先天性股関節脱臼
【概念】
特別の外傷や感染とは関係なく、大腿骨頭が脱臼している場合を先天性股関節脱臼という。病院についてはなお不明な点も多く、最近では新生児の取り扱いやおむつの当て方などの指導により明らかに発症率の低下をみている。発症率は新生児1000児に対して1〜3児の割合、男女比は1:5〜10と圧倒的に女児に多い。また初産児に多い傾向がある。先天性股関節脱臼の範疇に、通常は完全脱臼のほか、亜脱臼や臼蓋形成不全も含めている。【病因】
1.遺伝的要因同一家族内発生、一卵性双生児の鏡像位発生、他の先天性奇形の合併などが考えられている。
2.関節弛緩の関与
出産直前の母体においては関節弛緩を促進する関節靱帯弛緩ホルモン分泌の亢進による胎児股関節包の一過性弛緩が起こる。
3.力学的要因
子宮内での胎児の異常位(股関節屈曲内転位や膝過伸展位の強制)
【症状】
生後間もない新生児では、関節弛緩の所見があり、乳幼児では患側下肢の見せかけ短縮、開排制限、坐骨結節・大転子の位置関係の乱れ(正常では開排位で大転子と坐骨結節が同一レベルにあるが、脱臼すると大転子が後方へ移動する)、大腿骨の突き上げや引き下げでの異常移動性などがみられる。歩行開始後に発見された症例では、これらの所見に加えて跛行がみられ、トレンデレンブルグ現象が現れる。
【診断】
X-pで診断することが日常である。それには、両股関節の単純正面X線像で基本線や補助線を把握する必要がある。1.Shenton線
正常股関節において閉鎖孔の上縁(恥骨の内下縁)をなす曲線を上外側に延長すると大腿骨頚部の内縁に一致する。このセンをShenton線と称し、脱臼股関節ではこの2つの線の連続性がなく乱れる。
2.Wollenberg(Hilgenreiner)線
両側のY軟骨を結ぶ線である。正常では骨頭はこの線より下に位置し、脱臼骨頭はこの線より上に位置する。
3.Ombredanne(Perkins)線
臼蓋縁よりWollenberg線に降ろした垂線である。正常骨頭はこの線より内側に位置し、脱臼骨頭は外側に位置する。
4.Calve線
正常股関節においては、腸骨外縁のなす曲線と大腿骨頚部外縁をなす曲線はほぼ一致する。この線をCalve線と称し、脱臼股関節ではこの線は乱れる。
5.臼蓋傾斜角(α角)
寛骨臼蓋切線とWollenberg線の成す角度。正常では、20〜25°であり、この角度が急峻になり30°以上の場合臼蓋形成不全と称する。
6.CE角
骨頭中心と臼蓋嘴を結ぶ線とOmbredanne線のなす角をCE角と称する。正常では25〜35°であり、20°以下は病的であり、臼蓋形成不全あるいは骨頭の位置不良が存在する。病的な状態で放置すると将来亜脱臼性股関節症に移行することがある。
また、新生児における関節弛緩Joint-laxityおよび脱臼股の診断に最も重要な手技、Click-signがる。
Ortolani法
新生児は仰臥位とし、検診肢位は、両股関節屈曲90°、膝関節最大屈曲位に保持し、検者の拇指を大腿内側に他の指を大腿外側におき、股関節を大腿骨長軸方向に押し付ける。この際、手に軽い脱臼音Clickを触知する。ついで、そのまま股関節を開排させて中指で大転子を下から押し上げるようにすると、骨頭が整復される音clickを触知する。
【治療】
新生児期軽症例では、厚めのおむつを付け、抱き方など育児法に注意しながら経過を観察する。ほとんどの症例は正常股に発達する。
乳児期
乳児期における先天股脱の治療方針は、
1.Palvik法
Riemenbugel装具が用いられる。この装具は股関節の伸展のみを制限する。患肢の運動を利用して自然整復を得る生理的機能療法である。ほとんどの症例で装着後1〜2週で開排制限が取れ脱臼は整復される。
2.Overhead法
3.全身麻酔下、関節造影下で徒手整復を行う。
4.手術により観血的整復
幼児期
歩行を開始する前に脱臼を整復しておくことが治療の原則になるが、稀に歩行開始が脱臼発見より早くなり脱臼が残されたまま歩行する幼児がいる。その場合は、手術による整復に移行すること多い。
【予後】
ほとんどの症例で、学童期や成人期での疼痛発生、日常生活動作の障害をきたすことはない。しかし、中年期において体重増加・筋力低下・ホルモンバランス不良などの要因が重なり、骨頭や臼蓋の変形を伴ってくる。変形が進行すると変形性股関節症へと進行する。
【私的見解】
現場で経験する変形性股関節症、先天性疾患が背景にある症例も多いが最近では二次性変形性股関節症も多く、みられる。これには、食生活や生活環境の欧米化なども考えられている。2007年11月30日(金) 23:15:16 Modified by medireha_jiten