Nostalgia A
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saiyan_party 2024年04月08日(月) 18:27:30履歴
本文 作：祭屋 
ここは商店街。小規模ながらも様々な店が揃っており、ぼちぼちの人通りと活気を感じるその路地裏。
[はあ・・・はあっ！]
[はやく、もっとはやくとぶのだっ！]
[うるちぇーっ！できたらやってるのだ！！]
[あいつ、どこまでおってくるのだ！？]
必死の形相で逃げ惑うずんだ妖精の群れ。しかし哀しいかなふよふよとした速度からはまるでやる気を感じない。
そうこうしているうちに距離は詰められ、追跡者によるナタの斬撃が次々と憐れなムシケラを刈り取っていく。
[ぐぎゃっ！]ﾊﾞｼｭｯ
[ばわ！？]ｸﾞｼﾞｬｯ
斬られ、叩かれ、潰される妖精。
飛び散った肉が更に弾け、周囲に汚らしい飛沫をぶちまける。
[やめ、やめて・・・ぼくたちはただ・・・ばぐっ！？]
[おねがいです！おちびだけは・・・]
[だずげでえええ！おがあぢゃあああああっ！！]
悲鳴も命乞いも全て無意味。あっという間に甘臭い泥や穢れた水溜まりと化す妖精の群れだったもの。周囲に静寂が戻る。
我々ヒトから見ればいつもの、妖精からすれば地獄のような惨状の中心に立つ長身の女性。『はあ』と何の感慨もなく一息つく。
妖精の返り汁を浴びぬよう着込んだ雨合羽のフードを降ろすと現れる、頭頂部から生えた耳か髪のような謎の器官。
紅い髪に真紅の眼。彼女はヒトとは異なる存在、人型あんこもん。
「おじさん、終わったよ」
「・・・うん、うん。ありがとう」
「帰る前お店に寄るね、じゃあ」
手短に通話を済ませると念押しに潰れた泥をひとつひとつ丁寧に踏み躙っていく。
先程の電話の時に見せた感情や人間味のようなものを一切置き忘れたような冷めた作業の目でぷちぷち、ぷちぷちと・・・。
「うわっ、臭っさ！？これネエチャン独りで殺ったのか！？」
「！？」
突如場違いに気の抜けた声が響く。人型が振り返ると声の主が「あーあー」と言わんばかりの顔で惨状を見渡していた。
自分以外居るはずのないところから掛けられた声に驚き、警戒したものの不審者のマヌケ面を見て毒気が抜かれてしまった。
こんな人気のない路地裏まで何を追って来たのだろう？相当なヒマか物好きなんだろうなあ。などとぼんやり考えてしまう人型。
「そうだよ、全部アタシがやった。商店街の人たちが困ってたからね」
人型は疑うこと、そしてヒトの悪意を知らない。聞かれたこと、求められたことには基本素直に応じてしまう。
聞かれたから答えた。それはこの個体に限った話ではない。
「はーん、お困りだったのかあ・・・」
何か考えるような様子を見せ、しばらくし『なるほど合点がいった』と呟く不審者。
勝手に現れて勝手に納得する。やっぱりヒトはよくわからないな、と疑問を深める人型。
しかし彼女にも思い当たる節があり、またしても特に考えず脳直で言葉を発してしまう。
「おにーさん何の用？もしかして・・・おっぱい、触らせてほしいの？」
「はあ！？へえぇ？ふおおおおおおおっ！？」
「何言ってんだ色気狂いかてめえ？自慢じゃねーが俺ァ瓜も改もしねーぞ！！」
「あぁ、違うんだ・・・。みんな『人気のないところでしたい』って言うからつい」
小首を傾げながらとんでもないことを宣う人型。
長身で出るところが出た魅惑のボディに似合わず、あどけない表情や仕草から危ういアンバランスさを覚えドン引きする不審者。
「おいおい『みんな』ってどういうことだよ？ネエチャン美人さんなんだから身体は大事にしなさいよ。いやごめん美人じゃなくてもしなさいよ」
人型のぶっ飛んだ提案にたじろぎつつも結構真面目に説教しだす不審者。何なんだこの図は？
「だって・・・『男の人はおっぱい触ったら元気でる、だすっ』ってみんな言うから」
