花開院兄妹〜宵闇桜if〜 分岐b

919 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】竜二視点:2012/03/24(土) 18:35:08.78 ID:+EF5TZPv

《分岐選択》
分岐a:竜二は鼻で笑った。
分岐b:竜二は眉を顰めた。


>>竜二は眉を顰めた。

白狐の化身は、手にした緋扇をパチリと打ち鳴らす。
一陣の風が吹いて、その姿も狐も宙にかき消えた。

――桜の花の…咲く頃に…。

最後にその声だけが、響いて残った。


羽衣狐は地獄に落ちた。しかし、それでも――
狐の呪いは解けてはいなかったのだと、竜二は理解した。

「――…未練、か…」

920 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】竜二視点:2012/03/24(土) 18:36:24.68 ID:+EF5TZPv
白狐が消えた庭を睨み、ふっと、口元を歪めて嗤う。
早世の呪われた生まれに宿命づけられて“そんなモノのないように”生きてきた。
ただ、羽衣狐を討ち取り、呪いが解ける淡い期待をしなかった訳ではない。
その“淡い期待”の分だけ、自暴自棄になる自分を抑える術に苦労した。
――他に選択肢がなかったと言えば、嘘になる。

妹との禁じられた関係に踏み出したのは、その、しばらく後のコトだ。
人倫に外れ、妹の体を――会得した陰陽術で煽り――抱いて。
想いを寄せ。
未練を断ち。
そうして――己の子を孕ませようとした。
――らしくもない、身勝手な我儘を通した――。

“房中術”と言って、ゆらを寝所に連れ込んだはいいが、
ゆらは最初から体位も、作法も、所作も違う事に気づいていない。
これでは、真似事でも“気”の遣り取りは見込めそうもない。
早々にそれは諦め、ただ――ゆらの温もりと情事を愉しむコトに専念しようとした。


「――これも“愛”だぞ。ゆら?」

嘘のふりをして、妹を嬲るのはいつものコトだ。

「…そんなん、嘘や…」

ゆらは体の下から見上げ、恨めしげに、上気した赤い唇を震わせる。

妹を抱いて沸き上がる、この喩えようもない切なさ。
それは愛ではなく――ただの性欲。あるいは未練――。
そうなのかも知れない。

「ああ、そうだな。――そう、思っておけ」

ゆらの首筋から耳の付け根に、唇を這わせる。ピクリと反応を見せる。
吐き出す吐息は甘い。

921 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】竜二視点:2012/03/24(土) 18:39:44.73 ID:+EF5TZPv
生命力溢れる少女の生きた匂いを愉しむ。
ゆらは、逃げない。逃れる素振りすら見せない。
ただ竜二に喰われるまま。なすがまま。

しなやかでありながら、幼さを残すふっくらと柔らかな体。
赤く勃起した花の蕾のような乳首を口に含む。
嘘吐きな舌先で飴のように大切に舐め、啜りとる。
そのカラダを煽れば、妹は濡れて、竜二を求めてくる――。


「――ゆら。オレと一緒に死ぬか?」

ゆらの首を絞めるように、ゆらの喉下に両手を置いた。
力を込めれば容易く折れそうなほど、頼りなく白く細い首。
力はまだ、入れていない。

「――竜二兄ちゃんッ…!?」

ゆらの大きな瞳が、狂気に触れたオレを映す。
力を込めたっていい。
そうすれば、妹(ゆら)は、もう《誰のもの》にもならない。
分家の三人から婿を選ぶことも、半妖怪のヤクザ者に誑かされることも――ない。

指に軽く――力を込める。

××村へ行く前に、オレの死期が近いらしいと報告すると、
事務方は早々に、ゆらと分家の《儀式》を用意しやがった。
狐の呪いが続いているのならば本家のオレのみならず、これからも分家の若い男子は――死ぬ。
才ある当主候補の血を絶やすわけにはいかないと判断したのだろう。
そして当主代理ゆら、その後見人を、どこの流派がするか決めるためでもある。
そんな都合で、ゆらはまだ中坊のガキだってのに、何人もの男と寝るハメになった。
――だが。
ゆらは、まだ伴侶を。一人の男を決めかねている。
当然だ。こいつはまだガキなんだから。
こんなにいろいろ開発し調教してやっても、まだ色事にも、自分自身の気持ちにも疎い――。
まったく。お兄ちゃんは心配しちゃうよ。ゆら?

――思わず、一緒に連れて逝ってしまいたくなるくらい…。

922 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】竜二視点:2012/03/24(土) 18:42:18.34 ID:+EF5TZPv
ゆらの首を絞める両手に力を、込める――妹の首を絞めながらくちづけた。

「――なんや、竜二兄ちゃんらし…ないな。なにがあったん?」

呼吸が一瞬止まる。
首を絞められた状態のゆらが心配そうに、オレを見上げていた。
たった今。オレに殺されかけてるっていうのに、それすらわからないのか?
このバカは。

「――お兄ちゃん?」

――気が、抜けた…。

同時に、通り魔的な衝動からも脱した。
指を、ゆらの首からもぎ離す。

「――なんでもない。死にたくなる程、疲れてたんだろ…」

自己嫌悪を悟られまいと顔を背けた。

「――わかった。やる…」
「ん?」
「房中術」

ゆらの両手が、オレの肩に添えられる。

「――確か“房中術”はうちが“上”にならんと、いかんかったはずやな?」
「――なんだ。知ってたのか」
「竜二兄ちゃん。…疲れてるんやろ?…なら、うちが“気”分けたる…」

反対に竜二を押し倒し、竜二の上に跨る。

竜二の胸に両手を置いて、愛しげに愛撫する。
“気”を高めて、練って、竜二のモノと絡めて…。


下から裸の妹を見上げ、騎乗され、妖しく跳ね蠢く様は、
そそるモノがあると同時に、なんとなく屈辱的でもあり。

結局、最後は竜二がゆらを下に組み敷いて抱いた。


障子に月影。
かすかに舞い散る桜の花。

――桜。
 
もし桜が咲く頃までに――晴明を――鵺を倒せていたなら、
オレは生き延びるコトができたんだろうか?

