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thegreenway_46 2023年02月10日(金) 17:19:53履歴
「こんなところにコンビニなんてあったっけ？」
少女は立ち止まって首を傾げる。
少女の前には煌々と光を放つ建物がビルとビルの隙間にポツンと建っていた。昨日までここは空き地だったような…。気がつくと自然と足がコンビニの中に向かっていた。
入店音と共に自動ドアをくぐって中に入る。
「いらっしゃいませ〜」
緑髪の店員が挨拶をする。店内を見渡したが自分と店員以外は誰もいないようだ。
飲み物でも買って帰ろうかと少女はふと棚を見ると奇妙なものが置かれていることに気がついた。
「何これ…？」
手に取ってみる。『ずんた○ごっち』とパッケージに書かれたそれはどう見てもあの『○まごっち』のパチモノだった。鮮やかな緑色のボディーにボタンが5つ付いている。販売元は…「ズンダイ」と書かれている。聞いたことのない会社だ。○ンダイじゃないのか。などと考えていると
「おお、お客さんお目が高いのだ。その『ずんた○ごっち』を見つけるとは…」
店員が少女に声をかけてきた。
「ええと…ちょっと変わってるな〜と思って見てただけで…」
「そうなのだ？ままええわ。今ならそいつは在庫処分セールでお安くなっているのだ。今逃すともう手に入らないかも知れないのだ」
(何だろう…そう言われると買わなきゃいけない気になってくる…)
「ありがとうございました〜」
(はぁ…結局買っちゃった…。53円だったから良かったけど…。てか、53円ていくら何でも安すぎない？怪しいなあ…)
少女は家に帰り自分の部屋に戻ると早速中身を確かめてみる。中には本体の他にはストラップと説明書しか入っていなかった。
「なになに…「ずんだもんはあなたのお世話によって姿がかわるよ！たくさんお世話してあげてね！」か。ずんだもんってあのずんだもんかな」
ずんだもんとはずんだ餅の妖精である。昔は森や山に暮らしていたが森林開発などで住処を失い人里に降りてきた。今や日本の何処でも見ることができる。性格は個体によるが一般的に街に棲むいわゆる街ずんは荒んでおり、人の食べ物を盗んだりする。少女…春日部つむぎも街ずんのことはあまり好きではなかった。そんなずんだもんを育てるゲームと聞けばあまり印象は良くなかった
「まあ、これゲームだし…お世話したら可愛くなるかも！」
前向きに捉えるつむぎ。説明を読むのをそこそこにゲーム機の電源を入れた。
「おぎゃーのだ！おぎゃーのだ！」
液晶画面にはドットで描かれた1匹の赤ずんが映った。
「ずんだもんて生で見るとキモいけどドットだと意外とカワイイじゃん！」
つむぎは説明書を見ながらずんだもんの育て方を確認する。
「えーと、まずは餌やりなんだね。一番左側のボタンを押す…と」
ボタンを押すとこれまたドットで描かれたずんだ餅が画面にあらわれた。
「おぎゃーのだ！…くんくん、ずんだもち！よいちょ…うんちょ…」
それまで泣いていた赤ずんはずんだ餅を見つけると泣き止み、一目散に駆け出した。
「おいち！おいち！」
ぷりぷりと尻を振りながらずんだ餅を貪るずんだもんの様子をにこやかに見守るつむぎ。
「これからよろしくね。ずんだもん」
「のだぁ？」
ー某所ー
とある一軒家の2階の屋根にずんだもんの巣があった。雄ずんと出産を控える雌ずんのようだ。
「あぁ！うまれりゅ！うまれりゅのだ！」
「ままずん！がんばるのだ！」
「「おぎゃーのだ！おぎゃーのだ！」」
「うまれたのだ！とってもかわいいおちびちゃんなのだ！」
この雌ずんは7匹の子ずんを産んだ。
