こんにちは。けもです。最近、夜の気温低下で寝不足になっちゃいました。皆様もどうか、お気を付けください。
さあ、戦いだ！！
〜第3話までのあらすじ〜
食糧が尽きた大広間では、ついに妖精たちの共食いが始まった。少しでも欠損部位がある妖精は容赦なく食糧とみなされた。自分で今まさに産み落とした子ずんを食べる妖精もいる。挙句の果てには、複数の妖精が妊娠した1匹のメス妖精を追いかけ、そのお尻から出たばかりの子ずんに食らいつくまでになった。まさに自業自得、妖精たちはだんだんと数を減らしているが、未だその数は圧倒的だった。人間側は新しく武器を調達し、いよいよ突入すべく移動を開始する。来たるべき戦いにおびえるNo.7に、自分も怖がっている、と弱さをさらけ出したWhiteCULは、新しい愛を育むのであった……
第4話 「突入」
「やれやれ。やっと出来た…」
「どれー！ずんちゃによこしゅのだ！」
「ずんだもち！ずんだもち！！」
「ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！」
「待つのが大事だよ、ほら。大広間に持っていくよ………」
「とびのるのだ！えい！のだあああ！」
「たのち、たのち！」
「むちゃちゃ…おいちおいちおいちおいち！」
「あっずりゅいにょだ！おいちおいちおいちおいち…」
「おいちおいちおいちおいち！！おいちおいちおいちおいち！のだ、のだ！」
バランスボールほどもある、完成した特大ずんだもちを前に、汗を拭うトキさん。肩に乗った子ずんが騒がしく鳴きだし、さっそく飛び乗ってずんだもちを食べだす。
…苦労した感を出しているが、何十年もの間、餅を作り続けてきたトキさんにとって、こんなもの、朝飯前だった。
トキさんも、自分の店で妖精たちの好きにはさせるつもりは最初からなかった。協力すると約束したうえで、わざと時間をかけてずんだもちを作ることで、妖精たちの戦力を削ごうと考えていた。トキさんの見込み通り、食糧の供給が断たれた妖精たちは、共食いを始めて、順調に数を減らしていた。まあ、あんなに増えすぎたのだからマイナスにはならないだろうが。
台所にいるトキさんが、なぜそれを知っているか。それは、頻繁に進捗を見にやってくるおさずんが、わざわざ大広間の状況を話すからである。
「なかまたちはおまえのごはんさんのよういがおそいせいでともぐいをはじめているのだ！おまえのせいなのだくちょばばあ！！わかったらはやくよういするのだああ！！」
「おちびちゃんたちのかずがへっているのだ！！なにもかもおまえのせいなのだくちょばばあ！！ずんだもちができあがったらおまえはどうなるかわかっているのだ？！かくごするのだああああ！！」
などと、喚くだけ喚いて、去っていくおさずん。トキさんを殺せば、さらに飢餓で犠牲が出るとわかってのことだろう。こちらに危害を加えたりはしない。
トキさんは、正直、妖精のことが何も怖くなかった。いつ自分が死ぬかわからない戦争で、逃げまどっていた昔の日々の方が、何倍も恐ろしい。
おさずんは恐怖でトキさんを支配出来ていると思い込んでいるが、全くそんなことはない。
年季が違う！トキさんは、伊達に長生きしていない。
何よりも、トキさんは、これを最期の仕事にするつもりは全くなかった。突入部隊が予定通り入ってくれば、隙を見ておさずんを捕まえて、調理してしまおうと考えていた。
「お待ちどおさん。特大ずんだもちだよ…」
「ずんだもち！ずんだもち！ずんだもち！ずんだもち！！」
「ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！」
「ぼくのずんだもち！ぜんぶたべてやるのだ！！」
「うがああああまちきれないのだああああああ！！」
「のだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだ！」
トキさんが特大のずんだもちを抱えて大広間に入った瞬間、妖精たちが一斉に騒ぎ出した。一度ずんだもちを目にした妖精の狂いようはすごい。誰もが目をかっと開き、顔を真っ赤にして激しく胎動し始める。マタタビをおあずけされたネコでさえ、こんな風にはならないだろう。
極限状態で共食いまでして、図太くも生き残った妖精たちの抑圧された欲望がここで爆発する。
おさずんが許可を出す間もなく、妖精たちが一斉にずんだもちに突進した。
「おいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいち…………」
ほぼすべての妖精が同じ言葉を発しながらずんだもちに貪りつく。これほどまでに異様な光景はなかなか見られないだろう。
「く、くちょずんどもおおぉ…」
おさずんは、自分の命令を待たずして皆が勝手にずんだもちにかじりついたことに腹を立てているようだった。おさずんも、頭が良い妖精であるとはいえ、本能的な部分は他の妖精と変わらない。自分より先に、他の個体が「幸せ」を享受していることが許せないのだろう。
「…あんたは何してる。食べればいいじゃないか。せっかくあんたがオーダーしたとおりに作ったんだから」
怒りでぶるぶる震えるおさずんに、トキさんが優しく声をかける。
「それに、あんたの子供は誰よりも先に食べだしたよ。こいつら全員を許せないなら、あんたの子供も許せないことになる」
「だ、だまるのだくちょばばあ！！ぼくのおちびちゃんたちはとくべつなのだ！！あんなくちょずんどもとはちがう、ぼくににてゆーしゅーな“もりのけんじゃ”なのだ！！」
「そうかい。ワタシには全部同じ醜いイキモノにしか見えないけどね」
「そういうばかなかんがえかたがどこまでもくちょにんげんなのだああああああ！！」
思い出したかのように包丁を構えなおすおさずん。
「くちょばばあ。ずんだもちをよういしたからといって、このぼくがくちょにんげんごときをゆるすとでもおもったのだ？」
「さァね。でも、あんたみたいな妖精さんはみんなコロっと食べ物で騙されちゃうって聞いたことあるわよ」
「それはくちょずんどものことなのだ！ぼくはあいつらとはちがうのだ！さいきょうのこのぼくはそんなものでだまされるばかではないのだ！！」
「ふふっ。そうは言っても、本当はずんだもちが気になってるようだね…」
くすっと笑うトキさん。勇ましく包丁を構えるおさずんは、さっきから落ち着きなく、ちらちらと横目で特大ずんだもちの様子を見ている。
「ち、ちがうのだ！だまれくちょばばあ！ぼくは、てきがこないかけいかいしているだけなのだ！」
「我慢しなさんな。食べちゃいなよ。ワタシは邪魔しないからさ」
「く、くちょばばあああああぁ…………！」
トキさんに優しくされてもなお、おさずんの本能とプライドとの間で葛藤が続く。
だが。
「おまえがいるとあんしんできないのだくちょばばあ！！おまえのせいなのだくちょばばあ！！」
「…何を言い出すかと思えば。ワタシは丸腰じゃないか。何を怖がってる？」
「だまれ！だまれ！だまれええええええ！！ぼくはさっきいったはずなのだ！ずんだもちができあがったらおまえをぶっころしてやると！！」
「ああ、言ってたかもね。でも、あの特大ずんだもちだって無限にあるわけじゃない。あれがなくなったら、誰が代わりのずんだもちを作るんだろうねェ」
「そしたらまたどれーをつかまえればいいのだ！くちょばばあ！！おまえはよーずみなのだあああああああああ！！」
「そっかあ、残念ねェ」
その小さな脳みそで処理しなければならない情報量の多さにとうとう錯乱したおさずんは、暴力に訴えることに決め、包丁を振り上げた。
