タイトルの通りです。
今まで、複数回にわたる長編しか投稿してこなかった（投稿祭を除く）ので、1話完結の小説は今回が初めてだと思います。
逆転なし、鬱展開なし、常に人間側が優勢な内容となっております！！
☆皆さんは、もし自分だけの「作業用」あるいは「処刑用」のBGMを流しながら駆除作業にあたれるとしたら、どんな曲を流したいですか？
お気軽にコメントくださいね！！
妖精の言葉に人間が一切耳を貸さずに黙々と駆除する話
キョンという動物をご存じだろうか。
分類学上は、「哺乳綱偶蹄目シカ科ホエジカ属」に属するシカの仲間で、原産国は中国や台湾であると言われている。日本では、動物園で飼われていた個体が逃げ出し、天敵がいない環境でどんどん数を増やしていった。
今では、環境省が指定する特定外来生物に分類されている。
ホエジカ属というだけあって、その声はかなり大きい。ニホンジカやエゾシカのような「ぴゅうう！」というかわいいものではない。
「ギャーオ！！ギャーオ！！」
とても力強い、暗闇で聞こえてきたら恐怖してしまいそうな声だ。実際、キョンが定着した地域では夜間の騒音被害も出ている。
そんなキョンでも、捕まって殺されそうになった時は、普段とは全く違う声を放つ。
「きゅううううん！えええええええん…………」
まるで人間の赤ん坊のようだ、と、ハンターは言う。
仲間に助けを求めるように。
殺さないでください、助けて……と懇願するように、目をかっと見開いて泣き叫ぶのだ。
そんな姿に、命を奪うことの罪悪感を覚え、キョンを捕りたくないと訴えるハンターも多い。
これを知ってか知らずか、別のベクトルで似たような方法を編み出したイキモノがいた。
そう、俗に「ずんだ虫」と呼ばれる妖精である。
彼らは、他の生物にはない高い言語能力を持ち合わせている。妖精行動学・生態学上、その言語能力が種の繁栄に寄与しているわけではなく、人間の真似をしているだけであるという説が有力だが、長年、なぜそのような能力が備わっているのか疑問視する学者が多かった。
ある学者が、キョンの「命乞い」と、妖精の言語能力を結び付けた仮説を立てた。彼は、キョンには誠に失礼な話ですが、と前置きしたうえで、こう言った。
「妖精はこれといって他の生物より優れている点はありません。だからこそ、厳しい自然界で生き残るため、言語能力を発達させることで、自分たちが他とは違って高尚な存在であると 思 い 込 む よ う に な っ た の で す ！」
それがキョンの命乞いとどう関係が、という質問が飛ぶ。
「人間は、人間の赤ん坊に似たキョンの声に、底知れぬ罪悪感を覚えます。クジラが歌うから、狩るなんて野蛮だ、とする人々と理屈は同じです。少しでも“人間的”な要素が入っている生物を、私たちは他の生物よりも優れている、あるいは、頭が良いものとして捉えてしまう。違いますか？」
まあ、捕鯨に関する議論はまた別の機会で、と付け加える学者。
「妖精は、人間の“憐憫の感情”を利用しようと考えているのです！同じ言語を話すから、殺してはいけない。同じ言語を話すから、同等、もしくは自分たちよりも上等な種である、と思い込ませようとしている！妖精が人間を極度に敵視するのは、妖精が一方的に考えた“常識”が人間に適用されないことが不満であるからではないでしょうか？」
ここでは特筆しないが、妖精は、その言語能力をフル活用した罵倒のオンパレード、または命乞いの言葉を、人間に対してぶつけてくる。
あまりにも拡大する被害に、自力で妖精の駆除をおこなおうと試みるも、妖精の言語能力のせいで精神的苦痛を感じる民間人も後を絶たないため、最終的には駆除業者が駆り出されることになる。
しかし、妖精の繁殖能力は圧倒的だ。駆除業者がいくら頑張っても、一度妖精が定着した地域でそれらを絶滅させることはかなり難しい。
そのおぞましいまでの繁殖能力も、妖精が“生態ピラミッド”の最底辺にいることの証明であると指摘する学者もいる。いずれにせよ、人間にとって最も厄介なイキモノであることには変わりない。
今回引き合いに出されたキョンと妖精とでは、ひとつの大きな違いがあった。前述したとおり、キョンは過去に人間が持ち込んだものを逃がしたことで被害が発生している。キョンに直接的な罪はないのだ。むしろ、人間の方に罪がある。
一方で、妖精はどうだろう。妖精は誰が持ち込んだわけでもなく、古くから日本国内に生息していた。それが爆発的に増加し、山を下りて人間社会に被害をもたらしている。人間に直接的な罪はないのだ。むしろ、後先考えずに繁殖を続け、破壊の限りを尽くしている妖精の方に罪がある。
キョンの繁殖能力も舐められたものではないが、妖精の繁殖能力が圧倒的過ぎて、数の暴力で襲い来る妖精による被害は、いずれ日本経済を圧迫すると警告する学者もいる。政府はだんまりを決め込んでいるようであるが。
とうとう、妖精の駆除業者に、とある町の住民から依頼が入る。
「どうにかして、あの妖精たちを“一言も喋らせぬまま”駆除させてはもらえないでしょうか」
この難題に駆除業者は見事、応えた。国内外の様々な組織に協力を仰ぎ、航空機によって、妖精の被害を受けている集落および、山野に薬剤を散布する計画を決行したのだ。
「NoSt剤」と名付けられたこの薬剤は、妖精の発声器官に作用し、「喉焼け」の状態を引き起こすとされた。
妖精を一気に駆除するには、もっと強力な毒ガスを散布するのが一番効率的であることに間違いはないが、人間に対する安全性を第一に考えた時に、あまりにも強力すぎるものは望めなかった。何よりも、住民たちは妖精を自分たちの手で直接駆除したがったので、毒ガスで殺してしまっては復讐が果たせない、という声もあったのだった。
急ピッチで製造されたNoSt剤は、国内で使用される際の安全性の問題について争われたが、人間が浴びたり、農作物に降りかかったりしても問題はないとされ、一刻も早く散布するのが是とされた。だが念のため、薬剤使用後、薬剤の煙が消えるまで、しばらく人々は家から出ないようにとの注意勧告があった。
博物館から引っ張り出されたA-1攻撃機＜スカイレイダー＞や、F-100戦闘機＜スーパー・セイバー＞といった航空機が主にこの仕事に従事した。妖精たちにはまともな反撃能力がないため、今となっては骨董品レベルの機体でじゅうぶんであると判断されたのだった。
キイィィィィィィィィィィィィィィッ！！
＜スーパー・セイバー＞の耳をつんざくジェット・エンジンが空を切り裂き、薬剤がたっぷり入った特殊爆弾が民家に影響のない場所に投下されると、やがて町一帯は鮮やかな緑色の煙に包まれた。着色されたNoSt剤だ。
「こえ……でない……のだぁ……」
「がっ……がぅ……」
「ああぅ……ぐぶうううううぅ……」
我が物顔で町を飛び回っていた妖精たちは、しだいに力をなくして地面に落ち、喉を押さえて呻き始める。あまりの苦しみに嘔吐している個体も多い。NoSt剤の入った爆弾は、1発だけでも見事な効力を発揮した。
バルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ！
「うおおおおおおおおっ！ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおっ！！」
