サイクルモード'07(その7)
CYCLE MODE international 2007 その7
(ジャパニーズバイク編)
昨年、ロードの旗艦モデルRHM9 Proの新型をリリースしたアンカーですが、今年は特に目立った動きはなかったようです。なので、展示されていたチーム・ブリヂストン・アンカー所属選手の使用車を一部紹介していきましょう。
2001年、2004年の全日本チャンピオンでアテネオリンピック代表、田代恭崇選手のRHM9 Proです。UCIプロあたりになるとプロトタイプのパーツとか、表皮だけチームサポートメーカーのそれに張替えた他メーカーのサドルとか、その選手のためだけにペイントされたスペシャルカラーとか、ボーネンのようにジオメトリが根本的に見直されたスペシャルフレームとか、色々特殊仕様になっていたりしますが、この田代選手仕様なら市販のパーツで誰でも作れそうです(お金があればですが)。
マヴィックのコスミックカーボンプロに装着されたタイヤはヴィットリアのコルサEVO CXライトの21Cです。最近はクリンチャーの性能も飛躍的に向上してきましたが、やはりプロや実業団で走っている選手の大多数は未だにチューブラーを選択するということなんですね。
2002年、2005年の全日本チャンピオンでシドニーオリンピック代表、鈴木雷太選手のXHM9 Proです。ハンドル、エンドバー、ステム、シートポストなどの棒モノは全てリッチーのWCSで、ハンドルバーとシートポストはカーボン製です(私もロードバイクに同じシートポストを使っています)。
シートポストのロゴがハゲチョロケになってますね。その割りにフレームのほうはかなりキレイで、ヘッド周りにケーブル類の擦り跡があるくらいです。もしかしたらシーズン終盤にフレーム交換したのかも知れません。
で、本人です。長髪に無精ヒゲを生やしていて、もっとワイルドなイメージがあったのですが、このときは意外にスッキリしていたのでビックリしました。
2004年、2005年の全日本チャンピオン、アテネとシドニーオリンピック代表、飯島誠のPHM9です。ピストはまだスレッドステムが廃れていない世界ですが、これはアヘッドになっています。
パシフィックのところでも触れましたが、こうしたエアロフレームではヘッド周りのさらなる革新が始まっています。最も空力開発が進んでいるといわれるルックやBMCなどはいわゆる「エアロヒンジ」という方式を採用し始めているんですね。
これはルック496のエアロヒンジですが、こうしたダブルクラウンのような構造で剛性を犠牲にせず、より前面投影面積を抑える方向へ進んでいるんですね。
もっとも、飯島選手の種目はポイントレースですから、TTや個人追い抜きとは異なり、前走の選手を風除けにするドラフティングも可能な種目です。もちろん、空力性能は最高速の伸びに影響するのでしょうけど、着順が問題になるポイントレースはTTのようにコンマ数秒でも削りたいという種目とは違いますので、エアロヒンジまでは必要ないのかも知れません。
かつてはオランダのパナソニック・チームにも供給され、グランツールを闘っていたパナソニックは当時からオーダーフレームをやっていました。あれから20年以上経った現在でもしぶとくそれは続いています。殊に日本ではチタンフレームの草分けでしたが、これもまだまだ健在ですね。
シマノのニューコンポ、アルテグラSL(詳しくは次回のシマノ編で)はアイス・グレーというグレーのメタリックカラーですが、これがインストールされたORT01Uはフレームのチタンの色合いとコンポの色合いが非常にマッチしていますねぇ。もちろん、これもオーダー対応ですが、トップチューブはホリゾンタルとスローピング、好きなほうを選べます。
それにしても凄まじい鏡面仕上げです。顔が映ります。それくらい磨き込まれています。触ると指紋がクッキリと付きます。時々スタッフの方がセーム皮か何かでその指紋を拭い取っていました。溶接のビードも美しく、細部に至るまで卓越した職人技が光っています。こういうフレームが作られる環境が日本にあるというのは実に誇らしいことです。こうした環境がいつまでも残されることを祈るばかりですね。
インターマックスは昨年、新作のカーボンフレームを3本も投入していました。なので、今年は特に大きな動きはないだろうと思っていましたが、ミドルレンジに1本の新作カーボンフレームを投入してきました。インターマックスは現在最も精力的な日本のバイクブランドといっても異論はないんじゃないでしょうか?
