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著者:4-330氏


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澪ちゃんの突然の告白の翌日、律ちゃんは学校に来なかった。担任の先生に理由を聞くと風邪だと
言います。無断欠席でないだけほっとしたけど、律ちゃんが仮病を使うなんて……ううん、そんな言
い方は良くないわ。律ちゃんにとっては身体の不調なんかよりずっと大変なことだもの。

「律ちゃんって風邪とかひかないと思ってた」
「まあ律ちゃんおばかだもんねー」

普段お昼を一緒に食べるお友達もどこか寂しそう。ばかなんて言ってるけど、みんなおばかな律ち
ゃんが恋しいのよね。お休みなのに結局律ちゃんの机に集まっているのがいい証拠。例えは悪いけれ
どまるでお通夜みたい。こんな時私も律ちゃんみたいにみんなを盛り上げられたらいいのだけど……
だめ、今度何か一発芸でも考えておこうかしら。
HRが終わると同じ部活の人達が楽しそうにおしゃべりしながらそれぞれの活動場所に駆けていく。
普段は私も律ちゃんと放課後のさざめく廊下を音楽室に向かう所だけど、今日は一人そそくさと荷物
を纏めて教室を後にする。
澪ちゃんは学校に来てはいたけど、なんだか行き帰りに事故に合わないか心配になっちゃうくらい
に頼りない雰囲気で、とても練習できる風じゃなかった。
唯ちゃんは相変わらずさわ子先生の特訓でお休み。四人一緒が当たり前だった軽音部がいきなりバ
ラバラになってしまった。
薄暗い昇降口を出て表に出ると、空はまだまだ明るくてこんな時間に帰ることが勿体なく思えてし
まう。夕方と違って駅へ通じる大通りにも人影は少ない。部活が終わって帰る時間には私達の他にも
沢山の女の子が歩いていて、平凡な町並みが溢れるばかりの女の子で彩られる様子が私はたまらなく
好きだった。
ひっきりなしのおしゃべりに合わせて、スカートから覗く華奢な足が踊るように駆けていく。ずっ
と昔、桜ヶ丘が出来た頃からこの風景は少しずつその登場人物を変えながら続いて、さわ子先生も昔
はその一人だったのだろうし、そして今は私に役が巡ってきている。
そうしたことを思う時、私は永遠というものを少し信じられるような気がするのだった。
けれど明るすぎる陽差しの中では夢を見ることもできない。身も蓋もないねずみ色をした町を私は
一人で歩く。
がらがらの電車を乗り継いで家に帰ってももやもやした気分は続いていた。出迎えてくれた斉藤も
私の機嫌が悪いのを察したのか、小さく一礼だけしてすぐに仕事に戻った。
自分の部屋に入ると鞄を放りだしてベッドに倒れ込む。目を瞑ると昨日の澪ちゃんの言葉が耳鳴り
のように頭に響いた。
『ムギが私達のことも付き合ってるみたいに見てるんじゃないかって言った……そう言えば律も少し
は私のこと意識してくれるんじゃないかって』
『ムギにはわかんないよ!現実はムギが頭の中で考えてるみたいにうまくいったりしないんだ……!』
仲の良い女の子同士ってとっても幸せそうで、可愛くて、だから私はそういう二人がずっと一緒に
いられたらいいなって思ってた。なのにその私のせいで幼馴染みの二人があんな風に仲違いしてしま
うなんて。

「私が子供だったのかな、ママ」

ベッド脇の棚の上に置いてある写真立てには、ずっと小さい頃家族三人でとった写真が収まってい
る。黒髪のパパと金髪のママ。私は、顔は日本人寄りだけど、髪にはママの血が強く出た。日本人の
パパの所に遠い国からお嫁に来たママ。言葉や生活習慣、色んな壁を乗り越えて結ばれた二人。そん
な二人の間に生まれ育って、私は愛というものを都合良く考えすぎていたのかもしれない。



