ハッピー・ハロウィン！！皆さま、いかがお過ごしでしょうか？
今回の読み切りは、ハロウィンをテーマに書きました。日本におけるハロウィンってもはや、名前だけ残した謎の風習になっているなあと、書いていて思いました。
他の投稿者様の作品群と内容が被ってしまっていたら申し訳ございません！！
ハロウィンチョ子ずん（ロシアンルーレット）
「「「トリック・オア・トリート！」」」
また今年も、この季節がやってきた。ジャック・オー・ランタンや、フランケンシュタイン（の怪物）のお面を付けたり、白いぼろきれをかぶったりして、オバケになりきった子どもたちがお菓子をもらうために町を練り歩き、インターホンを鳴らす。
「あら子どもたち！かわいいですね」
「セブンおねーちゃん！トリック・オア・トリート！！」
「はい。好きなだけ持っていってね」
「やったあ！キャンディだ〜！！ありがとうセブンおねーちゃん！！」
大学帰りの俺が通りかかった学生寮のような場所にも、仮装した子どもたちがお菓子をもらいに来ていた。子どもたちに大量のキャンディを渡しているのは、とても綺麗な女性だった。
うわあ。俺もあんな綺麗なお姉さんにお菓子もらいてえよ。
大学生になってみて思うけど、ハロウィンでお菓子をもらうことって、子どもだから許されるイベントだなって。
俺が仮装して各家庭を練り歩いていたら、それこそ不審者だって。
「………ななさん何してるの…………あっ、そっか、今日ハロウィンだったっ」
「あっ！！びえーんのおねーちゃんだ！！トリック・オア・トリート！」
「その呼び方なにっ？……困ったな、わたしバニラソフトクリームしかないんだけどなっ」
「う、う〜〜〜ん……今は、今は大丈夫かな……ありがとう、おねーちゃんたちっ！また遊ぼうね〜！」
「は〜い！ハッピー・ハロウィン♪」
お菓子をもらい終えた子どもたちが去っていく。ふたりに増えたお姉さんたちも、学生寮の中に帰っていくようだ。
「……ねえななさん……わたし、嫌われちゃったかなっ」
「雪さん、大丈夫ですよ！でもソフトクリームは……ちょっとこの時期だと冷たすぎたかもしれませんね」
「びえーん；；」
………………………
電車に乗って帰ってきた自分の住む町でも、道行く子どもたちがみんな、仮装しているのに気付いた。町全体がこの光景にはなれっこのようで、スムーズなお菓子の取引がおこなわれている。平和な光景だった。
…………そんな平和を邪魔するように、やっぱり現れた。
「のだのだのだのだ、のだのだのだのだ！」
親ずん2匹と、子ずん9匹からなる妖精の大家族だった。小さな足をよちよちと動かして、地面を這っている。ゴミ捨て場から出て来たのだろう。食べていたと思われる生ゴミを放り出して、住宅街へ向かって一列になって歩いている。
「のだ、さっき、くちょがきがおかしさんをもらっていたのだ！！」
「ほんとうなのだ、ぱぱずん？……おちびちゃん！きょうは、くちょにんげんのおうちさんにいけば、おかしさんがもらえるひみたいなのだ！」
「おかーちゃ、おかーちゃ、おかち？おかち？」
「おちびちゃん、おかしさんっていうのは、たべるとしあわせになれるごはんさんなのだ！！さっきのごはんさんよりも、もっとしあわせになれるのだ！！」
「おかちしゃ、おかちしゃ！！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！」
「のだ！おちびちゃんたちは、くちょがきなんかよりもかわいいから、きっと、くちょにんげんもよろこんでおかしさんをくれるはずなのだ！」
俺は、人間の子どもたちがお菓子をもらっているからといって、自分たちの子ずんもお菓子をもらえるのが当然、と妖精が思い込んでいることに、イライラを溜めていた。
何て図々しいんだろう。
俺には、妖精たちを踏み潰すなんて造作もない。だけど、今日に限っては…………踏み潰すよりも、もっと楽しいことが待っている。
「のだのだのだのだ！おいくちょにんげん！かわいいおちびちゃんたちに、おかしさんをもってくるのだ！」
「お帰りよ。アンタたち妖精にあげるお菓子なんてないわ」
「うそつくななのだくちょにんげん！！さっき、くちょがきがここにおかしさんをもらいにきていたのだ！」
ああ、お花屋さんのおばさんが絡まれている……
助太刀すべきかと逡巡したが、おばさんがチリトリを持ってきたので、手出しは無用と判断した。待ちきれないとばかりに、「ぱぱずん」が宙に飛び上がった。
「くんくん、いいにおいがするのだ…………くちょにんげん！おまえがおかしさんをくれなくても、うばっていくまでなのだ！」
「こら、害獣……いい加減にしないと、ぶったたくよっ！！」
「のぞむところなのだくちょにんげん！ぼくたち“もりのけんじゃ”にさからったことをこうかいするのだああああああああああああああああ！！」
ぱぱずんが歯をむき出して突進するが、おばさんは上段に大きく構えたチリトリを振り下ろして、ぱぱずんを弾き飛ばした。
ぱああああああああああん！！ 「ぐぼおおおおおおおおおおおおっ！？」
チリトリがクリティカルヒットしたぱぱずんの体は、公園の方まで大きく吹き飛んだ。
「ぱ、ぱぱずん！いまたすけるのだ！おちびちゃんたち、くるのだ！！」
「お、おとーちゃ、おとーちゃ！！のだのだのだのだ、のだのだのだのだ……」
「ふん。二度と来るんじゃないよ！！」
取り残された「ままずん」と子ずんたちは、慌ててぱぱずんのあとを追い始めた。チリトリを武器のようにヒュンヒュンと振り回したおばさんが、店の奥へ帰っていく。
俺はあの妖精たちがどうなったか確認するため、公園に入った。
「はあ…………はあ…………いちゃいい、いちゃいよおおお……」
「し、しっかり、しっかりするのだ、ぱぱずん！」
「おとーちゃ、おとーちゃ…………ちなないで、ちなないで……」
チリトリで思い切り叩かれたぱぱずんの体は、骨格が曲がったのか、ぐちゃぐちゃになっていた。体液を噴き出しながら、痛みにもがいている。
いやあ、いい気味だ。
「ま、ままずん……おち、おちびちゃんたち……ぼくたちは、ほこりたかき“もりのけんじゃ”なのだ。ぼくがしんでも、いつのひか、いつのひか……くちょにんげんがぼくたち“もりのけんじゃ”にひれふすひがやってくるのだ！」
「ぱ、ぱぱずん！」
「そのひまで、いき、いきるのだ……ぼくのぶんまで、しあわせに、なって、ほし…………」 パタリ
妄言を吐くだけ吐いて、ぱぱずんが死んだ。いや、“もりのけんじゃ”と名乗る存在がこうも簡単に死んでいいものかね。
「ぱ、ぱぱずうううううううううううううぅん！や、やくそく、やくそくするのだ！ぼくたちは、ぱぱずんのぶんまでいきるのだああああああああああ！！しあわせに、なるのだあああああああああああああああ！！」
「おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃー！！おとーちゃ！おとーちゃああああああ！！」
生き残った妖精たちが泣き始める。うるさかったので、俺は足早に妖精たちの前へと出た。
「Hello there！（やあ！）」
「のだっ！？く、くちょにんげん！！ち、ちかよるなあああああ！！」
「お、おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃー！きょわいにょだああああああああああああ！！」
ままずんと子ずんたちは、突如現れた俺の姿に恐怖して後ずさり始める。ぱぱずんが人間によって殺される光景を目の前で見たからか、無謀にも挑みかかってくるなんてことはなかった。
「待て待て、お前たち。お菓子は欲しくないか？」
「えっ……ほし、ほしいのだ、ほしいのだ！！」
「お、おぎゃ？……お、おかちしゃ、おかちしゃ！！」
よしよし、釣れた。単純だから助かるぜ。
「実はな、お菓子が余っちゃって。誰かにあげたいと思っていたんだ」
「そ、それなら、ぜんぶぼくたちによこすのだ！！おかしさん、おかしさん！！」
「おかちしゃ、おかちしゃ！！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！」
