img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

これは魔法少女ネクロノミ子、本名藤 有里亜(ふじ ありあ)がまだ生きていたころのお話。

ネクロノミ子が魔法少女になったのは数年前のことだ。
突然魔法の才能があるとスカウトされ、わけもわからないまま成り行きで魔法少女になってしまった。
当初は困惑と、その後は後悔しかなかったが、だんだんと魔法少女に愛着もわいてきた。
そんなネクロノミ子の魔法は死んだ魔法少女の魔法を固有アイテムの禍々しい魔導書に記録し、
そのページを開くことでネクロノミ子もその魔法を使えるようになるというものだ。
死にさえすればどんな魔法少女の魔法も記録されるが、開くページを頭に思い浮かべないと開けない。
つまり、魔法少女が死ねば死ぬほど――もっと言えば、近くで死ねば死ぬほど強くなる魔法である。

そう、自分の手で他の魔法少女を殺して回るのが一番手っ取り早い強化だ。
しかし、こんな魔法を持ちながらもネクロノミ子は悪に堕ちることがなかった。
生来の性格ゆえか、それとも『死の受け皿』という魔法の性質ゆえか。正確な所は定かではないが……
ともかくネクロノミ子は「殺すことで記録する」という手段を遂に選ばなかった。

……実のところ、ネクロノミ子は自分の魔法が嫌いだった。
最初は便利な魔法と思っていたのだが、魔法少女として活動していくうちに自分の魔法を忌まわしいと感じるようになっていった。
なぜか。
ネクロノミ子が自分で魔法少女を殺さないということは、彼女の魔法の性質はこうも言い換えられる。
『味方が死ねば死ぬほど強くなる魔法』『死に行く仲間の意志と力を継ぐ魔法』。
……彼女が嫌っているのはこの部分だ。つまり、ネクロノミ子の仲間になった魔法少女は、
正義感溢れる魔法少女はみんな自分の命を粗末に扱う。
自分の命を使って強敵の弱点を見出そうとし、ネクロノミ子の危機を身を挺して守り、悪の魔法少女と刺し違えようとし、か弱い魔法少女の為に犠牲になろうとする。
そしてみんなネクロノミ子に後を任せて先に逝ってしまうのだ。

「どうして……! どうして私なんかの為に!」
「ごめんねネクロノミ子ちゃん……私、もうダメみたい。どうか、私の分まで……」
「何バカなこと言ってんデスか! 諦めないでください確か私の魔法に傷を治すやつが――」
「ううん、いいの。私がいてもあの魔法少女には勝てない。だからネクロノミ子ちゃん、私の魔法を使って。
私はダメだったけど、ネクロノミ子ちゃんなら大丈夫。それじゃあ、後は任せたわ」
「勝手に任されても困ります! 私二つまでしか同時に魔法使えないんデスよ! なんであなたが死ぬ必要あるんデスか!
……ねぇ! 返事してくださいよ! 起きて! 起きてよ! ねえ!」

……このような会話を、もう両手の指では足りないほどに経験した。
彼女の魔導書にはかつての仲間の名前と魔法がたくさん書かれている。いい子から先にネクロノミ子を残して逝ってしまう。

そんなことから、ネクロノミ子について魔法少女の間でこんな噂が流れていたり、いなかったりする。

「ネクロノミ子という黒くて禍々しい魔法少女の近くにいると必ず死ぬらしい。死神の魔法少女である」と。

心無い魔法少女がネクロノミ子の周りの状況だけを見て流した事実に反する噂――ではない。
実はネクロノミ子本人が流した噂だ。
もう人が死ぬのは――仲間が死ぬのは見たくない。
だったら仲間を作らなければいいんだ――じゃあ、誰も仲間になりたくない人間と思わせなくちゃ。

……しかしそんな健闘も空しく、多くの魔法少女がネクロノミ子の仲間になり、そして悉くがネクロミ子を置いて逝った。
皮肉なことに噂はより盤石になったが、状況は何一つ改善しなかった。

そして遂にネクロノミ子は壊れてしまい、かつての仲間たちのように自分の命を粗末に扱うようになる。
自己犠牲。自死覚悟の特攻。自分の命を脅かす魔法の多用。
まるで死にたいとでも言うかのように、とにかく命を削るような生き方をするようになった。

……そんな活動が祟って、あるいは功を奏して。遂にネクロノミ子は死んでしまった。
痛い。痛い。苦しい。怖い。ああ、だけど――よかった、やっとこれで解放される。
こうして屍を超えさせられる魔法少女ネクロノミ子はようやく安らかに眠ることが――

――できなかった。
ネクロノミ子の魔法は死にさえすればどこのどんな魔法少女の魔法でも記録してしまうというもの。そこに例外はない。
死後に復活しようが、死者の存在をなかったことにしようが、例外なく記録される魔法。
ネクロノミ子本人の魔法ですら、この魔法の例外ではなかったのだ。
確かに藤 有里亜は死んだ。しかし、ネクロノミ子は死ねなかった。自身の魔法によって記録され、ここに史上稀に見る、魔法そのものが正体の魔法少女が誕生することとなった。

……今のネクロノミ子は自身の魔法そのものだ。
魔法そのものである彼女が、自身に記録された魔法を知らないのは矛盾となる。
つまり――死後の彼女は自分にどんな魔法が記録されているのか、死の現場を見なくとも分かるようになった。

『味方が死ぬほど強くなる魔法』。どうやら正しかったらしい。
世界で一番の味方である『自分自身』が死ぬことで、最大級の弱点が帳消しになってしまったのだから。
今日もネクロノミ子は人間の振りをしながら、魔法少女の死を受け止める。

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