審判の日

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あれから1年あまりの月日が流れた。

2008年2月18日午後1時30分すぎ。わたし(筆者)は霞ヶ関にある裁判所合同庁舎7階廊下で、ひとり立ちすくんでいた。

なぜ、わたしがこんなところに、っ立っているのか?

この日は切込隊長と西村の裁判の判決言い渡しの日だった。それを傍聴しに来たのだ。ところが、肝心の裁判が行われる部屋が見当たらず、困ってしまっていた。霞ヶ関の裁判所合同庁舎に来たのも、そもそも裁判の傍聴に来たのも初めてである。

どうも、1階で部屋番号を確認したとき間違った部屋番号を覚えたらしい。自分が来た部屋では明らかにぜんぜん違う裁判が行われていた。実にいい加減な記憶力である。通りがかった守衛の人に「西村の裁判は・・・」と尋ねると1階で調べてきなさいと言われた。

しょうがないので、またエレベーターで1階へ戻る。ああ、もう裁判がはじまってるよ。

エレベーターに乗って、1階へ下りながら、そもそもなぜ自分が平日の昼間にこんなところにいるのかを思い返す。

切込隊長と西村博之との裁判・・・実はわたしはこの裁判にあまり関心がなかった。知人から傍聴に行かないかと誘われた時も、平日の昼間で仕事もあるしと断ってきた。有給休暇や代休を取れない訳でもないのだが、そうまでして行きたいという関心はさっぱりなかった。

わたしには結果は分かっていた。しょぼい結果になる。
切込隊長が勝って損害賠償を認められ、削除を命じられるだろう。そして、西村はこの判決をいつもどおり無視して、損害賠償を踏み倒す。
そんな分り切ったしょぼい結果以外、わたしは想定できなかった。

しょぼいと言えば、ドメイン差し押さえの一件。あれから1年以上たったが、ドメインが差し押さえられた様子はなく、www.2ch.netのURLで普通に2ちゃんねるにつながる。
また、しょぼいと言えば、西村が第三者破産させられたという話も聞かない。

これと言ったことが何も起きない平穏かつ怠惰な日々が過ぎ去っていった。2ちゃんねるは何も変わらずそこにあった。

しょぼい。なにもかもしょぼ過ぎた。

エレベーターは1階についた。窓口で部屋番号を調べる。7○×号室だと思っていたら、やっぱし間違いで西村の裁判は7○△号室だった。

7○△号室、7○△号室・・・忘れないように頭に刷り込む。

再びエレベーターに乗り込む。7階へ。

わたしはこの裁判について再び思い返す。この裁判、最初は多少は世間(2ちゃんねる)の耳目を集めていた、西村が珍しく出廷すると言い出し、久方ぶりに裁判所に姿を現したのだ。最初の頃は傍聴席が満席になり整理券が配られる程だったという。

2007年1月29日の第一回口頭弁論が終わり、集まった報道各社の質問に対して西村は「今回は知り合いなので、面白いかなと思ったんです。原告がどんな顔をしてくるのか知りたかったんです」と答えている。この日、切込隊長側は代理人のみで本人は出廷しなかった。なお、切込隊長サイドは2ちゃんねる上の書き込みの内容が名誉毀損にあたると主張し、300万円の損害賠償を求め、名誉毀損にあたる書き込みの削除と今後、「山本一郎」(切込隊長の本名)や「切込隊長」などとあるスレッドを立てないようにすることを求めていた。

その後の口頭弁論では西村は出たり、出なかったり。この間、3月には読売新聞が、西村は敗訴43件、損害賠償・制裁金が4億円以上に上っており、そのほとんど不払いになっていることを一面で大きく報じた。その後の同紙の取材に対して西村は損害賠償を払う意思がないことを明らかにして「死刑なら払う」と言い放っている。

9月の第5回口頭弁論ではじめて二人は顔を合わせる。だが、名誉毀損のことや2ちゃんねるの資金云々について二人の見解の相違だけが明らかになった。法廷後、西村はオーマイニュースの記者の質問に答えて「もうちょっと面白いことになるかなと思っていたが、面白くない人になっていた。残念な感じ」と述べている。

その後、西村は関心を失ったのか出廷することはなく、11月の第7回口頭弁論で被告不在のまま結審。2008年2月18日に判決言い渡しとなった。裁判はなんとも時間がかかるね。

この裁判に対する世間の関心も薄れ、傍聴人は次第に少なくなっているという。投資一般板の切込隊長スレッドなど以外では話題に上がることもほとんどなくなっていた。オーマイニュースだけがこの裁判を地味に取材していた。わたしはこの裁判についてオーマイニュースの記事を読むだけで済ましていた。

ところが、2008年2月18日午後1時30分すぎ、わたしは裁判所合同庁舎に来て、1階と7階を行ったり来たりしている。

なんでこんなところに来たかというと、ある人から傍聴に来ないかと誘われたのだが、わたしはいつも通りに平日で仕事があると断った。すると、その人から有給でも取って来れられないのか、これに無関心では「(小説が)9割9分失敗して面白くないものになるでしょう」と言われてしまい。そこまで言われると、わたしもそんなモノなのかな〜とも思い行ってみることにした。

そして、わたしはようやく裁判所合同庁舎7階の7○△号室の前にたどり着いた。ここだ、ここ、ここ。切込隊長と西村の裁判だ。
入ろうとすると、ドアが開いて数人の人々が部屋からどやどやと出てゆく。 時間は13時33分ぐらいだった。
嫌な予感がする。
とりあえず中に入る。裁判をやっているようだ。
とりあえず傍聴席に座る。
裁判官の人が何か言っているが・・・ゴチョゴチョ言ってて聞き取れない。
図面がどうの・・・とか言ってる。 なんか違うような。
次回の予定はとか日時の調整をしはじめた。
今日は判決言い渡しで次回はないはず。
やはり俺は違う裁判を傍聴していたのか!
判決言い渡しは、わたしが部屋に入ろうとした入れ違いに人々が出て行った時に終わってしまったんだ。

「何しに来たんだろう・・・俺は??」

悄然として部屋を出る。
部屋を出ると。廊下で、なんか、それらしい人たちが立ち話をしている。
話しかけてみるとやはり切込隊長と西村の裁判を傍聴に来た人たちだった。
その人たちによると判決言い渡しは30秒ぐらいで終わってしまったとのこと。
そして、西村や切込隊長はもちろん代理人弁護士すら来なかったとのこと。(民事裁判の判決言い渡しでは珍しくないそうだ)
なんでも、切込隊長が主張する名誉棄損は認められ書き込みの削除が命じられ、損害賠償は300万円請求のうち80万円が認められたとのこと。

その言葉を裁判官の人から聞きたかった(><;)

部屋番号を間違って、1階と7階を行ったり来たりして時間を空費しなければ・・・

とりあえず、この判決を受けてのコメントを。
なにしろ「(小説が)9割9分失敗して面白くないものになる」か「ならない」がかかっている。
コメントを・・・コメント・・・コ・メ・ン・ト・は・・


( ´_ゝ`)フーン国防相


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2008年03月22日(土) 05:56:39 Modified by battlewatcher




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