあげるのだ！」
「ほう……へぇ〜……」ﾆﾀﾆﾀ
そう言って、ずんだもんの野郎がニヤニヤと小夜ちゃんに耳打ちした。聞いている小夜ちゃんの顔は、徐々に闇を孕んだ歪な笑みへと変貌していく。
……何を吹き込まれてんだろう。尻尾がビクンビクンしてる。
「ん？」
「のだのだのだのだのだ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ
ずんだ虫が1匹、余ったずんだ餅を食べている。地面に置くんじゃなく紙皿を敷いて食べてるあたり、衛生観念のない野良ずんじゃない。しかし妙だ。もうずんだ虫は1匹残らず使い切ったはずなんだけど。
それに、頭だけじゃなく背中にまで枝豆が生えているずんだ虫は初めて見る。新種？
「あ、小夜ちゃん」
「なんかいますね」
小夜ちゃんも気づいた。ノータイムで手元にあったマグロ包丁を手に取ると、脳天めがけて間髪入れずに振り下ろした。希少そうな個体だから殺すのはもったいない気が……。
「え？」ｶﾞﾁｨﾝ!
だけど、小夜ちゃんが叩いたのは地面だった。小夜ちゃんは手元が狂ったのかと刃先を見ながら首を傾げるけど、私は見てた。
コイツ、今枝豆耳で刃をいなした。凄い速さで刀身をはたいて斬る方向をずらしたんだ。しかも後ろを向いてずんだ餅を食べたまま。ただのずんだ虫じゃない！
「小夜ちゃん！待って！」
「やめるのだ小夜ちゃん！！」
小夜ちゃんはそれに気づかず両手で柄を持つと、今度は外さないと言わんばかりの顔でマグロ包丁を振り上げた。私とずんだもんが声を上げたのは、それと同時だった。
「いぃっ！？」ﾊﾟｷｨﾝ
刹那、マグロ包丁が柄の、小夜ちゃんが握り締めている位置の数ミリ上で切れた。支えを失った刃はコマのように回転したまま飛翔し、遠くの簡易トイレのドアにブスリと突き刺さった。
「邪魔くさいのだ。人の食事を邪魔してはいけないと親や学校で教わらなかったのだ？ずんだもんだって例外ではないのだ」
そう言って、ずんだ虫は残ったずんだ餅を一口で頬張ってこっちを向いた。ずんだ虫にしては妙に理知的な話し方をする。それに佇まいにも重厚な威厳がある。単なる飼いずんじゃないのはすぐ分かった。
というか、今どうやって小夜ちゃんの包丁を切断したんだ。
「うぅっ……ぐ……」
小夜ちゃんが呻きながら脂汗を流して右手を左手で包む。駆け寄って私が見ると、右の親指の爪が剥がされて血が垂れていた。
「おや痛い思いをさせてしまったのだ？すまんのだ。ま、同胞の痛みを知るってことで許せなのだ」
やっぱりコイツが包丁を斬り落としたのか。まさかコイツ、FAIRIESの……。
「ハンジロー……だったのだ？まさか再び会う日が来るとは思わなかったのだ。とっくに野垂れ死んだとばかり」
「あー……？ああ、いつだったか茜社長に招かれた調理師なのだ？こんなとこで会うとは奇遇なのだ」
何？知り合い？
「な、何なんですかコイツ？」
「コイツはハンジロー……FAIRIESの妖精兵の中でも別格の存在、ずんだ虫というかもう生体兵器のレベルなのだ。自衛隊もコイツが同じ戦場にいるという噂を聞いただけで撤退すると言われてるのだ」
「いや、死んでいった戦友達の方がよっぽど立派なヤツらだったのだ」
ハンジローはそう言ってフワフワと浮くと、私達と目線の高さを合わせた。
「独断行動した連中がいつまで経っても帰ってこないから様子を見に来れば、全滅してやがったのだ。で、向こうにいたくしょにんげんと少し『お話』したら、お前らが全滅させたと言われたのだ。が、まさかお前らだけで1万3千の手下を血祭りさんにしたとは思えん。何をしたのだ？」
「そ、それは……」
