img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:アリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーン ルーシー・ルーニー

魔法少女ルーシー・ルーニー。
本名は内田愛麻音という。音大附属中学校に在籍する14歳である。
父は音大教員を務める作曲家、母はピアニストという音楽一家に生まれ、幼少期から音楽の英才教育を受けた。

彼女の音楽に対する才能は両親の予想と期待を大きく超えていた。
愛麻音が10歳の頃、母の誕生日に自作の曲を弾いてみせたことがあった。
このとき両親は音楽家として敗北感に打ちのめされた。
父と母が幾十年の苦心の末に立った到達点は、娘にとってスタートラインですらなかった。

こうして天稟に恵まれていた愛麻音であったが、同時に周囲の大人の手を焼かせる問題児であった。
思春期を迎えて一人前に背が伸びても、彼女は度々授業を抜け出し、花冠を作ったり、虫やカエルを殺してはしゃいでいた。
ただ、それでも彼女の学力は抜群に高かった。これは生まれ持った知能の故だった。
娘に手を余した両親は、娘が義務教育を終えた直後にウィーンの音楽学校に引き取ってもらうこととした。
国内では娘の才能を満足させるに足りる教師が見当たらなかったのだ。
「わたしの先生はアマデウスだけだから」
口癖のように言う、愛麻音の言葉だった。

彼女がソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』に着手したのは、雨の日、ピアノ調律中の手持ち無沙汰の慰めだった。
自分なりの「かわいい夜の女王さま」のアバターを作り、ところかまわず他のプレイヤーに乱入してひとしきり引っ掻き回して遊ぶ。
そのプレイスタイルは、魔法少女ルーシー・ルーニーとなった後も変わらなかった。

興味を惹かれた魔法少女には、まず彼女自身が弾いたピアノ曲のCDを渡してみる。
これは彼女にとっての自己紹介を兼ねた挨拶である。
しばらくしてルーシーが気に入れば、彼女が好きな花の束や冠をプレゼントする。
ルーシーがつまらないと思えば、毒を持った虫やカエルや蛇を与えてみせる。
そうして相手が悶え苦しむ様を見て大いに楽しむのである。

昨晩のアリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーンは、ルーシー・ルーニーの興味を惹いた。
理由は単純である。電波ジャック放送でモーツァルトを流したからだ。
それから一晩、ルーシーはアリスをつまらないと判断した。
CDを捨てたから?電波ジャック放送を中止したから?モーツァルトを流さなかったから?
あるいは他にルーシーの興を削ぐ振る舞いがあった?
実のところ、そのいずれでもない。ルーシーはプレゼントを与えた相手の反応などなど一切気にしない。
彼女の演奏は聴衆を持たない。彼女自身とアマデウスのために弾くからだ。
では何故か?本当のところは当のルーシーにも分からない。
とにかくつまらないと思った。
それだけで理由は十分だった。
つまらなければ、せいぜい毒虫や毒蛇どもと格闘し、斃れるまで踊り狂う姿を見て楽しませてもらうだけだ。

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――アリスはまさしくルーシーの前で踊り狂う有様だった。
今は一時しのぎで使っている殺傷魔法も、いずれは魔法力を消耗して使用不能に陥る。
虫やカエルや蛇に全身を這いずり回られ、毒に冒されて斃れるのは目に見えていた。
逃れる手段は、魔法の使い手であるルーシー自身が魔法使用不能な状態にすることのみ。
しかしアリスはそれが出来ない。接近戦ではアリスに勝ち目はない。昨日来の立ち振舞でアリスの戦闘力は察することが可能だ。
後は死に至るまでの輪舞である。ルーシーはそれを眺めて一時の愉悦に浸るのだ。

「………っ!」
不意にルーシーは腹部に鈍い痛みを覚える。アリスが投げつけたコンクリート片が命中したのだ。
その一瞬の隙をついてアリスはホテル跡の外へ駆け逃げてゆく。
しかしこの程度の抵抗は織り込み済みだ。

「あははははは!ばーか、ばーか!ばぁーーか!」
追うルーシーの嬌声は一層高らかになる。
今更逃げてどうなる?死に場所が変わるだけの話だ。
いずれにせよ毒虫どもは決して離れてくれない。逃れることは出来ない。
そればかりではない。逃げる獲物は狩る者に追う楽しみを与える。さぞ滑稽な最期を見せてくれることになるだろう。
建物の外に逃げたアリスの魔法力は確実に弱まっている。
最初は即死だった毒虫どもも、息の根が止まるまで2,3秒程度はかかるようになっている。
10秒…いや5秒もあればいい。その短い時間に毒虫どもは確実にアリスの喉元まで這いずり上がるだろう。
そうして皮膚から血管から毒素を流し込むのだ。そうすればアリスは悶え苦しんで死ぬ。
それまでに起こる全ての出来事は、すべてその時までの余興に過ぎないのだ。

やがて森を抜けて国道に出たところで一瞬アリスの足が止まる。
ルーシー目掛けて再びコンクリート片が飛んでくる。
ホテルの中でポケットに隠し持ったのだろうか。だがその勢いは目に見えて弱まっている。回避など事もない。
ニ投目、三投目とルーシーの傍らをかすめて通り過ぎた後、投石は止んだ。
弾切れだ。藁にすがるような反撃ももうお終い。ルーシーは腹の底から込み上げてくる可笑しさに耐えかねたように嗤い声を上げる。
「きひひひひひひひひひ!ひひひひひひひひいひひひひひひひひひ!ひゃはははははははははははははは!おっかしいねぇ!ああおかしい!
逃げたって何にもならなかったねぇ!何にもならなかった!なぁぁあぁぁぁぁぁああああぁんにも!
あんたっておばかさん!ほぉぉぉおおぉぉおぉんとにおばかさんだったねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
夜の森の中をタガが外れたような笑い声がこだまする。
獲物は罠に掛かった。身悶えすればするほど死は目前に迫ってゆく。
これから苦痛と絶望に冒されていくアリスの表情を見て愉しむばかりだ。
だが、ルーシーが見たアリスの顔は事を成し遂げたかのように不敵な笑みを浮かべていた。