まるでぱぱずんが死んだ悲しみをすっかり忘れたかのように、妖精たちは胎動を速める。
俺は虫カゴを出して、子ずんたちが入れるように地面に置いた。
「よし、じゃあ俺の家まで連れてってやるから、お菓子が欲しいやつはここに入れ」
「はーいのだ！はーいのだ！！」 「にょだにょだ、にょだっ！」 「おかちしゃ、おかちしゃ！！」
すっかり騙された9匹の子ずんたちは、我先にと虫カゴの中へ入っていく。だが、ままずんは警戒しているのか、また一歩後ずさった。
「ぼ、ぼくは、いかないのだ！おち、おちびちゃんかえせええええええええええ！！ここまでおかしさんをもってくるのだ、いますぐでいいのだ！！」
「俺の家に来ないと、お菓子あげられないかな。お前だけ置いてってもいいけど」
「そ、それは……だめなのだ！おちびちゃんたちは、ぼくがまもるのだ！！それに、おかしさんは、ぼくのものなのだ！！」
「じゃあ、入りなよ。こっちに」
「おかーちゃ、おかーちゃ！！おかーちゃも、きゅるにょだ！おかちしゃ、たべりゅのだ！！」
興奮した子ずんがままずんを呼ぶ。俺はままずんを、子ずんとは別に、小さな虫カゴに案内した。
「……お前、子だくさんだなあ。9匹もいるのか」
「そ、そうなのだ！ぱぱずんといっぱいへこへこしてうんだ、かわいいおちびちゃんたちなのだ！！」
自慢げに鼻息を荒くするままずんが、カゴに入った。出られないように、固くフタを閉じる。
自分だけが別の場所に閉じ込められたことに気づいたのか、ままずんは虫カゴの壁面を前足で引っ掻き始めた。
「だ、だせだせ、だせええええっ！だすのだくちょにんげん！！ぼくも、ぼくもおちびちゃんたちといっしょのところに、はいるのだあああああああああああっ！」
「お菓子いらないのか？ワガママ言うと、お前だけお菓子あげないぞ」
「の、のだ…………」
ままずんが暴れるのをやめると、俺はふたつの虫カゴを持ち上げて、家へと帰る。この短時間で、子ずんが9匹も手に入った。正直、子ずんだけでよかったんだが、まあ、ままずんも会場を盛り上げてくれるだろう。
世間で、「パリピ」なんて言われて、もてはやされているような人たちは、今日、渋谷だかどこかに行って乱痴気騒ぎしているんだろう。
貧乏学生の俺には知ったこっちゃない話だった。他人に迷惑かけてまで、騒ぎたくないし。
……だけど、イベントに際して何かしらの特別感は欲しいんだよな。
ということで、俺は大学のバンドメンバーと一緒に、ささやかなパーティーをすることにしたんだ。
「おかちしゃ、はじめてたべりゅのだ！」 「のだ！たのしみなにょだ！」 「たのちみ！たのちみ！」 「にょだにょだ、にょだにょだ！！」 「おしょらさん、とんでりゅのだ！」 「きもちーにょだ！！」 「ずんちでりゅ……ずんちでりゅ……」 「うわゃ、くちゃい、くちゃい！！」 「ずーん……ずーん……」
カゴの中で鳴き交わす子ずんたちは、まだ見ぬ「おかちしゃ」を想像して期待を膨らませているようだった。いいご身分だよ、まったく。
俺に言わせりゃあ、トリック・オア・トリックだ。害獣なんかに、選択肢なんか与えてやらん。施しなんかしてやらん。
子ずんを捕まえたのは、これから作るお菓子の材料にするため。
「おかちしゃ！おかちしゃ！どこ？どこ！？ずんちゃのおかちしゃ！！」
「こ、ここが、くちょにんげんのおうちさんなのだ……？ついたなら、とっととだすのだ！おい、ここから、だせえええええええええええええええ！！」
家についても、妖精たちは喚き散らしている。俺はそれを無視して虫カゴをカウンターに置いて手を良く洗うと、あらかじめボウルに溶かしておいたチョコを取り出す。
うん、いい感じだ。
「にょだにょだ、にょだにょだ、ずんちゃのおかちしゃ、ずんちゃのおかちしゃ！！」
ボウルに入ったチョコを目にした子ずんたちは、虫カゴの中で激しく動き回る。
そんなに焦らなくても、今に出してやるって。
……ボウルの中に。
「そ〜らよっと！」 がさがさがさっ！
「にょだああああああああああああああああああっ！！」 ぼちゃぼちゃぼちゃっ！
リズミカルな音で、子ずんたちはボウルの中に飛び込んだ。飛び込んだというより、俺がカゴをひっくり返したから、落ちたという方が正しいかな。
あっ、さっき虫カゴにクソしてたやついただろ。ひっくり返した拍子に、それもチョコに入れちゃったよ、もう。
「お、おちびちゃああああああああああああああああん！く、くちょにんげん！なにしてるのだ、せつめいするのだああああああ！！」
「何って、子ずんたちにお菓子を食べさせてるんだよ」
「おいち、おいち…………ありぇ？とれないにょだ！」 「にょぶぼぼぼ……べちょべちょ、べちょべちょ！！」 「おぼれりゅ、おぼれりゅ！！きょわいよおおおおおお！！」 「おぎゃぼっ、おぎゃーおぎゃぐぼおぶっ……」
ウソではなかった。子ずんたちは体中をチョコまみれにしながら、口の中にチョコを吸い込んでいる。だが、そのせいで次々に溺れ始めた。
「おかーちゃ、おかーちゃぶぶっ」 「ごぼっ、ごぼっ、くるち、くるち」 「ぐぶっ、ぐっ……ぼぅ……」 「はがぼもぼ……」 「たしゅけ、たしゅけごぶごぼ……」
溶けたチョコはまるで底なし沼のように、子ずんたちの体を飲み込んでいく。呼吸が出来ず、既に死んだ個体もいる。
まだ生きている子ずんたちは、必死に抜け出そうとその短い前足をぐるぐると回す。しかし、ボウルの周りにチョコをばちゃばちゃと跳ね散らかすだけだった。
おいおい勘弁してくれ。これを掃除してくれるわけでもないだろうにさ……
「はぁ、はあぁ、にょだ、にょだ……おか、ちゃ、おかーちゃ！たしゅ、たしゅけちぇほしいにょだああああああああああああああああああああああああ……」
「ほら。もっと食べなって」 ぎゅぎゅっ
「ぐぬのぼぼっ……」
しぶとく顔を出して呼吸を繰り返す子ずんを、指で押してチョコに沈める。これで、ボウルの中は完全に静かになった。
「お、おちびちゃん……？おかしさんを、たべるのにむちゅうなのだ？きっと、きっとそうなのだ！」
子ずんの声がしなくなったので、不安そうな声をあげるままずんだったが、そこはやはり、妖精の知能だった。
俺は調理用手袋を交換し、チョコに手を突っ込んで子ずんを取りだす。9匹の子ずん（だったもの）を型に入れると、さらにその上から念入りにチョコをかけていく。これを冷やして、チョコが完全に固まれば…………
「チョ子ずん」の完成だ。…………今名付けた。
「おいくちょにんげん！ぼくにも、はやくおかしさんをよこすのだ！めいれいなのだ！」
「後でやるから待ってろよ。おとなしく……」
ぴんぽーん……
子ずんが跳ね散らかしたチョコを拭き終わったタイミングで、インターホンが鳴る。手を洗って玄関を開けると、各々の楽器を持った3人のバンドメンバーが、揃って待っていた。
「よう、出来てるか」
「ああ。あとちょっとだ」
「お邪魔しますっ……おお、何もない部屋だなw」
「失礼だなお前w」
軽口を叩きながら俺は、普段使うことのない大テーブルを出す。あっという間にテーブルの上は、他のメンバーが持ってきてくれた飲み物やお菓子でいっぱいになった。
「のだっ？くちょにんげんがふえたのだ！どういうことなのだ！おいくちょにんげん！せつめいするのだ！！」
「お前のぶんは残しとくから、ちょっと静かにしろよ」
「いまじゃないとだめなのだ！はやく、おかしさん、よこせえええええええええええええええ！！」
妖精が喚き始める。ああ、やっぱりあの場で置いていけばよかった。
「おいお前、子ずんだけって話じゃなかった？うるせーんだけどアイツwww」
「……ごめんて。でも、子ずん食わせたあとに絶望するの、見たくね？」
「確かに。まあ、ちょっとの間だ、ガマンするべ」
「ほら、やろうぜ」
ぱあんっ！！ぱぱぱんっ！
クラッカーが打ち鳴らされ、俺たちのパーティーが始まった。
「かんぱ〜〜〜〜〜〜〜〜いっ！！ハッピー・ハロウィ〜〜〜〜〜ンッ！！」
俺たちは飲み物をグイっとあおり、お菓子をたっぷり食べた。ささやかだけど、最高の時間が過ぎていく。
