ブログ「日々是千早」もよろしくね!

[SSメモ] 074 2011/11/19

ブログにて6回連載で公開したもの。書庫転載時点では未修正。
タイトルは「春香と千早」の略。仮称でしたが結局正式タイトルに。

SSの舞台となるリゾートホテルの部屋の参考情報はこちら(リゾートトラスト)




#1

「おいしい仕事ですかぁ……なんか思いっきり怪しいんですけど」
「なんだ、乗り気じゃないならしょうがない、別の誰かに当たってみるか……」

映画出演っていっても脇役なんて拘束時間の割に出番は短いから、それだったらテレビで
バラエティ出ているほうが面白いしやりがいあると思う。
だいたいプロデューサーさんの手口はわかっている。
厳しい芸能界においしい話なんてそうそう転がっているわけないんだから。
プロデューサーさんが他のPさんのところにいっちゃったもんだから
何気なくその“美味しい仕事”とやらの資料をめくってみたのだけど……

え? 映画って千早ちゃんが準ヒロインに抜擢されて、エンディングの歌ももらったあれ?
ちょ、そういうことは先に言ってくれないと。
でこれは……ほぇーー!! 宿泊はリゾートホテルじゃないですかぁ!
予定は1週間で撮影は2〜3日ってことは半分オフ? 観光に買い物やり放題!?

「ぷ、プロデューサーさん!! やります。天海春香、やらせていただきます!!」
かくして私はプロデューサーさんの仕掛けたわなにずっぽりと嵌ってしまったのである。



確かにプロデューサーは嘘なんてひとつもついてない。
でも大事なこと、すっごく大事なこと、一個だけいってくれてなかった。
多分、わざと? 
自分が私と一緒に来てくれないってことを。
待ち合わせ場所でその事実が分かった瞬間、おいしいはずの仕事が一転して地獄になった。
決して大袈裟なんかじゃない。

千早ちゃんと仲はいい。
候補生のときからの同期で、事務所で一番の友人である。
でもそれはあくまでプライベートの話で、仕事となるとまったく別。
仕事モードの千早ちゃんの凄さとか、担当PさんのドS…じゃなかったスパルタぶりとか、
厳しさにおいてはこの二人の右に出る人なんて存在しないわけ。
どれくらい厳しいかっていうと、普通の芸能誌はおろか、ゴシップ専門の怪しい雑誌ですら
常に寄り添って離れないこのコンビが熱愛関係にあるとは書こうとしない。

この二人が記事になるのは、たとえばこんなの。
竹刀を持ったPさんに追われながら川原を走る千早ちゃんの目撃談。
テレビ局のセット裏、血相を変えて怒鳴るPさんの前で、泣きながら言い返す千早ちゃんの目撃談。
Pさんのマンションに二人が入っていく盗み撮りの写真にすら、<深夜のスパルタレッスン!>
などとキャプションがつけられる始末なんだから。
ま、最後のはわた…春香さんの捏造なんだけどさ、何が言いたいかっていうと、
この二人は芸能界が認めた、恋愛要素が全くないカップル、もといコンビなのだってこと。

事務所でもそう。
千早ちゃんの笑った顔を見たらいいことあるって話が都市伝説になるくらい、
いつも拗ねてるか泣いているか怒られているかのどれか。
二人が揃って事務所にいると、それだけできりっと空気が引き締まる。
傍若無人な亜美真美ですら、二人が戻ってくると途端におとなしくなるし
仕事をしているふりをしていた音無さんがちゃんと仕事を始めるし。
これだけ説明すれば、さっき私が<地獄>っていったのが大袈裟でもなんでもないことだって
わかってくれると思う。


そんな風に思っていた時期がわたしにもありました。


#2

空港までは一人で移動しなきゃいけないから、しっかり変装決めてキャリーバッグをごろごろ
引っ張ってたどりついた待ち合わせ場所。
VIPとまではいかないけど、一応有名人だから航空会社から提供される専用ルーム。
そこで私が見たものは、顔を寄せ合ってガイドブックを見ながら楽しそうに笑う二人の姿。

「あら、春香。遅かったのね」
「おはよう春香ちゃん。今日からよろしくね!」

あ、あるぅぇえぇ? どうなっちゃってるのですかこれは。
「春香、どうかしたの?」
「う、ううん、なんでもない、なんでもないですよ」

な…なんで? 
なんでこのコンビが新婚旅行にいくバカップルみたいになってるわけ?
移動とはいえ、今仕事中……だよ?
なんでプロデューサーさん、怒鳴ったり怒ってないの?
なんで千早ちゃん、怒られて泣いてないの?

二人の様子は機内でも変わることはなかった。
三人が並んだ席だから、二人が仕事の話をしているのは間違いないのだけど
なんだろう、このもやもやと漂う濃厚で甘ったるい空気は。
こんな感じ、事務所でも仕事先でも見たことないんですけど……

そんな私たちを乗せ、飛行機は一路南国の島へと飛んでいくのであった、まる。



まあ、そうはいっても穏やかな二人に慣れてしまえば、それはそれでいいもの。
ようやく緊張を解いた私は、二人の忍び笑いを聞きながらいつしか眠りに落ちていた。
だけどそんな至福の時間は滞在するホテルに着くまでの話……・
午後はプールを予定していたのに、ホテルに着いてすぐミーティングとかありえない。
遊んできていいって言われたけど、一人でプールは寂しいから部屋に残ったけど、マジ後悔。
カッコつけず素直に出ていけば良かった。

千早ちゃんのプロデューサーさん(以下チハPさんと略す)まじサディスト。むしろ真性ドS。
移動中は穏やかでいい雰囲気だったのに、今はもうキツイなんてレベルじゃない。
ある意味言葉の暴力。罵声のバイオレンス。言語のテロリストだ。
それを受け止める千早ちゃんも負けてない。もう真性ドMで鉄板、確定。
横で聞いているだけの私ですら、ライフはほとんどゼロ。
あの暴言に言い返すなんて発想すらできないのに、千早ちゃんは言葉の嵐を正面から受け止め、
Pさん睨み付けているんだもん。

そうして次は千早ちゃんのターン。
強気で言い返すのだけどもろ涙声。ヒクヒクしゃくりあげて、噛みながら懸命に言い返しても
速攻Pさんの反論。物凄いカウンターで即言い負かされ、千早ちゃん涙目。
手でごしごし目をこすってるの、多分泣いてないアピールだと思うけど、まるで無意味。
それでもまだへこたれず、ベソかいて言い返す姿を見て私は不覚にも萌えてしまっていた。
もとい、ちょっと感動した。
なんでかっていうと、この妥協の無さが二人の歌に対する姿勢そのものだから。

