先生とアヒルの子

初出スレ:6代目126

属性:グレゴリー・ハウス×アリソン・キャメロン




海外ドラマ『Dr.HOUSE』の二次創作です

注意点
  • カップリング→ハウス×キャメロン(グレゴリー・ハウス×アリソン・キャメロン)
  • 全体的にシーズン1ネタバレ
  • シーズン1第20話のデート後
  • 無駄に長い

以上、嫌な方はスルーでお願いします




帰る仕度をしようと自分のオフィスの扉を開けると、まるでその部屋の主であるかのようにその男は居座っていた。
行儀悪く机に足を乗せながらゲームをしていた彼は、部屋に戻ってきた本来の主である自分に適当な視線を投げかけただけで、再びゲーム画面に視線を戻した。
何とか重要そうな書類が無事だったことに安堵しつつ、未だに出ていく気配のない男にウィルソンは溜め息をついた。
「ハウス」
はっきりとやや強い口調で男の名を呼んだ。
だが、呼ばれた男は顔を上げることもせずに、何だ、とぶっきらぼうに返すだけだった。



その不機嫌そうな声色からは、男の苛立ちや疲れが感じられた。
それが何に対して向けられているものなのか、ウィルソンにはある程度予想はついていたが、敢えて彼に尋ねた。
「どうした、何かあったのか?」
そう尋ねても、別に何でもない、と再び不機嫌な声が返ってくる。
それは暗に放っておいてくれ、と言っているようだった。
「ここだったら、口煩いカディから逃れられるからだ」
「君の今日の仕事はもう終わったんだろ?だったら、隠れる必要もないはずだ」
ふう、と二度目の大きな溜め息をつくと、ウィルソンは少し躊躇いがちに話を切り出した。
「…キャメロンに何を言ったんだ?彼女の眼が赤く腫れてたってフォアマンやチェイスが気にしてたぞ」
そう言った途端、今にも舌打ちが聞こえてきそうなほど、ハウスの顔つきが険しいものになった。
ゲーム機を操作する手は止まり、画面にはゲームオーバーの文字とそれを知らせる音楽が鳴り始める。



嫌な沈黙が、しばらく部屋を包み込んだ。
「……俺はただ真実を言っただけだ」
沈黙を破った彼の言葉に、言った彼自身が嫌悪するようにさらに顔をしかめた。
ぐっと彼の拳が握り締められるのが眼に入った。
「どんな真実なんだ?」
「……」
彼から答えはこない。
まあ、ここまでは予測済みだ。
「言ったこと後悔してるのか?」
少し驚いたようにハウスの瞳が大きくなり、口からは唸るような言葉にならない声が洩れた。
この偏屈な男が、こういった行動をとるのは実に珍しいことで、予想外のことだ。しかし、その予想外の行動を嬉しく感じるのも事実だ。
「僕に何かを訊かなくたって、もう答えはわかっているんだろ」
手早く自分の持ち物をかき集め、帰り仕度を済ますと、まだ何か考え込んでいる顔のハウスと視線が合った。
「どうするかは君次第だ」
そう言い残し、彼の肩を軽く叩いてから、部屋を後にした。
幸運を――その言葉を無言で親友に向けながら、ウィルソンは一人廊下を歩いていった。
きっとあの二人なら上手くいく。そうなったら、今度は自分があいつを存分にからかってやろう。
自然と頬が緩むのを感じながら、ウィルソンは病院を出ていった。


ウィルソンのオフィスに一人残されたハウスは、仕方なく立てかけておいた杖を手にとり、ゆっくりと部屋を出ていった。
自身も帰り仕度をするべく、足を引き摺るようにして自分のオフィスへと向かう。普段よりも足の痛みや重みが強く感じられた。


自分のオフィスの手前まで来て、はたとハウスの歩みが止まった。
既に医師や看護師のほとんどが帰宅し、廊下も各部屋も暗くなっている中、何故だか自分のオフィスだけがぼんやりと明かりがついている。
不審に思いながら中を覗くと、そこには自分の悩みの原因である女の姿が見えた。
自分に背を向ける形で机で作業をしているため、彼女はこちらには気付いていないようだ。
小さなその背中をしばらく見詰めた後、こちらの存在をわざと知らせるように音を立てて扉を開けた。
びくり、とキャメロンの身体が小さく跳ねたのを、ハウスは見逃さなかった。
しかし、こちらの存在に気付いたにも関わらず、彼女は振り向くことも声をかけてくることもなかった。
「こんな時間まで何をしてるんだ?」
「先生の書類の整理をしてるんです」
依然として背を向けたまま、彼女が返事をする。
紙にペンを走らせる音に混じって発せられた声は、微かに震えているように聞こえた。


