最終更新:ID:U9ViJtEYDw 2016年05月26日(木) 22:57:58履歴
タイプライターを打つ手を取め、机の上に積みあがった書類の束を横目に、小さくため息をつく。
今日はもう終わりにしよう。そう思いたって、引き出しにしまってあるタバコとマッチを取り出し火をつける。
眼の先で小さく燻る火種を見ながら、男は短く息を吐き出した。
いつからかつけっぱなしになっていた事務所のラジオからはジャズが流れていた。
ゆっくりとしたテンポの、酒場でウィスキーを片手に聞くのにうってつけの曲だな、と考えながら、男は窓の外の景色に目をやる。
「もう、そんな季節か」
男は再び引き出しに目をもどす。
引き出しの奥にしまってあるそれをみるたびに、男は思い出す。あの出来事を。
始まりは何だったのか
市長の失踪、クリスマス・イブの悲劇…それとももっと前…あの酒の噂。
彼は、彼らは今どこにいるのだろうか。
「失礼します」
事務所のドアが開き、一人の男が入ってくる。
「休憩中でしたか、失礼しました」
「いや、いいさ。今日はひと段落ついたからもう帰ろうと思っていたところだ」
そう言って、タバコの火をもみ消す。
「カール、君は?」
「今月の報告書を提出して、自分も今日は帰宅します」
「ああ、ありがとう。預かるよ」
カールと呼ばれた男は、書類を男に受け渡しながら
「何かありましたか」と尋ねた。
「君は鋭いな。なに少し昔を思い出していただけだよ」
男は書類を引き出しにしまうと、衣文掛のコートに手を伸ばす。
「この後、少し時間あるかな。奢るよ」
「…はい、自分で良ければ」
カールは、普段はあまり喋る事の無い上司に酒の席に誘われたことに少々驚きながらも返事を返す。
「では、自分は帰り支度をしてきます」
そういって、カールは速足でその部屋を後にした。
カールが戻ってくると、男は身支度を済ませたのか、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「古い、友人の話だ」
男は、カールの方を見もせずに話し出す。
「始まりはちょうど今日みたいな寒くて曇り空が否応なしに気分を落ち込ませるような…そんな日だった」
男は、机の上にある鞄と中折れ帽を手に取り、カールの方へと振り向いた。
「続きは歩きながらにしよう」
カールは上司の様子を見ながら彼がここまで饒舌に何かを喋るということが今までにあったかどうかを思い出していたが、
結局思い当たることはなかった。
「ある事件があった…この街に潜む欲望と金と酒とギャング…すべてを巻き込んだ事件だ」
外は、雪が降り始めていた。夕方の喧騒が耳に届くが、男は気にすることもなく話し続ける。
「きっかけは些細なことだった…いや、正確には何から始まったのか俺には理解する事ができなかったのだけれど」
「カール、こんな噂を聞いたことがあるかい」
「『この街に、不老不死になれる酒がある』」
男は話し出す。
次第に強くなっていく雪を気にも留めず、
あの日の話を、彼女らの話を。
今日はもう終わりにしよう。そう思いたって、引き出しにしまってあるタバコとマッチを取り出し火をつける。
眼の先で小さく燻る火種を見ながら、男は短く息を吐き出した。
いつからかつけっぱなしになっていた事務所のラジオからはジャズが流れていた。
ゆっくりとしたテンポの、酒場でウィスキーを片手に聞くのにうってつけの曲だな、と考えながら、男は窓の外の景色に目をやる。
「もう、そんな季節か」
男は再び引き出しに目をもどす。
引き出しの奥にしまってあるそれをみるたびに、男は思い出す。あの出来事を。
始まりは何だったのか
市長の失踪、クリスマス・イブの悲劇…それとももっと前…あの酒の噂。
彼は、彼らは今どこにいるのだろうか。
「失礼します」
事務所のドアが開き、一人の男が入ってくる。
