『災害は 忘れた頃にやってくる』

237 『災害は 忘れた頃にやってくる』 sage 2009/01/05(月) 22:28:24 ID:o6Ivfjzr
リクオ嫉妬乙。
何でだろう、今まで自分の中ではなぜかリクオってあんまり嫉妬するってイメージが沸かなかったなあ。
そう思って書いてみました。


『災害は 忘れた頃にやってくる』


「今日は色々話し聞かせてもろて、ありがとな」
「ううんいいよ。また今度聞きたいことあったらいつでも聞いて。
でもこれから帰るの?もう暗いし、泊まっていったら?」
「ええよ。このくらいやったら大したことあらへん。ウチかて身を守るくらい訳ないんやから」
「そう?じゃ気をつけて帰ってね。また明日」


「さて、お風呂に入ろうかな…?(カサリ) なにこれ?葉っぱ??何でこんなトコに?
まあいいや」

ひらり

―――その夜―――

カサ、カサカサッ…ムクムク ごそごそ…


チュンチュン、ピチチ…

「ふあ〜あ。よく寝た…(もぞもぞ) ん…?な、なにこれーーー!!?」



最近、カナちゃんの様子が変だ。
といっても体調が悪そうにしている訳ではない。ただ、なんというか…

朝会っても、妙に後ろを見てそわそわしていたり
休み時間になるたびに図書館に行って、何か調べ物をしていたり
帰りも清十字団の集まりにも参加しないで、急いで帰ったり
今日なんて朝遅刻しそうな時間に慌ててやって来た。あの時間にきっちりとしたカナちゃんが?

「あのさ、カナちゃん最近どうかしたの?」
いくらなんでもこれは変だろうと思って聞いてみた。
「え?…ううん、別に何にもないよ。リクオ君」
案の定、正直には言ってくれなかった。
こっちも最近、四国の奴らのことでいろいろあってあまり会話も出来なかったけど、なにか悩んでることでもあるのかもしれない。


次の授業中

「あ…!」

と言うなりカナちゃんが立ち上がって、「すみません先生。…具合悪いので保健室行かせてください」
と言って教室を出ていってしまった。さっきまでなんでもない顔で窓を見てたじゃないか。あやしい。
「すみませんボクも!」
こっちも慌てて後を追って出た。後ろから皆の囃す声がしたけど気にしない。

廊下に出てもカナちゃんの姿はやっぱりなかった。そんなに急いで何処に行ったんだろう?
さっきまで窓の外を見てて、急に顔色変えたんだから…中庭に行ってみよう。

正直、女の子の悩み事なんて相談されてもわかんないかもしれないし、立ち入っちゃいけないのかもしれない…。でも、気になる。




中庭に近づくとカナちゃんの声がした。やっぱりここでよかったみたいだ。
でもなんだろ、なんか微かだけど他の気配もするような…これ、まさか…妖気!?

「キャッ、やだちょっと!やめてっ!」

ハッとして駆け出した。「カナちゃん!!」
バッ、と中庭に飛びこんだ瞬間。


「きゃっ!も、もう、やめてってたら…くすぐったいって…!―――リクオ君!?なんでここに!?」

―――――――――………それ、こっちのセリフ…。

見た瞬間こっちの頭を真っ白にしてくれた光景とは、カナちゃんが白い小犬を一匹抱えて、犬に顔を舐められているといったもの。
街角であれば微笑ましく見られる光景だろうし、学校内であっても少々問題はあるが、動物が迷い込むなどないことではない。
しかしボクがじっと見れば別の光景も見えてくる。

あろうことか、高校生くらいの男子がカナちゃんをすっぽり抱きかかえ、顔を舐めている。
しかもその顔にはごく最近、非常によろしくない状況で見覚えがある。

「い…犬神…?」
だとか言ってたような…うろ覚えだったけど。こないだ学校に潜入してきて、自分の頭に討たれてた奴じゃないか!?
「なんで…ここに…?」
呆然としたまま呟けば、自分への質問と思ったのかカナちゃんが話し出した。

「えっと、こないだね、…なんでかしらないけどいきなり私の部屋にいたんだ、このコ…。そのまま懐いてくれちゃって、お父さん達も飼っていいって
言ってくれたから、こないだから世話してたんだけど…。このコどういう訳か、いつも私の後についてくるのよ…」

それでこないだから様子がおかしかったのか…。最初の疑問は解けたけど、また大きな疑問が出てくる。

「あの…リクオ君、怒ってる?なんかすごく恐い顔してるけど…」
「…別に」
今までカナちゃん相手に出したこともないくらい低い声が出てたと思う。でも怒ってるとしたらカナちゃんにじゃなくて自分にだ。
あいつらとの事はあれで解決したとばかり思ってたけど。まさか、こんなことになってたなんて。

「カナちゃん、そいつに…何かされなかった?」
「え?…うーんと、別に…?いつも顔舐めてくるんだけど、小犬ってこういうものじゃなかった?」

じゃあ、何も悪さなんてしてないんだろうか?…ホントに、ただ犬としているだけ?

