img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:クー・フェイ ムーンドロップ


泣きそうな顔で――事実泣いているのかもしれない。クー・フェイに興味はなかったが――ムーンドロップは、クー・フェイを見つめた。

「な、んで……どうして、っ……!」
「どうして? 愚問すぎますね……あなたは私の正体を知った。それでもう十分です」


クー・フェイ。ムーンドロップの先輩の、黒スーツ姿の麗人の魔法少女。
紳士淑女を体現したような、その立ち振る舞いに、ムーンドロップは密かに憧れていた。
それが、どうして。

「どうして…暴力団の肩を担いで、犯罪、なんて…!?」
「私に言わせれば、魔法少女の力を正義にしか使わない方がどうかしています。
魔法少女の力は、人間を凌駕している。それを上手く使えば社会で成功することなど造作もない」
「紳士、淑女に…憧れてるって、だから私も紳士淑女として振る舞うって…」
「それはもう過去の話です。
今の私は…人より優れた才能を持つ魔法少女として、この力で成功を掴む。
そのために…あなたには、死んで頂く」


クー・フェイは、それだけ言ってステッキを構えた。
ただのステッキではない。魔法少女としてのコスチュームの一つであるステッキは、全力で突けば魔法少女の身体を貫くくらいはできる。
これでムーンドロップを貫き、秘密を知る魔法少女を抹消する。
ムーンドロップの死の事実はクー・フェイの魔法で誤魔化し、事故死という扱いにでもすればよい。
その筈、だった。

「…が、頑張れ、頑張れっ、紳士なクー・フェイ!」
「…う、ぐ…!?」

ムーンドロップの挙げた声。
それと同時に身体を貫く唐突な不快感に、クー・フェイは足を止めた。
胸の中が掻き毟られるような気分。顔を何かが伝う。指ですくってみればそれは涙だった。
これはなんだ。魔法か。
近くに人影はないし、魔法少女の姿も目の前の相手以外ない。
ならば。
そこで、「何が起きているのか」に思い当たって、クー・フェイは声を――半ば悲鳴を――上げていた。

「や、やめなさい!」


ムーンドロップは、そんな悲鳴のような声を聞きながら、自らの魔法を使い続けた。
ムーンドロップの魔法は、「元気の出る魔法をつかえるよ」だ。
ならば、今のクー・フェイに魔法を使えば。元のクー・フェイの、「紳士淑女への憧れ」を活性化させ、悪事を行う前の性格へと戻すことができるのではないか?
本当にそれが可能かどうか、ムーンドロップにはわからない。
だが、クー・フェイの先ほどの口ぶりでは、「昔はきちんと紳士淑女に憧れ、愛していた」と思えた。ならば、上手く行くのを祈るしかない。
ムーンドロップは信じている。
あの日のクー・フェイの言葉が、嘘ではないことを!

「頑張れ、頑張れ、ファイト!」
「やめろ…やめて、やめて…」

悲痛な声。
けれど、その真意は、ムーンドロップにはわからない。クー・フェイの魔法はそういう魔法だ。
だから、結果が出るまで続けるしかない。
そして。その「結果」は、思わぬ形でやってきた。


「……え?」

どすっ、という鈍い音。
それで、赤い色が散り、ムーンドロップの応援が止まった。
ムーンドロップが目を見開き、胸を貫かれた魔法少女が地面へと倒れる。

「な、んで…?」

そう言うムーンドロップの目の前。
自らの胸を、ステッキで貫いたクー・フェイが、倒れ伏している。
うわ言のように、麗人の口が、何事か呟いた。
ムーンドロップには知る由もない。
死の間際のクー・フェイがうわ言のように「ごめんね、おばあちゃん、ごめんね」と繰り返していたことも、彼女が、とうに限界の心を自らの魔法で誤魔化していたことも。
応援されてかつての心を呼び起こされた紳士淑女に憧れた少女は、自らの罪の大きさに耐え切れずに死を選び、何も語ることはないのだから。

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