やがて、遅れて到着したプロペラ機の＜スカイレイダー＞が、1匹の妖精も逃がさぬ勢いで、念入りにNoSt剤入りの小型爆弾を投下していく。自宅の窓からその姿を見ながら歓声を上げる人々に応えるように、両翼からスモークを焚いた＜スカイレイダー＞は、見事な宙返りをしてみせた。
1日が経過し、薬剤の煙が完全に消えたことで外出が可能になると、人々は意気揚々と外に繰り出し、地面で呻くことしか出来ない妖精を潰し始める。
「おらっ！！散々俺たちの家や田畑を荒らしやがってぇ！」 ぐちゃっ！
「あんたたちのこと、もう許さないわ！踏んでも踏んでも踏み足りないっ！」 ぐちゃぐちゃぐちゃ！
「呻くな気色悪い！お前ら、いるだけでうるせえんだよおおおっ！死ねえっ！」 どちゅっ！
「ざまあみろクズ妖精！お前の、負けえええええええええええええええええええええええええっ！！」 ごりゅっ！ぢゅぐううっ！
妖精たちはまともに抵抗が出来ず、お得意の罵詈雑言を浴びせかけようとしても、焼きただれた喉から「かひゅ……かひゅっ………」というか細い音を発するだけであった。常日頃、妖精による被害に悩まされていた人々は、まさに“倍返し”をするような勢いで、妖精を潰し続けた。
その週は、燃えるゴミがいつもの5倍以上、集積所に集められたという。緑色に染まったゴミ袋が何層にも積み上げられている光景は、異様とも言えた。
この町における作戦の成功を受け、他の地域でも、NoSt剤を使用して欲しいとの声が上がり始める。だが、NoSt剤の作戦も完璧ではなかったのである。
確かに、NoSt剤は人間に健康被害をもたらすことはない。それは確実だった。しかし、人間以外の生物にとっては、違った。
作戦から1週間が経過したある日、ある家庭で飼われていたセキセイインコがぱったりと鳴かなくなった。動物病院にかかったところ、軽い喉の炎症が見られたという。
幸い、死に至ることはなかったが、これは明らかに、NoSt剤によるものであった。
気がつけばその町では、スズメも、ハトもカラスも、発声器官を持つ生物は鳴りを潜め、酷く静かな町になった。町中から妖精が殲滅されたとはいえ、妖精以外の生物が健康被害を受けるのは、人々が望んだ結末ではなかったのだ。人々の罪悪感は再び刺激された。
これが大々的に報道されると、国内外から批判の声が上がる。「航空攻撃による地上への薬剤の散布」と言う構図は、かつてのベトナム戦争でアメリカ軍がおこなった「枯葉剤作戦」を想起させるため、非人道的だと激しく非難されたのである。
NoSt剤を“妖精だけを攻撃する”ものに改良するにしても、莫大な費用と時間がかかり、何より、再びそれを使用するリスクは、国際的な信用問題としてあまりにも大きかった。
NoSt剤の即時使用中止を求められた駆除団体は、妖精を「黙らせる」ための新たな方法を模索しなければならず、なかなか有効な案が浮かばないまま、時は過ぎた。
「……なるほど、それで我（われ）が呼び出されたというわけですね」
どこの組織にも属せず、妖精の駆除を続ける†聖騎士紅桜†（ホーリーナイト・べにざくら）に、ついに声がかかる。
彼は発想の転換で、瞬く間に駆除業者たちに希望を与えた。
紅桜の考えはこうだ。
『妖精を黙らせるのが難しいのならば、我が方が最初からその“言葉”を聞かなければ良い』
それは果たしてどういう意味か？訝しんだ駆除業者たちの前に、深紅の防護服があらわれる。何より特徴的なのは、ヘルメット部分に取り付けられた、完全に視界を密閉する大きなゴーグルと、巨大なヘッドホンのような装置であった。
「被ってみて下され」
その場に集められた6人の精鋭がヘルメットを被り、ゴーグルを下ろす。キュピピ！という音とともに生体認証がなされ、VR映像として目の前の景色がゴーグルに投影される。
「おお、すごい……！」 「画期的ではないか、これは……」
次々に感激の声を漏らす精鋭たち。満足げにうなずいた紅桜は、次に、捕らえられていた1匹の妖精を持って来る。
「……どう見えましょう」
「すごい、妖精が赤く表示されている！！」
特殊ゴーグルには、妖精をくっきりと目立たせる機能がついており、これで、暗所に隠れている妖精も瞬時に見つけ出せるというわけだ。しかし、何よりも……
「んっ……？妖精の声が聞こえない」
精鋭のひとりが気づく。紅桜に掴まれた妖精は、口を大きく開けて何かを喚いている様子だが、ヘルメットを被っている精鋭たちには全く聞こえていない。妖精以外の人間の声は、はっきりと聞こえるというのに。
「これこそ、我が“イヤホン”から連想したノイズ・キャンセリング機能です……聞こえて来るすべての音声情報から妖精の声だけを抽出し、こちらの耳に届かないようにしてくれます」
「何と！既存のテクノロジーを有効活用するとは」
「妖精には、罵詈雑言を鳴かすだけ鳴かせておいて、こちら側は一切耳を貸す必要なく、駆除にあたれるということですな！」
妖精の声は、市販のノイズ・キャンセリングイヤホンを貫通してしまうくらい特徴的だった。そこで紅桜は、謎の天才科学者“K”や兵器メーカーと協力して、高性能AIに実に1か月間、妖精の発する声のバリエーションを覚えさせた結果、完全に妖精の声を判別出来るシステムを完成させたのだった。
「そして……」 ぐちゅうっ
「おお、赤い色の表示が消えた……」
「お分かりでしょうか？このように妖精が死ねば、ターゲットを無力化したとして赤い表示を解除する機能もあるのです…………また、視界範囲外から妖精が接近しても、矢印をゴーグル内に投影して、警告メッセージを表示します」
「素晴らしい！素晴らしいぞ！！流石は紅桜どの！！」
妖精が最期まで無言のままに握り潰されると、精鋭たちの興奮は最高潮に達した。このおかげで、他の生物には被害を与えることなく、妖精を駆除することが出来る。妖精の駆除には妖精の声を聞いて発見することがセオリーではあるが、その声をあえてこちら側で封じて、代わりに高性能ゴーグルで可視化するというのも、斬新な点であった。
この完璧ともいえる特殊防護服の唯一の問題点。それは、あまりにも高すぎるその価格であった。最新のテクノロジーを惜しげもなく投入した特殊防護服の開発費は膨れ上がり、広範囲における普及と実用化はかなり先になるとされた。
紅桜に試作を依頼された兵器メーカーは、「絶対に破損させないこと」を条件に、特殊防護服を貸与したのだった………
次の日、深紅の特殊防護服を身に着けた精鋭たち6人を率いる紅桜を合わせたヘリボーン部隊7人は、UH-1型ヘリコプター＜イロコイ＞に乗り込んで任務に出発した。この任務は、特殊防護服の実戦適合度テストも兼ねていたのである。
目指すは、妖精が多数群れをなして潜伏する中国地方の灯台付近であった。ここでつい昨日、妖精の駆除依頼が入ったのだった。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラ……
瀬戸内海を行く＜イロコイ＞の激しいローター音が響き渡る。隠密行動には向かない音量ではあるが、今回は、別に潜入が任務ではない。何しろ、多数の個体で密集した妖精たちは、数による安心感を覚え、なかなか自分たちから逃げようとしないのが定石だった。
駆除業者たちにとっては、ターゲットである妖精が慢心して逃げないのは好都合であった。
精鋭たちは、手にしたアサルト・ライフルの弾倉をヘルメットにコツコツと当てたり、＜イロコイ＞に取り付けられたロケット・ポッドを撫でたりして、これから始まる殺戮に心を躍らせている。