「くちょばばあ！！ぼくのためにしぬのだあああああああああああああああああああああああああ！！」
「まずいっ！！突入っ！！」
ばーーーーん！！
ついに、扉が蹴破られた。カメラマンを地下室に残した7人が豪邸の内部へと突入を開始したのだ。
先頭の機動隊員が、何かを投げて叫ぶ。
「トキさん！目を覆って床に伏せて！！」
「あいよっ！！」
「なっ、なんなのだあああ！？」
おさずんは突然の出来事で包丁を振り上げたまま固まっている。
ピカッ！！
手はず通り。隊員が投げたのは対妖精用の閃光手榴弾だった。強烈な光をまともに食らったおさずんは、その場で包丁を抱えたまま硬直する。
「のがあああああああああああっ！ぼくのおめめしゃんがあああああああ！！」
「いまっ！」
ダアアアアアアン！！
機動隊員のシールドに守られながら突入したNo.7が、ショットガンを撃つ。これでおさずんを仕留め、指揮系統を麻痺させる作戦だった。
しかし。
「おさずん、おまもりしますのだ！こちらへくるのだ！」
「にげるのだ！のだのだのだのだ！」
おさずんは飛んできた近衛兵のような妖精3匹に連れられ、台所から大広間へと逃げて行く。間一髪のところで散弾の雨から逃れたらしい。
おさずんは仕留められなかったが、突入部隊は重要な作戦を完遂した。人質であったトキさんを、無傷で救出することが出来たのである。
「ばあさん！ばあさん！！すまんかった…………生きていてくれてありがとう…」
「じいさん、ワタシからもありがとう…じいさんたちが来るとわかっていたから、ワタシもここで頑張れたんだ…」
それは、感動の再開だった。タカハシは、抱き合っているふたりを誘導する。
「さあ、ダイゾウ氏！トキ氏！急いで地下室まで！！」
「ああ、かたじけない。皆、本当にありがとう！お礼は、すべてが終わったらさせてくれ…」
「皆、ワタシのためにありがとう…同じく、いくらでもお礼はさせてくださいな」
「ダイゾウさん！トキさん！あとは任せてっ！！」
地下室へと走る老夫婦を護衛しながら、WhiteCULがガッツポーズを送る。あとは、この豪邸の中にいるすべての妖精を殲滅するだけだ。
人質を救出出来た今、突入部隊はほぼ自由に戦える。
大広間では、目をやられて呻き続けるおさずんを抱えた近衛兵たちが戻ってきて叫んだ。
「てきしゅー！てきしゅーなのだ！くちょにんげんどもがせめてきたのだ！みな、ぶきをもつのだ！むかえうつのだ！！」
「おいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいち…………」
「な、なにしてるのだ……」
異様な光景に絶句する近衛兵。妖精たちは近衛兵の言葉に耳を貸すことなく、ずんだもちを貪り続ける。ずんだもちに潜り込んでお尻だけを見せている個体もいる。これもトキさんの作戦通りだった。一番制圧が難しそうな大広間の妖精をずんだもちに釘づけにしておくことで、他の部屋の制圧を容易にしたのである。
「お、おめめしゃん、おめめしゃん…」
おさずんは、激しい光にさらされた目を押さえて呻き続けることしか出来ない。だが、包丁は、頑なに手放さない。この包丁こそが、おさずんを「おさ」たらしめる武器であったからだ。
No.7とWhiteCULは共に行動し、次々に部屋の扉を開けて、妖精たちが固まっていたらショットガンを放つために豪邸の中を駆け回った。
お孫さんが使っていたという部屋には妖精はいなかった。
だがトイレには、便器に溜まった水で泳ぎながら遊ぶ子ずんの群れがいた…
「にょだーにょだにょだにょだ！！おみずさん、つめたくてきもちーにょだ！！」
「おみずしゃん、おいち、おいち」
「のだ？なにかきちゃのだ！！」
「ごはんしゃん、よこしゅのだ！」
無邪気に遊ぶ子ずんたち。だが、今回は殲滅戦。何も知らない子ずんであっても殺害の対象だ。
ダアアアアアアン！！
「のばあ”あ”っ」
ガチャッ！カランカラン…………
散弾をまともに食らった子ずんたちの肉片が飛び散る。No.7はすっかり慣れた手つきでレバーを動かして空のシェルを排莢した。
恐怖で自分の精神が壊れることのないよう、あくまで無感情に、生き残りの子ずんがいないかを確認するNo.7。子ずんの返り血で緑色に染まった防護服を含め、テレビでは絶対に放送出来ない光景だ。
「…クリア」
タカハシたち機動隊員は、大広間の前に妖精たちが築いたバリケードの撤去を試みていた。まだ大広間から妖精は飛び出して来ないものの、危機を察して別の部屋から飛び出した妖精の抵抗は激しく、思うように作業が進まない。
「何としてでも突破口を開くぞ！大広間を制圧しなければこの戦いは終わらない！！たぁっ！」
「ぼくたちのおいえをまもるのだああああっ！」
バチっ！！
「のじゃあああああああいっ！！」
爪楊枝を構えて突撃してきた妖精を電磁警棒で吹き飛ばしながら、タカハシは隊員たちを鼓舞した。
タカハシたちがNo.7とWhiteCULの護衛に行かないのは、妖精たちの注意をこちらに引き付けるという目的もあった。タカハシは民間人ふたりの単独の行動に関して反対したが、何よりも、彼女たちを信じるほかなかった。
なぜなら、無理にでも彼女らを護衛しようとついていったならば、僕が…いや、私が、「百合の間に挟まる男」になってしまうではないか！
それは、万死に値する。
バリケードとして積み上げられたガレキや机、椅子を確実に撤去していくタカハシたち。だが、同じ場所にとどまり続けているため、妖精たちの集中攻撃を浴びることになった。
「ずんちをくらうのだあああああ！」ブリブリブリッ！
「ちーちーちいいいいいいいいいいいいいい！」ジョロロロ…
「いいじょ！くちょにんげんどもがよわってきちゃのだ！！」
「いっきにせめるのだああああ！！」
空中からフンや尿を爆弾のように落とす妖精。汚物は、防護服に命中してきついニオイを放つ。
汚くて、タカハシはつい手で払おうとしてしまうが、妖精たちに隙を見せるわけにはいかなかった。そんなタカハシに、妖精が一斉に襲い掛かる。
「た、タカハシ隊長！？」
「うおおおおおおっ！？」
妖精たちの持つ武器は、大抵が木の棒や爪楊枝、刺繍針等である。これらはなかなか防護服を貫通することは出来なかったが、特にガラス片や石、ナイフ等は凶悪だ。また、爪楊枝が貫通出来ないとわかると、鋭い歯で噛みつく個体もいた。
だんだんと、タカハシの防護服が破られていく。
「何とおっ！！」
タカハシは電磁警棒を振り回して妖精をこれ以上近づけまいとする。だが、防護服が破れて装甲が薄くなった部分をめがけ、ナイフを持った妖精が攻撃を集中してきた。
ずばっ！ざしゅうっ！
「うぅっ！？」
「のーだのだのだ！そのちょーしなのだ！くちょにんげんをころせえええええええええ！！」
肩や膝を負傷し、よろめいたタカハシを見て、妖精たちが勝ち誇る。
「たっ、タカハシ隊長！申し訳ありません！離れろっ！離れろ！！」
妖精の攻撃で脚部を負傷した隊員が必死でタカハシに近づき、タカハシにとりついた妖精を直接引き剥がす。だが妖精たちは、まるで巣の寝込みを襲われたスズメバチのように、どんどん数を増やしていく。
あっという間に、機動隊員4人は妖精の大群に包囲され、壁際に追い詰められてしまった。全員の防護服はもうボロボロであった。体のあちこちから、血が流れだす。
「もうおわりなのだ、くちょにんげんども。かとーせいぶつがいきってんじゃねーのだ！」
「のーだのだのだのだのだ！のーだのだのだのだのだ！ざこ！ざこ！くうぅーちょ、にいぃぃーんげんっ！！」
