最終更新:ID:1rOCpqr3lg 2010年05月25日(火) 17:18:38履歴
<YUI:side>
私、どうしちゃったんだろ?
気がつけば、いつの間にかあずにゃんのことを考えている。
部活のときもいつの間にかあずにゃんのこと見つめてる。
・・・・・・・・・・・最近の私はどこか変だ。
それはいつもの部活の練習中のことだった。私はいつものようにあずにゃんに抱きつく。
・・・・・そう、いつものスキンシップのはずだった。
・・・・・・でも
「あずにゃ〜ん♪・・・ぎゅッ」
「も、もうっ・・・・唯先輩やめてくださいよぉ・・・」
あずにゃんはいつも口では嫌がってるようなこと言うけど、絶対私から離れたりしない。
最近では何となくだけど身体をあずけてくるようになった気がする。
・・・・・・・まあ、私の気のせいかもしれないけどね。
「もう・・・唯先輩ったら」
そう言って、はにかんだような笑顔を見せてくる。
”どきんっ”
(・・・・あ、あれ?・・・なにこれ?)
ホントに突然だった。その笑顔を見た瞬間、私の心臓がどきどきと高鳴り始める。
自分でも何が起きたか分からなかった。そして思わずあずにゃんを抱きしめていた腕をパッと離した。
「唯先輩?」
「え・・・な、なに?」
「ど、どうかしましたか? 急に離したりして・・・・それにどうしたんですか? 顔すごく真っ赤ですよ?」
「へ? そ、そうなの?」
自分では分からないけど、あずにゃんが言うには私の顔は真っ赤になっているらしい。
・・・確かに自分でも分かるくらい顔が火照っている気がする。
「あ、もしかしてまた風邪引いちゃったんじゃ・・・・?」
「ええっ! ち、違うよぉ!・・・・・・たぶん」
「うーん、そうだ!・・・唯先輩、ちょっと失礼しますね?」
あずにゃんはそう言うと、自分の顔を私の方に近づけてくる。
(か、か、顔がち、近いよぉ・・・////)
そして次の瞬間、あずにゃんの額と私の額がコツンと合わさった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あずにゃんっ!?」
「熱は・・・・・ないみたいですねぇ・・・・」
私は胸のドキドキに耐えられなくて、あずにゃんからパッと離れる。
「だ、大丈夫だよぉ〜。 ぜんぜん元気だからっ!」
私はガッツポーズをとる。
「そ、そうですか?・・・・でも、あんまり無理しないでくださいね?」
「う、うん。 心配してくれてありがとね? あずにゃん」
(うう・・・・ホント、私どうしちゃったんだろ・・・・)
そしてその日から私は、あずにゃんの笑顔を見るたびに胸がドキドキするようになっていた。
* * *
「はぁ・・・・」
「お姉ちゃん? どうしたの、さっきからため息ばっかりついてるけど・・・・」
それは夕食の時間、私と憂はいつものように二人でご飯を食べてたんだけど、
私は無意識のうちにため息ばかりついていたらしい。さすがの憂もおかしいと思ったのか、私に質問してくる。
「え?・・・ああ・・・・うん・・・・な、なんでもないよ」
「もう・・・・そんな元気ない顔して言っても説得力ないよ、お姉ちゃん?」
・・・・・結局あの日から一週間、私はあずにゃんのことばかり考えるようになっていた。
それにあずにゃんへのスキンシップができなくなってしまっていた。どうしてなのか自分でも分からない。
「ねぇ・・・お姉ちゃん、何かあったなら相談にのるよ?」
「ええと・・・」
(どうしようかな・・・・・)
確かに、これ以上考えても私では答えは出そうになかった。そして私は憂に最近の自分について話すことにした。
「じゃ、じゃあ、少しだけ聞いてもらってもいいかな?」
「うん、いいよ!」
それから私は、今の自分について話しはじめる。
・・・・・・・・あずにゃんの笑顔を見ると胸がドキドキすること
・・・・・・・・いつものスキンシップができなくなってしまったこと
・・・・・・・・気がつくといつもあずにゃんのことを考えていること
そんな私の話を、憂は真面目な顔で聞いていた。
「・・・・・そ、それって・・・・・もしかして・・・・・・・」
「えっ! もしかして憂、なんでだか分かったの? 今の説明だけで?」
さすが私の妹、できのいい妹を持って私は幸せものだ。
「え?・・・・う、うん、なんとなくだけど。 ていうかこれしかないと思うんだけど・・・・」
これとはいったい何を指しているんだろう。私は憂に聞いてみる。
「これって何? もしかして私病気とかっ? な、ならすぐにでも病院に行かないとっ!?」
「ちょ、ちょっとまってお姉ちゃん! 確かに、その、病気っていえば病気だけど・・・そういうのとは違ってね?」
(?・・・病気だけど、病気じゃない・・・・どういうことだろ?)
「あ、あの・・・・良く分からないんだけど・・・あはは。 私にも分かるように説明していただけると嬉しいんですけどぉ」
こういうとき私は自分のバカさ加減を呪ってしまう。憂のように自分で気づければ一番なんだけどね・・・・。
「あのね・・・・もしかしてお姉ちゃん、梓ちゃんに恋しちゃったんじゃないかなぁ?」
「鯉?」
「そ、そっちの鯉じゃなくてっ! 恋愛の方の恋だよっ!」
「へ・・・・・?」
その瞬間、私の思考回路は停止した。そしてゆっくりと私の思考が動き出す。
「え・・」
「え?」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょ、お、お姉ちゃんっ!? き、近所迷惑になっちゃうよぉぉっ!」
私は事の重大さに自分を抑えられず大絶叫してしまった。
――――私が知った真実は、私の想像の遥か斜め上を行っていた。
* * *
「どう? 落ち着いた、お姉ちゃん?」
「う、うん。 ありがとう憂」
あれから少しだけ落ち着いてきた私は、憂の入れてくれたお茶をゆっくりと飲み干していく。
「ふぅ・・・・・・・・」
「それで・・・・・どうするの? お姉ちゃん」
「え? 何が?」
なぜか憂は、ちょっとだけ頬を赤らめ私に聞いてくる。
「だ、だからぁ、梓ちゃんのことだよぉ」
「あ・・・・・・・・・・・・・・・」
カァーーーーっと私の顔が火照ってくる。
(そ、そうだった。わ、私、あずにゃんのこと・・・その・・・・ううう・・・ど、どうしたらいいんだろ)
「その・・・告白するの?」
憂の言葉に私はまたもや驚いてしまう。
「え、ええぇぇぇっ! そ、そんな告白なんて、その、わ、私したことないし・・・・ていうか私って誰かを好きになるのって初めてだもん」
そう・・・・よく考えてみれば、生まれてこのかた、私は恋というものをしたことがない。
・・・だからあずにゃんへの気持ちにもぜんぜん気がつかなかったわけだし・・・。
(あれ? てことはもしかして、あずにゃんが私の初恋の相手?)
そのことを自覚するとさらに私の顔が熱くなる。もうどうしたらいいか自分でも分からない。
「そ、それに私たち女の子同士なんだよ? やっぱりこれってよくないことなんじゃ・・・・」
そうだ私もあずにゃんも女の子、普通に考えればこれはやっぱりおかしい。でもそんな私を憂は否定する。
「お姉ちゃんっ! 誰かを好きになるのに性別なんて関係ないよっ! 私思うんだ・・・・恋愛って心と心の繋がりが大事なんじゃないかって」
「う、憂・・・」
確かに憂の言う通りかもしれない。・・・・・・好きになった人がたまたま女の子だったってだけなんだよね。
「そ、そうだよねっ! 折角気付いた気持ちだもん・・・・私がんばってみるよっ!」
「その意気だよ、お姉ちゃん!」
「よ、よーし。そうと決まれば・・・・・・・・ど、どうしたらいいんだろ? きゅ、急に告白なんてしたらあずにゃん困っちゃうんじゃ・・・・・」
「うーん・・・・そうだなぁ・・・・・あ、そうだっ! 何かプレゼントとかしてみたらどうかな?」
おお・・・・さすが我が妹。考えることが私とはぜんぜん違うよ。
「うん、それいいかも。 プレゼントかぁ・・・・・何がいいかなぁ」
「明日、日曜日で休みだし街で探してみたらどうかな?」
そう、そういえば明日は休みだった。・・・・・何かいいものが見つかるかも知れないし明日は街に繰り出そうかな。
* * *
私、どうしちゃったんだろ?
気がつけば、いつの間にかあずにゃんのことを考えている。
部活のときもいつの間にかあずにゃんのこと見つめてる。
・・・・・・・・・・・最近の私はどこか変だ。
それはいつもの部活の練習中のことだった。私はいつものようにあずにゃんに抱きつく。
・・・・・そう、いつものスキンシップのはずだった。
・・・・・・でも
「あずにゃ〜ん♪・・・ぎゅッ」
「も、もうっ・・・・唯先輩やめてくださいよぉ・・・」
あずにゃんはいつも口では嫌がってるようなこと言うけど、絶対私から離れたりしない。
最近では何となくだけど身体をあずけてくるようになった気がする。
・・・・・・・まあ、私の気のせいかもしれないけどね。
「もう・・・唯先輩ったら」
そう言って、はにかんだような笑顔を見せてくる。
”どきんっ”
(・・・・あ、あれ?・・・なにこれ?)
ホントに突然だった。その笑顔を見た瞬間、私の心臓がどきどきと高鳴り始める。
自分でも何が起きたか分からなかった。そして思わずあずにゃんを抱きしめていた腕をパッと離した。
「唯先輩?」
「え・・・な、なに?」
「ど、どうかしましたか? 急に離したりして・・・・それにどうしたんですか? 顔すごく真っ赤ですよ?」
「へ? そ、そうなの?」
自分では分からないけど、あずにゃんが言うには私の顔は真っ赤になっているらしい。
・・・確かに自分でも分かるくらい顔が火照っている気がする。
「あ、もしかしてまた風邪引いちゃったんじゃ・・・・?」
「ええっ! ち、違うよぉ!・・・・・・たぶん」
「うーん、そうだ!・・・唯先輩、ちょっと失礼しますね?」
あずにゃんはそう言うと、自分の顔を私の方に近づけてくる。
(か、か、顔がち、近いよぉ・・・////)
そして次の瞬間、あずにゃんの額と私の額がコツンと合わさった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あずにゃんっ!?」
「熱は・・・・・ないみたいですねぇ・・・・」
私は胸のドキドキに耐えられなくて、あずにゃんからパッと離れる。
「だ、大丈夫だよぉ〜。 ぜんぜん元気だからっ!」
私はガッツポーズをとる。
「そ、そうですか?・・・・でも、あんまり無理しないでくださいね?」
「う、うん。 心配してくれてありがとね? あずにゃん」
(うう・・・・ホント、私どうしちゃったんだろ・・・・)
そしてその日から私は、あずにゃんの笑顔を見るたびに胸がドキドキするようになっていた。
* * *
「はぁ・・・・」
「お姉ちゃん? どうしたの、さっきからため息ばっかりついてるけど・・・・」
それは夕食の時間、私と憂はいつものように二人でご飯を食べてたんだけど、
私は無意識のうちにため息ばかりついていたらしい。さすがの憂もおかしいと思ったのか、私に質問してくる。
「え?・・・ああ・・・・うん・・・・な、なんでもないよ」
「もう・・・・そんな元気ない顔して言っても説得力ないよ、お姉ちゃん?」
・・・・・結局あの日から一週間、私はあずにゃんのことばかり考えるようになっていた。
それにあずにゃんへのスキンシップができなくなってしまっていた。どうしてなのか自分でも分からない。
「ねぇ・・・お姉ちゃん、何かあったなら相談にのるよ?」
「ええと・・・」
(どうしようかな・・・・・)
確かに、これ以上考えても私では答えは出そうになかった。そして私は憂に最近の自分について話すことにした。
「じゃ、じゃあ、少しだけ聞いてもらってもいいかな?」
「うん、いいよ!」
それから私は、今の自分について話しはじめる。
・・・・・・・・あずにゃんの笑顔を見ると胸がドキドキすること
・・・・・・・・いつものスキンシップができなくなってしまったこと
・・・・・・・・気がつくといつもあずにゃんのことを考えていること
そんな私の話を、憂は真面目な顔で聞いていた。
「・・・・・そ、それって・・・・・もしかして・・・・・・・」
「えっ! もしかして憂、なんでだか分かったの? 今の説明だけで?」
さすが私の妹、できのいい妹を持って私は幸せものだ。
「え?・・・・う、うん、なんとなくだけど。 ていうかこれしかないと思うんだけど・・・・」
これとはいったい何を指しているんだろう。私は憂に聞いてみる。
「これって何? もしかして私病気とかっ? な、ならすぐにでも病院に行かないとっ!?」
「ちょ、ちょっとまってお姉ちゃん! 確かに、その、病気っていえば病気だけど・・・そういうのとは違ってね?」
(?・・・病気だけど、病気じゃない・・・・どういうことだろ?)
「あ、あの・・・・良く分からないんだけど・・・あはは。 私にも分かるように説明していただけると嬉しいんですけどぉ」
こういうとき私は自分のバカさ加減を呪ってしまう。憂のように自分で気づければ一番なんだけどね・・・・。
「あのね・・・・もしかしてお姉ちゃん、梓ちゃんに恋しちゃったんじゃないかなぁ?」
「鯉?」
「そ、そっちの鯉じゃなくてっ! 恋愛の方の恋だよっ!」
「へ・・・・・?」
その瞬間、私の思考回路は停止した。そしてゆっくりと私の思考が動き出す。
「え・・」
「え?」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょ、お、お姉ちゃんっ!? き、近所迷惑になっちゃうよぉぉっ!」
私は事の重大さに自分を抑えられず大絶叫してしまった。
――――私が知った真実は、私の想像の遥か斜め上を行っていた。
* * *
「どう? 落ち着いた、お姉ちゃん?」
「う、うん。 ありがとう憂」
あれから少しだけ落ち着いてきた私は、憂の入れてくれたお茶をゆっくりと飲み干していく。
「ふぅ・・・・・・・・」
「それで・・・・・どうするの? お姉ちゃん」
「え? 何が?」
なぜか憂は、ちょっとだけ頬を赤らめ私に聞いてくる。
「だ、だからぁ、梓ちゃんのことだよぉ」
「あ・・・・・・・・・・・・・・・」
カァーーーーっと私の顔が火照ってくる。
(そ、そうだった。わ、私、あずにゃんのこと・・・その・・・・ううう・・・ど、どうしたらいいんだろ)
「その・・・告白するの?」
憂の言葉に私はまたもや驚いてしまう。
「え、ええぇぇぇっ! そ、そんな告白なんて、その、わ、私したことないし・・・・ていうか私って誰かを好きになるのって初めてだもん」
そう・・・・よく考えてみれば、生まれてこのかた、私は恋というものをしたことがない。
・・・だからあずにゃんへの気持ちにもぜんぜん気がつかなかったわけだし・・・。
(あれ? てことはもしかして、あずにゃんが私の初恋の相手?)
