img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:ヒトミ-2 デッドヒート クライム・PF


 道端に落ちている財布を拾う。誰が持っていたかを知る。そしてその者の元へ向かう。場所まで一応正確に把握できる。

 こんな感じの風景は俺の日常の一部だ。


「……アイツ困ってんだろな」


 その落し物の所有者は知り合いの魔法少女だった。

 交番に届ける、という選択肢は特にない。中の金を掠め取って自分の財布にしまうという選択肢も、だ。

 自分でできる程度のことは自分でやる。魔法少女を行う身として当然のことだった。



 ふと、遠くから響く轟音。そして音は近づいてくる。

 猛スピードでこちらに突進してきたそれは、俺の目の前、鼻の先くらいのところで停止した。


「……そこで何をしてる」


 ウィリーをしたままの状態で前輪を俺の眼前に突きつけながら、バイクの後ろからひょこっと金髪の女性が顔を見せた。


「……何を、とは」


「とぼけるな、お前も魔法少女だろう」


 も、と言ったことで相手が何者かは把握できる。そして、相手の姿を視認したことで相手が誰かもわかった。

 バイクレーサーの魔法少女、デッドヒートだ。

 俺は財布を手にしたまま、お手上げの状態で話を続ける。相手を怒らせてはいけない。返答次第で、俺は呆気なく殺されてしまうだろう。


「落ちている財布を拾った、それを元の持ち主に返そうとしているだけだ」


「……」


 ……沈黙。

 こちらの様子を窺っているのだろうか。


「……何故だ」


「……?」


「何故抵抗しようとしない、俺はお前を殺そうとしているんだぞ」


「殺されるようなことはしていないからな、それに……俺はアンタの目を見て話している」


 何となくだが、こいつは俺を殺す気はないだろう。もしそれが誤っていたのだとしたら……。別に何ともない、俺の人を見る目が劣っていただけのことだろう。


「……」


「……」


 ……二度目の沈黙。

 バイクもウィリー状態のまま、眼前に突きつけられた前輪もそのまま、俺もデッドヒートも何も言わない。



 しばらくして、後輪が半回転して前輪が俺の斜め後ろあたりに勢いよく地面に着く。地面が揺れる。何故か少し、胸が痛くなった。


「もしかして、お前がヒトミか」


「……そうだが」


「成程、疑ってすまなかった」


 デッドヒートはため息をついて、顔を逸らし目を伏せる。

 とりあえず、俺は無事なようだ。


「それ、誰のだ」


「あ、ああ……知り合いの魔法少女のだよ」


「そいつは今どこにいるかわかるのか」


「まあな、ここからだとわりと遠い」


 それを言うと、デッドヒートは座る場所をやや前に変え、人一人乗れるだけのスペースを作った。


「なら乗るといい、さっきの詫び代わりだと思ってくれ」


「……そうか、悪いな」


 心を許してくれた、のだろうか。そのご厚意に甘えるとしよう。顔すれすれにされていた時には気づかなかったが、このバイク、相当にでかい。それを自在に操っている、ということなのか。やはり、下手をすれば死んでいたのかもしれない。


「……しっかり捕まれよ」


「ああ」


 デッドヒートの腰に両手を回し、スペースに横に座る。そして、ぎゅっと腕に力を入れる。背中のコードが邪魔で少し捕まりにくく、必然的に体全体をもたれ掛るような形になってしまう。


「っ!?」


「ああ、ごめん、もしかしてきつかったか?」


「い、いや、何でもない、どっちへ行けばいい?」


「……? 大まかな方向でいいなら、向こうだ」


「わ、わかった、飛ばすぞ」


 何か様子は変だったが、大丈夫だろうか。大雑把に指で方向を指し示すと、バイクが大きく躍動を始める。成程、中々に大迫りょ――


「俺のヴェンデッタに遮る道はない、思いっきり飛ばしていくぞッ」





「どうだ、俺の愛機の乗り心地は」


「――――」


「壁を走り、空も飛ぶバイクなんて、お前乗ったことないだろう」


「――――」


「……なぁ、聞こえてるか? 俺は、お前は正しい魔法少女だと思ってるんだぜ」


「落し物をして困った人を助ける……人に迷惑もかけず、ただただ善行に励む……」


「誰かと戦闘になって、周りを困らせたりもしない……ヒトミ、お前は俺が今まで出会った誰よりも『正しい』、そして『戦わない魔法少女』だ……お前みたいな奴が、この街の魔法少女として相応しい……」


「い、いや、何でもない! 今のは忘れてくれ! 恥ずかしくなってきた……」


「……おい、本当にどうした? 何か返してくれても――」


「――気絶してる……」





 目が覚めると、こちらの顔を覗き込む金髪の女がいた。長い髪が微かに顔に当たって妙にくすぐったい。


「あっ」


 こっちを心配した顔で見ていたようだった。後ろには夜の空が広がっている。 


「……はぁ、良かった」


「こ……ここは?」


「お前が気絶しちまったから、一旦ここで休ませてたんだよ」


 辺りを見回すと、どうやらビルだかの建物の屋上らしかった。俺はというと、それでもしっかりと落し物の財布は握って離さなかったようだ。

 立ち上がろうとすると、くらっと視界が歪んで倒れそうになる。

 思わず目の前の、デッドヒートにもたれ掛ってしまった。


「わっ、お、おいおい、本当に大丈夫かよ」


「何でも、うぷ、何でもない……」


「? 顔色悪……うわっ、馬鹿ここで吐くんじゃない!!」


 必死で、喉元まで来ていたものを改めて飲み込む。

 まだ、微妙に具合が悪いようだ。流石にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


「……少し休んだら行くよ、ありがとうな」


「……無理するなよ? 今にも死にそうな顔してるぜお前」


「大丈夫……大丈夫……」


「ちゃんと休んでから動けよ、全く……こんな貧弱な魔法少女がいるのかよ」


「面目ない……」


 彼女が再びバイクに跨った。心配そうな顔をしていたが、無理やり見送った。

 死にそうになりながらそれを確認すると、俺はもう一度横になった。

 空が近い。星が瞬いている。視界はちかちかしている。そして、自己嫌悪に陥った。


「……駄目だな、俺は」









「そんなことがあったんだよ、はい財布」


「へぇ、いやしかしわざわざ届けに来てくれて助かったよ」


 クライムとそんなことを話しながら、俺はアイツの顔を思い出す。

 バイクに乗っていた時、何か話していた。何か、話していた、くらいしか思い出せていないが。


「一応殺人鬼らしいから上司から注意喚起はされてたぞ……というか、よく無事でいられたな……」


「へー」


「……あっさりしてるな、もしかしてまだ具合悪いのか?」


「さぁな」


「……よし! 何か奢ってやるぞ、何がいい?」


「いや、無理だろ」


「無理とはなんだ、俺だって自販機で何か買ってくるくらい……」


 俺には、その無理の理由が分かっていた。何故なら――


「……金がない」


「うん、最初っからな」



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