尖った石器を持った妖精が叫ぶと、周りの妖精も呼応して嘲笑う。戦闘民族なのだろうか。どの妖精も、体長が30センチ程と大きく、力も強そうであった。
「…フラッシュバンは？」
「もうありません、申し訳ございません…」
「いや、いい。私たちの任務は無事に完了した…」
妖精たちは気が付いていないが、バリケードの一部はタカハシたちの手によって撤去され、大広間までの一本道が見えていた。
「…あとは彼女たちに任せよう」
「そうですね、我々はここで最後まで妖精を食い止めましょう」
「くちょにんげん、なにをくしょくしょそーだんしてるちゃ！もうむだなのだ！！」
「ころしゅ？ころしゅ？」
「ころしゅのだ！あとかたもなくしてやるのだ！」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああっ！」
雄叫びをあげて、妖精たちが突撃する。
だがタカハシは、ここで殺される気はなかった。別の部屋で戦っている彼女たちの愛の行方をこの目で見届けるまでは、死ねない。
「…私は生きる。そこに百合の花が咲く限り」
負傷した部下たちを守るように、タカハシはシールドを構える。それは、北海道まで向かった隊長が、四輪車に乗り込む前に渡してくれた特殊シールドだった…
ダアアアアアアン！！
「のぎゃあああああああああっ！」
順調に各部屋の妖精たちを始末していくNo.7とWhiteCUL。主にNo.7が前衛でショットガンを放つが、彼女がショット・シェルを弾倉へとリロードする際には、隙を見せぬようにWhiteCULが前に出て火炎放射をおこなう。息の合った連係プレーであった。
「あぢゅいあぢゅいあぢゅい！あああああああああああああ！！」
「ななさんっ！これ、おうちも焼けちゃうよっ！！」
ショットガンで仕留めきれなかった妖精を燃やしながら、悲痛な声でWhiteCULが叫ぶ。妖精を駆逐するためなら、どれだけ家を壊してくれても構わないと念を押してくれていたダイゾウじいさんとトキさんではあったが、いざ自分が放った炎で、木造の家に火が付くのを見るのは忍びなかった。
「うう…これしか方法はないんですね…なるべく最小限にしないと……来ますっ！！」
「わっ！なんでこんなにっ」
「みつけたのだ！くちょにんげんにひきなのだああああ！！」
「ころしゅのだ、ころしゅのだ！！」
火器を持った人間たちが、部屋を壊滅させて回っている。妖精たちの間で、その情報は一瞬で伝わったらしい。武装した妖精たちが、廊下の向こうから猛スピードでこちらに向かってくる。その数、30は下らないか。
「…やはりただでやらせてはくれないか」
がちゃんっ！
ショットガンに予備弾薬を装填し終えたNo.7は、レバーを操作すると、毅然とした表情で妖精たちに対峙した。
まだだ。まだ…
もっと引き付けて…
「おじけづいたのだ！？くちょにんげん、しねええええええええええ！！」
先頭を飛ぶ妖精が目の前に接近する。No.7は、極限まで妖精たちを引き付けることに成功した。
あとは、撃つだけ。
ダアアアアアアン！！
「ぼげええええええええっ！」
がっちゃっ！ダアアアアアアン！！
「ごがあああああああああああ！」
がっちゃっ！ダアアアアアアン！！
「ぐぶえええええええええええ！」
がっちゃっ！カランカランカラン…
一気に3発。即死した妖精も数多くいたが、散弾で四肢を吹き飛ばされるにとどまった妖精たちは床に落ち、痛みで激しくのたうち回る。中には、ゾンビのようにこちらめがけて這いずる個体もいた。
「おっ、のが、く、くちょおおおおおおお、にんげんんんんんんんっ！」
「燃えろっ！」
ちゅううううううん！
「あぎぃいいいいいいいいいいいぃ！あぢゅいあぢゅい！あぢゅいあぢゅいああああ！！」
床に落ちた個体も、WhiteCULが炎を浴びせてとどめを刺す。一度火がついてしまったら、余程のことがない限り消火は困難だ。
お互いの弾薬も燃料も、かなり減ってきた。
だが、これで大広間以外の部屋の妖精を始末することが出来た。あとは、大広間へ向かうだけだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁ…」
「はぁ、はっ、はっ、はあ………」
炎と煙と、妖精の焦げるニオイとが激しさを増す中で、ふたりの女性は荒い息でうずくまる。
「ね、ねえっ…ななさん」
「…何ですか、雪さん」
「わたし、この戦いが無事に終わったらねっ…」
「やめて、雪さん…今、そんなこと」
「言わせてっ…わたし、ななさんと…………えっ！？」
「にょだにょだにょだ、にょだにょだ…」
ふたりの世界に割り込むように、後ろからゆっくりと接近する子ずん。全部殺したはずではなかったか。
「会話を邪魔してっ！！ゆ”る”さ”な”い”っ！」
憤ったWhiteCULが叫び、火炎放射器を子ずんに向ける。
「にょだ？く、くちょにんげんなにょだ！ぷ、ぷ、ぷ…」
「待って！雪さん！！」
「えっ」
No.7は恐ろしいことに気づき、慌ててWhiteCULを制止する。この子ずん、お腹が肥大化している！！タカハシが突入前に言っていた、爆弾妖精だ！
「伏せてっ！！」
「ぷ、ぷ、ぷ、ぷきゅうううぅぅぅうぅぅぅぅううううぅっ…………！！」
威嚇するかのように、頬を膨らませる子ずん。次の瞬間、子ずんの体は爆弾のように破裂した。
ぶっぱああああああああああああああああああん！！
「きゃあああああああああああああああああああああああああっ！？」
ばしっ！！
臓物と体液とフン尿とを、体内で圧縮した消化ガスによって一気に体外へと炸裂させた子ずん。まさに爆弾のような衝撃波をまともに受けたふたりは大きく吹き飛ばされ、壁に体を酷く打ち付けた。
「うっ…！」
全身を強打したNo.7はショットガンを取り落とす。意識が遠のいていくのを感じる…………
「や、やったのだ！ぼくたちのおちびちゃんがくちょにんげんをころしたのだ！」
「おちびちゃんばくだん、すごいのだ！！おちびちゃんにはかわいそうだけど、おちびちゃんもきっとてんごくでよろこんでいるのだ！」
壁の隅に空いた穴から、妖精のつがい2匹が飛び出す。子ずんを爆弾に仕立て上げたのは、どうやら彼らのようだった……
「ねんのため、したいをかくにんするのだ！ごはんさんをもっているかもしれないのだ」
「のだ、のだ！ごはんさん、ごはんさん！！」
それから妖精たちは、動かなくなった彼女たちに向かって四足歩行で歩き出した。
「…食らえっ！」
自分たちにとどめを刺そうと向かってくる妖精たちを見てニヤリと不敵に笑ったタカハシは、シールド裏に備え付けられたトリガーを引く。
バババババババババババ！！
シールドが…いや、シールドに備え付けられたマシン・ピストルが火を噴いた。
ドパン！ドパン！ドパン！ドパン！
「ぎゃっ！」「ぐぶっ！」「のげっ！」「ぎびゃっ！！」
マシン・ピストルに装填されていた弾薬は、対妖精用の炸裂弾だった。1匹の妖精に着弾すれば、弾頭にたっぷり内包された炸薬が破裂し、周りの数十匹の妖精たちの体をもバラバラにしてしまう。
妖精たちは、機動隊員らを逃がさないために密集して突撃していた。そこが、仇となった。
あっという間に、形勢が逆転した。機動隊員4人の周りにはあっという間に妖精の死骸の山が出来た。鼻の曲がりそうな死臭が、タカハシたちの勝利を告げている。
妖精たちが完全に静かになったのとほぼ同時に、マシン・ピストルの100発あった弾丸も尽きて、銃口から煙を漂わせながら静かになった。
「うぐっ…タカハシ隊長！ありがとうございますっ…」
「ああ。諦めなければ生き残れるんだ…」