そのことを自覚するとさらに私の顔が熱くなる。もうどうしたらいいか自分でも分からない。
「そ、それに私たち女の子同士なんだよ? やっぱりこれってよくないことなんじゃ・・・・」
そうだ私もあずにゃんも女の子、普通に考えればこれはやっぱりおかしい。でもそんな私を憂は否定する。
「お姉ちゃんっ! 誰かを好きになるのに性別なんて関係ないよっ! 私思うんだ・・・・恋愛って心と心の繋がりが大事なんじゃないかって」
「う、憂・・・」
確かに憂の言う通りかもしれない。・・・・・・好きになった人がたまたま女の子だったってだけなんだよね。
「そ、そうだよねっ! 折角気付いた気持ちだもん・・・・私がんばってみるよっ!」
「その意気だよ、お姉ちゃん!」
「よ、よーし。そうと決まれば・・・・・・・・ど、どうしたらいいんだろ? きゅ、急に告白なんてしたらあずにゃん困っちゃうんじゃ・・・・・」
「うーん・・・・そうだなぁ・・・・・あ、そうだっ! 何かプレゼントとかしてみたらどうかな?」
おお・・・・さすが我が妹。考えることが私とはぜんぜん違うよ。
「うん、それいいかも。 プレゼントかぁ・・・・・何がいいかなぁ」
「明日、日曜日で休みだし街で探してみたらどうかな?」
そう、そういえば明日は休みだった。・・・・・何かいいものが見つかるかも知れないし明日は街に繰り出そうかな。
* * *
<YUI:side>
待ちに待った日曜日。
・・・・・・まあ、あれから一日も経ってないんだけどね。
私は商店街を物色していたわけなんだけど・・・・・どうも、これだ!って言うものが見つからない。
「うーん・・・・・ギー太を見つけたときみたいな運命の出会いはないかなぁ」
そんなときでだった・・・・私がそのお店を見つけたのは。
「あれ?・・・・・・・・あのお店・・・・」
大体商店街にならんでいる店は新しい作りのものばかりなんだけど、
そのお店は他のお店と違って古ぼけてるというかアンティークな感じというか、まあそんな感じだ。
私は気になったのでそのお店に入ってみることにした。
“カランカラン“
扉を開けると中はちょっと薄暗く、店内に並べられた商品はアンティークな感じのものばかりだった。
どうやらアンティークな作りのお店は売っているものもそんな感じだったらしい。
「・・・・」
私はお店に入り、キョロキョロと見回す。
(へぇ〜、アクセサリーとかも売ってるんだ・・・・)
「あ、これって・・・・・・ペアリング?」
私が見つけたのは小箱に入れられた二組の指輪だった。
見た目はシンプルなどこにでもあるような指輪だった。
・・・・・他にも指輪はたくさんあったけど、なぜか私はこの指輪が気になって仕方なかった。
そして私が指輪に触れようとした瞬間、不意に後ろから声をかけられた。
「おや、いらっしゃい・・・・お客さんかい?」
「っ!」
急に声をかけられたせいか、私は驚いてしまう。
そして後ろを振り向くと、そこにいたのは一人のお婆さんだった。
「え、えと・・・あの・・・こ、こんにちは。 お、お店の人ですか?」
「はい、こんにちは。 そうだよ、一応わたしが一人でやってる店でねぇ・・・まあ半分趣味でやってるようなものなんだけどね」
「へぇー・・・・・・・」
私は素直に驚いてしまった。歳は70歳くらいだろうか・・・・・そんなお婆さんが一人でお店をやってるなんて・・・。
(すごいなぁ・・・)
「それで、お嬢ちゃんは、お客さんでいいのかい? ん・・・・・・・・もしかして、その指輪が気になるのかい?」
私は指輪に触れる寸前で止まっていたから、お婆さんにも分かったらしい。
「あ、その・・・・はい。 なんでか分かんないけど、その、これが気になって・・・・」
「ふむ・・・・・・」
お婆さんは指輪と私の顔を見比べる。
(どうしたんだろ?)
と、疑問に思っていると不意にお婆さんがニッコリと微笑む。
「ふふ・・・・ちょっとその指輪を貸してごらん」
「え・・・・?あ、は、はい!」
何をするのか分からなかったけど、私はお婆さんの言う通りに指輪を取ってお婆さんに渡す。
お婆さんは指輪を受け取り、ゆっくりと窓の方へ歩いていく。
「お嬢ちゃんもこっちに来てごらん?」
お婆さんに呼ばれ私も窓に近づく。窓から差込む太陽の光がちょっと眩しかった。
「見てごらん?」
「え・・・・? こ、これって、うわぁ・・・・す、すごい・・・・」
私は感嘆の声を上げることしか出来ない。
なぜなら、お婆さんが手にしているペアリングが太陽の光で虹色に輝いていたからだ。
「ふふ、すごいでしょ。この指輪、光に当てると淡い虹色に輝いて見えるんだよ。・・・・昔からこの店にあるんだけど、この指輪に気がついたのは、お嬢ちゃんが初めてだよ」
「そ、そうなんですか?・・・・こんなにすごいのに」
「まあ・・・見た目は普通の指輪だかね、普段は光に当たってないわけだし。 気がつかないんだろうね」
私は、光に照らされ虹色に輝く指輪をじっと見つめる。
(これ・・・・・いいかも・・・・・)
「あ、あの私、これ買いますっ!?」
「おや?・・・・これを買うのかい・・・でも、お金は大丈夫?」
「え?」
私は、急いで値札を確認する。・・・・・・??
(あれ?)
そこに書かれていた値段は「100000円」だった。
(んん?見間違いかな?)
私は目を擦り、もう一度確認する。だけどやっぱりそこに書かれているのは1が1個に0が5個だった。
(ぜ、ゼロが一つ多いんじゃないかな?)
そんな私を見かねたのかお婆さんが私に話しかけてくる。
「うーん・・・さすがに十万円は手が出ないかい?・・・・・そうだねぇ、折角この指輪を見つけてくれたことだし、その半分でいいよ」
と、お婆さんは太っ腹なことを言い出した。・・・・それは明らかにおまけしすぎじゃないのかな。
「え、え、で、でも・・・・・いいんですか?」
「いいんだよ。 このままこの店に埋もれてしまうよりはずっとましさ」
私は無い頭を使って考える。
(うーん、5万円か・・・・・ギー太のときも5万円だったけど、あの時はお小遣い前借してもらったんだっけ・・・・うーんでも・・・・あ、そうだっ! あの手があったよっ!)
「あ、あのお婆さんっ! この指輪買います!・・・・でもでも、今はお金がないんで、何日か待ってもらえると嬉しいんですけど・・・?」
「ああ・・・・ぜんぜん構わないよ」
「あ、ありがとうございます!」
私はお辞儀をしてお礼を言う。
「必ず買いに来ますからっ! それじゃあまた」
私は、お婆さんに挨拶をしてお店から飛び出していった。
「おやおや・・・元気だねぇ」
お店から出た私は、さっそく鞄から携帯を取り出す。そしてある人にかけた。
“プルルルル、プルルルル”
“ガチャ”
2コールのあと、相手が電話を取る。
『もしもし? 唯ちゃん?』
「あ、ムギちゃん?・・・・・・・あのね・・・ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
そう、電話の相手は同じ軽音楽部の仲間のムギちゃんだ。・・・・やっぱりこういうときに頼りになるのはムギちゃんだ。
『なにかしら? あらたまって・・・』
「あのね・・・そのね・・・・実は」
一応あずにゃんの事は話さなかったけど
プレゼントを買うためにどうしてもお金が必要なことをムギちゃんに説明する。
『なるほど・・・それで私にバイト先を紹介して欲しいのね?』
そう、私が考えたあの手とはアルバイトのことだった。・・・・まあ、他に方法も無いしね。
「うん・・・何とかならないかな・・・・?」
『他ならぬ唯ちゃんの頼みだもの、大丈夫よ、私に任せて』
「ほ、ほんとに・・・・・ありがとうムギちゃん。 あ、それとバイトのことはみんなには内緒ね?」
『ふふ・・・わかったわ。それじゃ決まったら連絡するから。・・・・・・・・・それにしても、そのプレゼントは一体誰に上げるのか気になるなぁ』
「え、えぇっ! そ、それはその・・・・・な、内緒だよっ! 内緒!」
『まあまあまあ♪ もしかして唯ちゃん・・・』
「あっ! そ、そうだ・・・私ちょっと用事があるんだった。 そ、それじゃあ連絡待ってるねムギちゃん」
「あぁっ、ちょっと唯ちゃ」
“プツッ”
私はムギちゃんの返事を聞かずに電話を切る。少し悪いと思ったけど、仕方ない。
ムギちゃんはいろいろと鋭い子だから、私の話から何かを悟ってしまうかもしれない。
まだあずにゃんと上手くいったわけじゃないんだし、どうせなら上手くいってからみんなにも話したいよね。
「よーしっ! がんばるぞー! お〜っ」
あの指輪と一緒に私のこの気持ちを伝えよう!そう意気込んで・・・・・
でもこの時の私は気付いていなかった。
―――私のせいであずにゃんがどれだけ苦しんでいたのか分かってなかったんだ―――
* * *
待ちに待った日曜日。
・・・・・・まあ、あれから一日も経ってないんだけどね。
私は商店街を物色していたわけなんだけど・・・・・どうも、これだ!って言うものが見つからない。
「うーん・・・・・ギー太を見つけたときみたいな運命の出会いはないかなぁ」
そんなときでだった・・・・私がそのお店を見つけたのは。
「あれ?・・・・・・・・あのお店・・・・」
大体商店街にならんでいる店は新しい作りのものばかりなんだけど、
そのお店は他のお店と違って古ぼけてるというかアンティークな感じというか、まあそんな感じだ。
私は気になったのでそのお店に入ってみることにした。
“カランカラン“
扉を開けると中はちょっと薄暗く、店内に並べられた商品はアンティークな感じのものばかりだった。
どうやらアンティークな作りのお店は売っているものもそんな感じだったらしい。
「・・・・」
私はお店に入り、キョロキョロと見回す。
(へぇ〜、アクセサリーとかも売ってるんだ・・・・)
「あ、これって・・・・・・ペアリング?」
私が見つけたのは小箱に入れられた二組の指輪だった。
見た目はシンプルなどこにでもあるような指輪だった。
・・・・・他にも指輪はたくさんあったけど、なぜか私はこの指輪が気になって仕方なかった。
そして私が指輪に触れようとした瞬間、不意に後ろから声をかけられた。
「おや、いらっしゃい・・・・お客さんかい?」
「っ!」
急に声をかけられたせいか、私は驚いてしまう。
そして後ろを振り向くと、そこにいたのは一人のお婆さんだった。
「え、えと・・・あの・・・こ、こんにちは。 お、お店の人ですか?」
「はい、こんにちは。 そうだよ、一応わたしが一人でやってる店でねぇ・・・まあ半分趣味でやってるようなものなんだけどね」
「へぇー・・・・・・・」
私は素直に驚いてしまった。歳は70歳くらいだろうか・・・・・そんなお婆さんが一人でお店をやってるなんて・・・。
(すごいなぁ・・・)
「それで、お嬢ちゃんは、お客さんでいいのかい? ん・・・・・・・・もしかして、その指輪が気になるのかい?」
私は指輪に触れる寸前で止まっていたから、お婆さんにも分かったらしい。
「あ、その・・・・はい。 なんでか分かんないけど、その、これが気になって・・・・」
「ふむ・・・・・・」
お婆さんは指輪と私の顔を見比べる。
(どうしたんだろ?)
と、疑問に思っていると不意にお婆さんがニッコリと微笑む。
「ふふ・・・・ちょっとその指輪を貸してごらん」
「え・・・・?あ、は、はい!」
何をするのか分からなかったけど、私はお婆さんの言う通りに指輪を取ってお婆さんに渡す。
お婆さんは指輪を受け取り、ゆっくりと窓の方へ歩いていく。
「お嬢ちゃんもこっちに来てごらん?」
お婆さんに呼ばれ私も窓に近づく。窓から差込む太陽の光がちょっと眩しかった。
「見てごらん?」
「え・・・・? こ、これって、うわぁ・・・・す、すごい・・・・」
私は感嘆の声を上げることしか出来ない。
なぜなら、お婆さんが手にしているペアリングが太陽の光で虹色に輝いていたからだ。
「ふふ、すごいでしょ。この指輪、光に当てると淡い虹色に輝いて見えるんだよ。・・・・昔からこの店にあるんだけど、この指輪に気がついたのは、お嬢ちゃんが初めてだよ」
「そ、そうなんですか?・・・・こんなにすごいのに」
「まあ・・・見た目は普通の指輪だかね、普段は光に当たってないわけだし。 気がつかないんだろうね」
私は、光に照らされ虹色に輝く指輪をじっと見つめる。
(これ・・・・・いいかも・・・・・)
「あ、あの私、これ買いますっ!?」
「おや?・・・・これを買うのかい・・・でも、お金は大丈夫?」
「え?」
私は、急いで値札を確認する。・・・・・・??
(あれ?)
そこに書かれていた値段は「100000円」だった。
(んん?見間違いかな?)
私は目を擦り、もう一度確認する。だけどやっぱりそこに書かれているのは1が1個に0が5個だった。
(ぜ、ゼロが一つ多いんじゃないかな?)
そんな私を見かねたのかお婆さんが私に話しかけてくる。
「うーん・・・さすがに十万円は手が出ないかい?・・・・・そうだねぇ、折角この指輪を見つけてくれたことだし、その半分でいいよ」
と、お婆さんは太っ腹なことを言い出した。・・・・それは明らかにおまけしすぎじゃないのかな。
「え、え、で、でも・・・・・いいんですか?」
「いいんだよ。 このままこの店に埋もれてしまうよりはずっとましさ」
私は無い頭を使って考える。
(うーん、5万円か・・・・・ギー太のときも5万円だったけど、あの時はお小遣い前借してもらったんだっけ・・・・うーんでも・・・・あ、そうだっ! あの手があったよっ!)