「・・・」
「・・・」
「うーん。それはおかしい、間違っていると断言できない自分が辛い」
「俺もおっぱいは好きだ。大好きだけど流石にウソ吐けない」
「部分的にはあってるけど、うまく言えないけど間違ってる。お前は狙われている」
人型から次々繰り出されるネジの飛んだ発言に顔をしかめ、うーんうーんとしばらくたっぷり唸った後になんとか言葉を絞り出す不審者。
我々の知らないところで深く激しい葛藤があったのだろう。この場は理性が勝ってくれたようで何よりである。
「うぅん、でもぉ・・・」
「だどもだ、オス共が色々とだす為にネエチャンが身を捧げることもなかろ？そんなことしてるんならやめなさい。あんた騙されてるよ」
「パン屋のおじさんも、八百屋さん、文具屋のおにーさん。あとあと、近所の〇学生たちも・・・？」
人型の頭に次々と浮かんでは消える親しいオスたちの顔。
コトが済んだ後はどこかスッキリした様子で、しかし謎の余所余所しさを感じていたような記憶が思い出される。
〇学生に至っては結構な数を相手にしたなあ。みんな元気で可愛かった、激しかったなあ。
それにしても、たったそれだけでご飯を奢ってくれたり色々と買ってくれるなんてみんな親切だ。そうに違いない。
「うわァ爛れた商店街痴情だあ知りたくなかった！」
「・・・じゃなくてッ！キッパリやめな。今後一切を『アタシのおっぱいは安くないのよッ！』って跳ねのけてやれィ！！」
しかし不審者にとってはそうではなかったらしい。うげぇと吐きそうな顔すら浮かべている。
一体何がいけなかったのだろう？人型にはよくわからない。むずかしい。
「・・・わかった、そーする」
「おじさん、ヘンなヒトだけど優しいね。ありがとう」
しょぼくれた顔をしていた人型だが、お礼の言葉と共に柔らかな微笑みを浮かべる。
不審者から見れば掛け値なしの美女に見えた。同時にとんでもないヤクモノでアブない女だった。
「オマエも大概ヘンだよ。それと2つ勘違いをしている」
「俺は優しくなんてないし、おじさんでもない。まだ2X歳だ！！」
「えっ、嘘。アタシより年下ぢゃん・・・。身体黒くて表情見づらいし・・・ソレどうなってるの？どうしてるの？？」
興味津々で男の顔やら身体をぺたぺたと触る人型。それを鬱陶しそうに払い除ける。
「コイツは生まれつきだ！人の身体的特徴をあげつらっちゃあいけないんだぞぅ！」
「ひゃっ、ごめんなさい・・・」
「いやいいよそんな縮こまるなって」
素直すぎてこえーなこいつ、どうしたもんか？などと男が考えていると・・・。
「あの、お詫びにおっぱいを・・・」
「いや触らねーよ！何だオメー触られたがりか！？さっき身体大事にしろよって、言っただろーーーーッッ！！！」
「おずおずと迫ってくるのをやめろ！上目遣いをするなッ！そういうのはホントに大事な人のためにとっとけ！！俺はッ、意地でもッ、触ってやらねー！！」
男にも欠片ほどの良心はある。
身体はオトナかもしれないが中身がてんでダメだ。童女と会話しているみたいですっかりソノ気が失せてしまった。
・・・いや、人型の無知につけ込み欲望を満たしているクソ野郎共と同じところに堕ちたくない意地やらがふつふつと沸いてきた義憤を感じているのかもしれない。
男は何処に出しても恥ずかしいクソヤロウではあったものの、同時にええ格好しいで意地っ張りでもあったのだった。
「はあ・・・。そろそろ真面目な話をしようか？ネエチャンあれだろ？このところ商店街駆けずり回って妖精ブッ殺しまくってるだろ？」
深いため息の後に放たれた男の言葉、きっといろんな感情を飲み込んだのだろう。そのくらい深くて長いため息だった。
雰囲気がピリリと急変したのを感じ、少し緊張を覚える人型。
気圧されてなるものかとスンッと呼吸を整え、しかし何と答えたものか、男は自分に何を聞くのだろう？と思案していると・・・。
「あー悪りぃ、緊張しなくてもいいよ。ネエチャン個人をどーこーしたいわけじゃないから」