「休憩中でしたか、失礼しました」
「いや、いいさ。今日はひと段落ついたからもう帰ろうと思っていたところだ」
そう言って、タバコの火をもみ消す。
「カール、君は?」
「今月の報告書を提出して、自分も今日は帰宅します」
「ああ、ありがとう。預かるよ」
カールと呼ばれた男は、書類を男に受け渡しながら
「何かありましたか」と尋ねた。
「君は鋭いな。なに少し昔を思い出していただけだよ」
男は書類を引き出しにしまうと、衣文掛のコートに手を伸ばす。
「この後、少し時間あるかな。奢るよ」
「…はい、自分で良ければ」
カールは、普段はあまり喋る事の無い上司に酒の席に誘われたことに少々驚きながらも返事を返す。
「では、自分は帰り支度をしてきます」
そういって、カールは速足でその部屋を後にした。
カールが戻ってくると、男は身支度を済ませたのか、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「古い、友人の話だ」
男は、カールの方を見もせずに話し出す。
「始まりはちょうど今日みたいな寒くて曇り空が否応なしに気分を落ち込ませるような…そんな日だった」
男は、机の上にある鞄と中折れ帽を手に取り、カールの方へと振り向いた。
「続きは歩きながらにしよう」
カールは上司の様子を見ながら彼がここまで饒舌に何かを喋るということが今までにあったかどうかを思い出していたが、
結局思い当たることはなかった。
「ある事件があった…この街に潜む欲望と金と酒とギャング…すべてを巻き込んだ事件だ」
外は、雪が降り始めていた。夕方の喧騒が耳に届くが、男は気にすることもなく話し続ける。
「きっかけは些細なことだった…いや、正確には何から始まったのか俺には理解する事ができなかったのだけれど」
「カール、こんな噂を聞いたことがあるかい」
「『この街に、不老不死になれる酒がある』」
男は話し出す。
次第に強くなっていく雪を気にも留めず、
あの日の話を、彼女らの話を。
「…以上が、この街で起こった事件の全貌さ」
男は、バーカウンターで隣に座る部下の男に一通り話し終えると、氷も溶けてすっかり薄くなってしまったウィスキーをグイッと飲み干した。
カールは、何も言えなかった。
彼が語った話は、普段は寡黙で知られる横に座る男が語るにしてはあまりにも荒唐無稽過ぎたのだ。
カールは、先ほどから持ち続けているグラスを傾けながらようやく口を開く。
「それから、どうなったのですか?」
男はマスターから新しいウィスキーを受け取ると、唇を湿らせて再び話し始めた。
「その後ね…知っての通り、私は組織の新しい会計係になった。メイナードさんは、手紙にもあった通り旅に出たよ」
「旅に?」
「ああ、なんでも自分と同じ境遇の仲間に会いに行くってね…あれから5年、便りがないのは元気な知らせ…だと思いたいけどね」
すると、先程から席を二つほど開けて座っていた男性が突然二人に声をかけてきた。
「そうとも限りませんよ」
二人は、突然声をかけられたことに多少驚きながらもその男性の話に耳を傾ける。
「便りを出す時間がないほど忙しいのか、便りを出しても何らかの理由で届かなかったのか。…それとも死んでしまったか…」
男性は、深くかぶっていた帽子を浅くかぶり直し二人の方を向く。
「あるいは、この街に帰ってきているのか」
男は目を見開く。何故なら、先程から話題に上がり続けていた男性が今、突然目の前に現れたのだ。
「遅くなったね、フレデリック。元気にしていたかい?」
「め、メイナードさん!」
外は、雪が降り続く。
静寂に包まれた街の中、再会の喜びに喧騒が絶えない酒場が一つだけあった。
男は、バーカウンターで隣に座る部下の男に一通り話し終えると、氷も溶けてすっかり薄くなってしまったウィスキーをグイッと飲み干した。