どういう訳か撮り忘れてしまったので画像は広報用を拝借しましたが、ニューモデルのセストリエールは剛性重視のかなりスパルタンな乗り味に仕上がっているそうです。まだインターマックスがアルミでやっていた頃はまさにそういう固いフレームだったようですが、原点回帰といったところでしょうか?
昨年発表された旗艦モデルのコルサイタリアですが、今年はスペシャルバージョンを参考出品していました。これまでインターマックスのカーボンフレームはヌードカーボンで素材を強調してきました。セストリエールはグレーに塗られ、X-ライトはホワイトモデルも用意されましたが、いずれも無彩色です。この鮮やかなブルーのペイントが新基軸となるのでしょうか? ま、ここまでやられるとインターマックスのジャージ以外、何を着てもサマにならない気もしますが。
シートポストが流行のインテグラルになっていますが、まだカタログラインナップにはありません。乗り手に合わせてカットが必要なこの構造は、リセールを考えた場合に不利といえます。こうした展示会でリアクションを見ながら導入されるか否かが決まっていくのかも知れませんね。
もっとも、インターマックスはかなり柔軟な対応が可能なブランドで、実はカタログラインナップにないハードテールのMTBも作ってくれたりします。インテグラルシートポストくらいなら現段階でも交渉次第で対応してくれるかも知れません(未確認なので保証は出来ませんが)。
チューブメーカーのカイセイに作らせたオリジナルのクロモリチューブ、ハンドメイドのラグ、そのめっき加工、この古典的なディテールにはそそられますねぇ。クラシックスペシャルと名乗るその一方で、トップチューブはスローピングし、アヘッドステムにインテグラルヘッドと、現代的な要素も取り込まれています。これで全くチグハグな感じになっていないのが凄いところですが、全ては作り手のセンスのなせる業なのでしょう。
このUL1マスターは長距離走行での疲労軽減を狙って、シートステーを緩やかにカーブさせています。実に美しい曲線ですねぇ。で、ふと見るとその美しいシートステーのブリッジ部にはブレーキがありません。このバイクで公道を走るのは違法か? ケルビムはそんな仕事をするのか? と、一瞬焦りましたが、よく見るとリヤブレーキはちゃんと装備されていました。チェーンステーの下に。
この部位のクローズアップは撮っていなかったので、上の写真を拡大してみました。画質が荒れてしまいましたが、チェーンリングのすぐ左に奥に重なってブレーキシューの部分が覗いているのがお解かりになると思います。
最近はTT用エアロフレームでこの位置にブレーキを持ってくるケースが少なくないのですが、それは空力特性を考えてのことです。このUL1マスターの説明書きには「重量物を下に置くことにより、低重心を実現し、ダンシング時には有利な走りが可能」とありますが、私はそれよりも別の効果のほうが大きいように思います。
このバイクの一番の魅せどころはやはりシートステーをおいて他にありません。ブレーキをチェーンステー下に持っていったことで、この美しいラインが乱されず、優美な後姿を見せ付けます。今野氏がそれを意図したのかどうかは解りませんが、仮に偶然であったとしても、このフレームに漂うセンスは些かも揺らぐことがありません。
で、そのセンスの持ち主、今野真一氏です(突然現れた同氏に気付き、離れたところから急いでシャッターを切ったので、酷いカットになってしまいましたが)。本物の職人さんというのは大概こういう飾らない人なんですよね。全ての自己表現は仕事に注ぎ込むといった感じでしょうか? 何とも羨ましい生き様です。
個人的なことで恐縮ですが、このところロードもMTBもバリバリのレーシングモデルばかりに食指を動かしてきた私ですが、ぼちぼちこういう人と検討を重ねて独自のコダワリを具現化する自転車を作りたいと思う今日この頃だったりします。
私のように自動車業界に両足を突っ込んでいた人間がこのブランド名を目にすると、材木商として成功したイギリス人のケン・ティレルが1960年代に興し、その血筋はBARに受け継がれ、現在はホンダワークスとなってF1で闘っているあのレーシングコンストラクターを思い浮かべてしまいます。が、この「タイレル」というブランドは映画『ブレードランナー』に登場するアンドロイドの製造会社がその由来なのだそうです。