嫌な予感がした。
「おい、こっちを向いたらどうなんだ」
提案と言うよりは、仕事時の指示を出すような命令口調で言うと、ペンを走らせる音がぴたりと止まった。
やがて、やや躊躇いがちに彼女が椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに振り返った。


形の整った綺麗な顔は、酷い疲れに覆われていた。しかし、それよりも、赤く腫れ、まだ涙の跡が残る瞳がいやでも眼に入る。
身体中が軋んだような音を立て、胸を鋭い痛みが貫いた。息が詰まり、心臓が止まってしまったかのような錯覚を覚えた。
自分とは違う柔らかな温もりを感じて、再び鼓動が蘇ったような気がした。


ふと我に返った時には、手に持っていた杖は床に落ち、自分の腕の中には先程まで目の前に立っていたはずの彼女がいた。
激しい痛みを感じた後の記憶が曖昧だが、この状況から察するに衝動的に彼女を抱き締めたことは間違いなかった。
「……せん、せい…?」
自分自身もどうしていいかわからなくなっていると、腕の中にいるキャメロンがおそるおそる声を上げた。それに応えようと、ハウスはゆっくりと彼女の顔を覗き込んだ。
驚きと戸惑いと自分と同じような、どうしたらいいかわからないといった表情が、そこにはあった。何かを言おうとして彼女の口が開いたかと思うと、すぐに閉じられる。ぱくぱくと意味のない動作を、赤い唇が繰り返した。



やけにその赤い色が気になって、漠然と触れてみたくなった。
無骨で少し皺のよった手が頬に触れると、ただでさえ固くなっていたキャメロンの身体が、更に強張った。それをいいことに、男の手はじっくりと頬の感触を確かめるように動いてから、目的の唇に指を伸ばした。
触れた頬も唇も驚くくらい柔らかく、指で軽く押せばふっくらとした弾力が指先に伝わってくる。
うまそうだな――その言葉が頭の中を駆け巡ると同時に、何かに強く惹き付けられるようにハウスは顔を近付けた。
「……っ!?ぃ、いや…っ!」
互いの息がかかり、唇同士が触れ合いそうな距離になった途端、キャメロンが急に抵抗を始めた。
不意の出来事にハウスの腕が緩むと、その隙をついて、キャメロンはよろけながら後退りした。
衝撃でぐらつく身体を、杖の代わりに手近にあった椅子を掴んで支え、彼女に視線を戻す。
酷く怯え、傷付いた顔をしていた。


再び身を引き裂かれるような痛みが、ハウスを襲い始めた。
「…どうして…っ」
絞り出された悲痛な声が空気を揺るがした。
身体中の痛みと普段から悩まされている足の痛みが、どんどん激しくなっていく。


「私のこの想いが勘違いだって言ったのはあなたよ。だから、私は…この想いを抑えようとしてるのに…っこんな…」
次々と新しい涙が浮かんでは、柔らかい頬を伝い落ちていく。耐えきれなくなったように、彼女の声に嗚咽が混じり始めた。
「…こんな、同情なんてっ」
彼女の言葉を否定しようとしたのか、涙を拭おうとしたのかははっきりしないが、彼女のもとへ行こうとおもいっきり身体を進めた。
だが、足の激痛がそれを許さず、身体は鈍い音を立てて床に崩れ落ちてしまう。
「先生!」
いきなりの出来事に、キャメロンが心配そうに慌てて彼に駆け寄った。
気遣う華奢な手を大きな手が掴んだかと思うと、ぐいと強く引き寄せた。
全く抵抗もできずに、キャメロンはハウスの胸元に倒れ込み、きつく抱き留められる。
「お前は、俺が同情するような人間だと思うのか?」
逃げ出そうと再び抵抗し始めた彼女の耳許で、そう囁くと、一瞬抵抗が止んだ。
これ以上抵抗されないよう、細い手首を強く握り締める。
おそらく、白い肌に目立つ痣が残ってしまうだろうが、それを気にしている余裕はハウスにはなかった。
「…じゃあ、なん、で…?」
キャメロンの言葉に、今度はハウスの身体が硬直した。