でも、そんなカッコつけている場合でもないや。なんとか仲裁しないと。
私が千早ちゃんなら、チハPさんに怒られた瞬間失神するかちびってしまう、
それくらい恐ろしい選択だけど、親友のためにはそうも言っていられない。
深呼吸を5回くらいして、思い切っていった。声、裏返ったけど。


#3
「あ、熱くなってるみたいですから、休憩がてら冷たいものでも飲みに行きませんか?」
空気を読まない発言だったけど、どうせ私なんて空気みたいなもんだからかまわない。
でもね、さすがチハPさん、ドSだけどそこはオトナだったよ。

「そうだな、少し頭を冷やそう。いや、いっそのことプールで体も冷やそうか」
いやね、私は別にいいっていうか、むしろそれが目当てだから嬉しいですけど
千早ちゃんに対してプールは地雷じゃないんですか? そんなフォローで大丈夫ですか?
そんな風に思ってる時期が私にもありました。
更衣室に着くまでは。

「へー、千早ちゃん、その水着オニューなんだ」
「え、ええ。どうかしらこれ。あまり自信ないのだけど、変ではないかしら?」
「何いってるの。すごく可愛いよ! 超似合ってるよ!」

何故かいつもセパレートな千早ちゃんの水着。
腰のくびれと奇麗なオヘソを出すのは正解だと思うんけど。
引き締まって薄っすら腹筋が見えそうなお腹、完全にペッタンコで少しもポコって出ていない。
そういう部分がパレオからチラチラのぞくものだから、可愛いというかエロ可愛い。

「そ、そう、良かった。今回のためにプロデューサーが選んでくれたの」
こめかみがピキッっていったの、きっと血管切れた音だね、アハハ…ハァ……

そのあとプールサイドでチハPさんと合流したんだけど、こっちも凄かった。
何がって、この人千早ちゃんを見た瞬間、ロックオンしたもん。
ちょうど通りがかった巨乳のお姉さんなんてチラ見すらしない。
推定Fカップでそうだから、私の自称Dカップなんてまさにアウト・オブ・眼中。
存在すら否定するくらいの無視があるなんて、ほんと信じらんない。

そ れ な の に。
Aカップはガン見。いやもうこれは視姦といっていいレベルだね。
いつ目から光線とかビームが出ても不思議じゃない、それくらい強烈な視線。
チハPビーム浴びた千早ちゃんのおっぱいが大きくなれば面白いのに。
私もちょっとおすそ分けで1ランクアップしてみたとか(笑)。
見るほうも見るほうなら、見られるほうだって負けてない。
ポッと頬なんか染めちゃってさぁ。少しは人目ってもの気にしろ。
さっきまでバイオレンスな口喧嘩してたくせに、なんか二人の世界つくってるし。
あんたらいっそ付き合っちゃえばいいのに。
いやいや、その前に爆発しろ!

「プールで泳ぐの、久しぶりだから……」
そんな台詞を残し、スポーツジムでそうするようにぎゅんぎゅん泳ぎ始めた千早ちゃん。
照れてるのを誤魔化したいのは分かるけどさ、せめて今は一緒に遊んでよ……
なんて思っても、本気で泳ぐ千早ちゃんに追いつけるわけなんてない。
私マーメイドっていっても、本物の人魚じゃないんだもの。
結局一緒に遊ぶどころじゃなく、私は彼女をほっといてプールからあがると
デッキチェアーに寝そべるチハPさんのところに戻ってきた。
鬼の形相はどこへやら、今は穏やかに千早ちゃんの泳ぐ姿を追っかけている。
まだロックオンしてるんだ。
そして彼は私のほうを見ることも無く、穏やかな声で話しかけてきた。

「天海さんが一緒に来てくれて本当によかった」
「な、なんですか急に。わたしなんて空気同然じゃないですか」
「空気なもんか、目立ってるよ天海さんは。その魅力的なDカップも含めて」
真面目でお堅いと思っていたチハPさんから突然胸のことをいわれ、ドキッとして少し焦る。
チハPさんの表情を窺ってみるけど、なに考えているのかいまいち分からない。


#4
「皮肉ですか、それは? さっきは千早ちゃんの胸ばっかり見てたくせに」
「そりゃ千早が一番だからさ。でも女の子ってよく見ているもんだな」

イケシャアシャアトヨクイウヨ、マッタク。

「ガン見してましたからね。人前では自重したほうがいいですよ?」
「わかった。Dカップはさりげなく見せてもらうことにする」
そんなこと言いながら、相変わらず視線はあの子に釘付けのくせに。
「見るのは勝手ですけど、千早ちゃんにいいつけちゃいますよ?」
「そしたらちーちゃん、嫉妬してくれるだろうか?」
「ハァッ!?知りませんよそんなこと。恋愛なんて眼中にないんじゃないですか?」

さっきのDカップといい、今の嫉妬発言といい、一体はどうしちゃったのですか?

「恋愛も女の子も嫌いじゃないさ。ただ……」
「嫉妬されたいっていうことは、チハPさんは千早ちゃんのこと…」
言いかけた私を、彼は手のひらで制止した。
「すまん、今の話は忘れてくれ。南国の空気に浮かれて変なことをいってしまった」
「なんだつまんないの。で、忘れるのはどの部分からですか?」
「Dカップのとこから」
「いいですけど、交換条件に一つ質問に答えてもらうっていうのはどうですか?」
「答えられる質問じゃないと駄目だぞ?」
「もちろんです。では、『高校生の女の子でも彼女にできますか?』です!」
「あのねぇ春香ちゃん、それはなんの冗談かな」
「真面目な質問ですよ」
「そうか。なら答は『お子様は対象外』。以上、おしまい」
「高校生の女の子は子供ですか?」
「うーん、春香ちゃんなら付き合ってもいいかな。どうだい?」
わざとらしい流し目でこっちを見るチハPさんだけど、気付いてないみたいね。

「春香、相手にしちゃ駄目よ。こんな変態大人は」
いつの間にか戻ってきていた千早ちゃんが、後ろからチハPさんの耳を思い切りひねり上げてる。
「プロデューサー、嫉妬して欲しいなら好きなだけしてあげます。ですが私の大切な友人に
手を出すようなみっともない真似、許しませんから」



プールを終えたあと、事務所から連絡があってチハPさんは出て行ったきり。
千早ちゃんはベッドに寝そべって何か読んでいるみたいで、ここからは顔が見えない。
さっきの件で拗ねちゃってるのか、それとも何とも思っていないのか分からないけど
誰かと一緒にいるときにああして一人の世界に閉じこもるのは、あまりいい傾向ではない。
でもまあもうすぐ夕食だし、チハPさんが戻ってくればなんとかなるっしょ。

それより私が気になっていることは。
チハPさんが私と私のプロデューサーさんとの関係を知らないは筈ないから、
さっきプールで付き合おうっていったのは冗談で間違いない。
それにずっと千早ちゃんの姿を見ていたのだから、プールをあがったのも知ってるはず。
なら、なぜあのタイミングで、あんなことを私にいったのだろう。
あれは私に対する何か? それとも千早ちゃんに対する何か?

