img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:オーバーワーカーBLACK モブ ソード・オブ・ケイシー




 彼女の名前はモブという。

 最も正しい名前ではなく、そう呼ばれ続けて自然とモブで定着してしまっていた。

 腕に自信はある方だ。しかし、他の魔法少女との戦闘では実力を発揮しきれない、という不憫な女性であった。



 今、彼女の目の前で二人の魔法少女が向かい合っている。

 互いに長身の女性、という出で立ちだ。そして、片や両の手に大剣を握り、片や巨大な機械の腕で拳を握っている。

 片方は先程まで共に救助活動をしていた、オーバーワーカーBLACK。自分と同じく他の魔法少女との戦闘にて実力を発揮しきれない、とモブは聞いていた。

 もう片方は、ついさっき空から急襲してきた戦闘狂の魔法少女、ソード・オブ・ケイシー。この街でもトップクラスの危険人物だと人事部の上司から聞いていた。


「私は」


 ケイシーが語り出す。


「戦うことが好きなんだ」


 静かに、そして微かな熱を込めるようにして、言葉を紡いでいく。


「相手は強者であろうが弱者であろうが関係なかった……強者と戦う時はスリルを味わえる、弱者と戦う時はどう抗うかを愉しめる……」


 対峙しているブラックは、それを黙って聞いていた。


「オーバーワーカーBLACK、貴様は強者だと聞き及んでいる……そして、人間相手だと力を発揮できないともな……」


「まあね」


 ブラックが軽く返す。モブは、その表情に感情を見出すことができなかった。


「一つ聞きたい……私は、果たして貴様にとっての強者たり得るかな……?」


「さあ、わからないね……ただ一つ言えることがある」


 遠巻きに見てるモブは、空気がひりつくのを感じた。いつも疲れ切っている表情で人助けをするブラックと、目の前の人物がつながらない。


「大丈夫……君は、人間ではない」


「有難いッ! さぁ、始めようかッ!!!」


 言うが早いかケイシーは跳んだ。両の剣を振りかぶり、同時に振り下ろした。

 カン、と金属同士がぶつかる音が響いた。ブラックの右手に剣が二つ、まとめられている。ケイシーの自重を乗せた一撃が、あっさり受けられた。

 ぶん、とブラックが手を右に払う。ケイシーの体が払われた方向へ吹き飛んでいく。飛びながらも空中で体勢を立て直し、左に持っていた剣をブラックに向けて放った。

 一直線にブラックめがけて飛んでくる大剣、しかし彼女はそれを避けようともしなかった。

 突如剣が消える。

 右手を前に出しているブラック。相対しているケイシーは彼女が何をしたのかわからないようだった。

 モブは見覚えがあった。火災現場に入った時、アレで火を消しているのを見ている。光粒子レーザーで剣の投擲を無効化したのだ。

 少し、ブラックが前傾になる。背中から無数の副腕が起動される。

 その数は途方もなく、それはまるで彼女を幹として無数の枝が生えているか如く、ケイシーに向かっていった。


「……ッ、成程……そう来るかッ!!」


 ケイシーの四方八方から触手が這うが如く黒い副腕が襲う。叩き潰すように、捻り潰すように、握りつぶすように、抉り削るように、切り離すように、その全てがまるで意識を持っているように襲いかかる。

 そしてケイシーは、いつの間にか右手に新たに大剣を持ち直して両手剣の状態になっており、力任せに剣を振るう。

 その一撃一撃はあまりに重く、副腕を斬り払う、というよりも薙ぎ払うという動作の方が正しかった。


「やべぇよアイツ……笑ってやがる……」


 様子を見ていたモブがぼそりとつぶやいた。明らかにケイシーは劣勢だ、なのにその状況を愉しんでいるようにしか見えない。

 かといって、自分があの状況へ飛び込んでいく、なんて大それたことなど出来はしない。無理だ。あの二人の力量と自分では、まるで釣り合っていないのだ。

 だがここから逃げ出そうとすれば、巻き添えでケイシーに斬られかねない。動くことすら危険だ。モブは隠れていることしかできなかった。



 五分ほどが経った。


 未だに無数の攻防が繰り広げられている。低い金属音が無数に響き渡っていた。


「流石に飽きたな……いや、それならば……」


 大剣を振り回しながらケイシーが呟いた。そして、大きく場を切り開いて後方へ跳んだ。


「Beware the Jabberwock, my son. The jaws that bite, the claws that catch.
<我が子よ、ジャバウォックに用心あれ。喰らいつく顎、引き掴む鈎爪。>」


 空気が再び変わる。


「And as in uffish thought he stood, The Jabberwock, with eyes of flame,
<かくて暴なる想いに立ち止まりしその折、両の眼を炯々と燃やしたるジャバウォック、>」


 それは、長い時のように感じられた。


「Came whiffling through the tulgey wood, And burbled as it came.
<そよそよとタルジイの森移ろい抜けて、怒めきずりつつもそこに迫り来たらん。>」


 しかし、一瞬のようにも感じられた。


「Beware the Jabberwock, my son.
<我が子よ、ジャバウォックに用心あれ。>」


 穏やかな声で語り終えるケイシー、そして彼女を追うように無数の腕が向かっていった。

 モブは目を疑った。


 ケイシーの腰、シャツの下から無数に触手のような腕が生えていた。


 機械の腕、生々しい生命を帯びた腕、その二つがぶつかり合う。

 物言わぬ無骨な機械に潰されるぐちゃっ、とした音、雄叫びを上げるような力によって解体されるガシャ、とした音が混ざり合う。

 完全に五分、少なくともモブもケイシーにもそう見えただろう。


 ケイシーが跳んだ。肉腫の触手は展開したまま、ブラック本体を叩くために。

 もはや剣は握っていなかった。代わりに、拳を振り上げた。

 少しずつ巨大化していくそれは、およそビル一つ分はありそうな大きさの、あまりにも巨大な右手の握り拳となっていた。ブラックの両手の兵装である巨大な手が霞むほどの大きさだった。



 ブラックが左手を宙に向ける。

 そして手を開く、それだけの動作だった。



 無数のレーザーがケイシーの体中を貫いた。ケイシーの振り上げた拳が完全に消滅している。そして、本体も無数の穴が開いた状態となっていた。



 沈黙。

 互いに動かない。


「オイオイオイ……マジかよ、やったのかアイツ……」


 勝負は決した。少なくとも、モブはそう思った。


 そんな楽観的な考えとは裏腹に、ケイシーだったものの残りが激しく膨張を始めた。慌てふためくモブを横目に見ながら、ブラックは冷めた気分だった。

 ああ、まだ続くのか、面倒だな、と。

 そう思いながら彼女は、また左手をケイシーに向けた。



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