「それにカワイイ・・・ウソ苦手そうな顔してるし、さっきまでの話でおおよその事情は察した。俺は理解が早いんDA」
「遅ればせながら自己紹介しようか。俺はTHEOLZの大井ってモンで、商店街の人たちとオトナの話をしにきたつもり・・・だったんだが」
大井と名乗る男が先ほど見せた緊張感は何処へやら。おっぱいの話だかをしていた時のユルく気の抜けた気配と笑みを見せる。こちらが素のようだ。
人型には男が名乗ったTHEOLZの名に覚えがあった。自身が住む地域を拠点にした妖精狩りと呼ばれる駆除業者・・・。
「・・・アンズ、紅井杏子。人型あんこモンだ」
「アンズね、人型の名前は分かり易くていいな。オッサン相手の仕事とぐんにょりしてたけど俺ァネエチャンに興味が出てきちゃったよ」
「妖精狩りがアタシに何の用だ？」
「そんなに警戒すんなよ。今日は長話になりそうだから、サ店で茶と妖精でもシバこうぜ」
大井がこいこいと手招きをする。展開が早すぎてついていけない紅井。
「ぅぁ・・・？ぇ、ぇぅ？？」
「し、質問に答えろよっ！オマエ何を」
「あんこパフェでもぜんざいでも奢ってやっからついて来いよ♡」
「ハイ！すぐ行きます！！わーいわーい！！」
「ちょっろ。こりゃおじさんに好きにされるわ(ハハハ、お手柔らかに頼むぜー？)」
緊張も心の壁も即陥落した。
紅井杏子、世間知らずな人型であることを差し引いてなお死ぬほどチョロい女である・・・。
そして大井、自分で考えている以上に間の抜けた男である。
・・・
[ぁべ・・・あぶぶぶ、おぶぶぅ]
[ぐ、ぐるぢ・・・ぐ、ぐじょぉぉぅ]
店側のサービスと提供された妖精を突き回しながら、二人は向かい合い飲み物を味わっていた。
「その妖精、充分旨味が回ってそうだけどまだやるのか？早くラクにしてやったらどうだ？？」
手慣れた様子で急所を避け、ﾌﾟｽﾌﾟｽとフォークを突き立てる大井の姿を見かねて口を挟む紅井。
いつまでやっているのか。妖精狩りは連中を弄ぶことを愉しむ連中の集まりらしいと聞くが、やはりこいつも・・・？
「あ、言ってなかったか。俺妖精アレルギーでこいつら食えねえんだ。戻しちゃうの」
舌を出しゲーっと嫌なジェスチャーをする大井。それを見て紅井がうわあ、と露骨に眉をしかめる。
「何だそりゃ、聞いた事ねーぞ。いやアタシが世間知らずなだけかも・・・？」
道すがらのフリートークで散々自分が世間知らずと思い知らされた紅井。ぷぅ、と膨れながら思案する様子が愛らしい。
まあ、会話内容については素直にきちんと教えてやればいいものをひとつひとつうさん臭く、回りくどく(あくまで当人にとって)面白おかしく話す大井サイドにも問題があるのだが。
「俺も自分以外見たことないもの。多分アレルギーじゃないとは思うけど、ガキの頃から周りみんなうめえうめえって食ってるのが信じられなくってね」
「だからかなあ・・・。いつかどっかに俺でも食える妖精居るんじゃねーかって探しちゃいるんだが、何ともねえ・・・」
「寂し―じゃん？みんな知ってるのに俺だけ知らない妖精の味、ってサ・・・」
「おーい・・・。そのぅ・・・」
声をかけたはいいものの、今日知り合ったばかりで相手の心の底が知れない自分に何が言えるだろう？
何か言わなければ。しかし言葉が出てこない・・・。紅井が煙を噴きそうなくらい脳をフル回転させていた、そんな時。
ぶぢゃりっ。
[ぎゅぶっ！？]
「まア、喰えねーヤロウだなあ！って開き直って妖精をブチ殺がすのが楽しくなって今に至るんDA。趣味と実益を兼ねた仕事、サイコーだよな！？」
[かっ、あっ、うぺぁぁ]
[ぁぶ、ぉぼ、くぽぉ・・・]
妖精の頭に突き立てられるフォーク。そのままグリグリと攪拌され中身が零れ、液状に蕩けて逝く・・・。
「世の中にゃあこんなゴミ虫より倍うめーモンが山ほどあるんだ。飽食の世界、そんなに困っちゃねーよ」ｸﾞﾁｯｸﾞﾁｯｸﾞﾁｨ
