アレックスとルーシー

初出スレ:5代目588〜

属性:黒人男性×白人女子





アメリカ、某州。
朝はまだ空けたばかりで、聞こえるのは鳥の囀りと、
窓から見える下の道路を時折車の通る音だけだ。
3階の窓からは向かい側の同じようなアパートの窓が見える。
ここは町の中でも店が密集している地区だったが、
少し目線を上げればそう遠くは無い山々が見えた。
住もうと思えば、子供が一人居る家族は住めるくらいの広さで、
風呂やリビング、キッチンを除けば2部屋あったが、
そのうちベッドが唯一あるほうの部屋にルーシーは居た。
仄かに外の明かりで明るくなっている部屋の中、ルーシーは既に目覚め、
肘を付いて身を起こしていた。
そして、ベッドを共有している相手の男の寝顔を見下ろしている。
二人は見ての通り、昨夜また情事を供にしていた・・・などということはまったくなく、
今までの数年間そうしてきたように、ベッドを共有して一晩熟睡していただけだった。
男は四十過ぎにも見えた。
それに比べ、ルーシーはまだ10代半ばに届くか届かないくらいに見えた。
ルーシーは、自らの顔にかかる金髪を後ろにかきあげると、
こちらに背を向けて寝ている男のランニングシャツから覗く肩を見つめた。
その黒い肌は、二人が親子でもないということを物語っていた。

筋肉がでこぼこと見えるその上には肌が張っていたが、
例えるなら像の肌のように少したるみ、ざらざらとしている。
数年前はこんな風ではなかったはずだ、とルーシーは顔をしかめた。
もう少し張りがあり、いかにも鍛えている風だったのに。
その逞しい身体に、初めて男の人との体格の違いを意識したものだ。
そう意識してみてみれば、短く刈られた髪にも白いものが混じり始めている。
思えば、年中顔を覆っている無精ひげはとっくに砂をまいたように灰色だった。
白い腕を持ち上げ、その肩に触れてみると、すこし硬い皮膚の感触がした。
肩のラインを辿ってみると、その下のわりと発達した筋肉やら血流やらが伝わる気がする。
―うん、まあこれはこれで悪くないか。
ルーシーはあっさりと考え直し、また両肘を突いた。
一方アレックスは触られたというのに、少しも目を覚ましていなかった。
まったく、それでも元警察か。
ルーシーは呆れたように溜息をつく。
アレックスは、怪我のために何年か前に引退したばかりだった。
一緒に生活していてもそのことにあまり気付かないが、
雨の日などには痛むとこぼしている。
どうやら警察の中でも危険な職種だったようで、もう続けることはできないらしい。
その分給料は良かったようなので、今もあまり生活には困っていない。
―私も一応アルバイトしているし。
でも、そのお金を生活費だといって渡そうとしても
アレックスは受け取ってくれない。
それでなくとも、働くこともできなかった小さい頃から世話になっているのに。
そりゃあ一緒に暮らし始めた時は、
生活費の代わりに私が家事をするを言う約束だったけど。
家族でもないのに、このままでいいものか。
…家族になればいんだよね。
ルーシーは、未だに寝息を立てているアレックスの横顔の上にかがみこむ。

結婚、すればいいんだ。

ルーシーは、アレックスの耳に口を近づけた。

「…ルーシー?」
「おはよう、アレックス」
一度口を離し、挨拶をしてからもう一回ぱくりと耳を口に含む。
「なんだ…犬かと思った。今何時だ?」
アレックスが寝返りを打ったので、ルーシーは仕方なく顔を離す。
「なんだよ、まだ6時前かよ。もう少し寝てろよ」
そう言ってアレックスは眠そうに眼を閉じると、また眠りに落ちたようだった。
…このやろー。
結構分かりやすくアプローチを仕掛けたのに、犬とはなんだ。
直ぐ寝るとはなんだ。というかうちに犬はいない。

―結構前からアプローチしているつもりなんだけど。

はあ、とルーシーは溜息をつく。
やっぱりはっきり言わないと駄目かなあ。
私だって数年前に自分の気持ちを意識したばかりなのに。
仕方ない。寝る。
偶然眼が覚めたから起きていられるかと思ったけど、やっぱり眠い。
ルーシーがベッドに潜り込みアレックスの胸元に身を寄せると、
その腕が持ち上げられ、抱え込むようにルーシーの頭上の枕に置かれた。
―また、あの時みたいに抱きしめてくれないだろうか。
布越しのアレックスの体温が、心地よかった。

ルーシーの昔いた孤児院は、何年も前に潰れた。
同じ孤児院出身という共通点しかなかったアレックスが、
何故引き取ってくれたのかは未だに知らない。




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2011年03月24日(木) 18:38:24 Modified by ID:Bo5P9jtb2Q




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