カールは、何も言えなかった。
彼が語った話は、普段は寡黙で知られる横に座る男が語るにしてはあまりにも荒唐無稽過ぎたのだ。
カールは、先ほどから持ち続けているグラスを傾けながらようやく口を開く。
「それから、どうなったのですか?」
男はマスターから新しいウィスキーを受け取ると、唇を湿らせて再び話し始めた。
「その後ね…知っての通り、私は組織の新しい会計係になった。メイナードさんは、手紙にもあった通り旅に出たよ」
「旅に?」
「ああ、なんでも自分と同じ境遇の仲間に会いに行くってね…あれから5年、便りがないのは元気な知らせ…だと思いたいけどね」
すると、先程から席を二つほど開けて座っていた男性が突然二人に声をかけてきた。
「そうとも限りませんよ」
二人は、突然声をかけられたことに多少驚きながらもその男性の話に耳を傾ける。
「便りを出す時間がないほど忙しいのか、便りを出しても何らかの理由で届かなかったのか。…それとも死んでしまったか…」
男性は、深くかぶっていた帽子を浅くかぶり直し二人の方を向く。
「あるいは、この街に帰ってきているのか」
男は目を見開く。何故なら、先程から話題に上がり続けていた男性が今、突然目の前に現れたのだ。
「遅くなったね、フレデリック。元気にしていたかい?」
「め、メイナードさん!」
外は、雪が降り続く。
静寂に包まれた街の中、再会の喜びに喧騒が絶えない酒場が一つだけあった。
シカゴ、さる図書館にて。
亜麻色の目を気だるげに細めながら、只管に本を検分する青年が一人。
青年の横には堆く書籍が積まれ、しかしその何れもがとても丁寧に分類され、区分けされている。
「………」
青年は頬張った棒付キャンディをころころと弄びつつ、ページを繰る。
世界恐慌の煽りを受けて一度は席を失ったものの、何の因果か再びこの紙とインクの香りに塗れた
穏やかな空間に舞い戻ることになり。
――青年はぱたり、と本を閉じる。と同時に、ぱたぱたと足音が聞こえた。
「ああ、やっぱりまだやってた。レスさん、閉館時間ですよ」
「……ん、んー…?」
レス、と呼ばれた青年は懐からくすんだ鈍色の懐中時計を取り出して時間を確認し、小さく息を吐く。
「……悪いね。今出るよ」
言うと、脇に掛けられたコートを羽織り、その場を後にする。
街灯の明かりが夜道を照らす中、レスはタクシーを止め、乗り込んではまた息を吐く。
夏の熱が冷めて、葉は落ちて、じきに冬が来るのだろう。
過ぎ行く景色を尻目に、レスは静かに、あの奇妙な四日間を思い返していた――。
=====
「ねぇ、"レジー"。お願いがあるんだけど」
「だから"レジー"は止めてって言ってるじゃないか……で、何だい?珍しいじゃないか。レスがお願いだなんて」
「あっはは。あんまりしたくはないんだけどね。……俺にさ、もう一度、銃の使い方を教えて欲しい」
「……レス、俺は散々言ってるけどこちらの道に来るのは」
「違うよ」
「…………」
「まぁその道もまだ有りかな、とは思うけれどね。でも、違う。その為のお願いじゃない」
「俺がね、"レジー"。俺があの時アイツの右腕を撃ち抜けたら、きっちりアイツの銃を取り落としてやれてたら」
「怪我人なんて居なかったはずだったんだよ。誰も傷付かなくて済んだ」
「俺は俺が不甲斐ないのが、弱いのが、許せない。あんな思いをするのはもうごめんだ」
「だから、……あんまりいい気分はしないだろうけど。もう一度、今度はちゃんとやるために」
「……お願いします、"師匠"」
「…………」
「…………………はぁ。分かった、分かりましたよ。そこまで言われちゃ断り辛い」
「ん。」
「…のを分かっててそう言うのだから始末が悪いんですよ、レスは……全く、本当に」
「あっはは。流石"レジー"、ばれちゃった?」