ずんだもんが口籠る。HandZがまだ表に出していない最新鋭の対ずんだ虫兵器だ。それが妖精軍の手元に渡れば解析されて対策を練られてしまう。それは私も避けたい。
ハンジローがずんだもんの手首を睨みつける。
「さっきからポケットの中身を掴んで出そうとしてるのだ。それなのだ？よこすのだ。妙な真似したら死ぬと思え、なのだ」
コイツ相当頭の回るずんだ虫だな。たかがずんだ虫と舐めてかかった人達がみんな帰ってこなかったわけだ。
「答えたくないなら別に構わないのだ。ただ、その時はこの女の子達には二度と1人では生きていけない身体になってもらうのだ。いや、その後軍に引き渡してもいいのだ。お前らみてーな同胞を食い物にするヤツらはどんな風に扱われるか、想像つかないわけないのだ？」
ハンジローが無表情でそう言うと、背中の6つの枝豆が細長く伸びて別の生き物の触手のようにうねった。何だこれ……。
うわぁキモいとどこか他人事のように見ていたけど、コイツ、ずんだもんのヤツをガン見してて私と小夜ちゃんは眼中にない。
後ろから殴るなり突き飛ばすなりして、一瞬でも動きを封じれば「と、でも思ってるのだ？」
「ぅ、ぐぐぅっ……！」
私がポケットからシャーペンを抜いた時、動向に勘付いていたハンジローの触手が私の腕に絡みついた。そして逆らえないほど強い力で腕を捻り上げ、鋭利な芯の先を私の眼球に突きつけた。
「ミコちゃん！」
「思慮の浅い小娘さんなのだ。心配しなくていいのだ。料理人は腕と舌が命だと聞いたのだ。その2つはそのままにしといてやるのだ。ま、それ以外は知らんけど……」
抵抗してるけども腕が固定されてるみたいに動かない。せめてシャーペンを捨てようとしても指にまで触手が絡み付いて離せない。何なんだこれ！？というかこのままじゃ私、真島の兄さんみたいに……！
「大丈夫です！ミコちゃんは私より強い子です！」
さ、小夜ちゃん……！
「きっと両目やら耳やら歯やら何もかも失おうと苦痛に屈することはありません！！」
「えっ」
なわけねーだろ！ランボーか私は！？
「いや、そんなん屈する屈するから！！ちょ、テメッ瞼をシャー芯でツンツンするな！マジでやめろぉ！ずんだもん助けて早く！！」
「わ、わかったのだ……」ｺﾛｺﾛ
失明の恐怖に私は泣いてずんだもんに助けを求めた。
それに折れたずんだもんはゆっくりと対妖精スプレーの缶をポケットから抜くと、地面に投げてハンジローに向け、足で転がした。
「コイツにはお前らずんだ虫にとって致死性にまで濃度を高めた発情ガスが入ってるのだ。無論ぼくら人型も例外ではないけど、それを吸えば成ずんでも即死は免れないのだ」
ハンジローが触手でスプレー缶を掴む。
「ふーん……HandZ製か……全く罪深いものを作る会社なのだ。これがいつか、ナチがユダヤ人にしたようにお前ら人型の虐殺に使われるかもという発想はなかったのだ？」
「もちろんあったのだ。でも、その前にお前らを負かすことができる」
「ふん……」
「わぁっ！？」
ハンジローは鼻を鳴らすと、私だけでなく小夜ちゃんの首にも触手を絡め、ずんだもんの方へと投げ飛ばした。
そして、6本全ての触手を伸ばして私達に向ける。それから近くに転がってる空き瓶をその内の1本で掴んで放り上げると、一瞬空間がぐにょっと歪み、幾重にも重なった金属音が鳴り響いた。
ｷﾞﾝｷﾞﾝｷﾞﾝｷﾞﾝｷﾞﾝ‼︎
「な……」
元に戻った時には瓶が粉末に変わって地面に積もった。
「さて、目当てのものは手に入ったし、お前らには死んでもらう………というのもアリだけど、別にお前らカタギさんを3人殺しても何のご褒美さんもないのだ」
何で今ちょっと脅した。コイツジョークはセンスない。
