最終更新:ID:5JFVxLGp5A 2017年05月04日(木) 07:27:20履歴
登場キャラクター:コットン・アイスキャンディ マガツヒ
意識が混濁している。
凛に介錯してもらってどのくらい経った。
どのくらい経った……?
普通、死んだらそれでお終いだ。
なのに、私の意識は確かにここにある。
瞳をゆっくりと開けていく。やや、瞼が重い。どうやらここは水の中のようで。
体の自由は効かない。水中ならばそれもそうかと自然と納得してしまう。
「あれ、意識が戻ったんだ」
遠くで声が聞こえる。
幼い子どものような、戯けた声。
「百合には伝えなくてもいい、って言われてるからいいかな」
今一つ状況が掴めてこない。何がどうなってるの。
視界が明らかになるにつれ、目の前の状況が見えてくる。
私の目の前には横たわった……おそらく死体だろうか、少女の体が横たわっている。そして、それはとても見慣れた服装をしていた。
あれは、私のだ。
「さて、何がわからないのかな? まぁ大体何にもわかってなさそうだけど」
私の視界の端で世話しなく、犬神の面を被った小動物みたいな生き物が動き回っている。
大きさもおよそそのくらいだ。
「あーそっか、こっち繋いであげないと喋れもしないんだっけ」
繋ぐ……?
私の頭の中に疑問符が浮かぶ。
意識が一瞬飛んだ。
戻ってきた。
体の感覚がある。さっきまでの、水の中にいるような感じじゃない。
手もある。動く。手のひらをグーパーさせる。
さっきまでのは何だったんだ、と思い頬に手を当てようとする。
空を切る。
靄を掴むようで。
「うん、とりあえず状況はわかってきたんじゃないかな」
またあの声がする。見るとさっきの犬神がいた。
いや、その前に。
というか、そいつの上にあるそれ。
それは私の首だった。
首の切断面らしきあたりから黒い靄がもくもくと漂っている。
何となくだが、わかった。
さっきまでの意識はこの生首から、そして今はこっちの体から。
理屈はわからないが理解はできる。そういうものだと納得できる。
「意外と飲み込みが早いんだね、さすが」
犬神はあっけらかんと言い放つ。
くるくると宙を舞い、世話しなく辺りを飛び回る。
「ボクの名前はマガツヒ、さて答え合わせの説明でも始めようか」
私の予測はおおよそ合っていた。
あの犬神、マガツヒとかいうマスコットは、どういうわけか私の死体を漁ってきたらしく、さらには降霊術まで使って私を蘇らせたらしい。
そこにどんな意図があったかまでは話さなかった。
事実を淡々と話す彼は、どことなく他人ごとのように見えた。
私の首だけはこちらで確保しておくが、それ以外は自由にしていいとも言っていた。
感覚は生きてる時と似たような感じだ。ただ、頭に触れる時だけちょっと、ちょっとどころか違和感半端ないが。
私が向かった先は自宅だった。
生きて顔を合わせることはできないかもしれない。それでも、私が死んだ後の家族はどうなっているか気になった。
そこにあった場所は、もうなかった。
父も、母も、既に亡くなっていた。
どちらも自殺だったらしい。
母は私に対しては過保護で自殺したのにも納得がいった。堅物な父がその後を追うように死んだ、というのは思いもしなかった。
…………兄はどこへ行った?
