img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラ ジャック・R ウィールー プリムラ ルエ=ルエ アヴェンジーナ ゼノちゃん



私ーーー星山美夏は、ほぼ日課になった魔法少女としての活動を始める前にふと今日の日付のカレンダーを見た。
11月5日。

「……もうそんなにたったんだ……」

私はつぶやく。
私が魔法少女ーーージャック・Rになってからもう1年だ。
私も大学2年生の20歳になった。もうお酒も飲める立派な大人なのである。まだ飲んだことないけれど。
この一年間、本当に色々なことがあった。どれも記憶に残るようなことばかりであった。
そんな思い出を思い返しながら私はいつものように人助けのため街へと飛び出した。



魔法少女になって


「……これが私……ですか?」

初めて魔法少女になったときのことは今でも覚えている。
最近はやっていると聞いた魔法少女育成計画を興味本位で遊んでいた。
私はゲームでは素早く動くキャラが得意なので盗賊っぽい身軽なアバターにしてみた。
アバターの名前はーーージャック・R。ジャック・ザ・リッパーのもじり。
なんでその名前にしたのかは自分でもよく覚えていない。
たまたまその日切り裂きジャックのことでも調べていたんだろうか。

そして、まあまあ楽しんでそろそろ休憩しようか、と思った時だった。

「あなたには魔法少女の才能があるの!人助けだってできるのよ!やってみない?ね?」

突然そんな声がスマホから聞こえた。
ええっ!?と、当然驚いた。ゲームのほうから声をかけてくるなんてありえないし。
それに突然そんなこと言われてもすぐに決められるわけない。
でも私はその中のある言葉に反応した。

「人助け………?」
「そうよ!困ってる人を助けるの!あなたもそういうことやってみたいって思ってるでしょ?」

人助け。
なんとおこがましいことだろう。殺人を犯した私が人助け。
でも、と思った。
私はこれまでの19年間様々なことを調べてきた。
殺人を犯した人の心理、殺人鬼の事件の数々、警察の公開記録。
すべては私が殺人鬼なのかどうかを確かめるためだった。
だが、未だに成果は出ていない。
魔法少女になって、人助け。普通ならありえない夢のような出来事。
それは、もしかしたら答えを見つけるチャンスなんじゃないか、って思った。
だから私は答えた。

「……わかりました。やってみます」
「ほんとに!?やったわ!この街での私の第1号ね!じゃあ約束通り……そおれ!」

と、画面越しの青いコマドリの声と共に私は光に包まれた。
そこに現れたのはアバターと寸分たがわぬ姿をした私ーーージャック・Rだった。

「さあこれであなたも魔法少女ね!早速人助けに出かけるかしら?」
「……いえ、ちょっと外で考えてみます」

そういって私は窓から外に出てみた。
そこから、私の答えを求める人助けの日々が始まったのだ。
………でもなんだかんだで女の子は魔法少女になると少しウキウキしてしまったりするのである。
その日は結局、上がりまくった身体能力のせいで電柱に体をぶつけたり試しに出した分身をうまく制御できなかったりでてんやわんやで人助けどころではなかったなあ。

そういえば、ウィールーから聞いたけど私はimg街で初めて魔法少女になった中ではかなり初期の組に入るらしい。
それなりにベテランなんだからもっと頑張ってね!ってことなんだろうけど私そんなベテランになった気は全然しないよ………。



楽しいお茶会のかくしごと


私が魔法少女になってから初めて会った他の魔法少女はプリムラさんだ。
あんなに楽しくお話ができる人には人生でも初めてだった。
……私が自分から話しかけるタイプではないせいでもあるけど。
これまで家族以外でーーー家族ともあまり話せていないけどーーーまともに会話したのは後輩の里奈ちゃんぐらいだった気がする。
まあそれはともかく、プリムラさんとは今も仲良くしている。
その日もプリムラさんとお茶を飲みながら話をしていた。

「そういえば、ちょっと聞いてみたいことがあるんです」
「あら、なにかしらジャックさん」
「私って、いつもなんだか悩みを聞いてもらっちゃってるじゃないですか」
「別に構いませんわよ。その代わりにいつも楽しいお話をしていただいてるじゃありませんか」
「でも、何かお礼をしたくて……それでプリムラさんは何か悩みがないのかなって思いまして」
「私の悩みですか……」

プリムラさんは何だか複雑そうな顔で考え込んでいたが、やがて顔を上げて言った。

「私には特に悩みはありませんよ」
「そうなんですか?」
「ええ、こうしてあなたや他の人たちと話せているだけで充分ですから」

そんなことはないだろう、と思った。
私はプリムラさんは見た目通りの年ではないと思っている。
前にまるでお婆ちゃんみたいな安心感ですね、と言って怒られたことがある。いや、そんないい方したら怒るのは当然だけど。
でも、そう思うくらいの安心感は私より小さい少女では出せるわけがない。
だから、それなりに年をとった人で、何かしら悩みはあるだろうと思ったのだ。
それにさっきのあの考えてた表情から何かしらの思いはあるだろうと考えた。