「あ、あのお婆さんっ! この指輪買います!・・・・でもでも、今はお金がないんで、何日か待ってもらえると嬉しいんですけど・・・?」
「ああ・・・・ぜんぜん構わないよ」
「あ、ありがとうございます!」
私はお辞儀をしてお礼を言う。
「必ず買いに来ますからっ! それじゃあまた」
私は、お婆さんに挨拶をしてお店から飛び出していった。
「おやおや・・・元気だねぇ」
お店から出た私は、さっそく鞄から携帯を取り出す。そしてある人にかけた。
“プルルルル、プルルルル”
“ガチャ”
2コールのあと、相手が電話を取る。
『もしもし? 唯ちゃん?』
「あ、ムギちゃん?・・・・・・・あのね・・・ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
そう、電話の相手は同じ軽音楽部の仲間のムギちゃんだ。・・・・やっぱりこういうときに頼りになるのはムギちゃんだ。
『なにかしら? あらたまって・・・』
「あのね・・・そのね・・・・実は」
一応あずにゃんの事は話さなかったけど
プレゼントを買うためにどうしてもお金が必要なことをムギちゃんに説明する。
『なるほど・・・それで私にバイト先を紹介して欲しいのね?』
そう、私が考えたあの手とはアルバイトのことだった。・・・・まあ、他に方法も無いしね。
「うん・・・何とかならないかな・・・・?」
『他ならぬ唯ちゃんの頼みだもの、大丈夫よ、私に任せて』
「ほ、ほんとに・・・・・ありがとうムギちゃん。 あ、それとバイトのことはみんなには内緒ね?」
『ふふ・・・わかったわ。それじゃ決まったら連絡するから。・・・・・・・・・それにしても、そのプレゼントは一体誰に上げるのか気になるなぁ』
「え、えぇっ! そ、それはその・・・・・な、内緒だよっ! 内緒!」
『まあまあまあ♪ もしかして唯ちゃん・・・』
「あっ! そ、そうだ・・・私ちょっと用事があるんだった。 そ、それじゃあ連絡待ってるねムギちゃん」
「あぁっ、ちょっと唯ちゃ」
“プツッ”
私はムギちゃんの返事を聞かずに電話を切る。少し悪いと思ったけど、仕方ない。
ムギちゃんはいろいろと鋭い子だから、私の話から何かを悟ってしまうかもしれない。
まだあずにゃんと上手くいったわけじゃないんだし、どうせなら上手くいってからみんなにも話したいよね。
「よーしっ! がんばるぞー! お〜っ」
あの指輪と一緒に私のこの気持ちを伝えよう!そう意気込んで・・・・・
でもこの時の私は気付いていなかった。
―――私のせいであずにゃんがどれだけ苦しんでいたのか分かってなかったんだ―――
* * *
<AZUSA:side>
最近、唯先輩の様子がおかしい・・・・・・・・・・・。
目が合ってもすぐに逸らされたり、ほとんど毎日のようにしてきたスキンシップもここ最近では無くなっている。
本当にどうしてしまったんだろう・・・・・・もしかして・・・・・
――――私は唯先輩に嫌われてしまったんだろうか。
「よーし!今日の練習はここまでにしとくか!」
「そうだな」
「うん!」
「ふふふ♪」
いつものように律先輩が部活の終わりを告げ、澪先輩と唯先輩がそれに答える。ムギ先輩は終始笑顔だ。
そして私たちはそれぞれ帰り支度を始める。
いつもの放課後・・・・・変わらない日常・・・・・のはずだった。
・・・・・でも
「よし!それじゃ、帰ろうぜ!みんな」
「あ、ごめんね? 今日もね、私ちょっと用事があるんだ!・・・だから先帰るね?」
律先輩の言葉に唯先輩が反応する。・・・・・・・・・今日だけの用事なら何もおかしいことはなかった
「えー、またかよ。今日で1週間になるぜ?」
「そういえばそうだな、いったい何してるんだ?」
「・・・・・(ふぅ・・・・知らない振りをするのも大変ね・・・)」
そう・・・唯先輩が私たちと一緒に帰らなくなってもう一週間になるのだ。
途中で別れるにしても、帰るときはいつもみんな一緒だったからだ。
先輩たちもさすがにおかしく思っているのか、次々に唯先輩に質問する。
「ええと・・・・その・・・・あの・・・・・・・」
先輩たちの質問攻めに唯先輩はそわそわしている。そんな中、唯先輩がチラッと私の方に視線を向けてくる。
“ドキンっ”
唯先輩のその視線に私の心臓が跳ねた。
(あれ?・・・なんで?・・・)
「うーん・・・ごめんね、やっぱり内緒!それじゃあまた明日ね」
ガチャっと唯先輩が扉を開ける。
「あ・・・ゆ、ゆいせんぱっ・・・・・・・・い」
さっきの視線が気になった私は唯先輩を呼び止めようとしたけど、少し遅かった。
・・・・すでに唯先輩は音楽室から出て行った後だった。
* * *
「うーん、それにしても唯のやつ、一体どうしたんだ?」
「笑顔だったからな。良くないことがあったって訳じゃないと思うけど・・・」
「そうねぇ・・・(はぁ・・・)」
「・・・・・・・・・」
唯先輩の欠けたメンバーで帰り道を歩く。
どうやら先輩たちは、さっきの唯先輩の態度が気になって仕方ないようだ。
「はっ!?ま、まさか、彼氏ができたとかっ!?」
「っ!?」
律先輩が今思いつきました!って感じで叫ぶ。・・・・言葉とは時に残酷だ。
“ズキンッ”
その何気ない言葉に私の胸に痛みが走る。・・・・・考えなかったわけじゃない。
もしかしたら、そういう人が出来たから一緒に居られなくなったんじゃないかって、心のどこかで思ってた。
・・・・万が一そうだったとして、それは喜ぶべきことだとは分かってる。
でも、それを考えるとなぜか不安で胸が張り裂けそうになるんだ・・・。
・・・・・私にはこの胸の痛みの理由が分からなかった・・・・・・・・。
「えぇぇぇ!そ、そんなまさかぁ〜、あの唯だぞ?」
「そ、そうですよ・・・(ゆ、唯ちゃん、何か大変なことになってるわ)」
律先輩の予想に澪先輩とムギ先輩はちょっと顔を紅くして反論する。
「って、何気にひどいなお前ら・・・でもさー可能性はゼロじゃないだろ?・・・天然ボケのアホの子だけど、見た目は可愛いんだし」
「ま、まあ確かにそうだけど・・・・・・ていうかアホの子って」
律先輩の言葉に澪先輩が苦笑する。
そして私はそれどころじゃなかった。嫌な考えばかりが浮かんで先輩たちの会話なんて耳に入っていなかった。
そんな私に違和感を感じたのか、ムギ先輩が私に声をかけてくる。
「梓ちゃん大丈夫? 顔色が悪いわよ?」
その言葉に反応して、律先輩と澪先輩も私の顔色を窺う。
「ほんとだ。梓、お前顔が真っ青だぞ」
「だ、大丈夫か? もしかして風邪でも引いたんじゃ・・・・・」
どうやら、今の私の顔は相当ひどいらしい。・・・・自分じゃ分からないからなんとも言えないけど・・・・・。
心配されるのは嬉しいんだけど、私はなぜか居心地が悪くなってしまう。
「い、いえ・・・・なんでもないんです。風邪でもないですから・・・そ、それじゃ私ここで失礼します。ま、また明日っ!」
「あっ!お、おいっ!」
ダッっと、私はその場から逃げ出すように走り出す。
そんな私に澪先輩が呼び止めようとするけど、私は聞こえない振りをして、足を止めなかった。
その場に取り残された3人は、走り去っていく梓の後姿を心配そうに見つめていた。
「うーん・・・唯の様子もおかしいけど、梓の様子もおかしいな・・・」
「大丈夫かなぁ・・・梓」
「何もなければいいんだけど・・・・」
「まあ・・・・ここで考え込んでても仕方ないし、私たちも帰ろうぜ?」
「そうだな・・・」
「ええ・・・(梓ちゃんのあの様子・・・もしかして・・・)」
* * *
家に着いた私は、飛び込むようにベッドに寝転がった。ギシギシとスプリングが軋む音が聞こえる。
「・・・・・・・はぁ・・・・・」
募り募った切望は、溜息となってこぼれる・・・・・・
「唯先輩・・・・・・・・・」
(どうしてこうなったんだろ・・・・)
唯先輩と触れ合わなくなって、どれくらい経っただろう・・・・。
そのことを思い出そうとすると、なぜか胸が締め付けられる。
・・・・・・・頭に浮かんでくるのは唯先輩のことばかりだった・・・・・・。
『あずにゃん♪』
このあだ名で呼ばれるようになってから、ずいぶん月日が経った・・・・。
最初は不本意で付けられたあだ名だけど、いつの間にか呼ばれることに嬉しく感じている自分がいたんだ。
『ほ〜ら♪あずにゃ〜ん♪・・ギュッ』
そう言って抱きついてくる唯先輩の温もりが暖かくて、優しくて、胸がドキドキするのを止められなかった・・・・・・。
そして、花が咲いたような眩しい笑顔を私に向けてくれるのが嬉しくて・・・・・・。
でも・・・・・・そんな笑顔や優しさが、私以外の誰かに向けられる・・・・・。
そう考えた瞬間、不安と絶望が私の心を支配した。
「あ・・・れ・・・・?・・・なん・・・で・・・」
(どうして・・・・こんなに苦しいの?)
溢れる涙を抑えられなかった。・・・・自分でもなぜ涙が出るのか理解できない。
・・・・私は一体どうしてしまったんだろう・・・・。
「ぐす・・・うぅ・・・・ゆい、せんぱい・・・・・ぐす・・・・やだ・・・・・やだよぉ・・・・」
唯先輩と一緒にいたい・・・・そばにいたいという想いが私の中から溢れてくるのを感じた。
(・・・・私・・・・・・・・私は・・・・・・・・唯先輩の事が・・・・・・・)
自然と心の中に紡がれる言葉に、私はハッとする。・・・・あぁ・・・・そっか・・・・やっと分かった・・・・私は・・・
―――――唯先輩の事が好きだったんだ。
どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。いくら考えても分かりそうになかった。
きっと私は自分で思ってるよりも鈍感なのかもしれない。
(私は、この気持ちをどうしたらいいの・・・・?)
いくら考えても、今の私には、答えは見つかりそうになかった・・・・・・・・・。
* * *
最近、唯先輩の様子がおかしい・・・・・・・・・・・。
目が合ってもすぐに逸らされたり、ほとんど毎日のようにしてきたスキンシップもここ最近では無くなっている。
本当にどうしてしまったんだろう・・・・・・もしかして・・・・・
――――私は唯先輩に嫌われてしまったんだろうか。
「よーし!今日の練習はここまでにしとくか!」
「そうだな」
「うん!」
「ふふふ♪」
いつものように律先輩が部活の終わりを告げ、澪先輩と唯先輩がそれに答える。ムギ先輩は終始笑顔だ。
そして私たちはそれぞれ帰り支度を始める。
いつもの放課後・・・・・変わらない日常・・・・・のはずだった。
・・・・・でも
「よし!それじゃ、帰ろうぜ!みんな」
「あ、ごめんね? 今日もね、私ちょっと用事があるんだ!・・・だから先帰るね?」
律先輩の言葉に唯先輩が反応する。・・・・・・・・・今日だけの用事なら何もおかしいことはなかった
「えー、またかよ。今日で1週間になるぜ?」
「そういえばそうだな、いったい何してるんだ?」
「・・・・・(ふぅ・・・・知らない振りをするのも大変ね・・・)」
そう・・・唯先輩が私たちと一緒に帰らなくなってもう一週間になるのだ。
途中で別れるにしても、帰るときはいつもみんな一緒だったからだ。
先輩たちもさすがにおかしく思っているのか、次々に唯先輩に質問する。
「ええと・・・・その・・・・あの・・・・・・・」
先輩たちの質問攻めに唯先輩はそわそわしている。そんな中、唯先輩がチラッと私の方に視線を向けてくる。
“ドキンっ”
唯先輩のその視線に私の心臓が跳ねた。
(あれ?・・・なんで?・・・)
「うーん・・・ごめんね、やっぱり内緒!それじゃあまた明日ね」
ガチャっと唯先輩が扉を開ける。
「あ・・・ゆ、ゆいせんぱっ・・・・・・・・い」
さっきの視線が気になった私は唯先輩を呼び止めようとしたけど、少し遅かった。
・・・・すでに唯先輩は音楽室から出て行った後だった。
* * *
「うーん、それにしても唯のやつ、一体どうしたんだ?」
「笑顔だったからな。良くないことがあったって訳じゃないと思うけど・・・」
「そうねぇ・・・(はぁ・・・)」
「・・・・・・・・・」
唯先輩の欠けたメンバーで帰り道を歩く。
どうやら先輩たちは、さっきの唯先輩の態度が気になって仕方ないようだ。
「はっ!?ま、まさか、彼氏ができたとかっ!?」
「っ!?」
律先輩が今思いつきました!って感じで叫ぶ。・・・・言葉とは時に残酷だ。
“ズキンッ”
その何気ない言葉に私の胸に痛みが走る。・・・・・考えなかったわけじゃない。
もしかしたら、そういう人が出来たから一緒に居られなくなったんじゃないかって、心のどこかで思ってた。
・・・・万が一そうだったとして、それは喜ぶべきことだとは分かってる。
でも、それを考えるとなぜか不安で胸が張り裂けそうになるんだ・・・。
・・・・・私にはこの胸の痛みの理由が分からなかった・・・・・・・・。
「えぇぇぇ!そ、そんなまさかぁ〜、あの唯だぞ?」
「そ、そうですよ・・・(ゆ、唯ちゃん、何か大変なことになってるわ)」
律先輩の予想に澪先輩とムギ先輩はちょっと顔を紅くして反論する。
「って、何気にひどいなお前ら・・・でもさー可能性はゼロじゃないだろ?・・・天然ボケのアホの子だけど、見た目は可愛いんだし」
「ま、まあ確かにそうだけど・・・・・・ていうかアホの子って」
律先輩の言葉に澪先輩が苦笑する。
そして私はそれどころじゃなかった。嫌な考えばかりが浮かんで先輩たちの会話なんて耳に入っていなかった。
そんな私に違和感を感じたのか、ムギ先輩が私に声をかけてくる。
「梓ちゃん大丈夫? 顔色が悪いわよ?」
その言葉に反応して、律先輩と澪先輩も私の顔色を窺う。
「ほんとだ。梓、お前顔が真っ青だぞ」
「だ、大丈夫か? もしかして風邪でも引いたんじゃ・・・・・」
どうやら、今の私の顔は相当ひどいらしい。・・・・自分じゃ分からないからなんとも言えないけど・・・・・。
心配されるのは嬉しいんだけど、私はなぜか居心地が悪くなってしまう。
「い、いえ・・・・なんでもないんです。風邪でもないですから・・・そ、それじゃ私ここで失礼します。ま、また明日っ!」
「あっ!お、おいっ!」
ダッっと、私はその場から逃げ出すように走り出す。
そんな私に澪先輩が呼び止めようとするけど、私は聞こえない振りをして、足を止めなかった。
その場に取り残された3人は、走り去っていく梓の後姿を心配そうに見つめていた。
「うーん・・・唯の様子もおかしいけど、梓の様子もおかしいな・・・」
「大丈夫かなぁ・・・梓」
「何もなければいいんだけど・・・・」
「まあ・・・・ここで考え込んでても仕方ないし、私たちも帰ろうぜ?」
「そうだな・・・」
「ええ・・・(梓ちゃんのあの様子・・・もしかして・・・)」
* * *
家に着いた私は、飛び込むようにベッドに寝転がった。ギシギシとスプリングが軋む音が聞こえる。
「・・・・・・・はぁ・・・・・」
募り募った切望は、溜息となってこぼれる・・・・・・
「唯先輩・・・・・・・・・」
(どうしてこうなったんだろ・・・・)
唯先輩と触れ合わなくなって、どれくらい経っただろう・・・・。
そのことを思い出そうとすると、なぜか胸が締め付けられる。
・・・・・・・頭に浮かんでくるのは唯先輩のことばかりだった・・・・・・。
『あずにゃん♪』
このあだ名で呼ばれるようになってから、ずいぶん月日が経った・・・・。
最初は不本意で付けられたあだ名だけど、いつの間にか呼ばれることに嬉しく感じている自分がいたんだ。
『ほ〜ら♪あずにゃ〜ん♪・・ギュッ』
そう言って抱きついてくる唯先輩の温もりが暖かくて、優しくて、胸がドキドキするのを止められなかった・・・・・・。
そして、花が咲いたような眩しい笑顔を私に向けてくれるのが嬉しくて・・・・・・。
でも・・・・・・そんな笑顔や優しさが、私以外の誰かに向けられる・・・・・。
そう考えた瞬間、不安と絶望が私の心を支配した。
「あ・・・れ・・・・?・・・なん・・・で・・・」
(どうして・・・・こんなに苦しいの?)
溢れる涙を抑えられなかった。・・・・自分でもなぜ涙が出るのか理解できない。
・・・・私は一体どうしてしまったんだろう・・・・。
「ぐす・・・うぅ・・・・ゆい、せんぱい・・・・・ぐす・・・・やだ・・・・・やだよぉ・・・・」
唯先輩と一緒にいたい・・・・そばにいたいという想いが私の中から溢れてくるのを感じた。
(・・・・私・・・・・・・・私は・・・・・・・・唯先輩の事が・・・・・・・)
自然と心の中に紡がれる言葉に、私はハッとする。・・・・あぁ・・・・そっか・・・・やっと分かった・・・・私は・・・
―――――唯先輩の事が好きだったんだ。
どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。いくら考えても分かりそうになかった。
きっと私は自分で思ってるよりも鈍感なのかもしれない。
(私は、この気持ちをどうしたらいいの・・・・?)
いくら考えても、今の私には、答えは見つかりそうになかった・・・・・・・・・。
* * *
<AZUSA:side>
自分の気持ちに気付いた日からすでに3日が経過していた。
結局あれから何も進展していない。
自分の気持ちについても、唯先輩の様子がおかしいことについても。
それはお昼休みのことだった。私はいつものように憂とお昼ご飯を食べていた。
「・・・・ねぇ梓ちゃん」
「・・・・・・・・・」
「梓ちゃん!」
「っ!・・・あ、な、何?憂・・・」
「大丈夫? なんだか元気ないよ? なにかあったの?」
そう言って、憂は心配そうな顔を向けてくる。・・・・どうやらボーっとしていたようだ。
(いけない、いけない・・・・また考え込んでた)
唯先輩を好きだと自覚してからというもの、唯先輩のことばかり考えるようになっていた。
気がついたら唯先輩が私の頭の中に居るのだ。これはもう・・・・末期かもしれない。
「ううん。な、なんでもないよ・・・ごめん心配かけて」
「何か心配事? 私でよければいつでも相談に乗るからね?」
憂にここまで言わせるとは。どうやら私は相当沈んでいたらしい。
(でも・・・・もしかしたら憂なら、最近の唯先輩のことなんか知ってるかもしれない)
そう思った私は憂に相談することにした。
「じゃあ・・・その・・・ちょっとだけいいかな・・・」
「うん?」
「あのさ・・・・・・・その・・・・・・最近、唯先輩に変わったこととかなかったかな?」
「え?梓ちゃんの悩みごとってお姉ちゃんのことなの?」
さすがの憂も驚いた表情を見せる。まあ妹だもんね・・・。
「ここ1、2週間くらいなんだけど・・・・・唯先輩、部活が終わるとすぐ帰っちゃうんだ、何か用事があるみたいなんだけど・・・でも何も教えてくれないし」
「っ!」
「そ、それにね・・・・・なんだか最近・・・・私のこと避けてるような・・・・気がするし・・・・」
「えっ!?・・・・・・あ、ええと、その、あの」
(あれ?・・・・なんか・・・)
憂の様子がおかしい。視線が泳いでる。すごく、ていうかかなり挙動不審だ。・・・・・これは・・・・
「も、もしかして、唯先輩が何やってるか知ってるのっ!?」
私は、冷静さをなくしガタンと机から身を乗り出す。
「ええと・・・・・・・その・・・・・・・うん・・・」
私の剣幕に押されたのか、憂は小さく頷く。
「お、教えて、唯先輩、いったい何やってるの?」
真実を知れば、私はもっと辛くなるかもしれない。でも知らないでいるよりはずっとマシだ。
「ご、ごめん・・・・・・教えられないの・・・・・・お姉ちゃんに口止めされてるから」
しかし、そんな私の質問に憂は答えてはくれず、申し訳なさそうに謝ってくる。
「え?・・・・ど、どうして?」
「ごめんね・・・・梓ちゃん“だけ”には絶対に教えられないの・・・」
(私だけ?・・・・なんで・・・・どうして・・・・ホントに嫌われちゃったの?)
と、一瞬考えてしまい涙が出そうになるが、そんな私を他所にさらに憂は話を続ける。
「でもね!・・・・私からは言えないけど、もうちょっとしたら、絶対お姉ちゃんから話すと思うから。 だからそれまでお姉ちゃんを信じて待っててあげて?・・・お願い梓ちゃん」
「え?・・・・・・・う、うん」
(ど、どういうこと・・・・? 嫌われたわけじゃないの・・・?)