「サヨだったのだ？オメーのずんだ餅、中々うまかったのだ。じゃ、そろそろ潮時だし帰るのだ」
遠くから複数の車両の走行音がする。今さら自衛隊が来たらしい。ハンジローが触手を元の枝豆の姿に戻して背を向ける。その背中に苦しそうに小夜ちゃんが声をかけた。
「いいんですか？謳歌味亭の料理人である私の首は値が張りますよ」
爪剥がされて何煽ってんのこの子。ハンジローが含み笑いを交えて言葉を返す。
「悪いけど、ぼくは個ずん的な私情で殺しはやらん主義なのだ。ぼくに相手してほしかったら、せいぜい茜社長が目障りに思うくらいの料理人になるのだ」ﾌﾞｫｫﾝ‼︎
「うわぁっ！！」
それだけ言うと、ハンジローは私らと付近の資材を衝撃波でまとめて吹き飛ばし、戦闘機みたいな速さで雲海に潜っていった。
「見たことないタイプのずんだ虫でしたね……ああいうのもいるんですね」
ハンジロー、ずんだ虫らしからぬ騎士道精神を持ったヤツだった……。
「ずんだもんさん、すいません私達のせいで……」
「いや、どうせあのスプレーはもうほとんど中身はないのだ。軍用は配備は終わってるし、どの道FAIRIESも妖精兵の死骸を回収すれば成分の解析はできるのだ。奪われたところでそこまで脅威はないのだ。いや、でも存在を知られるだけでマズいのだ……！」
そう言って、ずんだもんさんは自分の荷物を掴んだ。
「悪いけどもう行かないといけなくなったのだ！このことをひまり社長に伝えないと！小夜ちゃんミコちゃん！謳歌味亭の料理は最高だったのだ！また会おう！」
ずんだもんさんは、そう言ってバイクに跨る……わけでもなく猛ダッシュで去っていった。あの人ここまで徒歩で来たんだ……。
「ずんだもんさん！ありがとうございました！謳歌味亭が再建したら、絶対来てくださいね！！」
小夜ちゃんは飛び跳ねて、小さくなっていくずんだもんに向けて声を張り上げた。
結局、終始ずんだもんには助けられっぱなしだった。いいもん。私だって次にずんだもんと会う時はもっと小夜ちゃんに頼られる立派な人間になってるし。
料理の腕だってもっと上げてやる。小夜ちゃんは渡さないからなずんだもん！
ふと、小夜ちゃんがブルーベリーみたいな顔色で私の二の腕を掴んだ。
「ミコちゃん。意気込むのはいいんですが医者呼んでくれますか？痛いさよ指が死ぬほど痛いさよ」
＊＊＊
「おちびちゃん！ごはんさんだよ！いただきますをいってたべよーね！うんうん！いいこだね！おちびちゃん！」
「ぎゃああああああ！！なんなのだおまえ！？や、やめりょ！！はなちぇ！す、すごいちから……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！！」ﾊﾞｷﾒｷﾎﾞｷ
「いやあああああ！！やめちぇ！パパずんをたべにゃいで！！」
「おちびちゃん！おいしいね！わたちもおちびちゃんとごはんさんをたべれてしあわせだよ！」
「しょんな……パパずんが、ひらきにされちゃったの、だ……」
「まだまだあっちにごはんさんがあるのだ！こんどはパパずんがたべてきてなのだ！」
「えっ……？」
「おーやってますねぇ」
小夜ちゃんが、水槽の中に入れたずんだ虫が共食いする様を芝生に寝そべって楽しげに眺めている。
中で逃げ惑うずんだ虫を笑顔で喰らっているのは、以前小夜ちゃんが塞ぎ込んでいた頃に一家まとめて手足を削ぎ、傷口に塩を塗り込まれ、最後は目の前で子ずんに自殺された絶望で、完全に発狂してしまったママずんだ。
「お゛ねがい゛！！あなたもメズずんなのだ！？おやがいないおちびちゃんのずんせーがどんなにたいべんか、わがるはすなの゛、お゛ッお゛ッッお゛……やめぢぇ！おりゃないで！！おらないで！！そんなとこまがらにゃ……いっぢぢぢぃぃ゛ぃい゛い゛い゛い゛！！！」ﾐｼﾐｼﾐｼ……ﾒｷﾞｮｯ‼︎
