img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:コットン・アイスキャンディ マガツヒ


 意識が混濁している。

 凛に介錯してもらってどのくらい経った。




 どのくらい経った……?

 普通、死んだらそれでお終いだ。

 なのに、私の意識は確かにここにある。



 瞳をゆっくりと開けていく。やや、瞼が重い。どうやらここは水の中のようで。

 体の自由は効かない。水中ならばそれもそうかと自然と納得してしまう。


「あれ、意識が戻ったんだ」


 遠くで声が聞こえる。

 幼い子どものような、戯けた声。


「百合には伝えなくてもいい、って言われてるからいいかな」


 今一つ状況が掴めてこない。何がどうなってるの。

 視界が明らかになるにつれ、目の前の状況が見えてくる。

 私の目の前には横たわった……おそらく死体だろうか、少女の体が横たわっている。そして、それはとても見慣れた服装をしていた。



 あれは、私のだ。


「さて、何がわからないのかな? まぁ大体何にもわかってなさそうだけど」


 私の視界の端で世話しなく、犬神の面を被った小動物みたいな生き物が動き回っている。

 大きさもおよそそのくらいだ。


「あーそっか、こっち繋いであげないと喋れもしないんだっけ」


 繋ぐ……?

 私の頭の中に疑問符が浮かぶ。



 意識が一瞬飛んだ。



 戻ってきた。

 体の感覚がある。さっきまでの、水の中にいるような感じじゃない。

 手もある。動く。手のひらをグーパーさせる。

 さっきまでのは何だったんだ、と思い頬に手を当てようとする。



 空を切る。

 靄を掴むようで。


「うん、とりあえず状況はわかってきたんじゃないかな」


 またあの声がする。見るとさっきの犬神がいた。

 いや、その前に。

 というか、そいつの上にあるそれ。



 それは私の首だった。



 首の切断面らしきあたりから黒い靄がもくもくと漂っている。

 何となくだが、わかった。

 さっきまでの意識はこの生首から、そして今はこっちの体から。

 理屈はわからないが理解はできる。そういうものだと納得できる。


「意外と飲み込みが早いんだね、さすが」


 犬神はあっけらかんと言い放つ。

 くるくると宙を舞い、世話しなく辺りを飛び回る。


「ボクの名前はマガツヒ、さて答え合わせの説明でも始めようか」








 私の予測はおおよそ合っていた。

 あの犬神、マガツヒとかいうマスコットは、どういうわけか私の死体を漁ってきたらしく、さらには降霊術まで使って私を蘇らせたらしい。

 そこにどんな意図があったかまでは話さなかった。

 事実を淡々と話す彼は、どことなく他人ごとのように見えた。

 私の首だけはこちらで確保しておくが、それ以外は自由にしていいとも言っていた。

 感覚は生きてる時と似たような感じだ。ただ、頭に触れる時だけちょっと、ちょっとどころか違和感半端ないが。



 私が向かった先は自宅だった。

 生きて顔を合わせることはできないかもしれない。それでも、私が死んだ後の家族はどうなっているか気になった。





 そこにあった場所は、もうなかった。



 父も、母も、既に亡くなっていた。

 どちらも自殺だったらしい。

 母は私に対しては過保護で自殺したのにも納得がいった。堅物な父がその後を追うように死んだ、というのは思いもしなかった。

 …………兄はどこへ行った?





 何とか、あれこれと情報を集める。体の使い方にも慣れてきた。

 頭だけは少々違和感がある。



 両親が亡くなった後、兄はまだ実家に住んでいたらしい。

 たった一人、あの家で。



 兄はあまり他人に興味を持つ性格ではなかった。

 私のことをどう思っていたかはわからない。ただ諸々の動作から、私に対して少なからず気を使っているのはわかっていた。

 兄はあの家で孤立していた。

 自慢げに習い事の成果を出す私、満面の笑みの母、少し柔らかい顔の父。

 そこに兄はいない。母は気を遣わなくていいと言う。それでも話しかけた。

 次第に母は、私が兄に関わると何も言わず穏やかに微笑むだけになった。

 兄が母に話しかけてるのは見たことがある。母が兄と会話をしていたところを見たのは一度としてなかった。

 とても不憫に思った。

 自然と距離ができていって、最後には兄はいないも同然となった。以降、ろくに話した記憶がない。

 ただ、それでも兄は誤った行動だけは取らなかった。

 人を思いやり、感情には出さないまでも行動に移せる模範的な人間だった。



 私は兄を尊敬していた。



 その兄の情報だけがない。



 人に関わらずに情報収集を行う、というのには限界がある。

 しかしデュラハン状態の私では、一般人相手、魔法少女相手、どちらにせよ会話すらままならない。

 一応、私が話すことができる人物、いやマスコットが一匹いる。駄目もとで聞いてみた。






「ああ、彼なら殺されたよ」






 頭の中が冷たくなってきた。



 知らなかった、兄が魔法少女になっていたなんて。

 知らなかった、人助けを熱心に行う正しい魔法少女だったなんて。

 知らなかった、あるときを境に行方不明になり、郊外の土地から『兄だった』ものらしき骨粉が見つけられたなんて。



 この事実を知っているのは自分だけだとマガツヒは言う。

 誰にも話していない、トップシークレットだとも。

 胡散臭いコレの発言をどこまで信用していいかわからない。

 それでも。


「一人に、なっちゃったな……」


 自然と口に出た言葉だった。





 もう、私を縛り付けるものは何もなくなった。

 未練はない。

 ただ、やることはある。

 私はアレに向き直り、こう聞いた。


「彼と関わりがあった魔法少女を、全員、とりあえず並べて」


「敵対関係……はないと思う、あの人は敵を作るようなタイプじゃない」


「あるとすれば、交友関係」


「関係者全員、とりあえず名前羅列してってよ」


「多分その中に犯人はいる」


「一人一人精査するのは面倒だから全員でいいよね、ターゲットは全員」


「あの人が間違っているはずはない」


「よりにもよって恩を仇で返すなんて」





「選択を、誤ったな」




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