身体中から血を流し、痛みに呻きながらも自分に感謝を述べる隊員たちを振り返ったタカハシは、ニヒルに笑って言った。
「そうすれば、また花を見ることが出来る」
ぶっぱああああああああああああああああああん………
血まみれのタカハシは、カッコよくキメたつもりだった。だが、廊下の方から大きな爆発音が聞こえると、その表情はまた険しくなる。
「なっ…爆弾妖精が残っていたというのかっ！？」
しかも、音の聞こえた方向は…
「セブンさんとカルさんが危ないっ！！うっ、うう…」
救援に向かおうと体に力を込めるが、膝をついてしまうタカハシ。妖精の猛攻を受けた体では、もはや自力での歩行は困難だった。妖精に噛み破られた関節からは、血がドクドクと流れ出る。
「これしきの…ことで………止まる…わけにはっ！」
弾切れになったシールドにもたれかかるようにして、必死で倒れまいと踏ん張るタカハシ。
だが、自身もわかっていた。もう、限界だった………
心残りは、儚い百合の花をお守り出来ないことだけ………
びちゃっ！！
タカハシは、悔しさを身に滲ませながら、自らの血の海へと倒れこんだ。
「隊長っ！タカハシ隊長っ！！しっかり！」
負傷した3人の隊員が這いずってタカハシの元へたどり着く。彼らはポーチに仕舞っていた救急キットで、タカハシを失血死させぬよう、救命作業を開始した。
「う、いたっ…」
気が付いたWhiteCUL。彼女は肩を強打していたが、問題なく動かせた。
爆風をまともに浴びて、防護服は見事にビリビリに破けている。だが、これがあったおかげで、大ケガをしなくて済んだ。
子ずんの爆発で生じた衝撃波の威力はものすごく、ガラスを大きく割り、豪邸の壁の一部を吹き飛ばして外気を流れ込ませてさえいた。だが、丈夫な柱のおかげで、倒壊は免れたようだ。彼女たちは、ガレキの下敷きにならずに済んだ。
「な、ななさんっ…！」
慌ててWhiteCULはNo.7の方を見やる。No.7は彼女のすぐ隣に仰向けで倒れていた。気絶しているようだ。だが、息はある。
「よ、よかった…」
彼女も同様に、爆風によって防護服が大きく破け、豊満な胸を包む衣装があらわになっていた。
それを見てごくり、と唾をのむWhiteCUL。いやいや、こんな時にそれは違う、と自分を制し、動かない彼女の肩を掴む。
「ななさん、ななさんっ」
気絶した人を揺さぶると良くない、とはどこかで聞いた気がしたので、WhiteCULはNo.7の肩を叩いて呼びかけた。だが彼女からの返事はない。
「うう；；」
WhiteCULが半ベソになりかけた、その時だった。
「のだぁ！ごはんさんさがすのだ！！」
「のだのだのだのだ！！」
ぽいんっ！
「ひっ…！？」
どこからともなく歩いてきた2匹の妖精が、あろうことかNo.7のふたつの膨らみの上に飛び乗ったのである。
「のだぁ？なんだかやわらかいのだ！」
「おもちさんみたいなのだ！きっとごはんさんなのだ！」
間近に妖精が現れた恐怖で顔を引きつらせるWhiteCULだったが、次第に怒りでその顔を真っ赤に染めた。
「わ、わたしを差し置いてっ…こんな………ゆるさないっ！！」
正常な状態の彼女ならば、妖精を触ることすら躊躇しただろう。だが、怒りで我を忘れたWhiteCULは、むんずと2匹の妖精を掴み上げる。
ぽよん！ぽよん！
「のだのだのだのだ！たのち！たのち！………のだっ！？」
「ごはんさん、たべるのだ！あがああああ…がっ？！」
No.7の胸をトランポリンのようにして遊んでいた妖精も、今まさに、胸に歯を突き立てようとしていた妖精も、WhiteCULの接近には最後まで気がつかなかった。
「は、はなしぇ！く、くちょにんげん、いきていたのだあああああ”あ”あ”あ”あ”っ？！」
ぐちゃあっ！
「そ、そんな…おちびちゃんばくだんでかくじつにころしたはずなのだあああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”……！！」
ぐぢゅうっ！！
「はあぁーっ！はあーっ…！！」
あまりの悔しさに大粒の涙を流しながら、声もなくあっという間に妖精を握りつぶしたWhiteCUL。
やがて息を整えた彼女は、自分の手を見て叫ぶ。
「わああああっ！わたし、また妖精握りつぶした！握りつぶしたっ！ええ〜んっ！」
彼女が妖精を握りつぶすのはこれが最初ではない。ヘリコプターの上で、やむなく殺した。あの時はリポーターとして中継をしていたから、スタジオのNo.7やテレビの前の視聴者を安心させたかった。だから、抵抗なく握りつぶせた。
だが、今回は極限状態であったとはいえ、WhiteCULは、怒りに任せて妖精を殺してしまった自分自身に恐れおののいていた。
「わあっ！わっ！わああっ…」
手に付着した妖精の臓物や体液を、破けた防護服の切れ端で必死に拭うWhiteCUL。本当は気の済むまで手を洗いたかったが、そんなことが出来る状況ではない。
それよりも、彼女にはやるべきことがあった。気絶したNo.7を起こさなくては。
念入りに拭いたとは言え、妖精を握りつぶした手でNo.7に触れるのはとても気が引けたが、やむを得ない。彼女はNo.7の肩をもう一度掴み、声をかける。
「ななさんっ…ななさんっ！」
反応はない。わたしひとりになったら、これからどうすればいい？そんな不安がWhiteCULの全身を駆け巡る。
「ひとりなんて嫌だっ！起きてよななさんっ！！」
半ベソになったWhiteCULは、手をNo.7の首に回すと、自分の唇を彼女の唇に押し当てた。
………私は、どのくらい眠っていただろう。頭が重い。
あれ、何か息苦しい。生命の危機だ。早く起きて、この場を離れなくては。
それよりも、大事な存在を忘れていた。
………雪さん。
雪さんは大丈夫だろうか。いや、私は何でこんなに息が出来ない？！
「…ん、んっ………ぷはっ！？」
「ぱっ………な、ななさんおきたっ！よかったぁ！！」
目を開けて大きく息を吸うNo.7。ベソをかいていたWhiteCULが慌てて唇を離す。
目を覚ましたら、WhiteCULが目の前にいた、という喜びと困惑を複雑な表情として顔にあらわすNo.7。
ゆっくりと自分の唇を指でなぞる。
「………雪さん」
「は、はいっ」
「…ちゅーしましたね」
「…っ！！」
上目遣いで頬を赤らめてWhiteCULを睨むNo.7。WhiteCULはその無防備な姿に言葉に詰まるが、急いで火炎放射器を構えなおして立ち上がる。
「…続きは、戦いが終わってからねっ！」
照れ隠しのように、背を向けて歩き出すWhiteCUL。No.7は慌てて立ち上がり、ボロボロの防護服を脱ぎ捨てると、吹き飛ばされた時に落としたショットガンを抱えて慌てて彼女の後を追った。
「もう、窒息しそうだったんだからっ…」
それでも、No.7はもう1回WhiteCULがキスしてくれて嬉しかった。
WhiteCULがいてくれるだけで、もう何でも出来る気がしていた。
〜つづく〜
さあ、戦いだ！！
〜第3話までのあらすじ〜
食糧が尽きた大広間では、ついに妖精たちの共食いが始まった。少しでも欠損部位がある妖精は容赦なく食糧とみなされた。自分で今まさに産み落とした子ずんを食べる妖精もいる。挙句の果てには、複数の妖精が妊娠した1匹のメス妖精を追いかけ、そのお尻から出たばかりの子ずんに食らいつくまでになった。まさに自業自得、妖精たちはだんだんと数を減らしているが、未だその数は圧倒的だった。人間側は新しく武器を調達し、いよいよ突入すべく移動を開始する。来たるべき戦いにおびえるNo.7に、自分も怖がっている、と弱さをさらけ出したWhiteCULは、新しい愛を育むのであった……
