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【定義】

インド以外の地域、特に中国(もちろん中央アジアや、朝鮮・日本にも存する)に於いて、名を仏説に借りて偽作された経典のこと。インドで偽作された経典は偽経とは呼ばれない。疑経とも。

【内容】

サンスクリット本などから翻訳された経典を「真経」「正経」というのに対し、翻訳経典とは見なし難い経典を偽経という。偽経は『道安録』という4世紀の仏典目録(経録)で確認されて以来、歴代の経録編纂者から厳しく批判されている。それは、彼らの目的が、翻訳仏典の目録を編むことだったためである。よって、仏説の真実性を脅かす偽経の存在について彼らは容認せず、その摘出と排除が熱心に行われた。

しかし、偽経の存在は次第に中国で増加し、4世紀の道安の頃には26部30巻であったが、南北朝時代には46部56巻に増え、さらに、隋代には209部490巻、唐代には406部1074巻となった。『大蔵経』に入った経典が1076部5048巻であること(『開元釈経録』)からすれば、その数の多さは凄まじいものがある。

仏教の正統的・伝統的な立場からすれば、偽経の存在は容認し難いと思われていたが、難解なる教義を庶民に教導する場合に偽作されたということを思えば、むしろ偽経の内容はその当時の庶民が仏教に何を希望していたかが知られるともいわれる。中国や日本との土着思想との交渉という点からも、その資料的価値は高い。ただ、偽経が『大蔵経』に入ることは稀であり、多くの場合には保存されずに散逸した。中国・日本の様々な典籍に引用例があるが、ほとんどはそれが何に載っているか、偽経である場合には遡及できないことが多い。

なお、20世紀初頭に敦煌から出土した仏典や文書には、大量の偽経が含まれており、また日本でも、名古屋にある七寺大蔵経(七寺一切経)から多くの偽経が発見されて、研究者の注目を集めている。

【道元禅師の偽経観】

道元禅師が偽経について取った態度は複雑であり、ただ否定したとも、肯定したとも定められない。
しかいふこころは、首楞厳経一部拾軸、あるいはこれを偽経といふ、あるいは偽経にあらずといふ、両説すでに往古よりいまにいたれり。旧訳あり、新訳ありといへども、疑著するところ、神龍年中の訳をうたがふなり。しかあれども、いますでに五祖の演和尚・仏性泰和尚・先師天童古仏、ともにこの句を挙しきたれり。ゆえにこの句、すでに仏祖法輪に転ぜられたり、仏祖法輪転なり。このゆえに、この句、すでに仏祖を転じ、この句、すでに仏祖をとく。仏祖に転ぜられ、仏祖を転ずるがゆえに、たとひ偽経なりとも、仏祖、もし転挙しきたらば、真箇仏経祖経なり、親曾の仏祖法輪なり。 『正法眼蔵』「転法輪」巻

以上の点からすれば、偽経であると思われても、歴代の仏祖が偽経にある語句を用いれば、その仏祖が用いた事実に於いて、その語句は仏教になるという教えである。以上は『首楞厳経』についての指摘であるが、同経と『円覚経』については、常に批判的であったともされる。
時の人、楞厳・円覚の教典を以て多く禅門の所依と謂う。師、常に之を嫌う。 『永平広録』巻5-383上堂

この理由は、両経ともに偽経ではないかという疑念を持っていたからであり、そのことを道元禅師は如浄禅師に質問したようで、以下のような答えを貰っている。
和尚示して曰く、楞厳経、昔自り疑う者有り。謂く、此の経、後人の構えか。先代の祖師、未だ曾て見ざる経なり。近代癡暗の輩、之を読み之を愛す。円覚経も亦然り。文相の起尽頗る似たり。 『宝慶記』第6問答

このページへのコメント

つらつら日暮らしさん

萩原師の足跡の上を歩いております。

お話のように定義の不確定な対象なので、まだ

先が見えませんが、いつかは望めると思いま

す。

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Posted by 一言主 2009年09月26日(土) 08:16:04 返信

> 一言主 さん

その後、天台学の専門家の先生にも聞いてみましたが、やはり現在の仏教学会では、『無量義経』は偽経と見なすということで、大体一致しているようです。ただし、「偽経」の定義自体が、決して確定している物では無い曖昧なものなので、色々と決め方があるというのも実情とのことです。

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Posted by tenjin95@管理人 2009年09月26日(土) 06:54:09
http://blog.goo.ne.jp/tenjin95/
返信

つらつら日暮らしさん

ご教示を戴き有難うございました。

地方言葉で書き込んでしまい失礼致しました。

萩原師の系統を調べさせていただきます。

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Posted by 一言主 2009年09月25日(金) 20:52:58 返信

> 一言主 さん

コメントありがとうございます。こちら、「そのまま日暮らし」ではなくて、「つらつら日暮らし」と申します。

> 大集経偽経のことは存じておりましたが、法華経開経分の無量義経が偽経との資料をお持ちでしょうか。

『無量義経』に関しては、古来の訳経目録にも載りますけれども、敢えて文献学の見地から、偽経ではないか?という見解を出された研究者として、荻原雲来師を挙げることが出来るかと存じます。師の『荻原雲来文集』をご参照ください。

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Posted by tenjin95@管理人 2009年09月24日(木) 10:57:11
http://blog.goo.ne.jp/tenjin95/
返信

そのまま日暮らしさん

一言主ともうします。

すこしお訊ねいたしたいのですが。

大集経偽経のことは存じておりましたが、

法華経開経分の無量義経が偽経との資料を

お持ちでしょうか。

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Posted by 一言主 2009年09月23日(水) 09:12:17 返信

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