「くちょにんげんのおうちからごはんさんをとってくるのだ！あたらしいたんじょういわいなのだ！」
「かっこいいのだ！ぱぱずん！」
新たな命の誕生を喜ぶ夫婦。飛び立つ番を見守る雌ずんしかし、幸せは一瞬にして奪われる。産まれた赤ずんのうち1匹が突如光を放って消えてしまったのである。
「おぎゃあああああああ！まぶち！まぶち！」
「おめめさんつぶれちゃうのだあああああああ！」
「いちゃい！いちゃいいいいいいい！」
「たちけて！まっくらさんのだ！」
「こわいよ！おかーちゃ！」
目の前で放たれた閃光は残りの子ずんの目を焼き尽くした。彼らが世界を見ることはないだろう。
「ちょんな…おちびちゃんが…おちびちゃんが…」
「うわーん！どうちてなのだ！」
泣き叫ぶ雌ずん、しかし悲劇はそれに止まらなかった。
「まっくらさんのだ…おかーちゃ…どこなのだ？うわっ！」
「おちちゃ！おちちゃー！！！」
「じめんさんがないのだ！うわーんたちけてよー！」
「おぎゃーのだ！おgyあ！」
「みえないのだ！おとーちゃたちけて！」
「ここはどこなのだ？わかったのだ！いまはよるなのﾀﾞｯ⁉︎」
産まれたての赤ずんは見えないながらに動き回って巣から落ちて死んだ。盲目のずんだもんの生存率は極めて低い。原因の半分は外敵による捕食であるがもう半分は産まれてすぐ動き回るこの性質である。車に轢かれたり下水道に落ちたりとパターンは様々ではあるが。
「そ、そんな…おちびちゃんたちが…ぱぱずんもいないし…ぼくはどうすればいいのだ…」
雌ずんは途方に暮れた。そしてふと下をみる。
「え？」
ー翌日ー
「よいちょ…よいちょ…」
「おお…もうこんなに動けるんだ…ま、ゲームだから当たり前か。」
つむぎは1日で自分で動き回るずんだもんを見て感動していた。一生懸命に這いずる姿は
割とカワイイ。お尻ももちもちしてるし。
「ぶるぶる…ずんちでりゅのだ…」
説明書によるとずんちが出たら左から2番目のボタンを押すと掃除ができるらしい。
「ほっとくと病気になっちゃうのか〜。結構こまめに見てあげないとね。」
ボタンを押すとずんだもん型の箒が現れてずんちを綺麗に片付けてくれた。
「昔から生き物のお世話とか無理って思ってたけど、ゲームなら続けられそ〜。ボタンひとつでなんでもできるし。あ、ご飯あげなくちゃ。」
ボタンを押すとずんだ餅が出現。赤ずんはよちよちと餅にむかって這っていき、勢いよく食べ始めた。
「ずんだもち！おいち！もっとほちいのだ！にんげんしゃん！」
「ずんだ餅は1日3回だよ。あ、そうだ。運動したらご褒美にもう一個あげる！」
「ほんとなのだ！？ほち！ほち！うんどうしゅるのだ！」
目を輝かせる赤ずんを見てつむぎはまた癒やされるのだった。
ー某所ー
「おちびちゃんたち！きょうはくちょにんげんのおうちからごはんさんをとってくるのだ！」
「のだ！」
「おとーちゃかっこいいのだ！」
「ぼくもはやくおとーちゃみたいにゆうかんなおすになりたいのだ！」
住宅街にあるポストの下に住むずんだもん一家。
「ぱぱずん、きをつけてなのだ！」
「だいじょうぶなのだ！ぼくはくちょにんげんなんかにつかまらないのだ！」
「さすがぱぱずんなのだ！」
「じゃあいってくるのだ！」
ポストの下から飛び立った雄ずんは侵入できる家がないかあたりを探し始める。やがて一軒の家に目をつけた。
「きょうはあのおうちにきめたのだ！」
縁側に降り立ち家の中に侵入する雄ずん。匂いを頼りに台所を目指す。
「くんくん、ごはんさんのにおいなのだ！こっちなのだ！のだのだ」
しかしここで、食料とは別の匂いを感じ取った様だ。
「ん…このにおいは…めすずんなのだ？」
視線を匂いの方向に向けると確かに雌ずんが1匹床を歩いていた。どうやら雄ずんと同じように食料を探しにきたようだ。