何とか、あれこれと情報を集める。体の使い方にも慣れてきた。
頭だけは少々違和感がある。
両親が亡くなった後、兄はまだ実家に住んでいたらしい。
たった一人、あの家で。
兄はあまり他人に興味を持つ性格ではなかった。
私のことをどう思っていたかはわからない。ただ諸々の動作から、私に対して少なからず気を使っているのはわかっていた。
兄はあの家で孤立していた。
自慢げに習い事の成果を出す私、満面の笑みの母、少し柔らかい顔の父。
そこに兄はいない。母は気を遣わなくていいと言う。それでも話しかけた。
次第に母は、私が兄に関わると何も言わず穏やかに微笑むだけになった。
兄が母に話しかけてるのは見たことがある。母が兄と会話をしていたところを見たのは一度としてなかった。
とても不憫に思った。
自然と距離ができていって、最後には兄はいないも同然となった。以降、ろくに話した記憶がない。
ただ、それでも兄は誤った行動だけは取らなかった。
人を思いやり、感情には出さないまでも行動に移せる模範的な人間だった。
私は兄を尊敬していた。
その兄の情報だけがない。
人に関わらずに情報収集を行う、というのには限界がある。
しかしデュラハン状態の私では、一般人相手、魔法少女相手、どちらにせよ会話すらままならない。
一応、私が話すことができる人物、いやマスコットが一匹いる。駄目もとで聞いてみた。
「ああ、彼なら殺されたよ」
頭の中が冷たくなってきた。
知らなかった、兄が魔法少女になっていたなんて。
知らなかった、人助けを熱心に行う正しい魔法少女だったなんて。
知らなかった、あるときを境に行方不明になり、郊外の土地から『兄だった』ものらしき骨粉が見つけられたなんて。
この事実を知っているのは自分だけだとマガツヒは言う。
誰にも話していない、トップシークレットだとも。
胡散臭いコレの発言をどこまで信用していいかわからない。
それでも。
「一人に、なっちゃったな……」
自然と口に出た言葉だった。
もう、私を縛り付けるものは何もなくなった。
未練はない。
ただ、やることはある。
私はアレに向き直り、こう聞いた。
「彼と関わりがあった魔法少女を、全員、とりあえず並べて」
「敵対関係……はないと思う、あの人は敵を作るようなタイプじゃない」
「あるとすれば、交友関係」
「関係者全員、とりあえず名前羅列してってよ」
「多分その中に犯人はいる」
「一人一人精査するのは面倒だから全員でいいよね、ターゲットは全員」
「あの人が間違っているはずはない」
「よりにもよって恩を仇で返すなんて」
「選択を、誤ったな」
意識が混濁している。
凛に介錯してもらってどのくらい経った。
どのくらい経った……?
普通、死んだらそれでお終いだ。
なのに、私の意識は確かにここにある。
瞳をゆっくりと開けていく。やや、瞼が重い。どうやらここは水の中のようで。
体の自由は効かない。水中ならばそれもそうかと自然と納得してしまう。
「あれ、意識が戻ったんだ」
遠くで声が聞こえる。
幼い子どものような、戯けた声。
「百合には伝えなくてもいい、って言われてるからいいかな」
今一つ状況が掴めてこない。何がどうなってるの。
視界が明らかになるにつれ、目の前の状況が見えてくる。
私の目の前には横たわった……おそらく死体だろうか、少女の体が横たわっている。そして、それはとても見慣れた服装をしていた。
あれは、私のだ。
「さて、何がわからないのかな? まぁ大体何にもわかってなさそうだけど」
私の視界の端で世話しなく、犬神の面を被った小動物みたいな生き物が動き回っている。
大きさもおよそそのくらいだ。
「あーそっか、こっち繋いであげないと喋れもしないんだっけ」
繋ぐ……?
