img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:ENIGMA クレインダンス ドリクラ ばんばん! ペープル ヤグ(二週目)? 蟹

【水底の想い出】

「しばらく一人で泳いできます」
渚で水遊びを楽しむ彼女たちに一言断りを入れた。
わかったよー、と明るい声の返答を背に私は一人沖の方へと向かう。

先程の声の主は今回の暑気払いを企画したドリクラだ。
魔法少女姿のモチーフに選ぶくらい思い入れも一入なのだろう、夢の道化師を名乗る彼女はこれまでも度々私達を楽しませる提案を出してきた。
今回のように唐突なタイミングで企画が出されることもままあったがそういった巻き込まれることも楽しみの一部としていつも皆集まるのだ。
もちろん、私も例外ではなかった。


上は太陽の眩しい青空、四方は水のみといった沖合まで進んで私はドリクラからもらった競泳風の水着を破かないように装甲の凹凸を少なくした潜水モードに変形させる。
機械で出来た姿とはいえ元々防水機能を備えているのだが、この状態で泳いだことは無かったため自分の体がこういった変形も可能だとはついぞ知らなかった。
まだまだ魔法少女として覚えることは多いらしい。
水中仕様ということでずんぐりとした体形になることも若干心配したが杞憂に終わり、私は水に潜るとスラスター部からジェット水流を発生させ海の底を目指していった。


まだ水は透明度を保って陽の光が差し込んでくる。
私はゆるゆると深度を上げつつ、波打ち際ではしゃぐ皆のことを思い浮かべていた。


魔法の二丁拳銃を操るばんばん!、彼女にはどことなく親近感を覚える。
普段はクールなガンウーマンで魔法少女として悪党を懲らしめている時の彼女は事実カッコいい。
カッコいいのだが予想外のアクシデントに出くわすとたまに素の彼女が見える時がある。先程のスリングショット騒動などがいい例だ。
おそらく素はおっとりとした性格なのだろう。
素が出たと言えば前に私が彼女の拳銃を取り込んでしまった時のことを思い出す。
あの時も素が出るほどに慌てふためいていたが私は謝り皆がなだめ…と落ち着いた後にしばらく私が彼女の拳銃代わりを果たすことで決着となった。
私は二丁目ということで彼女の魔法少女活動に同行していたが、一丁でも巧みに操り悪漢を制圧する拳銃捌きには惚れ惚れしたのを覚えている。

親近感を覚えると言ったのはその性格のことだ。私もサイボーグ系魔法少女の端くれとして変身中は無表情系の性格を装っている。
…はずなのだが、周りから言わせるとどうもちょくちょく表情が顔に出てるらしい。このまま無表情系を貫くかは少々悩みどころかもしれない。


ヤグの楽観的な性格にはお世話になることが多い。この性格のせいか場の空気を破壊しかねない言葉をこぼしてしまうことがあるが
そういった時にいつも取り成してくれるのが彼女だ。大雑把だと本人は言うが彼女のキャラには助けられる。
でなければいつこの組の雰囲気が崩れていたかは分からない。
…もっとも最近は私を含めて慣れてきたのか、皆の間で一連の流れが様式美化してきている感がある。
空気を読まない私、それを取り成すヤグ、毎度のことかと受け入れる皆、既にお馴染みの光景だ。
ある意味私にメタを張ってくれているのが彼女なのだろう。


空気を取り持つと言えばペープルもそうだ。
新聞記者を模した姿の彼女は今日も今日とて張り切ってこの組のメンバーをレンズに収めていた。
たぶんいつも通りこの海水浴も後日に新聞として発行されるのだろう。
新聞は魔法で生み出す物や彼女自身の手によって発行される物等と種類があり、組内で皆が回し読みをする新聞はいつも彼女の手による物だ。
私も愛読者の一人として毎号楽しく読んでいます。
そういえばいつの号だったかメカ系魔法少女というため私とエニーの内部図解というコラムが片隅に載っていた気がする。
私は怖くて読んでいないがしばらくの間妙にキラキラした目や興奮の眼差しを向けられていた。
人がロボアニメやメカアニメを見る時のあの瞳だ。
結局何が書いてあったのか今でも怖くてやっぱり聞けていない。