「やだ、やだやだおかあちゃぁぁぉぁぁぁぁ！！」
ママずんは捕まえたメスずんを持ち上げると、自分の後頭部にメスずんの下腹部を押し当て、そこを軸に首と足を掴んで下向きに強い負荷をかけた。プロレス技であるバックブリーカー。メスずんは吐血して激痛に悶え、最後は逆さに「おじぎ」して死んだ。
メスが死んでも技をやめず、最後は真っ二つになった。
「さすがパパずんなのだ！かっこいいのだ！えっ？このごはんさんはクソまずくてたべたくない？わたしもおなじことおもってちゃ！なら、あっちにもらまだごはんさんがあるのだ！」
「ひっ……にゃんで、こんにゃこわいめに……」
「あんなばけもの、にげられっこないちゃ……」
このママずんは、自分は森で家族と幸せなずん生を楽しんでいるという幻想に引きこもって帰ってこれなくなったようで、もう1月はこのままだ。でも正気に戻ったら戻ったで自殺するだろう。
頭のリミッターが外れててやたら強い。少なくとも並の野良ずんじゃ夫婦が同時に挑んでも秒殺される。
「おとーちょ！ぼくがたべられてるあいだににげるのだ！ぼくのぶんまでメスとヘコヘコがんばっち゛ぇ゛ァッ」ﾎﾞｷｭｯ
「おにー、ちゃ……」
残った2匹の子ずんを追い回し、捕らえた1匹のうなじの肉を食い千切ると、その傷口に腕を突っ込んで骨を砕いて肉を引き裂き、頸椎を抜いて強引に子ずんを2つにした。
脳内の家族と分け合うために解体する癖がついているようだ。
「おいしいのだ！パパずんもおいしいのだ！？かぞくでたべるごはんさん！！さいっこーー！！」
そう明るい声を上げて血とずんちだらけで同じずんだ虫の血肉を喰らうママずんの姿は、十分食べてるはずなのに痩せこけ、目は落ち窪んで体色は燻み、もはやずんだ虫ですらない醜悪な怪物へと堕していた。
「おにゃかいっぱいなのだ！おちびちゃんにパパずん！うんうん！まだごはんさんはあるけれど、うん！アレはまたおなかすいたら、みんなでたべよーね！！うひゃひゃ」
「ひっ……わあああああああああああ！！にんげんしゃんゆるちてくだちゃい！もうこんにゃとこからにがちてくだちゃい！！」
ママずんは振り返ると、つるつるしたガラスの壁を死に物狂いで登って逃げようと足掻く子ずんをその淀んだ瞳でじっと見つめていた。
「小夜ちゃん、コレどうすんの？」
「もちろんいつかは食べます。しかしこれほど苦痛を与えたずんだ虫。相当な旨み成分を蓄えてるに違いありません。どんな時計屋でも格式を上げるためショーケースにGSを置いてるように、私はコイツを謳歌味亭が再建した暁にはお客様の見える位置に置き、トロフィーとして飾ろうと思ってます」
「多分それ格式は上がらないのに良識は疑われるからよした方がいいよ」
要はまだまだ介錯はしてあげないわけね。小夜ちゃんらしいや。案外飼いずんとして気に入ったのかもしれない。
「で、ミコちゃん。穴掘り終わったよ」
私は近くの杉の木にスコップを立てかけ、ハンカチで汗を拭った。私は小夜ちゃんに頼まれて深さ50センチくらいの穴を掘ったのだった。
「ありがとうございます。じゃ、さっさと済ませちゃいましょう」
小夜ちゃんは立ち上がると、クーラーボックスからずんだ虫を1匹取り出した。それは自力では飛行はおろか四肢が地面に届いて動けないくらい丸々と肥えた、肥満体のずんだ虫だった。枕に使えそう。
「ウ、ボォ……」ﾋﾟｸﾋﾟｸ
「これが、ずんだもんさんに教えられた新しいずんだ虫料理？」
