『侏儒の言葉』
芥川龍之介/著
文藝春秋/刊
昭和2年12月6日発行
概要
体裁：四六判/紙装/函/別紙
装幀：小穴隆一
定価：2円20銭
広告には以下の紹介がある。
芥川龍之介を小説家としてより寧ろ随筆家として認めてゐる人が少なからずある。実際彼は資質と教養とが随筆に最も見出してゐたのは明かで、中にもこの「侏儒の言葉」ーーかつて数年に亙つて雑誌「文藝春秋」の巻頭を飾つた断片語ーーは、光彩最も陸離たるものがある。明治以来諸才子争つて泰西のアフオリズムの形式を模してゐるが、その鋭利と辛辣とに於いて、その教養の多面と表現の自由とに於いて、これに並ぶものはないとさへ思はれる。
収録作品
侏儒の言葉
澄江堂雑記
病中雑記
追憶
文芸的な、余りに文芸的な
「侏儒の言葉」は雑誌文藝春秋の切り抜きに著者自身手を加えたものに依る。そのため、「神秘主義」他二、三篇が省かれている。加えて遺稿である未定稿も加えられている。
「澄江堂雑記」はすでに刊行されている『沙羅の花』『梅・馬・鷲』のものとは別内容。「文芸的な、余りに文芸的な」は現在「続文芸的な、余りに文芸的な」とされているものに、「二人の紅毛人画家」を加えた内容。
重版の経緯
メモ� О杼�本について
九版の本体は初版と比較する紙の種類を変更したことで、薄くなっている。これに伴い背表が再デザインされている。また、初版の巻末にあった「芥川龍之介著者目録」（広告）は九版では省かれている。
縮刷版も存在するが、未見。順番としては初版（S2〜）→縮刷版（S5〜）→九版（S14〜）となる。縮刷を出した後に、九版を出す理由がわからない。コスト的な問題かと考えたが、縮刷版が80銭に対して九版は1円40銭で、後の九版の方が高い。
メモ�◆Ц朕妖�感想
常人が気づかないことに彼の研ぎ澄まされた頭脳は悟っていく。しかし、果たしてそういうことに鋭利になることが人間として幸福なのか。
世の中は矛盾で満ち溢れている。そしてその矛盾、疑問を人々は黙殺して生きている。何故か。構っていては生きていく上で困難を極めることになる、それを無意識に悟るがゆえ、人々は黙殺する。
しかし、黙って見過ごせない人間がいつの時代も少数ながら存在し、彼らは大きな声で叫ぶ。芥川もそんな人間の一人であった。しかし、その志に人々は共感こそすれ、その生き方を実践しようとする人間は限りなく少ない。キリストの教えに憧れても、それを百パーセント実践できるかは別問題である。マハトマ・ガンジーの熱意もまた尊敬はされても模倣はされない。キング牧師はその高き志のために殺された。
これらの人間が勝者であるか敗者であるかは問題ではないし、その決定付ける必要はない。ただ彼らは時代が抱える悲哀を一身に背負って叫び続けた人間ではなかったか。その先の破滅が待っているとしても、彼らは叫び続けた。気づいてしまった、その責任を果たそうとしたのではなかったのか。気付きながらその責任を果たさない人間は厭世し、世捨人になる。
芥川は「書く」ことでその責任を果たした。だからこそ彼は魅力がある。芥川の作品について萩原朔太郎はこんな文章を書いている。
彼の作品は（その二三のものを除いて）あまりにも客観的、合理観的、日情熱的、観照主義的でありすぎる。特にその「文藝春秋」に連載された「侏儒の言葉」や、私の所謂印象的散文風な短文やを見ると、いかに彼の文学的本質が、詩人といふに遥かに別種の気質に属するかを感じさせる。
−−萩原朔太郎『芥川龍之介の死』
注意しなければならないのは、この『芥川龍之介の死』のなかで、萩原は芥川について全てを否定しているわけではない。ここでは省くが、この後、文中で萩原は芥川死後「いかにも腹立たしく、私が飛んでもない間ちがへをしたことだらう」と悟り「舌を噛んで慚死する恥を感じ」るのである。しかし、彼の当初抱いていた芥川観は最もであり、ある側面では事実と言える。芥川という人から切り離した時、「侏儒の言葉」は詩的であるようには思えない外見を持っている。
なら何故、芥川は「詩」から最も離れたように見えるアフォリズムを書き続けたのか。それこそ 「人に理解されず、孤独な、寂しい墓の中で死んでいった」一人の英雄の悲哀に満ちた生き様なのである。『侏儒の言葉』はそういった意味で芥川という人間を象徴している作品である。
参考文献：
芥川龍之介『精選名著復刻全集近代文学館 侏儒の言葉』ほるぷ出版、S47・6・10
『芥川龍之介全集 第二十四巻』岩波書店、1998・3・27
『芥川龍之介全集 別巻』筑摩書房S46・11・5
芥川龍之介/著
文藝春秋/刊
昭和2年12月6日発行
概要 
体裁：四六判/紙装/函/別紙
装幀：小穴隆一
定価：2円20銭