「……そうなんですか。すみません余計なこと言って」
「いえいえ、ジャックさんのその心遣いはとてもうれしいかったですよ」

しかし私は、それ以上の追及を避けた。
人には言えない悩みだってあるのだ。
なにしろ私がそれを抱えている。自分が殺人鬼なのかどうかという悩みを。
なら、今はそれを深追いしてはいけない。
そうしてしまえば、その人を逆に傷つけてしまうから。

「ではプリムラさん、私はそろそろ行きますね。お茶美味しかったですよ」
「ありがとうございますジャックさん。また来てくださいね」

私はそこでお茶会を抜けた。
結局プリムラさんにお返しはできなかったけども、楽しい話ができたので明るい気分だった。
だからがんばるぞ、と少し気合を入れて私はまた人助けへと向かうのだ。



「………ジャックさんはなかなか自分の意志ではあの話を切り出してくれないことが悩みでしょうか」
一人になったプリムラはそう呟いた。



ありえた世界線


ルエ=ルエとは不思議な関係下にあった。
最初に会ったのはゼノちゃんが勝手に襲いに行って返り討ちになったところを助けたときだ。
向こうには何の得もない襲撃だったのですごく申し訳ない気持ちになったものだ。
なのでしばらくはルエ=ルエとの接触をさけたりしていた。
だが、あるとき私が一人で活動しているときにばったり会ってしまったのだ。
そのとき私はルエ=ルエに謝罪した。あんなことをしてすみませんと。
するとルエ=ルエはあっさり許してくれたのだ。

「いやー、あの時は私もちょっと悪ぶっちゃてましたからねー。まあお互い反省したってことでいいんじゃないですかー」

それ以来、ルエ=ルエとはたまに一緒に活動するようになった。
むしろ二人の魔法で物量作戦で敵を追い返したりで相性がいいんじゃないかと思うほどだった。
そんなある日、私はルエ=ルエに質問をした。

「そういえば、あなたがよく使ってるその猫耳の子のカードはお気に入りの子だったりするんですか?」
「……うーん、そうですねー……」

またぶしつけな質問で失敗しちゃったか、と思ったがすぐに答えてくれた。

「この子は私の……目標なんですよ」
「目標?」
「そうですよーこの子みたいにまっすぐな人生を歩めるようにがんばりたいなーって思ってるんですよー」
「そうなんですか。少し意外です」
「意外ですかねー?」
「いえ、ルエ=ルエさんはなんとなく自由に生きている感じがしたんですよ」
「そうですかねー?……あ、あそこに風船が引っかかってますよ」
「あ、本当ですね。……私の分身が泣いてる子を見つけました」
「じゃあその子にとどけにいきましょうかねー」

そういって二人は人助けに戻っていった。



私の「後輩」


今の私には後輩と言われて思い浮かべる人が2人いる。
1人は、琴山里奈ちゃん。私の1歳年下で同じ高校だった子だ。
私が高校2年生の時、廊下で何やら困っている子を見つけた。
ここは2年生の教室付近だ。1年生の子がどうしているんだろう。
気になった私はその子に声をかけた。

「どうしたの?」
「あ……はい、あの、文化部の入部届はどこに出せばいいんでしょうか?」
「………文化部?じゃあ私と同じか。せっかくだから案内しようか?」
「いいんですか?じゃあお願いします」

こうして私は里奈ちゃんと出会った。
それ以来、同じ部活だったのもあって私は里奈ちゃんとよく話すようになった。
私は部活内でも必要なこと以外あまりしゃべらないタイプだったので部長に驚かれた覚えがある。
里奈ちゃんも友達がほとんど違う高校に行ってしまったらしく、仲のいい人がいなかったらしい。
なんだか似た者同士だった私たちは仲良くなった。いまでも私が友情とかを感じるような友達は里奈ちゃんだけだ。
私が大学に行ってからは一度もあってないけど、元気にしてるかな?

もう一人はアヴェンジーナさん。この子は魔法少女だ。

「あんた、お兄ちゃんを殺したやつを知らない?」

初対面はこの言葉からだった。
私は突然言われたことに呆然とした。
そして、それは私の事ではないのか、と思って震えた。

「……ごめん、なんでもない。あんたは知ってそうにないし」

だが彼女はすぐにそういった。後で「知ってそうな雰囲気じゃなかった」と聞いた。
私は少し安心した。今私の罪の事実を突きつけられたら私は正気じゃいられないかもしれなかったから。
そして、私が殺してしまった人には妹弟がいたんだろうかと思った。
あの事件の事は私が当事者であることも含めて鮮明に焼き付いているが、それゆえに曖昧だ。
あの、助けてくれた青年を刺した瞬間………私の何かが壊れたような感覚が強烈すぎてその事件の事はその瞬間とおおまかな流れ以外は記憶できていないのだ。
事件自体も闇に葬られ、青年の家族の情報を私は見ることができない。
この事も、私が答えを出せない一因なのだろうか。自分の家族とも相手の家族とも明確な折り合いがつけれていないから。