「そりゃそうです。ああ、教える代わりにその"レジー"と言うのは止めて貰おうかな」
「えー……この呼び方好きなのに。仕方ない、"レディ"にするよ」
「それも却下です!却下!」
「あーはいはい。分かったってば…"フレデリック"」
=====
"師匠"の(少し私情も挟まっているような気もしないでもない)容赦ない修練を、レスは淡々とこなす。
胸に燻る思いは留めて、ひたすらに、粛々と。
あの日を二度と繰り返さないために。ただそれだけのために。
=====
「恋だの愛だの下らない。そんなもの娼婦にでも囁くよ」
「そんな一時の形のないものが欲しいのなら」
「俺はごめんだね。そんなものに縛られたくはない」
「だからそんな事を言われたら、俺は間違いなく違う道を歩いただろうね」
「でも君はそうしなかった」
「傍に居ること、確かに傍にあること。傍にいて欲しいと思うこと。」
「今もまだそれを望むのなら。……俺の答えはね。クリス」
=====
レスは酒場の扉を開く。慣れた様子で席に着くと、マスターが声を掛けてくれる。
それに二言三言切り替えすと、マスターは何も言わずにシェイカーを振る。
そして、コトリ、と、グラスを差し出した。
「決まったかい?」
「……余計なお世話だよ、マスター」
置かれたカクテルをちびりと舐め、頬杖をついて不貞腐れたように息を吐く。
「"口説き文句"なんてさ。マスターじゃあるまいし」
「全くお前は……何時までそうやって待たせるつもりなんだ?いい加減素直になれよ、レス」
「別に。俺は何時だって自分に素直だよ。言いたい事は言うし、言う気がないなら言わない」
「レス、お前な……」
「ああ、頑張っているって言いたいの?そうだね。頑張ってるんだろうよ。いつまで続くんだか知らないけどね」
「でもそれに対して言うべきは恋慕ではないし、同情でもないし、共感でもない」
「俺は臆病で、仲間が傷付くのは何より嫌いだから」
「"仲間"以上を作るのは結構な覚悟が必要なんだよ。色々とね」
カラン、と、扉が開く。
「………まぁ、困った事に」
蒼い瞳を眼鏡の奥に隠して、彼女はすたすたと、当然のように、隣に座る。
「"後がない"ってやつなんだよね。全く、本当に。」
様々な"想い"を詰め込んで、今日も『BLUEHAT』は静かな喧騒に飲まれ。
これから先の、人生と言う名の長き旅路を歩み行く者達へ、ささやかな祝福を贈りつつ――
亜麻色の目を気だるげに細めながら、只管に本を検分する青年が一人。
青年の横には堆く書籍が積まれ、しかしその何れもがとても丁寧に分類され、区分けされている。
「………」
青年は頬張った棒付キャンディをころころと弄びつつ、ページを繰る。
世界恐慌の煽りを受けて一度は席を失ったものの、何の因果か再びこの紙とインクの香りに塗れた
穏やかな空間に舞い戻ることになり。
――青年はぱたり、と本を閉じる。と同時に、ぱたぱたと足音が聞こえた。
「ああ、やっぱりまだやってた。レスさん、閉館時間ですよ」
「……ん、んー…?」
レス、と呼ばれた青年は懐からくすんだ鈍色の懐中時計を取り出して時間を確認し、小さく息を吐く。
「……悪いね。今出るよ」
言うと、脇に掛けられたコートを羽織り、その場を後にする。
街灯の明かりが夜道を照らす中、レスはタクシーを止め、乗り込んではまた息を吐く。
夏の熱が冷めて、葉は落ちて、じきに冬が来るのだろう。
過ぎ行く景色を尻目に、レスは静かに、あの奇妙な四日間を思い返していた――。
=====
「ねぇ、"レジー"。お願いがあるんだけど」
「だから"レジー"は止めてって言ってるじゃないか……で、何だい?珍しいじゃないか。レスがお願いだなんて」
「あっはは。あんまりしたくはないんだけどね。……俺にさ、もう一度、銃の使い方を教えて欲しい」
「……レス、俺は散々言ってるけどこちらの道に来るのは」
「違うよ」