第4話 「突入」
「やれやれ。やっと出来た…」
「どれー！ずんちゃによこしゅのだ！」
「ずんだもち！ずんだもち！！」
「ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！」
「待つのが大事だよ、ほら。大広間に持っていくよ………」
「とびのるのだ！えい！のだあああ！」
「たのち、たのち！」
「むちゃちゃ…おいちおいちおいちおいち！」
「あっずりゅいにょだ！おいちおいちおいちおいち…」
「おいちおいちおいちおいち！！おいちおいちおいちおいち！のだ、のだ！」
バランスボールほどもある、完成した特大ずんだもちを前に、汗を拭うトキさん。肩に乗った子ずんが騒がしく鳴きだし、さっそく飛び乗ってずんだもちを食べだす。
…苦労した感を出しているが、何十年もの間、餅を作り続けてきたトキさんにとって、こんなもの、朝飯前だった。
トキさんも、自分の店で妖精たちの好きにはさせるつもりは最初からなかった。協力すると約束したうえで、わざと時間をかけてずんだもちを作ることで、妖精たちの戦力を削ごうと考えていた。トキさんの見込み通り、食糧の供給が断たれた妖精たちは、共食いを始めて、順調に数を減らしていた。まあ、あんなに増えすぎたのだからマイナスにはならないだろうが。
台所にいるトキさんが、なぜそれを知っているか。それは、頻繁に進捗を見にやってくるおさずんが、わざわざ大広間の状況を話すからである。
「なかまたちはおまえのごはんさんのよういがおそいせいでともぐいをはじめているのだ！おまえのせいなのだくちょばばあ！！わかったらはやくよういするのだああ！！」
「おちびちゃんたちのかずがへっているのだ！！なにもかもおまえのせいなのだくちょばばあ！！ずんだもちができあがったらおまえはどうなるかわかっているのだ？！かくごするのだああああ！！」
などと、喚くだけ喚いて、去っていくおさずん。トキさんを殺せば、さらに飢餓で犠牲が出るとわかってのことだろう。こちらに危害を加えたりはしない。
トキさんは、正直、妖精のことが何も怖くなかった。いつ自分が死ぬかわからない戦争で、逃げまどっていた昔の日々の方が、何倍も恐ろしい。
おさずんは恐怖でトキさんを支配出来ていると思い込んでいるが、全くそんなことはない。
年季が違う！トキさんは、伊達に長生きしていない。
何よりも、トキさんは、これを最期の仕事にするつもりは全くなかった。突入部隊が予定通り入ってくれば、隙を見ておさずんを捕まえて、調理してしまおうと考えていた。
「お待ちどおさん。特大ずんだもちだよ…」
「ずんだもち！ずんだもち！ずんだもち！ずんだもち！！」
「ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！ほしい！」
「ぼくのずんだもち！ぜんぶたべてやるのだ！！」
「うがああああまちきれないのだああああああ！！」
「のだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだのだ！」
トキさんが特大のずんだもちを抱えて大広間に入った瞬間、妖精たちが一斉に騒ぎ出した。一度ずんだもちを目にした妖精の狂いようはすごい。誰もが目をかっと開き、顔を真っ赤にして激しく胎動し始める。マタタビをおあずけされたネコでさえ、こんな風にはならないだろう。
極限状態で共食いまでして、図太くも生き残った妖精たちの抑圧された欲望がここで爆発する。
おさずんが許可を出す間もなく、妖精たちが一斉にずんだもちに突進した。
「おいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいち…………」
ほぼすべての妖精が同じ言葉を発しながらずんだもちに貪りつく。これほどまでに異様な光景はなかなか見られないだろう。
「く、くちょずんどもおおぉ…」
おさずんは、自分の命令を待たずして皆が勝手にずんだもちにかじりついたことに腹を立てているようだった。おさずんも、頭が良い妖精であるとはいえ、本能的な部分は他の妖精と変わらない。自分より先に、他の個体が「幸せ」を享受していることが許せないのだろう。
「…あんたは何してる。食べればいいじゃないか。せっかくあんたがオーダーしたとおりに作ったんだから」
怒りでぶるぶる震えるおさずんに、トキさんが優しく声をかける。
「それに、あんたの子供は誰よりも先に食べだしたよ。こいつら全員を許せないなら、あんたの子供も許せないことになる」
「だ、だまるのだくちょばばあ！！ぼくのおちびちゃんたちはとくべつなのだ！！あんなくちょずんどもとはちがう、ぼくににてゆーしゅーな“もりのけんじゃ”なのだ！！」
「そうかい。ワタシには全部同じ醜いイキモノにしか見えないけどね」
「そういうばかなかんがえかたがどこまでもくちょにんげんなのだああああああ！！」
思い出したかのように包丁を構えなおすおさずん。
「くちょばばあ。ずんだもちをよういしたからといって、このぼくがくちょにんげんごときをゆるすとでもおもったのだ？」
「さァね。でも、あんたみたいな妖精さんはみんなコロっと食べ物で騙されちゃうって聞いたことあるわよ」
「それはくちょずんどものことなのだ！ぼくはあいつらとはちがうのだ！さいきょうのこのぼくはそんなものでだまされるばかではないのだ！！」
「ふふっ。そうは言っても、本当はずんだもちが気になってるようだね…」
くすっと笑うトキさん。勇ましく包丁を構えるおさずんは、さっきから落ち着きなく、ちらちらと横目で特大ずんだもちの様子を見ている。
「ち、ちがうのだ！だまれくちょばばあ！ぼくは、てきがこないかけいかいしているだけなのだ！」
「我慢しなさんな。食べちゃいなよ。ワタシは邪魔しないからさ」
「く、くちょばばあああああぁ…………！」
トキさんに優しくされてもなお、おさずんの本能とプライドとの間で葛藤が続く。
だが。
「おまえがいるとあんしんできないのだくちょばばあ！！おまえのせいなのだくちょばばあ！！」
「…何を言い出すかと思えば。ワタシは丸腰じゃないか。何を怖がってる？」
「だまれ！だまれ！だまれええええええ！！ぼくはさっきいったはずなのだ！ずんだもちができあがったらおまえをぶっころしてやると！！」
「ああ、言ってたかもね。でも、あの特大ずんだもちだって無限にあるわけじゃない。あれがなくなったら、誰が代わりのずんだもちを作るんだろうねェ」
「そしたらまたどれーをつかまえればいいのだ！くちょばばあ！！おまえはよーずみなのだあああああああああ！！」
「そっかあ、残念ねェ」
その小さな脳みそで処理しなければならない情報量の多さにとうとう錯乱したおさずんは、暴力に訴えることに決め、包丁を振り上げた。
「くちょばばあ！！ぼくのためにしぬのだあああああああああああああああああああああああああ！！」
「まずいっ！！突入っ！！」
ばーーーーん！！
ついに、扉が蹴破られた。カメラマンを地下室に残した7人が豪邸の内部へと突入を開始したのだ。
先頭の機動隊員が、何かを投げて叫ぶ。
「トキさん！目を覆って床に伏せて！！」
「あいよっ！！」
「なっ、なんなのだあああ！？」
おさずんは突然の出来事で包丁を振り上げたまま固まっている。
ピカッ！！
手はず通り。隊員が投げたのは対妖精用の閃光手榴弾だった。強烈な光をまともに食らったおさずんは、その場で包丁を抱えたまま硬直する。
「のがあああああああああああっ！ぼくのおめめしゃんがあああああああ！！」
「いまっ！」
