img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:オーバーワーカーBLACK モブ ソード・オブ・ケイシー ランス・オブ・リューディア





 物々しくぐじゅぐじゅと変形をしていくケイシー。獣の形相をわずかに残しながらも肉塊と化していく。

 そこに、かつての麗人の面影は残っていなかった。


「GR■■■■RRRRR■■■■■RRRRR■■■AAAAA■■AAA■■■■AA!!!!!!!!!!!!!!!」


「な、なぁ……あたし…………帰っていい…………ってか、帰れるのか……?」


「多分逃げるなら今だと思う、逃げるんなら言って、逃がすよ」


「…………いや、逃げないよ……な、何とかなるんだよな…………?」


「なるよ、気にしないでいい」


 言い切るブラック。

 彼女らの目の前の風景は異様な気配を放っている。



 不意に、巨大な塊が二人を襲う。

 副腕でモブを庇いながら片手で肉片を払い続けるブラック。わずかだが防戦に回ってしまっている。


「ど、どうしよう……あたし邪魔にしか」


「なってないよ、まだ大丈夫だから」


 実際、ブラックはモブに対して気を配ってなどいない。副腕を使った自動防御システムが作動しているためである。



 ふと、肉塊の山から熱光線が放たれる。

 血のように真っ赤な色をした光線がブラックを襲う。

 体液だ。

 血を高熱に煮沸させ、それを敵目がけ一直線に射出する。

 シンプルだが破壊力はとんでもない。


「意趣返し、かね」


 無数のレーザーをケイシーに放っていた図、その立場が逆になっているようだった。

 捌くブラック、大きく動きはせず最低限の労力で相手からの攻撃を受け流している。



 視界の隅に、肉塊が跳び上がるのを見た。

 そしてブラック目がけ急降下する。

 右手一本で軽く受け止めた。

 限界は、彼女が立っている地面の方が早かった。


「きゃっ!」


 ブラックの後ろの地面から砂塵が舞う。わずかに声を漏らすモブ。

 地割れが起きている。

 危うくモブが隙間に落ちそうになるも、ブラックの副腕に助けられる。


「あ、ありが」


「いい、とりあえず動かないで」


 二つの副腕はモブを受け止め守っている。

 残り数百本の副腕を羽のように展開し、宙を舞うブラック。肉塊が飛び逃げるブラックとモブを追うように伸びていく。

 それを振り払い引きちぎるように拳を振るう。

 無数の攻防が繰り広げられる。

 覆い取り込もうとするケイシーと強大な拳を振り回すブラック、どちらも一切攻撃の手を緩めない。



 その最中、後方から近づいてくる者がいた。




「今すぐ戦闘行為をやめなさい! 他の人の迷惑でしょう!」




 気づけばブラックの後ろにうさ耳姿の魔法少女が立っている。

 ブラック自身はそこまで驚いた様子もなく、軽く首を向ける。


「そう! あなたですよ、手が大きな方!」


「えっ」


「あんたは……リューディア、だったか」


 ランス・オブ・リューディアは、ブラックに向け話しかける。そして、制すようにブラックの胸に手を当て、どうどう、と言わんばかりに押さえつける。



 どういうわけかケイシーはその場から動かない。それどころか、少しずつ元の肉体に戻ってきている。


「さあ、戦闘は終わり! 迷惑がかかっているんですよ!」


「…………」


「いや、今はそれどころじゃ……」


 モブがそう言おうとした瞬間だった。










 ぱん、と。



 ブラックの体が破裂した。









「ひっ…………なっ…………何……?」


 予想だにしない状況。

 モブがわずかにすら声も上げられない。

 リューディアは貼り付いた笑みを浮かべている。



 呆然として、こちらを見ているケイシー。その表情には怒りが見える。

 ケイシーは感情を持たない。だのに、怒りを露わにし、隠しもしなかった。


「きッ……貴様ァァアアアァァァァアアアァア!!!!!!!!!!」





『業務時間における損害となります。労災保険が適用されます。』


 無機質な合成音声が流れる。


『システムを再起動します。』『所属社員、オーバーワーカーBLACKの復帰作業を行います。』『過大な損害が検知されれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれました。』『只今より検討を行いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいます。』『ランス・オブ・リューディア、本名、瓜生野亜理沙』『直接殺害数と間接殺害数の値が一定基準を満たしていません。』『排除対象ではありりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりり『業務時間内において労働者に対し、多大な損害を負わせたことが確認されました。』『本件では、労働者が死亡するという事態に陥ってしまっています。』『即時対応の展開に移ります。』








