誰も知らないずんだもん
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saiyan_party 2023年01月26日(木) 19:04:30履歴
本文 作：祭屋 
[・・・の、のだぁ！？]
[あれぇ？ぼくはいったい・・・？]
妖精ずんだもんが目を覚ますとそこは雑踏の中だった。
足らない頭を抱え、記憶を絞る。自分が最後に見たもの、それは・・・光？
眩く照らされるライトが迫ってくる。そうだ、確かあの時トラックに撥ねられ・・・。
[は・・・はぁっ！？]
[おもい・・・だしたのだ！ぼくはあのとき]
どう考えても即死だった。五体満足でいるはずがない。
なのにもかかわらずどうして・・・？考えても答えは出なかった。
[わからないことはわからないのだ。とりあえずごはんさんをさがすのだ]
・・・
[おかしいのだ。どこをとびまわってもほかのようせいをみないのだ]
[みんなどうしちゃったのだ？それともぼくが・・・？？]
[ごはんさんもみつからないし・・・とりあえずあそこのにんげんさんにきいてみるのだ]
八方ふさがりになった妖精ずんだもんは禁忌とされている人間への接触を図った。相手は一人、何かあっても逃げおおせる可能性は高い。
仲間の行方、あわよくば食べ物にありつけるかもしれない。そんなことを考えながら。
[あの、にんげんさん・・・]
「うわ！」
「なんだこいつ！浮いてるし喋るぞ！？」
[えぇ・・・おどろきすぎなのだ、ようせいをみるのははじめてなのだ？？]
「いや普通に会話続けるのかよ。何だこの生き物・・・？」
「妖精って言ってたか？お前みたいなの見たことないよ、一体ナニモノなんだ？？」
未確認生物との接触に驚いた男だが、周囲を見渡し誰もいないことを確認する。とりあえず奇異の目で見られることは避けられた。
男の提案でひとまず人目に付かない場所へ移動する。妖精ずんだもんとしてもその方が都合が良かった。
[ぼくはようせいなのだ。にんげんさんからは、ずんだもんとよばれているみたいなのだ]
「マジかよ・・・妖精ってだけでもビックリなのに普通に会話が成立してるの怖い。頭いいんだなお前」
「んでその・・・妖精？ずんだもん？？が何の用だ？」
[きづいたらここにいて、それまでのきおくがあやしいのだ]
[おなかがすいてるのもあるけど、それいじょうに ぼくいがいのようせいのすがたをみかけないのが きになるのだ]
[たまたまおにいさんがしらないだけなのだ？それとも・・・]
最初に遭った時の男のリアクションは想像していたものとは遥かに異なっていた。突然飛び出してきた妖精に驚いたとしても明らかに・・・。
ずんだもんの中で嫌な考えが拭えない。自分の思っていることが愚かな妄想だと笑ってほしい。すがるような思いで男の目を見つめる。
「・・・」
「いいかずんだもん、落ち着いて聞くんだ。俺は生まれてこの方お前らみたいな妖精なんて見たこともないし、聞いたこともない」
「たぶん俺だけじゃない。世界中のみんな、お前ら妖精を知らないと思う」
[あ、うぁ、あぁあ・・・！？]
[ああああ、ああああ・・・うわああああああああああああああ！！！]
男の発言、目は噓を言っているものではない。ずんだもんは感覚的に理解した。
同時に、理由も理屈もわからないがおそらく『ここ』は『自分の元いた世界』とは別の、そっくりな何かなのだろう。ということもなんとなくだが理解してしまった。
あまりにも荒唐無稽で、バカバカしい話ではあるがそうとしか考えられない。一度思ったらもう止まらない。
広い世界にたった独り放り出された妖精ずんだもんの精神的ショックはいかほどであったか、計り知れない。
[あああああああああああああああああ！？]
[どうしてどうしてどうしてどうして！！？？]
「やめろ！落ち着けずんだもん！！」
「大体の状況はわかったんだろ、それ以上考えるな！」
「お前ほどじゃないけど俺も混乱してるんだ。まずは落ち着くことが大切だぞ！」
[はーっ、はーっ、はーっ・・・]
[お、おにいさんのいうとおりなのだ。さけんでもなにもかわらないし、おなかがすくだけなのだ]
胸に手を当て、深呼吸する。男の呼びかけで正気を取り戻すことができたずんだもんだったが・・・。
ぐぅ〜
[お、おちついたらおなかが・・・]
[そういえばぼく、まだなにもたべてなかったのだ]ﾃﾚﾃﾚ
「ははは・・・」
「おなか空いたまま考えても、ロクな答えが出せないってカーチャンが言ってたな。とりあえずなんか食おうか？好きなもん奢るぜ」
この世界のものがお気に召すかは知らないけどな。と冗談っぽく笑う。
男の提案に甘えさせてもらおう。好きなもの、食べたいもの・・・。ずんだもんの中には一つの答えしかなかった。
「ぼく、ずんだもちがたべたいのだ！ようせいはみーんな、ずんだもちがだいすきなのだ！！」
ああ、ずんだ餅。空腹なのもあるが、考えただけで涎が止まらない。
妖精を知らないのは意外ではあったが、元居た世界のように敵意を持って接されるより万倍マシだ。男が親切にしてくれているのも幸いである。
とにもかくにも食事、ずんだ餅。それさえ手に入ればこれからすべてうまくいくような気さえしていた。
しかし・・・。
「・・・？」
「あー・・・すまねえずんだもん。俺にはお前が言ってるものがわからない」