「あーーーん、もうわかんないよ!」
思い切りベッドにダイビングしたのがかなり大きな音だったみたい。
きょとんとした千早ちゃんがこっちを見ている。
あの様子じゃ拗ねてるわけではなさそうだから、ちょっとだけ安心はできた、っと。



#5
「なんとかならないだろうか、親友春香さんのお知恵で」
「なんともなりませんね。いっちゃあなんですけど、自業自得です」

プールサイドの件は、千早ちゃんも完全に冗談だと受け取ったわけで別に怒ったわけじゃない。
部屋でのあの態度は、チハPさんに水着姿を褒められたのが嬉しくて喜んでいただけらしいし。
あの厳しいミーティングがいい感じにクールダウンできたし、即席三人組のコンビネーションも
それなりにできてきた感じもしていた。
明日からの撮影もいいスタートができそうだと思った矢先、事件は夕食のテーブルで起こったのである。

サラダを取ろうと中腰で手を伸ばしたら、広めの襟元がふわんと開いた。
本来なら中身はブラでガードされているから見られても大したことはないんだけど
プールのあと、千早ちゃんと二人きりだったから、窮屈なブラを外したままキャミブラだけ着ていた。
私と千早ちゃんが隣同士で、チハPさんは向かい合わせに座っているから
当然私の胸は全てチハPさんの見るところに。
そして彼もすぐ目をそらせばいいものを、何故か凝視していたのに千早ちゃんが気づいて。

あのときの千早ちゃんは怖かったなぁ。
手にもってたナイフでチハPさん刺しちゃう?って思ったくらい。
結局刺されたのはローストチキンで、千早ちゃんがレストランから出てったあと調べたら
そのナイフ、お皿を貫通してテーブルの裏まで突き抜けていた。
……嘘だけど。

「ああ畜生。俺ともあろうものが千早以外のおっぱいに目を奪われるとは一生の不覚……」
黙れヘンタイ。
それにこともあろうに不覚とかいいやがって!!!
私のDカップ美乳が残念おっぱいみたいじゃないですか。
彼にしか見せたこと無いおっぱいを変態さんに見られただけでもショックなのに。
それにプールサイドでもDカップは別腹とかいってたっしょ?

そんなチハPさんはともかく、千早ちゃん、大丈夫なんだろうか。
今朝まで二人のコンビは鉄壁だと思っていたけど、なんかこうして間近で二人をみていると
なんだか不安定な感じがしてしょうがない。チハPさんもだけど、特に千早ちゃんも。
気のせい? それとも今日が特別なだけ?
そんなことをつらつらと考えながら夕食を片付け、デザートに手をつけたところで閃いた。



「というわけで、30分くらい時間つぶしてきますからよろしくです」
「本当にそういう方法で大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ありません!」

私が解決方法だといってチハPさんに言ったのは、
千早ちゃんをぎゅっとハグしてあげてって、ただそれだけ。
単なる直感じゃなくて、ちゃんと根拠はある。
千早ちゃんが人前であんな拗ねるのは珍しいそうだけど、要するに拗ねるっていうのは、
相手への甘えであり寂しさの裏返しだと思うわけ。
いろいろ面倒な子だから分かりにくいけど、付き合いの長い私には分かるしその判断に自信もある。
あの子が不安定な気がしたのは気のせいじゃない、それが理由だったのよ。
だから、安心させてあげればいいんだ。
あの二人のことだから、ハグくらいでセクハラとかの問題になるとは思えないし、
ハグがきっかけで二人が恋愛に目覚めるのも、残念ながら考えにくい。
つきあっちゃえばいいのに、なんて思うけど
それが絶対に正しいことと限らないのは、何より私自身が感じている。
さて、デザートのお替り3回もしたし、千早ちゃんの残した夕食も詰めてもらった。
そろそろ部屋に戻るとするか。


#6
でももし万一ハグ作戦が失敗だったとしたら。
明るく戻ると気まずいかもしれないから、まずは気配を殺してそーっとドアを開けて、
手前の廊下から中の気配を窺ってテンションを調節しなくちゃ、……ん? あれ?

「あっ、やぁ、いや、いたいいたい、プロデューサーだめぇ」
「最初は少し痛いんだ。ちょっとだけ我慢してくれ、ちーちゃん」
「で、でもぉ…あ、あん、や、やだ、そこ、いた、いたいです」
「ほら、だいぶほぐれてきたぞ。少しペースをあげるから」
「やん、待って、ゆっくり、あん、そこ」

ななな、なんですとぉ!

いやぁ、まだ…
ほら、力抜かなきゃいたいだけだから。
ふわぁ、そ、そんなとこまで、あぁ。やぁ……
足、もう少し開いて。こら、まだ力んでるぞ
んっ、んんっ、ふ、深すぎます、そんなに、そんなとこ強くしないで、あぁ
ほら、強くしないと入っていかないだろ。んぐぅ、ほらぁ、こう、ぐいっと
あっ、あっ、あ、あぁ、あん、あああ、あぁん、もうやぁ
やっ、そこ、だ、だめです、いや、やだ、いや、いやぁ、やん……
まって、もうだめ、やぁ、やめ。ああん、ああ、ひぃ、やぁ……
だめ、や、あ、あぁ、んんん、ひぐぅ、らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……

最初はまだ会話の体をなしてたけど、途中から千早ちゃんの切なげな喘ぎ声、
それとプロデューサーさんのはぁはぁ荒い息しか聞こえなくなった。
二人のただならぬ様子に、私はしりもちをついたまま呆然としていた。
ハグしてあげてとはいったけど、それハグちゃう…エ……エチ…
ま、まさかいきなりそこまでいっちゃうなんて……私のせい?