それから、私は何度かアヴェンジーナさんと一緒に行動した。
というよりは、アヴェンジーナさんが私についてきてる、のほうが正しいだろうか。

「なんで私と行動するんですか?」

そう聞いたことがある。

「なんとなく安心するから」
「安心って………私がですか?」
「人に過度に干渉しなくて大人しい人は安心するの」
「私はそんなこと………」
「それでもと言って時には優しく人を思いやってくれる」
「え………?」
「そういうジャックさんの雰囲気が安心する」

私には結局分からなかった。
どうして人を殺された人が殺した人に安心するのか。
私は他人から見てもそう見えるのか、彼女から見てそう見えるのか。
私にはそれに答えを出すまでの心の経験はなかった。



私の「教育係」


「……本当にいろいろなことがあったなぁ」

私はビルの屋上でそう呟いた。
1年。
長いようで短い単位だ。でも今は本当に短く感じる。
それだけ、色々なことがあった。

「………なんだか私質問してばっかりだ」

思い返してみて改めてそう思った。
結局、未だに答えは見つかっていない。
私は殺人鬼なのか。そうでないのか。
もう20歳の大人になって魔法少女になって、いろんな人に会って、その人たちに色々聞いて。
それでも、まだだ。
そこまで考えてまたふと思った。

「……………そういえばまだ進路決めてないや」

魔法少女の時にリアルのことは考えないのだが、今は考えてしまった。
今の私は求めるべき答えのための道以外の物が見えてこないのだ。
大学に行くのは結局義務教育の延長線上で、行けるところがあるならば行く感じで行っていた。
だが、もう私は社会に出ても問題ない年になった。
ならばこれから先の、自分が歩む人生の道を、今の道とは別に見つめなければならない。
でも私にはそのビジョンはかけらも見えないのだ。

「…………ほんとにどうしよう私」

もうなんだか何もかもが行き詰ってるような感じがする。
私は結局、魔法少女になっても何も変わらなかったーーーー

「わっ!」
「なんだゼノちゃんですか。驚かさないでください」
「いやそこは驚けよォ!何平然としてんだァ!」
「さすがに1年間同じ手口を受け続ければ慣れますよ」

そこに現れたのはゼノちゃんだった。
正直、魔法少女になって一番驚いたのが彼女の存在だ。
私を悪戯に協力させようとするわ、アドバイスも聞かないわ、勝手にピンチになるわ。
ここまで非常識な人は他の魔法少女でも………いや案外いるかもしれないけど。
でも教育係だったこともあって私にはゼノちゃんが一番記憶に残っている。

「ていうかどうしたんだ?そんな暗い顔してよォ?」
「………考え事をしてただけです」
「んなこと言わずに教えろよォ。アタシの悪役の弟子第1号だろ?」
「第2号からはまだいないのにですか?」
「これから増えるからいいんだよォ!」

…と、いつものようにコントじみた会話をする。
なぜゼノちゃんは何をやってもこういう方向性に持っていこうとするのだろうか。
ただ、思ってること自体はよくある普通の質問なので聞いてみることにした。

「私はこれからどうやって生きていけばいいのかよくわからないんです」
「どういうことだ?」
「………将来の夢みたいなものがないんですよ」
「じゃあアタシと一緒に悪役道を………」
「参加しませんよ」
「そんなんじゃあ悪役の弟子第1号の名が廃るぞォ!」
「だからあなたが勝手に呼んでるだけでしょう」
「アタシから送られた名ってだけで十分な価値だァ!」

……だめだ、相談相手間違えた。さっさと帰ろう。

「すみません変な質問して。今日は帰ります」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
「なんですか」
「……ジャックちゃんはよォ、なんだかんだでアタシとか他の人にアドバイスとかしてくれただろ?」
「あなたは全然聞いてませんでしたけど」
「だからさァ、誰かに何か教えるのがいいんじゃねェ?教師とか」
「教師………?」
「そんだけ。じゃあアタシも悪戯するからこの辺で!じゃあなァ!」

言うだけ言ってゼノちゃんは去ってしまった。………私も家に帰ろう。



「教師………か」

今まで考えたこともなかった。
人を殺すような人間が人にものを教えることなどありえないと。
だが………
なんだか考えてみると妙にしっくりくる気がする。
少なくとも、道の一つとしてみてもいいぐらいには私にも見える道だ。

「まあ、参考にはしましょうか」

家で変身を解除しながらそう思った。
もう寝ようかと思って布団に近づいたとき、カレンダーが目に入った。
2017年11月5日。
私が生まれてから20年がたった。
ジャック・Rが生まれてから1年がたった。
その時間の中で私は貴重な一歩を踏み出せたような気がする。

「じゃあ寝ますか」

そして私は布団に入った。































20年と1年。

私の2つの人生。

その先の願いを、夢に見ながら。

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