「…………」
「まぁその道もまだ有りかな、とは思うけれどね。でも、違う。その為のお願いじゃない」
「俺がね、"レジー"。俺があの時アイツの右腕を撃ち抜けたら、きっちりアイツの銃を取り落としてやれてたら」
「怪我人なんて居なかったはずだったんだよ。誰も傷付かなくて済んだ」
「俺は俺が不甲斐ないのが、弱いのが、許せない。あんな思いをするのはもうごめんだ」
「だから、……あんまりいい気分はしないだろうけど。もう一度、今度はちゃんとやるために」
「……お願いします、"師匠"」
「…………」
「…………………はぁ。分かった、分かりましたよ。そこまで言われちゃ断り辛い」
「ん。」
「…のを分かっててそう言うのだから始末が悪いんですよ、レスは……全く、本当に」
「あっはは。流石"レジー"、ばれちゃった?」
「そりゃそうです。ああ、教える代わりにその"レジー"と言うのは止めて貰おうかな」
「えー……この呼び方好きなのに。仕方ない、"レディ"にするよ」
「それも却下です!却下!」
「あーはいはい。分かったってば…"フレデリック"」
=====
"師匠"の(少し私情も挟まっているような気もしないでもない)容赦ない修練を、レスは淡々とこなす。
胸に燻る思いは留めて、ひたすらに、粛々と。
あの日を二度と繰り返さないために。ただそれだけのために。
=====
「恋だの愛だの下らない。そんなもの娼婦にでも囁くよ」
「そんな一時の形のないものが欲しいのなら」
「俺はごめんだね。そんなものに縛られたくはない」
「だからそんな事を言われたら、俺は間違いなく違う道を歩いただろうね」
「でも君はそうしなかった」
「傍に居ること、確かに傍にあること。傍にいて欲しいと思うこと。」
「今もまだそれを望むのなら。……俺の答えはね。クリス」
=====
レスは酒場の扉を開く。慣れた様子で席に着くと、マスターが声を掛けてくれる。
それに二言三言切り替えすと、マスターは何も言わずにシェイカーを振る。
そして、コトリ、と、グラスを差し出した。
「決まったかい?」
「……余計なお世話だよ、マスター」
置かれたカクテルをちびりと舐め、頬杖をついて不貞腐れたように息を吐く。
「"口説き文句"なんてさ。マスターじゃあるまいし」
「全くお前は……何時までそうやって待たせるつもりなんだ?いい加減素直になれよ、レス」
「別に。俺は何時だって自分に素直だよ。言いたい事は言うし、言う気がないなら言わない」
「レス、お前な……」
「ああ、頑張っているって言いたいの?そうだね。頑張ってるんだろうよ。いつまで続くんだか知らないけどね」
「でもそれに対して言うべきは恋慕ではないし、同情でもないし、共感でもない」
「俺は臆病で、仲間が傷付くのは何より嫌いだから」
「"仲間"以上を作るのは結構な覚悟が必要なんだよ。色々とね」
カラン、と、扉が開く。
「………まぁ、困った事に」
蒼い瞳を眼鏡の奥に隠して、彼女はすたすたと、当然のように、隣に座る。
「"後がない"ってやつなんだよね。全く、本当に。」
様々な"想い"を詰め込んで、今日も『BLUEHAT』は静かな喧騒に飲まれ。
これから先の、人生と言う名の長き旅路を歩み行く者達へ、ささやかな祝福を贈りつつ――
と言う訳で、2日間の濃ゆいセッションお疲れ様でした。
"Lest=Axwell"の中の人、ナナシでございます。
初日からトリガーハッピーな想定外を巻き起こし、更にはナナシにも予想外の展開に帰結したことは
とても、とても感慨深いものでございました。
後日談につきまして、遅筆悪筆ではございますが載せさせて頂きました。
皆様の思い出に、一つ花を添えることが出来れば幸いです。
KPさばかん氏におかれましては、当セッションにゲスト招待頂き真にありがとうございました。