もう何がなんだか分からない。しかし憂の真剣な顔に私は思わず頷いてしまっていた。
(はぁ・・・結局、何も分からなかったな・・・・・)
* * *
そして放課後・・・・・・・結果から言えば、私はお昼に憂に言われたことなど頭から抜け落ちていたのかもしれない。
練習後、私は思い切って唯先輩に理由を尋ねてみたのだ。
・・・でも・・・
「あずにゃんには教えられないんだ・・・ごめんね」
その一言が引き金だった。・・・・・どうやら私は自分で思っているよりも精神的に限界だったようだ。
「っ!?」
(な・・んで・・・)
「・・・んで・・・・・・・・・・・か・・・」
「え?」
「なんで何も教えてくれないんですかっっ!!?」
「っ!?」
気付いたときにはすでに、唯先輩に怒声を浴びせていた。
きっといろんな想いや感情が頭の中をぐるぐるして、パンクしちゃったんだと思う。
「!!・・・お、おい梓!?」
「ひゃっ!?」
「梓ちゃん!?」
先輩たちが何か言っているようだったけど、私の耳には全く届いていなかった。
澪先輩に限っては私の怒声に驚いてビクビクしている。
「あ、あずにゃん?」
私の剣幕に、さすがの唯先輩も驚きを隠せないようだ。・・・でも私は自分を止めることはできなかった。
「私がっ!私が、どんな気持ちでいるかも知らないくせにっ!!」
「あ、あず・・・・」
唯先輩が何か言おうとするけど、私はそれを許さない。
「私のこと嫌いなんですかっ!? だったらはっきりいってくださいよっ!?
「ち、ちがっ・・・・」
「どうせ唯先輩にとって私なんてどうでもいいんだっ!!」
・・・・・・・・私は何を言ってるんだろう・・・・・・・
「バカ・・・・・私の気も知らないでっ!・・・・もういいですよっ!・・・・・・・唯先輩なんて・・・・・・・・唯先輩なんてっ!」
・・・・・・・・何を言っているのか、自分でも分からなかった・・・・・・・
「大っ嫌いっ!!」
「っ!!?」
・・・・・・・・・・・私は最低だ・・・・・・・感情にまかせて一番言っちゃいけないことを・・・・・
唯先輩は私の言葉にぽろぽろと大粒の涙を流していた。
「ぐす・・・あ・・あれ・・・・な・・んで・・・・・・?」
唯先輩は涙を拭おうと必死になっている。しかし、その涙はとどまることを知らず、次から次へと溢れてくる。
今まで一度だって見せたことの無い、唯先輩の悲しみの涙。
・・・・・それを私が・・・・・
「あ・・・あ・・・」
ただ絶望した。その涙を前に私は一歩、また一歩とゆっくり後ろに下がって行く。
もう一秒だってその涙を見ていられなくて、私は踵を返しその場から逃げ出した。
・・・・・泣き続ける唯先輩と他の先輩たちを残して・・・・・。
「ぐす・・・あ、あずにゃ・・・まっ・・・・・て・・・」
音楽室から出る前、唯先輩に呼び止められたような気がしたけど、私は振り返りもしなかった。
<YUI:side>
『大っ嫌いっ!!』
そう言われた瞬間、私の中で何かが崩れていくような気がした。
ただ、ただ、涙だけが溢れてくる。
結局私はあずにゃんに何も話せなかった・・・・。ちゃんと話していればこんなことにはならなかったのかな。
(私のせいで・・・・あずにゃんが・・・・)
ただ一つ分かること・・・それは、私の行動があずにゃんを傷つけていたということ。
そうだ、きっと私が悪かったんだ。あずにゃんがこんなに辛い想いをしているなんて知らなかった。
・・・・結局私は自分のことばかりで、周りのことが見えていなかったんだね・・・・。
「お、おい唯大丈夫か・・・」
泣き続ける私に澪ちゃんが心配そうに駆け寄ってくる。
「え・・・? ぐす・・・う、うん・・・だ、だいじょうぶだよ・・・・ぐす・・・ごめんね、泣いちゃって・・・」
私は精一杯笑顔を作ろうとするんだけど・・・・。
「バカっ・・・・ぜんぜん大丈夫じゃないだろ!」
強がる私にりっちゃんが怒る。
「唯ちゃん・・・・・・・・」
ムギちゃんも心配そうに私を見ている。
(・・・・私、あずにゃんだけじゃなくて・・・・みんなにも迷惑かけてる・・・)
私のせいで周りの人たちに迷惑をかけている。その事実に私の心はさらに沈んでしまう。
(私・・・あずにゃんのこと・・・・・好きにならないほうがよかったのかな・・・・・?)
私はもう完全に自信を失っていた。
「ほ、ほんとに・・・・大丈夫だから・・・その・・・・・あ・・・わ、私、もう帰るね? ・・・・そ、それじゃっ」
どうにも居た堪れなくなった私は、あずにゃんの後を追うように音楽室を後にした。
「あ、お、おいっ・・・・・ゆ、唯っ、待てよ、って・・・もういないし・・・・・・」
律が慌てて呼び止めるが、すでに唯はいなかった。
「大丈夫かな・・・唯・・・・。 それに・・・・梓も・・・」
「あー・・・もうっ! いったいこれからどうなっちまうんだよっ!」
澪も律もこれからの軽音楽部に一抹の不安を感じていた。・・・・・・・ただ一人、紬だけを除いて。
「(唯ちゃんが自分で話さないことを私が話す訳にはいかなし・・・・・・・・・それに梓ちゃんのあの様子・・・・あれは・・・・もう間違いないわね・・・・・・)」
真剣な顔で考え込む紬。
「(だったら、私が出来ることは・・・・・・・・・)」
・・・・・・・・・・・・そして紬はその心に何かを決めていた。
と、その時・・・・・
ガチャっと音楽室の扉が開く。
「あら? あなたたちまだ残ってたの?」
入ってきたのは、軽音楽部顧問の山中さわ子だった。
「あ、あれさわちゃん? さっき出てったのに・・・なんで?」
律が不思議そうにさわ子に尋ねる。そう、律の言うとおり唯と梓のごたごたの少し前にさわ子は一度いなくなっている。
「え?・・・・ああ、ちょっと忘れ物しちゃってね。・・・・・・それであなたたちはどうかしたの?」
「え?」
「なんかみんな少し元気ないけど・・・・何かあったの?」
「えぇっ!・・・・ああ・・・・いやその・・・・な、なんにもないよ? ほんとなんもなかったから・・・え、えーと・・・・そ、それじゃ二人とも、そろそろ帰ろうぜっ!」
さわ子の指摘に挙動不審になる律は、他の二人を急かす。
「そ、そうだな・・・・・・・そ、それじゃさわ子先生また明日」
「それでは先生、失礼します」
澪と紬はペコリとお辞儀をして、律の後に続く。
「なんだっていうのよ・・・もう」
音楽室にただ一人残されたさわ子は怪訝そうに呟く。
そしてさわ子は大変なことに気付く。
「・・・・・・・・・・・・・・・はっ! ちょ・・・・ちょっと待って・・・・・・・・わ、私の出番って、これだけなのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
音楽室に絶叫が木霊する。
山中さわ子、2●歳・・・・・・彼女に春はまだこない・・・・・・。
* * *
自分の気持ちに気付いた日からすでに3日が経過していた。
結局あれから何も進展していない。
自分の気持ちについても、唯先輩の様子がおかしいことについても。
それはお昼休みのことだった。私はいつものように憂とお昼ご飯を食べていた。
「・・・・ねぇ梓ちゃん」
「・・・・・・・・・」
「梓ちゃん!」
「っ!・・・あ、な、何?憂・・・」
「大丈夫? なんだか元気ないよ? なにかあったの?」
そう言って、憂は心配そうな顔を向けてくる。・・・・どうやらボーっとしていたようだ。
(いけない、いけない・・・・また考え込んでた)
唯先輩を好きだと自覚してからというもの、唯先輩のことばかり考えるようになっていた。
気がついたら唯先輩が私の頭の中に居るのだ。これはもう・・・・末期かもしれない。
「ううん。な、なんでもないよ・・・ごめん心配かけて」
「何か心配事? 私でよければいつでも相談に乗るからね?」
憂にここまで言わせるとは。どうやら私は相当沈んでいたらしい。
(でも・・・・もしかしたら憂なら、最近の唯先輩のことなんか知ってるかもしれない)
そう思った私は憂に相談することにした。
「じゃあ・・・その・・・ちょっとだけいいかな・・・」
「うん?」
「あのさ・・・・・・・その・・・・・・最近、唯先輩に変わったこととかなかったかな?」
「え?梓ちゃんの悩みごとってお姉ちゃんのことなの?」
さすがの憂も驚いた表情を見せる。まあ妹だもんね・・・。
「ここ1、2週間くらいなんだけど・・・・・唯先輩、部活が終わるとすぐ帰っちゃうんだ、何か用事があるみたいなんだけど・・・でも何も教えてくれないし」
「っ!」
「そ、それにね・・・・・なんだか最近・・・・私のこと避けてるような・・・・気がするし・・・・」
「えっ!?・・・・・・あ、ええと、その、あの」
(あれ?・・・・なんか・・・)
憂の様子がおかしい。視線が泳いでる。すごく、ていうかかなり挙動不審だ。・・・・・これは・・・・
「も、もしかして、唯先輩が何やってるか知ってるのっ!?」
私は、冷静さをなくしガタンと机から身を乗り出す。
「ええと・・・・・・・その・・・・・・・うん・・・」
私の剣幕に押されたのか、憂は小さく頷く。
「お、教えて、唯先輩、いったい何やってるの?」
真実を知れば、私はもっと辛くなるかもしれない。でも知らないでいるよりはずっとマシだ。
「ご、ごめん・・・・・・教えられないの・・・・・・お姉ちゃんに口止めされてるから」
しかし、そんな私の質問に憂は答えてはくれず、申し訳なさそうに謝ってくる。
「え?・・・・ど、どうして?」
「ごめんね・・・・梓ちゃん“だけ”には絶対に教えられないの・・・」
(私だけ?・・・・なんで・・・・どうして・・・・ホントに嫌われちゃったの?)
と、一瞬考えてしまい涙が出そうになるが、そんな私を他所にさらに憂は話を続ける。
「でもね!・・・・私からは言えないけど、もうちょっとしたら、絶対お姉ちゃんから話すと思うから。 だからそれまでお姉ちゃんを信じて待っててあげて?・・・お願い梓ちゃん」
「え?・・・・・・・う、うん」
(ど、どういうこと・・・・? 嫌われたわけじゃないの・・・?)
もう何がなんだか分からない。しかし憂の真剣な顔に私は思わず頷いてしまっていた。
(はぁ・・・結局、何も分からなかったな・・・・・)
* * *
そして放課後・・・・・・・結果から言えば、私はお昼に憂に言われたことなど頭から抜け落ちていたのかもしれない。
練習後、私は思い切って唯先輩に理由を尋ねてみたのだ。
・・・でも・・・
「あずにゃんには教えられないんだ・・・ごめんね」
その一言が引き金だった。・・・・・どうやら私は自分で思っているよりも精神的に限界だったようだ。
「っ!?」
(な・・んで・・・)
「・・・んで・・・・・・・・・・・か・・・」
「え?」
「なんで何も教えてくれないんですかっっ!!?」
「っ!?」
気付いたときにはすでに、唯先輩に怒声を浴びせていた。
きっといろんな想いや感情が頭の中をぐるぐるして、パンクしちゃったんだと思う。
「!!・・・お、おい梓!?」
「ひゃっ!?」
「梓ちゃん!?」
先輩たちが何か言っているようだったけど、私の耳には全く届いていなかった。
澪先輩に限っては私の怒声に驚いてビクビクしている。
「あ、あずにゃん?」
私の剣幕に、さすがの唯先輩も驚きを隠せないようだ。・・・でも私は自分を止めることはできなかった。
「私がっ!私が、どんな気持ちでいるかも知らないくせにっ!!」
「あ、あず・・・・」
唯先輩が何か言おうとするけど、私はそれを許さない。
「私のこと嫌いなんですかっ!? だったらはっきりいってくださいよっ!?
「ち、ちがっ・・・・」
「どうせ唯先輩にとって私なんてどうでもいいんだっ!!」
・・・・・・・・私は何を言ってるんだろう・・・・・・・
「バカ・・・・・私の気も知らないでっ!・・・・もういいですよっ!・・・・・・・唯先輩なんて・・・・・・・・唯先輩なんてっ!」
・・・・・・・・何を言っているのか、自分でも分からなかった・・・・・・・
「大っ嫌いっ!!」
「っ!!?」
・・・・・・・・・・・私は最低だ・・・・・・・感情にまかせて一番言っちゃいけないことを・・・・・
唯先輩は私の言葉にぽろぽろと大粒の涙を流していた。
「ぐす・・・あ・・あれ・・・・な・・んで・・・・・・?」
唯先輩は涙を拭おうと必死になっている。しかし、その涙はとどまることを知らず、次から次へと溢れてくる。
今まで一度だって見せたことの無い、唯先輩の悲しみの涙。
・・・・・それを私が・・・・・
「あ・・・あ・・・」
ただ絶望した。その涙を前に私は一歩、また一歩とゆっくり後ろに下がって行く。
もう一秒だってその涙を見ていられなくて、私は踵を返しその場から逃げ出した。
・・・・・泣き続ける唯先輩と他の先輩たちを残して・・・・・。
「ぐす・・・あ、あずにゃ・・・まっ・・・・・て・・・」
音楽室から出る前、唯先輩に呼び止められたような気がしたけど、私は振り返りもしなかった。
<YUI:side>
『大っ嫌いっ!!』
そう言われた瞬間、私の中で何かが崩れていくような気がした。
ただ、ただ、涙だけが溢れてくる。
結局私はあずにゃんに何も話せなかった・・・・。ちゃんと話していればこんなことにはならなかったのかな。
(私のせいで・・・・あずにゃんが・・・・)
ただ一つ分かること・・・それは、私の行動があずにゃんを傷つけていたということ。
そうだ、きっと私が悪かったんだ。あずにゃんがこんなに辛い想いをしているなんて知らなかった。
・・・・結局私は自分のことばかりで、周りのことが見えていなかったんだね・・・・。
「お、おい唯大丈夫か・・・」
泣き続ける私に澪ちゃんが心配そうに駆け寄ってくる。
「え・・・? ぐす・・・う、うん・・・だ、だいじょうぶだよ・・・・ぐす・・・ごめんね、泣いちゃって・・・」
私は精一杯笑顔を作ろうとするんだけど・・・・。
「バカっ・・・・ぜんぜん大丈夫じゃないだろ!」
強がる私にりっちゃんが怒る。
「唯ちゃん・・・・・・・・」
ムギちゃんも心配そうに私を見ている。
(・・・・私、あずにゃんだけじゃなくて・・・・みんなにも迷惑かけてる・・・)
私のせいで周りの人たちに迷惑をかけている。その事実に私の心はさらに沈んでしまう。
(私・・・あずにゃんのこと・・・・・好きにならないほうがよかったのかな・・・・・?)