これまで個性的なミニベロを展開してきたタイレルですが、同様のフレームワークで700Cのフルサイズロードバイク、RSというモデルをリリースしてきました。通常はトップチューブとなるチューブがダウンチューブ上部と接続し、ヘッド上部へ繋がるのはシートステーから一繋がりになっているチューブです。
真横からのカタログ写真などではヘッド上部からリヤエンドを結ぶこの特徴的なチューブは真直ぐに見えますが、この角度から見ると微妙にベントしているのが解ります。
ただ、実車を見るとかなりのボリューム感があり、あまり軽快な印象がありません。実際、普通のダイヤモンドフレームにしていればシートステーをヘッドまで伸ばさなくて良いのですから、構造的にも無駄があるように見えます。
イーストンのアルミチューブでは最も軽いSc7000(スカンジウム合金)を使っていますが、フレーム重量の公称値は1.4kgとなっています。スカンジウムを含まない一般的なアルミチューブでもハイドロフォーミングなどで力学的な最適化がなされた最新のフレームはもっと軽くなっています。なので、決して褒められるような重量ではありませんね。もっとも、これは個性を楽しむロードバイクと考えるべきで、フレーム重量の100gや200gなどスペックでゴチャゴチャ抜かすのは野暮というものでしょう。
で、このまばゆいイタリアンレッドはBD-1の参考出品車と同じカドワキパウダーコートです。正直言って、コルナゴ-フェラーリのそれより、よほどフェラーリの佇まいに近い気がします。私の脳から自転車の記憶だけ消去され、この実車を見せられ、「フェラーリの自転車だよ」と言われたら、恐らく信じてしまうでしょう。
余談になりますが、フェラーリの赤は昔から「ロッソ・コルサ」という名前ですが、色調は時代時代で微妙に違います。というのも、1980年くらいまではサルキ社(イタリア)のグリッデン、1995年あたりまではBASF社(ドイツ)のグラスリッド、そして現在はデルトロン社(アメリカ)のPPGといった具合に、塗料およびそのメーカーが変わっているからです。これらの中でも特にクリアのトップコートを吹かず、自然な発色に仕上げられるグリッデンなどはマニア支持率が高いようです。(ま、ティフォシたちは塗料もイタリア製のほうが良いと思っているからかも知れませんが。)
で、カドワキのイタリアンレッドですが、やはり自然な赤です。あくまでも私見ですが、この鮮鋭な発色は無機顔料では出せないでしょう。なので、有機顔料に違いないと思うのですが、有機顔料というのは大概が超微粒子で、隠蔽力(下地の色を隠す性質)が低いものなんですね。ですから、発色特性を考えると下地処理も決して侮ることが出来ません。フェラーリがグリッデンを使っていたとき、ベースコートにピンクを吹いていたというのは有名な話です。
カドワキの場合、そうしたベースコートを行っているかどうか、私のような素人の目では解りませんが、そもそもカドワキパウダーコートは厚い塗膜を形成できることが売りでもありますから、隠蔽力の低い顔料であっても良い発色を得るのは難しくないのかもしれません。ま、厚塗りをすると却って色調が沈む種類の顔料もありますけどね(グリッデンはまさにそういう顔料を使っていたゆえ、ベースにピンクを吹いていたわけですが)。カドワキは厚塗りが基本ですから、そうはならない顔料を選定しているのだと思います。
ま、どちらにしても、このイタリアンレッドは乗り手を選びそうな気がします。幸いにも、カラーバリエーションは他にブラックパープルとブルーメタリックがあり、またオプションで12パターン用意されているグラデーションカラーの中からチョイスすることも可能だそうです。それがフレームセットで168,000円(税込み)、オプションのグラデーションカラーは10,500円(税込み)増しです。イーストンSc7000を使っていることも考え合わせれば、なかなか魅力的な価格設定といえるかもしれません。
(その8・シマノ編へ続く)
(C)石墨
(ジャパニーズバイク編)
■ ANCHOR
昨年、ロードの旗艦モデルRHM9 Proの新型をリリースしたアンカーですが、今年は特に目立った動きはなかったようです。なので、展示されていたチーム・ブリヂストン・アンカー所属選手の使用車を一部紹介していきましょう。