紅桜も、手にした聖剣「紅（クリムゾン）」に精神を集中する。これからは、妖精駆除の新時代が来ると、確信していた。
「………踊ろうぜ」
やがて、目標地点の灯台が見えてくると、ニヤリと笑った精鋭のひとりが、おもむろにスピーカーを起動し、大音量で音楽を流し始める。
瀬戸内海に響き渡る重厚なテーマ。リヒャルト・ワーグナーの『Walkürenritt（ワルキューレの騎行）』であった。
彼がわざわざ＜イロコイ＞への搭乗を希望したのは、これが理由であった。あの映画の冒頭のような、華麗な奇襲攻撃をどうしてもやってみたかったというのだ。
他の精鋭たちに異論はなかった。紅桜も、彼らの士気が高まるならと快諾したのであった。
血湧き、肉躍るその旋律に包まれ、着陸脚が海面に触れるのではないかという高度まで降下した＜イロコイ＞は、最高速度で砂浜を目指す。
砂浜では、灯台から出て来た多数の妖精たちがお尻を太陽に向けて、しきりに日光浴をしているところであった。こうすることで活力が上がるようだが、白い砂浜に緑色の体色でその身をさらけ出しているのは、どうぞ撃ってくださいと言わんばかりの愚行であった。
そんな妖精たちを仕留めるべく、超低空飛行で＜イロコイ＞が襲い掛かる。妖精たちがその存在に気づいたころには、もう遅かった。
ばしゅばしゅばしゅばしゅばしゅばしゅっ！！ぴゃずうううううんっ！どぱああああん！！
ガンナーが発射ボタンを押すと＜イロコイ＞の機体側面に取り付けられたロケット・ポッドから対妖精用ロケット弾が斉射され、砂浜で爆発する。凄まじい爆発に、妖精たちの体が飛び散った。
パニック状態になって逃げまどう妖精の頭上を、悠々と＜イロコイ＞が通過する。
対妖精用ロケット弾は、炸薬で妖精を殺傷することは勿論、爆風に含まれるガスは、妖精の飛行器官に作用し、妖精の飛行能力を制限することが出来る。死を免れた妖精たちは、灯台へ逃走しようと、あるいは反撃すべく空へ飛び上がろうと砂浜で腰を震わせるが、無駄な足掻きであった。
ダダダダダダダダダダッ！ダダダダダダダダダダッ！！
反転した＜イロコイ＞は、機体側部にマウントした複数の機関銃を唸らせ、生き残った妖精たちを肉の塊に変えていく。妖精たちは耳ざわりな声で必死に叫んでいるはずであったが、ヘルメットのノイズ・キャンセリング機能は優秀で、精鋭たちには、妖精たちが無言のままに死んでいくように思えた。
砂浜に残る妖精の数が少なくなると、いよいよ制圧の時間だ。ホバリングした＜イロコイ＞から、次々に飛び出す精鋭たち。紅桜も、「紅（クリムゾン）」をきらめかせ、飛び降りた。
「かたじけない！」
「ホーリーナイトどの、ご武運を」
敬礼を返したパイロットとガンナーが＜イロコイ＞を上昇、旋回させる。7人の兵員を輸送し、かつロケット・ポッドや機関銃をマウントした＜イロコイ＞は過重積載気味で、燃料は最小負荷の量しか積んでいなかったため、これ以上の航空支援の続行は望めなかったのだった。
紅桜は自慢の鎧に取り付けたゴーグルとヘッドホンの位置を確認し、精鋭たちに合流した。
妖精が密集していれば、ロケット弾による範囲攻撃や機銃掃射が有効だが、生き残りが少なくなると、個々に撃滅していく方が確実であった。
ダンッ！ダンッ！ダンッ！ダンッ！ぱしゅっ！どちゅっ！
男たちはアサルト・ライフルを単発モードで撃ち続ける。ひとつの銃声が轟くたびに、砂浜で逃げまどう妖精が1個体ずつはじけ飛ぶ。飛べなくなった妖精をただ踏みつけるのではなく、完膚なきまでに撃ち抜くのは、彼らなりのこだわりであった。
ズバッ！ジャキンッ！！
紅桜も「紅（クリムゾン）」を振るい、妖精を真っ二つにして回る。ゴーグルの赤い表示のおかげで、どの個体がまだ生きているかを判別するのは容易かった。
彼の場合、普段から「気配」だけで駆除作業をおこなっているため、ゴーグルがなくても問題はなかったが、やはりこれがあるだけで駆除作業のハードルが下がって良いと感じる。
……ダンッ！！
制圧まで長くはかからなかった。物見やぐらのようにしていたのだろう、木の上に登って最後まで隠れていた妖精も、容赦なく撃ち落とされた。バレていないつもりだったのだろうが、高性能のゴーグルはごまかせない。
その妖精が落下し、体液をまき散らしながらバラバラになると、ゴーグルに赤い識別表示は出なくなった。砂浜にいた妖精は、完全に殲滅されたということだ。
次は、灯台だ。
無駄のない動きで、男たちは灯台へと走る。ゴーグルには、灯台に残りの妖精が立てこもっているとの情報が映し出されていた。逆に、出口さえ塞いでしまえば、逃がすことなく一網打尽に出来る。今回は、何もかも、彼らにとって好都合であった。
ばあああん！
妖精たちが必死に固く閉じていたであろう入り口をやすやすと開け放つと、紅桜たちは一斉に灯台内部へ突入した。何しろ、妖精には備え付けの鍵をかけるという知能がない。
7人が全員内部へ入ると、最後尾の男がすぐさま扉を閉める。これで、強固なガラスを割らない限りは、妖精たちの脱出は不可能だろう。
灯台内部は、まさしく地獄絵図と言って良かった………………人間にとっては。
いたるところに妖精がはびこり、壁や照明装置には妖精のフン尿が飛び散っている。常駐する職員が食べるはずであった食糧には、子ずんが群がっている。
依頼主は灯台の管理責任者で、見回りのために入り口を開け放っていたところ、突如、妖精の大群が襲来し、慌てて外に避難したのだという。灯台は海の安全を守るうえで不可欠だが、妖精が好き勝手に装置をいじくるので、機能不全を起こしていた。
海の安全のためにも、一刻も早くここを奪還しなければ。
「ガラスには攻撃を加えないよう、各自、速やかに妖精を撃滅せよっ」
「了解、ホーリーナイトどのっ！」
紅桜の指示で、一斉に精鋭たちが散開して攻撃を開始する。紅桜も、「紅（クリムゾン）」を構え、目の前にいる妖精たちにゆっくりと近づく。
妖精たちは必死に罵詈雑言をまくしたて、攻撃をためらわせようとしているようだったが、ヘッドホンを介すると、ただ口をパクパクして逃げようともしない哀れなイキモノとしか映らない。
やがて彼が聖剣を振りかぶると、その顔は恐怖一色に染まる。
ざしゅっ！ずばっ！ざくっ！ぐちゃっ！しゅばっ！
自分たちの罵詈雑言が全く通じないという事実を認められないまま、妖精たちが斬られる。恐ろしい悲鳴が響き渡っているはずが、あくまで無音。サイレント映画のように、ひたすら妖精たちは死の斬撃を浴びる。
紅桜は、あくまで無感情に、淡々と仕事をこなす。灯台内部の妖精の殲滅。それが依頼主の望んだことだから。
恐怖に逃走した妖精が上の階まで飛んでいくが、上に登ったとて逃げ場はない。下手に籠城戦を仕掛けたのが、妖精たちの運の尽きだった。
実は、もうひとつ。
この特殊防護服には、特別な機能が備わっていた。
それは、気分が向上するような好きな音楽をヘッドホンから流しながら、駆除作業に従事出来るというものだ。
ある男は、奇襲時に引き続き、リヒャルト・ワーグナーの『Walkürenritt（ワルキューレの騎行）』を流し続けた。
この音楽が使われている例の映画では、兵士たちは無抵抗な地元民をも容赦なく撃ち殺した。誰が民間人で、誰が戦闘員かわからず、疑心暗鬼になっていたからだ。とはいえ、一方的な無差別殺人は、決して許されるようなことではない。
だが、今回は勝手が違う。撃つべき相手は、人間ではない。人間に仇なす害獣だ。何も躊躇することはない！やるんだ、徹底的に！