「もうそろそろ、いい感じじゃね？」
「おけ。とってくるわ」
俺は冷蔵庫を開けて、出来上がった「チョ子ずん」を取り出す。
…………いい感じだ。
「出来たよ、“チョ子ずん”だ…………ひとり2個な」
「名前ダッサwwwでもうまそう！いただきますっ」
ドラマーが早速子ずんを食べようと手を伸ばすが、俺は制止する。
「待て待て。実は俺……フン抜きも洗浄もしていない！！」
「げえっ！？お前、まさか…………」
「そうだ。覚えてるか、地獄のロシアンルーレットの再来だ……」
俺たちバンドメンバーの謎の伝統、ハロウィンのロシアンルーレット。去年は、「おまんじゅう」みたいなイキモノを捕まえてやったんだが…………
「今年はないと思ったか？あるんだよ、今年もなあ！！」
「くっそおおおおっ！！忘れてたぜwww」
「うおおおお！今年こそは腹下してたまるかよ！」
「おいおい、中身が甘い“おまんじゅう”ならともかく、何食ってるかわからん子ずんを2匹も食うなんて無理だぜ」
「無理は承知さ。イヤなら降りてもいいんだぜ、ベーシスト？」
「…………やるさ、やってやる」
全員の準備が整ったところで、俺たちは全員で声を合わせて、コールする。
♪さ〜あっ、どうだっ、賭けないか？
♪死にたかねえけど、死ぬかもよ！？
俺たちは歌いながら、これだ、と思ったチョ子ずんへと手を伸ばす。まずは1匹目。
「う、うまっ…………くねえっ！？やばっこれ！」
「く、くっせえええええっ！」
「ごうぶうううううっ！！」
「おいおい、何食ってたんだよコイツら！？」
チョコの風味をいとも簡単に貫通する子ずんの味に、全員が悶え苦しみ始める。1回噛むだけで、破られた外皮からあふれたドロッとした臓物や、胃の内容物が口内に広がり、ものすごい悪臭を放つ。
「うぐっ…………な、何って……ゴ、ゴミ捨て場の生ゴミ食ってた」
「やべええwww殺す気かよお前ぇ！！」
「げえぇ…こりゃあ、明日死んでも文句ねえなwww」
「ふっ、ふう…………あと、あと1匹あんのかよwww」
俺の予想したとおり、ゴミ捨て場を漁っていた子ずんたちの味は、酷いものだった。口内に広がった悪臭は、主に消化ガスと、子ずんのクソによるものだ。妖精を食べる際の、フン抜きと洗浄の大切さがよくわかる。
俺は正直、すべての子ずんが味としては「ハズレ」のような気がしていた。あとは、腹痛や下痢を誘発するかどうかが、賭けのお楽しみ。去年はベーシストがやられてたな。
ようやく1匹目のチョ子ずんを食べ終えた俺たちは、口直しをしてから2匹目に挑む。
♪ビ〜ッグなチャンスは、い〜らないっか？
♪死にたかねえけど、死ぬかもよ！？
「♪ロシアンル〜〜〜レッ！！ロシアンル〜〜〜レッ…………ぐばあっ！？」
チョ子ずんを口に入れながら続きを歌っていたベーシストが倒れた。
「♪いちからじゅ〜までっ、偶然だっ………くせええええええっ！？」
歌唱を引き継いだドラマーも倒れた。
「♪日がのぼる〜のもっ、偶然だあ”あ”っ！？」
ヴォーカルがひっくり返った。そして、次に倒れこんだギタリストの俺も合わせて、4人の悲鳴に近い叫び声が、メロディーとなって家中に響き渡る。
「「「「♪あ〜〜〜〜〜〜〜〜ああ〜〜〜〜〜〜〜ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ！！」」」」
人が見たら、バカバカしいと笑うかもしれない。だけど、これが俺たちのハロウィンなんだよ。最後の学生生活でバカやれる、最高の機会なんだよっ！！
俺は、このメンバーと出会えてよかった。子ずんの味による苦しみは、そんな俺の果てしない喜びをいっそう増幅させてくれるように思えた。
10分くらい無言で苦しんでいただろうか。ようやく、皆がチョ子ずんを飲み込んだ。
「ほおぅ、ほお、ほおぉ………お、終わったな」
「はあ、はあ、はあ…………おい、あと1匹残ってるのは誰が食うんだ」
「あいつのぶんだ」
「ずーん……ずぅーん…………」
俺は、カウンターに置かれた小さな虫カゴを指さす。中に入っているままずんは、いつの間にか眠っているようだった。どこまで自分勝手なやつだと思いつつ、俺たちが楽しんでいた間、静かにしてくれたならまあよしとしよう。
「コイツ、寝てやがるwww」
「どこまで舐め腐った生態してんだよwww」
「おら、起きろ害獣」 がたがたっ
「のだっ！？おい、くちょにんげん！！おまえがちんたらしてたから、ねちゃったのだ！」
「おいもう殺そうぜコイツ」
「ぶがいしゃは、だまってるのだ！ぼくはおかしさんをくれるくちょにんげんだけに、ようがあるのだ！！」
殺気立ったバンドメンバーをよそに、図々しくお菓子を要求するままずん。
「ほらよ」
俺は最後のチョ子ずんをままずんの虫カゴに放り込んだ。
「おかしさん、おかしさん！！くちょにんげん、さいしょからよこせばいいのだ……ぐちゃ、くちゃ、おいち、おいち…………」
俺たちがあんなに苦戦したチョ子ずんを、夢中で食べ始めるままずん。まあ、生ゴミ食ってるようなやつらだから食べれて当たり前か。
「おいち、おいち………おいくちょにんげん！おちびちゃんたちをかえすのだ！そろそろ、おかしさんをたべおわったころなのだ？」
「いや。お前が食ってるそれが、お前の“おちびちゃん”なんだけど」
「え……」
口の周りをチョコで汚して、呆気にとられるままずん。ままずんが口を離したから、残り半分くらいになったチョ子ずんの断面から、緑色の臓物がどろどろとあふれてくる。
「こ、これが、おち、おちびちゃん……？う、うそちゃ、うそちゃ、これはおかしさんなのだ！おちびちゃんなんかじゃないのだあああああああああ！！」
「ウソだと思うか？ほら、見ろよ」
「え……いない、おちびちゃん……？」
俺は空っぽになったボウルを見せると、ままずんの顔が絶望で歪む。いやあ、邪魔くさいと思ったけど、やっぱり連れてきてよかったなあ。
こんな感じで、一度絶望した妖精に芽生えかけた「希望」をもう一度、粉々に打ち砕くのがホントに面白いんだよなあああっ！！
「うははははははははっ！！コイツ、躊躇なく自分の子ずん食いやがったwww」
「どこまで欲望に忠実な害獣だよ！子ずんの命より、自分の食欲が大事なんだもんなwww」
「ほらどうしたよお？早く続き、食えってwww」
今まで自分が口にしていたものが、我が子だったと知ってぶるぶると震えだす妖精。そのショックは、俺たちへの怒りとなってあらわれる。
「く、くちょにんげん！！よくも、よくもおちびちゃんたちを！！よくもぼくたちをだましたな！だましたなああああああああああああああああああああっ！！」
「いいや。俺は逃げられるチャンスをあげたぜ？それでも、お菓子を独り占めしたいという欲望に取りつかれて、ついてきたのがお前だ」
「ころす！ころす！ころす！うわああああああよくもおちびちゃんたちをおおおおおお！！」
半狂乱になった妖精は、立ち上がって虫カゴの壁面を殴りつける。その姿は、まさに害獣、そのものだった。
「殺すとかいう前に、食べ終われよ早くそのチョ子ずんをさあwww」
「俺たちは全部食べたぜえ？お前のドブみてえな味した汚らしい子ずんをよお！！」
「あ〜あ。めっちゃまずかったぜ………だけどカラスとかは、いつもこんなやべえ味のイキモノを食って生きてるんだな…………命に感謝だな」
「くちょにんげんども！！お、おちびちゃんは、ごはんさんじゃないちゃ！！ぼくには、たべられないのだ！！」
「はははっ！！今まで“おいち、おいち”とか言いながら子ずん食ってたのは誰だよ？www」
「く、くちょにんげんんんんんん！！ころすころすころすころす…………う、うぐぼえええええっ！」
次の瞬間、ままずんが嘔吐した。子ずんの臓物のニオイに交じって、据えたニオイが広がる。
チョコの原料、カカオに含まれるテオブロミンの影響だろう。多量に摂取すると、流石の妖精にも害を及ぼすようだ。
だが、死ぬほどではない。自分の吐瀉物にまみれて震えるままずんは、完全に無力化された。
「よし、行こうか」
俺たちは自分の楽器、それと妖精の虫カゴをもって、地元のスタジオへと向かう。
