img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:帰り道の勇者ろむえ ノンフェイス

ノンフェイスは魔法少女になって間もないということで教育係が付けられた。
それがろむえ──帰り道の勇者ろむえである。
帰り道の勇者、という変な前置きが付いていて、その子供っぽいネーミングの通りろむえはやんちゃな魔法少女だった。
お姫様を思わせるフリルの多いワンピースに真っ赤なランドセル、背格好も合わせて小学生そのもので、
ノンフェイスに魔法少女の何たるかを教えてる時に擬音をよく使い体全体で表現する様もやはり元気な小学生だった。
彼女は正義感が強く、よく自慢である魔法の傘「ディリュージョンソード」を振り回しながらこれで悪い奴らを懲らしめるぞとよく口にしていた。
そんな台風みたいなろむえにノンフェイスは背中を追いかける形で魔法少女を学んでいくことになる。

ノンフェイスには特殊な事情があった。
それはノンフェイスと会う人は毎回『初対面になる』ことである。
ノンフェイスが持つ魔法『他人に顔を覚えられなくなる』は出会い別れる人から自分の情報を一切合切に消してしまうのである。
この魔法はノンフェイスの意思で止めることはできず、寝ようとも何をしていても勝手に発動してしまう。
そのせいでろむえはノンフェイスと別れると、教えた内容は覚えていても誰に教えていたのかさっぱりわからなくなる。
こんな負担を強いるのはろむえには迷惑でしかないとノンフェイスには目下最大の悩みであった。


『NO WHERE→NOW HERE』


自分の魔法について相談すると帰り道の勇者ろむえはうむむと唸りながら眉間に皺を寄せ、体全体での思案を表現するようにゆっくり揺れている。
その間、自分の脳裏ではあまりの面倒事にろむえに教育係を断られるんじゃないか、
そうなれば自分はグループから外されるんじゃないかそうなるとどこにも属さない野良魔法少女として過ごすことになるのか、
いやそれは一人でのんびりできるからそれはそれで…いやいや派閥に外れるのは長い目で見ると危険では…いやいやもしかしたら…
と、後ろ向きで意味もない現実逃避な妄想をぐるぐるかき回していると、よし!とろむえの唐突な大声にハッと我に返る。
ろむえは背負っていた赤いランドセルの中を漁り、一冊のノートを取り出した。
そして同時に取り出していた黒いマジックペンでノートの表紙にきゅっきゅと書き始める。
書き終えるとふんすと鼻息を鳴らし自信ありげにノートを自分に向かって突き出した、おっかなびっくりに突き出されたノートのタイトルを見る。
またもやびっくりする、いやびっくりさせられた。
ろむえがノートのタイトルを高らかに宣言する。

「じゃじゃーん!ゆうしゃろむえとノンフェイスのこうかんノート!!」

本来なら算数ノートなのだがタイトルの『さんすう』の上からろむえの字が書かれている。
また表紙の鮮やかな花の写真の上にはにっこりとしたろむえとノンフェイスのデフォルメの効いた似顔絵がとても可愛らしかった。

「こうかん…?ノート?」
「そう!忘れるならノートにさらさら〜っとメモしたらおっけー!」

なるほど、と頷く。
自分の魔法は人から記憶や情報を消し去るが、物理的な痕跡は消し去れない。
それなら出来事を忘れる前に文章化すれば消し去られた部分が分かる。
こんな対策は簡単に思いつくはずが、失念していた。
魔法は人との関わりに煩わしさを感じていた過去から今までの自分には都合が良く、
忘れられることを欠点として見ることもその対策を考えることも無意識に放棄していたのかもしれない。
そう思うとろむえに余計な手間をかけたこととそこまで考えなかった怠惰な自分が恥ずかしく思えた。
ろむえは言葉を続ける。

「学校の先生みたいなことは…えへへ、ろむえそこまで書けないけど、
 とりあえずその日に教えたこととこうしたらいいよ?的なことがあったら書いて、帰ったらノンフェイスに読んでもらって〜」
「……?」

先ほどからのろむえの言葉に違和感が段々と膨らみ首を傾げる。
交換ノート?帰ったら私に読んでもらう?
ノートはろむえが持っていないと自分と別れた後に消えた記憶の確認作業ができない。
わざわざノートを交換制にする必要もなく、ろむえがずっと持っているべきでは…と疑問が浮かぶ。

「ノンフェイスはなんでもいいから一言書いてくれたらいいよ!でも厳しいこと書いてたらろむえちょっぴり凹むかもぉ…!」
「あの…」

両手で頭を抱えて泣きそうな顔をするろむえに先ほど湧いた疑問をぶつける。

「ノートは…ろむえさんがずっと持ってたほうが、いいかなって…」

容姿が自由自在な魔法少女とはいえ小さい見かけの女の子相手にしどろもどろになってる自分がちょっぴり気恥ずかしい。

「…えと、私が持って帰ったら…記憶忘れたまま…になりますから…」
「それは大丈夫だよ」

こちらの歯切れの悪そうな言葉が終わるのを確認するように珍しく落ち着いた様子になったろむえはきっぱりと答えた。
しかし更なる疑問が出てくる。
何が大丈夫なのか、そもそも今のしどろもどろでこちらの意図が伝わってるのか、勘違いとかされてたらどうしよう。
自分はきっと不安と怪訝さが満ちた顔をしていたのだろう、まるで落ち着かせるように、ろむえは太陽のように眩しいながら暖かいにっこり笑顔になる。

「もしね、ろむえが君のこと忘れちゃってもね。
 最初からってなっても、ろむえはノンフェイスと絶対友達になるよ!」
「…………」

意味が分からない。
こちらの疑問の答えになってない。
そもそも友達とか一体どこから出てきて、今の教育するとされる関係にはどこにもない。
ない、はずなのに、

「だってだって、今のだってろむえのこと心配してくれて言ってくれたんでしょ!?
 こんな良い子を記憶ないからって疑ったらろむえ勇者失格だよ〜!」
「…そうですか」

ノンフェイスは背を向けた。
疑問は全く解消されなかったが、この人は交換ノートがしたいのは分かった。
それがろむえの言う友達の証なのかは分からないが、教育係がああいうのだから従おう。
そして今のろむえの言葉が真実なのかが興味が湧いた。
信じたいわけではなく、あくまで興味があって試してみたい。
どしたの?と尋ねるろむえに、いえ…と少し間を置いて向き直った。

「もうろむえさんの言う通りにします…もう時間も遅いので…ノート…作りましょう」

おおうもうそんな時間か!とオーバーな反応を見せるろむえ。
その場に座り込んで、ノートを開き、書いていこうと一瞬だけペンが動いたがそこからじ…っと手が止まる。
今さっきで思いついたことなので今日の事をノートにまとめるには時間がかかりそうだ。

魔法少女は仮初の肉体を身に纏った不思議な存在、その中にはまた違う正体がある。
今、面を向かい合わせている自分とろむえも互いに正体を知らない。
その上で友達になるというのは本心を隠した表面上の付き合いを意味するのだろうか。
ろむえはどう思いながら友達になろうと言ってきたのか。
知りたいようで知りたくないのはお互い同じなのだろうか。
さっきからペンを持つ手が不動を貫くろむえを眺めながら意味もない物思いに耽っていると、

「ねぇノンフェイス」
「…はい」
「今日ろむえって君に何教えたっけ…」
「…………」

この交換ノートが交換する意味を成すのは当分先になりそうだ。

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