img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:ヒトミ-2 ウルフファング スッピーちゃん カトリーヌ



 深夜の電車内、多くの人の波に紛れている。

 俺はヒトミ-2、魔法少女をやっている。

 いつもの青色の服を少し地味目のベージュのコートを変えて、伊達眼鏡で申し訳程度の変装をして雑踏に紛れている。



 今、俺がこんな場所にいるのには理由がある。

 いや、実際はたいした理由じゃない。ただの魔法少女活動の延長線上だ。


「ちょっと、これアンタのだろ」


「えっ?……ああ!それそれ!」


「ホラ、今度はなくすなよ」

 疲れた顔をしたサラリーマンに、彼が電車内に忘れてしまったであろう鞄を届ける。

 俺はたまに意味もなく終電間近の電車に乗り込んでは、たまにある落とし物を持ち主に返す。

 こと夜間だと落とし物や忘れ物が増える。それを元の持ち主に返すだけの簡単な作業だ。

 触ったときに中身の情報等も分かってしまうが、そのくらいは大目に見てほしい。一昔前に話題になった、サイコメトリーみたいなものだ。意識してしまうと、どうしても物に対する情報は見えてしまう。



 まあそれを口に出したり、分かったところで顔に出してしまうほど、リテラシーがなってないわけではない。だから許せ。

 魔法少女として人のためになることをする。別にたいした使命感があったわけでもない。誰かが困っている。それを助けないことに、何となく違和感みたいなものを感じる、それだけの話だ。



 先の鞄忘れのサラリーマンと別れ、再び電車に乗り込む。車内の片隅で静かに周りの様子を眺めていた。

 特に上の方を重点的に見る。個人的な所感だが、網棚の上に荷物を置いて席に座って寝る、そして起きてそのまま出て行ってしまう、俺が見てきた中ではそのパターンが結構多いように思えた。



 何となく車両を移動する。すると、上に紙袋らしきものが置いてあった。しかも、上に乗りきらないくらいに大きい。あれは落とし物忘れ物どうこうの前に単純に危ない。

 とりあえず下ろしてしまおう、それで勝手に触るなと言われたら……まぁその時はその時だ。

 紙袋を掴もうと網棚に手を伸ばす。魔法少女の時、俺の身長はあまり高い方ではない。これだけでも結構一苦労だ。



 手が触れる。



 頭の中に所有者のイメージが流れ込んでくる。



 持ち主は、名前からすると外国人の男性のようだ。



 そして、中身の情報。



 火薬、導線、振動感知センサー、僅かな魔力の残滓、等々。



 もう、物騒な内容しか思いつかない。

 ただの爆発物だとしても問題だ。俺はまだ爆発には耐えられる、はずだ。しかし、周りはそうはいかない。今ここでこれが爆発すると、何十人何百人と一般人が巻き込まれてしまう。

 さらに問題なのは魔力だ。魔力行使が行われているとすれば、きっと俺も無事では済まないだろう。



 俺は紙袋を抱え、ドアを蹴り破って外へ飛び出した。そして上に向かって、全力で紙袋を放り投げた。上空で爆発させられれば、少しは被害は少なくすむかもしれない。理性的な思考なんてない、とっさの判断だった。

 しかし、思ったより上へ飛んでいかない。ここにきて、自分の魔法少女としての運動能力がないことを恨むことになるとは。


「クソッ……」


 万事休す、か。


「やれやれ、何かと思えば……貴方ですか、ヒトミさん」


 聞き覚えのある声と赤装束に狼の耳、ちらと見える銀色の髪の淑女。ウルフファングがそこにいた。空を飛ぶ、というより跳んでここまで来たのか。状況を察したウルフファングは、先程俺が放り投げた紙袋をそっと足の甲に乗せるように、下に差し入れた。


「フゥ…………せいっ!!」


 そして、掛け声とともに脚を思い切り上に振り上げた。

 紙袋は遥か上空へと飛んでいき、少しだけ赤く光って消えた。それ程までに高く飛んで行ったのだ。

 俺はそれを眺めたまま下に落ちていく。飛ぶ手段があったわけでもない、衝動的な行動だったからだ。


「空所遊歩<キャットウォーク>!」


 ウルフファングは、技の名前だろうか、そう叫ぶと突如進行方向を変えた。何もない、空を蹴っている。猫が高所を気まぐれに歩くように、しなやかに滑らかにこちらに向かってくる。


「えっ、うわっ!!」


「あまり動かないように、怪我をしますよ」


 彼女はそう言うと、俺をお姫様抱っこして廃ビルの屋上へと着地した。


「……ハァ……ハァ……助かったよ」


「いいえ、私と貴方の中ではないですか……まあ状況は何となく掴めますが、貴女があんな大胆なことをするとは思いませんでしたよ」


「……全くだよ」


 ウルフファングはくすりと微笑む。先程までの大立ち回りが嘘のように、落ち着き払った振る舞いをしている。


「……さっきの」


「? ……ああ、あの技のことですか」


「アンタにしちゃらしくない技の名前だったな」


「それはそうです、アレは私のものではありませんから」


「?」


「以前、スッピーちゃん、という子がこの技を使用しているのを見たことがありましてね……私のは、それを見て少し真似ただけですよ」


 スッピーちゃん、というのは犬の魔法少女だったはず。そう思ったが、彼女はケイト、カトリーヌという猫の魔法少女と仲が良かった。成程、あの少女のセンスか。


「それはそうと、ヒトミさん」


「ん?」


「……服、そのコートぼろぼろになってますね……もしかして普通の服だったり?」


「あっ、あー……」


 言われて気づく。着ていたカモフラージュ用のコートはボロの布と化しており、シャツも少々乱れて隙間から下着が見えてしまっている。


「どうするかなこれ……」


 途方に暮れていると、ウルフファングは俺の後ろから赤い布をそっとかけた。


「はいこれ、いつか返してくれればいいですから」


 そう言うと、ウルフファングは自分のトレードマークである赤い頭巾を外し……と思ったら付けている。


「えっ、何で二枚」


「お気に入りの衣装は予備を用意しておくのは当然でしょう?」


「あ……ああ、ありがとう」


 そう言った後、ウルフファングは夜の街に消えた。それを見届けて、俺は少し大きなため息をついた。


「……荒事、向いてねえな俺」



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