□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第3話」−− //クラエス、リコ
        // 壱拾参−3◆NqC6EL9aoU// Suspense,OC//「Capitano」 //2009/10/31


   □□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
            −−「Capitano−第3話」−−


「さて・・・午後から呼ばれてるからね。」

畑の雑草を手際よく抜き、コンポストに野菜屑と共に入れた後、クラエスは
宿舎に向かう。

「その前に今日は貴方をお風呂に入れなきゃ。」

一瞬、バセットの眉間に皺が寄り、足下が止まる。
クラエスは歩みを止めることなく、そんな彼を追い抜いざまに話しかける。
「・・・いいわよ。ビーチェに2回の不戦勝ハンデを頼もうかな。」

バセットの眉間には皺が寄ったままだ。
「5回ハンデなら台車で宿舎まで乗せてあげるわよ。」
少し離れた先からクラエスはやや上を向き言った。

ふぅ・・・何か諦めたように溜息を吐くと、再び彼は早足でトコトコと
クラエスに付いて行く。

                    ***

「あ、クラエスもお風呂?私もなんだ。」
リコがそう言って後ろから廊下を歩いてきた。

「ううん、先に彼のお風呂よ。そして午後に検査があるから、後で私も。」
「ふーん、私と一緒にお風呂だね、カピタン。」
そう言ってリコはバセットの頭を撫でた。

バセットは尻尾を振ってそれに答える・・・が、後ろでクラエスが一言はさむ。
「あら、さっきまで嫌がっていたのはドナタかしら?」
言われたバセットは気まずそうな伏目になる。

「え?ねぇカピタン、私と一緒でもイヤ?」
ぴぃ〜・・・と一段と諦めた声を出すとバセットは先頭を取って風呂場に入っていく。

「やっぱり犬ってお風呂嫌いなの?」
リコは脱衣所でクラエスに話した。
「まあ本来は自分固有の『存在主張』な匂いを消されるから当然の反応
らしいけど、義体棟で暮らす以上はね。」

「そーなんだ。何だか可哀想だね。」
「まあ・・・そうね・・・。」
リコは年齢に見合った脱ぎっぷりでサッと浴場に行った

この義体棟に"可哀想でない住人"はいない。
少なくとも私以上に幸福な者は・・・リコがそれに気が付くのはもっと後で良い。

浴室のドアを見ながらクラエスは思った。

                    ***

風呂場のシャワーブース・・・一番端の一区画には、「泥だらけ専用」という
札の下に「・・・とカピタン」なるプリシッラの手書きによる札が貼られている。

「随分な時間に御風呂なのね。」
風呂場特有の響きでクラエスの声が広がった。
「第二待機のバックアップだって。ジャンさんが早めに入って置けって。」
返すリコの声も遠く響いた。

「例のトリエラ達が行ったアレ?」
「公然組織の動きが何だか変なんだって。」
「・・・何事もなければ・・・良いわね。」

ザー・・・。
バセットに当てるクラエスのシャワーと、リコが当たるシャワーの音が共鳴する。

・・・暫しの沈黙が風呂場を包む。

「それにしても、いつも思うんだけど、クラエスのそう言う格好、珍しいよね。」
キュッと水栓を締める音と共にリコの声が響いた。

それは無理矢理に腰をベルトで締めたサイズ違いのブカブカのジーンズに、
袖を捲るだけ捲った着古した大人物のシャツという、クラエスには似合わない
実にくだけたものであった。

「『犬洗いスタイル』よ。彼は大人しいんだけど・・・本で読んだら普通の犬は
もっと暴れるんだって。」

そう言うクラエスの顔を見てバセットは尻尾を降った。
「ちょ・・・ちょっとカピタン!もう少し待ってね。」
クラエスの度のないメガネに水飛沫が散る。

「もう・・・一緒に入っちゃえばいいのに。」
「私だけの御風呂なら別に構わないんだけど、みんなのお風呂だからね。
仕方がないわ。」
大きなタオルでバセットを拭いながらクラエスは言う。

「じゃ出てるわよ。」
「え・・・クラエス、もう出ちゃうの?」
「彼を乾かさなきゃね。またその後で私も入るわ。」

                    ***
          
扇風機の前で鼻を伸ばし目を伏せた長い耳が後ろに流れる・・・。
そしてクラエスはバセットの両足を片方づつ上げながらドライヤーを振る。

どこかで聞いたような、激しい風音のなか、クラエスの脳裏には、空を覆う
厚い黒雲を切りさいて突き抜ける日の光と、その周りに白い雲影が見えた。

      ・・・それが何処だったか判らないけれど・・・。

そして今、自分が着用している「犬洗いスタイル」のジーンズとシャツ。
あまりのサイズ違いにジーンズの裾に大きくハサミを入れた瞬間・・・
布の厚みとは別の何かを指先に感じた事、そして裾を綴じるミシンが
なかなか進まなかった事をクラエスは思い出していた。

でも、これを着たとき、かつて黒雲の下、突然降った雨の中で、自分ではない
体温で暖められた誰かの懐かしい匂いをクラエスは感じた。
・・・何度か洗濯しても落ちない、汚れではない何かだった。

                    ***

「丁度、クラエスと入れ替わりだね。」
「気をつけてね。安全第一、結果は第二。」
「ジャンさんに言ったら怒られそうだなぁ。」
「自らの身を守る事も仕事の一つよ。自分だけでもそう思っていて・・・
無事を祈るわ。」
「うん、ありがとう。じゃ行ってくるね。」

                    ***
          
脱衣場にバセットハウンドは丸く座っていた。
そしてクラエスは一人、風呂場で髪を洗う。
クラエスは出来る限り他の娘たちとは時間を外して入浴することが多かった。

眠るとき以外にメガネを外す数少ない時間、しかもそれは"兵器"であったろう
自分の鋭い感覚が何故か甦ってくる時でもあった。

濡れた髪を絞ると、クラエスは無表情に鏡を見た。
小さな水音も響きさざめく、誰にも干渉されない、そして誰も・・・衣服すら
干渉してくれない世界。
何時だって"不在"を感じる・・・でも、それだけじゃ涙すら出なかった。

何かの拍子で起こる"不在"と"存在"の隙間に陥る時・・・。
クラエスは人知れず泣くのだった。

         それ以上は自分にはどうにもならない。

限界への諦めと、それでも割り切れない残像だった。

              
      ***

「今日は能力測定じゃなくて検査だけよ。安心して。」
そういってクラエスは研究棟の検査室に入っていった。
また何かを飲んで、注射をして、センサーの輪を潜って、グルグル回されて、
光を照射されて、うるさい機械に探られて・・・まあ、何時もの事。

                    ***

バセットハウンドは長椅子の上に座ると早速、目を瞑り静かに横たわった・・・
検査でも長いことは判っていた。


               【第3話−END→4話へ続く】→「Capitano−第4話」

「Capitano−第1話」「Capitano−第2話」「Capitano−第3話」「Capitano−第4話」

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

編集にはIDが必要です