2001年、2004年の全日本チャンピオンでアテネオリンピック代表、田代恭崇選手のRHM9 Proです。UCIプロあたりになるとプロトタイプのパーツとか、表皮だけチームサポートメーカーのそれに張替えた他メーカーのサドルとか、その選手のためだけにペイントされたスペシャルカラーとか、ボーネンのようにジオメトリが根本的に見直されたスペシャルフレームとか、色々特殊仕様になっていたりしますが、この田代選手仕様なら市販のパーツで誰でも作れそうです(お金があればですが)。
マヴィックのコスミックカーボンプロに装着されたタイヤはヴィットリアのコルサEVO CXライトの21Cです。最近はクリンチャーの性能も飛躍的に向上してきましたが、やはりプロや実業団で走っている選手の大多数は未だにチューブラーを選択するということなんですね。
2002年、2005年の全日本チャンピオンでシドニーオリンピック代表、鈴木雷太選手のXHM9 Proです。ハンドル、エンドバー、ステム、シートポストなどの棒モノは全てリッチーのWCSで、ハンドルバーとシートポストはカーボン製です(私もロードバイクに同じシートポストを使っています)。
シートポストのロゴがハゲチョロケになってますね。その割りにフレームのほうはかなりキレイで、ヘッド周りにケーブル類の擦り跡があるくらいです。もしかしたらシーズン終盤にフレーム交換したのかも知れません。
で、本人です。長髪に無精ヒゲを生やしていて、もっとワイルドなイメージがあったのですが、このときは意外にスッキリしていたのでビックリしました。
2004年、2005年の全日本チャンピオン、アテネとシドニーオリンピック代表、飯島誠のPHM9です。ピストはまだスレッドステムが廃れていない世界ですが、これはアヘッドになっています。
パシフィックのところでも触れましたが、こうしたエアロフレームではヘッド周りのさらなる革新が始まっています。最も空力開発が進んでいるといわれるルックやBMCなどはいわゆる「エアロヒンジ」という方式を採用し始めているんですね。
これはルック496のエアロヒンジですが、こうしたダブルクラウンのような構造で剛性を犠牲にせず、より前面投影面積を抑える方向へ進んでいるんですね。
もっとも、飯島選手の種目はポイントレースですから、TTや個人追い抜きとは異なり、前走の選手を風除けにするドラフティングも可能な種目です。もちろん、空力性能は最高速の伸びに影響するのでしょうけど、着順が問題になるポイントレースはTTのようにコンマ数秒でも削りたいという種目とは違いますので、エアロヒンジまでは必要ないのかも知れません。
■ Panasonic
かつてはオランダのパナソニック・チームにも供給され、グランツールを闘っていたパナソニックは当時からオーダーフレームをやっていました。あれから20年以上経った現在でもしぶとくそれは続いています。殊に日本ではチタンフレームの草分けでしたが、これもまだまだ健在ですね。
シマノのニューコンポ、アルテグラSL(詳しくは次回のシマノ編で)はアイス・グレーというグレーのメタリックカラーですが、これがインストールされたORT01Uはフレームのチタンの色合いとコンポの色合いが非常にマッチしていますねぇ。もちろん、これもオーダー対応ですが、トップチューブはホリゾンタルとスローピング、好きなほうを選べます。
それにしても凄まじい鏡面仕上げです。顔が映ります。それくらい磨き込まれています。触ると指紋がクッキリと付きます。時々スタッフの方がセーム皮か何かでその指紋を拭い取っていました。溶接のビードも美しく、細部に至るまで卓越した職人技が光っています。こういうフレームが作られる環境が日本にあるというのは実に誇らしいことです。こうした環境がいつまでも残されることを祈るばかりですね。
■ InterMax
インターマックスは昨年、新作のカーボンフレームを3本も投入していました。なので、今年は特に大きな動きはないだろうと思っていましたが、ミドルレンジに1本の新作カーボンフレームを投入してきました。インターマックスは現在最も精力的な日本のバイクブランドといっても異論はないんじゃないでしょうか?