「うーん。何か同情して慰めのひとつでも言おうと思ったんだけどどっか行っちゃった。ごめんな」
大井が言うことの大半はウソみたいなことだが、少なくとも妖精に対する感情は真実だろう、と直感で信じられた。
「謝んなって。楽しく殺ってるし、最初からそんなもん期待してねーよ。お前気の利いたこと言えなそーだしな」
「何だとう！！こっちの気も知らないでっ」
「・・・でも、アタシもちょっと似てる、かも。このカラダになってから妖精食うの、あんま気が進まないんだ」
[ぺげ！？]
彼女なりの介錯なのだろう。鈍い動きでもがき苦しむ妖精の首をスッパリとナイフで一閃する。
「ほへー、あんこもんなのに珍し。主食じゃねーのかよ、別に遠慮しなくてもいいんだぜ？」
「うまく言えないけど『食べる為に殺してた』のが別に殺さなくても生きていけるようになっちゃったから、かなあ？無いなら無いでいいや、って」
「妖精潰してる時何にも感じなくなっちゃった。アタシ、おかしくなっちゃったのかな」
「うん、それはおかしい」
「やっぱり・・・」
自分は異常、おかしいのだと肯定された気分になる紅井。やはり人外であるものがヒトの社会で暮らすのは、あまりにも・・・。
「あんなたのしーことを無心でやるなんてとんだ損失だ。もっと愉しんでけ？なんならみっちりたっぷりしっかり教え込んでやろう」
こいつもとんだド外れ野郎だった。
そしてこの世界の一般論からすると紅井の感覚が外れているというのは間違いではない。
何せここは妖精虐のパラダイス。妖精は潰して鳴かせて楽しいね♪が当たり前の世界なのだ。
「違うっ！？アタシが思ってたのと違うし、なんかそれだけは絶対に違う！！」
「あーっ！オマエずるいっ！さっきから話のペース全部持ってくっ！アタシで遊んでるだろ！？」
「いやあ、勝手に踊ってくれるというかなんというか・・・」
もうっ。と猛烈な勢いであんこたっぷりのデザートをかき込む紅井。勢いが良すぎて口の周りがあんこだらけになってしまっている。
あと紅井も殺るだけ殺ってサービス妖精に手を付けないため、仲間のなれの果てを見せられた生き残りは身を寄せ合って震えている。
[あわわわわ]
[ころちゃれる。みんな、みんなころっ、ころっ、ころころ・・・]
[きょわいぃぃ！]
[さわがないでおちびちゃん、めをつけられたら さいごなのだ！]
「ああお行儀が悪い。人様の奢りだぞもっとありがたがって食えよまったくぅ！」
[べば！？]ﾍﾟﾊﾟｰﾝｯ
紅井を咎めながらノールックで放たれたデコピンが子ずんの頭を弾けさせる。
死の恐怖を存分に味わったとはいえ、まだ楽に逝けた方だろう(当社比)
「ご、ごめんなさいっ」
「・・・」
「・・・」
「あの、おかわりも・・・いい？」
「だめ・・・？」
マナーを咎められ居心地が悪そうに縮こまった後、ややあって申し訳なさそうに切り出す紅井。それを見て大井は苦笑。
「いいよ。たらふく食いな。幸せそうに蕩けたツラ見てたらこっちが嬉しくなってくらァ」
「・・・んでまあ、話をまとめるとお前は商店街の連中から頼まれて少し前からパトロールと妖精駆除を始めた、と」
許可を得てウッキウキでメニュー表を眺める紅井。
その様子を見た大井はこりゃあ長くなりそうだなぁと渋い顔をしている。ご愁傷様である。
「そうだよ。みんな困ってた」
「うん。そしてお前のせいで今度は俺たちTHEOLZが困った。今までお得意様だった連中が軒並み来期から更新無しって言い始めたからな。そういうカラクリだったわけだ」
「まったく悪い奴らだよ。今度から隣町で買い物しよ」
「・・・どゆこと？」
「アンズ、お前商店街の連中から対価は貰ってるか？カネだぞカネ。わかるかなー？」
「バカにすんな！流石にそのくらいは知ってるぞ！！」
「それに払うのは当たり前だろ？みんな(ﾋﾟｰ)円もくれたんだぞ、充分だろ？？」
フンス、と胸を張る紅井。