「馬鹿はあんたの方だよ、ルーシー・ルーニー」
「???????……………ッ!」
途端、ルーシーは耐え難い目眩と不快感に襲われる。
まるで悪性の風邪かインフルエンザにかかったかのような感覚。
それだけではない。皮膚が焼かれるようにチリチリ痛む。
違う、焼かれるようにではない。これは本当に焼けている。赤く熱された鉄を圧し当てられたように皮膚組織が破壊されているのだ。
次第に衣服の留め金から炎があがってくる。慌ててかき消そうとしても手が熱傷で動かない。
炎は全身に燃え上がっている。声にならない叫びをあげながら、ルーシーは半狂乱で地面に転がり回る。

このときルーシーは高圧電線の直下に立っていた。
そこからアリスは高出力マイクロ波を放出していた。
高出力のマイクロ波は人体に発熱をさせ、その皮膚には熱傷をもたらす。
そしてマイクロ波の振動を浴びた金属は熱を帯びて発火に至る。ルーシー・ルーニーのドレスの留め金は金属製だった。
アリスは逃げていたのではない。地の利を得られる場所までルーシーをおびき寄ていたのだ。
ルーシーが追ってこなければ、その目論見どおりアリスは魔法力を消耗しきってどこぞとも知れない場所で朽ち果てていただろう。
しかしルーシー・ルーニーは追わずにはいられない。必ず相手が悶え苦しむ様をその目で見届けようとする。
その習性、その性癖は必ず彼女の仇となる。アリスはそれに賭けたのだ。

アリスの周囲に次々湧き出ていた毒虫どもは春の雪のように消えて失くなる。相手は既に魔法力を喪失しかけているようだ。
今度はアリスが自らの高揚感を抑えられなくなる。
ポケットからスマートフォンを取り出し、カメラレンズを火だるまになったルーシーに向けて録画を始める。
空中を行き交う無数の通信電波を傍受した。
この日アリスが選んだのはテレビ放送用電波。眼前で燃え上がるルーシーを映像ごと実況中継しようというのだ。

「グゥーーーーッモーーーーーーニン、ヴェトナァム!……………あー、お茶の間の皆様こんばんは。
こちらはARTPM。光と電磁波の魔法少女アリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーンのテレビ出張版。皆様の貴重な電波をお借りして放送しております。
こんな時間にテレビをご覧になっているのは、夜中どうしても目が覚めてしまう認知症気味のご老人、あるいは深夜アニメ大好きキモオタ君でございましょうか。
さて、本日は番組の編成を若干変更致しまして、『衝撃映像生中継!その瞬間をカメラは捉えた!』をお届け致します。
まずは1発目!魔法少女のバーベキューでございます。
いやー、いいですねぇ。焼けてますねえぇ。この焼け具合、燃えっぷり。その姿たるやまさにミス・サイゴン!
……えー、BGMはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲のオペラ『魔笛』より、"復讐の炎は地獄のように我が心に燃え"をお送りしております。
やがて故人になるであろうミジメなバーベキューちゃんの遺志を尊重致しましての図らいでございます。
演奏は1963年、歌手は……あー、分かんね。まぁいいや。しばしの間チャンネルはそのままでお楽しみ下さい…あ、鎮火した。
えー、こちらはARTPM。光と電磁波の魔法少女アリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーンでございました。しーゆー!」

放送を終えたアリスは、火に包まれていたルーシー・ルーニーの状態を確認する。
そこにあったのは悪趣味な衣装を纏ったアルビノ少女ではなく、焼け焦げた制服姿の少女だった。
間違いなく変身前のルーシー・ルーニーだ。
魔法少女が死ぬ時は元の姿に戻る。それを知らないアリスではなかった。
これが勝利の快感か――疲れ切った体で、しかし胸の高まりを抑えられないまま、アリスはその場を離れていった。

「くっ……きききききき………」
それからしばらくのことである。残された死体から忍び笑いのような声が漏れ出てきた。
声の主は焼死した女子中学生ではなく、白い髪と肌、赤い瞳をした黒いドレスの少女だった。
つまるところ、ルーシー・ルーニーは死んではいなかった。
逃走劇の中で疲弊していたアリスの高出力マイクロ波は彼女を殺し切るには至らなかった。
ルーシーは炎が尽きた瞬間に変身を解き、死を装った。
そうして彼女は死を擬態し、アリスからの止めの一撃を未然に防いだのだ。
「あはははは!だまされやがって!だまされやがって!ばーか!ばーか!ばーーーーか!」
強烈な電子の振動に焼かれた肌が痛む中、ルーシー・ルーニーは渾身の叫びをあげた。
今宵は確かに敗れた。だが次に会う時はお前の最期だ。そのときは考えつく限りの惨めで滑稽なほど哀れな死に様をプレゼントしてやろう。
それまでは別の獲物を狩ってやろう。その経験と力をもって、お前の及びもつかない強い魔法少女になってやる。
ルーシーは心に誓いながら、山沿いの国道から夜の街に向かって消えていった。
(おわり)

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