ある男は、ハムスターが砂漠で踊り狂う曲を流し続けた。軽快なメロディーに合わせて、リズミカルな銃声が響き渡り、妖精が次々に四散した。
彼は、日々増え続ける妖精による被害や、それによる治安の悪化に胸を痛めていた。人間の暮らす平和な社会を守るために、妖精を撃つ。それが彼の使命だ。鮮やかにリロードを済ませた彼は、部屋の奥に逃げようと無様に這いまわる子ずんを撃ちまくった。彼は子ずんだろうと差別はしない。クズ妖精はクズ妖精！等しく死ぬ権利がある。
ある男は、1950年代後半のラテン風の曲で殺戮に精を出した。『♪Tequila！！』のシャウトが響き渡ると同時に、部屋の隅で震える妖精の大群を、アサルト・ライフルの下部に取り付けられたグレネード・ランチャーで吹き飛ばすのが快感であった。
彼は、妖精の発する「声」が憎かった。あんな自分たちの幸せのことしか考えられないような存在が、人間と同じような言葉を発することが許せなかった。まるで、自分たち人間の汚い部分が前面に押し出されているような気がして……
ある男は、小さい頃に憧れていた特撮ヒーローの「処刑用BGM」を大音量で流していた。黒いボディに真っ赤な目を持つあのヒーローは、ひとりだけで悪に立ち向かい、そのBGMが流れたら、必ず悪をやっつけた。
特殊ゴーグルが、後方からの妖精の接近を知らせる。勝利を確信した妖精の突進をヒーローのように素早く躱すと、お返しとばかりに対妖精用のマチェーテを一閃。あのヒーローも、光の剣で戦っていた。マチェーテで妖精という「悪」を切り裂き続ける彼は、まさにあの頃憧れていたヒーローそのものになっていた。
ある男は、「ずんだもん」の新曲を流し続けた。
妖精が、体色が似ているからと言って「妖精ずんだもん」等と面白半分に呼ばれるようになったことを、彼はアイドルであるずんだもんの大ファンとして、絶対に許せなかった。その風評被害をなくすためにも、一刻も早く、妖精をこの世から根絶やしにすべきだと固く決意し、トリガーを引くのだった。
ある男は、「幸せとは、温かい銃だ」と断言している曲をループで流し続けた。歌詞の解釈がどうであれ、目の前の妖精を撃って、撃って、撃ちまくる彼は今、とても幸せであった。自分の放った弾丸が妖精の絶望した顔面を貫通し、体液や脳漿が飛び散るのを見るのは、何よりの幸福であった。
その曲を書いたアーティストは、いくら自分がちっぽけな存在だったとしても、抗い続けることの大切さを教えてくれた。今、まさに妖精の大群に囲まれながらも、アーティストの歌声に励まされ、彼は銃を撃ち続けるのであった。
妖精たちは、その汚らしい悲鳴を人間たちに一切聞かれることなく、惨たらしく殺され続けた。辛うじて生き残った妖精はもはや戦意を失い、ただ強固なガラスをその短い四肢で醜く叩き続けるだけであった。
人間たちの完全勝利であった……まあ、プロフェッショナルである彼らに敗北はあり得ないが………
男たちは、満を持してヘルメットを外す。途端に、妖精たちの喚き声が耳に突き刺さる。
「だちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちて！！」
「だせだせだせ！だせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせええええええええええええええええっ！！」
もはや罵詈雑言を浴びせかける余裕もない。死を目の前にしてもなお、妖精たちはそれを受け入れられず、ガラスを「ぐるぐるぱんち」で叩き続ければ、いつかは……自分たちの思い通りに割れるだろうと思い込んでいたのだった。
駆除業者の精鋭たちにとっては、妖精が追い詰められた時に発する喚き声こそが、一番の清涼剤であった。自分たちこそが「最強」で、「高尚」な「森の賢者」であると信じて疑わない傲慢な信念が、死の恐怖によってあっけなく崩れ去る瞬間であったからだ。
「う、うぐ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「い、いぢゃいいぢゃい！！ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「だちてだちてだちてだちて、ああああああああああああああああああああああああああああ」
武器を使うまでもない。抵抗しなくなった妖精たちは、精鋭たちの手によって直接握り潰された。その耳ざわりな悲鳴も、やがて静かになった。
……彼らの行為を「非人道的である」と、安全圏から罵る人がいるかもしれない。だが、妖精の本性を知る人なら、クズ妖精を丁寧に殺してやっているだけ人道的だ、と反論するだろう。
妖精の駆除業者の殆どが、元・会社員であった。だが、正義感の強い彼らは、妖精が好き勝手に暴れる世界を許すような、見て見ぬふりをするような人間ではなかった。
駆除業者にとって妖精は、地球の“癌”と言っても良かった。自分たちの幸せのために、平気で他を切り捨て、差別し、何もかもを奪い、無責任に繁殖し、環境を破壊していく。その行動に罪悪感は一切なく、自分たちこそが自然の支配者であり、自分たちの考えこそが正しいと思い込んでいる。
こんな妖精が人間社会に存在し続けるだけで、人々の精神は疲弊し、人間らしさを失ってしまう。それどころか、人間社会が成り立たず、人類の絶滅だってあり得る話だ。
妖精の駆除業者としての誇りを持つ彼らは、人間が、人間らしく暮らせる世界を守るために、日々、クズ妖精を駆除し続けるのである。
こんな彼らを、誰が批判出来ようか？
彼らの戦いは、これからも続く。
あなたも、駆除業者になりませんか？
〜終〜
最後まで読んでいただきありがとうございます。このお話は、以前投稿した「民族浄化」シリーズのコメント欄にてリクエストいただいたものです。
ご本人様に届くといいな……と思いながら、執筆しました。
書いて欲しい小説のリクエストや創作アイデア等、承っておりますのでいつでもどうぞ！
けも
今まで、複数回にわたる長編しか投稿してこなかった（投稿祭を除く）ので、1話完結の小説は今回が初めてだと思います。
逆転なし、鬱展開なし、常に人間側が優勢な内容となっております！！
☆皆さんは、もし自分だけの「作業用」あるいは「処刑用」のBGMを流しながら駆除作業にあたれるとしたら、どんな曲を流したいですか？
お気軽にコメントくださいね！！
妖精の言葉に人間が一切耳を貸さずに黙々と駆除する話
キョンという動物をご存じだろうか。
分類学上は、「哺乳綱偶蹄目シカ科ホエジカ属」に属するシカの仲間で、原産国は中国や台湾であると言われている。日本では、動物園で飼われていた個体が逃げ出し、天敵がいない環境でどんどん数を増やしていった。
今では、環境省が指定する特定外来生物に分類されている。
ホエジカ属というだけあって、その声はかなり大きい。ニホンジカやエゾシカのような「ぴゅうう！」というかわいいものではない。
「ギャーオ！！ギャーオ！！」
とても力強い、暗闇で聞こえてきたら恐怖してしまいそうな声だ。実際、キョンが定着した地域では夜間の騒音被害も出ている。
そんなキョンでも、捕まって殺されそうになった時は、普段とは全く違う声を放つ。
「きゅううううん！えええええええん…………」
まるで人間の赤ん坊のようだ、と、ハンターは言う。
仲間に助けを求めるように。
殺さないでください、助けて……と懇願するように、目をかっと見開いて泣き叫ぶのだ。