私はもう完全に自信を失っていた。
「ほ、ほんとに・・・・大丈夫だから・・・その・・・・・あ・・・わ、私、もう帰るね? ・・・・そ、それじゃっ」
どうにも居た堪れなくなった私は、あずにゃんの後を追うように音楽室を後にした。
「あ、お、おいっ・・・・・ゆ、唯っ、待てよ、って・・・もういないし・・・・・・」
律が慌てて呼び止めるが、すでに唯はいなかった。
「大丈夫かな・・・唯・・・・。 それに・・・・梓も・・・」
「あー・・・もうっ! いったいこれからどうなっちまうんだよっ!」
澪も律もこれからの軽音楽部に一抹の不安を感じていた。・・・・・・・ただ一人、紬だけを除いて。
「(唯ちゃんが自分で話さないことを私が話す訳にはいかなし・・・・・・・・・それに梓ちゃんのあの様子・・・・あれは・・・・もう間違いないわね・・・・・・)」
真剣な顔で考え込む紬。
「(だったら、私が出来ることは・・・・・・・・・)」
・・・・・・・・・・・・そして紬はその心に何かを決めていた。
と、その時・・・・・
ガチャっと音楽室の扉が開く。
「あら? あなたたちまだ残ってたの?」
入ってきたのは、軽音楽部顧問の山中さわ子だった。
「あ、あれさわちゃん? さっき出てったのに・・・なんで?」
律が不思議そうにさわ子に尋ねる。そう、律の言うとおり唯と梓のごたごたの少し前にさわ子は一度いなくなっている。
「え?・・・・ああ、ちょっと忘れ物しちゃってね。・・・・・・それであなたたちはどうかしたの?」
「え?」
「なんかみんな少し元気ないけど・・・・何かあったの?」
「えぇっ!・・・・ああ・・・・いやその・・・・な、なんにもないよ? ほんとなんもなかったから・・・え、えーと・・・・そ、それじゃ二人とも、そろそろ帰ろうぜっ!」
さわ子の指摘に挙動不審になる律は、他の二人を急かす。
「そ、そうだな・・・・・・・そ、それじゃさわ子先生また明日」
「それでは先生、失礼します」
澪と紬はペコリとお辞儀をして、律の後に続く。
「なんだっていうのよ・・・もう」
音楽室にただ一人残されたさわ子は怪訝そうに呟く。
そしてさわ子は大変なことに気付く。
「・・・・・・・・・・・・・・・はっ! ちょ・・・・ちょっと待って・・・・・・・・わ、私の出番って、これだけなのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
音楽室に絶叫が木霊する。
山中さわ子、2●歳・・・・・・彼女に春はまだこない・・・・・・。
* * *
<YUI:side>
私はいつもの帰り道を歩いていた。
さっき音楽室を飛び出してきて、ずっと走り続けてたけど、結局疲れてしまって今はゆっくりと歩いている。
「はぁ・・・・・・・」
(・・・・勢いで飛び出してきちゃったけど・・・・・・・これからどうしよう・・・・)
本当ならこれからバイトだった。しかも今日でようやくバイト代が溜まる。
・・・・・でも、なぜか行く気が起きなかった。
(・・・・どうしたらいいの・・・・?)
そんな暗い考えをめぐらせていた時だった。私は不意に後ろから声をかけられた。
「あれ? 唯?」
「え・・・?」
私はゆっくりと後ろを振り返る。そしてそこにいたのは、私の幼馴染、真鍋和ちゃんだった。
「和ちゃん? どうしてここに・・・?」
和ちゃんはゆっくりと私の方に近づいてくる。
「私は生徒会の帰りよ・・・・・・ていうか唯、あんたいったいどうしたのよ、その顔・・・・」
「え・・・・? な、なに・・・・?」
和ちゃんは驚いた表情で、私を見つめてくる。・・・・・・いったいどうしたんだろうか。
「はぁ・・・・・・・あんた自分の顔、鏡で見てみなさいよ?」
和ちゃんは心底あきれたように、ため息をついてくる。私は鞄から手鏡を取り出し、自分の顔を見てみる。
「あ・・・・・・」
そこに映っていた私の顔はホントにひどかった。
目が真っ赤になってて、顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
私はこんな顔で歩いてたのか・・・・。
「・・・・・・・なにか、あったの?」
和ちゃんが心配そうに聞いてくる。
「え・・・? べ、別に・・・・なにも・・・・」
でも私は、そんな和ちゃんの質問に答えることができずに、はぐらかしてしまった。
「はぁ・・・・・・・・唯・・・・・・・・ちょっと来なさい」
そう言ってまたため息をつき、私の手をとる。そして帰り道とは別の方角に歩き始めた。
「ちょ、ちょっと・・・和ちゃん? ど、どこいくの?」
「いいから、黙ってついてきなさい」
そして私は、和ちゃんのなすがまま、言われるままに後をついていった。
* * *
和ちゃんがつれてきた場所、そこは公園だった。今私たちは、公園のブランコに二人して腰掛けていた。
「それで・・・・・・・いったい何があったの? 言っとくけどそんな顔して何でも無いっていうのは却下だから」
「うう・・・・」
こういうとき和ちゃんの行動力には恐れ入る。・・・・・こういうところは昔から変わってないな。
「・・・・・・・・・もしかして・・・・・私には話せないようなこと・・・?」
少し寂しげな表情で私を見つめる和ちゃんを見てたら、音楽室に残してきたみんなの表情を思い出してしまった。
(また・・・・私・・・・迷惑かけてる)
「ねぇ唯・・・・言いたくないなら無理には聞かないけど・・・・・一人で悩んでてもダメなときもあるのよ? そういう時は誰かに話すなりした方が、気持ち的に楽になるものよ・・・」
「え・・・・?」
「一人で悩んで解決するくらいなら、あんたならとっくに解決してるでしょ?」
「あ・・・・・・」
確かにそうだ。一人で悩んで解決しないなら、もう私には何も出来ないじゃないか。
それにこれ以上たくさんの人に迷惑をかけるわけにいかない。
そう思った私は、和ちゃんに話すことにした。
「そっか・・・・そうだよね。 私また間違えるとこだった。・・・・それじゃ和ちゃん、聞いてもらってもいいかな?」
「ええ」
そんな私に和ちゃんは微笑みを見せる。それから私は、ポツポツと話しはじめた。
・・・・・・あずにゃんのことを好きになってしまったこと。
・・・・・・あずにゃんに告白するために指輪をプレゼントすることに決めて、それを買うために今バイトしてること。
・・・・・・そしてそんな私の行動があずにゃんを苦しめていたこと。
私は、最初から今までのことを全て話した。そんな私の話をただ黙って聞いていた。
そしてゆっくりと口を開く。
「そう・・・・・・そんなことがあったの・・・・・。 それにしても、唯にもようやくそういう人が出来たのね・・・」
和ちゃんはちょっとだけ寂しそうな、それでいて嬉しそうな顔で微笑んでいる。
「うう・・・」
私はちょっと恥ずかしくて俯いてしまう。
「それで、唯はどう思うわけ?」
「え?」
「梓ちゃんのことよ・・・・・・・・本当に本心で“嫌い”なんて言ったと、本気で思ってる?」
和ちゃんが一番痛いところをついてくる。
「う・・・そ、それは・・・・」
「話を聞く限り・・・・梓ちゃんはね、不安だったのよ・・・・。 唯のことが心配で心配で仕方ないのに、当の本人は何も話してくれない・・・・・・・そういう気持ちが積もりに積もって、感情が爆発しちゃったんじゃないかしら・・・・それで言いたくないことまで言ってしまった・・・・」
「そう・・・・なのかな」
「そうよ・・・きっと・・・。 それにあんたもあんたよ。 物には言い方っていうのがあるの・・・せめて後で必ず話すから待っててくらい言えなかったの?」
「うう・・・・・・それを言われると」
確かに和ちゃんの言うとおりだった。私はあずにゃんに聞かれても“教えられない”ばかりだった。
「ふぅ・・・・・・それで唯・・・・あんたはこれからどうするの?」
「え?」
「・・・・・悪いことをしたと思うなら、まずは謝りなさい。・・・・・・自分の気持ちを伝えるのはそれからでも遅くないでしょ?」
「で、でも・・・・・」
和ちゃんの提案に、私は戸惑ってしまう。
「まさかあきらめるつもり?・・・・・・私の知っている唯は、一度決めたことを途中で投げ出すようなことはしなかったわよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「みんなの事にしてもそう・・・・・・・・・・学園祭の時にも言ってたでしょ? みんな唯のことが大好きなんだから。 あなたが幸せになることをみんな望んでると思うわ」
和ちゃんの言葉に私の心に何かが灯る。それはきっと希望の光。
(・・・・・・みんなのため、自分のため、そして何より梓ちゃんのためにも・・・・・うん・・・・・・そう・・・・そうだよね)
そう、私は、私たちはまだ終わってない。・・・・・・・始まってすらいないんだから。
「そう・・・・・・だね。 和ちゃんの言うとおりだね。 うん・・・・・・・私、もう一度信じてみるよ。・・・自分こと、そしてあずにゃんのことを」
「・・・・そう」
私の決意に、和ちゃんはニッコリと微笑む。
「よーし。それじゃあまず・・・・・・・・あ、そ、そういえば・・・・・・・私この後バイトだったんだっ!」
「え?」
今頃になって気付くとは、私はホントにダメダメだ。
「ああっ! もうこんな時間! は、はやく行かないと・・・・・・・・・そ、それじゃ和ちゃんっ! 私行くね? いろいろ話聞いてもらってありがとっ」
私は、勢いよくブランコから立ち上がり、出口に向かって走り出した。
「あっ! ちょ、ちょっと・・・・・・・・って、早いわね」
唯がいなくなった後、和は一人呟いた。
「まったく・・・・・・本当に世話のかかる幼馴染ね。 唯、あなたのいいところはね・・・・・そういう一途で真っ直ぐなところなのよ・・・」
そう言って優しい微笑みを見せる。
「・・・・・・・がんばりなさい・・・唯」
* * *
「や、やっと・・・・お金溜まったよぉ・・・・」
そのことが嬉しくて私はバイトの後、その足であのアンティークショップに来ていた。
もちろんあの指輪を買うために。
“カランカラン”
ゆっくりと扉を開く。・・・・・中はあの日来たときと変わっていなかった。
そんな中お婆さんが一人、お店のお掃除をしていた。
「あの〜・・・・・・」
「おや? あの時のお嬢ちゃんじゃないか・・・・・もしかしてアレかい?」
私の声に、お婆さんがゆっくりと振り向き私に気付く。そしてニッコリと微笑んだ。
「は、はい。 あの指輪、買いに来ました。」
「ふふふ・・・・・・・そうかい、ちゃんと用意してあるよ」
そう言って、お店のカウンターの奥から、小箱を取り出した。・・・・あの日見た指輪の入った小箱だ。
私はさっそく財布からお金を取り出す。
「あの、これ代金です」
「はい、確かに頂きました・・・・・・・・それにしても随分と早かったね? まだ二週間もたってないのに」
お婆さんはゆっくりと私からお金を受け取る。
「えへへ・・・。 アルバイト頑張っちゃいましたから」
「そうかい・・・・・ふふ・・・・・・・・それじゃあ、これが商品だよ」
そしてお婆さんは、私に小箱を差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。」
私は小箱を受け取り、ゆっくりと蓋を開ける。
「あ・・・・・」
あの日と変わらず、二組の指輪が小箱の中に並んでいた。
「うん・・・・・・・これで、やっと。あ、お婆さん、その、いろいろありがとうございました」
「いいんだよ・・・・・・」
そう言って微笑むお婆さん。
「それじゃあ・・・・・私これで・・・・・・あ、また今度遊びに来ていいですか? 今度は私の大切な人もつれてきます・・・・・・・きっと」
「ああ、待ってるよ」
私はお婆さんにお辞儀をしてゆっくりと、お店から外へ出る。
そして、もう一度指輪の入った小箱を見つめる。
(よし・・・・がんばろ・・・・)
「うん・・・・・・決戦は、明日だねっ!」
私はギュッとと握りこぶしをつくる。そして携帯を取り出しメールした。
・・・・・・・・・・もちろんあずにゃんに。
『明日のお昼休みに、屋上まで来てください。大事な話があります。』
(送信っと・・・・これでよし・・・・・・まずはちゃんとあずにゃんに謝って・・・・・・・そして)
――――自分の気持ちを伝えよう、この指輪と一緒に。
* * *
<AZUSA:side>
「はぁ・・・・」
今私は自室のベッドで寝転がっている。結局あれから私は5分としないうちに後悔した。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「はぁ・・・・」
もう何回目になるかもわからない溜息をつく。
気を紛らわせるためにギターの練習をしても、ぜんぜん楽譜が頭に入らない。
弾こうとしても唯先輩の泣き顔が頭にチラついて練習にもならない。
「どうしたら・・・いいのかな・・・」
(もしかして、ずっとこのまま)
と、一瞬嫌なことを考えてしまう。そんなときだった、不意に私の携帯が鳴った。
(電話?・・・誰からだろう・・・もしかして)
ディスプレイを確認すると、そこには琴吹紬と表示されていた。
「む、ムギ先輩からだ・・・・・・・・」
一瞬、唯先輩かも・・・・とか思っちゃったけど、私の予想は外れてしまった。
いや実際外れててホッとしている自分もいる。
(どうしよう・・・・でないとダメだよね・・・それにさっきのことも謝らないと)
「は、はい・・・もしもし」
私は恐る恐る電話に出る。
『あ・・・もしもし、梓ちゃん?』
「は、はい」
『どう・・・? 少しは落ち着いたかしら?』
ムギ先輩は優しい口調で聞いてくる。
「あ・・・・は、はい。 その・・・・さっきは・・・・す、すみませんでした。 いろいろ嫌な思いさせちゃいましたよね・・・」
『ふふ・・・・・・私たちのことはいいのよ、気にしなくても・・・・それに、梓ちゃんが謝らなきゃいけない人は別にいるでしょ?』
「そ、それは・・・・」
ムギ先輩は痛いところをついてくる。
「そ、それで電話してきたってことは、何か用事があるんですか?」
『うーん・・・まあ用事っていえば用事だけど・・・・ちょっと梓ちゃんに聞きたいことがあったから』
(聞きたいこと・・・・・・?)
やっぱりさっきの唯先輩とのことだろうか?・・・・・まあそれしかないと思うけど。
「は、はい・・・・・・その、何ですか?」
『あのね・・・・・・・その、間違ってたらごめんなさい』
(な、なんだろう・・・・随分歯切れが悪いな・・・)
『ねえ梓ちゃん・・・・・・・あなた・・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして次の瞬間ムギ先輩から発せられた言葉は、私を驚愕させるには十分だった。
『あなた・・・・・・・・・・・・・・唯ちゃんのことを“好き”なんじゃないかしら・・・』
(・・・・・・・・・は?・・・・・・・・・今ムギ先輩・・・何て・・・?)
一瞬、ムギ先輩が何を言っているか分からなかった。そしてゆっくりとムギ先輩の言葉を理解していく。
(好き・・・・? な、なんで・・・・ムギ先輩が・・・?)
「ど、どうしてそんなこと聞くんですか? その、も、もちろん唯先輩のことは好きですけど・・・・」
あの時嫌いと言ったのはもちろん本心じゃない。
ただ、自分でも分からないうちに口から出ていただけだった。
・・・・さっきまでそれで悩んでたんだけどね・・・・。
『ううん・・・私が言ってる好きはそう言う意味じゃないわ・・・・梓ちゃんだってホントは分かってるんでしょ』
「う・・・・・そ、それは」
確かに分かってた、ただ知らない振りをしていただけ。そしてもう言い逃れは出来そうになかった。
「・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・分かったんですか」
誰にも気付かれてないと思ってたけど、ムギ先輩には分かってたみたいだ。
『ふふ・・・・・・・・・梓ちゃん、ここ最近唯ちゃんが絡むと様子がおかしかったから』
・・・・・・・・そんなに私の様子はおかしかったんだろうか?
まああの音楽室での出来事はおかしいってレベルじゃなかったかもね。でもそれだけで?
『それに自分じゃ気付いてないかもしれないけど・・・・・・最近の梓ちゃんの唯ちゃんを見る目がそんな感じだったのよ』
(え・・・・・・・・ええぇぇ)
「そ、そうだったんですか?」
確かにそれは私には分からないな・・・・・・・・・。きっと無意識だろうし。
『ええ・・・・それでどうするの? 伝えないの? その気持ち・・・・』
ムギ先輩はとんでもないことを聞いてくる。
「え・・・・ええぇぇっ! そ、そんな無理ですよ・・・・私・・・・・・・・そ、それに私、あんなに唯先輩のこと傷つけて・・・・・」
『ねえ梓ちゃん? さっきのことは確かに梓ちゃんも悪かったけど、あれは唯ちゃんも悪かったのよ? そのことは謝ればきっと仲直りできるはずだから・・・』
「・・・・・・・・・・」
『それにさっきのことと、梓ちゃんが自分の気持ちを伝えないことは別問題でしょ?』
「そ、それは・・・・・・」
確かにムギ先輩の言う通りだった。さっきのことは謝ればいい。
現にさっきまでどうやって謝ろうか考えていたところだった。
「でも・・・・私の気持ちは・・・・」
『・・・・・自分の気持ちが信じられない? それとも唯ちゃんのことかな?』
「・・・・・・・・・・・」
『ねえ梓ちゃん・・・・・・・人を本気で好きになるっていうのは、辛いこともたくさんあるのよ。 でもそれから逃げてちゃ大切な人と結ばれることなんて出来ないわ』
「・・・・・・・・・・・」
私は黙ってムギ先輩の話を聞いていた。
「信じてみない? 自分の気持ち・・・・・・そして唯ちゃんのことも・・・・・・」
その言葉を聞いて私はハッとする。お昼に憂に言われたことを今頃になって思い出した。
――――お姉ちゃんを信じて、待っててあげて――――
(信じる・・・信じる・・・自分のこと、唯先輩のこと・・・・・・・)
私は目を閉じ心の中で考える。
(うん・・・そう・・・・そうだよね)
そして私の心は決まった。
「ムギ先輩・・・・・・・」
『うん?』
「私・・・・・信じてみます。 そして唯先輩に自分の気持ち、ちゃんと伝えようと思います」
『そう・・・よかったわ・・・・・・・・がんばってね?』
私の答えにムギ先輩は嬉しそうに返事を返す。
「は、はいっ! その・・・・・・・ムギ先輩、いろいろとありがとうございました」
『ううん、唯ちゃんも梓ちゃんも大切な仲間だもの・・・・うまくいって欲しいからね。(それに、唯ちゃんもたぶん梓ちゃんのこと・・・・・)』
「ムギ先輩・・・・・・」
『ふふっ、それじゃそろそろ切るわね?』
「あ、はい、おやすみなさいムギ先輩」
「おやすみ・・・・梓ちゃん」
そう言って電話が切られた。
さてやることは決まった。・・・でもどうやって唯先輩に?っと考えていると、また携帯がなった。
(今度は・・・・・・・メール?)