エニーことENIGMA。
ドリクラの呼び方が浸透してきているのかもっぱらエニーと呼ばれる彼女は、私と同じく魔法少女の中では珍しいメカのスタイルをしている。
だからというワケでもないだろうが割と彼女といる事が多い気がする。
彼女といると時折口に出す自分は人間ではないという言葉は果たして冗談かはたまた…。
私はサイボーグで彼女はアンドロイド、お互いこの線引きだけはハッキリさせているが無表情系をやっている私に比べると彼女の方がよっぽど感情豊かだ。
豊かすぎて毒舌に足を踏み込むことすらある。本当に人間でないとしてもひょっとすると私より人間らしいかもしれない。


そしてドリクラ。
誰というでもないがこのメンバーで何かを楽しむと言った時にはいつも中心に彼女がいる。人を引っ張り明るくさせる、眩しいようなタイプの人間だ。
彼女の夢は魔法少女によるサーカス団だと言うが成程、彼女の性格なら結成すればきっと皆を笑顔にする物になるだろう。
その時は私もこの体に武器ではなく人を楽しませる機械を詰め込んで手伝ってみたい。
今度彼女に何か
今日は来ていないがこの組にはまだ何人か魔法少女がいる、次に機会があるなら全員で集まれば更に楽しくなるだろう。


水はだんだんと重い深緑へ変化していく。


皆のことを考えながら沈んでいくといつしか海中はすっかり暗くなり、水面の煌きも見えない深さまで来ていた。
光と言えば私の体を走るライトブルーのエネルギーラインだけだ。深海魚とはこんな気持ちかと思いながらようやく海の底に足がついた。
私が降り立ったせいで積りに積もった柔らかな泥土がふんわりと舞い上がる。泥はすぐに撹拌され水に紛れてしまった。


きっと光があるはずの水面の方を見上げながら私は一人思う。
詰まる所どうしようもなく私はこの組に集まった皆が好きらしい。
こんな暗く深い海の中でなければ誰でも私の顔が赤くなっているのがわかっただろう。
思い返せばこうして皆と楽しく過ごせている日々が嬉しいのだ。
…もしも、もしも魔法少女同士が争うことになれば、この機械仕掛けの体を皆のために使い潰すことだって厭わない。
それくらい思い切れる友達に巡り合えた。


しばらくの間、冷たく暗い海底で私はあたたかな感傷に浸っていた。
だが、その一時は突如として破られる。



足元が揺れた。すわ地震かと思ったが水の動きから違う事が分かる、それに地面そのものというより足元から何かが突き上げてくるような動きだ。
海底から飛びのくとその原因が姿を現した。

蟹だ。こいつが足元に体を埋めていたのか。
四方八方に突起を帯びた硬い甲羅を背負って、ぎざぎざと鋸歯状のハサミを振り上げている。
一番後ろの足が泳げるように特化しているのはワタリガニの仲間にも似ているだろうか。
だがその大きさが明らかにおかしい、人一人より大きい。いや優に30mを超している?なんだこれは。怪獣映画か。
今の自分自身が魔法少女という非常識の塊であることを棚に上げて、私は目の前に出現した非常識に呆気にとられた。
最初によぎったのは誰か他の魔法少女の魔法によって生み出されたモノという可能性だ。だがこんな所で魔法を使うような物好きが果たしているだろうか。
あとは放射能、廃棄物による環境汚染、突然変異、宇宙アメーバの寄生…etc.etc.
そういった言葉が脳内を支配する。

頭が現実逃避しかけたせいで判断が一瞬遅れた。
胴体がギリギリとハサミで締め上げられる。天然の生物とは思えない。
こんな所まで生身で来る人間がいるはずもないが魔法少女として強化されていなければ軽く真っ二つにされそうな力を誇っている。
私は急いで自由な両の手でハサミの突起を砕いてこじ開けた。その隙に背中からジェット水流を噴出させて脱出する。
このままでは蟹がトラウマになりそうだ。

下を見下ろすと濛々と舞う泥の中にその異様が見て取れた。
泳ぐために変形したであろう一対を除いた残り三対の脚を巧みに動かしながら、ゆっくりと二つのハサミを開閉させて威嚇している。
先程の私の抵抗のせいだろう、明らかに怒っている様子だ。蟹のくせに。
蟹の目がどれ程の光を知覚できるかは知らないがあれはどう見ても私のエネルギーラインの発光に反応している。
今の私にこいつに対抗できる策は無い、一か八かだが振り切るという考えが浮かんだ。


帰ろう、大切な皆がいるあそこへ。
皆の顔を思い浮かべながら思考を前向きに切り替え、私は最大出力で太陽の光煌く水面を目指した。














魔法少女並みの速度で泳ぐ蟹のバケモノに追いかけられながら。

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