PCより
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終幕まで
何も救えず、何も得られず、ただ、失っただけ。
雑音だらけの蓄音機から、軽快なメロディーと歌声が流れる。
最近浅草で流行の、少女歌手達の歌声だ。
恐ろしい事件に巻き込まれながらも舞台に復帰し、浅草に美声を響かせる少女達。
確かそんな宣伝文句で、彼女達の事は語られていたはずだ。
――くそくらえ。
あの娘達は――あいつらは、被害者なんかじゃなかった。
あの台本のせいでおかしくなっていようが、魅入られていようが関係ない。
あいつらは間違いなく自分の意志で、事を成したのだ。
音楽を利用し、自分達を認められたいというくだらない自己顕示欲で『あれ』を開演し、
そしてあの歌劇場に狂気を呼び込んだ。
誰かが止めなければ、狂気は浅草どころかこの帝都全土を巻き込み、帝都は焦土と化していたかもしれない。
あいつらは、あいつらの目的のために音楽を汚した。
音楽を愛する上演者も観客も裏切った、冒涜者共だった。
――そして、そんな冒涜者達が作った影に存在した、あのおぞましい『天使』。
「……」
僕は、掌に握られた拳銃を睨み、そしてあの時抱き上げた一人の娘の感触を思い出す。
狂気の歌劇から解放された娘達は、まとめて気絶していた。
自分達がやった事の顛末も見届けず、まるで被害者のように、ただ憐れで無防備な姿で眠るあいつらを、
僕は心底嫌悪した。
――被害者面をするな。お前達は被害者なんかじゃない。加害者だろうが。
――起きろ。
――起きてお前達のやった事を、この惨状を目に焼き付けろ。
そう怒鳴り叩き起こし――そして憤怒のまま、あいつらの喉笛に弾丸を撃ちこんでやれば、
僕のこのやるせない憤怒は少しでも軽くなっただろうか。
……いいや、考えても仕方がない事だ。
僕の殺意を、あの時行動を共にしていた誰もが認めず、僕を止めた。
彼らは僕よりよほど優しく、そして僕よりよほどあいつらに同情したのだろう。
……そして僕と違って、あの事件で何か得るものがあったのだろう。
羨ましい話だ。
僕に残されたのは、発狂し二度と正気には戻れない友を見舞う日々と、
そんな友を見る度湧き上がって来る、あの日のやりきれない憤怒だけ。
だがそれも、もうすぐ終わるのだろう。
――音楽が国に汚され、国家高揚の道具と堕ちていくのを感じる。
僕は軍楽隊の一員として、やがて戦争を華麗な音色で飾り立て、兵士達を戦場へと誘う道具となる。
そして僕もまた、その音色と共に戦場で死ぬ。
それはもう、遠くない未来の話に違いない。
「……それも良いのかもしれない」
これ以上、この行き場の無い殺意と衝動に苛まれ続けるのならば、
楽しいはずの音楽に、あの冒涜的な存在を思い出してしまうくらいならば
この世からおさらばした方が、良いのかもしれない。
「もっと楽しみたかったなぁ……音楽の話だよ?」
僕は拳銃を手放し、愛器のトランペットを取り出し響かせる。
「……」
ただ終幕まで、音が濁らぬよう、必死に全ての雑念を頭から追いやる。
そうして無心に美しい音を響かせる――ただこの時だけ、僕は救われるような気がした。
PLより
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お疲れ様でしたー!
ほぼ一週間の平日卓、お疲れ様でした&ありがとうございました。HOでできる事が中々無く
苦戦しましたが、とても愉しかったです。次の機会があれば、なんらかの救いが得られるような
リベンジがあればな、と思っております。
なお支配人はゆるさん(笑)
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