私は小学生の頃、『赤毛のアン』で続きの巻にダイアナが殆ど出てこないって知ってすごくショッ
クだった。腹心の友だったはずの二人が疎遠になってしまう。それは当時の私にとって、まさに空か
ら太陽と月がいっぺんになくなってしまったのと同じようなことだったから。
それから女の子同士でも、恋していれば、愛があればずっと一緒にいられるんじゃないかなんて、
飛躍した思いつきをしたのはいつのことだったろう。ただ気付いた時には私は、もう今の私になって
いて、両親の薦める共学の進学校を蹴って女子高の桜ヶ丘に入っていた。
ここには親密な女の子達が一杯いて、さりげに腕を組んだり、カーテンの影でひそひそ話に興じる
彼女達を見ているだけですごく幸せだった。でもずうっと物語の読者のままでいた私は、恋する人の
胸の内にある激しさをわかっていなかったみたい。
あの恥ずかしがり屋な澪ちゃんが自分からキスするなんて。今律ちゃんの唇が欲しいってそれだけ
で、この先どうなるかなんてその瞬間は何も考えられなかったんだろうな。
律ちゃんの方はどうだったんだろう。ドアが勢いよく開いたのにびっくりした私は律ちゃんがどん
な顔をしていたのかよく見ていなかった。だからってわけじゃないけど、私はまだ律ちゃんが澪ちゃ
んの想いを受け入れることを期待している。
律ちゃんにとって澪ちゃんはいるのが当たり前の、空気のようなものだから、今とは違う接し方が
急には思いつかなくて、それで逃げちゃったんじゃないかと思う。最後に澪ちゃんが望むような関係
が残るかはわからないけど、律ちゃんはそのうちに気持ちの整理を付けて帰ってくるって、信じたい。
でも、とそこまで考えて私はため息をついた。そのうちじゃ困ることもあるのよね。四日後に迫っ
た学園祭、私達はステージでライブをしなければならない。まだボーカルを入れて合わせたこともな
いし、そもそも今のテンションでまともに演奏できるのかしら?最悪この間に律ちゃんが軽音部に来
てくれるかもわからない。
さわ子先生と一緒に元気よく飛び出していった唯ちゃんの顔が目に浮かぶ。あんなに一生懸命練習
していたのに、自分の知らない所でライブができなくなるなんて可哀想すぎる。
唯ちゃんだけじゃない、私だってライブを待ち遠しく思っていた。一人で刃物を研ぐように練習し
ていたピアノとは違う、四人でおしゃべりしながら欲しいものを全部入れて作った曲をみんなに聴い
てもらいたかった。それで私達の演奏が少しでも学園祭の雰囲気を盛り上げることができたならって
思っていたのに。
私はベッドから起きあがると鞄から携帯を取り出した。律ちゃんにメールでも送ってみようか、で
も何て書けばいいのかな。
なかなかしっくり来る文章が思いつかなくて結局、明日は来られる?とだけ書いて送信した。緊張
で喉の奥に嫌な乾きが張り付いた頃、返事が帰ってきた。
『澪は来てた?』
私はすぐに返信した。
『来てたけど元気なかった』
もどかしかった。こんなメールじゃ何もわからないし、何も伝わらない。15分も携帯を眺めてい
ただろうか、決心して電話を掛けた。けれど聞こえてきたのは機械的な女性の声色だけで、私は携帯
を放りだすと枕に顔を埋めた。


今日も律ちゃんは欠席だった。メールの返事もあれきり来なくて、何も変わらないまま時間だけが
過ぎてゆく。
放課後、私は不安な気持ちを抑えて音楽室に向かった。階段を登ると誰もいないと思っていた音楽
室に人の気配があって、慌てて扉を開けるろ澪ちゃんが一人でベースのチューニングをしていた。

「澪ちゃん、来てくれたんだ」
「うん。こないだはごめん、私八つ当たりして酷いこと言っちゃったな」
「ううん、気にしないで。私は澪ちゃんが帰ってきてくれただけで嬉しい」



じっと澪ちゃんの顔を見た。少しやつれた頬や重たげな瞼に、どこか退廃的な色気を感じてドキっ
とする。
そんな私の視線に気付いて澪ちゃんが口を開いた。

「私は言いたい事はもう言っちゃったし。勿論つらいけど、律はもっとつらいだろうから……それ
にさ、良く泣く人のほうがかえってストレス溜まらないって言うだろ、……だから私は大丈夫。さあ
練習しよう、唯もそろそろ帰ってくる頃だよ」

そう言って澪ちゃんはベースをアンプに繋いだ。
気丈に背筋を伸ばして立った澪ちゃんには途中から折れてしまいそうな危うさがあって、私は小さく
頷くとキーボードの前に立った。
ワン、ツー、スリー、フォー。澪ちゃんが足を踏みならして拍子をとる。普段は律ちゃんがしてい
る仕事。
曲はミスの一つもなく終わった。何度も練習していたし二人だけなら合わせるのは何も難しいこと
じゃない。