そんな姿に、命を奪うことの罪悪感を覚え、キョンを捕りたくないと訴えるハンターも多い。
これを知ってか知らずか、別のベクトルで似たような方法を編み出したイキモノがいた。
そう、俗に「ずんだ虫」と呼ばれる妖精である。
彼らは、他の生物にはない高い言語能力を持ち合わせている。妖精行動学・生態学上、その言語能力が種の繁栄に寄与しているわけではなく、人間の真似をしているだけであるという説が有力だが、長年、なぜそのような能力が備わっているのか疑問視する学者が多かった。
ある学者が、キョンの「命乞い」と、妖精の言語能力を結び付けた仮説を立てた。彼は、キョンには誠に失礼な話ですが、と前置きしたうえで、こう言った。
「妖精はこれといって他の生物より優れている点はありません。だからこそ、厳しい自然界で生き残るため、言語能力を発達させることで、自分たちが他とは違って高尚な存在であると 思 い 込 む よ う に な っ た の で す ！」
それがキョンの命乞いとどう関係が、という質問が飛ぶ。
「人間は、人間の赤ん坊に似たキョンの声に、底知れぬ罪悪感を覚えます。クジラが歌うから、狩るなんて野蛮だ、とする人々と理屈は同じです。少しでも“人間的”な要素が入っている生物を、私たちは他の生物よりも優れている、あるいは、頭が良いものとして捉えてしまう。違いますか？」
まあ、捕鯨に関する議論はまた別の機会で、と付け加える学者。
「妖精は、人間の“憐憫の感情”を利用しようと考えているのです！同じ言語を話すから、殺してはいけない。同じ言語を話すから、同等、もしくは自分たちよりも上等な種である、と思い込ませようとしている！妖精が人間を極度に敵視するのは、妖精が一方的に考えた“常識”が人間に適用されないことが不満であるからではないでしょうか？」
ここでは特筆しないが、妖精は、その言語能力をフル活用した罵倒のオンパレード、または命乞いの言葉を、人間に対してぶつけてくる。
あまりにも拡大する被害に、自力で妖精の駆除をおこなおうと試みるも、妖精の言語能力のせいで精神的苦痛を感じる民間人も後を絶たないため、最終的には駆除業者が駆り出されることになる。
しかし、妖精の繁殖能力は圧倒的だ。駆除業者がいくら頑張っても、一度妖精が定着した地域でそれらを絶滅させることはかなり難しい。
そのおぞましいまでの繁殖能力も、妖精が“生態ピラミッド”の最底辺にいることの証明であると指摘する学者もいる。いずれにせよ、人間にとって最も厄介なイキモノであることには変わりない。
今回引き合いに出されたキョンと妖精とでは、ひとつの大きな違いがあった。前述したとおり、キョンは過去に人間が持ち込んだものを逃がしたことで被害が発生している。キョンに直接的な罪はないのだ。むしろ、人間の方に罪がある。
一方で、妖精はどうだろう。妖精は誰が持ち込んだわけでもなく、古くから日本国内に生息していた。それが爆発的に増加し、山を下りて人間社会に被害をもたらしている。人間に直接的な罪はないのだ。むしろ、後先考えずに繁殖を続け、破壊の限りを尽くしている妖精の方に罪がある。
キョンの繁殖能力も舐められたものではないが、妖精の繁殖能力が圧倒的過ぎて、数の暴力で襲い来る妖精による被害は、いずれ日本経済を圧迫すると警告する学者もいる。政府はだんまりを決め込んでいるようであるが。
とうとう、妖精の駆除業者に、とある町の住民から依頼が入る。
「どうにかして、あの妖精たちを“一言も喋らせぬまま”駆除させてはもらえないでしょうか」
この難題に駆除業者は見事、応えた。国内外の様々な組織に協力を仰ぎ、航空機によって、妖精の被害を受けている集落および、山野に薬剤を散布する計画を決行したのだ。
「NoSt剤」と名付けられたこの薬剤は、妖精の発声器官に作用し、「喉焼け」の状態を引き起こすとされた。
妖精を一気に駆除するには、もっと強力な毒ガスを散布するのが一番効率的であることに間違いはないが、人間に対する安全性を第一に考えた時に、あまりにも強力すぎるものは望めなかった。何よりも、住民たちは妖精を自分たちの手で直接駆除したがったので、毒ガスで殺してしまっては復讐が果たせない、という声もあったのだった。
急ピッチで製造されたNoSt剤は、国内で使用される際の安全性の問題について争われたが、人間が浴びたり、農作物に降りかかったりしても問題はないとされ、一刻も早く散布するのが是とされた。だが念のため、薬剤使用後、薬剤の煙が消えるまで、しばらく人々は家から出ないようにとの注意勧告があった。
博物館から引っ張り出されたA-1攻撃機＜スカイレイダー＞や、F-100戦闘機＜スーパー・セイバー＞といった航空機が主にこの仕事に従事した。妖精たちにはまともな反撃能力がないため、今となっては骨董品レベルの機体でじゅうぶんであると判断されたのだった。
キイィィィィィィィィィィィィィィッ！！
＜スーパー・セイバー＞の耳をつんざくジェット・エンジンが空を切り裂き、薬剤がたっぷり入った特殊爆弾が民家に影響のない場所に投下されると、やがて町一帯は鮮やかな緑色の煙に包まれた。着色されたNoSt剤だ。
「こえ……でない……のだぁ……」
「がっ……がぅ……」
「ああぅ……ぐぶうううううぅ……」
我が物顔で町を飛び回っていた妖精たちは、しだいに力をなくして地面に落ち、喉を押さえて呻き始める。あまりの苦しみに嘔吐している個体も多い。NoSt剤の入った爆弾は、1発だけでも見事な効力を発揮した。
バルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ！
「うおおおおおおおおっ！ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおっ！！」
やがて、遅れて到着したプロペラ機の＜スカイレイダー＞が、1匹の妖精も逃がさぬ勢いで、念入りにNoSt剤入りの小型爆弾を投下していく。自宅の窓からその姿を見ながら歓声を上げる人々に応えるように、両翼からスモークを焚いた＜スカイレイダー＞は、見事な宙返りをしてみせた。
1日が経過し、薬剤の煙が完全に消えたことで外出が可能になると、人々は意気揚々と外に繰り出し、地面で呻くことしか出来ない妖精を潰し始める。
「おらっ！！散々俺たちの家や田畑を荒らしやがってぇ！」 ぐちゃっ！
「あんたたちのこと、もう許さないわ！踏んでも踏んでも踏み足りないっ！」 ぐちゃぐちゃぐちゃ！
「呻くな気色悪い！お前ら、いるだけでうるせえんだよおおおっ！死ねえっ！」 どちゅっ！
「ざまあみろクズ妖精！お前の、負けえええええええええええええええええええええええええっ！！」 ごりゅっ！ぢゅぐううっ！
妖精たちはまともに抵抗が出来ず、お得意の罵詈雑言を浴びせかけようとしても、焼きただれた喉から「かひゅ……かひゅっ………」というか細い音を発するだけであった。常日頃、妖精による被害に悩まされていた人々は、まさに“倍返し”をするような勢いで、妖精を潰し続けた。
その週は、燃えるゴミがいつもの5倍以上、集積所に集められたという。緑色に染まったゴミ袋が何層にも積み上げられている光景は、異様とも言えた。
この町における作戦の成功を受け、他の地域でも、NoSt剤を使用して欲しいとの声が上がり始める。だが、NoSt剤の作戦も完璧ではなかったのである。
確かに、NoSt剤は人間に健康被害をもたらすことはない。それは確実だった。しかし、人間以外の生物にとっては、違った。