「はいズビヤックです。ずんだもんさんは『太らせたずんだ虫のケツに赤ずんをたっぷり詰め、あにゃると口を塞いで生き埋めのまま1年発酵させると、最高にうまいずんだ虫料理が出来上がるのだ』って言っていました」
小夜ちゃん声真似うまいな。ずんだもんそっくり。
捕まえたメスのずんだ虫をヘコヘコして受精させ、その後に溶かしたラードを無理矢理飲ませて強制的に太らせる。
「コイツ、おデブしゃんになったのは嫌だけど、この身体ならたっくさんのおちびちゃんに会えるのだ！嬉しいのだ！ってまんざらでもなかったので、あにゃるに漏斗を突き刺して、他所からさらってきた子ずんを20匹くらい差し入れでプレゼントしてあげたら、泣いて喜んでましたね」
「んーんー！」
違うのだとでも言いたげにメスずんが涙目で首を振った。吐いたり排泄したりできないように、口とあにゃるをタコ糸で縫い合わせている。
(のだのだのだ！！だちぇだちぇ！でたいのりゃぁーーっ！！)
体内から詰め込まれた子ずんの悲鳴が微かに漏れている。
「さて、さっさと埋めちゃいますか」
「小夜ちゃん殺さなくていいの？消化されちゃわない？」
「はい。多少は消化されますがメスずんの胃液にも限度があるから完全には溶けません。むしろ発酵を促すからアリなんです。もちろんどっかで窒息しますが」
へーちゃんと考えてあるんだ。
私が掘った穴に小夜ちゃんがズビヤックの元となるメスずんをそっと置いた。そして小夜ちゃんもシャベルを掴み、私と一緒にメスずんを生き埋めにした。
「うーむっ！？むうっ！うーっ！んぐぅー！！」
土を上からかぶせられるメスずんは生き埋めにされる恐怖に怯えて失禁したけど、命乞いの一つもできないまま、なすすべなく土に消えた。子ずんはまさか自分らが地中にいるなんて夢にも思わないだろうな。
小夜ちゃんはこの辺りにはあまり落ちてない黒曜石や花崗岩を尻尾を振りながら埋めた場所に山積みにして、それを目印にするとムカデやモグラの忌避剤を付近に散布した。
「よし、終わりです。1年くらいしたら掘り返して腹を割いて中のおちびちゃんを一緒に食べましょう。パンに挟むと最高だとずんだもんさんが」
「想像つかないな味が……」
まぁ私、クサヤとかリバロチーズ食べられるから平気だとは思うけど。
小夜ちゃんが足で地面を踏み固めながら、遠くを眺めた。
「1年後ですか……その頃には謳歌味亭も再建できてるでしょうか」
夏にしては妙に冷たい風が吹き、木々を、私達を通り過ぎていく。
小夜ちゃんが言う再建は仙台でまた店を構えることだろう。それには長い時間がかかる。残党狩りに復興、融資。そしてそれら全てを実行に移すには戦争に勝つ必要がある。多分私達は成人してる。下手したら三十路もあり得る。
でも、問題ない。
「大丈夫だよ。小夜ちゃん。小夜ちゃんがずんだ虫料理を振る舞う限り、そこはいつでも謳歌味亭なんだから。小夜ちゃんが楽しく料理をできさえすれば、私はそれで十分だよ。ずんだ虫料理を世界中の人に広めていこう！」
私の目標は東京進出だから、仙台にはそこまでこだわりはないというのは内緒だ。
「ミコちゃん……ありがとうございます。そうですね。ミコちゃんには何から何まで世話になりっぱなしで借りなんか数え切れません。でも、これからもこんな私をサポートしてくれますか？」
小夜ちゃんがおどおどした顔で私の手を取る。手汗で湿った柔らかいふにふにとした手。ここからあの至高のずんだ虫料理が生まれる。小夜ちゃんにはまだまだ上に上がれるポテンシャルがある。
でも、小夜ちゃんはデリケートで不安定なところがある。小夜ちゃんと付き合うにはそれなりに覚悟がいる。それでも私はこの子を守りたい。二度と落ち込ませたりしたくない。私は小夜ちゃんの手を強く握り返した。