何かが身体の奥から這い上がり、言葉となって発しようとするが、喉に引っ掛かって出てこない。
その何かが唇から零れてしまうのを、ハウスは恐れた。
自分の気持ちを認めるのも、それを言葉にして言うのも酷く恐ろしかった。
「……何で俺なんだ?」
喉につっかえていた何かの代わりに、彼女にそう尋ねた。
涙で濡れた瞳が、ゆっくりとこちらを見詰める。
「俺は嫌われることはあっても、好かれるようなことはない人間だ。年だって二倍は離れてる。それに、俺は……"傷物"だ」
最後の台詞に、こちらを見詰めていた瞳がゆらりと揺れた。
自分が彼女に向けた残酷な言葉を思い出しているのだろう。
透明な雫が止まることなく流れ落ち、嗚咽が零れないよう噛み締められた唇が痛々しい。
「くそっ…!」
彼女ではなく、自分に腹が立ち、思わず悪態をついた。
もう、彼女を傷付けたくなかった。


怯える彼女を無視して、頬に手を添えると、すっかり腫れてしまった瞼に唇を寄せた。
どうにかして涙を止めようと、必死に唇で涙を掬う。
塩辛いはずの液体は、彼女のものだと思うと、何故だか甘く感じられた。
「せん、せ…ぃ」
もはや彼女が抵抗することはなかった。涙も嗚咽も徐々に治まっていくようだった。
「キャメロン…」
彼女の瞳が、本来の青とも緑ともつかない色で、不安気に揺れている。
その瞳を、ハウスの深い青色の瞳が射抜くように捕らえた。
互いの視線を外すことなく、ハウスはそっと柔らかい唇に己の唇を重ねた。
ただ触れ合うだけの単純なキスなのに、心は不思議と満たされていく。
触れた唇から、自分の想いが少しでも伝わればいい、とらしくないことを思った。


その温もりを惜しみながら、ハウスは静かに唇を離した。
すると、ゆったりとキャメロンの唇が弧を描いた。
顔を覗き込むと、普段の彼女が見せる温かく優しい微笑みが浮かんでいた。
「先生…」
男よりも小さな手が、無精髭の生えた頬に触れる。
どちらともつかず、自然と二人の顔が近付き、再び唇同士が重なり合った。


綿飴――その単語が頭の中を掠めた。
ああ、彼女とモンスタートラックを見に行った時に食べた物だ。
ふっくらとした彼女の唇からは、あの時のような甘い味が感じられた。
ただ、綿飴と違う点は、いくら触れていても溶けてしまわないことだ。
熱を帯び始めた唇の表面を、ハウスの舌が形を確かめるように舐めた。
キャメロンの唇が微かに震えた後、促されるようにして小さく口が開く。すかさず、その隙間から男の舌が、女の口内へと侵入した。
「…ん」
唇同士の隙間から洩れた彼女の声に急かされるように、より深く舌を潜り込ませ、彼女の舌を絡め取る。
一瞬驚いたように舌が逃げたかと思うと、今度はおずおずと彼女の方から舌を差し出してきた。
ハウスは遠慮なくその舌を捕まえると、たっぷりと彼女の味を堪能する。綿飴よりも遥かに強い甘みが広がり、夢中になってその甘みを求めた。
「ふ、んぅ…!んん」
貪るような相手の動きに合わせて、彼の無精髭がキャメロンの肌をちくちくと刺激する。
擽ったさに顔を逸らそうとしても、後頭部に回された男の手がそれを許さない。
息苦しさに生理的に涙が浮かんだ。

頭の中が霞がかったようになってきたころ、ようやくハウスは唇を離した。
反射的にキャメロンは、新鮮な空気を必死に求める。
キャメロンの唇の端から顎にかけて伝う二人の混じり合った唾液を、ハウスの舌が掬い取った。
そのまま濡れた唇を舐めると、未だ呼吸が乱れたままの彼女に軽く口付ける。
「……ん…」
先程とは違う優しく甘い口付けに、キャメロンはうっとりと瞳を閉じた。
しかし、それも束の間のことで、ハウスの手が着ている衣服を脱がそうとする感覚に、キャメロンは驚いて顔を上げた。
「せ、先生!?」
ぴたり、と手の動きが止まったかと思うと、欲望に濡れた青い瞳が少し寂し気に見詰めてくる。
「……嫌か?」
「っそ、その…そうじゃなくて」
「苦手、なんだろ?」
「…え?」
「お喋りな部下がいて助かるよ」
その"お喋りな"同僚の顔が瞬時に頭をよぎり、キャメロンは大きく溜め息をついた。彼に話さなければよかったと、今更ながら後悔した。
「大丈夫だ。俺を信じろ」
それは常に彼女がしてきたことだ。