どういう訳か撮り忘れてしまったので画像は広報用を拝借しましたが、ニューモデルのセストリエールは剛性重視のかなりスパルタンな乗り味に仕上がっているそうです。まだインターマックスがアルミでやっていた頃はまさにそういう固いフレームだったようですが、原点回帰といったところでしょうか?
昨年発表された旗艦モデルのコルサイタリアですが、今年はスペシャルバージョンを参考出品していました。これまでインターマックスのカーボンフレームはヌードカーボンで素材を強調してきました。セストリエールはグレーに塗られ、X-ライトはホワイトモデルも用意されましたが、いずれも無彩色です。この鮮やかなブルーのペイントが新基軸となるのでしょうか? ま、ここまでやられるとインターマックスのジャージ以外、何を着てもサマにならない気もしますが。
シートポストが流行のインテグラルになっていますが、まだカタログラインナップにはありません。乗り手に合わせてカットが必要なこの構造は、リセールを考えた場合に不利といえます。こうした展示会でリアクションを見ながら導入されるか否かが決まっていくのかも知れませんね。
もっとも、インターマックスはかなり柔軟な対応が可能なブランドで、実はカタログラインナップにないハードテールのMTBも作ってくれたりします。インテグラルシートポストくらいなら現段階でも交渉次第で対応してくれるかも知れません(未確認なので保証は出来ませんが)。
■ CHERUBIM
チューブメーカーのカイセイに作らせたオリジナルのクロモリチューブ、ハンドメイドのラグ、そのめっき加工、この古典的なディテールにはそそられますねぇ。クラシックスペシャルと名乗るその一方で、トップチューブはスローピングし、アヘッドステムにインテグラルヘッドと、現代的な要素も取り込まれています。これで全くチグハグな感じになっていないのが凄いところですが、全ては作り手のセンスのなせる業なのでしょう。
このUL1マスターは長距離走行での疲労軽減を狙って、シートステーを緩やかにカーブさせています。実に美しい曲線ですねぇ。で、ふと見るとその美しいシートステーのブリッジ部にはブレーキがありません。このバイクで公道を走るのは違法か? ケルビムはそんな仕事をするのか? と、一瞬焦りましたが、よく見るとリヤブレーキはちゃんと装備されていました。チェーンステーの下に。
この部位のクローズアップは撮っていなかったので、上の写真を拡大してみました。画質が荒れてしまいましたが、チェーンリングのすぐ左に奥に重なってブレーキシューの部分が覗いているのがお解かりになると思います。
最近はTT用エアロフレームでこの位置にブレーキを持ってくるケースが少なくないのですが、それは空力特性を考えてのことです。このUL1マスターの説明書きには「重量物を下に置くことにより、低重心を実現し、ダンシング時には有利な走りが可能」とありますが、私はそれよりも別の効果のほうが大きいように思います。
このバイクの一番の魅せどころはやはりシートステーをおいて他にありません。ブレーキをチェーンステー下に持っていったことで、この美しいラインが乱されず、優美な後姿を見せ付けます。今野氏がそれを意図したのかどうかは解りませんが、仮に偶然であったとしても、このフレームに漂うセンスは些かも揺らぐことがありません。
で、そのセンスの持ち主、今野真一氏です(突然現れた同氏に気付き、離れたところから急いでシャッターを切ったので、酷いカットになってしまいましたが)。本物の職人さんというのは大概こういう飾らない人なんですよね。全ての自己表現は仕事に注ぎ込むといった感じでしょうか? 何とも羨ましい生き様です。
個人的なことで恐縮ですが、このところロードもMTBもバリバリのレーシングモデルばかりに食指を動かしてきた私ですが、ぼちぼちこういう人と検討を重ねて独自のコダワリを具現化する自転車を作りたいと思う今日この頃だったりします。
■ Tyrell
私のように自動車業界に両足を突っ込んでいた人間がこのブランド名を目にすると、材木商として成功したイギリス人のケン・ティレルが1960年代に興し、その血筋はBARに受け継がれ、現在はホンダワークスとなってF1で闘っているあのレーシングコンストラクターを思い浮かべてしまいます。が、この「タイレル」というブランドは映画『ブレードランナー』に登場するアンドロイドの製造会社がその由来なのだそうです。