みんなが自分を頼ってくれて嬉しかった。役に立ちたい、立ってみせると奮起して働いた。
お金だけじゃない、普段お世話になっているみんなが感謝してくれることが何よりの報酬、お金は二の次。そう思っていた。
「足らないな。X倍貰っていいぞ」
「はっ？何言って」
―――紅井の信頼、献身。
「企業はその倍取る。しかも最低価格でだ」
「あ、あの」
―――それらは、あっさりと裏切られた。
「オマケにこっちは人手があっからな、一人頭の仕事量だとお前が遥かに上。よく頑張ってるよスゲーや」
「ねえ、もおやめ・・・」
―――どこかおかしいと、何かが間違っているんじゃないかという疑念はあった。
見たくなかったもの、知りたくなかったことを今日会ったばかりの男はズケズケと刺して切り開いてくる。
「やめねー。お前は騙されてる。いいように使われている。まったくバカな奴だよ」
「やだ、やめてよぉ・・・」
「ってうわア！？」
「泣くなよ俺が悪いことしてるみたいじゃねーか。いや言葉選びが悪かったかもしれんすまぬ」
「そういうわけで、俺もお前も商店街の連中にナメられてるということが、わかるDAろう？」
そう言ってハンケチを差し出す大井。
真っ赤になりながらそれを受け取った紅井は、とりあえずで思いっきり鼻をかんだ。
「うわあ・・・派手にやるじゃあねーか」
美人の泣き顔を見るのは好きだが、中身がああでダイナミック鼻チーンまで見せられるともはやそれどころではない。千年の恋も冷める。
「ううううう〜〜〜っ・・・。みんな、みんな信じてたのにぃ・・・」
「まあ、なんだ？スタートは不幸だったがイイことだってあった。こうしてお互い知り合えたんだからな」
「な、何言ってるんだオマエ！？アタシたち今日会ったばっかりだぞ？そういうことは、もっと、お互いを知ってからじゃないと・・・ダメ、なんだぞぅ」
「何勘違いしてやがるんだ？初見で胸触る提案してきたり、ガキみてーに泣きだす女はこっちから願い下げだよ。抱く前にお守りが始まっちまう」
「バカ！バカッ！！もう知らない！きらい！！」
「あ、やめて！お願い話だけでも聞いてッ！？痛いッ！？」
[あぎゃ！？]
[ぽぎゃっ！]
怒り狂う紅井にポイポイと妖精を投げつけられる大井。お通し妖精を提供しすぎじゃないですかねこの店・・・。
誓って妖精を殺すことに必要以上の感情を抱かないようにしている紅井だが、大井のリアクションもあってこの時ばかりはほんの少し、ちょっぴりだけ愉しいと思ってしまった・・・かもしれない。
「はあ・・・」
「アンズ、お前俺の部下になれ」
「はッ！？」
大井の提案に目を丸くする紅井。今日は色んなことが起こりすぎて、さっぱり理解が追い付かない・・・。
本日何度目かの頭が真っ白になる感覚を覚えながら、それでも大井の言葉を無視できない。
大井はというと、やれやれといった様子で飛び散った妖精やら肉片を片付けている。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「THEOLZに入れ。カスみてーなとこだけど、こと金銭面に関しては今の搾取商店街よりよっぽどマシだ。これだけは約束できる」
[くぴゃっ！？]
にやりと笑い、生き残っていた妖精の頭を握り潰して見せる大井。決まっているようで決まっていない。
「おい、普通カスって言われて入りたいと思うか・・・？」
ごもっとも。
「そりゃ俺が色々やらされてるから。ヒラだったら・・・まちっとはマシだろ。たぶん」
「多分！？」
「いちいちリアクションがオーバーな奴だな、おもしれーぞ」
「何のつもりだよ？アタシがオマエの部下になってどうなる？これ関係あるのか？？」
ヘラヘラとしていた大井の表情が真剣なものになる。シルエットっぽいせいで分かりにくいが、少なくとも紅井にはそう感じられた。
「関係大アリよ。お前が企業所属になると商店街の連中は今まで通りの要求が出来なくなる」