またPLアミルさん、ライターさん、河南さんへも、ナナシの至らぬ点多々あったものと存じますが
セッションを共に突き進めましたこと、有り難い経験となったように思います。
何より、とても楽しかったし、充実した時間を過ごす事ができました。重ねて感謝申し上げます。
それでは……レスの選んだ道が、また再び皆様と遭い見えんことを祈って。
"Lest=Axwell"の中の人、ナナシでございます。
初日からトリガーハッピーな想定外を巻き起こし、更にはナナシにも予想外の展開に帰結したことは
とても、とても感慨深いものでございました。
後日談につきまして、遅筆悪筆ではございますが載せさせて頂きました。
皆様の思い出に、一つ花を添えることが出来れば幸いです。
KPさばかん氏におかれましては、当セッションにゲスト招待頂き真にありがとうございました。
またPLアミルさん、ライターさん、河南さんへも、ナナシの至らぬ点多々あったものと存じますが
セッションを共に突き進めましたこと、有り難い経験となったように思います。
何より、とても楽しかったし、充実した時間を過ごす事ができました。重ねて感謝申し上げます。
それでは……レスの選んだ道が、また再び皆様と遭い見えんことを祈って。
ねぇ、レス
何
言葉にして、なかったことがあるの
んー?
私って、レスの事、好きなんだよ
知ってるよ
〜馬鹿騒ぎの夜が明けて 彼の家で〜
あれから、もうすぐ7か月
すっかり消えた、お腹の傷
すっかり無くなった、あの日の報酬
ほとぼりが覚めて、やっと呼んでもらえるようになった舞台
小金、と言うには大き目の金を稼ぎつつ
それでも、夜になれば女は眼鏡をかける
変装にもならない変装をして、いつもの場所へ、いつものように
扉を潜れば、クリスになれる場所へと
「マスター、きついの!」
女は頬を膨らませつつ、カウンターに座る
出てきたそれを豪快に煽り
お代わりと突っ返して、カウンターに頬を当てた
「奥さん聞いてよ!酷いんだよ!」
「あいつはまた、私をからかってね、虐めるんだよ!」
「・・・それにね。好きって言ってくれたこと、一度もないんだよ」
店内に流れる、自由な音楽
ぺしゃりと潰れる、小さな体
私は、私なりに頑張っているつもりでも
やっぱり、足りなかったりするのだろうか
「そういえば、皆はどうしてる? たまには店に顔を出す?」
潰れたまま、問いかける
一生分だと思うくらい、怖くて
これ以上ないってくらい、痛くて
逃げ出したいくらい、苦しくて
女神のほほ笑みと、悪魔の高笑いを、同時に感じた4日間
その間に出会った多くの人達と、仲間達
「どうしてって? だって。」
「皆に報告しなきゃいけないでしょ」
眼鏡さんは、旅に出るとか言ってたな
議員のおじさんは、どうなったかしら
カワード君は、たまに顔を見るし
ああ、おいしいケーキを出してくれたあの人達、どうしてるかな
全部わかったわけじゃない
何もかも知れたわけじゃない
全てうまくいったわけでもないけど
「あいつが、その気になった時に」
「やっぱやめたって、言わせないように」
からりと鳴った、テーブルのグラス
何故か出てきた、モスコミュール
マスターの顔を見上げて、またへにゃり
「むー、仕方ない」
あれから私達は、変わらずこの街で
変わらぬ日々を、変わらずに過ごしている
変わった事が、あるとすれば
せいぜい、私と彼が、仕事を始めた事くらい
何も変わらない、何一つ変わらない
変わりたいと、願ってはいるけれど
そして、変化が訪れるのは
私の告白から、7か月経った後
待たせすぎだって、言いたいけれど
彼は、揶揄われるのが嫌いだから
だから、意地悪せずに、言ってやろう
あの時と、同じように
あの時と、少し違う言葉を
自分に自信がもてるように、なったから
自分のいいとこ、見れるようになったから
だから、傍に置いてくれますか?