彼女なら自分を絶対に裏切らない、という確信がハウスにはあった。
「で、でも、こんなところで…」
まだ渋るキャメロンを尻目に、ハウスは床から立ち上がると、机の上に積まれていた書類の山を大きく薙ぎ払った。
紙の乾いた音とともに、無造作にたくさんの書類が床に散らばる。
「場所ならあるぞ」
今作ったばかりの机の上のスペースを、手で軽く叩きながら、ハウスが得意気に鼻を鳴らした。
その様子に観念したように、キャメロンは溜め息をつくと、床から静かに立ち上がった。
そのまま彼の方に近付き、座るよう促された机の隙間に腰掛ける。
ハウスの唇が、キャメロンの額や頬をなぞるようにして触れた後、再度唇に重ねられた。
最初は慈しむような軽い動きだった唇が、すぐに獣のような荒々しいものへと変わっていく。
しっかりと引き寄せるために彼女の後頭部に手を伸ばすと、固い髪留めが指に当たった。
一連の出来事で、すっかり乱れてしまっている彼女の髪に、その髪留めはもはや意味を成していない。
男の指が意味のない髪留めを外し、綺麗な長い髪に指をとおした。さらさらと指の間を流れていくそれは、手に心地よかった。

「ん…っは、ん……ん」
宥めるように頭を撫でる手とは反対に、唇の動きは緩むことがなく、再びキャメロンの頭がぼんやりとしていく。
服のボタンを外し始めた男の手のことも、気にならない様子だった。


「ん…は、ぁ…」
ハウスは一旦唇を離し、ボタンを外した彼女のシャツを脱がそうと手を伸ばした。キャメロンは腕を抜きやすいよう、ハウスを助ける形で大人しくその動作に従った。
「良い子だ」
子供をあやすような口調でそう言った男の顔には、満足気な笑みが浮かんでいた。
脱がしたシャツを適当に床に投げ、露になった白い肌に唇を寄せた。
首筋に鼻先を埋め、彼女の甘い香りを思いっきり吸い込む。酒に酔ったような感覚と身体中の血が沸き上がるような感覚がした。
誘われるまま白い肌に吸い付くと、赤い跡がくっきりと残る。それを何度か繰り返すだけでは飽き足らず、軽く歯を突き立てるようにして肌を辿った。
柔らかく瑞々しい彼女の肌は、自分とは全く正反対だった。
歯が肌を掠める度にぴくりぴくりと反応する仕草に、ハウスの中に愛しさと嗜虐心が込み上げてくる。

「…ぁっ」
不意をついて耳朶に甘噛みすると、彼女の口から可愛らしい声が零れた。
その声を出してしまったのが恥ずかしかったのか、キャメロンの頬が赤く染まる。
それに更に気をよくしたハウスは、キャメロンの胸元へと手を伸ばした。
微かな音を立ててホックが外れると、素早く下着が抜き取られ、乱雑な床へと落ちていく。
咄嗟にキャメロンの腕が胸を隠すように覆った。
「おい、隠すな」
邪魔をする彼女の腕を掴み、退かそうとするが、中々彼女も言うことをきかない。
どうしてそこまで頑なに拒否するのかがわからず、ほんの少しだけ不安になった。
「何故、そこまで隠すんだ?」
「……わ、私の胸…小さいから嫌なんです…」
突拍子もない言葉に、訳がわからなくなっていると、彼女がおずおずと話し始めた。
「だって、先生は普段からカディ先生の胸について言ってるし、読んでいる雑誌にだって……
私の胸はあんなに大きくないし、綺麗じゃないから、きっと…」
先生を失望させます、そう言おうと思ったら、余計に悲しくなった。
様子を窺おうと見上げると、何故だか彼はにやついている。
「大きさなんて見てみなきゃわからないだろう。その手を退けろ」
「でも…」
「いいから、退けるんだ」
少しばかり強い口調に、キャメロンは渋々手を下ろした。