「ふぅっ……こんなもんか。飛行機で座りっぱなしだったせいか結構むくんでいたぞ」
「はぁっ、はぁっ、あ、ありがとうございます。おかげで楽になりました」
「うむ。腰と肩はどうする?」
「今日は大丈夫です。しっかり泳いだので凝りはとれているかと」
「そうか、じゃ。おーい、天海さーん、何してるのさ。はいっておいでよ」

マッサージ、ですよね。
腰抜けて立てない言い訳、どうしたらいいですか、てへへへ。

◇ 

怒って拗ねてる千早ちゃんを、チハPさんがハグして「ごめん」の一言で解決したのはよかったよ。
ええ、春香さんのアドバイス的中だから嬉しいですよ。
でもね、千早ちゃん。
どうしてくれるのよ。
なんであんな可愛い声でて喘いじゃうかな。
おかげで悶々としちゃって全然眠れないじゃない、ホントにもう……
そんな私の苦悩なぞどこ吹く風とばかり、くーくー健やかな寝息を立てて眠っているけど
さっきの悶え声といい、今の無邪気な寝顔といい、そのケがなくても萌えてしまいそう。
それに顔見てたら、軽く開いた唇にキスしそうになっている自分がいて危ない危ない。
でも千早ちゃん、あんな奔放に喘いじゃうんだから、相当気持ちよかったんだろうな。
ただのマッサージってわかっていても、ベッドで二人が密着している姿はなんていうか。

エロかった。

エッチしているより、エロく感じた。
あれ、私ってば欲求不満なのかしらん。

#7
千早ちゃんの、全て委ねきった顔。
その千早ちゃんに跨って、凄く真剣な表情のチハPさん。
二人の絆って、ひょっとしたら恋人同士の信頼関係より強いのかもしれない。
いっそ付き合っちゃえばいいのに。

ともかく明日は撮影初日なんだし、コンディション的にも眠っておかないと。
だからもう最終手段。ぜ、絶対に起きないでね千早ちゃん?
薄闇の中かすかに浮かび上がる千早ちゃんの寝顔をみながら、そっと手を伸ばしていく。
ジャージのズボンに手を差し込み、いきなりパンツも潜り抜けて。

くちゅ。
ほら、やっぱり濡れてる。
ていうか思った以上にびしょびしょだ。
マッサージを受ける千早ちゃんが漏らすため息、荒い呼吸、すこし苦しい感じの喘ぎ声。
目をつぶって聞いたのが失敗だった。
千早ちゃんがプロデューサーさんとエッチしているみたいに聞こえた。
そのときの様子を思い出しつつ、イケナイこととは分かっているけど、
目の前で眠る親友がエッチしているとこ、想像しながらゆっくり指を沈めてゆく。

あぁ……やぁ、中、凄く熱くてぐちゅぐちゅだよぉ。
こんなとき私のプロデューサーさんがいてくれたら、絶対止まらないだろうな。
今頃東京にいるはずの彼の顔を思い浮かべたはずなのに、なぜだかチハPさんと重なってしまう。
だめ、だめですよ……チハPさん、千早ちゃんに悪いから。
《ばれなきゃ大丈夫だって》
あぁぁ、そ、そんなとこまで……? お願いです、指だけですよぉ?
《いいのか、指だけとかいっちゃって》
あ、当たり前ですって。最後までは駄目ですから。それと千早ちゃんには絶対内緒で……
《わかってるよ。あぁ、春香の中は熱くてトロトロですっかり女だな》
や、やだチハPさん、言い方がエロイ……でも、あ、もっと奥まで、あぁ、気持ちいいです……
《だろ、もっと気持ちよくしてやるよ春香ちゃん》
やだ、舐めないで。いや、舌入れられると欲しくなっちゃうよぉ。い、入れちゃ駄目なのに
《いいんだぜ、正直になれよ春香。欲しいのなら入れてやるよ?》
あぁん、ちょっとだけですよ。ホントに、あ、あああはいってくるぅ…だめ、千早ちゃんにしてあげ、
あ、やぁ、待って、だめぇ……
そんなに奥に、あぁ、当たってる……気持ちいい
いやぁ、いっちゃうよ、チハPさんので、あっ、あああっいくっ、いっちゃう!

………ふぅっ。

いっちゃった。
最後、ちょっと声でちゃったかな……大丈夫だよね?

でも凄く興奮したのは、チハPさんにされているのを想像しちゃったからだろうな。
背徳感のせいで、いつもより感じてしまったのかも。
親友の寝顔を見ながら、しかも彼女の大切な人にされちゃうとこ想像しながらなんて。
してる最中は興奮が凄くて考える余裕なかったけど、終わってしまえば……

後悔。懺悔。最低。
ああ、なんだかよくわからない。
でも洗面所に立つのも億劫なくらいぐったりしてるから
これでなんとか眠れそう
ごめんね、千早ちゃん。
あれはただの妄想だから。
本気なんかじゃないから

ご め んね………zzz……zzzzzz


#8

「おはよう春香。あ、あの、昨日はよく眠れた?」
「え? うん。 どうかした?」
「その、大したことではないのだけれど、夜中に目が覚めたりしなかった?」
「ううん。朝までぐっすりだよ。あ、もしかして寝言がうるさかったとか?」
「違うの。ただ春香の声が聞こえたような気がしただけ。多分夢だと思うから気にしないで」
「えへへ、千早ちゃんが私の夢見てくれるなんてなんか嬉しいかも」
「な、何をいっているのよ。春香ったら」

なんて会話が起きて早々にあったから、ちょっとドキッとしちゃった。
千早ちゃんは熟睡したらなかなか起きないタイプって分かってるから大丈夫だと思うけど
昨日みたいなことはさすがに自重しなくちゃね。
別室みたいだけど、一応チハPさんだって同じ部屋で寝ているわけだから。
うん、大丈夫よ。ただの気のせい。



リテイクが多かったような気がするけど、なんとか今日の撮影は無事終了した。
それでもホテルへ帰る車中、二人とも押し黙ったままというのが事態を物語っているみたい。
私から見れば、今日の千早ちゃんなんか雰囲気違う?位のことでも、チハPさんから見れば
それはもう凄く大きな違いなのが分かっちゃうんだろう。
撮影中、チハPさんのそばにいてわかったことだ。
そして晩ご飯のあとのミーティング、私だけ外れるようチハPさんに言い渡された。
ご飯の間もなんだか言葉も少なくて、妙な雰囲気だったし。
なんだろう、この奇妙な予感というか、なんというのか。
ティーラウンジでお茶とケーキを食べてから、はらごなしに夜の庭園を歩いてみる。
そろそろ疲れてきたころ、ようやくメールが来て部屋に戻れることになった。
お風呂に入ってゆっくり寝ようと思ったのは甘すぎた考えだった。
ほっとした顔つきの千早ちゃんと入れ替わりに、今度は私がミーティングだって。



「今日の千早、ちょっと様子が変だったのは分かったかな?」
「え? ま、まぁ少しくらいは。あの、千早ちゃんどうかしちゃったんですか?」
「いやいや、それはもう解決はしたんだけどな。ちょっと聞きたいことがあってだな……」