「ずんぽむくむくなのだ！へこへこしたいのだ！おいそこのめすずん！ぼくとへこへこするのだ！」
「え？なんなのだいきなり！でもへこへこはきもちーのだ！やるのだ！」
「「のだ！！」」
道のり半ばで2匹は交尾し始めた。「食事はへこへこの次に大事」と言われるようにずんだもんたちにとっての最優先事項は交尾である。
「はぁ、はぁ、へこへこきもちいいのだ！」
「すごいめーきなのだ！ままずんよりきつきつなのだ！」
「ずんずんずんずん！」
「へこへこ！」
「すごいのだ！すごいのだ！へこへこのつーてんかくなのだ！！」
大声で盛る2匹。見つかったらどうしようなどということは頭にないようだ。
「おそとでへこへこするのだ！おひさまにあたりながらへこへこきもちいいのだ！」
「おほぉ！きもちーのだ！」
「たねちゃんでちゃう！でちゃうのだ！…あれぇ？めすがきえちゃったのだ？」
雄ずんが絶頂を迎えようとした時、雌ずんの姿が忽然と消えた。雄ずんは首を傾げるが、そんな事は彼の身体に起きた変化の前に意識の彼方へ追いやられるのだった。
「え？…ぼ…ぼくのずんぽは…？」
雌の中にきっちり収まっていたずんぽもまた、跡形もなく消え去っていた。元々ずんぽがあった場所はまるで最初からなかったかのように綺麗な断面を晒していた。
「ずん…ぽが…ずんたまが…あ、ｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ‼︎ｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ‼︎」
金切り声をあげる雄ずん、
「もうだめちゃ！へこへこできなくなっちゃったのだ！へこへこできないずんせいになんのいみがあるのだ！」
地面を転げ回ったり縁側に頭をぶつけたり暴れ回る雄ずん。
「このずんだもんにとって、へこへここそしんり！ずんぽこそがせいぎでありゆうじょう…このずんだもん…いままでのずんせいでほかのことなどどうでもよかったのだ…へこへこさえあれば…でももうへこへこできないちゃ！いきてもしょうがないちゃ！ｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃ」
雄の象徴を文字通り根こそぎ奪われた雄は庭で尻を振りながら死を熱望した。自分の帰りを待つ家族の事も忘れて一心に願った。ずんぽもどして…、かなわないならころちて…と。
「ぷるぷる…ちゃむのだおかーちゃ！」
「のだっくちゅ！おなかちゅいたのだ！」
「ぶるぶる…おとーちゃおそいのだ…ちんぱいなのだ…」
「だいじょうぶなのだおちびちゃんたち！ぱぱずんはすぐごはんさんをいっぱいもってもどってくるのだ！それまでみんなでおしくらまんじゅうさんしてあったまるのだ！」
「「「のだ！」」」
ポストの下で励まし合う親子たち。彼らが春の日差しを浴びる事は恐らくないだろう。
ー翌日ー
つむぎの赤ずんは子ずんとなり活発に動き回るようになっていた。
「おねーさん、きょうはなにちてあそぶのだ？」
うーん、そうだな…。少し考えた後つむぎは説明書を引っ張り出す。
「ふむふむ…、右端のボタンで遊び道具が出せるんだね。」
ボタンを押すと画面にボールが表示され、子ずんはよちよち転がるボールを追いかける。
「ぼーるさん！たのち、たのち！」
両手で左右にボールを転がして遊ぶ子ずん。
しばらくすると遊び疲れたのか眠ってしまった。
「ずーん…ずーん…」
「カワイイなあ、ずんだもん…」
画面の中ですやすや眠るずんだもんを見ながらつむぎもまた眠りに落ちるのだった…。
ー翌日ー
「うぅ…からだあちゅいのだ…げほげほのだ…」
