img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:怪盗とりっく ブラム・プラム アルテアロゼア イーリス リリステリア


 img市はその魔法少女の多さから、定期的に魔法少女たちが所属する組分けのシャッフルが行われる。
 理由は色々と「」ァヴ達からもっともらしく伝えられるが、結局のところ彼らもずっと同じ魔法少女の顔ぶれだと飽きてしまうらしい、という、当の魔法少女からすれば無責任な答えが囁かれている。
 それはともかく。
 怪盗とりっく。
 ブラム・プラムがその週配置された組にいた魔法少女は、そういう名前だったらしい。

【夜明前怪盗遊戯―ブラム・プラムの場合―】

 怪盗。
 いかにも魔法少女には似合わない二つ名だ。
 人を助け、正義を良しとする――いやまあ一部の例外はさておき――魔法少女に対して、他人の物を盗む怪盗とは、ある意味では真逆に位置する概念だろう。
 そして、魔法少女らしからぬのは、名前だけではないらしい。
 彼女の噂を聞いてから、知り合いの魔法少女たちに聞いて回った結果。

『ひどいんだよー! ついったーであそんでたらたんまつとられちゃったの! いちにちしたらまどのそとにもどってきてたけどっ』

『彼女は魔法少女に相応しくないのです。可愛くもないし、盗みなんて最低なのです。何を盗まれたか? ……秘密なのです』

『ネロとりキテ……ああ、いえ、ごちそうさま、いえこちらの話です』


 最後のはよくわからなかったが、とにかく魔法少女には似つかわしくない行状をしていることは確認できた。
 魔法少女の力を悪用する人間。ブラム・プラムとしては、絶対に見逃したくない相手だ。
 まず魔法少女チャットで説教しようとして拒否されて逃げられ、その次に三日三晩を費やしてimg街中を探し回り、そうしてようやく『予告状』の噂を知って、ブラム・プラムは怪盗を待ち構える姿勢を整えた。
 怪盗とりっくは、盗みを行う相手にまず予告状を送る。
 怪盗としては確かにテンプレートな行いだが、一応は一般市民には秘密――なんとなく公然の秘密じみている気はするが――の魔法少女にとっては、冒涜的な行いだ。
 ともあれ。そのお陰でブラム・プラムがこうして待ち構えることができたのだから、そういう意味では間が抜けているのか、それともそれだけの自信があるのか。

 そんなコトを思いながら、月明りの下、ブラム・プラムはビルの上から屋敷を見張る。怪盗の『予告状』を受けた屋敷。
 できれば事前に止めたいが、警戒態勢厳重な屋敷の近くに陣取るには、魔法少女でも大分骨が折れる。
 出てくるルートを抑えて叩きのめして、盗まれた品は人知れずそっと戻しておく、というのが隠密性を考えた上での妥協点だった。

 待つ。待つ。待つ。待ち望む。
 1時間ほど待ったとき、にわかに屋敷が騒がしくなったことに気が付いた。

「……」

 感覚を集中し、身を乗り出す。魔法少女の優れた感覚からは、騒動の気配、何よりも、『盗まれた!』という声が耳に入った。


 ★


「怪盗のモチーフにはよく鴉が使われる。さて何故だろうね」

 路地裏。追いつめた魔法少女――怪盗とりっくは、慌てた様子などないかのように、ブラム・プラムに語り掛けた。
 白い仮面にシルクハット、黒の外套(マント)に黒いタキシード。
 成程怪盗だ。あまりに怪盗らしすぎて、魔法少女にはちっとも見えない。
 右手には大きな袋を抱えていて、おそらくはそこに盗んだものを詰め込んだのだろう、と推測できる。

 ブラム・プラムは銃を構えた。

「あなたが怪盗とりっくですね」

「鴉は光り物が好きだとよく言うよね。ガラス瓶、金銀財宝、魔法少女」

 誰何の声は、当然のように無視された。
 とはいえ想定内だ。このタイプは往々にして人の話を聞かない。
 真っ当な返答を返してくるのは、自分の話に相手が乗ってきた時のみ。

「……魔法少女?」
「そう、魔法少女だよ。キラキラ輝く彼女たちは、人類の宝と言って申し分ない。
 だから僕は魔法少女が好きだ。興味に値する。盗んで掌に収めてしまいたいけれど、そんなことはできないね」
「だから魔法少女からモノを盗むのですか?」
「まあ、そうだね」

 はあ、と溜息を吐く。ブラム・プラムの経験からして、このタイプは反省をしない。
 望みは薄だが、それでも一応、最後通告はしておく。

「その袋の中身を屋敷に返してきて、悔い改めなさい。私としては、このままトリガーを引いても構わないのですが」
「残念だけど、そのつもりはないよ」
「そうですか」

 ばぁん、と響く音。
 ブラム・プラムの二挺拳銃が火を噴き、弾丸が怪盗とりっくを狙う。
 黒衣がはためき、獲物を見失った銃弾が路地裏の壁に火花を立てた。伸びた蔦も、影を捕えることは叶わない。
 何処に逃げた。右、左、……上。
 見上げた夜空よりなお黒い、翼のような外套を広げた怪盗は、左手をすでに振りかぶっている。
 投擲か。
 回避姿勢。直撃は避けたが、左の拳銃に何かが突き立った。
 白の目立つ、長方形の紙片。これは。

「予告状、というやつさ」

 仮面の下、怪盗が笑った。
 黒衣が翻る。
 ブラム・プラムの左手が急に軽くなる。手の中に握っていたはずの、ピンクシルバーのコルト・ガバメントが消えている。
 やられた。拳銃を盗まれたこと自体は問題ない、どうせ変身し直せば戻ってくる。
 けれどブラム・プラムの魔法は、『拳銃から弾丸を放つ』ことが発動条件だ。
 むろん、拳銃はまだ一丁残ってはいるが、効率は半減する。
 舌打ちしながら、黒い影を追って拳銃を連射。弾痕からは蔦を伸ばし、縦横無尽に拘束しようと巡らせる。

「流石に戦う魔法少女と真っ向からは分が悪い。今日はここまで、次は栞を挟んでここから読もう。
 またね!」

 蔦の弾丸が切れ、リロードしようとした一瞬の隙を突かれた。
 先ほどまでそこにいたはずの怪盗の姿が見つからない。まるで"目を盗まれた"かのようだ。
 右。左。上。……いない。

 少しの間、ブラム・プラムは周囲を睨み付けていたが、一般人の気配が近づいてくるのを察して、無言のままにその場を去った。

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