これまで個性的なミニベロを展開してきたタイレルですが、同様のフレームワークで700Cのフルサイズロードバイク、RSというモデルをリリースしてきました。通常はトップチューブとなるチューブがダウンチューブ上部と接続し、ヘッド上部へ繋がるのはシートステーから一繋がりになっているチューブです。
真横からのカタログ写真などではヘッド上部からリヤエンドを結ぶこの特徴的なチューブは真直ぐに見えますが、この角度から見ると微妙にベントしているのが解ります。
ただ、実車を見るとかなりのボリューム感があり、あまり軽快な印象がありません。実際、普通のダイヤモンドフレームにしていればシートステーをヘッドまで伸ばさなくて良いのですから、構造的にも無駄があるように見えます。
イーストンのアルミチューブでは最も軽いSc7000(スカンジウム合金)を使っていますが、フレーム重量の公称値は1.4kgとなっています。スカンジウムを含まない一般的なアルミチューブでもハイドロフォーミングなどで力学的な最適化がなされた最新のフレームはもっと軽くなっています。なので、決して褒められるような重量ではありませんね。もっとも、これは個性を楽しむロードバイクと考えるべきで、フレーム重量の100gや200gなどスペックでゴチャゴチャ抜かすのは野暮というものでしょう。
で、このまばゆいイタリアンレッドはBD-1の参考出品車と同じカドワキパウダーコートです。正直言って、コルナゴ-フェラーリのそれより、よほどフェラーリの佇まいに近い気がします。私の脳から自転車の記憶だけ消去され、この実車を見せられ、「フェラーリの自転車だよ」と言われたら、恐らく信じてしまうでしょう。
余談になりますが、フェラーリの赤は昔から「ロッソ・コルサ」という名前ですが、色調は時代時代で微妙に違います。というのも、1980年くらいまではサルキ社(イタリア)のグリッデン、1995年あたりまではBASF社(ドイツ)のグラスリッド、そして現在はデルトロン社(アメリカ)のPPGといった具合に、塗料およびそのメーカーが変わっているからです。これらの中でも特にクリアのトップコートを吹かず、自然な発色に仕上げられるグリッデンなどはマニア支持率が高いようです。(ま、ティフォシたちは塗料もイタリア製のほうが良いと思っているからかも知れませんが。)
で、カドワキのイタリアンレッドですが、やはり自然な赤です。あくまでも私見ですが、この鮮鋭な発色は無機顔料では出せないでしょう。なので、有機顔料に違いないと思うのですが、有機顔料というのは大概が超微粒子で、隠蔽力(下地の色を隠す性質)が低いものなんですね。ですから、発色特性を考えると下地処理も決して侮ることが出来ません。フェラーリがグリッデンを使っていたとき、ベースコートにピンクを吹いていたというのは有名な話です。
カドワキの場合、そうしたベースコートを行っているかどうか、私のような素人の目では解りませんが、そもそもカドワキパウダーコートは厚い塗膜を形成できることが売りでもありますから、隠蔽力の低い顔料であっても良い発色を得るのは難しくないのかもしれません。ま、厚塗りをすると却って色調が沈む種類の顔料もありますけどね(グリッデンはまさにそういう顔料を使っていたゆえ、ベースにピンクを吹いていたわけですが)。カドワキは厚塗りが基本ですから、そうはならない顔料を選定しているのだと思います。
ま、どちらにしても、このイタリアンレッドは乗り手を選びそうな気がします。幸いにも、カラーバリエーションは他にブラックパープルとブルーメタリックがあり、またオプションで12パターン用意されているグラデーションカラーの中からチョイスすることも可能だそうです。それがフレームセットで168,000円(税込み)、オプションのグラデーションカラーは10,500円(税込み)増しです。イーストンSc7000を使っていることも考え合わせれば、なかなか魅力的な価格設定といえるかもしれません。
(その8・シマノ編へ続く)
(C)石墨
2007年12月22日(土) 13:46:25 Modified by ishi_zumi
添付ファイル一覧(全14件)
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