どうやらずんだもんが病気になってしまったらしい。
「おねーさん…ぼくちんじゃうのだ…？」
「そんな事ないよ！ちゃんとお薬飲んで寝ればすぐ元気になるって！説明書には〜、右から2番目のボタンで薬が出せるんだね。ほいっと」
ボタンを押すと注射器が現れた。
「のだ！？ちゅーしゃいや！こわいのだ！」
「ちゃんとお薬打たないと病気治んないよ！頑張ったらずんだ餅あげるから！」
「ずんだもち！ぼくがんばるのだ！ぜっちゃいなかないのだ！」
ぷるぷる震えながら注射を受けるずんだもん。つむぎはハラハラしながら見守っていた。注射器がずんだもんの尻に刺さる…。そこから入れるんだ…。
「のぎゃ！いちゃい！うぅ…がまんなのだ…」
「頑張れずんだもん…」
「はぁ…はぁ…ぼく、なかなかったのだ！ずんだもち！ずんだもち！」
注射が終わると病気はあっという間に治ってしまった。やっぱゲームだからね。
「はいはい。ほら、今日はスペシャルずんだ餅だよ〜」
「うわぁ〜！ちゅごいのだ！ちゅごいのだ！こんなにおっきなずんだもちはじめてなのだ！おねーさんありがとのだ！」
「たくさん食べてまたいっぱい遊ぼう」
「おいち！おいち！」
ー何処かの森ー
「ずーん…ずーん…」
「よくねむってるのだ。おちびちゃんたち、ぱぱずんはもうすぐかえってくるからね。」
山奥の木の上の巣のずんだもん一家。彼らは資源の豊かな森に生まれた。冬が近づけば食べ物は少なくなるが、雄ずんがきちんと備蓄をしているし、子ずんも自然で生きるということの厳しさを知っていたので、無駄に消費して飢えるという事はなかった。
「ただいまなのだ。みるのだ。きのこさんや
どんぐりさん。かわでさけさんをつかまえてきたのだ」
「さけさんなのだ！？ぱぱずんすごいのだ！」
「このじきにはありがたいのだ。さあ、さけさんはしおづけにしてほぞんするのだ」
「「のだー！！」」
ご馳走も手に入ってほくほくのだった彼らの住処に鷲がやってきた。
「みんなしせいをひくくしてあたまをかくすのだ。」
「「のだ」」
やり過ごそうとする一家。しかし、見つかってしまったようだ。狙われたのは最も弱い子ずん。
「！おちびちゃんはやらせないのだ！」
避けられないと判断した雄ずんは鷲と子ずんの間に割って入る。
「たべるならぼくにするのだ！…おちびちゃん、つよく…」
言葉が伝わったかは分からないが鷲が方向を変え、雄ずんを捉えようとした時、眩い光を放って一家は消えてしまった。彼らの巣と餌に目の前で逃げられ怒れる鷲を残して…。
続く
作者コメント
ズンダスレイヤーと同時に書いていた作品です。考察コメとか来ると喜んでます。アイデア枯れ気味なので投稿ペースが落ちるかも知れませんが飽きるまでお付き合いを…。
それではありがとうございました。
少女は立ち止まって首を傾げる。
少女の前には煌々と光を放つ建物がビルとビルの隙間にポツンと建っていた。昨日までここは空き地だったような…。気がつくと自然と足がコンビニの中に向かっていた。
入店音と共に自動ドアをくぐって中に入る。
「いらっしゃいませ〜」
緑髪の店員が挨拶をする。店内を見渡したが自分と店員以外は誰もいないようだ。
飲み物でも買って帰ろうかと少女はふと棚を見ると奇妙なものが置かれていることに気がついた。
「何これ…？」
手に取ってみる。『ずんた○ごっち』とパッケージに書かれたそれはどう見てもあの『○まごっち』のパチモノだった。鮮やかな緑色のボディーにボタンが5つ付いている。販売元は…「ズンダイ」と書かれている。聞いたことのない会社だ。○ンダイじゃないのか。などと考えていると
「おお、お客さんお目が高いのだ。その『ずんた○ごっち』を見つけるとは…」
店員が少女に声をかけてきた。
