img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:水上ユイ 牛若纏




 私は、自分を変えたかった。

 もっとかっこよくいたかった。

 魔法少女では、違う私でいられた。

 だから嬉しかった。






 春の始めの頃、クラスで学級文庫の入れ替えがあった。

 本当は年が上がるときに本を入れ替えるらしいんだけど、それを忘れちゃってたとか何とか。

 それでクラスの中から二人選ばれて、今置いてある本をいくつか図書室に持っていかなきゃならないのだ。



 もう一人は男子、なんか同級生なのにずっと怖そうなクラスメイトだった。

 実際怖かった。

 そんな男子は、本を運ぶのなんかやってられるか、って言って私を置いてどっかへ消えてった。

 放課後、私一人きりでたくさんの本を運ばなきゃならなくなった。


「うんしょ…………お、重い……わっ、あっ!」


 足元がふらついて本を全部落っことしちゃいそうになった。

 それを簡単に片手で止めたのは知らない上級生の人だった。


「大丈夫? 女の子……水上さんで合ってるかしら」


 黒く長い髪の人だった。

 とても落ち着いていた。すごく、大人の女性、みたいな雰囲気を感じた。


「ひゃ、は、はい、だいじょ」


「落ちついて、深呼吸深呼吸」


「は、はい」


 軽く息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。

 少しだけ冷静になった。


「迎えに来てよかった、多分三年生には大荷物だから……もう一人は?」


「え、あの、えと、帰っちゃい、ました……」


 先輩はやや呆れながら、それでも私のことを気にしてくれて手伝ってくれた。




 先輩は牛若さん、という名前らしい。

 六年生で、しかも図書委員の委員長だった。

 三歳しか離れてないのに、とても大人っぽく見えた。


「これで終わりかしら」


「は、はい! ありが、ありがとうごじゅ」


「大丈夫、私とあなたの二人だけなんだから」


「はい……え……?」


「……わかってると思うけど緊張する必要はないって意味ね」


「あ、あ、はい……」


「それとも、私と二人きりだから緊張してるのかしら」


 それは少しあった。言わなかったけど。



 結局手伝ってくれたお礼もちゃんと言えず、私は逃げるように帰ってしまった。






 夜。

 夜はみんなが寝静まり、魔法少女が動き出す。

 この街の暗黙のルールだ。



 俺は街に出る。

 coolな魔法少女、ピエントリ・オートネールとして。


「さて……今日も……あれ」


 目についたのは一冊の本だった。

 見覚えがある。あの時だ。

 牛若さんは自分が持っていた本を置いて手伝ってくれた。



 一旦置いたから、何故かこっちの荷物に紛れ込んだ。


「マジかよ……」


 クールな魔法少女に相応しくないフールなミス。こんな時にも、俺のクールな思考回路はアンサーをあっさりと導き出した。



 持ち主はわかってる。直接返しに行けばいい。



 この格好で? いや、こんなミステリアスなことがあれば牛若さんも夢だと思い込むだろう。

 まさにパーフェクト、かは解らないがとりあえず俺は本を持って出ることにした。




 魔法少女はルーツを探られるのを嫌う。

 だからこそ俺は家からではなく、少し離れたところから変身して魔法少女としてアクションをする。

 そして同時につけられるのも嫌う。

 ヴェールに覆われたスタイリストを暴くのはあまりにクールじゃない。



 だというのに、今まさに俺をつけている魔法少女が一人、スマイルだ。満面の笑みでカウガール、確かそんな名前の魔法少女が俺をつけている。


「「ヘイッ!!」」


 二人のかけ声が被る。

 片や警戒しながらクールにキメる一声、片やさもモーニングコールでもしにきたかのような、ハッピーなボイス。


「被っちゃいマシタネー」


「やれやれ、何だいレディ? ストーキングなんてはしたないぜ」


 カウガールはこちらを指差している。お淑やかなレディとは言えないポーズだ。


「ヘーイ、ヘーイ……」


「……?」


 カウガールはこっちを指さし自分を指さしと忙しない。


「フッ、言葉にしなきゃ伝わ」


「コレデース!! オソロデース!!!」


「これ……成程、コイツのことか」


 ぱぁっと彼女の笑顔が眩しくなる。今は夜なのに、夏の日に照らされる向日葵の花みたいだった。


「んっ、そ、それだけかいキュートガール? そのためだけに俺を」


「その本デース!!」


 今度は俺の持ってる、牛若さんの本に目をつけたようだ。


「渋いデスネー……渋味を感じるデース……」


 『西部劇を読む辞典』


 確かにあまり小学生が読む本っぽくはないようだった。


「シカシ、クーガーサンも持ってるとは思わなかったデスネー……」


「クー……ガー……」


「アア、クールガール略してクーガーサン、分かりやすいデース!!!」


「ちょっとそれはクールじゃないな、止めてほしい」


「ハイ」


「しかし、これがどうしたのかな?」


「イヤー、ネルサンもそれ読むのかと思って」


 この子がこれを読むのは何となく理解できる。というか本を読むのか、縁の薄そうなタイプだとばかり。


「ウェスタン文化、西部劇に代表されるこの文化の歴史は思ったよりも浅いんデスネー、何と何と19世紀あたりからある一連の流れ、フロンティア精神に満ちたアメリカ人のあーやこーやってやつナンデスネー、もうちょっと古い歴史と思ってる方も何人もいたりもシマスガ、……」


 語らせると長い、というタイプなんだろう。でも、私は読んだわけじゃない。それを言うのは、楽しそうに話す彼女に心苦しいが。





「すまない、俺はこの本を読んだわけじゃない、これは落とし物なんだ」


「所謂開拓史に該……エッ」


「ぬか喜びさせたならごめん、でも」


「……イインデース、ところで持ち主に心当たりハ?」


「……」


「ジャア、早いうちに返しに行った方がイイデスネー!! 引き留めてしまって申し訳ないデース」


 思った以上にあっさりと彼女は引いた。その、明るい顔がちょっぴり曇らせてしまったのが悔やまれた。





 そして、私は気づく。


「あの先輩の家、知らない……」






 翌日、図書室にて。


「……こっ、これ」


「あれ、これ私の……見つけてくれたの?」


「あっ、い、あ、うぅ……」





「ありがとう、かっこいいお嬢さん」




 そう言うと、先輩は図書室の奥へと姿を消した。

 私は、最後の台詞の意味をちょっと考えた。



「え…………あっ!!」



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