img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:伏見神楽 "蜂輝星"綺羅ビィ

 深夜二時、いい頃合いだ。
 季節は冬、外出するには少々寒すぎるのは難点だがそれでも行かねばならない。

 魔法少女に変身する。これで多少の寒さは気にならない。その上で服を脱ぐ。腰から生えている九尾のふさふさな尻尾が少々目立つがこれは仕方ない。
 ここから色々オプションをつけていく。

 まず、チョーカーだ。飾り気のない犬の首輪のようなデザイン、これでいい。マジカルフォンにストラップをつけてこれもここに付ける。筆もストラップサイズまで小さくしてここに。この二つは、魔法少女化しているなら持っておかねばならない。
 次に靴下だ。なるべく膝下を多くカバーするためハイソックスを使用する。こだわりがあるというわけではないが、私はその部分をあまり重要視していない。
 最後に靴だ。これは一般的な運動靴を使う。理由は単純に動きやすいからだ。私はここに一番重きをおいている。デザインもへったくれもない、二千円ちょっとで買った運動靴を履いて外に出る。

 安いマンションの五階、当然エレベーターは使えない。エレベーター内には監視カメラがつけられているし、その周囲にもついている。いつものように階段を使う。
 私が住んでいるマンションは階段が三つある。エレベーター横に備えられている外に面していないものと、外から丸見えのマンションの両端の備えられている二つだ。迷わず、私は端の方の階段に向かう。
 理由は、音が響くことだ。外に面していない状態、外の状態が全く把握できない中で階段を降りるのは少々厳しい。確かに誰かが登ってきたり降りてきたりしたらすぐにわかる。しかし、逃げる場所がない。だいたい私の足音だって響くのだ。急いで逃げようとしたら逆に怪しまれる。それに引き替え外の階段は、多少マンションの外から見られる危険性はあれど足音は響きにくいし、何より登ってきたり降りてきたりする人が圧倒的に少ない。本当に最悪の場合、跳んで逃げることだってできる。

 そして私は外に出る。
 時間帯が時間帯なため、窓から外を眺めるなんてタイプの住人は少ない。だいたい電気が消えているかカーテン越しに漏れる灯りがあるかだ。
 それでも、しっかりと周囲を確認する。……誰もいないようだ。いざ前へ進む。


 風を体の肌全体で感じる。
 大の字になり、風をもっと感じる。
 普段であれば考えられない場所にすぅと風が通る。
 この夜空の中、私は今全てが解放され自由となった。


 と、まぁこんな感じでここまで来れた。


 ……前はもうちょっと感動とかあった。
 ダメぇ❤こんな姿誰かに見られたら…❤あぁ、でも見せたい、いや見られたくないぃ❤みたいな。……感動とはちょっと違うか。
 ただマンネリ気味なのは事実だ。次は何か別のエッセンスを……。

「何してるの貴方」
「!!!!!??」

 上にいる。見られてる。
 誰かは知らない。そっちを見れない❤
 ヤバい。体が熱くなっていくのがわかる❤でも、向かなきゃ❤誰なのか確認しないとぉ❤

「本当に何してるの貴方……」


―――――


 私は、協力者を探していた。
 最近このI市には、魔法の国出身も魔法少女が増えてきたという情報を手に入れた。そのため、コンタクトをとって協力を依頼できないか、と考えたわけで。私個人の協力、ということにすればそれは全て私の功績になるだろう。私の派閥内での地位も盤石となる。
 そうなると、自然と候補は限られてくる。

 まずMLG関連は論外だ。今現在確認しているのは二人。一人はポンコツナースといった様相だがその実気味が悪すぎる。何考えてるかわからない、というより何も考えていないのかもしれない。与えられた指示通り、プログラムに従って動いているような不気味さがある。もう一人は、わかりやすく言えばゴリラだ。あちらよりはわりとノリもよくどこか紳士そうな印象も受けるが、やはりゴリラだ。パワータイプの魔法にパワータイプ系の性格、つまり総括するとゴリラということになる。私一人じゃ手に余るどころの話じゃない。

 あのチェシャ猫も組むには不向き、というより組むとかそういう概念が通用しないのかもしれない。今あいつは数人の魔法少女を抱えている。さらには、何人か使い潰すなどもしていると風の噂で聞いた。程度では「」ヴと大差はないが、性質の悪さで言えばこちらの方が上かもしれない。

 そうすると、残りは二人となる。しかし、ラスティは単純に同性愛至高主義者であるというのがちょっと無理だった。さらに、魔法は完全に洗脳寄り。大量洗脳兵器相手に単機で相対するほど、私は馬鹿ではない。必然的に、伏見神楽しか選択肢がなくなるわけである。

 監視は容易だった。ただ彼女の家の上空に蜂を待機させ、夜半に魔法少女として彼女が活動しだしたときを狙い、声をかけるだけだった。……まさか、全裸でチョーカーをつけた女が出てくるなんて思いもしなかったが。