何も覆い隠すものがなくなった乳房が、外気に晒される。
すかさずハウスの手が伸び、その膨らみに触れた。一瞬怯んだキャメロンを無視して、手はゆっくりと揉み始める。
大きな手にぴったりと膨らみが収まった。自分が思い描いていた通りの完璧な一致具合に、軽い感動すら覚える。
「綺麗だ」
素直に零れた感想に、彼女は驚いたようにこちらを見詰めた。
潰れてしまいそうなほど柔らかいそれを、傷付けないよう優しく揉むと、キャメロンの身体から力が抜けていくのがわかった。
しばらくその素晴らしい感触を堪能していると、ふと指に膨らみの突起が触れた。
「…ん…っ」
自然と洩れた声に、赤い頬を更に赤くしてキャメロンは顔を逸らした。
慌てて口を手で塞いだが、ハウスがその声を見逃すはずがなかった。
今度は、意識的に赤い突起に指が触れた。指の腹でからかうように撫でた後、器用に指の間に挟み込んだ。
既に硬くなっているそれを集中的に弄べば、塞いだ手の隙間から抑えた喘ぎが洩れる。
「声を抑えるな」
彼女の耳許で低く囁くと、こくりと喉が小さく動いた。
そして、ゆるゆると口を塞いでいた手が下げられていく。
その動作を確認すると、ハウスの指は離れ、代わりに唇が寄せられた。
そこに軽く口付けるように触れたかと思うと、おもむろに口に含んだ。

飴を食べる時のように、舌を絡ませて口内で転がせば、キャメロンから控えめな喘ぎが上がる。
「ん、ぁっ……ぁ、んんっ!」
ハウスの口が吸い付き、甘噛みする動きに変わると、華奢な身体が小さく跳ねた。
彼女の呼吸が乱れ、零れる喘ぎ声を抑えられなくなってきた頃、ハウスはようやく唇を離した。
解放された乳房は、男の唾液でいやらしく濡れていた。


ハウス自身も服を脱ごうと、服のボタンに手をかける。その手付きは、まるで今にもボタンが弾け飛びそうで、服も破りかねない勢いだった。
だが、ハウスにとってそんなことはどうでもよいことだった。目の前のキャメロンを抱きたいという欲求が彼の頭を支配していた。
まるで十代の若者みたいだ、とハウスは心の中で自嘲した。
乱暴にシャツが脱がされ、ハウスの上半身もまた外気に晒される。
キャメロンが何気なく視線を上げた時、飛び込んできた光景に思わず息を呑んだ。
年齢を感じさせない逞しい筋肉がそこにはあった。若々しいとまではいかなくても、無駄な肉がなく引き締まっている。
特に日頃から杖を使っているためか、肩から腕にかけての筋肉は素晴らしいものだった。

無意識にその逞しさに見惚れていると、再びハウスが覆い被さってきた。
「あの…先生、待って」
たちまちハウスの顔が不機嫌になり、行き場のない欲求が大きな溜め息となって出る。
「私も先生にしたいことがあるんです。少しの間、任せてくれませんか?」
拒絶ではないことを示すと、ハウスの表情が和らいだ。そして、キャメロンの言葉に、無言のまま頷いた。
ハウスの了承を得ると、キャメロンは彼を椅子に座るよう促した。
やや緊張した面持ちで、女の手が男の身体に触れる。
細い指が硬い筋肉をなぞり、その後を追うように柔らかな唇が落とされていく。
それが腹まで辿ると、躊躇いがちに白い指がズボンのベルトを外し始めた。
そこで、ハウスの頭の片隅に一抹の不安が生まれた。
それは、このままズボンを下ろせば、彼女に見られるであろう傷痕のことだった。
医者である彼女が、大抵の傷で動揺することはないことは知っている。
だが、それでも彼女に己の醜い傷痕を見せたくはなかった。
そう思考している間にも、既にキャメロンの指がズボンを下ろし始めていた。
途端に淫らな予想が頭を掠め、逆らう気もなくなる。
彼女の綺麗な指と柔らかい唇が、自分の欲望に触れるのを期待しながらじっと待った。

しかし、柔らかな感触を感じたのは期待したそこではなかった。
自身が忌避していた醜い傷痕に彼女の唇が寄せられている。
まるで傷を癒していくかのように、傷痕に沿って何度も丁寧に口付けられる。
彼女は自分の醜い傷痕でさえ、慈しみ、愛おしんでいた。
自身の内の激しかった勢いが急速になくなり、代わりに何かが沸き上がった。
自分が自分でなくなるような感覚に、それを必死で堪えた。
「キャメロン……もう、いい」
やっとのことで絞り出した声は情けないぐらい震えていた。
気遣うように彼女がこちらを見上げる。その仕草が、酷く愛おしい。


キャメロンを再び机の上に座らせ、彼女のズボンを一気に脱がした。
すらりとした細い脚が現れ、ハウスはその太腿に唇を押し付け、赤い印を刻んだ。
微かに震える反応を楽しみながら、さりげなく下着を脱がした。
思わず自身のポケットにしまい込みたくなるのを我慢して、床の衣服の山に投げ捨てた。