貴方の傍に、ずっとずっと
何
言葉にして、なかったことがあるの
んー?
私って、レスの事、好きなんだよ
知ってるよ
〜馬鹿騒ぎの夜が明けて 彼の家で〜
*******************************************************
あれから、もうすぐ7か月
すっかり消えた、お腹の傷
すっかり無くなった、あの日の報酬
ほとぼりが覚めて、やっと呼んでもらえるようになった舞台
小金、と言うには大き目の金を稼ぎつつ
それでも、夜になれば女は眼鏡をかける
変装にもならない変装をして、いつもの場所へ、いつものように
扉を潜れば、クリスになれる場所へと
「マスター、きついの!」
女は頬を膨らませつつ、カウンターに座る
出てきたそれを豪快に煽り
お代わりと突っ返して、カウンターに頬を当てた
「奥さん聞いてよ!酷いんだよ!」
「あいつはまた、私をからかってね、虐めるんだよ!」
「・・・それにね。好きって言ってくれたこと、一度もないんだよ」
店内に流れる、自由な音楽
ぺしゃりと潰れる、小さな体
私は、私なりに頑張っているつもりでも
やっぱり、足りなかったりするのだろうか
「そういえば、皆はどうしてる? たまには店に顔を出す?」
潰れたまま、問いかける
一生分だと思うくらい、怖くて
これ以上ないってくらい、痛くて
逃げ出したいくらい、苦しくて
女神のほほ笑みと、悪魔の高笑いを、同時に感じた4日間
その間に出会った多くの人達と、仲間達
「どうしてって? だって。」
「皆に報告しなきゃいけないでしょ」
眼鏡さんは、旅に出るとか言ってたな
議員のおじさんは、どうなったかしら
カワード君は、たまに顔を見るし
ああ、おいしいケーキを出してくれたあの人達、どうしてるかな
全部わかったわけじゃない
何もかも知れたわけじゃない
全てうまくいったわけでもないけど
「あいつが、その気になった時に」
「やっぱやめたって、言わせないように」
からりと鳴った、テーブルのグラス
何故か出てきた、モスコミュール
マスターの顔を見上げて、またへにゃり
「むー、仕方ない」
あれから私達は、変わらずこの街で
変わらぬ日々を、変わらずに過ごしている
変わった事が、あるとすれば
せいぜい、私と彼が、仕事を始めた事くらい
何も変わらない、何一つ変わらない
変わりたいと、願ってはいるけれど
******************************************************************
そして、変化が訪れるのは
私の告白から、7か月経った後
待たせすぎだって、言いたいけれど
彼は、揶揄われるのが嫌いだから
だから、意地悪せずに、言ってやろう
あの時と、同じように
あの時と、少し違う言葉を
自分に自信がもてるように、なったから
自分のいいとこ、見れるようになったから
だから、傍に置いてくれますか?