『魔法少女名、ランス・オブ・リューディア、最優先排除対象です。』




 ずどん、と大きな音がしていた。

 モブの目の前にいた、リューディアの気配が消える。



 そこには、何もなかった。



 丸いクレーター上の穴が彼女がいた足元についていた。

 そこには、赤黒い液体が染み付いている。


「ふぅ……相変わらず慣れんね、これは」


 その傍ら、モブにとっては聞きなれた声が聞こえる。

 少しずつだが、光学的な迷彩が剥がれて隠れている人物が見えてくる。

 破裂して体を撒き散らし死亡した、オーバーワーカーBLACKだった。


「お、おい……何が……」


「気にしなくていいよ、それより」


 ブラックの目線の先は、ケイシーを捉えていた。

 しばらくは、時間の止まったように、意識が外れてしまったように、呆けていた。

 先程までの激昂はどこへやら、真顔から口角を釣り上げるまでそれほど時間は必要はなかった。


「……わからない……クク、わからないな…………ああ、わからない! わからないとも!!! だが、これだけはわかる!! まだ、戦わせてもらえるのだろうッ!!!! さぁ、再開と行こうじゃないかッッ!!!!!」


 モブだけが、この状況についていけてない。

 ブラックはこんなにまで戦える力量があったのか。

 今、ブラックは死んだんじゃないのか。

 リューディアを一瞬で抹消した、あれはいったい何か。

 疑問符は無数に上がるが、その裏ではもう既に始まろうとしていた。









「はいはい、そこまでそこまで」


 今にも再び戦闘を開始しようとした彼女たちを遮ったのは、薄紫色の髪をした貴族風の女性だった。


「随分と……私とブラックの命の削り合」


 かんっ、と貴族風の女性が指を鳴らす。

 そして同時に、ケイシーが糸が切れたかのように崩れ落ちた。


『排除対象ではありません。排除対象ではありません。排除対象ではありません。排除対象ではありません。排排除対象ではありません。排除対象ではありません。除対象ではありません。排除対象ではありません。排除対象ではありません。排除対象ではありません。』


「あれ……なんかバグってるけど……」


「さあ、誰の仕業でしょうね?」


「……」


 ブラックは、ワークアドバイザーが大きく故障したことにそこまで大きな動揺はなかった。

 全ては彼女、"世界の天秤”メアリー・スーの仕業である。

 彼女らの上位権限の施行により、ケイシーは意識を失い、ブラックはアドバイザーを失った。


「ここは、引き分けというようにしましょうか」


「……ええ」


 メアリーのこの提案、ブラックは飲み込むことしかできなかった。

 ケイシーにとってもブラックにとっても不完全燃焼、としか印象はないはずである。



 結果として、ケイシーとの死合いは流れ、モブとブラックも無事、その最中リューディアが亡くなったことは、不運の事故、というにはあまりに重すぎた。


「結局……あの二人は、何だったんだ?」


「わかりませんが、結果として片方しか抑えられなかったこと、これがあたしの実力なんですよ……」


 本日もこの後ブラック、改め人吉善子は、大学の研究室に帰ってひと眠りする予定だった。

 妙な感覚だけが残った中、魔法少女は普通の日常へと戻っていった。






 人吉善子は考える。

 あの時殺し損ねた彼女は、今何をしているのだろうか。



 清利仁井奈は考える。

 あの時戦いきれなかったあの魔法少女は、どこに行けば逢えるのだろうか。



 そんなことを思いながらも、日常へと再び埋没していく。



 その夜、また街は賑わうのだろう。

 その時を楽しみにしている。

 街はいつだってそう願っている。




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