チハPさん、なんだか歯切れが悪いし、目を合わせようとしない。
やっぱり何かあったんだ、それも私が関わっている何か重大なことが。
集中力の権化といわれた千早ちゃんが、あれだけ仕事で集中をかくくらいの何か。
あれ? それって……もしかして…………。
あれ、なのかな……。

「昨日の夜、何か変なことがなかっただろうか?」

たはーっ。アレでしたね。
千早ちゃん、起きてたのか目を覚ましちゃったのか、どっちかなんだろうな。
こりゃ怒られるな、あんだけ仕事で迷惑かける原因になっちゃんたんだもん。
しょうがないっちゃしょうがないけど……千早ちゃんはどんな話をチハPさんとしたんだろうか。
さっき交代するとき千早ちゃんとは言葉交わしてなかった。
呆れちゃったからかな? 呆れちゃったんだろうな。
そりゃそうだわ、寝ている隣で自分の大切な人をオカズにしてオナってるんだもん。
私だって呆れるよ。
千早ちゃんが私のプロデューサーさんと……エッチしてるとか。
や、やだ。
私ったら何考えてんだろ。あの人はそんなことするようなひとじゃないんだから。


#9
「……千早ちゃんはなんていってたんですか?」
「ああ、その、気を悪くしないでくれよ。千早はああ見えて世間知らずな子だから」
「わかってますよ、そんなこと」
「あのな、春香の様子が変だっていうんだ。夜中変な声で目が醒めてみたら
春香が……その、うなされるというか、その……なんだ」
「喘いでいた、ですよね?」
「…………。随分はっきりいっちゃうんだな、春香ちゃんは」
「チハPさんこそ、気を使ってそんな遠まわしな言い方しなくてもいいですよ。
知ってるんでしょ、私とプロデューサーさんのことも」
「あ、ああ。君達がとっても仲良しさんだということは」
「はぁーっ。とりあえず謝ります。申し訳ありませんでした。私のせいでご迷惑をおかけして」
「いや、だから違うんだ。千早がいってたのはだな」
「あの、やめてもらえませんか、そういうのは」

なんでチハPさんが、もってまわったような言い方をするのか分からなくて
私はちょっと腹が立っていた。
それが逆切れなのはわかっているけど、チハPさんは私が何をしていたかくらい
分かっているはずだ。一応私だって乙女なのだから、なにもこんな風にねちねちと
いたぶるような真似しなくてもいいだろうに。
大体あなたたちがあんなやらしいマッサージをして刺激するからわるいんじゃないですか。
気がついたら私は立ち上がって、いま思っていたことをチハPさんにまくしたてていた。

「いいたいことは分かったから、落ち着いて座ってくれ。責めるつもりで呼んだんじゃない」
「もういいですから」
「いいから聞け、俺と千早の言い分を」
もう一度立ち上がった私を、今度はチハPさんが強い力で無理やり座らそうとした。
間近で見る彼の真剣な顔。男らしい体臭と熱っぽい体温。
昨日のアレを思い出して、ちょっとばかり頭がくらくらしそうだった。

「千早の言い分はこうだ。春香ちゃんがプロデューサーと別行動だから寂しいはずだって」
ええ、だから一人で慰めてたんですから。

「寂しいから変な夢でもみてうなされたのに違いない、なのに自分たちはプールや食事のあととか
気付かずにベタベタしてしまった、それが申し訳ないっていってるんだ」
「そんなこと気にしなくてもいいのに。だって私、別になんとも思ってないんですから」
「だけどな、春香ちゃん……」
「もうこういうのやめませんか? 千早ちゃんには気にしないでって伝えますし」
「でも……いいのか、それで」
「じゃあ」

抱きついていた。半分は無意識に、半分は意図的に。
だってそうでしょ? プールサイドで私のDカップ見たじゃないですか。
冗談とはいえ、あんな思わせぶりな誘い文句、私にいってくれたじゃないですか。
それに事故とはいえ、私のおっぱい生でしっかり見たじゃないですか。
それにチハPさん、千早ちゃんとはそういう関係になる気なさそうだし。

「チハPさんが慰めてくださいよ。でないと私、また一人でしちゃうかもしれませんよ?」
「冗談はやめてくれ、春香ちゃん」
「ふふん、千早ちゃんに見られたら困るから? それともDカップに名残がありますか?」
私は彼の背中に回した手に力をこめた。
彼の胸におしつけた私の柔らかい乳房が、ぐにゃりと潰れて密着している。

「いいですよ、どうせ私のプロデューサーさん来てくれないし、千早ちゃんには黙ってますから」
「は、春香ちゃんがそんな悪い子だとは思わなかった」
なんて言い返そうか迷っているうち、彼の手が私の背中をぎゅっと抱きしめていた。
それで私はなんとなく安心できた気がして、押し付けた顔を上げて彼を見ようとして。
キス、されちゃった。


#10

「ごめんね千早ちゃん、なんだか心配かけてたみたいで」
「いいのよ春香。それよりプロデューサーに苛められたりしなかった?」
「あはは、まさか。チハPさんって千早ちゃんには厳しいのに私には超優しいよ」

確かにあのキスは優しかったよ。
彼の事を一瞬忘れてしまったくらい、頭が蕩けてしまうような大人のキスだった。

「そう、それならよかった」
「うん。千早ちゃんも私のこと気にしないで。今の状況結構楽しんでるんだから」
「分かった。じゃ明日も仕事だからそろそろ寝ましょうか」
「ねぇ千早ちゃん……一つお願いしていい、かな」
「なぁに、春香。なんでもいって」
「は、ハグしない?」
「ハグ…って、別にいいけど…えと、そのぉ……女の子同士だとなんだか照れるわね」
「あはは、じゃあ私をプロデューサーさんだと思って、さぁ、さぁ!!」
「やだ春香ったら。 いい、いくわよ」

千早ちゃんはべたべたするのが苦手だと思ってたから、仲のいい私でも体を触れ合うこと、
手を繋ぐなんてことでも経験したことがなかった。
けど、今夜初めてハグしてみて、いいえぎゅっと抱きしめてもらってみると
華奢なくせに体の芯はしっかりしてて、それでいてとっても柔らかいってことがわかった。
男の人に抱きしめられると鼓動が激しくなるばかりなのに、千早ちゃんが相手だとなぜだか
暖かく気持ちまでふんわりとしてくるような。
その夜、私たちはそのまま無言でひとつのベッドに入り、体を触れ合わせたまま眠った。
別に変な意味なんかじゃなくて、すごく自然な流れだったと思う。
おかげで何日かぶりに熟睡できたし、寝起きもとてもすっきりだった。