ここは、一見すると普通のスタジオだが、一般の客が入れない地下4階は…………
知る人ぞ知る、憩いの場であった。
「すみません、いつもの部屋で、2時間お願いします…………それと、これもお願いします」
俺はカウンターの店員さんに、ままずんの入った虫カゴを手渡す。
「駆除協力、ご苦労様です…………成体1匹ということで、お部屋代から300円お値引きいたしますね〜」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そう。ここでは、捕まえた妖精を持っていくと、割引してもらえるんだ。
何でって？そりゃあ………
楽器にするため。
俺たちは特別な会員証をかざして、地下4階まで直通のエレベーターを降りると、いつもの部屋へ入る。
このスタジオの地下4階は、害獣である妖精を、楽器として有効活用出来ないか実験している場所なんだ。部屋のいたるところに妖精がくくりつけられていて、自由に使える。
いくら殺しても費用は請求されないから、ドラムスティックやギター弦を駆使して、ひとりだけで部屋中の妖精を殺して回ったVIP会員のお兄さんを、俺は知ってる。
「く、くるち、くるち……いやああああ………」 「も、もう……ころちて、ころちてええええ！！」 「たしゅけて、たしゅけてぇほちいのだあああああ！！おかーちゃ、おとーちゃああああ！！」
妖精たちは扉が開いた瞬間、助けを求めるように叫び始めたが、無駄だ。お前らの醜い叫び声は、地上の誰にも聞かれることはない。
そのためのスタジオなんだから。
そして今日はハロウィンだからか、鮮やかなオレンジ色に塗装された妖精が多いみたいだった。
バムッ、バムッ、バムッ 「うっ、ぐっ、ぼっ……ころちぇええええ！いっそ、ころちぇえええええええええ！！」
ドラムスローンに座ったドラマーがバスドラムを叩くと、妖精の鈍い悲鳴が響く。ヘッドの部分は、妖精のキ〇タマを引き延ばして固定しているからな。こんなになっても死なないのってすごいよな、逆に。
しゃああああああああああん！ 「ぐのばあああああああああっ！！」
シンバルスタンドに突き刺された妖精も、いいアクセントだ。このドラマー、前に力加減を間違えて首狩り族みたいになってたっけ。
俺たちギターとベース組も、音出しを始める。
アンプの中に電気的に接続された複数の妖精が縛りつけられていて、電気信号が届くと声帯が刺激されて音が出る仕組みなんだ。
ギャッ、ギャアアアアアアアアアアアアアン！！ 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ぼぼぼぼっ、ぼ〜〜〜〜〜んっ、ぶぉ〜〜〜〜〜んっ！ 「ああああああああ↑ ああああああ↓」
あっという間に、スタジオ内は妖精の悲鳴で満ちた。ただの悲鳴はムカつくけど、音程をこのように調整出来るようになれば、楽器としてなかなか優秀だよな、妖精。
「………ちょっとスラップの練習するわ」
「は、はなしぇ、なにす………あああああああああああああっ！」 ず〜んべっべぶ〜ん、ずべっぺっべっ！！ くちゃっくちゃっくちゃっ！
ベーシストはそれに飽き足らず、壁にかかった妖精を1匹とると、それをピック代わりにして弦をアタックする。あっという間に妖精はぐちゃぐちゃになった。
「う〜ん、ベース弦だと耐久性がなあ……ここぞって時にしか使えねえや」
俺もちょっと面白くなってきたから、壁にかかった妖精を掴む。
「く、くしょにんげん、おねがい、はなちて…………かわいいおちびちゃんたちがおなかをすかせてぼくのかえりをまっているのだ！」
「…………」 ぐちゃっ！！
俺は妖精の命乞いを無視して、妖精の頭をピックアップに近づけると、思いっきり握りつぶした。
「あああああああああああああああぁぴぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっ！」
電気信号に変換された妖精の悲鳴は、エフェクターなしでもじゅうぶんに歪んでいた。こりゃあいいや。
「おい、もうそろそろやろうぜ」
ヴォーカルがマイクテストを終え、キーボードに向かって歩く。
♪あああああああああああああああああああ↑ ♪あああああああああああああああああああ↓ ♪あああああああああああああああああああ↑
まるで幼稚園のお遊戯会のように、ヴォーカルがキーボードを3回叩く。キーボードにも妖精が接続されているから、妖精の悲鳴がメロディーとして響いた。
「はははっ！おもろ」 「つかみ、完璧じゃね？」 「いけるいけるwww」 「じゃあ、“ヤー・ブルース”から試しにやってみよう」 「何で“バースデイ”からじゃねえんだよw」
「ワーン、トゥー、スリー………」 ダダンダドドンドッ「♪Yes, I’m lonely〜〜」 あああああ↑ ああああああ↑あ〜♪
「♪Want to die〜〜」 あああああ↑ あ↑あ↓あ↑あ↓あ↑あ↓あ〜♪
かなりネガティブで退廃的な歌詞とメロディーは、アンプで増幅された妖精の悲鳴とよくマッチした。
その後も、俺たちはいろんな曲をやった。「ブルー・スウェード・シューズ」とか、「マネー」とか、「ディジー・ミス・リジー」とか……
そして、時間はあっという間に過ぎた。退出まであと10分くらいのところで、ヴォーカルが突然歌いだした。
「♪Don’t worry、Don’t worry、Don’t worry、Don’t worry 、Don’t worry、Don’t worry……♪」
「おいまじかw それやんのかよwww」
「♪Don’t worry、Don’t worry、Don’t worry、KYOKO〜〜〜〜♪」
あっああああああああああ↑ あ〜っ あ〜っ↑あ〜っ↓ あ〜っ♪ …あ〜っ↑あ〜っ↑あ〜っ↓ あ〜っ♪
常に、妖精の悲鳴として出力されるギター、ベース、そしてドラム。音が重なって、よく分からないけど何だか圧倒されるような、パワフルな音楽が完成する。
「♪KYOKO〜っ、KYOKO〜っ、KYOKO〜っ、KYOKO〜っ、KYOOOOOOぉおおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ！！いいぃいぇえええええええええええええぇおうおうわうわうわうあああああああああっ！！」
これを生み出した彼女には遠く及ばないが…………妖精を楽器として扱っている俺たちも、「前衛芸術」とやらに片足を踏み込んでいるんじゃないだろうか。
これが、俺たちのハロウィンだ………………………………
☆バスドラムのくだり、むらさき様の「ずんだ虫で太鼓」リスペクトです！本当にありがとうございます！！（『むらさきが描いたやつまとめ13』より）
今回の読み切りは、ハロウィンをテーマに書きました。日本におけるハロウィンってもはや、名前だけ残した謎の風習になっているなあと、書いていて思いました。
他の投稿者様の作品群と内容が被ってしまっていたら申し訳ございません！！
ハロウィンチョ子ずん（ロシアンルーレット）
「「「トリック・オア・トリート！」」」
また今年も、この季節がやってきた。ジャック・オー・ランタンや、フランケンシュタイン（の怪物）のお面を付けたり、白いぼろきれをかぶったりして、オバケになりきった子どもたちがお菓子をもらうために町を練り歩き、インターホンを鳴らす。
「あら子どもたち！かわいいですね」
「セブンおねーちゃん！トリック・オア・トリート！！」
「はい。好きなだけ持っていってね」
「やったあ！キャンディだ〜！！ありがとうセブンおねーちゃん！！」
大学帰りの俺が通りかかった学生寮のような場所にも、仮装した子どもたちがお菓子をもらいに来ていた。子どもたちに大量のキャンディを渡しているのは、とても綺麗な女性だった。
うわあ。俺もあんな綺麗なお姉さんにお菓子もらいてえよ。
大学生になってみて思うけど、ハロウィンでお菓子をもらうことって、子どもだから許されるイベントだなって。
俺が仮装して各家庭を練り歩いていたら、それこそ不審者だって。
