img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン


 ★ イーリス


 イーリスは激怒した。
 必ずや「じゃちぼーぎゃく」の怪盗を除かなければならぬと決意した。
 イーリスには漢字がわからぬ。
 イーリスは14歳の魔法少女である。猪をダメだし、ヒリと遊んで暮らしてきた。
 けれどもふぉろわーすうに関しては人一倍敏感だった。



 【夜明前怪盗遊戯―イーリスとクレインダンスの場合―】


 ★ クレインダンス


 怪盗を……殺す!
 とまではいかないが、正直現状のクレインダンスの精神衛生は非常によくない部類に入っていた。
 理由は単純明快に、昨今img街を騒がす怪盗。彼女に、近頃手に入れたお気に入りの逸品を盗まれたのが原因だ。
 幸い最も大切なものを盗まれることはなかったが、それでも最近気に入っていたモノを持っていかれて心平穏でいられるほど、クレインダンスは腰抜けのつもりはない。

(見つけたら、どのように復讐するべきだろうか)

 そんな物騒なことを考えながら、クレインダンスは一人夜の街で怪盗を探す。
 あまりにも個人的な理由だから、"彼女"には頼りたくない。頼りたくないが、神出鬼没の怪盗を一人で探すのは骨が折れる。
 どうしたものだろうか。
 ……と。

「……うん?」

 クレインダンスのカメラアイが、夜の闇の中を飛ぶなにかを捉えた。
 怪盗ではない。もっと鳥のようなシルエットだ。だが鳥などより大きい。

「うー、くらくてよくみえない……」

 両腕が鳥のような羽根となった、鳥人間(ハーピィ)のような姿。
 今週同じ組に振り分けられた魔法少女だ、とクレインダンスは気がついた。名前はイーリスだったか。
 やはり鳥人間も夜は鳥目なのだろうか、と思いつつ、何をしているのか観察する。

「かいとうめ……どこにいったのかな……」

(……怪盗?)

 怪盗。今彼女はそう言ったか。
 彼女とクレインダンスは同じ組。つまり怪盗とも同じ組であったことを思い出す。
 もしかしたら、自分と同じ怪盗の被害者なのだろうか。
 だとしたら、話を聞いてみてもいいかもしれない。

「……あの」
「ぴゃっ!?」

 近寄って、下から声をかけてみる。
 ……あっ、バランスを失って落下……あぶな、っ、

 ――どすん。



 ★


 とりあえず色々あった。
 色々あった末に話を聞いた結果、どうやら彼女も怪盗の被害者で間違いないらしい。
 聞けば二回所持品を盗まれたのだという。
 一回目は「ついったーでふぉろわーをふやしてあそんでいた」ところで魔法の端末を奪われ、二回目は……たまご?を盗まれたらしい。

 ……一回目についてはむしろいいことのような気もしないではなかったが、どちらにせよ怪盗探しに協力してくれるならばクレインダンスには都合がいい。
 クレインダンスとイーリスは手を組むことにした。

「ごえつどーしゅー、というやつだね!」
「それは違う気がしますが……」
「そういえばクレインダンスのおねーちゃんってつるなの?」
「え? ああ……名前はそうですね」
「うーん……でもあんまりとりっぽくない……」
「鳥っぽく見えても操らないでくださいね」

 二人での追跡を続けて数日間。怪盗を捕まえる事は適わなかった。
 神出鬼没の怪盗は影が見つかれば直ぐに逃げ出し、追いかけても影を踏む事さえ叶わない。
 どうやら近頃とある魔法少女とトラブルになり、それから警戒の度を強めたらしい。
 面倒な話だが、成果がなかったわけでもなかった。

「かいとうは、からすをつかってるみたい」
「鴉? それは魔法で?」
「ちがうみたい」

 そういえば、あの怪盗はやたらと鴉の羽根を撒き散らしていた気がする。
 どこから調達しているのかと思ったが、もしや鴉を飼っているのだろうか。
 飼い慣らした鴉の脚に小型のカメラでも付ければなるほど下見には持って来いではあるが、怪盗などという派手な名乗りの癖に地道な真似をとも思わないでもない。
 ともあれ。

