【定義】
道元禅師による大仏寺（永平寺）開創に因む説話の一。江戸時代以降の道元禅師伝にしばしば見られ、またおそらくは江戸時代の授戒会盛行の宣伝に使われている。
【内容】
この説話は、成立年代不明で寛文13年（1673）より前に成立していたことしか分からない『道元和尚行録?』に「血脈度霊」項として収録されたことで知られた。
以上の通りだが、簡単にあらましのみ述べると、波多野義重が越前に土地を得た時、一人の女性を側室にしたという。しかし、それを正妻が恨んで、山の中の池に沈めて殺してしまった。側室は幽霊となってしまい、周囲の村人は恐れたという。或る僧侶が自らの庵を建てる土地を探して、この土地まで来た時、村人にこの幽霊（妖怪）の存在を教えられ、池の近くで坐禅していたところ、この側室の霊が現れて、義重に冥福を祈るように願ったという。そこで、その僧侶は京都に行き、義重に経緯を伝えた。義重は、興聖寺にいた道元禅師に救済を願ったところ、道元禅師は「仏祖正伝菩薩戒血脈」をその僧侶に渡し、これを幽霊に授けて、菩提を得させるように伝えたという。その僧侶が側室の霊が現れる池に「血脈」を投げ入れたところ、すぐに幽霊の声が聞こえて、幽冥の苦を脱して菩提を得たと述べた。これが非常に評判となり、幽霊がいた池は「血脈池」と呼ばれ、また世俗の人々に「血脈」を授与するきっかけになったとされた。
ところで、この一事について『道元和尚行録』では、以下のような註記を付している。
以上の見解によれば、この一事に関する古記には、建長寺開山の蘭渓道隆（大覚禅師）も登場することがあったようだが、本書の編者は、道元禅師が興聖寺にいた寛元年間の前（仁治年間）の話で、寛元4年に来日した蘭渓は、まだ来ていないと批判したのである。
道元禅師による大仏寺（永平寺）開創に因む説話の一。江戸時代以降の道元禅師伝にしばしば見られ、またおそらくは江戸時代の授戒会盛行の宣伝に使われている。
【内容】
この説話は、成立年代不明で寛文13年（1673）より前に成立していたことしか分からない『道元和尚行録?』に「血脈度霊」項として収録されたことで知られた。
血脈度霊 波多野雲州刺使藤之義重、越前を知どるに一女有り。資貌都雅なり。召して左右に侍るなり。夫人、之を悪むこと甚だし。然るに之を如何ともすること能わざるなり。義重、上命を奉りて京師に往く。女を携えること能わざるなり。別に室を造りて居す。是に於いてか、夫人、人をして女を取り山中の深池に沈めしむ。女、恨みを懐いて死す。既に�劼醗戮蠅峠个邸１�往にして叫喚の声を作す。凛として夫れ懼るべきかな。時に僧有りて庵地を尋ぬ。路を村民に問うに、村民云く、「近日、妖怪出でて往来既に絶ゆ。請うらくは往くこと莫れ」。僧曰く、「我が験を待て」。乃ち往き、深池傍の老樹下に到りて定坐し、三更に到る。俄爾に風起こり波濤震鼓す。暫くして一女、髪を被りて水面に浮かび、急に僧の前に到り、跪坐して涕泣す。僧云く、「汝是れ何人ぞ」。女云く、「妾は是れ義重に侍る婢女なり。夫人の為に此の池に沈む。鬱憂して解けず。弔祭到らず。是の故に冥府の栲譴を蒙る。時として安らかなることを得ること無し。願わくは之を義重に告げ、妾の為に冥福を修せ」と。僧云く、「何を以てか証と為すや」。女、乃ち袖を解いて僧に与え、乃ち隠る。僧、即ち京師に往きて、事を以て告げ、乃ち袖を出して以て証と為す。義重大いに驚き、忙忙然として安からざるなり。明日に至るに及んで、僧を同じて深草に到り、救済を元禅師に乞う。師、一物を把り、僧に度与して曰く、「此れは是れ仏祖正伝菩薩戒血脈なり。之を獲る者、菩提を成さざること無し。我、今、是を以て霊の為とす」。僧、疾く帰りて池中に投ず。忽ちに空中に声有るを聞こえるに曰く、「我、今、無上の妙法を得て、頓に幽冥の苦を脱し、疾く菩提の果を成ず」。遠近に聞く者、稀有なりと称えざること無し。義重大いに喜び、新たに梵宇を構えて、堅く師を請して開山第一祖と為す。今の永平寺此れなり。池、永平の境内に在りて、今、血脈池と号す。大凡、菩提を成さんと欲する者、尽く師の血脈を受けざること無し。血脈を世俗に授与するは、斯れ権輿なり。 『道元和尚行録』「血脈度霊」項
以上の通りだが、簡単にあらましのみ述べると、波多野義重が越前に土地を得た時、一人の女性を側室にしたという。しかし、それを正妻が恨んで、山の中の池に沈めて殺してしまった。側室は幽霊となってしまい、周囲の村人は恐れたという。或る僧侶が自らの庵を建てる土地を探して、この土地まで来た時、村人にこの幽霊（妖怪）の存在を教えられ、池の近くで坐禅していたところ、この側室の霊が現れて、義重に冥福を祈るように願ったという。そこで、その僧侶は京都に行き、義重に経緯を伝えた。義重は、興聖寺にいた道元禅師に救済を願ったところ、道元禅師は「仏祖正伝菩薩戒血脈」をその僧侶に渡し、これを幽霊に授けて、菩提を得させるように伝えたという。その僧侶が側室の霊が現れる池に「血脈」を投げ入れたところ、すぐに幽霊の声が聞こえて、幽冥の苦を脱して菩提を得たと述べた。これが非常に評判となり、幽霊がいた池は「血脈池」と呼ばれ、また世俗の人々に「血脈」を授与するきっかけになったとされた。
ところで、この一事について『道元和尚行録』では、以下のような註記を付している。
古記に曰く、義重、使を遣わし救済を鎌倉建長開山大覚禅師に乞う。覚云く、道元和尚、越前の某山に在り。汝、疾く往け。使、帰りて師を尋ね得て、度を得て、此れを託すなり。元禅師、興聖に在るの日、霊を度すなり。乃ち寛元の前なり。師、霊を度と為す。義重堅く請して大仏寺を創るも、大覚、四年の春の始めに筑の博多に著く。当に知るべし、度霊の時、大覚尚お未だ来たらず。建長尚お未だ創らず。豈、大覚の建長に在ると謂うを得んや。誣罔知るべし。 同上
以上の見解によれば、この一事に関する古記には、建長寺開山の蘭渓道隆（大覚禅師）も登場することがあったようだが、本書の編者は、道元禅師が興聖寺にいた寛元年間の前（仁治年間）の話で、寛元4年に来日した蘭渓は、まだ来ていないと批判したのである。
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