未練がましく。浅ましい。自己憐憫の情。


923 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】竜二視点:2012/03/24(土) 18:44:46.86 ID:+EF5TZPv
妹のゆらを手折った時点で、オレは外道になった。
――犬の子のように兄妹で交わり子を成す畜生道に――身を落とした。
花開院家は、才ある血族との血族婚を繰り返してきた血筋。
旧き慣習に云う『母系』にも容易く成り得る。
複数の男と恋をし、交わり、その子を産み、家と血統を守る。
古くは血を分けた腹違いの兄妹の婚姻や子が許されたなど記録にあり、噂には聞いていた。
あの《儀式》や仕来たりがある以上、そうなる可能性も高かっただろう。
だが、同母の兄妹の例は――ない。
表向きのコトだったとしても、許されてはいない。
近親婚を繰り返してきた血族だけに、そう成りやすい傾向があるとしても。
花開院本家の命脈は、主に本家男子の血によってではなく、
実質的に本家女子と、分家男子の間で繋がれているのだから。
呪いの予感に死を覚悟したからなど――言い訳にならない。
こうして竜二だけではなく、花開院本家の男子は何人も何人も、短い命を散らせてきたのだろう。


眠るゆらの黒髪に触れる。
片手でも掴みやすい、小さな頭だ。

――愛してる。

触れれば溶けて消える雪のような儚く淡い――嘘。

――愛してる。ゆら。

囁きながら。
儚い雪のような嘘と――罪を――積み重ねてゆく。

いずれ、終わりが来ると知っていて――。


『――覚えておけよ? ゆら。オレが生きている限り、お前は一生、オレの玩具だ…』

――だから、“オレが死んだなら、お前は自由だ”。
そう、ちゃんとこいつは汲み取れるだろうか?



924 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】:2012/03/24(土) 18:46:12.01 ID:+EF5TZPv

◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ 


「――…竜二…兄ちゃん…?」

ゆらが小さく囁く。
(…どうして、起きてくれへんの…?)
ゆらに、云いようのない不安が広がる。
竜二の体を強く揺さぶってみる。

竜二の皮肉気な笑みが、その黒い外套を羽織る着流しの後ろ姿が、
ゆらの傍から遠ざかる幻を見た。

『――ゆら、“お前は”幸せになれよ?』

あれは――…?


「嘘や――竜二兄ちゃんッ…!?」

温かかった体が――温もりを失っていく。

「…いやや。竜二兄ちゃん…。うちを一人にせんといて――!!」



京都に桜の花の咲く、その夜。
妹の腕に抱かれて。
静かに――静かに、花開院竜二は目覚めぬ眠りについた。




穏やかな春の日差しの下。
艶やかな桜の樹を目にして。

ゆらが泣いていた。
膝を抱えて、ぽろぽろと大粒の涙を零して。
竜二を失った悲しみに。
――泣いていた。

滅多に着ぬ黒衣は、竜二を思い出して。
小さな白い包みになってしまった竜二を抱えて。
膝を抱えて――泣いていた。

空が高く青かった。天気も陽気も、良くて。
それが返って――恨めしかった。

妹のゆらが、竜二の子を産むのは、それからしばらく後のコトになる。



《終》


925 :【花開院兄妹〜宵闇桜if】:2012/03/24(土) 18:48:22.44 ID:+EF5TZPv

《エピローグ》


――数ヶ月後。

花開院ゆらは、花開院の息のかかった京都の大病院にいた。

「入院したって聞いてびっくりしたよ。花開院さん」

東京の浮世絵町で同級生だったリクオと、その身内が見舞いに訪れていた。

「ありがとう、奴良くん。――及川さんは?」

いつもリクオの隣にいる護衛の名前を問うてみる。

「花開院さんの体を冷やすと悪いからって、下で待たせてる。――赤ちゃん、できたんだ」

「――うん」

白いベッドの上で、ゆらはそっと、新たな命を孕んだ大きな腹部を押さえる。
彼は驚きながらも祝福する。

「おめでとう。……相手は誰って、聞いていい?」

ゆらは、ゆっくりと首を横に振る。

「――ないしょや…」
「ボクの……知ってる人?」
「…せやな。知ってる…」

静かな笑顔で、ゆらは応えた。
子どもの父親の名を、軽々しく他人に告げるコトはできない。
例え、人の常識を越えた存在である半妖怪の奴良くんに対しても――。

たくさん、たくさん泣いたせいで枯れてしまったのか。涙は、もう出ない。


「…花開院さん…」
「うん?」
「なんだか、すごく綺麗になったね…。…すごく、神々しいというか。
…なに言ってんだろ。ボク。…アハハ」

リクオが茶色の髪を掻いて照れる。

「…うん。ありがとな。…奴良くん」


ゆらを愛してくれた――いつ失うかわからない――大切な人たち、その命の欠片。
失った大事な人の――その形見。

「うちの赤ちゃん…」

体内にその鼓動を感じて、ゆらは美しい聖母のように微笑んだ――。



エピローグ《終》
2012年03月26日(月) 21:13:57 Modified by ID:P3EJOw3Z0Q




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