「何してるの貴方」
「!!!!!??」

 完全に私が不意をついた形となる。
 神楽は固まって動けない。そのうち荒い呼吸音が聞こえてくる。もしかして興奮してるのこの子……。

「本当に何してるの貴方……」

 こちらを振り返る。ヤバい、アレは変態の目だ。私には理解る、淫猥な輩を目の当たりにし続けてきた私には。
 地面にへたり込み、こちらをゆっくりと振り返る。目にハートマークでもありそうな蕩けた表情をしていた。

 先が思いやられる……。


―――――


「つまり、私に協力してほしいと…」

 服を着た状態で喋る彼女は、至って普通の魔法少女だった。
 一瞬、本当に人選を誤ったかと泣きそうになった。

 さすがに片方裸の状態じゃ話なんてできないと思ったので、魔法少女になってもらおうと思ったが既になっていた。……よくやる、というか呆れる。
 一度解除して、その上でもう一度なってもらう。これで一応はちゃんと服を着た普通の魔法少女になった。近くの公園に移動し、ベンチに腰かけて改めて話を持ちかける。

「一応聞くけど、貴方ちゃんと仕事はしてくれるんでしょうね?」
「え、あ、ハイ、まあ、場合によりますけど……」
「場合、とは?」
「不要に、人を殺したりとか、そういうので……」
「……人を殺したことがないわけではないんでしょう?」
「あ、ハ、ハイ」

 私はそういうのに拘らない性質だから、人を殺すことにそこまで深く拘りはなかった。この子は、そういうのを凄く意識する性格なんだろう。まあ想定内だ。

「こちらから協力依頼しといてなんだけど、貴方どのくらい強いのか確かめさせてくれない?」

 立ち上がり、牽制する。もしこれであの子がこの戦いを受けないのだとしたら、そもそも――

 ザッ
 振り返るとそこに脚があった。
 ヤクザキックとでも言うのだろうか、彼女の曲げられた脚が私の腰についていた。

 力を込められ、神楽の脚が伸びる。あり得ないほどのパワーだ。とっさに体勢を立て直す。

 筆の大振り。横薙ぎに払うそれをしゃがんで回避し、立ち上がり――
 ゴンッ
 頭に何かが当たる感覚があった。何をされた!?
 目の前には大筆を振り上げる神楽の姿、その表情は凍りついた笑みのまま、そのままで私を殺そうと全力で筆を振り下ろそうとしている。

 とっさに後ろに逃げる。そして空中へ、一旦回避する。
 振り下ろされた筆から放たれる一撃は、目の前の空間だけでなく宙を縦に裂いた。

 状況を理解する。あの子は「どのくらい強いのか確かめさせて」と聞いた段階で私に攻撃を仕掛けてきた、殺すつもりで。
 不要に人を殺すのは嫌だ、なんてどの口が言う。今私の目の前にいる敵は、明らかに私を殺しに来ていた。

 下を見る。あちらには飛行能力がないのは知っている。今、眼下に広がっているのは炎の渦。彼女の魔法は、筆で書いた文字を具現化、事象化するというもの。先程、横に薙いだ筆の一撃の後、起き上がった瞬間に頭に何かをぶつけた、あれも一線を引いて壁をあの空間に作ったんだとわかる。
 雄々しく炎の渦が夜の公園を舞う。あれでは蜂の不意打ちも出来ない。神楽は今も地面にがりがりと文字を書いている。砂場の上は墨だらけ、文字だらけだ。あれは全部何某かの意味がある文字だ。それこそ乗ったら発動するトラップ的な。あれが全部彼女の意図した戦術に基づくものだとしたら。

 ここで引くわけにはいかない。
 急降下し、接近戦に持ち込む。

 
 剣を構え貫く、筆を横に薙ぎ逸らされる。
 ならば縦回転、一撃で駄目なら連繋を加え速度を増し、威力を上げる。
 一発一発は受けられているが、いずれ限界が来る。空中の機動力を活かし、素早く背後に回る。
 そして、首の裏を目掛け射抜く。

「「チェックメイト」」

 相手の首筋には私の剣が、私の首元には火のついた筆が、それぞれ当てられていた。
 二人とも相手に止めがさせる状態、そのまま動かないでいる。

「十分ね」
「え?」

 私は剣をしまい、向き直る。呆けた様子の彼女に、もう一度伝える。

「貴方は私のパートナーとしてふさわしいわ、歓迎するわよ」

 まあ、私一人と組むってだけの話なんだけど。少し、本気になった。その私にここまで体術だけで張り合うなんて。私だって自分の魔法の真価は見せていない。ただ、評価基準としてはこれで十分だ。

「それにしても、いきなり不意打ちだなんて」
「いや、アレはよういドンの合図だとてっきり」
「改めて!私に協力してくれないかしら」

 これは、私の功績だ。素晴らしい掘り出し物をした。
 性格、というか性癖がちょっとアレだがそれを差し引いても十分すぎる戦力だ。それを一人で管理できるなんて……ようやく私にもツキが回ってきたのかもしれない。



「ところで、あの、報酬は」
「ああ、はいこれ」
「……蜂の子の缶詰」

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