「ええと…ちょっと変わってるな〜と思って見てただけで…」
「そうなのだ？ままええわ。今ならそいつは在庫処分セールでお安くなっているのだ。今逃すともう手に入らないかも知れないのだ」
(何だろう…そう言われると買わなきゃいけない気になってくる…)
「ありがとうございました〜」
(はぁ…結局買っちゃった…。53円だったから良かったけど…。てか、53円ていくら何でも安すぎない？怪しいなあ…)
少女は家に帰り自分の部屋に戻ると早速中身を確かめてみる。中には本体の他にはストラップと説明書しか入っていなかった。
「なになに…「ずんだもんはあなたのお世話によって姿がかわるよ！たくさんお世話してあげてね！」か。ずんだもんってあのずんだもんかな」
ずんだもんとはずんだ餅の妖精である。昔は森や山に暮らしていたが森林開発などで住処を失い人里に降りてきた。今や日本の何処でも見ることができる。性格は個体によるが一般的に街に棲むいわゆる街ずんは荒んでおり、人の食べ物を盗んだりする。少女…春日部つむぎも街ずんのことはあまり好きではなかった。そんなずんだもんを育てるゲームと聞けばあまり印象は良くなかった
「まあ、これゲームだし…お世話したら可愛くなるかも！」
前向きに捉えるつむぎ。説明を読むのをそこそこにゲーム機の電源を入れた。
「おぎゃーのだ！おぎゃーのだ！」
液晶画面にはドットで描かれた1匹の赤ずんが映った。
「ずんだもんて生で見るとキモいけどドットだと意外とカワイイじゃん！」
つむぎは説明書を見ながらずんだもんの育て方を確認する。
「えーと、まずは餌やりなんだね。一番左側のボタンを押す…と」
ボタンを押すとこれまたドットで描かれたずんだ餅が画面にあらわれた。
「おぎゃーのだ！…くんくん、ずんだもち！よいちょ…うんちょ…」
それまで泣いていた赤ずんはずんだ餅を見つけると泣き止み、一目散に駆け出した。
「おいち！おいち！」
ぷりぷりと尻を振りながらずんだ餅を貪るずんだもんの様子をにこやかに見守るつむぎ。
「これからよろしくね。ずんだもん」
「のだぁ？」
ー某所ー
とある一軒家の2階の屋根にずんだもんの巣があった。雄ずんと出産を控える雌ずんのようだ。
「あぁ！うまれりゅ！うまれりゅのだ！」
「ままずん！がんばるのだ！」
「「おぎゃーのだ！おぎゃーのだ！」」
「うまれたのだ！とってもかわいいおちびちゃんなのだ！」
この雌ずんは7匹の子ずんを産んだ。
「くちょにんげんのおうちからごはんさんをとってくるのだ！あたらしいたんじょういわいなのだ！」
「かっこいいのだ！ぱぱずん！」
新たな命の誕生を喜ぶ夫婦。飛び立つ番を見守る雌ずんしかし、幸せは一瞬にして奪われる。産まれた赤ずんのうち1匹が突如光を放って消えてしまったのである。
「おぎゃあああああああ！まぶち！まぶち！」
「おめめさんつぶれちゃうのだあああああああ！」
「いちゃい！いちゃいいいいいいい！」
「たちけて！まっくらさんのだ！」
「こわいよ！おかーちゃ！」
目の前で放たれた閃光は残りの子ずんの目を焼き尽くした。彼らが世界を見ることはないだろう。
「ちょんな…おちびちゃんが…おちびちゃんが…」
「うわーん！どうちてなのだ！」
泣き叫ぶ雌ずん、しかし悲劇はそれに止まらなかった。
「まっくらさんのだ…おかーちゃ…どこなのだ？うわっ！」
「おちちゃ！おちちゃー！！！」
「じめんさんがないのだ！うわーんたちけてよー！」
「おぎゃーのだ！おgyあ！」
「みえないのだ！おとーちゃたちけて！」
「ここはどこなのだ？わかったのだ！いまはよるなのﾀﾞｯ⁉︎」