目の前の彼女の裸身は、完璧な美しさを誇っていた。
透き通るような白い肌や、なだらかな曲線を描く華奢な肢体は至高の芸術品のようだ。
かつて、自分が彼女をそう比喩したのは間違いではなかったのだ。
ハウスはキャメロンを机の上に横たえると、彼女の脚の間に自身の身体を割り込ませた。
爪先から徐々に上へと指を滑らせ、そっと秘部に触れた。そこは既に濡れていて、微かに湿った水音がした。
花弁を数回撫で、指を慣らしてから、ゆっくりと奥へと差し入れる。彼女が息を呑むのがわかった。
熱くぬかるんだそこは、ハウスの指をきつく締め付けた。
人差し指を軽く抜き差し、親指で赤い蕾を刺激すと、彼女から鼻にかかった甘い声が上がる。
「ぁあっ…あ、んっ」
指での愛撫はそのままに、身を屈めてそこに口付ける。
舌全体で撫で上げては、溢れる蜜を敏感な蕾に塗りたくるようにして舌を動かした。
「ゃ、ああぁっ、ひぅ」
刺激を拒もうと脚を閉じれば、逆にハウスの顔を近付ける形になる。
それをハウスは喜んで受け入れると、彼女の蜜を一滴も零さぬよう音が出るくらい強く啜った。

「っ、ああぁぁ!」
一際高い嬌声が上がり、ハウスの指に内壁がぎゅっと絡み付く感覚がした。
ひくひくと収縮を繰り返すそこから指を引き抜き、迷わず自らの口元へと持っていく。
赤い舌が、指に付着した粘液を残らず舐め取っていくのを、キャメロンは荒い息のままぼんやりと眺めていた。

垂れ下がっていたズボンを足首から抜き、ボクサーパンツも一気にずり下ろすと、勢いよく一物が飛び出した。
痛いくらい張り詰めたそれは、強く脈打ち、先端からは既に液体が滲み出している。
脱ぎ捨てたズボンのポケットに手を入れ、小さな包みを取り出した。
『コンドームは持ったか?』
そう言った親友は、自分が拒否したにも関わらず無理矢理この避妊具を持たせたのだ。
マナーだの、テクニックだの細かく喋り始めた彼を黙らせるために、自分は渋々ポケットにそれを入れていた。
だが、結果として、お節介すぎる親友に、この時ばかりは感謝せざるを得なかった。
封を破り、手早くそれを取り付け、彼女の濡れた花弁に自身を押し当てた。
数回擦り付けるように動くと、キャメロンは未だ余韻の残る身体を小さく震わせた。

「キャメロン…」
自分でも軽く驚くくらい熱の籠った声で彼女の名前を囁くと、ゆっくりと腰を落としていった。
「あ、ぁ…んっ、せん、せい…」
指よりも圧倒的に大きな塊が、じわじわと内を押し広げて入ってくる感覚に、キャメロンの白い喉が震える。
一方、ハウスの方も拒むような強い締め付けに必死で耐えながら、慎重に腰を進めた。
やがて、彼女の最も深い所まで到達すると、ハウスは一切の動きを停止した。
キャメロンが慣れるのを待つとともに、温かい内壁がぴったりと絡み付いてくる感触を楽しんだ。
しばらくして、彼女が慣れてきたことを確認すると、男は少しだけ腰を引き、浅く突き上げ始めた。
「ん、ふぁっ…あぁ、あ……っあ」
自分の内側を満たす熱が奥に擦り付けられる度に、女の唇から自然と吐息が零れる。
そこに苦痛の色がないことがわかると、ハウスは腰の動きをより早めた。
机に体重をかけ、言うことを聞かない足は上手く椅子を利用して、深く腰を落としては中を掻き乱した。
陰茎が沈み込み、薄桃色の秘唇がいやらしく捲れ上がる光景に、ハウスの昂りが更に煽られる。
「ぁぁあ…ぁ、やっ……あっ」
益々激しくなる律動に、組み敷いた華奢な身体が小刻みに震え始めた。
それは、彼女の絶頂が近いことを如実に表していた。

