img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:リープ・シープ ペペン ドルイド・ミステール


「やあ、眠れないのかい?悩み事かな?」

深夜、ベランダから夜空を見つめていた少女は不思議な声を聞いた。
声は上方から聞こえてくる。屋根の上に誰かいるのだろうか。ここからでは姿が見えない。

「年頃の女の子がこんな時間まで起きているのは良くないんじゃないかな。」

そんなこと言われたって、眠れないものは眠れない。
いや、もしかしたら自分は既に眠っていてこれは夢なのだろうか。

「そんな時は、羊を数えるといいよ。ほら、羊が一匹、羊が二匹…」



───────



何者かが屋根からベランダへ飛び降り、崩れ落ちる少女の体を支えた。

彼女は魔法少女『リープ・シープ』。
見た目はスーツ姿に眼鏡と、魔法少女というよりキャリアウーマンといった出で立ちだ。
ただし、白い癖っ毛に羊の耳・角・尻尾が彼女をファンタジックな存在だということを示していた。

魔法少女はそれぞれひとつ、固有の魔法を持つ。
先ほど少女を眠らせたのはリープ・シープの魔法によるものだ。
彼女の羊を数える声を聞いたものは、魔法の眠りに誘われる。



リープ・シープは深い眠りに落ちた少女を抱え、ベッドへと運んだ。

「君の悩み事を解決できるわけじゃないけど…」

魔法の眠りは睡眠効率が非常に高い。良質な睡眠は肉体面・精神面ともに良い方向へと導く。
彼女の悩みが解決するきっかけになることを祈る。



「しかし…夜中に女の子の部屋に不法侵入した上に眠らせるって、犯罪もいいとこだよね…」

2階の窓からひらりと道路に飛び降りたリープ・シープはひとり呟いた。

更に言えばリープ・シープの変身前の姿は成人男性だ。
字面で見るとかなり不味いことをしていると一人自嘲した。



彼──羽村羏が魔法少女になったのはおよそ2年前。
それまで勤めていた会社を辞めた翌日に魔法少女にスカウトされ、選抜試験を経て正式な魔法少女となった。

女顔とはよく言われるが、まさか自分が魔法少女になるとは思わなかった。
男が魔法少女に選ばれるのはかなりレアケースらしいが、この街ではなぜか多いと自分を魔法少女にしたマスコットが言っていた気がする。
選抜試験のことはよく思い出せなかった。短期間であまりにも色々なことが起きたせいなのかもしれない。

魔法少女になってから数か月は精力的に活動していた。
魔法少女の仕事である人助けの他に、自分の魔法を色々試したり、超人的な身体能力で夜の街を駆け抜けたりと、年甲斐もなくはしゃいでいた。

しかしそれが続いたのは数か月間だけだった。
自分の魔法が人助けに役立つことはほとんどない。
はじめの頃は、碌に睡眠時間が取れず死んだ目で働いている元同僚に魔法をかけて回っていたが、それくらいだ。
今日のように、眠れぬ夜に空を見上げている少女という漫画か何かみたいな場面に出くわしでもしない限り、魔法の使い道がなかった。
よってリープ・シープができる魔法少女の活動といえば、夜の見回りやゴミ拾いなどの地味で地道なものだけだった。



最大の理由は、魔法少女が基本無報酬のボランティアという点だ。
いくら人助けをしたところで魔法の国から給料が出ることはなく、不満があるならば辞めればいいというのが魔法の国のスタンスである。
これでは以前のブラック企業よりもブラックだ。
魔法の国から給与を貰っている者もいるが、それは貴重な魔法や能力を持っているごく一部の魔法少女だけだ。

なんとか自分もそういった存在になろうと試みているが、コネがあるわけでもなく、成果は芳しくなかった。
魔法の眠りの回復効果を売りにしようとしたが、あくまで自然治癒力の強化であり、回復専門の魔法と比べると時間がかかる。
魔法少女の回復能力と合わせれば、瀕死レベルの怪我でも治すことができるらしいが、数日間行動不能になるという欠点がある。