産まれたての赤ずんは見えないながらに動き回って巣から落ちて死んだ。盲目のずんだもんの生存率は極めて低い。原因の半分は外敵による捕食であるがもう半分は産まれてすぐ動き回るこの性質である。車に轢かれたり下水道に落ちたりとパターンは様々ではあるが。
「そ、そんな…おちびちゃんたちが…ぱぱずんもいないし…ぼくはどうすればいいのだ…」
雌ずんは途方に暮れた。そしてふと下をみる。
「え？」
ー翌日ー
「よいちょ…よいちょ…」
「おお…もうこんなに動けるんだ…ま、ゲームだから当たり前か。」
つむぎは1日で自分で動き回るずんだもんを見て感動していた。一生懸命に這いずる姿は
割とカワイイ。お尻ももちもちしてるし。
「ぶるぶる…ずんちでりゅのだ…」
説明書によるとずんちが出たら左から2番目のボタンを押すと掃除ができるらしい。
「ほっとくと病気になっちゃうのか〜。結構こまめに見てあげないとね。」
ボタンを押すとずんだもん型の箒が現れてずんちを綺麗に片付けてくれた。
「昔から生き物のお世話とか無理って思ってたけど、ゲームなら続けられそ〜。ボタンひとつでなんでもできるし。あ、ご飯あげなくちゃ。」
ボタンを押すとずんだ餅が出現。赤ずんはよちよちと餅にむかって這っていき、勢いよく食べ始めた。
「ずんだもち！おいち！もっとほちいのだ！にんげんしゃん！」
「ずんだ餅は1日3回だよ。あ、そうだ。運動したらご褒美にもう一個あげる！」
「ほんとなのだ！？ほち！ほち！うんどうしゅるのだ！」
目を輝かせる赤ずんを見てつむぎはまた癒やされるのだった。
ー某所ー
「おちびちゃんたち！きょうはくちょにんげんのおうちからごはんさんをとってくるのだ！」
「のだ！」
「おとーちゃかっこいいのだ！」
「ぼくもはやくおとーちゃみたいにゆうかんなおすになりたいのだ！」
住宅街にあるポストの下に住むずんだもん一家。
「ぱぱずん、きをつけてなのだ！」
「だいじょうぶなのだ！ぼくはくちょにんげんなんかにつかまらないのだ！」
「さすがぱぱずんなのだ！」
「じゃあいってくるのだ！」
ポストの下から飛び立った雄ずんは侵入できる家がないかあたりを探し始める。やがて一軒の家に目をつけた。
「きょうはあのおうちにきめたのだ！」
縁側に降り立ち家の中に侵入する雄ずん。匂いを頼りに台所を目指す。
「くんくん、ごはんさんのにおいなのだ！こっちなのだ！のだのだ」
しかしここで、食料とは別の匂いを感じ取った様だ。
「ん…このにおいは…めすずんなのだ？」
視線を匂いの方向に向けると確かに雌ずんが1匹床を歩いていた。どうやら雄ずんと同じように食料を探しにきたようだ。
「ずんぽむくむくなのだ！へこへこしたいのだ！おいそこのめすずん！ぼくとへこへこするのだ！」
「え？なんなのだいきなり！でもへこへこはきもちーのだ！やるのだ！」
「「のだ！！」」
道のり半ばで2匹は交尾し始めた。「食事はへこへこの次に大事」と言われるようにずんだもんたちにとっての最優先事項は交尾である。
「はぁ、はぁ、へこへこきもちいいのだ！」
「すごいめーきなのだ！ままずんよりきつきつなのだ！」
「ずんずんずんずん！」
「へこへこ！」
「すごいのだ！すごいのだ！へこへこのつーてんかくなのだ！！」
大声で盛る2匹。見つかったらどうしようなどということは頭にないようだ。
「おそとでへこへこするのだ！おひさまにあたりながらへこへこきもちいいのだ！」
「おほぉ！きもちーのだ！」
「たねちゃんでちゃう！でちゃうのだ！…あれぇ？めすがきえちゃったのだ？」
雄ずんが絶頂を迎えようとした時、雌ずんの姿が忽然と消えた。雄ずんは首を傾げるが、そんな事は彼の身体に起きた変化の前に意識の彼方へ追いやられるのだった。
「え？…ぼ…ぼくのずんぽは…？」