「やぁ、っ…こ、怖い…っ」
先程よりもずっと大きな快感の波にさらわれる感覚に、キャメロンはどうしていいかわからない。
机の上に力なく投げ出された白い手を、大きな手がしっかりと握り締めた。
「大丈夫だ。そのまま身を委ねればいい」
そう彼女を励ます一方で、空いた方の手は敏感な肉芽へと伸びていく。
指で強く撫で上げた瞬間、彼女の背が弓なりにのけ反った。
「ひぅっ…あ、ぁあああっ!」
キャメロンの身体が強張ったかと思うと、ぐったりと弛緩した。
荒い息のまま、心を満たしていたのは性交に対する嫌悪感ではなく、純粋な幸福だった。
「先生…」
ふわふわとした夢見心地の気分で、自分の身体の上にいる彼に触れようと手を伸ばした。
しかし、その手が男の頬に触れる前に、伸ばした腕ごと強く引き起こされた。
「っぅん!」
繋がったまま抱き起こされたために生じた刺激に、キャメロンは思わず声を洩らした。
こちらを見詰める男の瞳が野獣のようにぎらついていたことに、女は気付かない。

キャメロンを抱き上げたまま、ハウスは支えに利用していた椅子へと腰掛けた。
より深く抉るようにして貫かれる体勢に、彼女は再び切な気に啼いた。
達したばかりの身体は、軽く動くだけでも堪らない快感をもたらすらしい。
「あ、ぅん…っぁあ、な…んで…っ?」
「俺はまだ終わってないんでな」
にやり、と意地悪く笑むと、ハウスは激しい突き上げを再開した。
座っているおかげで足に負担をかけない分、彼の動きはより獰猛なものになっていた。
たちまち高い嬌声が上がり、男の腕の中で小さな身体が跳ねる。
反射的に逃げようとする細い腰を、大きな手ががっしりと掴み、それを許さない。
「ひゃっぁ…あぁ、ぁっ……んぅ!?」
逃げ場のなくなったキャメロンに追い討ちをかけるようにして、ハウスの唇が重ねられた。
零れるはずの喘ぎ声さえ飲み込まれていく。
呼吸のために仕方なく離された唇同士を銀糸が繋いだ。
「っはあ、あぁ、あぁあっ……グレッ、グ…グレッグ!」
次々と新たな快楽の波がキャメロンをさらっていく中、彼女は必死に目の前の男に縋った。
今まで経験したことのない感覚に、力を振り絞って抱き付き、名前を呼ぶことしかできない。
合わさった汗ばむ肌から伝わる互いの鼓動は、同じくらい速かった。

「……っ、アリソン…!」
陰茎が最奥に一番強く叩き付けられ爆ぜた。
繋がっている部分がひたすら熱い。
思考が白く塗り潰されていく世界で、男が呼んだ自分の名前だけが妙に耳に残っていた。


自分が既に着替え終わった頃、彼女はまだ上半身を着替えたところだった。
ふらふらと覚束ない足取りで、着替えに奮闘する彼女はどこか可愛らしい。
ふと、何かに気付いた彼女が、にやつく自分に声をかけてきた。
「先生、私の下着を返してください」
「くそっ!ばれたかっ」
大袈裟に額を叩いてから、ポケットに忍ばせていた一枚の布を彼女に手渡した。
するり、とそれが元の場所に収まり、無事に彼女の着替えも終わる。
そのまま二人は病院を出ると、すっかり車の数が少なくなった駐車場へと向かった。
互いに疲れた様子でそれぞれの車に別れた時、不意にキャメロンが立ち止まった。
くるり、と振り向いたかと思うと、やはり少しふらつく足取りでハウスの方に戻ってくる。
何かと思ってハウスが首を傾ければ、その頬に柔らかい唇が押し当てられた。
「おやすみなさい、グレッグ」
唇はすぐに離れ、彼女がはにかみながらそう言う。
自然と自分の口角も吊り上がった。
「ああ、おやすみ、アリソン」
男の顔付きは酷く穏やかだった。

こんこん、と控えめなノックが部屋に響いた。
処理していた書類から一旦顔を離し、訪ねてきた相手を軽く確認すると、入室の許可を出した。
片手に書類の束を抱えながら、彼女は礼儀正しく入ってくる。
彼女にしては珍しく皺がついてしまっている書類の山が、邪魔にならないよう机の空いている場所に下ろされた。
「この書類の処理は終わりました。すいません、一度落としてしまったので…」
「ああ、大丈夫、気にしないで。ハウスの書類でしょ。いつもお疲れ様」
「ありがとうございます」
そう言って微笑む彼女は本当に可愛らしいと思う。
カディが再び自分の書類に向かおうと顔を戻そうとした瞬間、それが目に入った。
思わず目を凝らして見詰めてみても間違いのないそれに、持っていたペンがぽとりと手から落ちる。
「……本当にお疲れ様」
開きっぱなしになりそうだった口でようやくそう紡ぐと、キャメロンは純粋に不思議そうな顔をした。
相手は全く気付いていないことがわかると、大きな溜め息とともに犯人を叱り飛ばしたい衝動に駆られる。
「随分と派手につけられたのね…首よ」
一瞬考えるように手を首筋にもっていくと、たちまち彼女の頬が真っ赤に染まった。