「ずん・・・だもち？初めて聞いた。もしかしてそれも俺たちの世界にはないものなのかもしれない・・・」
[えっ？]
[そ、そんな・・・！]
[ぼくたちようせいがいなくて、ずんだもちもない・・・？]ｱﾜﾜ
「いや待て！諦めるな、俺に分からなくてもお前になら分かるはずだ！」
「ずんだ餅について教えてくれ！用意できるかもしれないだろ！？」
[おにいさん・・・わかったのだ。]
[ずんだもちは・・・ずんだもちなのだ。あまくて、とってもおいしいのだ！]ﾎﾜﾜｰ
「うんうん。他には？」
[みどりくて、しろと・・・]
[・・・]
困った。ずんだ餅に対しての具体的な情報が出てこない。
男が求めている情報は何が材料に使われていて、どんなふうに作るのかということだろうそれはわかっている。わかっているがずんだもんにそれを説明する知識はなかった。
そう、妖精ずんだもんは自分たちの大好物であるずんだ餅について何も知らないのである。説明ができないのである！
「う、うぅん・・・？せめて材料がわかればなんとかなるかもしれないが・・・」
「ずんだもん、頭を使わせてスマンが他に思い出せないか？」
[う、うあ、ずんだもち？ずん？ずんだ？ずんだも・・・？]ｷｨｨｨｨｨﾝ
「ずんだもんと、ずんだもち。名前がそっくりなことには何か関係あるのは間違いねえ」
「緑色と白・・・ずんだもんの体色と同じ・・・？」
「・・・！？」ﾋﾟｷｰﾝ
男の頭に嫌な考えがよぎる。
ずんだもんの身体的特徴と、ずんだもちのイメージ。その二つが重なる。
彼の言うずんだ餅とはまさか・・・同族を潰して丸めたものではないだろうか？？？
一度考えると妙に辻褄が合うのを感じる。しかしそれはあまりにも残酷で避けたいものであるし、なによりこの世界には材料が存在しないことになる。
「うっ・・・うえぇ・・・」
[お、おにーさん！？ぐあいわるいのだ？？]
考えていたら気分が悪くなってきた。やめよう。
そんな気を知ってか知らずか、ずんだもんが不安そうにのぞき込んでくる
「い、いや大丈夫。ってずんだもんお前！？」
[のだぁ？]ｽｩｰｯ
ずんだもんの身体が透けていく。存在が薄くなっているというのが正しいのだろうか？常識外れの妖精に男は驚かされてばかりだ。
[あ、あばばばばばば・・・！？]
[ぼ、ぼくどうなっちゃうのだ！？]
[ず、ずんだもち！ずんだもちをたべれば、きっとだいじょうぶなのだ！ようせいはずんだもちでげんきになるのだ！！]
「・・・ダメだ、ずんだもちについてなにもわからない」
それにもし自分が考えている通りだったら？男の中に芽生えた嫌悪感は拭えない。
こんな無害そうなナリで共食い？そうやって生きている？？絵本やファンタジーの存在でしかなかった妖精だが、血生臭い生態をしているのか？
[た、たすけておにいさん！ぼくは、ぼくはきえたくないのだ！！]
[だれかたすけて！かみさま！かみさま！！]
[いやなのだいやなのだ！きえたくないのだ！！いじわるしないでなのだ！！！]ﾁﾘﾁﾘﾁﾘ
粒子状になって空気中に溶けていく身体。もはや一刻の猶予もないだろう。恐怖が、パニックが止まらない。
「どうすりゃいい？ずんだもん、おいずんだもん！！」
[あああああああああああああああああああああああああああ！だして！だしてほしいのだ！！]
[いやだぁ！ずんだもち！ずんだもちぃ！！おにいさん！？だれか！だれかたすけて！！！！]
[わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！]ｼｭﾜｰ
男の前で、ずんだもんが塵と消える。
キツネにつままれたような顔で、男だけが立ち尽くしていた。
どうしてなのだ？どうして？
ぼくはただ、ずんだもちをたべて、しあわせになりたかっただけなのに・・・。
あとがき
今更ですが、俺はずんだ餅というものを食べた記憶がありません。
別に文化を否定する意図はないですが、俺にとっては未知の食べ物と言えるわけです。縁がなかったのだ。
俺が無知だったせいで妖精ずんだもんをとんでもないおバカさんにしてしまいましたが、まいっか！の精神でお願いします。
異世界転生ものちっくに世界に放り出され(その世界にとっては)架空の食べ物を求めたときにどうなるのか？
己が異物だと理解したとき、か弱い妖精はどうなってしまうのか。嫌な想像は嫌な想像を呼ぶ、それに潰される姿が見たいと真面目に考えて変なエッセンスを入れたらこうなりました。
お互いが悪人ではなさそうでしたし、善意のすれ違いというかままならない感じが気に入っています。こんなに近いのに二人の心は交わらないのデース。
現地のお兄さんには気の毒でしたがたぶん幻か何かじゃないだろうかと忘れてもらうのがいいでしょう。運が悪かったね！
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このページへのコメント
いんぺらーもん
どうして東北3姉妹だけにしなかったんだ！ってことですね!
ずんだもん以外のネームドを扱うと誰てめぇ感で憤死する未来しか見えないので他の人たちからは目を背け続けます。流石にフリー素材化するのは畏れ多い。
ん？どゆこと？？まあ、東北きりたん特にすこ
まさに「何か夢でも見ていた」としか言えない状況
改めて見ると現地のお兄さんいい迷惑すぎて申し訳なくなります。
妖精に関わると不幸になる一例ですね(？)