最初はどうなるかと思ったリゾート、じゃなかった映画撮影という長期の仕事も
なんとなくお互いのピースが嵌るべきところに嵌っていい感じに……といいたいところだけど
一つだけ、嵌ってはいけないピースが嵌りそうになっている。
千早ちゃんの機嫌はあれからすごく上々で、初日とは違いキレキレの演技を見せているし
チハPさんも落ち着いたのか、ドSぶりは影を潜め実に優しく穏やかなままでいる。
ただ一人、私だけ悶々としているのを二人に気取られないよう必死なのである。
理性ではわかっているのに、オンナとしての本能が流されたがっているのだろうか。
そんな苦労も独りで耐えているのだから、私って本当に健気だ。

二人の関係は多分、というか間違いなく進展はしていない。
超晩生の千早ちゃんは、チハPさんのことを男として意識なんてしてないだろうし
チハPさんは、その頑なな職業意識が千早ちゃんに手をだすことを実行させないだろう。
二人のピースが完全に嵌ってしまえば、私だって諦めることができる……って、あれ?
諦めるって変だよね。私には付き合っているプロデューサーさんがいるんだし。
それがなんでチハPさんに片思いしていることになっちゃってるんだろ。

「……春香、聞いてるの? ねえ、春香!」
「うわぁったたた、ああ、びっくりした。聞いてるよ、千早ちゃん」
「そう。じゃあいってくるね。春香もラジオ頑張って」
「あ、うん。いってらっしゃい。って、え? 千早ちゃん一人でどこいくの?」
「春香ちゃんはまだ寝ぼけてるのな。 今日春香ちゃんは俺と一緒に地元のラジオ局に生出演。
ちーちゃんは撮影現場。といってもあのスタイリストさんたちが一緒だから大丈夫だな」
「また子供扱いですか。別にひとりでも大丈夫ですから」

へっ? じゃあ私今日、チハPさんと二人きり?
なんで私、どきどきしてるんだろ……


#11
ロケ現場に向かう千早ちゃんを見送ったあと、私はチハPさんと地元のラジオ局に向かう。
こっちにきてから私の出演を決めたらしいから、さすが敏腕プロデューサーだ、うん。
私のプロデューサーさんだと中々こうはいかないかも。
車の中では、今日の番組で答えるべき内容をしっかりとレクチャーされ
その成果として、私は生番組出演でひとつのミスもなくうまくしゃべる事ができたのだった。

「たまには別のプロデューサーさんの指導というのも新鮮ですね」
「戸惑ったりしなかったか?」
「全然。むしろこのままプロデュースされてもいいかな、なんて」
「こら、そんなこというとあいつが泣くぞ」
頭をコツンと軽く小突かれ、その手はすぐ私の髪をさらさらと撫でてくれた。

「よくできたご褒美だ」
「……それって千早ちゃんにやってあげてたりします?」
「そうだけど、それが何か?」
「あ、いえ。千早ちゃんらしいなって……あはは、気にしないでください」

言えなかったけど、今時ナデナデされて喜ぶアイドルなんて千早ちゃんくらいだよ。
大人びているくせに子供っぽいというか、中身は子供そのものだし。
昨日一緒に寝たときも、起きてみたら子供みたいに私にしがみついてたし。
それが可愛かったから、ほっぺにちゅーしようとかと思ったくらい、ていうかしたけど。
でもね……私にとっての撫で撫ではまったく別の意味なんだよ。
それって、彼が今夜しようかってお誘いの合図なんだもん。
彼の部屋にいって、彼がするりとリボンをほどくと、それは今からするよって合図。
まいっちゃう、ほんと。
せっかく昨日のこと、忘れたというか吹っ切れたと思ってたのにまた逆戻りになっちゃった。
彼とした最後のエッチを思い出したついでに、チハPさんをおかずにしたひとりエッチのことも
頭の中にはっきり再生しちゃったじゃないですか。
どうしてくれるんですかチハPさん。
わたし、ちょっと濡れちゃってるんですけど……



車がホテルに向かって走るから、あれって思ったらお昼ご飯のあと雑誌取材だなんて、
いつ仕事取ってるのかちょっと不思議。さすが敏腕だなんて思ったけど実はそうじゃなかった。
着替えと資料を取りに、という言葉を疑いせず二人で部屋に戻って。
気付いたときにはベッドに押し倒され、チハPさんの顔を見上げていた。

抵抗すべきだってわかているのに、私は抗う代わりに思い出していた。
プールサイドでの会話、そのあとのおっぱいぽろり、そして例のキス。
チハPさんがなんで私を求めるような態度を取るのかわからないまま、
私の体はもう彼を“男”として認識してしまっている。
車の中で潤んでまだ乾きってないあそこが、また濡れ始めたのがわかる。
心の中の天秤が理性ではなく本能のほうに傾いていったとき、
かすかな残り香に気づいた。
このベッド、千早ちゃんが寝ているほうじゃない。


「ゴムはつけてくださいね。そろそろ危ない日だから……」
「な……春香ちゃん」
「いいですよ、私もちょっと欲求不満気味でしたから丁度よかったです」
「……ほ、本当にやるぞ?」
「そのつもりで襲ったんでしょ? くっちゃべってないで始めたらどうなんですか?」
「…………」
「そうそう、私のベッドあっちですから。千早ちゃん鋭いからばれたら大変ですよ」


#12

流れに任せ、本能に委ね、わたしは本気でチハPさんに抱かれるつもりだった。
行きずりのセックスなんて考えたこともなかったけど、いざ直面すればあっけないもので
千早ちゃんには悪いと思いながら、二人はまだ付き合ってもいないのだし
チハPさんはともかく、千早ちゃんの気持ちは明らかじゃないのだから
そうなっても浮気とかではない……と思い込みたかった。

ベッドのことを言い出したのは、言葉そのままの意味。
千早ちゃんの名前を出して、彼に思い直させようなんてつもりはなかった。
でも結果としてはそれが正解だったことになる。
あの子のベッドで、あの子の大切な人と欲望に任せたセックスはしなくてすんだ。
彼は動きをとめると、のろのろと体を起こした。
寝てても仕方がないから、私も起き上がり彼と向かい合わせに腰を下ろした。

「しないんですね……。無理やり押し倒すなんてチハPさんらしくないケモノぶりだったのに」
「……謝ってすむならそうしたいが、そうも行かんだろ、さすがに」
「一応、理由聞いといていいですか?」
「どっちの理由だ?押し倒したほうか、それとも止めたほうか」
「そうですね……じゃあ両方」
「土下座あたりで勘弁してもらうというのじゃだめだろうか」
「レイプ未遂を不問にするわけですから、チハPさんに拒否権も選択肢もないと思いますよ」
「レイプ、か。そうだな、不問にしてくれるのなら春香のいうとおりだ」