作戦から1週間が経過したある日、ある家庭で飼われていたセキセイインコがぱったりと鳴かなくなった。動物病院にかかったところ、軽い喉の炎症が見られたという。
幸い、死に至ることはなかったが、これは明らかに、NoSt剤によるものであった。
気がつけばその町では、スズメも、ハトもカラスも、発声器官を持つ生物は鳴りを潜め、酷く静かな町になった。町中から妖精が殲滅されたとはいえ、妖精以外の生物が健康被害を受けるのは、人々が望んだ結末ではなかったのだ。人々の罪悪感は再び刺激された。
これが大々的に報道されると、国内外から批判の声が上がる。「航空攻撃による地上への薬剤の散布」と言う構図は、かつてのベトナム戦争でアメリカ軍がおこなった「枯葉剤作戦」を想起させるため、非人道的だと激しく非難されたのである。
NoSt剤を“妖精だけを攻撃する”ものに改良するにしても、莫大な費用と時間がかかり、何より、再びそれを使用するリスクは、国際的な信用問題としてあまりにも大きかった。
NoSt剤の即時使用中止を求められた駆除団体は、妖精を「黙らせる」ための新たな方法を模索しなければならず、なかなか有効な案が浮かばないまま、時は過ぎた。
「……なるほど、それで我（われ）が呼び出されたというわけですね」
どこの組織にも属せず、妖精の駆除を続ける†聖騎士紅桜†（ホーリーナイト・べにざくら）に、ついに声がかかる。
彼は発想の転換で、瞬く間に駆除業者たちに希望を与えた。
紅桜の考えはこうだ。
『妖精を黙らせるのが難しいのならば、我が方が最初からその“言葉”を聞かなければ良い』
それは果たしてどういう意味か？訝しんだ駆除業者たちの前に、深紅の防護服があらわれる。何より特徴的なのは、ヘルメット部分に取り付けられた、完全に視界を密閉する大きなゴーグルと、巨大なヘッドホンのような装置であった。
「被ってみて下され」
その場に集められた6人の精鋭がヘルメットを被り、ゴーグルを下ろす。キュピピ！という音とともに生体認証がなされ、VR映像として目の前の景色がゴーグルに投影される。
「おお、すごい……！」 「画期的ではないか、これは……」
次々に感激の声を漏らす精鋭たち。満足げにうなずいた紅桜は、次に、捕らえられていた1匹の妖精を持って来る。
「……どう見えましょう」
「すごい、妖精が赤く表示されている！！」
特殊ゴーグルには、妖精をくっきりと目立たせる機能がついており、これで、暗所に隠れている妖精も瞬時に見つけ出せるというわけだ。しかし、何よりも……
「んっ……？妖精の声が聞こえない」
精鋭のひとりが気づく。紅桜に掴まれた妖精は、口を大きく開けて何かを喚いている様子だが、ヘルメットを被っている精鋭たちには全く聞こえていない。妖精以外の人間の声は、はっきりと聞こえるというのに。
「これこそ、我が“イヤホン”から連想したノイズ・キャンセリング機能です……聞こえて来るすべての音声情報から妖精の声だけを抽出し、こちらの耳に届かないようにしてくれます」
「何と！既存のテクノロジーを有効活用するとは」
「妖精には、罵詈雑言を鳴かすだけ鳴かせておいて、こちら側は一切耳を貸す必要なく、駆除にあたれるということですな！」
妖精の声は、市販のノイズ・キャンセリングイヤホンを貫通してしまうくらい特徴的だった。そこで紅桜は、謎の天才科学者“K”や兵器メーカーと協力して、高性能AIに実に1か月間、妖精の発する声のバリエーションを覚えさせた結果、完全に妖精の声を判別出来るシステムを完成させたのだった。
「そして……」 ぐちゅうっ
「おお、赤い色の表示が消えた……」
「お分かりでしょうか？このように妖精が死ねば、ターゲットを無力化したとして赤い表示を解除する機能もあるのです…………また、視界範囲外から妖精が接近しても、矢印をゴーグル内に投影して、警告メッセージを表示します」
「素晴らしい！素晴らしいぞ！！流石は紅桜どの！！」
妖精が最期まで無言のままに握り潰されると、精鋭たちの興奮は最高潮に達した。このおかげで、他の生物には被害を与えることなく、妖精を駆除することが出来る。妖精の駆除には妖精の声を聞いて発見することがセオリーではあるが、その声をあえてこちら側で封じて、代わりに高性能ゴーグルで可視化するというのも、斬新な点であった。
この完璧ともいえる特殊防護服の唯一の問題点。それは、あまりにも高すぎるその価格であった。最新のテクノロジーを惜しげもなく投入した特殊防護服の開発費は膨れ上がり、広範囲における普及と実用化はかなり先になるとされた。
紅桜に試作を依頼された兵器メーカーは、「絶対に破損させないこと」を条件に、特殊防護服を貸与したのだった………
次の日、深紅の特殊防護服を身に着けた精鋭たち6人を率いる紅桜を合わせたヘリボーン部隊7人は、UH-1型ヘリコプター＜イロコイ＞に乗り込んで任務に出発した。この任務は、特殊防護服の実戦適合度テストも兼ねていたのである。
目指すは、妖精が多数群れをなして潜伏する中国地方の灯台付近であった。ここでつい昨日、妖精の駆除依頼が入ったのだった。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラ……
瀬戸内海を行く＜イロコイ＞の激しいローター音が響き渡る。隠密行動には向かない音量ではあるが、今回は、別に潜入が任務ではない。何しろ、多数の個体で密集した妖精たちは、数による安心感を覚え、なかなか自分たちから逃げようとしないのが定石だった。
駆除業者たちにとっては、ターゲットである妖精が慢心して逃げないのは好都合であった。
精鋭たちは、手にしたアサルト・ライフルの弾倉をヘルメットにコツコツと当てたり、＜イロコイ＞に取り付けられたロケット・ポッドを撫でたりして、これから始まる殺戮に心を躍らせている。
紅桜も、手にした聖剣「紅（クリムゾン）」に精神を集中する。これからは、妖精駆除の新時代が来ると、確信していた。
「………踊ろうぜ」
やがて、目標地点の灯台が見えてくると、ニヤリと笑った精鋭のひとりが、おもむろにスピーカーを起動し、大音量で音楽を流し始める。
瀬戸内海に響き渡る重厚なテーマ。リヒャルト・ワーグナーの『Walkürenritt（ワルキューレの騎行）』であった。
彼がわざわざ＜イロコイ＞への搭乗を希望したのは、これが理由であった。あの映画の冒頭のような、華麗な奇襲攻撃をどうしてもやってみたかったというのだ。
他の精鋭たちに異論はなかった。紅桜も、彼らの士気が高まるならと快諾したのであった。
血湧き、肉躍るその旋律に包まれ、着陸脚が海面に触れるのではないかという高度まで降下した＜イロコイ＞は、最高速度で砂浜を目指す。
砂浜では、灯台から出て来た多数の妖精たちがお尻を太陽に向けて、しきりに日光浴をしているところであった。こうすることで活力が上がるようだが、白い砂浜に緑色の体色でその身をさらけ出しているのは、どうぞ撃ってくださいと言わんばかりの愚行であった。
そんな妖精たちを仕留めるべく、超低空飛行で＜イロコイ＞が襲い掛かる。妖精たちがその存在に気づいたころには、もう遅かった。
ばしゅばしゅばしゅばしゅばしゅばしゅっ！！ぴゃずうううううんっ！どぱああああん！！
ガンナーが発射ボタンを押すと＜イロコイ＞の機体側面に取り付けられたロケット・ポッドから対妖精用ロケット弾が斉射され、砂浜で爆発する。凄まじい爆発に、妖精たちの体が飛び散った。