「そうだなあ…一緒にお風呂入るとき、いつも暴れるから毛を洗うのはちょっと大変かなー?でもね、噛み付いたりはしないんだよ。
トイレの時までついてくるのはさすがに困ったけどねー。まあ廊下の隅で待ってるし。
私が寝るときもいつも布団に入ってくるんだよね…温かいから別にいいんだけど」

…何ですと?

「ん?なに?クーちゃん」
こっちばかり相手しているのが気に入らなかったのか、犬神…らしき犬がカナちゃんにぺったり擦り寄ってきた。
「くー、ちゃん…?」
「このコの名前。いつもクンクン鳴いてるから」
ひょいっと犬を抱きかかえて言うカナちゃん。こっちビジョンではでかい男に懐かれてるように見えるんだけどねっ!!

すん、と鼻を鳴らしてカナちゃんに飛びつく犬。

「っ!!!!!!??」

カナちゃんの柔らかそうな唇にぎゅーっと自分の口を押し付けてご満悦、な表情を見せてやがった。…あ、あの野郎…っ!!
あの時ちょっと気の毒かも、なんて思うんじゃなかった!!




「こ、こら!いきなり何するのよ!?…あれ、リクオ君?」



一目散に屋敷に帰り、そのまま奥へとひた走る。目的は一番奥の座敷牢。

「やあリクオ君、今度はな…ひでぶっっ!!?…な、いきなり何をするんだ君は!?」

とりあえずスカシ面を一発ぶちかましてもまだ収まらない。ええい、心を何に例えよう!!

「…一つ教えてもらおうか…?犬神の完っっ全な消し方って奴を…!!」
「は…?犬神?アイツがどうかした…あべばっ!!」
「あーリクオ様、ほどほどにして下さいね。まだ尋問が終わってませんから」

まったく、コイツが中途半端な殺(ヤ)り方したせいでこんな羽目に…!

ボクだってなあ、まだそんなことしたことないんだよっ!!!



―――その夜―――

「どうしたんだろうね?今日のリクオ君…」

犬相手では答える声もなく、そのまま寝付いた。


もそもそもそ


ハア、ハア…

肌に直接熱い息が掛かる
反対に、肩には寒い空気と硬い感触を感じて目を覚ました。

「…ん…?」

目を開ければ、闇にぎらぎらと輝く二つの目

「ひっ!?」

ぬらぬらとした感触を胸元に感じる。肌に掛かる、はあ、という息に獣独特の饐えた臭いを感じて身震いした。
布を通して硬く鋭い牙の感触を感じてガタガタと震えだした。…嫌!食べられる!?

ガフゥ びりびりぃっ!

恐怖に声も出せず、指一本動かせない身体から、衣服がいともたやすく剥ぎ取られていく。
布地に擦られた以外、痛みもないが、下手に動けばどうされるかわからない。

ざらり、と舌が肌を舐めあげる感触。ばさばさとした体毛の感触。

不意に、秘所に濡れた、熱く硬い凶暴な感触。


「い、や…!いやあああああああああああああぁっっ!!!!」








なんてことも考えないではなかったのだが。
少なくとも、今現在そんなことはできない。


あの日、玉章によって幾枚もの木の葉に散らされた身体は、ただ一枚のみが己の魂を乗せて生き残った。
その葉から、幸運にも再生が叶ったのだ。

この地はさすが奴良組が長年居を構えてきただけあるのか、霊気も妖気も濃い。
その気を少しずつ摂り入れて、何とか一匹の白い小犬に化生した。

とはいえ、ここでこれ以上の変化はできそうもない。
たまたまオレを乗せた葉を受け止めてくれたのは、どうもリクオの友人の少女だったらしい。
気のいい少女で、そのままオレをこまめに面倒見てくれた。
これでは「犬神」特有の『恨みで強くなる』特性は生かせそうもない。恨みようがないではないか。

玉章に捨てられ、このまま惨めに散るだけかと思ったオレだが、人生どう転ぶかわからない。
何ができるわけでもないが、取り合えず今はこの温もりが心地いい。













「…へえー…。あの、犬神がね…」
「当然、何とかする方法くらいあるんだろうな?」
「まあね。…ボクを差し置いてそんな暮らしを満喫してるとは、いい度胸…
七転八倒して悶え苦しみぬいた果てに、殺してくださいと懇願するような死に様を与えてあげようか…」


日ざさぬ闇の最奥に「クックックックックッ」という声が響く。…お前ら、ドSぶりでも似た者同士かよ。
せっかく楽しい思いしてるのに犬神哀れ。懲りずにまた逝って来いよ?


ひとまずEND



2009年01月10日(土) 21:09:42 Modified by ID:1qcLIZH20g




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