彼の答えがどこまで本当かを確かめる術はないけど、それなりに収穫はあった。
とりあえず、私を襲った理由は性欲をもてあました結果ということにしておく。
プールではまだ冗談のつもりが、私の思わせぶりな態度が彼の勘違いを助長して
あのキスを誘発したらしく、私にもいくらか責任はあるのだし。
でも直接の引き金は、頭をなでられたとき私が女の顔をしたことだそうだ。
オンナの魅力があるって認められたのは嬉しいかもだけど、男を欲情させてしまような
顔を安易にしてしまったのなら、それは気をつけなくちゃいけないよね。
そしてもっとも知りたかったこと。
彼が千早ちゃんのことを女として好きだっていう事実。
それを聞くことができて、ようやく私の心は決まったのだけど。

ただひとつ残った問題。
私の体にはまだ消えずに残った火がぶすぶす燻っていること。
そして彼も同じように切実なものを残しているだろう事。
さっきベッドの上で押し付けられていたから、よくわかる。
今が最初にして最後のチャンスだろうということが、私にそれを言わせることになった。

「エッチはやめましょう。でもマッサージしてもらうだけならいいですよね?」



彼はベッドから立ち上がり、自分の寝床にしている和室スペースの襖をあけた。
畳敷きの小さいスペース、その隅っこにたたんである布団を彼が敷く。
襖を閉じてしまうと、窓のないその部屋はほぼ真っ暗で何も見えなくなたけど
それでも私は彼に背中を向けて服を脱いでいった。
下着は迷ったけど、邪魔になるだけだろうし、彼がまた獣になっちゃう心配はしてなかった。
生まれたままの姿になって、布団の上にうつぶせになった。
ややあって彼が私の太ももあたりに腰をおろし、熱い体温が伝わってくる。
それで彼も私と同じ姿になっているってことがわかった。
体重をかけられているわけじゃないから、重いとかではないんだけど
簡単に身動きはできなさそうで、無理やり拘束されているような錯覚から
心が少しざわめくけど、それは我慢して押さえ込む。
だってこれはただのマッサージなんだから。

#13
最初は腰のツボから始まったマッサージが、徐々に背筋に沿ってあがってくる。
私は目を閉じ、体の力を抜いて彼の指を堪能する。
この前の夜、千早ちゃんをあんなに喘がせたマッサージだけあって、
私も途中からもう声を我慢することはしなかった。
時折触れる彼のものが固くなっていることはわかっていて、
もしかしたらそれに貫かれるかもと思ったりしたけど、さすがに彼は紳士だった。
ただ背中から腰が一通り終わってしまうと、徐々に彼の手は核心に近づいてくる。

お尻のくぼみを両サイドからぐいぐい押されると、痛みと気持ちよさがミックスされて
私の声がより大きくなってしまう。
彼とのセックスのときには、そんな風にお尻を押したり揉んだりされたことはなくて
気を抜くとそれがマッサージではなく愛撫のように感じてしまいそうになる。
でもいいか。
どうせマッサージを始める時点で私のアソコは濡れていたのだし
チハPさんにはあの夜オナニーしちゃったことまで自白しているのだし。
そしてほら。
お尻の次は足のマッサージ。
暗さに目が慣れたとしても、私の大事な場所がどのようになっているかは
見えないはずだ。
足を開かされるとき、くちゅっていう音がしたこと以外は。

足の裏とか脹脛を押されるのはイタ気持ちいいだけですんだけど
その手が太ももを這い上がってくると、そこに快感が加わってしまう。
もう私ははあはあと息も絶え絶えに喘いでいるだけだし
彼の息もかなり荒くなっている。
でも、その手は足の付け根まであがってくると、そこで私の体から離れていった。


「おしまい、ですか?」
「最後に肩揉んでやるから、座って」
バスタオルが敷かれてある周到さに感心しながら、私は足を投げ出して座る。
彼が背中に回って、再び暖かい手のひらが肩に添えられると、
凝るほど疲れてもいないけれど、やや緩めの力加減が実に気持ちいい。
快感よりも心地よいため息をもらし油断した、というのかな。
不意に肩を離れた手が私のバストを後ろから包み込む。

緩やかで繊細なタッチが少々物足りない気もしたけれど、
それはそれで気持ちよかった。
時折彼のてにひらで乳首がこすれ、声が出てしまう。
我慢することはそこであきらめた。
背中を彼にもたれかけると、彼の手が私を引き寄せ唇が重ねられる。
この前よりも何倍もいやらしい大人のキス、というより唇同士のセックスといったほうがいいのかな。
重ねた唇の中で舌を激しく絡ませていると、胸を揉む手がようやく激しくなってきて
快感が頂点に達しようとしたとき、ついに彼の手が私の大切な部分にやってきた。
すでにどうしようもないほどびしょびしょのアソコを何度かなでられたあと
指先でアソコが開かれ、そのまま私の膣は彼の指に犯されていた。
いや違う、これはそういうのではなくマッサージなんだから……
私は自分の手をそこに重ねて、指だけで満足できるよう彼に催促の合図を送る。
指が増やされ、なかがいっぱいになり、そして激しく上下される。
私は無意識に手を伸ばし、彼をまさぐり、握り締めた。
唇を重ねたままの探りあいに、耐え切れなくなったのは彼が先だった。
横抱きのような状態から、強引に体を引っ張り寄せられ
私は彼の体の上に覆いかぶさるようになる。
ただし反対向きに。
だから目の前にあるのは彼の顔ではなくそそり立ったペニスだった。


#14
彼以外のペニスを見るのは初めてなんだけど、暗くてよく見えないのが残念だった。
だけどそこで彼の口が私の恥ずかしいほうのお口にキスしたため、それどころではなくなり
気がつけば私も握り締めたその先端を頬張っていた。
最後まではしない約束だったから、口だけで満足してもらおうと必死でしゃぶって
その結果としてたっぷりと濃い彼の精液を全部受け止め飲み干した。

なんてうそ。

全部うそ。

ていうか、チハPさんは健全なマッサージしかしてくれなかったから。
暗闇の中、私が全部脱いでしまったことを知ると、思い切りお尻をひっぱたいてから
バスローブを体にかけられた。
私のプロデューサーにもぶたれたことないのに、って抗議したら
もう一発ぶたれそうになったから、素直にバスローブを着てマッサージを受けた。