「呆気ないわね……」
「そうだな」

あまり演奏したような気にはなれなかった。いつも通りに振る舞おうとすればする程、余計に律ちゃ
んの不在が浮き彫りになる。

「やっぱり私がいないと物足りない?」
「律!?」
「律ちゃん!」

ガラっと音たてて開いた扉の先には律ちゃんが立っていて、驚いて固まった私達の間にスキップする
ような軽い足取りで寄ってきた。

「暗い顔してどうしたの、お二人さん?さては私がいなくて寂しかったとかぁ」
「馬鹿っ、寂しいに決まってるだろ!そんな冗談にならないこと言うなよ」
「怖っ、あんまり怒ってばかりいると顔に皺が寄るぞー、ほら笑って?」
「ちょっ、こらっ、髪を弄るなっ」

まとわりつく律ちゃんを澪ちゃんは腕づくで引き離した。律ちゃんはその間もへらへらと笑っていた。

「律ちゃん、今日お休みしてたよね?今来たの?」
「うん。そうそう!途中廊下で担任とはち合わせそうになってさ、咄嗟に近くの教室に飛び込んだん
だ。いやー危なかった」
「うちは私立なんだからな、仮病で欠席なんてバレたら」
「わかってるって。だから見つからないように慎重に来たってば。さあ練習しようぜ、学園祭までも
う三日だもんな」

ドラムの前に腰を下ろした律ちゃんを挟んで、澪ちゃんと私は顔を見合わせた。
澪ちゃんの表情には困惑と、明らかな不安が浮かんでいる。




「ワン、ツー、スリー、フォー!」

スティックが打ち鳴らされ曲が始まった。リズムがいつもより早い。普段から律ちゃんのドラムは
走りがちだけど、今日のはどこか荒くて愛嬌がない。

「ちょっと律、おいっ、一旦ストップ!」

澪ちゃんがたまらず演奏を止めた。

「あ〜ちょっち早かったかな」
「ちょっとじゃない、分かってるならもうちょっと丁寧にやってくれよ」

仕切り直してもう1回。けれどやっぱり合わない。合わせようとしても次の瞬間にはまたリズムが狂う。

「律、やめろって、律っ」
「なんだよー、気持ちよく打ってたのに」
「嘘」

律ちゃんの顔から笑顔がぽろぽろと剥がれ落ちる。緊張をはらんだ空気が今にもはじけ飛びそう。

「あんな無茶苦茶打ってて気持ちいいなんてあるわけない……ねえ、律はやっぱりこの間のことが気
になってるんだろ?本当は、私に会うのもつらいんだろ」
「えっと、そりゃびっくりしたよ。澪がああいうイタズラするなんてな」
「イタズラなんかじゃないよ。私は律が好き」
「私も澪のこと好きだぜ」
「ふざけないで!……私が悪かったよ、だからお願い、もうはっきり言ってよ……」
「ふざけてない!私は澪のこと一番の友達だと思ってたよ!澪のことなら何でも知ってるし、私以上
に仲良いやつなんていないって。なのに、私は澪が私のこと好きなんて、全然気付かなかった……ね
え澪、私と澪のこれまでって何だったんだ?私にずっと優しかったのも、みんな私が欲しかったから?」
「好きな人に優しくしたくなるのは当たり前だろ……それが、いけないことなのか……?」
「考えちゃったんだ、澪はひょっとして私に合わせてずっと無理してきたんじゃないかって……軽音
部だって本当はやりたくなかったんじゃないかとか」
「私はみんなと音楽がやるのが楽しいからここにいるの!それとこれとは関係ない」
「じゃあ高校は?澪はもっと偏差値高い所だって受かってたよな」

肩から下げているベースをお守りのように強く抱きしめる澪ちゃん。私はそれを見て思わず叫んでいた。

「律ちゃんのばかっ!」

律ちゃんの驚きでまん丸になった瞳が私の方に向いた。

「律ちゃんだって一緒にいたかったくせに、なんでそんな言い方するの?全部澪ちゃんのせいにして、
律ちゃんは甘えてるよ」
「そうだよ……だから怖いんだよ。なんだか澪が急に別人になっちゃった気がして、どうしたらいい
かわかんないんだ」

律ちゃんは下瞼で今にもこぼれ落ちそうになっていた涙を拭った。小刻みに震える小さな背中は迷
子の子供のように見える。
澪ちゃんがその背中に手を伸ばしかけて。

「りつ」

ぺちっ、と乾いた音がして。
澪ちゃんと律ちゃんの手がぶつかった所から発したそれは、津波のように私達を飲み込んでいった。


続き  Recycling4

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