貴方の傍に、ずっとずっと
あの奇妙な出来事の後もジャックは特にこれといった変化もなく、一日中飲んだ暮れては家で寝るの繰り返しをしていた。
しかし日を重ねるごとに彼は自分の体に徐々にある変化を実感していくことになる。
そう、体毛が濃くなっていくのだ。
しかし変化はそれだけでは終わらずに、喋る際に気づいたら語尾ににゃんという言葉がついていたり、シャワー等の水浴びに恐怖を覚えるようになり最終的にはなんと毛玉まで吐き出すようになってしまっていた。
そして奇妙な出来事から数ヵ月後、ジャックは顔を包帯でグルグル巻きにしあの奇妙な出来事を生き延びた仲間達と杯を交わしたBLUEHATに訪れた。
ジャック「ようマスター、あいつら今日は来てるかにゃん?」
マスター「もしかして、ジャックか?しばらく顔を見せないと思ったらなんだその格好・・・あいつらなら今日は顔を見せてないぜ」
ジャック「そうか・・・もしもあいつらが来たら俺から依頼があるって伝えておいてくれないかにゃん?」
そういうとジャックは顔の包帯を取り、その中から現れた猫そのものと言っても過言ではない顔を見せた。
ジャック「俺の顔を何とかしてくれにゃん!」
ネコの鳴き声にも取れるような叫び声がむなしく店内にこだまするのであった・・・
しかし日を重ねるごとに彼は自分の体に徐々にある変化を実感していくことになる。
そう、体毛が濃くなっていくのだ。
しかし変化はそれだけでは終わらずに、喋る際に気づいたら語尾ににゃんという言葉がついていたり、シャワー等の水浴びに恐怖を覚えるようになり最終的にはなんと毛玉まで吐き出すようになってしまっていた。
そして奇妙な出来事から数ヵ月後、ジャックは顔を包帯でグルグル巻きにしあの奇妙な出来事を生き延びた仲間達と杯を交わしたBLUEHATに訪れた。
ジャック「ようマスター、あいつら今日は来てるかにゃん?」
マスター「もしかして、ジャックか?しばらく顔を見せないと思ったらなんだその格好・・・あいつらなら今日は顔を見せてないぜ」
ジャック「そうか・・・もしもあいつらが来たら俺から依頼があるって伝えておいてくれないかにゃん?」
そういうとジャックは顔の包帯を取り、その中から現れた猫そのものと言っても過言ではない顔を見せた。
ジャック「俺の顔を何とかしてくれにゃん!」
ネコの鳴き声にも取れるような叫び声がむなしく店内にこだまするのであった・・・
まずは2日間の長時間、本当にお疲れ様でした。
(終わってからどんだけ経ってこれ書いてんだって話ですが……)
皆さまの後日談、楽しく拝見いたしました。
というか皆さん文書力すごいですね、ついつい読みふけってしまいました。
KPとしての印象は、他のシナリオも含め、一番ひと筋縄ではいかなかった卓といいますか、
探索者の皆さんの数々の提案に、ダイスの女神の荒ぶり方もあいまって、
アドリブにつぐアドリブ、想定外の出来事ばかりだったように思います。
でも全てシナリオ通りにスムーズに進む卓よりも、私はこういう卓が好きです。
きちんとシナリオに向き合ってくださっているからこそ生まれる提案、
KPとしてそれをどう採用するか、PLとしてそれを受けてどう返すか、
という丁々発止がとても心地よい卓ではなかったかと思います。
(KPとしてうまいことできたかどうか、というのはこの際置いておきましょう)
また別のシティシナリオでもぜひ皆さまとお会いして、
こういう手に汗握るような展開をしたいものです。
本当にありがとうございました!
(終わってからどんだけ経ってこれ書いてんだって話ですが……)
皆さまの後日談、楽しく拝見いたしました。
というか皆さん文書力すごいですね、ついつい読みふけってしまいました。
KPとしての印象は、他のシナリオも含め、一番ひと筋縄ではいかなかった卓といいますか、
探索者の皆さんの数々の提案に、ダイスの女神の荒ぶり方もあいまって、
アドリブにつぐアドリブ、想定外の出来事ばかりだったように思います。
でも全てシナリオ通りにスムーズに進む卓よりも、私はこういう卓が好きです。
きちんとシナリオに向き合ってくださっているからこそ生まれる提案、
KPとしてそれをどう採用するか、PLとしてそれを受けてどう返すか、
という丁々発止がとても心地よい卓ではなかったかと思います。
(KPとしてうまいことできたかどうか、というのはこの際置いておきましょう)
また別のシティシナリオでもぜひ皆さまとお会いして、
こういう手に汗握るような展開をしたいものです。
本当にありがとうございました!
コメントをかく