私はメールを確認すると、そこには・・・・・・。
「あ・・・・・ゆ、唯先輩からだっ!」
私は慌ててメールを開き内容を確認する。
『明日のお昼休みに、屋上まで来てください。大事な話があります。』
「・・・・大事な話? なんだろ、やっぱり今日のことかな?・・・・でも」
これはチャンスだと思った。この機会を逃したら次はいつになるか分からない。
こういうときは勢いも大切だと私は思う。
(明日か・・・・・うんっ!)
私はもう逃げない・・・・・今度こそ唯先輩とちゃんと向き合って・・・・・。
―――そして私の本当の気持ちを唯先輩に伝えるんだ。
* * *
私はいつもの帰り道を歩いていた。
さっき音楽室を飛び出してきて、ずっと走り続けてたけど、結局疲れてしまって今はゆっくりと歩いている。
「はぁ・・・・・・・」
(・・・・勢いで飛び出してきちゃったけど・・・・・・・これからどうしよう・・・・)
本当ならこれからバイトだった。しかも今日でようやくバイト代が溜まる。
・・・・・でも、なぜか行く気が起きなかった。
(・・・・どうしたらいいの・・・・?)
そんな暗い考えをめぐらせていた時だった。私は不意に後ろから声をかけられた。
「あれ? 唯?」
「え・・・?」
私はゆっくりと後ろを振り返る。そしてそこにいたのは、私の幼馴染、真鍋和ちゃんだった。
「和ちゃん? どうしてここに・・・?」
和ちゃんはゆっくりと私の方に近づいてくる。
「私は生徒会の帰りよ・・・・・・ていうか唯、あんたいったいどうしたのよ、その顔・・・・」
「え・・・・? な、なに・・・・?」
和ちゃんは驚いた表情で、私を見つめてくる。・・・・・・いったいどうしたんだろうか。
「はぁ・・・・・・・あんた自分の顔、鏡で見てみなさいよ?」
和ちゃんは心底あきれたように、ため息をついてくる。私は鞄から手鏡を取り出し、自分の顔を見てみる。
「あ・・・・・・」
そこに映っていた私の顔はホントにひどかった。
目が真っ赤になってて、顔も涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
私はこんな顔で歩いてたのか・・・・。
「・・・・・・・なにか、あったの?」
和ちゃんが心配そうに聞いてくる。
「え・・・? べ、別に・・・・なにも・・・・」
でも私は、そんな和ちゃんの質問に答えることができずに、はぐらかしてしまった。
「はぁ・・・・・・・・唯・・・・・・・・ちょっと来なさい」
そう言ってまたため息をつき、私の手をとる。そして帰り道とは別の方角に歩き始めた。
「ちょ、ちょっと・・・和ちゃん? ど、どこいくの?」
「いいから、黙ってついてきなさい」
そして私は、和ちゃんのなすがまま、言われるままに後をついていった。
* * *
和ちゃんがつれてきた場所、そこは公園だった。今私たちは、公園のブランコに二人して腰掛けていた。
「それで・・・・・・・いったい何があったの? 言っとくけどそんな顔して何でも無いっていうのは却下だから」
「うう・・・・」
こういうとき和ちゃんの行動力には恐れ入る。・・・・・こういうところは昔から変わってないな。
「・・・・・・・・・もしかして・・・・・私には話せないようなこと・・・?」
少し寂しげな表情で私を見つめる和ちゃんを見てたら、音楽室に残してきたみんなの表情を思い出してしまった。
(また・・・・私・・・・迷惑かけてる)
「ねぇ唯・・・・言いたくないなら無理には聞かないけど・・・・・一人で悩んでてもダメなときもあるのよ? そういう時は誰かに話すなりした方が、気持ち的に楽になるものよ・・・」
「え・・・・?」
「一人で悩んで解決するくらいなら、あんたならとっくに解決してるでしょ?」
「あ・・・・・・」
確かにそうだ。一人で悩んで解決しないなら、もう私には何も出来ないじゃないか。
それにこれ以上たくさんの人に迷惑をかけるわけにいかない。
そう思った私は、和ちゃんに話すことにした。
「そっか・・・・そうだよね。 私また間違えるとこだった。・・・・それじゃ和ちゃん、聞いてもらってもいいかな?」
「ええ」
そんな私に和ちゃんは微笑みを見せる。それから私は、ポツポツと話しはじめた。
・・・・・・あずにゃんのことを好きになってしまったこと。
・・・・・・あずにゃんに告白するために指輪をプレゼントすることに決めて、それを買うために今バイトしてること。
・・・・・・そしてそんな私の行動があずにゃんを苦しめていたこと。
私は、最初から今までのことを全て話した。そんな私の話をただ黙って聞いていた。
そしてゆっくりと口を開く。
「そう・・・・・・そんなことがあったの・・・・・。 それにしても、唯にもようやくそういう人が出来たのね・・・」
和ちゃんはちょっとだけ寂しそうな、それでいて嬉しそうな顔で微笑んでいる。
「うう・・・」
私はちょっと恥ずかしくて俯いてしまう。
「それで、唯はどう思うわけ?」
「え?」
「梓ちゃんのことよ・・・・・・・・本当に本心で“嫌い”なんて言ったと、本気で思ってる?」
和ちゃんが一番痛いところをついてくる。
「う・・・そ、それは・・・・」
「話を聞く限り・・・・梓ちゃんはね、不安だったのよ・・・・。 唯のことが心配で心配で仕方ないのに、当の本人は何も話してくれない・・・・・・・そういう気持ちが積もりに積もって、感情が爆発しちゃったんじゃないかしら・・・・それで言いたくないことまで言ってしまった・・・・」
「そう・・・・なのかな」
「そうよ・・・きっと・・・。 それにあんたもあんたよ。 物には言い方っていうのがあるの・・・せめて後で必ず話すから待っててくらい言えなかったの?」
「うう・・・・・・それを言われると」
確かに和ちゃんの言うとおりだった。私はあずにゃんに聞かれても“教えられない”ばかりだった。
「ふぅ・・・・・・それで唯・・・・あんたはこれからどうするの?」
「え?」
「・・・・・悪いことをしたと思うなら、まずは謝りなさい。・・・・・・自分の気持ちを伝えるのはそれからでも遅くないでしょ?」
「で、でも・・・・・」
和ちゃんの提案に、私は戸惑ってしまう。
「まさかあきらめるつもり?・・・・・・私の知っている唯は、一度決めたことを途中で投げ出すようなことはしなかったわよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「みんなの事にしてもそう・・・・・・・・・・学園祭の時にも言ってたでしょ? みんな唯のことが大好きなんだから。 あなたが幸せになることをみんな望んでると思うわ」
和ちゃんの言葉に私の心に何かが灯る。それはきっと希望の光。
(・・・・・・みんなのため、自分のため、そして何より梓ちゃんのためにも・・・・・うん・・・・・・そう・・・・そうだよね)
そう、私は、私たちはまだ終わってない。・・・・・・・始まってすらいないんだから。
「そう・・・・・・だね。 和ちゃんの言うとおりだね。 うん・・・・・・・私、もう一度信じてみるよ。・・・自分こと、そしてあずにゃんのことを」
「・・・・そう」
私の決意に、和ちゃんはニッコリと微笑む。
「よーし。それじゃあまず・・・・・・・・あ、そ、そういえば・・・・・・・私この後バイトだったんだっ!」
「え?」
今頃になって気付くとは、私はホントにダメダメだ。
「ああっ! もうこんな時間! は、はやく行かないと・・・・・・・・・そ、それじゃ和ちゃんっ! 私行くね? いろいろ話聞いてもらってありがとっ」
私は、勢いよくブランコから立ち上がり、出口に向かって走り出した。
「あっ! ちょ、ちょっと・・・・・・・・って、早いわね」
唯がいなくなった後、和は一人呟いた。
「まったく・・・・・・本当に世話のかかる幼馴染ね。 唯、あなたのいいところはね・・・・・そういう一途で真っ直ぐなところなのよ・・・」
そう言って優しい微笑みを見せる。
「・・・・・・・がんばりなさい・・・唯」
* * *
「や、やっと・・・・お金溜まったよぉ・・・・」
そのことが嬉しくて私はバイトの後、その足であのアンティークショップに来ていた。
もちろんあの指輪を買うために。
“カランカラン”
ゆっくりと扉を開く。・・・・・中はあの日来たときと変わっていなかった。
そんな中お婆さんが一人、お店のお掃除をしていた。
「あの〜・・・・・・」
「おや? あの時のお嬢ちゃんじゃないか・・・・・もしかしてアレかい?」
私の声に、お婆さんがゆっくりと振り向き私に気付く。そしてニッコリと微笑んだ。
「は、はい。 あの指輪、買いに来ました。」
「ふふふ・・・・・・・そうかい、ちゃんと用意してあるよ」
そう言って、お店のカウンターの奥から、小箱を取り出した。・・・・あの日見た指輪の入った小箱だ。
私はさっそく財布からお金を取り出す。
「あの、これ代金です」
「はい、確かに頂きました・・・・・・・・それにしても随分と早かったね? まだ二週間もたってないのに」
お婆さんはゆっくりと私からお金を受け取る。
「えへへ・・・。 アルバイト頑張っちゃいましたから」
「そうかい・・・・・ふふ・・・・・・・・それじゃあ、これが商品だよ」
そしてお婆さんは、私に小箱を差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。」
私は小箱を受け取り、ゆっくりと蓋を開ける。
「あ・・・・・」
あの日と変わらず、二組の指輪が小箱の中に並んでいた。
「うん・・・・・・・これで、やっと。あ、お婆さん、その、いろいろありがとうございました」
「いいんだよ・・・・・・」
そう言って微笑むお婆さん。
「それじゃあ・・・・・私これで・・・・・・あ、また今度遊びに来ていいですか? 今度は私の大切な人もつれてきます・・・・・・・きっと」
「ああ、待ってるよ」
私はお婆さんにお辞儀をしてゆっくりと、お店から外へ出る。
そして、もう一度指輪の入った小箱を見つめる。
(よし・・・・がんばろ・・・・)
「うん・・・・・・決戦は、明日だねっ!」
私はギュッとと握りこぶしをつくる。そして携帯を取り出しメールした。
・・・・・・・・・・もちろんあずにゃんに。
『明日のお昼休みに、屋上まで来てください。大事な話があります。』
(送信っと・・・・これでよし・・・・・・まずはちゃんとあずにゃんに謝って・・・・・・・そして)
――――自分の気持ちを伝えよう、この指輪と一緒に。
* * *
<AZUSA:side>
「はぁ・・・・」
今私は自室のベッドで寝転がっている。結局あれから私は5分としないうちに後悔した。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「はぁ・・・・」
もう何回目になるかもわからない溜息をつく。
気を紛らわせるためにギターの練習をしても、ぜんぜん楽譜が頭に入らない。
弾こうとしても唯先輩の泣き顔が頭にチラついて練習にもならない。
「どうしたら・・・いいのかな・・・」
(もしかして、ずっとこのまま)
と、一瞬嫌なことを考えてしまう。そんなときだった、不意に私の携帯が鳴った。
(電話?・・・誰からだろう・・・もしかして)
ディスプレイを確認すると、そこには琴吹紬と表示されていた。
「む、ムギ先輩からだ・・・・・・・・」
一瞬、唯先輩かも・・・・とか思っちゃったけど、私の予想は外れてしまった。
いや実際外れててホッとしている自分もいる。
(どうしよう・・・・でないとダメだよね・・・それにさっきのことも謝らないと)
「は、はい・・・もしもし」
私は恐る恐る電話に出る。
『あ・・・もしもし、梓ちゃん?』
「は、はい」
『どう・・・? 少しは落ち着いたかしら?』
ムギ先輩は優しい口調で聞いてくる。
「あ・・・・は、はい。 その・・・・さっきは・・・・す、すみませんでした。 いろいろ嫌な思いさせちゃいましたよね・・・」
『ふふ・・・・・・私たちのことはいいのよ、気にしなくても・・・・それに、梓ちゃんが謝らなきゃいけない人は別にいるでしょ?』
「そ、それは・・・・」
ムギ先輩は痛いところをついてくる。
「そ、それで電話してきたってことは、何か用事があるんですか?」
『うーん・・・まあ用事っていえば用事だけど・・・・ちょっと梓ちゃんに聞きたいことがあったから』
(聞きたいこと・・・・・・?)
やっぱりさっきの唯先輩とのことだろうか?・・・・・まあそれしかないと思うけど。
「は、はい・・・・・・その、何ですか?」
『あのね・・・・・・・その、間違ってたらごめんなさい』
(な、なんだろう・・・・随分歯切れが悪いな・・・)
『ねえ梓ちゃん・・・・・・・あなた・・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして次の瞬間ムギ先輩から発せられた言葉は、私を驚愕させるには十分だった。
『あなた・・・・・・・・・・・・・・唯ちゃんのことを“好き”なんじゃないかしら・・・』
(・・・・・・・・・は?・・・・・・・・・今ムギ先輩・・・何て・・・?)
一瞬、ムギ先輩が何を言っているか分からなかった。そしてゆっくりとムギ先輩の言葉を理解していく。
(好き・・・・? な、なんで・・・・ムギ先輩が・・・?)
「ど、どうしてそんなこと聞くんですか? その、も、もちろん唯先輩のことは好きですけど・・・・」
あの時嫌いと言ったのはもちろん本心じゃない。
ただ、自分でも分からないうちに口から出ていただけだった。
・・・・さっきまでそれで悩んでたんだけどね・・・・。
『ううん・・・私が言ってる好きはそう言う意味じゃないわ・・・・梓ちゃんだってホントは分かってるんでしょ』
「う・・・・・そ、それは」
確かに分かってた、ただ知らない振りをしていただけ。そしてもう言い逃れは出来そうになかった。
「・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・分かったんですか」
誰にも気付かれてないと思ってたけど、ムギ先輩には分かってたみたいだ。
『ふふ・・・・・・・・・梓ちゃん、ここ最近唯ちゃんが絡むと様子がおかしかったから』
・・・・・・・・そんなに私の様子はおかしかったんだろうか?
まああの音楽室での出来事はおかしいってレベルじゃなかったかもね。でもそれだけで?
『それに自分じゃ気付いてないかもしれないけど・・・・・・最近の梓ちゃんの唯ちゃんを見る目がそんな感じだったのよ』
(え・・・・・・・・ええぇぇ)
「そ、そうだったんですか?」
確かにそれは私には分からないな・・・・・・・・・。きっと無意識だろうし。
『ええ・・・・それでどうするの? 伝えないの? その気持ち・・・・』
ムギ先輩はとんでもないことを聞いてくる。
「え・・・・ええぇぇっ! そ、そんな無理ですよ・・・・私・・・・・・・・そ、それに私、あんなに唯先輩のこと傷つけて・・・・・」
『ねえ梓ちゃん? さっきのことは確かに梓ちゃんも悪かったけど、あれは唯ちゃんも悪かったのよ? そのことは謝ればきっと仲直りできるはずだから・・・』
「・・・・・・・・・・」
『それにさっきのことと、梓ちゃんが自分の気持ちを伝えないことは別問題でしょ?』
「そ、それは・・・・・・」
確かにムギ先輩の言う通りだった。さっきのことは謝ればいい。
現にさっきまでどうやって謝ろうか考えていたところだった。
「でも・・・・私の気持ちは・・・・」
『・・・・・自分の気持ちが信じられない? それとも唯ちゃんのことかな?』
「・・・・・・・・・・・」
『ねえ梓ちゃん・・・・・・・人を本気で好きになるっていうのは、辛いこともたくさんあるのよ。 でもそれから逃げてちゃ大切な人と結ばれることなんて出来ないわ』
「・・・・・・・・・・・」
私は黙ってムギ先輩の話を聞いていた。
「信じてみない? 自分の気持ち・・・・・・そして唯ちゃんのことも・・・・・・」
その言葉を聞いて私はハッとする。お昼に憂に言われたことを今頃になって思い出した。
――――お姉ちゃんを信じて、待っててあげて――――
(信じる・・・信じる・・・自分のこと、唯先輩のこと・・・・・・・)
私は目を閉じ心の中で考える。
(うん・・・そう・・・・そうだよね)
そして私の心は決まった。
「ムギ先輩・・・・・・・」
『うん?』
「私・・・・・信じてみます。 そして唯先輩に自分の気持ち、ちゃんと伝えようと思います」
『そう・・・よかったわ・・・・・・・・がんばってね?』
私の答えにムギ先輩は嬉しそうに返事を返す。
「は、はいっ! その・・・・・・・ムギ先輩、いろいろとありがとうございました」
『ううん、唯ちゃんも梓ちゃんも大切な仲間だもの・・・・うまくいって欲しいからね。(それに、唯ちゃんもたぶん梓ちゃんのこと・・・・・)』
「ムギ先輩・・・・・・」
『ふふっ、それじゃそろそろ切るわね?』
「あ、はい、おやすみなさいムギ先輩」
「おやすみ・・・・梓ちゃん」
そう言って電話が切られた。
さてやることは決まった。・・・でもどうやって唯先輩に?っと考えていると、また携帯がなった。
(今度は・・・・・・・メール?)