眠らせる魔法を戦闘に生かすにも、戦闘が得意な魔法少女を眠らせる間に自分が何回叩きのめされるかわからない。

そういった訳で、羽村羏はアルバイトで生活費を稼ぎながら、魔法少女リープ・シープとして最低限の人助けをしている。
魔法少女の力を手放すのは惜しく、この生活をだらだらと続けていたが、そろそろ決断をするべきだろう。



───────



ふと、道路の向こうを見ると、何者かが猛スピードでこちらへ向かってくる。
リープ・シープは眼鏡をかけているが、むしろ視力は魔法少女の平均よりも上だ。
動物モチーフだからかもしれない。

こちらへ向かってくるのは、彼女と同じ魔法少女だった。
青とピンクを基調とした可愛らしいコスチュームに、大きな肩掛け鞄。
最大の特徴はやはりペンギンを模したフードだろう。

ペンギンの魔法少女『ペペン』はスピードを落とし、リープ・シープの手前でくるりと一回転して停止した。

「シープさん!こんばんはー!」

「やあペペン、配達の途中かい?」

「そ!魔法の国からの依頼でね!」

「君の魔法は使い道があって羨ましいよ、今日は僕の魔法も珍しく役に立ったけど」

彼女の固有魔法は滑りやすさを調節する魔法だ。
自身に魔法を使うことで高速で移動することができ、彼女はこれを生かし魔法の国や魔法少女相手の荷物配達をしている。
リープ・シープの目指す職業魔法少女というやつだ。

「そういえば魔法少女辞めちゃうってホント?寂しくなっちゃうなー…」

「就職活動が上手くいかなかったらね、ほら僕もいい歳だし」

「あーあー!ペペンさんはそんな夢のない話聞きたくないぞー!」

耳をふさいでぶんぶんと頭を振るペペンを見て、何かいいコネあったら紹介してよ、とリープ・シープは笑った。

「まあ最後に一仕事できたからね、もう少しだけ魔法少女は続けるよ」

「この前言ってた新人の魔法少女の教育係?」

「ああ、今からその子に会いに行くところだよ」

「それじゃあペペンさんが途中まで送ってあげよう!」

そう言ってペペンはリープ・シープの手を取り、滑り出した。
ペペンに手を引かれるリープ・シープも同じ速度で滑っていく。
どうやら自分の足にも魔法がかかっているようだ。
滑りやすさは常に調節されているらしく、スピードの調節や方向転換もスムーズで快適だった。
離れたものだとコントロールがブレちゃうんですけどねー、と彼女は言う。

「でも、不真面目な僕が教育係になる子はちょっとかわいそうかもね」

「そんなこと言って、結構親身になったりするんでしょー?シープさん根は真面目だもの」

「…さあ、どうかな?」



───────



ペペンと別れたリープ・シープは、待ち合わせ場所のビルの屋上へ向かう。
人目につかないビルの屋上は魔法少女の待ち合わせ場所として最適だ。
相手はすでに屋上に来ており、不安そうに辺りを見回していた。

緑色のローブに木製の杖と、魔法少女というよりは魔法使いといった感じだが、スーツ姿の自分よりはずっと魔法少女らしい。
そして奇遇にも、彼女の頭部にも獣の耳が揺れていた。あれは鹿だろうか。

「君が新人の魔法少女かい?僕はリープ・シープ、よろしくね」

「え、えっと、ドルイド・ミステールと申します、よろしくお願いします」

新人の魔法少女『ドルイド・ミステール』は礼儀正しく、大人しい子だった。
問題児ではなさそうで、一安心といったところか。

ただ、魔法少女に求める理想が少し高すぎるように感じた。
無償の人助けが苦ではないとしても、魔法の国は派閥やら部門やらの対立が激しいし、能力を悪用する魔法少女も少なからずいる。

そういった現実も教えていくべきだろう。
それよりも新人に示しを付けるため、これからは見回りの日を増やすことにしようか。

やはりペペンの言う通りだったようだ。
まあ、最後に後輩を立派な魔法少女に育てるのも悪くない。



迷える羊の魔法少女に、ひとつ目標ができた。



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