「あ、あのっ…これ、は」
「わかってるわ、ハウスでしょう」
目の前にいる彼女が何故あの男に惚れているのかがわからない。
だが、逆に彼女でないとあの男を受け入れられないとも思う。
祝福したい気持ちとあの嫌な男を叱りつけたい気持ちに、カディは思わず苦笑した。
「あなたも大変ね……幸運を」
「カディ先生…」
「あの馬鹿が調子に乗ったら、いつでも相談しなさい」
「…はいっ」
そう答えた彼女の微笑みはいつものように柔らかで、カディはほっと胸を撫で下ろした。


「なぁ、上手くいったのか?いったんだろ?」
自分が病院に到着してからというもの、ずっとこの調子で絡んでくる親友はいい加減鬱陶しかった。
何度か杖で振り払おうとすれば、図星なのか、と喜んで食い付いてくる。
終いには、物語口調で話し始める始末だった。
「若く、美しい医者がその優しさで気難しい年上の医者の心を開き…」
「おい、やめ…」
「ハウス!!」
ハウスがウィルソンを制止する前に、切り裂くような鋭い声が廊下の奥から響いた。
男たちにとって既に馴染みのあるその声の主に、二人揃って顔を向けた。

憤慨した様子で男たちに歩み寄ると、二人の内の一人を睨み付けた。
「ハウス、あなたって人は…」
もはや決まり文句のように始まり出したカディの台詞に、ハウスはすぐに逃げ出したくなった。
今回は何を咎めに来たのかは知らなかったが、とにかく皮肉で応戦すべく口を開く準備をする。
しかし、続いて発せられた台詞に、皮肉での応戦はかなわなかった。
「キャメロンを泣かせた次は、職場で抱くなんて何を考えているのかしら」
石のように固まって動けない自分を尻目に、ウィルソンはその台詞に弾かれたように飛び上がった。
大きく開いた口を片手で覆ったまま、もう片方の手で力強くハウスの肩を叩く。
「本当かっ!?やったな」
「やめろ!彼女とは何もなかった」
「何も?じゃあ、いつもなら綺麗な書類がくしゃくしゃになっているのも、彼女の首筋に大きな赤い跡があるのも偶然かしら?」
勝ち誇ったようにそう捲し立てる上司に、親友の顔が更に綻んだ。
にやにやと、まるで子供を見守る親みたいな表情で二人はハウスを見詰めた。
「…キャメロンを大事にしなさい。また泣かせたら、承知しないわよ」
「本当によかったな…おめでとう」
自分の幸せのように祝う二人に、皮肉の一つでも言い返そうとした時、聞き慣れた声が自分を呼んだ。

患者のカルテを抱えながら近寄ってくる姿を視界の端で確認すると、有無を言わさずその手を引いた。
「せ、先生?」
混乱する彼女を無視して歩き出すと、背後からカディとウィルソンの笑い声が聞こえてきた。
そんな二人への報復を軽く考えつつ、ハウスはどんどんと廊下を進んでいく。
ついにはあまり人気のない通路に辿り着いた。
「先生、どうかしたんですか?」
立ち止まって振り向くと、怪訝な表情のキャメロンが少し息を荒げて尋ねてくる。
一旦周囲を見回し、誰もいないことを確認してから、杖を持っていない方の手で彼女を抱き寄せた。
自分よりもずっと小さな身体は、片腕だけでも容易く収まる。
「アリソン…もう、どこにもいくな」
耳許でそう囁いた後、静かに彼女と顔を合わせた。
彼女は、眩しさを感じるくらい穏やかで優しい微笑みを浮かべていた。
「はい……あなたの傍にいるわ、グレッグ」
その返答に、ハウスは満足気に笑い返すと、ゆったりと唇を重ねた。
触れた唇から伝わる体温は、日だまりみたいに温かかった。











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2012年03月09日(金) 17:25:49 Modified by ID:2C3t9ldb9A




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