「………ななさん何してるの…………あっ、そっか、今日ハロウィンだったっ」
「あっ！！びえーんのおねーちゃんだ！！トリック・オア・トリート！」
「その呼び方なにっ？……困ったな、わたしバニラソフトクリームしかないんだけどなっ」
「う、う〜〜〜ん……今は、今は大丈夫かな……ありがとう、おねーちゃんたちっ！また遊ぼうね〜！」
「は〜い！ハッピー・ハロウィン♪」
お菓子をもらい終えた子どもたちが去っていく。ふたりに増えたお姉さんたちも、学生寮の中に帰っていくようだ。
「……ねえななさん……わたし、嫌われちゃったかなっ」
「雪さん、大丈夫ですよ！でもソフトクリームは……ちょっとこの時期だと冷たすぎたかもしれませんね」
「びえーん；；」
………………………
電車に乗って帰ってきた自分の住む町でも、道行く子どもたちがみんな、仮装しているのに気付いた。町全体がこの光景にはなれっこのようで、スムーズなお菓子の取引がおこなわれている。平和な光景だった。
…………そんな平和を邪魔するように、やっぱり現れた。
「のだのだのだのだ、のだのだのだのだ！」
親ずん2匹と、子ずん9匹からなる妖精の大家族だった。小さな足をよちよちと動かして、地面を這っている。ゴミ捨て場から出て来たのだろう。食べていたと思われる生ゴミを放り出して、住宅街へ向かって一列になって歩いている。
「のだ、さっき、くちょがきがおかしさんをもらっていたのだ！！」
「ほんとうなのだ、ぱぱずん？……おちびちゃん！きょうは、くちょにんげんのおうちさんにいけば、おかしさんがもらえるひみたいなのだ！」
「おかーちゃ、おかーちゃ、おかち？おかち？」
「おちびちゃん、おかしさんっていうのは、たべるとしあわせになれるごはんさんなのだ！！さっきのごはんさんよりも、もっとしあわせになれるのだ！！」
「おかちしゃ、おかちしゃ！！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！」
「のだ！おちびちゃんたちは、くちょがきなんかよりもかわいいから、きっと、くちょにんげんもよろこんでおかしさんをくれるはずなのだ！」
俺は、人間の子どもたちがお菓子をもらっているからといって、自分たちの子ずんもお菓子をもらえるのが当然、と妖精が思い込んでいることに、イライラを溜めていた。
何て図々しいんだろう。
俺には、妖精たちを踏み潰すなんて造作もない。だけど、今日に限っては…………踏み潰すよりも、もっと楽しいことが待っている。
「のだのだのだのだ！おいくちょにんげん！かわいいおちびちゃんたちに、おかしさんをもってくるのだ！」
「お帰りよ。アンタたち妖精にあげるお菓子なんてないわ」
「うそつくななのだくちょにんげん！！さっき、くちょがきがここにおかしさんをもらいにきていたのだ！」
ああ、お花屋さんのおばさんが絡まれている……
助太刀すべきかと逡巡したが、おばさんがチリトリを持ってきたので、手出しは無用と判断した。待ちきれないとばかりに、「ぱぱずん」が宙に飛び上がった。
「くんくん、いいにおいがするのだ…………くちょにんげん！おまえがおかしさんをくれなくても、うばっていくまでなのだ！」
「こら、害獣……いい加減にしないと、ぶったたくよっ！！」
「のぞむところなのだくちょにんげん！ぼくたち“もりのけんじゃ”にさからったことをこうかいするのだああああああああああああああああ！！」
ぱぱずんが歯をむき出して突進するが、おばさんは上段に大きく構えたチリトリを振り下ろして、ぱぱずんを弾き飛ばした。
ぱああああああああああん！！ 「ぐぼおおおおおおおおおおおおっ！？」
チリトリがクリティカルヒットしたぱぱずんの体は、公園の方まで大きく吹き飛んだ。
「ぱ、ぱぱずん！いまたすけるのだ！おちびちゃんたち、くるのだ！！」
「お、おとーちゃ、おとーちゃ！！のだのだのだのだ、のだのだのだのだ……」
「ふん。二度と来るんじゃないよ！！」
取り残された「ままずん」と子ずんたちは、慌ててぱぱずんのあとを追い始めた。チリトリを武器のようにヒュンヒュンと振り回したおばさんが、店の奥へ帰っていく。
俺はあの妖精たちがどうなったか確認するため、公園に入った。
「はあ…………はあ…………いちゃいい、いちゃいよおおお……」
「し、しっかり、しっかりするのだ、ぱぱずん！」
「おとーちゃ、おとーちゃ…………ちなないで、ちなないで……」
チリトリで思い切り叩かれたぱぱずんの体は、骨格が曲がったのか、ぐちゃぐちゃになっていた。体液を噴き出しながら、痛みにもがいている。
いやあ、いい気味だ。
「ま、ままずん……おち、おちびちゃんたち……ぼくたちは、ほこりたかき“もりのけんじゃ”なのだ。ぼくがしんでも、いつのひか、いつのひか……くちょにんげんがぼくたち“もりのけんじゃ”にひれふすひがやってくるのだ！」
「ぱ、ぱぱずん！」
「そのひまで、いき、いきるのだ……ぼくのぶんまで、しあわせに、なって、ほし…………」 パタリ
妄言を吐くだけ吐いて、ぱぱずんが死んだ。いや、“もりのけんじゃ”と名乗る存在がこうも簡単に死んでいいものかね。
「ぱ、ぱぱずうううううううううううううぅん！や、やくそく、やくそくするのだ！ぼくたちは、ぱぱずんのぶんまでいきるのだああああああああああ！！しあわせに、なるのだあああああああああああああああ！！」
「おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃー！！おとーちゃ！おとーちゃああああああ！！」
生き残った妖精たちが泣き始める。うるさかったので、俺は足早に妖精たちの前へと出た。
「Hello there！（やあ！）」
「のだっ！？く、くちょにんげん！！ち、ちかよるなあああああ！！」
「お、おぎゃーおぎゃー！おぎゃーおぎゃー！きょわいにょだああああああああああああ！！」
ままずんと子ずんたちは、突如現れた俺の姿に恐怖して後ずさり始める。ぱぱずんが人間によって殺される光景を目の前で見たからか、無謀にも挑みかかってくるなんてことはなかった。
「待て待て、お前たち。お菓子は欲しくないか？」
「えっ……ほし、ほしいのだ、ほしいのだ！！」
「お、おぎゃ？……お、おかちしゃ、おかちしゃ！！」
よしよし、釣れた。単純だから助かるぜ。
「実はな、お菓子が余っちゃって。誰かにあげたいと思っていたんだ」
「そ、それなら、ぜんぶぼくたちによこすのだ！！おかしさん、おかしさん！！」
「おかちしゃ、おかちしゃ！！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！ほちい！」
まるでぱぱずんが死んだ悲しみをすっかり忘れたかのように、妖精たちは胎動を速める。
俺は虫カゴを出して、子ずんたちが入れるように地面に置いた。
「よし、じゃあ俺の家まで連れてってやるから、お菓子が欲しいやつはここに入れ」
「はーいのだ！はーいのだ！！」 「にょだにょだ、にょだっ！」 「おかちしゃ、おかちしゃ！！」
すっかり騙された9匹の子ずんたちは、我先にと虫カゴの中へ入っていく。だが、ままずんは警戒しているのか、また一歩後ずさった。
「ぼ、ぼくは、いかないのだ！おち、おちびちゃんかえせええええええええええ！！ここまでおかしさんをもってくるのだ、いますぐでいいのだ！！」
「俺の家に来ないと、お菓子あげられないかな。お前だけ置いてってもいいけど」
「そ、それは……だめなのだ！おちびちゃんたちは、ぼくがまもるのだ！！それに、おかしさんは、ぼくのものなのだ！！」
「じゃあ、入りなよ。こっちに」
「おかーちゃ、おかーちゃ！！おかーちゃも、きゅるにょだ！おかちしゃ、たべりゅのだ！！」
興奮した子ずんがままずんを呼ぶ。俺はままずんを、子ずんとは別に、小さな虫カゴに案内した。
「……お前、子だくさんだなあ。9匹もいるのか」
「そ、そうなのだ！ぱぱずんといっぱいへこへこしてうんだ、かわいいおちびちゃんたちなのだ！！」
自慢げに鼻息を荒くするままずんが、カゴに入った。出られないように、固くフタを閉じる。