雌の中にきっちり収まっていたずんぽもまた、跡形もなく消え去っていた。元々ずんぽがあった場所はまるで最初からなかったかのように綺麗な断面を晒していた。
「ずん…ぽが…ずんたまが…あ、ｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ‼︎ｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ‼︎」
金切り声をあげる雄ずん、
「もうだめちゃ！へこへこできなくなっちゃったのだ！へこへこできないずんせいになんのいみがあるのだ！」
地面を転げ回ったり縁側に頭をぶつけたり暴れ回る雄ずん。
「このずんだもんにとって、へこへここそしんり！ずんぽこそがせいぎでありゆうじょう…このずんだもん…いままでのずんせいでほかのことなどどうでもよかったのだ…へこへこさえあれば…でももうへこへこできないちゃ！いきてもしょうがないちゃ！ｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃｺﾛﾁﾃ」
雄の象徴を文字通り根こそぎ奪われた雄は庭で尻を振りながら死を熱望した。自分の帰りを待つ家族の事も忘れて一心に願った。ずんぽもどして…、かなわないならころちて…と。
「ぷるぷる…ちゃむのだおかーちゃ！」
「のだっくちゅ！おなかちゅいたのだ！」
「ぶるぶる…おとーちゃおそいのだ…ちんぱいなのだ…」
「だいじょうぶなのだおちびちゃんたち！ぱぱずんはすぐごはんさんをいっぱいもってもどってくるのだ！それまでみんなでおしくらまんじゅうさんしてあったまるのだ！」
「「「のだ！」」」
ポストの下で励まし合う親子たち。彼らが春の日差しを浴びる事は恐らくないだろう。
ー翌日ー
つむぎの赤ずんは子ずんとなり活発に動き回るようになっていた。
「おねーさん、きょうはなにちてあそぶのだ？」
うーん、そうだな…。少し考えた後つむぎは説明書を引っ張り出す。
「ふむふむ…、右端のボタンで遊び道具が出せるんだね。」
ボタンを押すと画面にボールが表示され、子ずんはよちよち転がるボールを追いかける。
「ぼーるさん！たのち、たのち！」
両手で左右にボールを転がして遊ぶ子ずん。
しばらくすると遊び疲れたのか眠ってしまった。
「ずーん…ずーん…」
「カワイイなあ、ずんだもん…」
画面の中ですやすや眠るずんだもんを見ながらつむぎもまた眠りに落ちるのだった…。
ー翌日ー
「うぅ…からだあちゅいのだ…げほげほのだ…」
どうやらずんだもんが病気になってしまったらしい。
「おねーさん…ぼくちんじゃうのだ…？」
「そんな事ないよ！ちゃんとお薬飲んで寝ればすぐ元気になるって！説明書には〜、右から2番目のボタンで薬が出せるんだね。ほいっと」
ボタンを押すと注射器が現れた。
「のだ！？ちゅーしゃいや！こわいのだ！」
「ちゃんとお薬打たないと病気治んないよ！頑張ったらずんだ餅あげるから！」
「ずんだもち！ぼくがんばるのだ！ぜっちゃいなかないのだ！」
ぷるぷる震えながら注射を受けるずんだもん。つむぎはハラハラしながら見守っていた。注射器がずんだもんの尻に刺さる…。そこから入れるんだ…。
「のぎゃ！いちゃい！うぅ…がまんなのだ…」
「頑張れずんだもん…」
「はぁ…はぁ…ぼく、なかなかったのだ！ずんだもち！ずんだもち！」
注射が終わると病気はあっという間に治ってしまった。やっぱゲームだからね。
「はいはい。ほら、今日はスペシャルずんだ餅だよ〜」
「うわぁ〜！ちゅごいのだ！ちゅごいのだ！こんなにおっきなずんだもちはじめてなのだ！おねーさんありがとのだ！」
「たくさん食べてまたいっぱい遊ぼう」
「おいち！おいち！」
ー何処かの森ー
「ずーん…ずーん…」