パニック状態になって逃げまどう妖精の頭上を、悠々と＜イロコイ＞が通過する。
対妖精用ロケット弾は、炸薬で妖精を殺傷することは勿論、爆風に含まれるガスは、妖精の飛行器官に作用し、妖精の飛行能力を制限することが出来る。死を免れた妖精たちは、灯台へ逃走しようと、あるいは反撃すべく空へ飛び上がろうと砂浜で腰を震わせるが、無駄な足掻きであった。
ダダダダダダダダダダッ！ダダダダダダダダダダッ！！
反転した＜イロコイ＞は、機体側部にマウントした複数の機関銃を唸らせ、生き残った妖精たちを肉の塊に変えていく。妖精たちは耳ざわりな声で必死に叫んでいるはずであったが、ヘルメットのノイズ・キャンセリング機能は優秀で、精鋭たちには、妖精たちが無言のままに死んでいくように思えた。
砂浜に残る妖精の数が少なくなると、いよいよ制圧の時間だ。ホバリングした＜イロコイ＞から、次々に飛び出す精鋭たち。紅桜も、「紅（クリムゾン）」をきらめかせ、飛び降りた。
「かたじけない！」
「ホーリーナイトどの、ご武運を」
敬礼を返したパイロットとガンナーが＜イロコイ＞を上昇、旋回させる。7人の兵員を輸送し、かつロケット・ポッドや機関銃をマウントした＜イロコイ＞は過重積載気味で、燃料は最小負荷の量しか積んでいなかったため、これ以上の航空支援の続行は望めなかったのだった。
紅桜は自慢の鎧に取り付けたゴーグルとヘッドホンの位置を確認し、精鋭たちに合流した。
妖精が密集していれば、ロケット弾による範囲攻撃や機銃掃射が有効だが、生き残りが少なくなると、個々に撃滅していく方が確実であった。
ダンッ！ダンッ！ダンッ！ダンッ！ぱしゅっ！どちゅっ！
男たちはアサルト・ライフルを単発モードで撃ち続ける。ひとつの銃声が轟くたびに、砂浜で逃げまどう妖精が1個体ずつはじけ飛ぶ。飛べなくなった妖精をただ踏みつけるのではなく、完膚なきまでに撃ち抜くのは、彼らなりのこだわりであった。
ズバッ！ジャキンッ！！
紅桜も「紅（クリムゾン）」を振るい、妖精を真っ二つにして回る。ゴーグルの赤い表示のおかげで、どの個体がまだ生きているかを判別するのは容易かった。
彼の場合、普段から「気配」だけで駆除作業をおこなっているため、ゴーグルがなくても問題はなかったが、やはりこれがあるだけで駆除作業のハードルが下がって良いと感じる。
……ダンッ！！
制圧まで長くはかからなかった。物見やぐらのようにしていたのだろう、木の上に登って最後まで隠れていた妖精も、容赦なく撃ち落とされた。バレていないつもりだったのだろうが、高性能のゴーグルはごまかせない。
その妖精が落下し、体液をまき散らしながらバラバラになると、ゴーグルに赤い識別表示は出なくなった。砂浜にいた妖精は、完全に殲滅されたということだ。
次は、灯台だ。
無駄のない動きで、男たちは灯台へと走る。ゴーグルには、灯台に残りの妖精が立てこもっているとの情報が映し出されていた。逆に、出口さえ塞いでしまえば、逃がすことなく一網打尽に出来る。今回は、何もかも、彼らにとって好都合であった。
ばあああん！
妖精たちが必死に固く閉じていたであろう入り口をやすやすと開け放つと、紅桜たちは一斉に灯台内部へ突入した。何しろ、妖精には備え付けの鍵をかけるという知能がない。
7人が全員内部へ入ると、最後尾の男がすぐさま扉を閉める。これで、強固なガラスを割らない限りは、妖精たちの脱出は不可能だろう。
灯台内部は、まさしく地獄絵図と言って良かった………………人間にとっては。
いたるところに妖精がはびこり、壁や照明装置には妖精のフン尿が飛び散っている。常駐する職員が食べるはずであった食糧には、子ずんが群がっている。
依頼主は灯台の管理責任者で、見回りのために入り口を開け放っていたところ、突如、妖精の大群が襲来し、慌てて外に避難したのだという。灯台は海の安全を守るうえで不可欠だが、妖精が好き勝手に装置をいじくるので、機能不全を起こしていた。
海の安全のためにも、一刻も早くここを奪還しなければ。
「ガラスには攻撃を加えないよう、各自、速やかに妖精を撃滅せよっ」
「了解、ホーリーナイトどのっ！」
紅桜の指示で、一斉に精鋭たちが散開して攻撃を開始する。紅桜も、「紅（クリムゾン）」を構え、目の前にいる妖精たちにゆっくりと近づく。
妖精たちは必死に罵詈雑言をまくしたて、攻撃をためらわせようとしているようだったが、ヘッドホンを介すると、ただ口をパクパクして逃げようともしない哀れなイキモノとしか映らない。
やがて彼が聖剣を振りかぶると、その顔は恐怖一色に染まる。
ざしゅっ！ずばっ！ざくっ！ぐちゃっ！しゅばっ！
自分たちの罵詈雑言が全く通じないという事実を認められないまま、妖精たちが斬られる。恐ろしい悲鳴が響き渡っているはずが、あくまで無音。サイレント映画のように、ひたすら妖精たちは死の斬撃を浴びる。
紅桜は、あくまで無感情に、淡々と仕事をこなす。灯台内部の妖精の殲滅。それが依頼主の望んだことだから。
恐怖に逃走した妖精が上の階まで飛んでいくが、上に登ったとて逃げ場はない。下手に籠城戦を仕掛けたのが、妖精たちの運の尽きだった。
実は、もうひとつ。
この特殊防護服には、特別な機能が備わっていた。
それは、気分が向上するような好きな音楽をヘッドホンから流しながら、駆除作業に従事出来るというものだ。
ある男は、奇襲時に引き続き、リヒャルト・ワーグナーの『Walkürenritt（ワルキューレの騎行）』を流し続けた。
この音楽が使われている例の映画では、兵士たちは無抵抗な地元民をも容赦なく撃ち殺した。誰が民間人で、誰が戦闘員かわからず、疑心暗鬼になっていたからだ。とはいえ、一方的な無差別殺人は、決して許されるようなことではない。
だが、今回は勝手が違う。撃つべき相手は、人間ではない。人間に仇なす害獣だ。何も躊躇することはない！やるんだ、徹底的に！
ある男は、ハムスターが砂漠で踊り狂う曲を流し続けた。軽快なメロディーに合わせて、リズミカルな銃声が響き渡り、妖精が次々に四散した。
彼は、日々増え続ける妖精による被害や、それによる治安の悪化に胸を痛めていた。人間の暮らす平和な社会を守るために、妖精を撃つ。それが彼の使命だ。鮮やかにリロードを済ませた彼は、部屋の奥に逃げようと無様に這いまわる子ずんを撃ちまくった。彼は子ずんだろうと差別はしない。クズ妖精はクズ妖精！等しく死ぬ権利がある。
ある男は、1950年代後半のラテン風の曲で殺戮に精を出した。『♪Tequila！！』のシャウトが響き渡ると同時に、部屋の隅で震える妖精の大群を、アサルト・ライフルの下部に取り付けられたグレネード・ランチャーで吹き飛ばすのが快感であった。
彼は、妖精の発する「声」が憎かった。あんな自分たちの幸せのことしか考えられないような存在が、人間と同じような言葉を発することが許せなかった。まるで、自分たち人間の汚い部分が前面に押し出されているような気がして……
ある男は、小さい頃に憧れていた特撮ヒーローの「処刑用BGM」を大音量で流していた。黒いボディに真っ赤な目を持つあのヒーローは、ひとりだけで悪に立ち向かい、そのBGMが流れたら、必ず悪をやっつけた。
特殊ゴーグルが、後方からの妖精の接近を知らせる。勝利を確信した妖精の突進をヒーローのように素早く躱すと、お返しとばかりに対妖精用のマチェーテを一閃。あのヒーローも、光の剣で戦っていた。マチェーテで妖精という「悪」を切り裂き続ける彼は、まさにあの頃憧れていたヒーローそのものになっていた。