だからまるまる1ページ費やした妖しいマッサージの情景は
私のあられもない妄想であり、彼が千早ちゃんを迎えにいったあと
部屋に一人残った私が、誰はばかることなく思い切り自分を慰めたときのおかず。
チハPさんのお布団の上で、何も敷かずにやっちゃったのがささやかな意趣返し。
でもまあ、マッサージは本当に気持ちよかったし
チハPさんの気持ちは十分に伝わった。
あとは彼が千早ちゃんにきちんと告白すればすべて丸く収まるはず。
だから私もこれが許されない妄想をオカズにしたオニャニのやり収めってわけです。
2回連続でしたのなんて、これが始めてだよ。



暗くなる頃帰ってきた千早ちゃんは、今回のツアーで一番のご機嫌だった。
撮影も順調であと一日を残すだけだし、そのあと余った予備日はまるまるこっちでオフ。
それに久しぶりにチハPさんと二人きりの時間を持てたのも大きかったと思う。
夕食もよく喋り、よく笑い、そして何度もチハPさんと見つめあった。
もしかしたら帰り道にでも告白されたのかと思ったくらい。
まあ、そのあと千早ちゃんに確認して、そうではないとはわかったんだけどね。
ああ、出来れば告白シーン見たいけど、さすがに無理かぁ……
千早ちゃんが照れながら喜ぶ顔とか、一生もんの萌え思い出になりそうなのにな。
そう思っていた時期が私にもありました。

食事を終え、珍しく三人でホテルの庭を散策などして
いい気分で部屋まで戻ったところで、まさかのショータイムがあるなんて。
私の予想の遥か斜め上をいくチハPさんの発想と思い切りのいい行動。

みんなの分のお茶を入れていると、ソファーのチハPさんが上ずった声で私を呼んだ。
「春香、ちょっといいかな」
「なんですか、声裏返ってますけど」
「いいから来い、春香には証人になってもらう」
「えー、まいどおおきに。儲かってまっか?」
「ぷっ……くくっ、は、春香ったら」
「その商人じゃない。大事な話だから真面目に聞け」
「ぷぷっ、くすくす、浪速の商人と証人をかけたのね。ふふっ」
「千早さんもお静かに」

なんていうか、チハPさんは凄いマジな顔で
目が血走っていた。



#15

「千早、好きだ。大好きだ。愛してる」
そういって、いや叫んだチハPさんはあっけに取られたままの千早ちゃんを抱き寄せると
私の見ている目の前で、深々とそして熱烈に千早ちゃんの唇を奪った。

「んんっ!? んんんふkっあwせdrfふy、ぁqwせdrftvgbyんh!!」

何か叫ぼうとしているみたいだったけど、途中であきらめたみたいで
目が閉じられ強張った体からも力が抜けてぐんにゃりしていく。
驚いてチハPさんを押しのけようとしていた千早ちゃんの手が彼の手に回される。
千早ちゃんの目じりから涙が一筋零れ落ちたのがとても綺麗だった。

それにしても長いよ。
二人とも絶対に私の存在忘れてるでしょ?
あーあ、東京に帰るまではもうアレしないと固く心に誓ったばかりなのになぁ。
ま、まさか私がいる状況でキス以上のことは進めないでよね。
ほんと、頼みますよ……



寝付けないのを無理やり眠ろうとして、ようやく成功したのは深夜の12時過ぎ。
なんで時間がわかったかというと、寝付いた直後になにやら気配を感じて
意識がすっとさめちゃったから。

気配の主は千早ちゃん。
どうやらおきだして私の寝息を伺っていたらしい。
寝たふり状態の私を眠っていると思い込んで安心したのか、忍び足で部屋を横切ると、
チハPさんの眠る和室スペースの襖をそっとあけるのが見えた。
ま、まさか……そんな千早ちゃん、大胆すぎ?
それからゆっくり100秒数えてから私もそっとベッドを抜け出して
超慎重な忍び足で襖に近寄り、全身の神経を耳に集中させようとしたら
ほんの少しだけ襖が開いていて。
中はさすがに真っ暗だったけど、物音ははっきりと聞こえた。

いや、まあキスしてるだけだったんだけどね。
さっき最前列で目撃したより、もうちょっと恋人らしいキスのようで
千早ちゃんの甘えたような鼻声がとても印象的だった。
ぼそぼそした声で何やら話しているのはよく聞こえないけど
最後に千早ちゃんがうれしそうな声でおやすみなさいといったのが聞こえ
それっきり物音が途絶えたので、どうやら一緒に眠ることになったらしい。

はいはいご馳走さまです。
なんとなく惜しいというか安心したというか、よくわからないけど
私はベッドに戻り、少々やけ気味で行為を済ませると
シーツを頭からかぶって眠りについた。

眠りは浅くて、日が昇る前、千早ちゃんがコソコソと和室から戻ってきたのにも気がついた。
少しくらいはからかってもいいよね、などと寝ぼけて目を覚ました体で起き上がる。
「んにゃっ、千早ちゃん……どっかいってたの?」
「えっ、あ、春香ごめん、おこしちゃったかしら」
「んんんー、春香さんはまだ寝足りないのですよ……子守唄うたって」
「まあ、子供みたいな寝ぼけ方ね。でもいいわ」
「じゃこっちきて」
添い寝しながら、美しく奏でられる歌姫の超豪華な子守唄を聞きながら
私は千早ちゃんを抱きしめて耳元で囁いたのである。
真っ赤になって照れるちーちゃん、最高!


#END

「いいのか、春香。まだ休みは2日も残っているのに」
「いいんですって。私、東京でやらなくちゃいけないことがあるんです、止めないで」
「あ、ああ。無理に止めはしないけど」

名残惜しさよりも、わた…春香さんは空気をきちんと読める子だから。
それに、さっき言ったとおり今一番しなくちゃいけないことは、東京じゃないとできないし。
チハPさんの少し後ろで黙ったままの千早ちゃんは、私の気持ちに分かっているみたい。
その彼女にウィンク一つ送ると、私はキャリーバッグを勢いよく引っ張ろうとして
椅子にひっかかったついでにド派手にすっころび、機上の人となったのである。
東京までの3時間はただひたすら眠って過ごして体力の充電につとめ
羽田に迎えに来てくれた彼の車で一目散にホテルに向かい
部屋に入るや否やベッドに彼を押し倒して、騎乗の人となったのである。

今頃千早ちゃんも、ひょっとしたら。
考えたのは一瞬だけ。
どうせあの子が帰ってきたときの顔を見れば、きっと結果はわかることだし。
そのあとは彼の逆襲に身を任せ、その夜何度も何度も天国に運ばれたのである。



おしまい。

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