私はメールを確認すると、そこには・・・・・・。
「あ・・・・・ゆ、唯先輩からだっ!」
私は慌ててメールを開き内容を確認する。
『明日のお昼休みに、屋上まで来てください。大事な話があります。』
「・・・・大事な話? なんだろ、やっぱり今日のことかな?・・・・でも」
これはチャンスだと思った。この機会を逃したら次はいつになるか分からない。
こういうときは勢いも大切だと私は思う。
(明日か・・・・・うんっ!)
私はもう逃げない・・・・・今度こそ唯先輩とちゃんと向き合って・・・・・。
―――そして私の本当の気持ちを唯先輩に伝えるんだ。
* * *
<AZUSA:side>
「うぅ・・・どうしよう・・・」
屋上の扉の前で私は悩んでいた。ただ今お昼休み、待ちに待った約束の時間。
・・・・なんだけど・・・・
いざ唯先輩に会うとなると、あの日泣かせてしまったことを思い出して足が震えてくる。
もう逃げないなんて意気込んではみてもいざそのときになってみるとぜんぜんダメだ・・・・・。
「でも・・・・」
私はノブに手をかける。この先に唯先輩が待っている。
逃げちゃだめだ!っと自分を奮い立たせゆっくりと扉を開いていく。
(あ・・・・・・・・唯先輩・・・・・・・・)
ガチャンっという音に反応したのか、後ろを向いていた唯先輩がゆっくりと振り向く。
そして、私を確認するとニッコリとした笑顔を見せてくる。
「えへへ・・・あずにゃん。・・・・・来てくれてよかったよ」
来てくれないんじゃないかって思ってたからね、っと唯先輩は続ける。
「そ、そんな・・・その・・・私も唯先輩にお話がありましたから・・・」
私はというとそのいつもと変わらない笑顔に唯先輩の顔がまともに見られなかった。
あの日あんなに傷つけたのに、どうしてそんな笑顔で笑っていられるんだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
辺りが静寂に包まれる。
(・・・・・このままじゃダメだ、まずは謝らないと・・・・)
そして私は一度呼吸を整え、そして一気に・・・・・
「ごめんなさいっ!!」
「ごめんねっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「「えっ!」」
私は驚いて唯先輩の顔を見る。唯先輩も驚いた表情でこちらを見ている。
まさか同時に謝ってしまうとは思いもしなかった。なぜかおかしくなってしまった私は・・・・
「「ぷ・・・あはははははは」」
声を上げて笑ってしまった。唯先輩も同じように笑ってる。
なんだかいままで悩んでいたのがバカらしく思えてきた。
「ふふふ・・・・・・・はぁ・・・・・・・・あずにゃん、あのその、この前はその・・・ホントにごめんね?」
「そ、そんな、何言ってるんですか・・・・・あ、あれは私が一方的に・・・・謝るのは私のほうですよ!」
いきなり謝ってくる唯先輩に私は声を張り上げる。・・・・あれは私が悪いんだと言おうとしたけれど、
「ううん・・・それでもやっぱり、私が悪かったんだよ。ちゃんと説明してあげてれば、あずにゃんを怒らせることもなかったと思うし・・・・」
「そ、そんな・・・」
「でもね、今日はちゃんと話すから、全部。・・・・・ていうか今日じゃなきゃダメだったんだよ」
そう言うと、唯先輩は小さな黒い箱を取り出した。
(・・・・今日じゃなきゃダメ?・・・・それにその箱は何?)
いろいろと疑問は尽きないけど、私は唯先輩の次の言葉を待つ。
「えーとね・・・・実はこれを買うためにずっとバイトしてたんだ」
あははと笑う唯先輩
「え・・・・えぇぇぇ!? バ、バイトですかっ? じゃ、じゃあここ最近ずっと先に帰ってたのは・・・」
「うん! バイト。・・・・・・・ちょっと自分のお小遣いじゃ手がでなかったもので・・・えへへ。 昨日ようやくバイト代が溜まったから買えたんだぁ」
そうだったのか・・・・・・・ようやく謎がとけた。
(・・・・よかったぁ、彼氏とかじゃなくて・・・・)
「え、えと、それでその箱っていったい何なんですか?」
「う、うん・・・・・・・これ、なんだけど・・・」
唯先輩は顔を赤く染め、ゆっくりと箱を開いていく。
そしてそこにあったのは、二組の指輪だった。そう、俗に言うペアリングと言うやつだ。
しかもその指輪は太陽の光に照らされて虹色に輝いている。
「指輪・・・・? それに・・・・・・・綺麗・・・・」
「えへへ・・・すごいでしょ? 一目見て気に入っちゃってさぁ」
「は、はい。ホントにすごいです・・・・・」
「う、うん。それでね・・・その・・・どうしても今日、自分の気持ちといっしょにこの指輪を渡そうって決めてたんだ」
唯先輩は赤い顔で俯き、もじもじしている。
「え・・・・?」
一瞬私の思考が停止したがすぐに動きだす。
(・・・・・・・自分の気持ち?・・・・・・その指輪を誰に渡すの?)
そんなことを思っていると、不意に唯先輩に声をかけられる。
「中野梓さん」
「は、はひっ!?」
考え込んでいたことと、いきなりフルネームで呼ばれたことに声が裏返ってしまった。
そんな私を他所に、頬を赤く染め、真剣な瞳で私を見つめてくる唯先輩。
「私は・・・・・」
「・・・・・・・・・」
私は黙って唯先輩の言葉を待った。
「私は・・・・・・・・私は貴女のことが好きですっ!」
「っ!!?」
「も、もしよかったら・・・私と付き合ってくださいっ・・・」
唯先輩は目をギュッと瞑り、真っ赤に染まった顔で指輪の入った小箱を差し出してくる。
・・・・・・・そう、それは唯先輩の精一杯の愛の告白だった・・・・・。
(え?・・・へ?・・・誰が誰を好き?・・・・・唯先輩が私を?)
・・・・・・・・・・・ていうか、今まで唯先輩の行動がおかしかったのって、全部私のため・・・・・・・・?
私は、ここにきてようやく全てを理解した・・・・・・・。目尻が熱くなってくる。溢れる涙を止められない。
ホントは私が告白するはずだったのに、まさか唯先輩から告白されるなんて思いもしなかった。
私は嬉しくて嬉しく、勢いよく唯先輩に抱きついた。
「あ、あずにゃんっ?」
「ぐす・・・・うぅ・・・ゆいせんぱい・・・ぐす・・・わた、わたしも・・・わたしも、唯先輩のことが好きです。大好きですっ!」
「あずにゃん・・・」
私の返事を聞き、嬉しそうな笑顔を浮かべる唯先輩はゆっくりと私の身体に腕を回してくる。
そして唯先輩は、私が落ち着くまでの間ずっと抱きしめてくれていた。
* * *
<YUI:side>
「落ち着いた?」
「は、はい・・・ありがとうございます、唯先輩」
あれから5分くらいの間、私たちは抱き合っていた。
大分落ち着いてきたあずにゃんは私からゆっくりと離れた。
ちょっと名残惜しいと思ったのはナイショだ。
「えぇと、それで、私たちは恋人同士でいいんだよね?」
「っ!・・・・は、はい」
ちょっと恥ずかしかったけど私は思い切って聞いてみる。
そんな私の恋人宣言にあずにゃんは茹蛸みたいに顔を真っ赤にさせて頷く。
(うう・・・・・・・可愛いよぉ・・・・・・・・・抱きしめていいかな??)
一瞬トリップしそうになったけど、一番大事なことを忘れてたので正気に戻ることにした。
そう、あの指輪・・・・まだあずにゃんに渡してないからね。
「それで、その・・・この指輪なんだけど・・・・・付けてもいいかな?」
「あ、は、はい・・・・ど、どうぞ」
あずにゃんは私に右手を差し出す。でも、私が取ったのは左手だった。
そして小箱から指輪を取り出し、指に嵌めていく。
「これでよしっと!」
「っ!」
あずにゃんは驚く。なぜなら指輪が嵌っているのは・・・・左手の薬指だったから。
「あ、ああああ、あの、ゆ、ゆいせんぱいっ!?」
「ん?なあに?」
「こ、これってっ!」
「ふふっ! ダメかな? あずにゃん」
「あ・・・・あぅ、だ、ダメじゃないです・・・・・すごく嬉しいです・・・・」
慌てふためくあずにゃんに私は満面の笑顔で答える。
あずにゃんも嬉しそうに愛おしそうに指に嵌った指輪を見つめている。
「それでね?もう一個の指輪はあずにゃんから私に嵌めてほしいんだけどなぁ?」
「わ、わかりました。まかせてください!」
あずにゃんは残った指輪を取り、ゆっくりと私の左手薬指に指輪を嵌めていく。
「えへへ・・・・ありがと。・・・・・・・・・愛してるよあずにゃん」
「私も愛しています。・・・唯先輩」
私たちは静かに見つめあう。そしてあずにゃんはゆっくりと瞳を閉じ、唇を私に差し出してくる。
そんなあずにゃんに答えるように私はあずにゃんを優しくだきしめ、
そっとあずにゃんの唇に自分の唇を重ね合わせた。
恋人同士になって初めてのキス・・・・・・すごく柔らかくて、暖かくて、そしてちょっぴり甘酸っぱい。
あずにゃんは私の首に腕を回し、さらに唇を押し付けてくる。
何度も何度も角度を変えて唇の感触を確かめるようにキスしていく。
(すごく・・・気持ちいい・・・何故だかわからないけど、もっともっとあずにゃんが欲しい・・・・)
そう思った私は、あずにゃんの唇の隙間から舌を差し入れる。
あずにゃんは一瞬ビクッとしたけど、ゆっくりと私の舌に絡ませていく。
「ちゅ・・・・ちゅぴ・・・・・・んん・・・・・・ちゅる」
「んん・・・・ちゅ・・・・ちゅ・・・・・ん」
ぴちゃぴちゃと音をたて求め合う舌先に滴る、大量の唾液。
すごくエッチだけど、そんなことが気にならないくらい、あずにゃんとのキスは気持ちよかった。
私はさらに深く深く口付けていく。あずにゃんもそれに答えてくれる。それがすごく嬉しくて・・・・・。
「ちゅう・・・・ちゅ・・・はぁ・・・・あ・・ず・・にゃん・・・・・」
「んん・・・・・ちゅる・・・・・ちゅ・・・・・ゆい・・・せんぱ・・・・」
どれだけの間キスしてただろう・・・・・・・・1分だったかもしれないし5分くらいしていたかもしれない。
だんだん息苦しくなったので、名残惜しかったけど私は唇を離す。
私たちの舌は唾液で糸が引いていた。なんていうか・・・・その・・・すごくエッチだ・・・・。
「はぁ・・・・はぁ・・・・ふぅ・・・」
「あぁ・・・・・はぁ・・・・・・ゆ、ゆいせんぱい・・・?」
あずにゃんは目がトロンとして頬が上気している。
なんていうかすごくいやらしくて・・・・こんなあずにゃんを見るのは初めてだからすごくビックリだ。
でもあずにゃんは私が唇を離したことに不満だったようだ。
「やぁ・・・・ゆいせんぱい・・・・もっとぉ・・・・」
「へ?・・・・・あ、あずにゃん・・・・・んぐっ!」
そしてまた唇を押し付けてくるあずにゃん。しかも最初から舌を絡ませてくる。
驚いた私だったけど、あずにゃんが求めてくれることが嬉しくて、私も同じように舌を絡ませる。
それからしばらくの間私たちは何度も何度も口付けを交わした・・・・・。
* * *
「ご、ごめんなさいっ!」
長いキスが終わった私たち。正気に戻ったあずにゃんはいきなり謝ってきた。
「そ、その・・・・あの・・・・あ、あんなに・・・・・・」
あずにゃんはさっきのキスを思い出したのか、ボンッと顔から蒸気が噴出す。
「あ、あはは・・・・・いいよぉ・・・・・そんな・・・・私もすごく気持ちよかったし・・・・・」
私は火照った顔で素直な気持ちをあずにゃんに伝える。
「き、気持ちよかったって・・・・その・・あの・・・・うう・・・・・・」
確かにすごく気持ちよくて我を忘れてしまいましたけど・・・っとあずにゃんはぼそぼそと呟く。
そんなあずにゃんが可愛くて、私は少し悪戯を思いついた。ゆっくりとあずにゃんの耳元に唇をよせ・・・・
「ねぇ・・・・あずにゃん・・・・今日私の家によっていかない?・・・・さっきの続きはベッドの中で・・・ね?」
「っっ!!?」
ちょっとエッチだっただろうか・・・・自分の発言にいまさらながら恥ずかしくなってしまう。
さすがに悪戯が過ぎたかなぁと思ってあずにゃんの顔を覗きこもうとした瞬間、
ちゅっと唇に触れるだけのキスをされる。完全に不意打ちだった。
あずにゃんは真っ赤な顔で瞳を潤ませ、上目遣いで私に爆弾を投下する。
「わ、私、初めてですから・・・・や、優しく・・・・してくださいね?・・・・ゆいせんぱい・・・」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くはっ!?)
