失踪

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4年の月日が流れた。この間、2004年には2ちゃんねるの独身男性板で繰り広げられたオタク男の恋愛実話「電車男」が話題を呼び、スレッドが書籍化されてベストセラーとなる。この「電車男」はその後に映画化、テレビドラマ化もなされてヒット。2ちゃんねるに多大なる利益をもたらした。ちになみ、へそ曲がりのわたし(筆者)は「電車男懐疑論者」である。(要するに、あれは実話ではなくネタだと思ってるんだな。)

西村は合資会社東京アクセスに加えて東京プラス株式会社の代表取締役となり、また有限会社未来検索ブラジル、ドワンゴの関連会社ニワンゴの取締役など複数の企業の経営にも携わるようになっていた。いまやいっぱしの企業家である。

2ちゃんねるは日本最大級の有力サイトのひとつとなり、その意に反する者、目障りな者へは2ちゃんねるから大量のネットイナゴが押し寄せて、容赦なく炎上させられた。
数多くのブログが炎上崩壊し、いつしか炎上は日本のインターネット界特有の風物詩となる。

もはや、この強大なる者2ちゃんねるに逆らえる者なぞいないかに思えた。2ちゃんねるの推定利用者数は1000万人を超えていた。

          制   覇

インターネット黎明期にあめぞうをパクって2ちゃんねるを立ち上げて以来、西村が抱いていた野望が実現しようとしていた。

だが・・・

2006年9月22日。とつじょ夕刊フジが「2ちゃんねるの「ひろゆき」失踪…掲示板閉鎖も」と題して、西村の「失踪」を報道した。この件はテレビでも紹介された。

この報道によると、ある関係者は西村がこの8月末から携帯電話にも出ず、メールにも返事をしないと証言。2ちゃんねるにおける名誉毀損やプライバシー侵害などによる訴訟が多発し、損害賠償の総額は2000万円以上ともされる。これに対して、西村は裁判にも出廷せず、仮処分命令も無視。もちろん、損害賠償もビタ一文払わない。被告が西村個人のために個人口座や不動産の特定も難しく債権の回収はほとんどできていないという。
そして、西村の登記上の住所は新宿の古アパートになっているが、そこに人が住んでいる気配はなし。訴状すら見ていない模様。
要する債権者から逃げ回って雲隠れ状態であるとのこと。

「すわ!2ちゃんねる閉鎖かっ!?」世間は騒然となる。

これに対して、西村は自身のブログで

>失踪日記
>今日は東京ゲームショーに失踪していました。

・・・と、この日のエントリーでリアクション。自身の失踪ぶりを示す。ちなみに、これ以前からブログはマメに更新している。

というワケで、西村は2002年に最初に裁判所から損害賠償の支払いを命じられたときに表明した当初の意図を守り、裁判に負けても損害賠償を悠々と踏み倒していた。

その上に、最初の頃の裁判は自身が出廷していた(ただし、弁護士は立てない)が、この頃になると、訴状も無視。判決も無視。裁判所からの呼び出しにも応じないという態度をとっていた。最初は裁判所も物珍しかったが、いい加減、裁判にも飽きちゃったみたいなんだな。
このことについて、西村は「某雑誌の質問に答えてみるの巻。」と題する2006年10月4日の自身ブログのエントリーでこう述べている。

>北は北海道から、南は沖縄で裁判が起こっているので、
>全部に出席することは不可能です。
>んで、全部に出席できないのであれば、
>全部に出席しないというのが平等だと思っています。

>ちなみに、裁判を起こすより普通に削除依頼したほうが、
>お金もかからないし手軽なのですが、
>弁護士費用を無意味に払いたがる人もいるようですね。

とにかく、失踪していることになっていた西村が11月4日の早稲田大学の学園祭「早稲田祭」に招かれて講演する余裕を世間に見せつける。

ここでも西村は

「僕は沖縄から北海道まで訴えられているので、自腹で日本中を回るか、1件100万円以上払って弁護士をつけるかなんです。でも『(裁判を)やらない』という選択肢をとったら何も起きなかった。これが現状。勝とうが負けようが、払わなければ一緒なんですよ」

「賠償金を強制的に払わせる方法はこれ以上ない。イヤなら国会議員に献金して、そういう法律をつくればいい」

と言い放つ。

さらに自身の年収について「日本の人口よりちょっと多いくらい」と1億円以上の年収があることを明らかにした。

つまり、金は持っているが、損害賠償を払う気はまるで無しである。
この男はそれを公言して憚らない。
「交通違反のもみ消し方」から脈々と受け継がれた彼の人生哲学がここでも表れている。

結局、この失踪騒動はうやむやになり、2ちゃんねるは表面、変わりなく怠惰な日常を過ごす。

年が明けて、次なる「爆弾」が待ち受けていた。


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この作品は実話を元にしたフィクションであり、実在の人物、団体、インターネットサイトとは関係ありません。
ここに書かれている内容は、実際とは異なる場合がかなり多いでしょう。
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2008年03月22日(土) 05:55:05 Modified by battlewatcher




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