自分だけが別の場所に閉じ込められたことに気づいたのか、ままずんは虫カゴの壁面を前足で引っ掻き始めた。
「だ、だせだせ、だせええええっ！だすのだくちょにんげん！！ぼくも、ぼくもおちびちゃんたちといっしょのところに、はいるのだあああああああああああっ！」
「お菓子いらないのか？ワガママ言うと、お前だけお菓子あげないぞ」
「の、のだ…………」
ままずんが暴れるのをやめると、俺はふたつの虫カゴを持ち上げて、家へと帰る。この短時間で、子ずんが9匹も手に入った。正直、子ずんだけでよかったんだが、まあ、ままずんも会場を盛り上げてくれるだろう。
世間で、「パリピ」なんて言われて、もてはやされているような人たちは、今日、渋谷だかどこかに行って乱痴気騒ぎしているんだろう。
貧乏学生の俺には知ったこっちゃない話だった。他人に迷惑かけてまで、騒ぎたくないし。
……だけど、イベントに際して何かしらの特別感は欲しいんだよな。
ということで、俺は大学のバンドメンバーと一緒に、ささやかなパーティーをすることにしたんだ。
「おかちしゃ、はじめてたべりゅのだ！」 「のだ！たのしみなにょだ！」 「たのちみ！たのちみ！」 「にょだにょだ、にょだにょだ！！」 「おしょらさん、とんでりゅのだ！」 「きもちーにょだ！！」 「ずんちでりゅ……ずんちでりゅ……」 「うわゃ、くちゃい、くちゃい！！」 「ずーん……ずーん……」
カゴの中で鳴き交わす子ずんたちは、まだ見ぬ「おかちしゃ」を想像して期待を膨らませているようだった。いいご身分だよ、まったく。
俺に言わせりゃあ、トリック・オア・トリックだ。害獣なんかに、選択肢なんか与えてやらん。施しなんかしてやらん。
子ずんを捕まえたのは、これから作るお菓子の材料にするため。
「おかちしゃ！おかちしゃ！どこ？どこ！？ずんちゃのおかちしゃ！！」
「こ、ここが、くちょにんげんのおうちさんなのだ……？ついたなら、とっととだすのだ！おい、ここから、だせえええええええええええええええ！！」
家についても、妖精たちは喚き散らしている。俺はそれを無視して虫カゴをカウンターに置いて手を良く洗うと、あらかじめボウルに溶かしておいたチョコを取り出す。
うん、いい感じだ。
「にょだにょだ、にょだにょだ、ずんちゃのおかちしゃ、ずんちゃのおかちしゃ！！」
ボウルに入ったチョコを目にした子ずんたちは、虫カゴの中で激しく動き回る。
そんなに焦らなくても、今に出してやるって。
……ボウルの中に。
「そ〜らよっと！」 がさがさがさっ！
「にょだああああああああああああああああああっ！！」 ぼちゃぼちゃぼちゃっ！
リズミカルな音で、子ずんたちはボウルの中に飛び込んだ。飛び込んだというより、俺がカゴをひっくり返したから、落ちたという方が正しいかな。
あっ、さっき虫カゴにクソしてたやついただろ。ひっくり返した拍子に、それもチョコに入れちゃったよ、もう。
「お、おちびちゃああああああああああああああああん！く、くちょにんげん！なにしてるのだ、せつめいするのだああああああ！！」
「何って、子ずんたちにお菓子を食べさせてるんだよ」
「おいち、おいち…………ありぇ？とれないにょだ！」 「にょぶぼぼぼ……べちょべちょ、べちょべちょ！！」 「おぼれりゅ、おぼれりゅ！！きょわいよおおおおおお！！」 「おぎゃぼっ、おぎゃーおぎゃぐぼおぶっ……」
ウソではなかった。子ずんたちは体中をチョコまみれにしながら、口の中にチョコを吸い込んでいる。だが、そのせいで次々に溺れ始めた。
「おかーちゃ、おかーちゃぶぶっ」 「ごぼっ、ごぼっ、くるち、くるち」 「ぐぶっ、ぐっ……ぼぅ……」 「はがぼもぼ……」 「たしゅけ、たしゅけごぶごぼ……」
溶けたチョコはまるで底なし沼のように、子ずんたちの体を飲み込んでいく。呼吸が出来ず、既に死んだ個体もいる。
まだ生きている子ずんたちは、必死に抜け出そうとその短い前足をぐるぐると回す。しかし、ボウルの周りにチョコをばちゃばちゃと跳ね散らかすだけだった。
おいおい勘弁してくれ。これを掃除してくれるわけでもないだろうにさ……
「はぁ、はあぁ、にょだ、にょだ……おか、ちゃ、おかーちゃ！たしゅ、たしゅけちぇほしいにょだああああああああああああああああああああああああ……」
「ほら。もっと食べなって」 ぎゅぎゅっ
「ぐぬのぼぼっ……」
しぶとく顔を出して呼吸を繰り返す子ずんを、指で押してチョコに沈める。これで、ボウルの中は完全に静かになった。
「お、おちびちゃん……？おかしさんを、たべるのにむちゅうなのだ？きっと、きっとそうなのだ！」
子ずんの声がしなくなったので、不安そうな声をあげるままずんだったが、そこはやはり、妖精の知能だった。
俺は調理用手袋を交換し、チョコに手を突っ込んで子ずんを取りだす。9匹の子ずん（だったもの）を型に入れると、さらにその上から念入りにチョコをかけていく。これを冷やして、チョコが完全に固まれば…………
「チョ子ずん」の完成だ。…………今名付けた。
「おいくちょにんげん！ぼくにも、はやくおかしさんをよこすのだ！めいれいなのだ！」
「後でやるから待ってろよ。おとなしく……」
ぴんぽーん……
子ずんが跳ね散らかしたチョコを拭き終わったタイミングで、インターホンが鳴る。手を洗って玄関を開けると、各々の楽器を持った3人のバンドメンバーが、揃って待っていた。
「よう、出来てるか」
「ああ。あとちょっとだ」
「お邪魔しますっ……おお、何もない部屋だなw」
「失礼だなお前w」
軽口を叩きながら俺は、普段使うことのない大テーブルを出す。あっという間にテーブルの上は、他のメンバーが持ってきてくれた飲み物やお菓子でいっぱいになった。
「のだっ？くちょにんげんがふえたのだ！どういうことなのだ！おいくちょにんげん！せつめいするのだ！！」
「お前のぶんは残しとくから、ちょっと静かにしろよ」
「いまじゃないとだめなのだ！はやく、おかしさん、よこせえええええええええええええええ！！」
妖精が喚き始める。ああ、やっぱりあの場で置いていけばよかった。
「おいお前、子ずんだけって話じゃなかった？うるせーんだけどアイツwww」
「……ごめんて。でも、子ずん食わせたあとに絶望するの、見たくね？」
「確かに。まあ、ちょっとの間だ、ガマンするべ」
「ほら、やろうぜ」
ぱあんっ！！ぱぱぱんっ！
クラッカーが打ち鳴らされ、俺たちのパーティーが始まった。
「かんぱ〜〜〜〜〜〜〜〜いっ！！ハッピー・ハロウィ〜〜〜〜〜ンッ！！」
俺たちは飲み物をグイっとあおり、お菓子をたっぷり食べた。ささやかだけど、最高の時間が過ぎていく。
「もうそろそろ、いい感じじゃね？」
「おけ。とってくるわ」
俺は冷蔵庫を開けて、出来上がった「チョ子ずん」を取り出す。
…………いい感じだ。
「出来たよ、“チョ子ずん”だ…………ひとり2個な」
「名前ダッサwwwでもうまそう！いただきますっ」
ドラマーが早速子ずんを食べようと手を伸ばすが、俺は制止する。
「待て待て。実は俺……フン抜きも洗浄もしていない！！」
「げえっ！？お前、まさか…………」
「そうだ。覚えてるか、地獄のロシアンルーレットの再来だ……」
俺たちバンドメンバーの謎の伝統、ハロウィンのロシアンルーレット。去年は、「おまんじゅう」みたいなイキモノを捕まえてやったんだが…………
「今年はないと思ったか？あるんだよ、今年もなあ！！」
「くっそおおおおっ！！忘れてたぜwww」
「うおおおお！今年こそは腹下してたまるかよ！」
「おいおい、中身が甘い“おまんじゅう”ならともかく、何食ってるかわからん子ずんを2匹も食うなんて無理だぜ」
「無理は承知さ。イヤなら降りてもいいんだぜ、ベーシスト？」
「…………やるさ、やってやる」
全員の準備が整ったところで、俺たちは全員で声を合わせて、コールする。
♪さ〜あっ、どうだっ、賭けないか？
♪死にたかねえけど、死ぬかもよ！？
俺たちは歌いながら、これだ、と思ったチョ子ずんへと手を伸ばす。まずは1匹目。
「う、うまっ…………くねえっ！？やばっこれ！」
「く、くっせえええええっ！」
