変形性股関節症

【概念】

なんらかの原因により関節軟骨が変性し、また一方では骨軟骨の増殖性変化と伴う。
荷重部の関節軟骨の表面の粗造化。
1.関節軟骨の光沢を損失
2.軟骨の亀裂と軟骨下骨の露出
3.表面の毛羽立ち
4.関節運動や荷重などの機械的ストレス、磨耗による軟骨の非薄化

軟骨下骨は病態の進行とともに肥厚、硬化する。
荷重部に隣接する部位や非荷重部での軟骨増殖、肥大、骨化による骨棘形成
骨頭および臼蓋荷重部の骨嚢胞形成

【病因】

変形性股関節症とは大腿骨頭および寛骨臼の関節軟骨の変性、磨耗による関節破壊と反応性の骨軟骨増殖および滑膜炎を特徴とする慢性の股関節疾患である。本症は原因不明の一次性と基礎疾患（先天性股関節脱臼、先天性臼蓋形成不全?など）に続発する二次性に分類される。

その他の二次性変形性股関節症の原因
先天性疾患：先天性股関節脱臼、先天性臼蓋形成不全?
炎症性疾患：関節リウマチ?、強直性脊椎炎?、感染性股関節炎?
腫瘍性疾患：滑膜性骨軟骨腫症、色素性繊毛結節性滑膜炎
外傷：外傷性股関節脱臼、股関節脱臼骨折?
大腿骨頭壊死症?
Perthes病?
大腿骨頭すべり症?
神経病性関節症?（Charcot関節）
骨系統疾患
代謝性疾患

一次性変形性股関節症の発症率は10～15％である（欧米＞日本）。または加齢に伴う関節軟骨の脆弱化が大きな比重を占める。
二次性変形性股関節症では力学的ストレス（応力）が病態に占める役割として大きい。

【軟骨変性の機序】

軟骨基質を構成するプロテオグリカンやⅡ型コラーゲン、その他のコラーゲン性たんぱく質がマトリックスメタロプロテアーゼ?などの酵素によって分解されることにより起こり、その結果、軟骨基質全体としての水分保持能力が減少し、軟骨の弾力性を失うことになる。

荷重部における関節軟骨の変性の開始は、とくに先天性股関節脱臼治療後の遺残変形や、先天性臼蓋形成不全?に続発する二次性変形性股関節症においては股関節の不安定性と、荷重部における力学的ストレスの集中が主な原因と考えられる。荷重部における臼蓋と大腿骨頭の接触面積が狭いこと、また多くの例で臼蓋荷重部の傾斜角が急唆なために、荷重により関節面に剪断力が働きやすいことが、荷重部における関節軟骨変性の開始の引き金と考えられる。

【症状】

疼痛

股関節部痛、鼡径部痛、臀部痛、大腿部痛、膝上部痛が主な疼痛部位であるが、関連痛を含めその他の部位にも疼痛を訴える場合がある。歩き始めや動き始めにおきる疼痛（Starting Pain）や長距離歩行や過度な運動時に訴える疼痛が初期症状である。徐々に進行し始めると、歩行距離は短縮し運動時間も減少する。安静時痛や夜間痛も訴えるようになり、日常生活動作に大きな支障をきたすようになる。

破行

俗に言う『びっこを引く』状態での歩行が認められる。筋力低下や関節可動域制限のみならず、下肢長の短縮により起こる。筋力の低下は股関節周囲筋に顕著に認められる。特に中殿筋や大殿筋の筋力低下は極端で筋萎縮は眼で確認できる。中殿筋や小殿筋の筋力低下はトレンデンブルグ現象Trendelenburg破行やDuchenne破行を呈する。
また関節可動域制限は伸展・屈曲で制限される。進行がすすむにつれて外転・内転・内旋・外旋の順に制限されていく。

【病期分類】

前股関節症

関節裂隙は正常。
骨硬化像や骨嚢胞：－

初期股関節症

関節裂隙の軽度狭小化。
骨硬化像：＋　
骨嚢胞、骨棘：－

進行期股関節症

関節裂隙の明らかな狭小化、関節裂隙の部分的な消失
骨頭、臼蓋縁の骨棘形成：＋
骨硬化像、骨嚢胞：＋

末期股関節症

広範な関節裂隙の消失
骨硬化像、骨嚢胞：＋
著名な骨棘形成：＋
臼底の二重像：＋
臼蓋の破壊：＋

変形性股関節症の障害程度の評価と治療成績の判定に用られている日本整形外科学会股関節機能判定基準表（JOAスコア）がある。

【治療】

手術療法

1.大腿骨骨切り術
内反骨切り術と外反骨切り術があるが、股関節の関節面の状況により判定する。転子間で楔型の骨片を切除して、骨頭を内方もしくは外方に倒すことにより、臼蓋と骨頭の適合性を向上させることができる。

2.臼蓋形成術
臼蓋形成不全のある臼蓋に移植骨を持ってきて新しい臼蓋を形成する。腸骨稜の骨片を持ってきて臼蓋上端につけると臼蓋と骨頭との接触面積が増大し、適合性が向上する。

3.人工関節置換術
人工股関節置換術（Total hip arthroplasty）は大腿骨側（金属製ステム）と、骨頭・骨盤側の金属製の寛骨臼（カップまたはアセタブラーシェル）との間に、高分子ポリエチレン製のインサート（ポリエチレンライナーとも呼ぶ）を組み合わせた構造になっている。この方法を踏襲したソケット側、ステム側ともにセメント固定を用いるセメント使用THAが広く用いられるようになった。一方、骨セメントを用いず金属表面を加工することによって固定しようとするセメント非使用型人工股関節の開発が進んだ。どちらも、末期の股関節症で疼痛が強く可動域制限が著しい症例が適応となる。
人工股関節は、関節の動きにより脱臼する場合がある。股関節周囲筋（外旋6筋を含む）の筋力が発揮され、関節が安定するまでは、日常生活動作や姿勢に注意を要する。
人工股関節の脱臼には、前方脱臼と後方脱臼がある。いずれも、臼蓋側のカップの縁に大腿骨ステムの一部が接触し、テコの作用より生じる。手術方（進襲方）や人工関節の設置具合、また、患者さんの骨格や筋力などによって脱臼しやすい方向が異なる。

4.股関節固定術
人工股関節置換術は人工関節が20年前後しかもたない。そのため、緩みや磨耗により脱臼しやすくなってしまう。そのために、人工股関節置換術は60歳以上が適応とされている。しかし、先天性の股関節疾患が背景にある症例では、
変形の進行が早く若年期での重度変形も珍しくない。そのため、関節を固定することで無痛性と固定性を得ることができる股関節固定術が行われる事がある。しかし、字のごとく股関節を固定するため関節可動域制限は著明で日常生活動作に不憫さを感じることもある。