「よくねむってるのだ。おちびちゃんたち、ぱぱずんはもうすぐかえってくるからね。」
山奥の木の上の巣のずんだもん一家。彼らは資源の豊かな森に生まれた。冬が近づけば食べ物は少なくなるが、雄ずんがきちんと備蓄をしているし、子ずんも自然で生きるということの厳しさを知っていたので、無駄に消費して飢えるという事はなかった。
「ただいまなのだ。みるのだ。きのこさんや
どんぐりさん。かわでさけさんをつかまえてきたのだ」
「さけさんなのだ！？ぱぱずんすごいのだ！」
「このじきにはありがたいのだ。さあ、さけさんはしおづけにしてほぞんするのだ」
「「のだー！！」」
ご馳走も手に入ってほくほくのだった彼らの住処に鷲がやってきた。
「みんなしせいをひくくしてあたまをかくすのだ。」
「「のだ」」
やり過ごそうとする一家。しかし、見つかってしまったようだ。狙われたのは最も弱い子ずん。
「！おちびちゃんはやらせないのだ！」
避けられないと判断した雄ずんは鷲と子ずんの間に割って入る。
「たべるならぼくにするのだ！…おちびちゃん、つよく…」
言葉が伝わったかは分からないが鷲が方向を変え、雄ずんを捉えようとした時、眩い光を放って一家は消えてしまった。彼らの巣と餌に目の前で逃げられ怒れる鷲を残して…。
続く
作者コメント
ズンダスレイヤーと同時に書いていた作品です。考察コメとか来ると喜んでます。アイデア枯れ気味なので投稿ペースが落ちるかも知れませんが飽きるまでお付き合いを…。
それではありがとうございました。
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このページへのコメント
Ctrl+zというタイトルが考察のヒントになりそうですかね…？
ゲームに連動してリアルのずんだ虫が消えていくのはゲーム内のずんだ餅とかに変換されてるという事でしょうか…
53円、お手頃価格で素敵だね
毎回巻き込み事故起こしていくの本当草
語彙が豊富なヘコずん（家族のことは忘れたのか最初からどうでもよかったのか・・・）、塩漬けの知識と技術を持つ森ずん、ゲームと連動して？消えていくずんだもん達、ゲーム内のキャラと普通に会話してるプレイヤー（つむぎ）・・・
最初の一家の母ずんが見たものとか、最後の鷲とか、続きが気になりますね
ちょっと気になったのが、
最初のずんだもん一家の父ずんが餌探しに飛び立った後、赤ずんが１匹は消失、残りは失明で、巣に残ってる親は母ずんだけの筈ですが、
「泣き叫ぶ両親」とは・・・
その直後、母ずんの「ぱぱずんもいないし」というセリフからして、この場に父ずんは居ないはず
という部分・・・
ミスってますね。修正します
修正ありがとうございます
ずんだもん一匹でずんだ餅一個と変換
スペシャルは大きいので一家ごと変換
こういう交換レートで他は関係ないっぽい?
雄ずんのずんぽは雌ずんがずんだ餅に変換される際に挿入中だから巻き込んだまれただけっぽいし
まさか!?ゲーム内でなにかする度に、現実世界に蔓延る有象無象のずんだもん達がランダムに代償となるというのか!?
ゲーム開始時の赤ずんは屋根の上の巣で生まれたてのヤツを……いや、翌日のポストの下の浮気ヘコずんの性器ごと消えた雌ずん同様に｢ずんだ餅｣として消費されたか……。
でも、病気のワクチンは森に暮らしていたずんだもん一家だとしたら、3日目のボールの代償は…?(もしかして、ヘコずんのずんたまか??)
……なんにせよ、ゲームの可愛い子ずんを育て愛でることで、現実世界のずんだもん達が対価として消費されながら巻き添えに多くの個体が死んでいくとは素晴らしい!!!しかもそれでたったの53円とか超オ得!!!!