「ごうぶうううううっ！！」
「おいおい、何食ってたんだよコイツら！？」
チョコの風味をいとも簡単に貫通する子ずんの味に、全員が悶え苦しみ始める。1回噛むだけで、破られた外皮からあふれたドロッとした臓物や、胃の内容物が口内に広がり、ものすごい悪臭を放つ。
「うぐっ…………な、何って……ゴ、ゴミ捨て場の生ゴミ食ってた」
「やべええwww殺す気かよお前ぇ！！」
「げえぇ…こりゃあ、明日死んでも文句ねえなwww」
「ふっ、ふう…………あと、あと1匹あんのかよwww」
俺の予想したとおり、ゴミ捨て場を漁っていた子ずんたちの味は、酷いものだった。口内に広がった悪臭は、主に消化ガスと、子ずんのクソによるものだ。妖精を食べる際の、フン抜きと洗浄の大切さがよくわかる。
俺は正直、すべての子ずんが味としては「ハズレ」のような気がしていた。あとは、腹痛や下痢を誘発するかどうかが、賭けのお楽しみ。去年はベーシストがやられてたな。
ようやく1匹目のチョ子ずんを食べ終えた俺たちは、口直しをしてから2匹目に挑む。
♪ビ〜ッグなチャンスは、い〜らないっか？
♪死にたかねえけど、死ぬかもよ！？
「♪ロシアンル〜〜〜レッ！！ロシアンル〜〜〜レッ…………ぐばあっ！？」
チョ子ずんを口に入れながら続きを歌っていたベーシストが倒れた。
「♪いちからじゅ〜までっ、偶然だっ………くせええええええっ！？」
歌唱を引き継いだドラマーも倒れた。
「♪日がのぼる〜のもっ、偶然だあ”あ”っ！？」
ヴォーカルがひっくり返った。そして、次に倒れこんだギタリストの俺も合わせて、4人の悲鳴に近い叫び声が、メロディーとなって家中に響き渡る。
「「「「♪あ〜〜〜〜〜〜〜〜ああ〜〜〜〜〜〜〜ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ！！」」」」
人が見たら、バカバカしいと笑うかもしれない。だけど、これが俺たちのハロウィンなんだよ。最後の学生生活でバカやれる、最高の機会なんだよっ！！
俺は、このメンバーと出会えてよかった。子ずんの味による苦しみは、そんな俺の果てしない喜びをいっそう増幅させてくれるように思えた。
10分くらい無言で苦しんでいただろうか。ようやく、皆がチョ子ずんを飲み込んだ。
「ほおぅ、ほお、ほおぉ………お、終わったな」
「はあ、はあ、はあ…………おい、あと1匹残ってるのは誰が食うんだ」
「あいつのぶんだ」
「ずーん……ずぅーん…………」
俺は、カウンターに置かれた小さな虫カゴを指さす。中に入っているままずんは、いつの間にか眠っているようだった。どこまで自分勝手なやつだと思いつつ、俺たちが楽しんでいた間、静かにしてくれたならまあよしとしよう。
「コイツ、寝てやがるwww」
「どこまで舐め腐った生態してんだよwww」
「おら、起きろ害獣」 がたがたっ
「のだっ！？おい、くちょにんげん！！おまえがちんたらしてたから、ねちゃったのだ！」
「おいもう殺そうぜコイツ」
「ぶがいしゃは、だまってるのだ！ぼくはおかしさんをくれるくちょにんげんだけに、ようがあるのだ！！」
殺気立ったバンドメンバーをよそに、図々しくお菓子を要求するままずん。
「ほらよ」
俺は最後のチョ子ずんをままずんの虫カゴに放り込んだ。
「おかしさん、おかしさん！！くちょにんげん、さいしょからよこせばいいのだ……ぐちゃ、くちゃ、おいち、おいち…………」
俺たちがあんなに苦戦したチョ子ずんを、夢中で食べ始めるままずん。まあ、生ゴミ食ってるようなやつらだから食べれて当たり前か。
「おいち、おいち………おいくちょにんげん！おちびちゃんたちをかえすのだ！そろそろ、おかしさんをたべおわったころなのだ？」
「いや。お前が食ってるそれが、お前の“おちびちゃん”なんだけど」
「え……」
口の周りをチョコで汚して、呆気にとられるままずん。ままずんが口を離したから、残り半分くらいになったチョ子ずんの断面から、緑色の臓物がどろどろとあふれてくる。
「こ、これが、おち、おちびちゃん……？う、うそちゃ、うそちゃ、これはおかしさんなのだ！おちびちゃんなんかじゃないのだあああああああああ！！」
「ウソだと思うか？ほら、見ろよ」
「え……いない、おちびちゃん……？」
俺は空っぽになったボウルを見せると、ままずんの顔が絶望で歪む。いやあ、邪魔くさいと思ったけど、やっぱり連れてきてよかったなあ。
こんな感じで、一度絶望した妖精に芽生えかけた「希望」をもう一度、粉々に打ち砕くのがホントに面白いんだよなあああっ！！
「うははははははははっ！！コイツ、躊躇なく自分の子ずん食いやがったwww」
「どこまで欲望に忠実な害獣だよ！子ずんの命より、自分の食欲が大事なんだもんなwww」
「ほらどうしたよお？早く続き、食えってwww」
今まで自分が口にしていたものが、我が子だったと知ってぶるぶると震えだす妖精。そのショックは、俺たちへの怒りとなってあらわれる。
「く、くちょにんげん！！よくも、よくもおちびちゃんたちを！！よくもぼくたちをだましたな！だましたなああああああああああああああああああああっ！！」
「いいや。俺は逃げられるチャンスをあげたぜ？それでも、お菓子を独り占めしたいという欲望に取りつかれて、ついてきたのがお前だ」
「ころす！ころす！ころす！うわああああああよくもおちびちゃんたちをおおおおおお！！」
半狂乱になった妖精は、立ち上がって虫カゴの壁面を殴りつける。その姿は、まさに害獣、そのものだった。
「殺すとかいう前に、食べ終われよ早くそのチョ子ずんをさあwww」
「俺たちは全部食べたぜえ？お前のドブみてえな味した汚らしい子ずんをよお！！」
「あ〜あ。めっちゃまずかったぜ………だけどカラスとかは、いつもこんなやべえ味のイキモノを食って生きてるんだな…………命に感謝だな」
「くちょにんげんども！！お、おちびちゃんは、ごはんさんじゃないちゃ！！ぼくには、たべられないのだ！！」
「はははっ！！今まで“おいち、おいち”とか言いながら子ずん食ってたのは誰だよ？www」
「く、くちょにんげんんんんんん！！ころすころすころすころす…………う、うぐぼえええええっ！」
次の瞬間、ままずんが嘔吐した。子ずんの臓物のニオイに交じって、据えたニオイが広がる。
チョコの原料、カカオに含まれるテオブロミンの影響だろう。多量に摂取すると、流石の妖精にも害を及ぼすようだ。
だが、死ぬほどではない。自分の吐瀉物にまみれて震えるままずんは、完全に無力化された。
「よし、行こうか」
俺たちは自分の楽器、それと妖精の虫カゴをもって、地元のスタジオへと向かう。
ここは、一見すると普通のスタジオだが、一般の客が入れない地下4階は…………
知る人ぞ知る、憩いの場であった。
「すみません、いつもの部屋で、2時間お願いします…………それと、これもお願いします」
俺はカウンターの店員さんに、ままずんの入った虫カゴを手渡す。
「駆除協力、ご苦労様です…………成体1匹ということで、お部屋代から300円お値引きいたしますね〜」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そう。ここでは、捕まえた妖精を持っていくと、割引してもらえるんだ。
何でって？そりゃあ………
楽器にするため。
俺たちは特別な会員証をかざして、地下4階まで直通のエレベーターを降りると、いつもの部屋へ入る。
このスタジオの地下4階は、害獣である妖精を、楽器として有効活用出来ないか実験している場所なんだ。部屋のいたるところに妖精がくくりつけられていて、自由に使える。
いくら殺しても費用は請求されないから、ドラムスティックやギター弦を駆使して、ひとりだけで部屋中の妖精を殺して回ったVIP会員のお兄さんを、俺は知ってる。
「く、くるち、くるち……いやああああ………」 「も、もう……ころちて、ころちてええええ！！」 「たしゅけて、たしゅけてぇほちいのだあああああ！！おかーちゃ、おとーちゃああああ！！」
妖精たちは扉が開いた瞬間、助けを求めるように叫び始めたが、無駄だ。お前らの醜い叫び声は、地上の誰にも聞かれることはない。