「それなら、一杯食わせてやるのもできそうですね」



 ★ 怪盗とりっく


 怪盗には夜が似合う。
 結局のところ悪事を行うのに夜が最適だというだけの話なのだろうが、それでも夜闇の中を静寂を切り裂いて跳ぶ怪盗は、夜の住人として相応しい。
 お約束、といえば陳腐に聞こえるが、結局のところ『それが格好いい』からそうなのだ。考えなしにお約束を崩すべきではない。
 だから怪盗とりっくも、昼は基本的に大人しくしている。
 彼女が昼間にしていることといえば、生身での生業であるとか、あるいは秘密の副業であるとか……あるいは、アジトのひとつで魔法少女から盗んだ品を愛でる時間であるとか。
 魔法少女。このimg街の公然の秘密、一説には500を超える魔法少女が街にはひしめき合っているという。
 素晴らしいことだ。彼女たちは現世の宝だ、と怪盗とりっくは本気で思う。
 「魔法少女の使命」を押し付けられて、人間には過ぎた力を与えられた少女たち。
 魔法少女であろうとする者、魔法少女に憧れる者、魔法少女からかけ離れた振る舞いをする者。
 誰しも興味深い物語を持っている。
 怪盗とりっくが魔法少女からモノを盗むのは、彼女の興味を強く惹いた魔法少女についてもっとよく知るためだ。
 彼女たちの思いの強くこもった品を失敬して、愛でることで魔法少女をも等しく愛でる。
 誰になんと言われようと、これが怪盗とりっくの魔法少女としてのライフワークである。

(しかし何のたまごなんだろう、これは)

 今週の収穫、イーリスから盗んだなにかのたまごを観察する。
 鳥の卵のようにも見えるが、なんとなく違う気もする。
 まさか……いや、魔法少女が卵を産むなんてそんな――

「……!?」

 瞬間、腰掛けていた椅子を蹴り跳び上がる。
 感じたのは殺気。咄嗟に構えた魔法のステッキを、壁を割って飛んできたワイヤーが右手ごと絡め取る。

「追い詰めましたよ、怪盗とりっく」

 砕けた壁の向こうから、冷えた声が投げかけられる。
 土煙が晴れ、瓦礫の向こうから歩いて来るのは、ダークグレーのボディスーツに装甲を纏った魔法少女。
 片手に装備されたワイヤーガンが、怪盗とりっくの右手を絡め取ったワイヤーに繋がっていた。

「どうもこんにちは、クレインダンス君。
 来るなら事前に連絡してくれれば、もてなすこともできたんだけどね」

 肩をすくめながら状況の把握に務める。
 右手に絡んだワイヤーは外すのに手間がかかりそうだ、戦う魔法少女を目の前に悠長に外している時間はおそらくない。
 逃げ場は……さて、そもそも何故アジトにまで侵入されたか、だが。
 それはクレインダンスの背後から飛んで来たもう一人の魔法少女を見れば予測がついた。

「あくぎゃくひどうのかいとうめ! おとなしくおなわにつけ!」

「……成る程、これは一本取られたね。怪盗が鴉を盗まれるとは」

 鳥人間(ハーピィ)の魔法少女、イーリス。
 彼女の魔法は、「鳥っぽいものを7羽まで操れるよ」。
 次の下見に飛ばしていた鴉を捕まえて操り、このアジトまでやってきたということか。
 怪盗とりっくは戦闘が主体の魔法少女ではない。二人の魔法少女を相手に、片手と武器が使えない状態で戦うとなると、正直厳しい。

「チェックメイトです。大人しく投降してください。それとも、痛い目にあいたいですか?」

「確かにちょっと厳しいなあ。
 ……ところでクレインダンスくん、僕が君から盗んだ兵器はなんだったかな?」

「は? いったい何を……
 ……まさか」

 にたりと笑う。機械の魔法少女、クレインダンスから盗んだ品物。
 それは――

「今時爆発オチも芸が無いけれど、まあ一度なら見逃してくれるだろう。またね!」

 左手に隠し持ったスイッチを、かちりと押した。

 ――どかん。



 ★ クレインダンス


 瓦礫の中。
 ワイヤーガンから伸びたワイヤーは、中途で焼け焦げてその先で捕まえていたはずの怪盗の姿はない。
 クレインダンスは庇ったイーリスを助け起こして、瓦礫をがらがらと掘り起こしながら、内心で舌打ちを打った。

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