私の頭の中に疑問符が浮かぶ。
意識が一瞬飛んだ。
戻ってきた。
体の感覚がある。さっきまでの、水の中にいるような感じじゃない。
手もある。動く。手のひらをグーパーさせる。
さっきまでのは何だったんだ、と思い頬に手を当てようとする。
空を切る。
靄を掴むようで。
「うん、とりあえず状況はわかってきたんじゃないかな」
またあの声がする。見るとさっきの犬神がいた。
いや、その前に。
というか、そいつの上にあるそれ。
それは私の首だった。
首の切断面らしきあたりから黒い靄がもくもくと漂っている。
何となくだが、わかった。
さっきまでの意識はこの生首から、そして今はこっちの体から。
理屈はわからないが理解はできる。そういうものだと納得できる。
「意外と飲み込みが早いんだね、さすが」
犬神はあっけらかんと言い放つ。
くるくると宙を舞い、世話しなく辺りを飛び回る。
「ボクの名前はマガツヒ、さて答え合わせの説明でも始めようか」
私の予測はおおよそ合っていた。
あの犬神、マガツヒとかいうマスコットは、どういうわけか私の死体を漁ってきたらしく、さらには降霊術まで使って私を蘇らせたらしい。
そこにどんな意図があったかまでは話さなかった。
事実を淡々と話す彼は、どことなく他人ごとのように見えた。
私の首だけはこちらで確保しておくが、それ以外は自由にしていいとも言っていた。
感覚は生きてる時と似たような感じだ。ただ、頭に触れる時だけちょっと、ちょっとどころか違和感半端ないが。
私が向かった先は自宅だった。
生きて顔を合わせることはできないかもしれない。それでも、私が死んだ後の家族はどうなっているか気になった。
そこにあった場所は、もうなかった。
父も、母も、既に亡くなっていた。
どちらも自殺だったらしい。
母は私に対しては過保護で自殺したのにも納得がいった。堅物な父がその後を追うように死んだ、というのは思いもしなかった。
…………兄はどこへ行った?
何とか、あれこれと情報を集める。体の使い方にも慣れてきた。
頭だけは少々違和感がある。
両親が亡くなった後、兄はまだ実家に住んでいたらしい。
たった一人、あの家で。
兄はあまり他人に興味を持つ性格ではなかった。
私のことをどう思っていたかはわからない。ただ諸々の動作から、私に対して少なからず気を使っているのはわかっていた。
兄はあの家で孤立していた。
自慢げに習い事の成果を出す私、満面の笑みの母、少し柔らかい顔の父。
そこに兄はいない。母は気を遣わなくていいと言う。それでも話しかけた。
次第に母は、私が兄に関わると何も言わず穏やかに微笑むだけになった。
兄が母に話しかけてるのは見たことがある。母が兄と会話をしていたところを見たのは一度としてなかった。
とても不憫に思った。
自然と距離ができていって、最後には兄はいないも同然となった。以降、ろくに話した記憶がない。
ただ、それでも兄は誤った行動だけは取らなかった。
人を思いやり、感情には出さないまでも行動に移せる模範的な人間だった。
私は兄を尊敬していた。
その兄の情報だけがない。
人に関わらずに情報収集を行う、というのには限界がある。
しかしデュラハン状態の私では、一般人相手、魔法少女相手、どちらにせよ会話すらままならない。
一応、私が話すことができる人物、いやマスコットが一匹いる。駄目もとで聞いてみた。
「ああ、彼なら殺されたよ」
頭の中が冷たくなってきた。
知らなかった、兄が魔法少女になっていたなんて。
知らなかった、人助けを熱心に行う正しい魔法少女だったなんて。
知らなかった、あるときを境に行方不明になり、郊外の土地から『兄だった』ものらしき骨粉が見つけられたなんて。
この事実を知っているのは自分だけだとマガツヒは言う。
誰にも話していない、トップシークレットだとも。
胡散臭いコレの発言をどこまで信用していいかわからない。
それでも。
「一人に、なっちゃったな……」
自然と口に出た言葉だった。
もう、私を縛り付けるものは何もなくなった。
未練はない。
ただ、やることはある。
私はアレに向き直り、こう聞いた。
「彼と関わりがあった魔法少女を、全員、とりあえず並べて」
「敵対関係……はないと思う、あの人は敵を作るようなタイプじゃない」
「あるとすれば、交友関係」
「関係者全員、とりあえず名前羅列してってよ」
「多分その中に犯人はいる」
「一人一人精査するのは面倒だから全員でいいよね、ターゲットは全員」
「あの人が間違っているはずはない」
「よりにもよって恩を仇で返すなんて」
「選択を、誤ったな」
コメントをかく