ダアアアアアアン！！
機動隊員のシールドに守られながら突入したNo.7が、ショットガンを撃つ。これでおさずんを仕留め、指揮系統を麻痺させる作戦だった。
しかし。
「おさずん、おまもりしますのだ！こちらへくるのだ！」
「にげるのだ！のだのだのだのだ！」
おさずんは飛んできた近衛兵のような妖精3匹に連れられ、台所から大広間へと逃げて行く。間一髪のところで散弾の雨から逃れたらしい。
おさずんは仕留められなかったが、突入部隊は重要な作戦を完遂した。人質であったトキさんを、無傷で救出することが出来たのである。
「ばあさん！ばあさん！！すまんかった…………生きていてくれてありがとう…」
「じいさん、ワタシからもありがとう…じいさんたちが来るとわかっていたから、ワタシもここで頑張れたんだ…」
それは、感動の再開だった。タカハシは、抱き合っているふたりを誘導する。
「さあ、ダイゾウ氏！トキ氏！急いで地下室まで！！」
「ああ、かたじけない。皆、本当にありがとう！お礼は、すべてが終わったらさせてくれ…」
「皆、ワタシのためにありがとう…同じく、いくらでもお礼はさせてくださいな」
「ダイゾウさん！トキさん！あとは任せてっ！！」
地下室へと走る老夫婦を護衛しながら、WhiteCULがガッツポーズを送る。あとは、この豪邸の中にいるすべての妖精を殲滅するだけだ。
人質を救出出来た今、突入部隊はほぼ自由に戦える。
大広間では、目をやられて呻き続けるおさずんを抱えた近衛兵たちが戻ってきて叫んだ。
「てきしゅー！てきしゅーなのだ！くちょにんげんどもがせめてきたのだ！みな、ぶきをもつのだ！むかえうつのだ！！」
「おいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいちおいち…………」
「な、なにしてるのだ……」
異様な光景に絶句する近衛兵。妖精たちは近衛兵の言葉に耳を貸すことなく、ずんだもちを貪り続ける。ずんだもちに潜り込んでお尻だけを見せている個体もいる。これもトキさんの作戦通りだった。一番制圧が難しそうな大広間の妖精をずんだもちに釘づけにしておくことで、他の部屋の制圧を容易にしたのである。
「お、おめめしゃん、おめめしゃん…」
おさずんは、激しい光にさらされた目を押さえて呻き続けることしか出来ない。だが、包丁は、頑なに手放さない。この包丁こそが、おさずんを「おさ」たらしめる武器であったからだ。
No.7とWhiteCULは共に行動し、次々に部屋の扉を開けて、妖精たちが固まっていたらショットガンを放つために豪邸の中を駆け回った。
お孫さんが使っていたという部屋には妖精はいなかった。
だがトイレには、便器に溜まった水で泳ぎながら遊ぶ子ずんの群れがいた…
「にょだーにょだにょだにょだ！！おみずさん、つめたくてきもちーにょだ！！」
「おみずしゃん、おいち、おいち」
「のだ？なにかきちゃのだ！！」
「ごはんしゃん、よこしゅのだ！」
無邪気に遊ぶ子ずんたち。だが、今回は殲滅戦。何も知らない子ずんであっても殺害の対象だ。
ダアアアアアアン！！
「のばあ”あ”っ」
ガチャッ！カランカラン…………
散弾をまともに食らった子ずんたちの肉片が飛び散る。No.7はすっかり慣れた手つきでレバーを動かして空のシェルを排莢した。
恐怖で自分の精神が壊れることのないよう、あくまで無感情に、生き残りの子ずんがいないかを確認するNo.7。子ずんの返り血で緑色に染まった防護服を含め、テレビでは絶対に放送出来ない光景だ。
「…クリア」
タカハシたち機動隊員は、大広間の前に妖精たちが築いたバリケードの撤去を試みていた。まだ大広間から妖精は飛び出して来ないものの、危機を察して別の部屋から飛び出した妖精の抵抗は激しく、思うように作業が進まない。
「何としてでも突破口を開くぞ！大広間を制圧しなければこの戦いは終わらない！！たぁっ！」
「ぼくたちのおいえをまもるのだああああっ！」
バチっ！！
「のじゃあああああああいっ！！」
爪楊枝を構えて突撃してきた妖精を電磁警棒で吹き飛ばしながら、タカハシは隊員たちを鼓舞した。
タカハシたちがNo.7とWhiteCULの護衛に行かないのは、妖精たちの注意をこちらに引き付けるという目的もあった。タカハシは民間人ふたりの単独の行動に関して反対したが、何よりも、彼女たちを信じるほかなかった。
なぜなら、無理にでも彼女らを護衛しようとついていったならば、僕が…いや、私が、「百合の間に挟まる男」になってしまうではないか！
それは、万死に値する。
バリケードとして積み上げられたガレキや机、椅子を確実に撤去していくタカハシたち。だが、同じ場所にとどまり続けているため、妖精たちの集中攻撃を浴びることになった。
「ずんちをくらうのだあああああ！」ブリブリブリッ！
「ちーちーちいいいいいいいいいいいいいい！」ジョロロロ…
「いいじょ！くちょにんげんどもがよわってきちゃのだ！！」
「いっきにせめるのだああああ！！」
空中からフンや尿を爆弾のように落とす妖精。汚物は、防護服に命中してきついニオイを放つ。
汚くて、タカハシはつい手で払おうとしてしまうが、妖精たちに隙を見せるわけにはいかなかった。そんなタカハシに、妖精が一斉に襲い掛かる。
「た、タカハシ隊長！？」
「うおおおおおおっ！？」
妖精たちの持つ武器は、大抵が木の棒や爪楊枝、刺繍針等である。これらはなかなか防護服を貫通することは出来なかったが、特にガラス片や石、ナイフ等は凶悪だ。また、爪楊枝が貫通出来ないとわかると、鋭い歯で噛みつく個体もいた。
だんだんと、タカハシの防護服が破られていく。
「何とおっ！！」
タカハシは電磁警棒を振り回して妖精をこれ以上近づけまいとする。だが、防護服が破れて装甲が薄くなった部分をめがけ、ナイフを持った妖精が攻撃を集中してきた。
ずばっ！ざしゅうっ！
「うぅっ！？」
「のーだのだのだ！そのちょーしなのだ！くちょにんげんをころせえええええええええ！！」
肩や膝を負傷し、よろめいたタカハシを見て、妖精たちが勝ち誇る。
「たっ、タカハシ隊長！申し訳ありません！離れろっ！離れろ！！」
妖精の攻撃で脚部を負傷した隊員が必死でタカハシに近づき、タカハシにとりついた妖精を直接引き剥がす。だが妖精たちは、まるで巣の寝込みを襲われたスズメバチのように、どんどん数を増やしていく。
あっという間に、機動隊員4人は妖精の大群に包囲され、壁際に追い詰められてしまった。全員の防護服はもうボロボロであった。体のあちこちから、血が流れだす。
「もうおわりなのだ、くちょにんげんども。かとーせいぶつがいきってんじゃねーのだ！」
「のーだのだのだのだのだ！のーだのだのだのだのだ！ざこ！ざこ！くうぅーちょ、にいぃぃーんげんっ！！」
尖った石器を持った妖精が叫ぶと、周りの妖精も呼応して嘲笑う。戦闘民族なのだろうか。どの妖精も、体長が30センチ程と大きく、力も強そうであった。
「…フラッシュバンは？」
「もうありません、申し訳ございません…」
「いや、いい。私たちの任務は無事に完了した…」
妖精たちは気が付いていないが、バリケードの一部はタカハシたちの手によって撤去され、大広間までの一本道が見えていた。
「…あとは彼女たちに任せよう」
「そうですね、我々はここで最後まで妖精を食い止めましょう」
「くちょにんげん、なにをくしょくしょそーだんしてるちゃ！もうむだなのだ！！」
「ころしゅ？ころしゅ？」
「ころしゅのだ！あとかたもなくしてやるのだ！」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああっ！」