今すぐにでもお持ち帰りしたい気分だった・・・・・。
とまあそんなこんなで、いろいろあった今回の出来事だけど、私は大切なことに気付くことができて、
こうしてあずにゃんと笑い合えている。
・・・・だから・・・・
「あずにゃん、ずっと一緒にいようねっ!」
「はいっ!」
それは二人だけの約束・・・これから先の未来、きっと楽しいことだけじゃなく、辛いことも一杯あるだろう・・・
でもあずにゃんと一緒ならきっと乗り越えていける・・・・私はそう信じているから。
青空の下、二人の指に嵌った指輪が、虹色に輝く。
まるで二人のこれからを祝福するように。
おしまい
〜後日談〜
その後の二人を少しだけ語ろう・・・・・。
二人が結ばれてからもう一週間が経過していた。
今は放課後いつもの軽音楽部でのティータイムの真っ最中だった。そんな中、例の二人はというと・・・・
「はい、あずにゃん。 あ〜ん♪」
「あ、あ〜ん・・・」
唯は梓を膝に乗せ、ケーキを食べさせていた。
これくらいは唯にとっていつものスキンシップなのでそれほどでもないが、
梓はまだ慣れていないらしく、恥ずかしそうに顔を朱に染めている。
「あ、あずにゃん。 口元にクリーム付いてるよ? とってあげるね?」
「え?・・・・そ、そんないいですよ。 自分でとりますか・・・・んんっ!?」
唯は口元についたクリームを取るついでに梓の唇にキスを落とす。
「えへへ・・・・おいしかったよ。 あずにゃん」
「も、もう・・・・・唯先輩ったらぁ」
完全に二人だけの世界である。
だがしかし、もちろんいつものティータイムなので二人っきりではない。
「あああああああああああ、あま〜〜〜〜〜〜〜い、練乳に練乳かけて食ったくらいあまーーーーーーーいっ!」
二人の桃色閉鎖空間を見ていた律が真っ赤な顔で叫ぶ。
ただ一つ言わせてもらうなら練乳に練乳をかけても練乳でしかない。
「ひゃ・・・・あ、あんな・・・・す、すごい」
澪は両手で顔を覆っているが、指の隙間からちゃっかり二人の様子を見ている。
ジーーーーーーーー
「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・イイ・・・イイわぁ」
紬は最新型のビデオカメラを回し、恍惚の表情を浮かべている。さらには鼻息も荒くなっている。
あの日以来、紬はビデオカメラを常に持ち歩いている。もちろんゆいあずの愛のメモリーを保存するためだ。
「まあいいじゃな〜い♪ いつものことよ、いつものこと♪」
嬉しそうにケーキを頬張っているのは軽音楽部顧問の山中さわ子だ。
嬉しそうな表情なのは、ただたんにまた出番があったから喜んでいるだけである。
「あずにゃん、だぁ〜いすき。 ぎゅっ」
「ふふ♪ 私も大好きですよ、唯先輩・・・・」
今日も軽音楽部は平和です。
〜あとがきみたいな〜
はい、というわけで完結です。
やっと終わった・・・・まさかこんなに長くなるとは自分でも思ってませんでした。
次も唯梓でなにか書こうかと思ってます。
というかこの二人が何故か書きやすい。
ではでは
次呼び方
「うぅ・・・どうしよう・・・」
屋上の扉の前で私は悩んでいた。ただ今お昼休み、待ちに待った約束の時間。
・・・・なんだけど・・・・
いざ唯先輩に会うとなると、あの日泣かせてしまったことを思い出して足が震えてくる。
もう逃げないなんて意気込んではみてもいざそのときになってみるとぜんぜんダメだ・・・・・。
「でも・・・・」
私はノブに手をかける。この先に唯先輩が待っている。
逃げちゃだめだ!っと自分を奮い立たせゆっくりと扉を開いていく。
(あ・・・・・・・・唯先輩・・・・・・・・)
ガチャンっという音に反応したのか、後ろを向いていた唯先輩がゆっくりと振り向く。
そして、私を確認するとニッコリとした笑顔を見せてくる。
「えへへ・・・あずにゃん。・・・・・来てくれてよかったよ」
来てくれないんじゃないかって思ってたからね、っと唯先輩は続ける。
「そ、そんな・・・その・・・私も唯先輩にお話がありましたから・・・」
私はというとそのいつもと変わらない笑顔に唯先輩の顔がまともに見られなかった。
あの日あんなに傷つけたのに、どうしてそんな笑顔で笑っていられるんだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
辺りが静寂に包まれる。
(・・・・・このままじゃダメだ、まずは謝らないと・・・・)
そして私は一度呼吸を整え、そして一気に・・・・・
「ごめんなさいっ!!」
「ごめんねっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「「えっ!」」
私は驚いて唯先輩の顔を見る。唯先輩も驚いた表情でこちらを見ている。
まさか同時に謝ってしまうとは思いもしなかった。なぜかおかしくなってしまった私は・・・・
「「ぷ・・・あはははははは」」
声を上げて笑ってしまった。唯先輩も同じように笑ってる。
なんだかいままで悩んでいたのがバカらしく思えてきた。
「ふふふ・・・・・・・はぁ・・・・・・・・あずにゃん、あのその、この前はその・・・ホントにごめんね?」
「そ、そんな、何言ってるんですか・・・・・あ、あれは私が一方的に・・・・謝るのは私のほうですよ!」
いきなり謝ってくる唯先輩に私は声を張り上げる。・・・・あれは私が悪いんだと言おうとしたけれど、
「ううん・・・それでもやっぱり、私が悪かったんだよ。ちゃんと説明してあげてれば、あずにゃんを怒らせることもなかったと思うし・・・・」
「そ、そんな・・・」
「でもね、今日はちゃんと話すから、全部。・・・・・ていうか今日じゃなきゃダメだったんだよ」
そう言うと、唯先輩は小さな黒い箱を取り出した。
(・・・・今日じゃなきゃダメ?・・・・それにその箱は何?)
いろいろと疑問は尽きないけど、私は唯先輩の次の言葉を待つ。
「えーとね・・・・実はこれを買うためにずっとバイトしてたんだ」
あははと笑う唯先輩
「え・・・・えぇぇぇ!? バ、バイトですかっ? じゃ、じゃあここ最近ずっと先に帰ってたのは・・・」
「うん! バイト。・・・・・・・ちょっと自分のお小遣いじゃ手がでなかったもので・・・えへへ。 昨日ようやくバイト代が溜まったから買えたんだぁ」
そうだったのか・・・・・・・ようやく謎がとけた。
(・・・・よかったぁ、彼氏とかじゃなくて・・・・)
「え、えと、それでその箱っていったい何なんですか?」
「う、うん・・・・・・・これ、なんだけど・・・」
唯先輩は顔を赤く染め、ゆっくりと箱を開いていく。
そしてそこにあったのは、二組の指輪だった。そう、俗に言うペアリングと言うやつだ。
しかもその指輪は太陽の光に照らされて虹色に輝いている。
「指輪・・・・? それに・・・・・・・綺麗・・・・」
「えへへ・・・すごいでしょ? 一目見て気に入っちゃってさぁ」
「は、はい。ホントにすごいです・・・・・」
「う、うん。それでね・・・その・・・どうしても今日、自分の気持ちといっしょにこの指輪を渡そうって決めてたんだ」
唯先輩は赤い顔で俯き、もじもじしている。
「え・・・・?」
一瞬私の思考が停止したがすぐに動きだす。
(・・・・・・・自分の気持ち?・・・・・・その指輪を誰に渡すの?)
そんなことを思っていると、不意に唯先輩に声をかけられる。
「中野梓さん」
「は、はひっ!?」
考え込んでいたことと、いきなりフルネームで呼ばれたことに声が裏返ってしまった。
そんな私を他所に、頬を赤く染め、真剣な瞳で私を見つめてくる唯先輩。
「私は・・・・・」
「・・・・・・・・・」
私は黙って唯先輩の言葉を待った。
「私は・・・・・・・・私は貴女のことが好きですっ!」
「っ!!?」
「も、もしよかったら・・・私と付き合ってくださいっ・・・」
唯先輩は目をギュッと瞑り、真っ赤に染まった顔で指輪の入った小箱を差し出してくる。
・・・・・・・そう、それは唯先輩の精一杯の愛の告白だった・・・・・。
(え?・・・へ?・・・誰が誰を好き?・・・・・唯先輩が私を?)
・・・・・・・・・・・ていうか、今まで唯先輩の行動がおかしかったのって、全部私のため・・・・・・・・?
私は、ここにきてようやく全てを理解した・・・・・・・。目尻が熱くなってくる。溢れる涙を止められない。
ホントは私が告白するはずだったのに、まさか唯先輩から告白されるなんて思いもしなかった。
私は嬉しくて嬉しく、勢いよく唯先輩に抱きついた。
「あ、あずにゃんっ?」
「ぐす・・・・うぅ・・・ゆいせんぱい・・・ぐす・・・わた、わたしも・・・わたしも、唯先輩のことが好きです。大好きですっ!」
「あずにゃん・・・」
私の返事を聞き、嬉しそうな笑顔を浮かべる唯先輩はゆっくりと私の身体に腕を回してくる。
そして唯先輩は、私が落ち着くまでの間ずっと抱きしめてくれていた。
* * *
<YUI:side>
「落ち着いた?」
「は、はい・・・ありがとうございます、唯先輩」
あれから5分くらいの間、私たちは抱き合っていた。
大分落ち着いてきたあずにゃんは私からゆっくりと離れた。
ちょっと名残惜しいと思ったのはナイショだ。
「えぇと、それで、私たちは恋人同士でいいんだよね?」
「っ!・・・・は、はい」
ちょっと恥ずかしかったけど私は思い切って聞いてみる。
そんな私の恋人宣言にあずにゃんは茹蛸みたいに顔を真っ赤にさせて頷く。
(うう・・・・・・・可愛いよぉ・・・・・・・・・抱きしめていいかな??)
一瞬トリップしそうになったけど、一番大事なことを忘れてたので正気に戻ることにした。
そう、あの指輪・・・・まだあずにゃんに渡してないからね。
「それで、その・・・この指輪なんだけど・・・・・付けてもいいかな?」
「あ、は、はい・・・・ど、どうぞ」
あずにゃんは私に右手を差し出す。でも、私が取ったのは左手だった。
そして小箱から指輪を取り出し、指に嵌めていく。
「これでよしっと!」
「っ!」
あずにゃんは驚く。なぜなら指輪が嵌っているのは・・・・左手の薬指だったから。
「あ、ああああ、あの、ゆ、ゆいせんぱいっ!?」
「ん?なあに?」
「こ、これってっ!」
「ふふっ! ダメかな? あずにゃん」
「あ・・・・あぅ、だ、ダメじゃないです・・・・・すごく嬉しいです・・・・」
慌てふためくあずにゃんに私は満面の笑顔で答える。
あずにゃんも嬉しそうに愛おしそうに指に嵌った指輪を見つめている。
「それでね?もう一個の指輪はあずにゃんから私に嵌めてほしいんだけどなぁ?」
「わ、わかりました。まかせてください!」
あずにゃんは残った指輪を取り、ゆっくりと私の左手薬指に指輪を嵌めていく。
「えへへ・・・・ありがと。・・・・・・・・・愛してるよあずにゃん」
「私も愛しています。・・・唯先輩」
私たちは静かに見つめあう。そしてあずにゃんはゆっくりと瞳を閉じ、唇を私に差し出してくる。
そんなあずにゃんに答えるように私はあずにゃんを優しくだきしめ、
そっとあずにゃんの唇に自分の唇を重ね合わせた。
恋人同士になって初めてのキス・・・・・・すごく柔らかくて、暖かくて、そしてちょっぴり甘酸っぱい。
あずにゃんは私の首に腕を回し、さらに唇を押し付けてくる。
何度も何度も角度を変えて唇の感触を確かめるようにキスしていく。
(すごく・・・気持ちいい・・・何故だかわからないけど、もっともっとあずにゃんが欲しい・・・・)
そう思った私は、あずにゃんの唇の隙間から舌を差し入れる。
あずにゃんは一瞬ビクッとしたけど、ゆっくりと私の舌に絡ませていく。
「ちゅ・・・・ちゅぴ・・・・・・んん・・・・・・ちゅる」
「んん・・・・ちゅ・・・・ちゅ・・・・・ん」
ぴちゃぴちゃと音をたて求め合う舌先に滴る、大量の唾液。
すごくエッチだけど、そんなことが気にならないくらい、あずにゃんとのキスは気持ちよかった。
私はさらに深く深く口付けていく。あずにゃんもそれに答えてくれる。それがすごく嬉しくて・・・・・。
「ちゅう・・・・ちゅ・・・はぁ・・・・あ・・ず・・にゃん・・・・・」
「んん・・・・・ちゅる・・・・・ちゅ・・・・・ゆい・・・せんぱ・・・・」
どれだけの間キスしてただろう・・・・・・・・1分だったかもしれないし5分くらいしていたかもしれない。
だんだん息苦しくなったので、名残惜しかったけど私は唇を離す。
私たちの舌は唾液で糸が引いていた。なんていうか・・・・その・・・すごくエッチだ・・・・。
「はぁ・・・・はぁ・・・・ふぅ・・・」
「あぁ・・・・・はぁ・・・・・・ゆ、ゆいせんぱい・・・?」
あずにゃんは目がトロンとして頬が上気している。
なんていうかすごくいやらしくて・・・・こんなあずにゃんを見るのは初めてだからすごくビックリだ。
でもあずにゃんは私が唇を離したことに不満だったようだ。
「やぁ・・・・ゆいせんぱい・・・・もっとぉ・・・・」
「へ?・・・・・あ、あずにゃん・・・・・んぐっ!」
そしてまた唇を押し付けてくるあずにゃん。しかも最初から舌を絡ませてくる。
驚いた私だったけど、あずにゃんが求めてくれることが嬉しくて、私も同じように舌を絡ませる。
それからしばらくの間私たちは何度も何度も口付けを交わした・・・・・。
* * *
「ご、ごめんなさいっ!」
長いキスが終わった私たち。正気に戻ったあずにゃんはいきなり謝ってきた。
「そ、その・・・・あの・・・・あ、あんなに・・・・・・」
あずにゃんはさっきのキスを思い出したのか、ボンッと顔から蒸気が噴出す。
「あ、あはは・・・・・いいよぉ・・・・・そんな・・・・私もすごく気持ちよかったし・・・・・」
私は火照った顔で素直な気持ちをあずにゃんに伝える。
「き、気持ちよかったって・・・・その・・あの・・・・うう・・・・・・」
確かにすごく気持ちよくて我を忘れてしまいましたけど・・・っとあずにゃんはぼそぼそと呟く。
そんなあずにゃんが可愛くて、私は少し悪戯を思いついた。ゆっくりとあずにゃんの耳元に唇をよせ・・・・
「ねぇ・・・・あずにゃん・・・・今日私の家によっていかない?・・・・さっきの続きはベッドの中で・・・ね?」
「っっ!!?」
ちょっとエッチだっただろうか・・・・自分の発言にいまさらながら恥ずかしくなってしまう。
さすがに悪戯が過ぎたかなぁと思ってあずにゃんの顔を覗きこもうとした瞬間、
ちゅっと唇に触れるだけのキスをされる。完全に不意打ちだった。
あずにゃんは真っ赤な顔で瞳を潤ませ、上目遣いで私に爆弾を投下する。
「わ、私、初めてですから・・・・や、優しく・・・・してくださいね?・・・・ゆいせんぱい・・・」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くはっ!?)
今すぐにでもお持ち帰りしたい気分だった・・・・・。
とまあそんなこんなで、いろいろあった今回の出来事だけど、私は大切なことに気付くことができて、
こうしてあずにゃんと笑い合えている。
・・・・だから・・・・
「あずにゃん、ずっと一緒にいようねっ!」
「はいっ!」
それは二人だけの約束・・・これから先の未来、きっと楽しいことだけじゃなく、辛いことも一杯あるだろう・・・
でもあずにゃんと一緒ならきっと乗り越えていける・・・・私はそう信じているから。
青空の下、二人の指に嵌った指輪が、虹色に輝く。
まるで二人のこれからを祝福するように。
おしまい
〜後日談〜
その後の二人を少しだけ語ろう・・・・・。
二人が結ばれてからもう一週間が経過していた。
今は放課後いつもの軽音楽部でのティータイムの真っ最中だった。そんな中、例の二人はというと・・・・
「はい、あずにゃん。 あ〜ん♪」
「あ、あ〜ん・・・」
唯は梓を膝に乗せ、ケーキを食べさせていた。
これくらいは唯にとっていつものスキンシップなのでそれほどでもないが、
梓はまだ慣れていないらしく、恥ずかしそうに顔を朱に染めている。
「あ、あずにゃん。 口元にクリーム付いてるよ? とってあげるね?」
「え?・・・・そ、そんないいですよ。 自分でとりますか・・・・んんっ!?」
唯は口元についたクリームを取るついでに梓の唇にキスを落とす。
「えへへ・・・・おいしかったよ。 あずにゃん」
「も、もう・・・・・唯先輩ったらぁ」
完全に二人だけの世界である。
だがしかし、もちろんいつものティータイムなので二人っきりではない。
「あああああああああああ、あま〜〜〜〜〜〜〜い、練乳に練乳かけて食ったくらいあまーーーーーーーいっ!」
二人の桃色閉鎖空間を見ていた律が真っ赤な顔で叫ぶ。
ただ一つ言わせてもらうなら練乳に練乳をかけても練乳でしかない。
「ひゃ・・・・あ、あんな・・・・す、すごい」
澪は両手で顔を覆っているが、指の隙間からちゃっかり二人の様子を見ている。
ジーーーーーーーー
「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・イイ・・・イイわぁ」
紬は最新型のビデオカメラを回し、恍惚の表情を浮かべている。さらには鼻息も荒くなっている。
あの日以来、紬はビデオカメラを常に持ち歩いている。もちろんゆいあずの愛のメモリーを保存するためだ。
「まあいいじゃな〜い♪ いつものことよ、いつものこと♪」
嬉しそうにケーキを頬張っているのは軽音楽部顧問の山中さわ子だ。
嬉しそうな表情なのは、ただたんにまた出番があったから喜んでいるだけである。
「あずにゃん、だぁ〜いすき。 ぎゅっ」
「ふふ♪ 私も大好きですよ、唯先輩・・・・」
今日も軽音楽部は平和です。
〜あとがきみたいな〜
はい、というわけで完結です。
やっと終わった・・・・まさかこんなに長くなるとは自分でも思ってませんでした。
次も唯梓でなにか書こうかと思ってます。
というかこの二人が何故か書きやすい。
ではでは
次呼び方
このページへのコメント
ヤバいっマジ最高
なんか、唯梓でここまで感動したのは久しぶりだなぁ。
内容や構成とか本当に素晴らしいです!
こんな良い話をありがとうございました。
感動しました。
泣けます。
最高っすわ…
普段は輝いてるのに気が付かない指輪=唯にとっての梓
って解釈していいのかな?
にしても構成がすごい上手い…著者は小説家か!?