銅金裕司の作品、活動、プロジェクト、考えていることについて(Garden of Cyrus、サイラスの庭、アート、芸術、庭、ガーデン、植物、花、虫、鳥、緑、グリーン、バイオ、バイオアート、bio art、バイオロジー、環境、環境問題、二酸化炭素、co2、オフセット、生態、生態系、エコ、エコロジー、環境芸術、ecology,植物の音楽、植物の声、植物の音、花の声、花の音楽、花の音、音楽、声、リズム、plant、music、voice、植物生体電位,植物とのコミュニケーション,世界、世界の声、ルグィン、世界劇場、存在の大いなる連鎖、イエーツ、ワールブルグ、マニエリスム、魔術、伊藤若冲、石峰寺、動植綵絵、海洋学、海洋、機械、ネットワーク、コンピューター、植物、花、トロン、マック、マッキントッシュ、SE、SE30、脳波、ロボット、ロボットとは何か、電位、FFT、スペクトル、midi、プラントロン、plantron、心、感情、精神、知恵、マインド、認知心理、アフォーダンス、カオス、複雑系、非線形、振動、振動子、内部観測、オートポイエーシス、植物の心、植物の精神、植物の知恵、記憶、徴候、庭、ガーデン、シアター、園芸、園芸文化、花文化、花、箱庭、ラン、orchid、ランの進化、ランの戦略、リゾーム、プルースト、バタイユ、文学、マラルメ、リラダン、ポー、ボルヘス、ナボコフ、アーダ、ユリイカ、メルヴィル、稲垣足穂、中井英夫、椿実、澁澤龍彦、yuji dogane(銅金裕司/メディアアーティスト))

『アーダ』 ウラジミール・ナボコフ


無慈悲なほど暑い七月の午後というと、アーダは、日当たりのいい音楽室で、白い油布をしていたテーブルに向い、目の前にお気に入りの植物図表をひろげ、象牙に似せた木で出来たひんやりするピアノ・スツールに腰かけ、クリーム色の紙に風変わりな花を色付きで写生するのが好きだった。例えば、昆虫擬態を思わせる蘭の花を選びだして、それを、あざやかな熟練さで数倍の大きさに写しとったりした。そうかと思えば、別のときには、ある種類の花と別の種類の花(これは、図鑑には記録されていないが、この世のどこかに存在する可能性は考えられた)とを組み合せて、この肌をひどく露出するような服装をまとったとても若い少女の器用な手さきは、ほとんど病的とも思えるほどの不可思議なちょっとした変化やゆがみを加えて、新しい種類の花を創造することもあった。フランス窓から斜めに射し込む足の長い陽の光は、こまかに小面をきざみこんだタンブラーの中に、また、絵の具をといた水の中に、また、絵の具箱のすずのチューブの上にきらめいていた???そして、アーダが眼状斑点や唇型花片の裂片を精密に描いていると、うっとりするような集中力が働いて、いつの間にか、彼女の舌さきは口唇の片隅でくるりと巻き上がってしまう。そして、太陽がじっと見つめている中で、この異様で、黒青褐の髪をした少女は、こんどは逆に、彼女自身がヴィーナスの鏡と呼ばれる花そのものに成り変わってしまうように思われた。その薄くてゆったりしたワンピースは、たまたまうしろがとても深く切
れこんでいたので、彼女がそのつきでた肩甲骨を前後に動かし、頭をかしげながら???手にした絵筆を宙に構え、まだ濡れている作品を眺めすかし、左手首の外側でこめかみにかかる一房の髪の毛を払いのけたりしながら???背中をへこますたびに、アーダのかけている椅子にこれ以上は近づけない程度にまで接近していたヴァンは、彼女のなめらかな腰部を尾骨まで見下ろし、彼女のからだ全体のあたたかみを吸いこむことができた。ヴァンは、心臓をどきどきさせ、みじめな片手をズボンのポケット深くつっこんで???硬直した自分をカムフラージュするために十ドル金貨が六枚も入った財布をわざとそこにしまっておいたのだが???ちょうどアーダが作品の上にかがみこむのにあわせて、自分もアーダの上にかがみこんだ。そして、彼はからからに乾いた唇をアーダのあたたかい髪の毛から熱いうなじへと、できるだけそっと匐わせていった。こんなに強烈で、甘美で、神秘的な感覚を味わったのは、これが最初だった。この冬に経験したあのさもしい娼婦との性交の如きは、その綿毛のように柔らかなやさしさ、その欲望の挫折とは似ても似つかなかった。彼は、アーダのうなじの真中にある心地よい円い関節の上に永遠にさまよっていただろう???もし彼女のうなじがそのままうつむいて動かなかったなら???もしこの不運な少年がかーっとなって、慎みを忘れ、彼女のうなじに唇をこすりつけたりしないで、彼の蝋のようにじっと動かない口唇の下の恍惚とした感触にもっともっと長く耐えることができたならば。アーダのむきだしの片方の耳が少しずつ色あざやかに赤く染まっていき、絵筆の動きが段々鈍くなっていくのだけが、ヴァンが力を増して唇を押しつけていることをアーダが感じているというしるし???こわがり危ぶんでいるしるしだったのだ。それを見ると、ヴァンは、それ以上何もできないで、いつも無言のまま自分の部屋にしのび足で戻っていき、ドアに鍵をかけ、タオルを握りしめ、裸になり、今うしろにとり残してきたばかりのイメージ、掌にすくいあげた炎(それは、暗闇に運び去られ、その結果、残酷なほど激しく燃えて、やがてそこから追い払われるだけ)のように相も変わらず安全で輝いているイメージを呼び起こすのだ。それから、ヴァンは、ふらつく腰と力のぬけたふくらはぎをふるいたたせ、しばしの時間をかけて射精する。それを終えると、さんさんと陽の光がてりはえる音楽室の清らかさの中へ戻っていく???そこでは、少女が相変わらず花を???その素晴らしく美しい花は輝くような蛾を擬態し、その蛾はまた神聖甲虫を擬態した描いていた。]










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