雄叫びをあげて、妖精たちが突撃する。
だがタカハシは、ここで殺される気はなかった。別の部屋で戦っている彼女たちの愛の行方をこの目で見届けるまでは、死ねない。
「…私は生きる。そこに百合の花が咲く限り」
負傷した部下たちを守るように、タカハシはシールドを構える。それは、北海道まで向かった隊長が、四輪車に乗り込む前に渡してくれた特殊シールドだった…
ダアアアアアアン！！
「のぎゃあああああああああっ！」
順調に各部屋の妖精たちを始末していくNo.7とWhiteCUL。主にNo.7が前衛でショットガンを放つが、彼女がショット・シェルを弾倉へとリロードする際には、隙を見せぬようにWhiteCULが前に出て火炎放射をおこなう。息の合った連係プレーであった。
「あぢゅいあぢゅいあぢゅい！あああああああああああああ！！」
「ななさんっ！これ、おうちも焼けちゃうよっ！！」
ショットガンで仕留めきれなかった妖精を燃やしながら、悲痛な声でWhiteCULが叫ぶ。妖精を駆逐するためなら、どれだけ家を壊してくれても構わないと念を押してくれていたダイゾウじいさんとトキさんではあったが、いざ自分が放った炎で、木造の家に火が付くのを見るのは忍びなかった。
「うう…これしか方法はないんですね…なるべく最小限にしないと……来ますっ！！」
「わっ！なんでこんなにっ」
「みつけたのだ！くちょにんげんにひきなのだああああ！！」
「ころしゅのだ、ころしゅのだ！！」
火器を持った人間たちが、部屋を壊滅させて回っている。妖精たちの間で、その情報は一瞬で伝わったらしい。武装した妖精たちが、廊下の向こうから猛スピードでこちらに向かってくる。その数、30は下らないか。
「…やはりただでやらせてはくれないか」
がちゃんっ！
ショットガンに予備弾薬を装填し終えたNo.7は、レバーを操作すると、毅然とした表情で妖精たちに対峙した。
まだだ。まだ…
もっと引き付けて…
「おじけづいたのだ！？くちょにんげん、しねええええええええええ！！」
先頭を飛ぶ妖精が目の前に接近する。No.7は、極限まで妖精たちを引き付けることに成功した。
あとは、撃つだけ。
ダアアアアアアン！！
「ぼげええええええええっ！」
がっちゃっ！ダアアアアアアン！！
「ごがあああああああああああ！」
がっちゃっ！ダアアアアアアン！！
「ぐぶえええええええええええ！」
がっちゃっ！カランカランカラン…
一気に3発。即死した妖精も数多くいたが、散弾で四肢を吹き飛ばされるにとどまった妖精たちは床に落ち、痛みで激しくのたうち回る。中には、ゾンビのようにこちらめがけて這いずる個体もいた。
「おっ、のが、く、くちょおおおおおおお、にんげんんんんんんんっ！」
「燃えろっ！」
ちゅううううううん！
「あぎぃいいいいいいいいいいいぃ！あぢゅいあぢゅい！あぢゅいあぢゅいああああ！！」
床に落ちた個体も、WhiteCULが炎を浴びせてとどめを刺す。一度火がついてしまったら、余程のことがない限り消火は困難だ。
お互いの弾薬も燃料も、かなり減ってきた。
だが、これで大広間以外の部屋の妖精を始末することが出来た。あとは、大広間へ向かうだけだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁ…」
「はぁ、はっ、はっ、はあ………」
炎と煙と、妖精の焦げるニオイとが激しさを増す中で、ふたりの女性は荒い息でうずくまる。
「ね、ねえっ…ななさん」
「…何ですか、雪さん」
「わたし、この戦いが無事に終わったらねっ…」
「やめて、雪さん…今、そんなこと」
「言わせてっ…わたし、ななさんと…………えっ！？」
「にょだにょだにょだ、にょだにょだ…」
ふたりの世界に割り込むように、後ろからゆっくりと接近する子ずん。全部殺したはずではなかったか。
「会話を邪魔してっ！！ゆ”る”さ”な”い”っ！」
憤ったWhiteCULが叫び、火炎放射器を子ずんに向ける。
「にょだ？く、くちょにんげんなにょだ！ぷ、ぷ、ぷ…」
「待って！雪さん！！」
「えっ」
No.7は恐ろしいことに気づき、慌ててWhiteCULを制止する。この子ずん、お腹が肥大化している！！タカハシが突入前に言っていた、爆弾妖精だ！
「伏せてっ！！」
「ぷ、ぷ、ぷ、ぷきゅうううぅぅぅうぅぅぅぅううううぅっ…………！！」
威嚇するかのように、頬を膨らませる子ずん。次の瞬間、子ずんの体は爆弾のように破裂した。
ぶっぱああああああああああああああああああん！！
「きゃあああああああああああああああああああああああああっ！？」
ばしっ！！
臓物と体液とフン尿とを、体内で圧縮した消化ガスによって一気に体外へと炸裂させた子ずん。まさに爆弾のような衝撃波をまともに受けたふたりは大きく吹き飛ばされ、壁に体を酷く打ち付けた。
「うっ…！」
全身を強打したNo.7はショットガンを取り落とす。意識が遠のいていくのを感じる…………
「や、やったのだ！ぼくたちのおちびちゃんがくちょにんげんをころしたのだ！」
「おちびちゃんばくだん、すごいのだ！！おちびちゃんにはかわいそうだけど、おちびちゃんもきっとてんごくでよろこんでいるのだ！」
壁の隅に空いた穴から、妖精のつがい2匹が飛び出す。子ずんを爆弾に仕立て上げたのは、どうやら彼らのようだった……
「ねんのため、したいをかくにんするのだ！ごはんさんをもっているかもしれないのだ」
「のだ、のだ！ごはんさん、ごはんさん！！」
それから妖精たちは、動かなくなった彼女たちに向かって四足歩行で歩き出した。
「…食らえっ！」
自分たちにとどめを刺そうと向かってくる妖精たちを見てニヤリと不敵に笑ったタカハシは、シールド裏に備え付けられたトリガーを引く。
バババババババババババ！！
シールドが…いや、シールドに備え付けられたマシン・ピストルが火を噴いた。
ドパン！ドパン！ドパン！ドパン！
「ぎゃっ！」「ぐぶっ！」「のげっ！」「ぎびゃっ！！」
マシン・ピストルに装填されていた弾薬は、対妖精用の炸裂弾だった。1匹の妖精に着弾すれば、弾頭にたっぷり内包された炸薬が破裂し、周りの数十匹の妖精たちの体をもバラバラにしてしまう。
妖精たちは、機動隊員らを逃がさないために密集して突撃していた。そこが、仇となった。
あっという間に、形勢が逆転した。機動隊員4人の周りにはあっという間に妖精の死骸の山が出来た。鼻の曲がりそうな死臭が、タカハシたちの勝利を告げている。
妖精たちが完全に静かになったのとほぼ同時に、マシン・ピストルの100発あった弾丸も尽きて、銃口から煙を漂わせながら静かになった。
「うぐっ…タカハシ隊長！ありがとうございますっ…」
「ああ。諦めなければ生き残れるんだ…」
身体中から血を流し、痛みに呻きながらも自分に感謝を述べる隊員たちを振り返ったタカハシは、ニヒルに笑って言った。
「そうすれば、また花を見ることが出来る」
ぶっぱああああああああああああああああああん………
血まみれのタカハシは、カッコよくキメたつもりだった。だが、廊下の方から大きな爆発音が聞こえると、その表情はまた険しくなる。
「なっ…爆弾妖精が残っていたというのかっ！？」
しかも、音の聞こえた方向は…
「セブンさんとカルさんが危ないっ！！うっ、うう…」
救援に向かおうと体に力を込めるが、膝をついてしまうタカハシ。妖精の猛攻を受けた体では、もはや自力での歩行は困難だった。妖精に噛み破られた関節からは、血がドクドクと流れ出る。
「これしきの…ことで………止まる…わけにはっ！」