そのためのスタジオなんだから。
そして今日はハロウィンだからか、鮮やかなオレンジ色に塗装された妖精が多いみたいだった。
バムッ、バムッ、バムッ 「うっ、ぐっ、ぼっ……ころちぇええええ！いっそ、ころちぇえええええええええ！！」
ドラムスローンに座ったドラマーがバスドラムを叩くと、妖精の鈍い悲鳴が響く。ヘッドの部分は、妖精のキ〇タマを引き延ばして固定しているからな。こんなになっても死なないのってすごいよな、逆に。
しゃああああああああああん！ 「ぐのばあああああああああっ！！」
シンバルスタンドに突き刺された妖精も、いいアクセントだ。このドラマー、前に力加減を間違えて首狩り族みたいになってたっけ。
俺たちギターとベース組も、音出しを始める。
アンプの中に電気的に接続された複数の妖精が縛りつけられていて、電気信号が届くと声帯が刺激されて音が出る仕組みなんだ。
ギャッ、ギャアアアアアアアアアアアアアン！！ 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ぼぼぼぼっ、ぼ〜〜〜〜〜んっ、ぶぉ〜〜〜〜〜んっ！ 「ああああああああ↑ ああああああ↓」
あっという間に、スタジオ内は妖精の悲鳴で満ちた。ただの悲鳴はムカつくけど、音程をこのように調整出来るようになれば、楽器としてなかなか優秀だよな、妖精。
「………ちょっとスラップの練習するわ」
「は、はなしぇ、なにす………あああああああああああああっ！」 ず〜んべっべぶ〜ん、ずべっぺっべっ！！ くちゃっくちゃっくちゃっ！
ベーシストはそれに飽き足らず、壁にかかった妖精を1匹とると、それをピック代わりにして弦をアタックする。あっという間に妖精はぐちゃぐちゃになった。
「う〜ん、ベース弦だと耐久性がなあ……ここぞって時にしか使えねえや」
俺もちょっと面白くなってきたから、壁にかかった妖精を掴む。
「く、くしょにんげん、おねがい、はなちて…………かわいいおちびちゃんたちがおなかをすかせてぼくのかえりをまっているのだ！」
「…………」 ぐちゃっ！！
俺は妖精の命乞いを無視して、妖精の頭をピックアップに近づけると、思いっきり握りつぶした。
「あああああああああああああああぁぴぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっ！」
電気信号に変換された妖精の悲鳴は、エフェクターなしでもじゅうぶんに歪んでいた。こりゃあいいや。
「おい、もうそろそろやろうぜ」
ヴォーカルがマイクテストを終え、キーボードに向かって歩く。
♪あああああああああああああああああああ↑ ♪あああああああああああああああああああ↓ ♪あああああああああああああああああああ↑
まるで幼稚園のお遊戯会のように、ヴォーカルがキーボードを3回叩く。キーボードにも妖精が接続されているから、妖精の悲鳴がメロディーとして響いた。
「はははっ！おもろ」 「つかみ、完璧じゃね？」 「いけるいけるwww」 「じゃあ、“ヤー・ブルース”から試しにやってみよう」 「何で“バースデイ”からじゃねえんだよw」
「ワーン、トゥー、スリー………」 ダダンダドドンドッ「♪Yes, I’m lonely〜〜」 あああああ↑ ああああああ↑あ〜♪
「♪Want to die〜〜」 あああああ↑ あ↑あ↓あ↑あ↓あ↑あ↓あ〜♪
かなりネガティブで退廃的な歌詞とメロディーは、アンプで増幅された妖精の悲鳴とよくマッチした。
その後も、俺たちはいろんな曲をやった。「ブルー・スウェード・シューズ」とか、「マネー」とか、「ディジー・ミス・リジー」とか……
そして、時間はあっという間に過ぎた。退出まであと10分くらいのところで、ヴォーカルが突然歌いだした。
「♪Don’t worry、Don’t worry、Don’t worry、Don’t worry 、Don’t worry、Don’t worry……♪」
「おいまじかw それやんのかよwww」
「♪Don’t worry、Don’t worry、Don’t worry、KYOKO〜〜〜〜♪」
あっああああああああああ↑ あ〜っ あ〜っ↑あ〜っ↓ あ〜っ♪ …あ〜っ↑あ〜っ↑あ〜っ↓ あ〜っ♪
常に、妖精の悲鳴として出力されるギター、ベース、そしてドラム。音が重なって、よく分からないけど何だか圧倒されるような、パワフルな音楽が完成する。
「♪KYOKO〜っ、KYOKO〜っ、KYOKO〜っ、KYOKO〜っ、KYOOOOOOぉおおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ！！いいぃいぇえええええええええええええぇおうおうわうわうわうあああああああああっ！！」
これを生み出した彼女には遠く及ばないが…………妖精を楽器として扱っている俺たちも、「前衛芸術」とやらに片足を踏み込んでいるんじゃないだろうか。
これが、俺たちのハロウィンだ………………………………
☆バスドラムのくだり、むらさき様の「ずんだ虫で太鼓」リスペクトです！本当にありがとうございます！！（『むらさきが描いたやつまとめ13』より）
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クズの癖に無駄にカッコよく最期を迎えようとしてるパパずんやカゴの中でずんちする子ずんに殺意が湧きつつもその後のままずんに子ずん(だったもの)を食わせる展開で笑わせて頂きましたw
ずんだ虫を楽器にする展開は良いですねぇ、やはりずんだ虫は徹底的に苦しめてこそですわw
コメントありがとうございます。それぞれがイラつく要素を持っているからこそ、虐描写のカタルシスが増した気がします！！
anti-tarinaiさんの名作『ハロウィンずん虐』伸びがすごいですね！
拙作とは違って、しっかりと「仮装」に焦点を当ててそれを虐に繋げているのが、さすがだなあと感じます！！
カールパーキンスにビートルズにオノヨーコ…..洋楽好きなんですなぁ….
コメントありがとうございます。エルヴィス・プレスリーでなくカール・パーキンスなんですよね〜！（こだわり感じて好きです）
セトリのイメージは「ライヴ・ピース・イン・トロント 1969」です！！
人間さんから美味しいご飯さんをもらったと思ったら実はおちびちゃんやパパずんだったという展開は王道ですな。しかしお菓子を自分達はもらえると思ってたのにもらえなかったのは少しだけかわいそう
コメントありがとうございます。自分が食べているものの正体に気づいてから途端に絶望して食べられなくなる、という流れは美しいですよね……リスペクトさせていただきました！！
ハロウィンは、あくまで人間のイベントということでしょうね……妖精はそもそもお菓子をもらえる資格がなかったと……
もしくは、若者たちの残虐性ゆえかもしれません！！
「生ゴミ食ってるようなのをお菓子の材料に使って大丈夫か？」とか心配してたらｗｗｗ
最初から織り込み済みの運試しとはｗｗｗ
カカオって妖精にも害あるんですね
百合が相変わらずで何よりです
去年はゆっくりを使ってたんですねｗ
コメントありがとうございます。申告なしで「生ゴミ仕立て」のチョ子ずんを提供してたら、それこそテロでしたね！！
カカオが有毒というのは、私独自の設定です（この小説オンリーにするかもしれません、悪食過ぎる方が面白いですし）
いろいろ気づいてくださって嬉しい！！ふたりは仲良しですし、あのおまんじゅうたちもひっそりと生息しております＾＾
生ゴミ食ってた個体をチョココーティングって正気か？と思ったら運試しでしたかー騙されたなー(棒)
母ずんだけうめえうめえって食ってる姿が滑稽でした、そりゃそうなるわなあと
コメントありがとうございます。向こう見ずのバカやれるのも学生の特権ですね()
なまじ、生ゴミの味に慣れて、それを主食としていたばかりに……
最初は子ずんだけ淡々と料理して殺す話にしようと思ったのですが、母ずんが割り込んできたんですね〜