img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:アドバンス

「……アタシはいいんだよ。あんたの役に立てたんならそれで……」
「分かってる……うん……じゃあまた……」

二人の人影が何やら話をした後、一人が足場を強く蹴って夜の闇に溶けていった。
ここは霧雨降りしきる夜の繁華街。
ネオンの病んだ光に照らされた地上の人々は、わずか十メートルほど上で行われたこのやり取りに気付くことはない。
それが魔法少女の世界。人でありながら人を超えた領域で生きる者達。

「はぁーーーーー……」
そんな雑居ビルの屋上で、残った一人が崩れるように座り込んだ。
近未来めいた緑のラインが淡く光るパーカーに身を包んだ魔法少女、アドバンスだ。
「一週間前に脚力を前借りしてたの忘れてた……」
彼女は己の迂闊さを呪った。
彼女は魔法によって近い未来の自分から様々なものを前借りして使えるが、一週間後に必ず取り立てられる。
そのこと自体は問題ではない。前借りしたのを忘れてたのもまあいい。
問題は、"取り立て"のタイミングが他の魔法少女の手伝いをしている最中に訪れたことだ。
今回は気力でなんとか堪えて仕事自体は成功させたが、間違いなくパフォーマンスは落ちていた。
これは問題だ。舐められるのは別にいいが、使えないと思われるのは出来る限り避けたい。
例え小さなマイナスでも、降り積もればいずれ切り捨てられる日が来るかもしれないのだ。
自分の身を守るために重要なのは、己の有用性を常に証明し続けることだ。

そこまで考えて、もう一度短いため息をついた。
「結局のところ―――何にも変われてないんだな、アタシ」
彼女はずっと見栄を張って、人の顔色を窺って、そうやって生きてきた。
魔法少女になったその日、人間を遥かに超えた力を得た彼女は、これで変われるんだと思っていた。
魔法少女になった次の日に彼女が知ったのは、自分よりずっと優れた魔法少女なんていくらでもいるということだった。
ものを言えるのはいつだって力を持つ者。
人間も魔法少女も、そこは変わらない。

屋上にできた水たまりに、自分の顔が映る。
「魔法少女はみんな人知を超えた美しさだって、誰が言ったんだったかな……」
そこにあったのは、強者にへつらう醜い笑みだった。
人間の時から染み付いてきた、媚びた笑顔。

「取れないな……これ」
立ち上がれるようになるまで、もう少しかかりそうだ。

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