弾切れになったシールドにもたれかかるようにして、必死で倒れまいと踏ん張るタカハシ。
だが、自身もわかっていた。もう、限界だった………
心残りは、儚い百合の花をお守り出来ないことだけ………
びちゃっ！！
タカハシは、悔しさを身に滲ませながら、自らの血の海へと倒れこんだ。
「隊長っ！タカハシ隊長っ！！しっかり！」
負傷した3人の隊員が這いずってタカハシの元へたどり着く。彼らはポーチに仕舞っていた救急キットで、タカハシを失血死させぬよう、救命作業を開始した。
「う、いたっ…」
気が付いたWhiteCUL。彼女は肩を強打していたが、問題なく動かせた。
爆風をまともに浴びて、防護服は見事にビリビリに破けている。だが、これがあったおかげで、大ケガをしなくて済んだ。
子ずんの爆発で生じた衝撃波の威力はものすごく、ガラスを大きく割り、豪邸の壁の一部を吹き飛ばして外気を流れ込ませてさえいた。だが、丈夫な柱のおかげで、倒壊は免れたようだ。彼女たちは、ガレキの下敷きにならずに済んだ。
「な、ななさんっ…！」
慌ててWhiteCULはNo.7の方を見やる。No.7は彼女のすぐ隣に仰向けで倒れていた。気絶しているようだ。だが、息はある。
「よ、よかった…」
彼女も同様に、爆風によって防護服が大きく破け、豊満な胸を包む衣装があらわになっていた。
それを見てごくり、と唾をのむWhiteCUL。いやいや、こんな時にそれは違う、と自分を制し、動かない彼女の肩を掴む。
「ななさん、ななさんっ」
気絶した人を揺さぶると良くない、とはどこかで聞いた気がしたので、WhiteCULはNo.7の肩を叩いて呼びかけた。だが彼女からの返事はない。
「うう；；」
WhiteCULが半ベソになりかけた、その時だった。
「のだぁ！ごはんさんさがすのだ！！」
「のだのだのだのだ！！」
ぽいんっ！
「ひっ…！？」
どこからともなく歩いてきた2匹の妖精が、あろうことかNo.7のふたつの膨らみの上に飛び乗ったのである。
「のだぁ？なんだかやわらかいのだ！」
「おもちさんみたいなのだ！きっとごはんさんなのだ！」
間近に妖精が現れた恐怖で顔を引きつらせるWhiteCULだったが、次第に怒りでその顔を真っ赤に染めた。
「わ、わたしを差し置いてっ…こんな………ゆるさないっ！！」
正常な状態の彼女ならば、妖精を触ることすら躊躇しただろう。だが、怒りで我を忘れたWhiteCULは、むんずと2匹の妖精を掴み上げる。
ぽよん！ぽよん！
「のだのだのだのだ！たのち！たのち！………のだっ！？」
「ごはんさん、たべるのだ！あがああああ…がっ？！」
No.7の胸をトランポリンのようにして遊んでいた妖精も、今まさに、胸に歯を突き立てようとしていた妖精も、WhiteCULの接近には最後まで気がつかなかった。
「は、はなしぇ！く、くちょにんげん、いきていたのだあああああ”あ”あ”あ”あ”っ？！」
ぐちゃあっ！
「そ、そんな…おちびちゃんばくだんでかくじつにころしたはずなのだあああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”……！！」
ぐぢゅうっ！！
「はあぁーっ！はあーっ…！！」
あまりの悔しさに大粒の涙を流しながら、声もなくあっという間に妖精を握りつぶしたWhiteCUL。
やがて息を整えた彼女は、自分の手を見て叫ぶ。
「わああああっ！わたし、また妖精握りつぶした！握りつぶしたっ！ええ〜んっ！」
彼女が妖精を握りつぶすのはこれが最初ではない。ヘリコプターの上で、やむなく殺した。あの時はリポーターとして中継をしていたから、スタジオのNo.7やテレビの前の視聴者を安心させたかった。だから、抵抗なく握りつぶせた。
だが、今回は極限状態であったとはいえ、WhiteCULは、怒りに任せて妖精を殺してしまった自分自身に恐れおののいていた。
「わあっ！わっ！わああっ…」
手に付着した妖精の臓物や体液を、破けた防護服の切れ端で必死に拭うWhiteCUL。本当は気の済むまで手を洗いたかったが、そんなことが出来る状況ではない。
それよりも、彼女にはやるべきことがあった。気絶したNo.7を起こさなくては。
念入りに拭いたとは言え、妖精を握りつぶした手でNo.7に触れるのはとても気が引けたが、やむを得ない。彼女はNo.7の肩をもう一度掴み、声をかける。
「ななさんっ…ななさんっ！」
反応はない。わたしひとりになったら、これからどうすればいい？そんな不安がWhiteCULの全身を駆け巡る。
「ひとりなんて嫌だっ！起きてよななさんっ！！」
半ベソになったWhiteCULは、手をNo.7の首に回すと、自分の唇を彼女の唇に押し当てた。
………私は、どのくらい眠っていただろう。頭が重い。
あれ、何か息苦しい。生命の危機だ。早く起きて、この場を離れなくては。
それよりも、大事な存在を忘れていた。
………雪さん。
雪さんは大丈夫だろうか。いや、私は何でこんなに息が出来ない？！
「…ん、んっ………ぷはっ！？」
「ぱっ………な、ななさんおきたっ！よかったぁ！！」
目を開けて大きく息を吸うNo.7。ベソをかいていたWhiteCULが慌てて唇を離す。
目を覚ましたら、WhiteCULが目の前にいた、という喜びと困惑を複雑な表情として顔にあらわすNo.7。
ゆっくりと自分の唇を指でなぞる。
「………雪さん」
「は、はいっ」
「…ちゅーしましたね」
「…っ！！」
上目遣いで頬を赤らめてWhiteCULを睨むNo.7。WhiteCULはその無防備な姿に言葉に詰まるが、急いで火炎放射器を構えなおして立ち上がる。
「…続きは、戦いが終わってからねっ！」
照れ隠しのように、背を向けて歩き出すWhiteCUL。No.7は慌てて立ち上がり、ボロボロの防護服を脱ぎ捨てると、吹き飛ばされた時に落としたショットガンを抱えて慌てて彼女の後を追った。
「もう、窒息しそうだったんだからっ…」
それでも、No.7はもう1回WhiteCULがキスしてくれて嬉しかった。
WhiteCULがいてくれるだけで、もう何でも出来る気がしていた。
〜つづく〜
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タカハシは死なぬ、何度でも黄泉返るさ！
おさずんが爆発四散する前に何らかの画像に収まると良いけど、タイトル…あっ(冊子)いやいやそんなことは
ずんだ虫側は極限状態なのにおさずんに積極的に反抗したり離反するやつがいないってのはやっぱりひっかかるんだよな
考え過ぎ(裏読みすぎ)なのか、おさずんの方に何かしらの仕掛けでもあるのか、うーむ
コメントありがとうございます。タイトルの意味は、果たして……？
おさずんとその他の妖精の関係については本日投稿した第5話にて明らかになっております！ぜひご覧ください（思ったより大したことないかもしれません、すみません）
タ、タカハシ・・・！
最後に秘密兵器で逆転とか、マジでかっこいい
だからここでﾀﾋぬんじゃないぞ。百合の花を見届けろ
後は外部からの突入班と共に残敵の掃討ですか
おさずんの最期も近いですね
おさずんが愛誤団体製なのを確認したら、これを以て愛誤団体が妖精を使って起こしたテロの一つに（ｒｙ
早く愛誤団体や加担する反人類勢力の殲滅、根絶を見たいです
コメントありがとうございます。おさずんの最期、丁寧に描いていくつもりですのでご期待ください！！
おそらく炸裂弾？という弾薬は人間に対しては非人道的かと思われますが、妖精には関係ない、容赦するなということで()