「『紅井杏子はTHEOLZ社員だから、仕事の話は上司の大井を通してください』って言える。そこで俺たちオトナの話も通るってワケ」
「おい、それって結構な無茶を言ってないか？」
「先に無茶と不義理を働いたのは向こうだ。そこを突けばどーとでもなる」
「理詰めでボコった後に『ここらで手打ちにしませんか？』って言えば二つ返事で首を縦に振る。お前は・・・現場押さえられて脅されたとでも言っとけばいい。よし平和」
「勝手に決めるな！そんな、アタシばっかり・・・」
「嫌われるのは慣れてるからね。オメーを騙していいように使う連中と仲良くしたいとは思わねーし、ちょうど良かったよ」
「あとお前は使える。凄い奴だよ。是非とも一緒に働いてほしい。超ラクになりそう。もちろんラクもさせてやる」
「大井・・・」
裏切られてすぐに差し伸べられた手。しかもそれを言っているのは詐欺師のような、少なくともマトモな人間ではない。
どう考えてもその手を取るべきではない。しかし、信じてみたくなってしまう。
紅井杏子、痛恨のチョロさ。
「クズを甚振る楽しさ、嬉しさを教え込んでやるよ。妖精虐無しじゃ生きられない身体にしてやる♡」
[あっあっあっあっ・・・]
「・・・いらない。それだけはホントーに要らない」
こうして大井の誘いに従った紅井だが、ついぞ虐の愉しみに目覚めることは無かった。かなしいね。
「ちなみに、これでなおアンズの奴が『商店街側につく！』なんて言った日にゃあとっても面倒くさいことになったから、俺は心底安堵している」
「心も身体もいいように使われて、妖精狩りの邪魔だから最悪消されました。じゃああんまりにも不憫すぎる。あと純粋に惜しい。こういうバカはもっともっと幸せにならないとウソだろ」
あとがき
動画化するのが面倒くさいという理由でほったらかしてた昔話です。俺が好きなバカ会話させるだけだなら文章でもできますしね。
あと2回くらいやる予定(BとかZとか)ですが、オマケついでで潰す妖精どうしようと今から頭を抱えています
このページへのコメント
大井さんと紅井さんの出会い！文字だけでも例の音声情報が届いてきます！！
人間の常識からかなり逸れた貞操観念やピュアさ等、「人間ではないもの」としての紅井さんが強調されていて良かったです！
『男は何処に出しても恥ずかしいクソヤロウではあったものの、同時にええ格好しいで意地っ張りでもあったのだった』…………物語の進行役として、新しい風を吹かす人として……こういう人がいてくれるだけで一番嬉しいんですよね！！
あんこもんの立ち絵を見た時に自分の中の人型像とのギャップというか、イメージのズレを感じたんですよね(誓って悪い意味ではありません)
俺がおいちゃんを便利に使っているのはご覧のとおりです。
動画ではボイボを使うより遥かに軽く簡単、表情も付けなくていい、脳直であることないこと喋らせられるetc.とサボり根性の化身になっています
大井さん（おっちゃん）と紅井さんはこうして出会ったんですね
文章だとおっちゃんが「動画素材上の都合でなくマジで」シルエットまんまの姿というのが・・・ｗ
往年の工口ゲーギャﾉﾚゲーでありがちな目元が見えない人いじりを発作的にやりたくなったのでつい…。
先の話になりますが奥様ぁんはどうなってんだアレ、と新しい問題が湧いてきましたが
あっ、紅井さんにそんな過去が…。ﾅﾝﾃｺｯﾀ!
オーイさん良い人。
やたら可愛い人外にモテる野郎だなぁ（と思ったけど、この人既婚者で床上手の奥さん居ましたね）。
自分であてがっておきながら床上手の奥さんで笑ってしまいました。
おいちゃんは利用価値があると判断した相手にはダダ甘なので、その辺りがいい人に見えるのかもしれません。
人外どものパパポジションくらいに考えてます
こんなん惚れてまうやろ
好感度が上がった直後に落とすジェットコースター式を採用したつもりなので、きっと大丈夫です(？)