広告には以下の紹介がある。
芥川龍之介を小説家としてより寧ろ随筆家として認めてゐる人が少なからずある。実際彼は資質と教養とが随筆に最も見出してゐたのは明かで、中にもこの「侏儒の言葉」ーーかつて数年に亙つて雑誌「文藝春秋」の巻頭を飾つた断片語ーーは、光彩最も陸離たるものがある。明治以来諸才子争つて泰西のアフオリズムの形式を模してゐるが、その鋭利と辛辣とに於いて、その教養の多面と表現の自由とに於いて、これに並ぶものはないとさへ思はれる。
−−『文藝的な余りに文藝的な』第五刷の巻末広告
収録作品
侏儒の言葉
澄江堂雑記
病中雑記
追憶
文芸的な、余りに文芸的な
「侏儒の言葉」は雑誌文藝春秋の切り抜きに著者自身手を加えたものに依る。そのため、「神秘主義」他二、三篇が省かれている。加えて遺稿である未定稿も加えられている。
「澄江堂雑記」はすでに刊行されている『沙羅の花』『梅・馬・鷲』のものとは別内容。「文芸的な、余りに文芸的な」は現在「続文芸的な、余りに文芸的な」とされているものに、「二人の紅毛人画家」を加えた内容。
重版の経緯
| 初版 | 昭和2年12月6日 | |
| 三版 | 昭和2年12月8日 | |
| 九版 | 昭和14年12月12日 | 異装 |
メモ� О杼�本について
九版の本体は初版と比較する紙の種類を変更したことで、薄くなっている。これに伴い背表が再デザインされている。また、初版の巻末にあった「芥川龍之介著者目録」（広告）は九版では省かれている。
縮刷版も存在するが、未見。順番としては初版（S2〜）→縮刷版（S5〜）→九版（S14〜）となる。縮刷を出した後に、九版を出す理由がわからない。コスト的な問題かと考えたが、縮刷版が80銭に対して九版は1円40銭で、後の九版の方が高い。
メモ�◆Ц朕妖�感想
常人が気づかないことに彼の研ぎ澄まされた頭脳は悟っていく。しかし、果たしてそういうことに鋭利になることが人間として幸福なのか。
世の中は矛盾で満ち溢れている。そしてその矛盾、疑問を人々は黙殺して生きている。何故か。構っていては生きていく上で困難を極めることになる、それを無意識に悟るがゆえ、人々は黙殺する。
しかし、黙って見過ごせない人間がいつの時代も少数ながら存在し、彼らは大きな声で叫ぶ。芥川もそんな人間の一人であった。しかし、その志に人々は共感こそすれ、その生き方を実践しようとする人間は限りなく少ない。キリストの教えに憧れても、それを百パーセント実践できるかは別問題である。マハトマ・ガンジーの熱意もまた尊敬はされても模倣はされない。キング牧師はその高き志のために殺された。
これらの人間が勝者であるか敗者であるかは問題ではないし、その決定付ける必要はない。ただ彼らは時代が抱える悲哀を一身に背負って叫び続けた人間ではなかったか。その先の破滅が待っているとしても、彼らは叫び続けた。気づいてしまった、その責任を果たそうとしたのではなかったのか。気付きながらその責任を果たさない人間は厭世し、世捨人になる。
芥川は「書く」ことでその責任を果たした。だからこそ彼は魅力がある。芥川の作品について萩原朔太郎はこんな文章を書いている。
彼の作品は（その二三のものを除いて）あまりにも客観的、合理観的、日情熱的、観照主義的でありすぎる。特にその「文藝春秋」に連載された「侏儒の言葉」や、私の所謂印象的散文風な短文やを見ると、いかに彼の文学的本質が、詩人といふに遥かに別種の気質に属するかを感じさせる。
−−萩原朔太郎『芥川龍之介の死』
注意しなければならないのは、この『芥川龍之介の死』のなかで、萩原は芥川について全てを否定しているわけではない。ここでは省くが、この後、文中で萩原は芥川死後「いかにも腹立たしく、私が飛んでもない間ちがへをしたことだらう」と悟り「舌を噛んで慚死する恥を感じ」るのである。しかし、彼の当初抱いていた芥川観は最もであり、ある側面では事実と言える。芥川という人から切り離した時、「侏儒の言葉」は詩的であるようには思えない外見を持っている。
なら何故、芥川は「詩」から最も離れたように見えるアフォリズムを書き続けたのか。それこそ 「人に理解されず、孤独な、寂しい墓の中で死んでいった」一人の英雄の悲哀に満ちた生き様なのである。『侏儒の言葉』はそういった意味で芥川という人間を象徴している作品である。
参考文献：
芥川龍之介『精選名著復刻全集近代文学館 侏儒の言葉』ほるぷ出版、S47・6・10
『芥川龍之介全集 第二十四巻』岩波書店、1998・3・27
『芥川龍之介全集 別巻』筑摩書房S46・11・5
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