ある男は、「ずんだもん」の新曲を流し続けた。
妖精が、体色が似ているからと言って「妖精ずんだもん」等と面白半分に呼ばれるようになったことを、彼はアイドルであるずんだもんの大ファンとして、絶対に許せなかった。その風評被害をなくすためにも、一刻も早く、妖精をこの世から根絶やしにすべきだと固く決意し、トリガーを引くのだった。
ある男は、「幸せとは、温かい銃だ」と断言している曲をループで流し続けた。歌詞の解釈がどうであれ、目の前の妖精を撃って、撃って、撃ちまくる彼は今、とても幸せであった。自分の放った弾丸が妖精の絶望した顔面を貫通し、体液や脳漿が飛び散るのを見るのは、何よりの幸福であった。
その曲を書いたアーティストは、いくら自分がちっぽけな存在だったとしても、抗い続けることの大切さを教えてくれた。今、まさに妖精の大群に囲まれながらも、アーティストの歌声に励まされ、彼は銃を撃ち続けるのであった。
妖精たちは、その汚らしい悲鳴を人間たちに一切聞かれることなく、惨たらしく殺され続けた。辛うじて生き残った妖精はもはや戦意を失い、ただ強固なガラスをその短い四肢で醜く叩き続けるだけであった。
人間たちの完全勝利であった……まあ、プロフェッショナルである彼らに敗北はあり得ないが………
男たちは、満を持してヘルメットを外す。途端に、妖精たちの喚き声が耳に突き刺さる。
「だちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちてだちて！！」
「だせだせだせ！だせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせだせええええええええええええええええっ！！」
もはや罵詈雑言を浴びせかける余裕もない。死を目の前にしてもなお、妖精たちはそれを受け入れられず、ガラスを「ぐるぐるぱんち」で叩き続ければ、いつかは……自分たちの思い通りに割れるだろうと思い込んでいたのだった。
駆除業者の精鋭たちにとっては、妖精が追い詰められた時に発する喚き声こそが、一番の清涼剤であった。自分たちこそが「最強」で、「高尚」な「森の賢者」であると信じて疑わない傲慢な信念が、死の恐怖によってあっけなく崩れ去る瞬間であったからだ。
「う、うぐ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「い、いぢゃいいぢゃい！！ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「だちてだちてだちてだちて、ああああああああああああああああああああああああああああ」
武器を使うまでもない。抵抗しなくなった妖精たちは、精鋭たちの手によって直接握り潰された。その耳ざわりな悲鳴も、やがて静かになった。
……彼らの行為を「非人道的である」と、安全圏から罵る人がいるかもしれない。だが、妖精の本性を知る人なら、クズ妖精を丁寧に殺してやっているだけ人道的だ、と反論するだろう。
妖精の駆除業者の殆どが、元・会社員であった。だが、正義感の強い彼らは、妖精が好き勝手に暴れる世界を許すような、見て見ぬふりをするような人間ではなかった。
駆除業者にとって妖精は、地球の“癌”と言っても良かった。自分たちの幸せのために、平気で他を切り捨て、差別し、何もかもを奪い、無責任に繁殖し、環境を破壊していく。その行動に罪悪感は一切なく、自分たちこそが自然の支配者であり、自分たちの考えこそが正しいと思い込んでいる。
こんな妖精が人間社会に存在し続けるだけで、人々の精神は疲弊し、人間らしさを失ってしまう。それどころか、人間社会が成り立たず、人類の絶滅だってあり得る話だ。
妖精の駆除業者としての誇りを持つ彼らは、人間が、人間らしく暮らせる世界を守るために、日々、クズ妖精を駆除し続けるのである。
こんな彼らを、誰が批判出来ようか？
彼らの戦いは、これからも続く。
あなたも、駆除業者になりませんか？
〜終〜
最後まで読んでいただきありがとうございます。このお話は、以前投稿した「民族浄化」シリーズのコメント欄にてリクエストいただいたものです。
ご本人様に届くといいな……と思いながら、執筆しました。
書いて欲しい小説のリクエストや創作アイデア等、承っておりますのでいつでもどうぞ！
けも
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このページへのコメント
快適な環境で害獣退治とはご機嫌ですね。仮に人語を喋って命乞いしたとしても人間に危害を加えた時点で聞く気になれないので自分なら感情論抜きで黙々とこなせるかも？
コメントありがとうございます。実害が出ているというのは、実力行使するだけのじゅうぶんな理由づけになっていますね！
本作のような、対話を一切試みないかなり一方的な展開は自分ではあまり書かないものなので、新鮮な気持ちで執筆出来た気がします。リクエストしていただいたあの方に感謝です！
「ホーリーナイトべにざくら」の名前のクセ強すぎ
…それはさておき、ずんだ虫の声を聞くことなく、BGMでも聴きながら優雅に駆除するのはオツなものですね〜。
とはいえ全く阿鼻叫喚を聞けないのも物寂しいと思っていたところ、「だせだせだせ」というかわいい鳴き声が聞けたので、とても満足しました。
BGM…私だったらハードコアの激しい曲を聞いてテンション上げていきたいですね。
コメントありがとうございます。ギャグみたいな名前ゆえ、口調等かなり悩みながら描写しました！VOICEVOXではかなりのイケボでした…！
やはり、妖精の「罵詈雑言」と「絶望の悲鳴」は別でしょうから……悲鳴だけ常に聞けるようにバージョンアップを…………
激しめの曲のノリでスピーディーにやっていきましょう！
朝のNoSt弾の匂いは格別だ...
コメントありがとうございます。
「……町全体に、“ずんち”の匂いが立ち込めていた…………実感したよ………………勝利を！！」
上裸にカウボーイハットで妖精をを殲滅出来るくらいになりたいですねえ...
あと、妖精に適当にデマと武器を流して対立を煽ったらなんか予想以上にエグい殺し合いをし始めた...みたいなシチュのやつを読んでみたいです！
リクエストありがとうございます！！お互いに容赦ない殺し合いが描けたら嬉しいです……
水生種と陸上種の対立とかどうでしょうか！武器とか、ちょっといろいろ考えます！！
どこで募集していますか？駆除業者になりたいです！
でもヘルメットは要らないです、命乞いや断末魔のほうが聞き心地が良いので…
コメントありがとうございます。すごい、妖精駆除の猛者がいるっ！！
一般の人々にとって妖精の悲鳴は精神を疲弊させるものですが、猛者や精鋭にとっては清涼剤なのかもしれませんね！！
駆除業者のメンバーは、いつでも募集しております！！北海道を除くすべての地域で（？）
隊員の一人に某太陽の子でRXなヒーローになりきってますね。
人に害を与え続ける妖精、ゆ"る"さ"ん"!!
コメントありがとうございます。結構いろんな方が気づいてますね！これだけの文字で、よくわかりましたね…すごい！
執筆中も『光の戦士』流してました。世代じゃないんですが、特オタ兄弟の影響で知りました()かっこいいですよね！