「もちろんだよ小夜ちゃん。これからも私に小夜ちゃんをサポートさせてほしい。一緒に謳歌味亭を盛り上げていこう。でも、一言だけ聞いていい？」
「はい？」
「小夜ちゃん……バザーの前までお尻に尻尾生えてなかったよね」
ｳﾞｳﾞｳﾞｳﾞｳﾞｳﾞｳﾞ
小夜ちゃんの尻尾から漏れ出るバイブの音を、私はいい加減指摘せずにはいられなかった。
エピローグ
HandZ東京支社にて。
「あっ」
「じゅんだもんしゃま。会議中ですよ。どうかしましたか？」
「いや、なんでもないのだ……」
(ぼく、小夜ちゃんにズビヤックは夏場やっても秒で腐るか虫の餌になるから北海道が解放されたら真冬にやってみるのだって多分言ってないのだ。多分今ごろ……)
「あ゛あ゛ッ！！もうダメちゃ、ずんちでるちゃ……」
「やめりょやめりょやめりょぉぉぉ！！だちたらころちゅのりゃ……ﾌﾞﾘｯﾌﾞﾘｯぐおお゛お゛お゛お゛ちねええええええ！！」
「おええええ゛ええ！！ずんちくちゃいのりゃああ゛ああ゛あああ！！いきがでぎに゛、ゃ……」
「おかーちゃだちて！くらきゅてきょわいのだーー！」
「かたくてかめないちゃ……あにゃるさんはふさがれちぇ、おかーちゃもうごかないし、どうなってるんちゃ……」
「ちゅ、ちゅぶれちゃ！あにずんかおとーちょかしらねーヤツ！ど、どいて」ﾌﾞﾁｭ
「おしょとにでたいよー！あにゃるさんにポカポカのおひさましゃんあびたいのだ！」
「ちにたくにゃい！だれか……おかーちゃたちゅけて！おやならさっさとうめなのだ！！こどもをうんでこそおやなのだ！」
「おまえらはおかーちゃのこどもじゃねーのだ！せめーからとっととでてけぇ！！」
「それができたらやってるのりゃ！というか、なんかぼくのからだしゃん、ヌメヌメしてくちゃいのだ！」
「そーいえば、ぼくも……な、なんなのだこれｽﾞﾙｯえっ？おててしゃんが、とれちゃ……い、いちゃい……」
「ずんちゃのあたましゃんにフワフワしゃんがはえてきたのだ！きっとずんちゃが、えりーとだからなのだ！うれしいのだ」
「まさか、ぼくたち……いきたまま、くさっちぇる……？」
「ふ、ふじゃけたこというにゃ！あれ、なんかしずかに、いやなにもきこえねーのだ……？おみみしゃん、とれちゃ……」
仮設住宅付近の林で、昼夜問わず悲鳴がどこからか聞こえてくるというのと異臭の相談が相次いだ。自警団が林に入ると、悲鳴は聞こえなかったが、夥しい数の蠅と蛆虫が悪臭を放って密集する場所があった。
その中心には、ここらではあまり見ない黒曜石や花崗岩が散らばっていたという。通報を受けた自衛官が掘り返してみると、腐敗が進んで液状化した何らかの生き物の死体が見つかったという。
あとがき
これに時間を使いすぎました。次回から妖世紀を再開します。
このページへのコメント
見返したら尻尾つけてる描写前からあったわ
アナルバイブつけた状態で料理したり妖精軍成敗したり、とんだ変態さんだねぇ
挿絵の目うるうるしてるおちび可愛い。
こいつらが苦しみながら腐ったって考えたらニタニタが止まんねぇ。
完走お疲れ様ですた。
妖精紀の再開たのちみ（でも結構忘れてる。特殊ずんの特徴とか全然分かってないけどふいんきで楽しむ勢）
何かずんだ虫が一丁前に感傷的になってて草が生えます
完走おめでとうございます。
気持ちいい最後でした。
最後のズビヤックが特に良かったです。
さよみこカワイイヤッター
てぇてぇ！てぇてぇ！
だからこそ傷物にしたハンジローの最期に期待ですね
いったいどれほどの苦痛の中で（ｒｙ
HandZの兵器の情報がFAIRIESに・・・っ！？
マズイ！！？
ズビヤック・・・いつかはちゃんとした完成品が見られるのでしょうか
オチのバイブｗｗｗ