img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:ウルフファング ファウルティマギア

ブーナッドと頭巾に身を包んだ女が、一人、月明りの空き地に所在なく立ち尽くしている
その胸は平坦であった。ここは以前拠点にしていた廃病院か?それとも…



周囲を見渡すが何かこれといったものがあるわけでもない、そして何より、手持ち無沙汰だ
変身した時に出現する筈の檄もエアライフルも見当たらない、武器が無いのは些か不安だ
何故私はここに居るのだろうか…


「あっ!ウルフファングさん居た!」どこからか魔法少女が一人とてとてと駆けてくる
「貴方はいつもお転婆ですね」ウルフファングが魔法少女に向かって微笑む、魔法少女も笑う
「なぜ私はここに?」「忘れたの?今日はお祭りを重点的に狙ってキャンディーを集めるって」



「そうでしたか?」キャンディー集めは魔法少女の本分だ、恐らくそうなのだろう
ウルフファングは魔法少女に手を取られて祭の会場に向かう、そこには既に同じ組の魔法少女達が集まっていた
「遅いよウルフファングさん!」「待ってたよウルフファングさん」などと口々にウルフファングの名を呼ぶ



「キャンディーいっぱい集めるぞー!」「「「おーっ!」」」魔法少女たちが声を上げる
「ほらウルフファングさんも!」「私がやるのはちょっと似合わないのではないですか?」
どうにも気恥ずかしさが勝つ「クールだよねウルフファングちゃんは」「そうなの?ウルフファングさん」



仲間の魔法少女たちに囲まれていると後ろから不意に男の声がした
「どーも、ユーゴーさん… いいの入ってますぜ… へへへ… 」振り返ると誰も居ない
「やめてくれ!金ならっ」また声だ、だが誰も居ない「止せ!勇悟!」また声だ
「嫌… ヤメテ…」女の嗚咽「また酒ですかい?」男の声
「戻って来いよ、ユーゴ」聞き覚えがある、恐ろしい声
「お前の力には使い道がある」ボスだ… その後ろには馴染みのある面々がご丁寧にそろっている



「やめろ!」ウルフファングは掛け布団を引き裂いて跳び起きた
新しい部屋、清掃業者を呼んだばかりの清潔な部屋、「私は… ウルフファングだ…」
ウルフファングはそう呟いた


―――――――――――――――


今日は二丁目の復興状況を把握するために出てきたのだがどうにも調子が出ない
地形の把握は攻撃にも防御にも利用できる、故に可能な限り広い範囲の把握をしておくことは
自分とチームの安全に直結する、そこに壁があるのと無いのでは移動も攻撃の射線も全く変わってくる


それで状況の調査に乗り出したのだが…
駅前はすっかり修復が終わり地下街も営業を再開している店がちらほら見受けられる、全く驚異的な速度だ
街の復興が進むのは素晴らしい事だ、が、何故かそれに反比例するように精神的な疲れが押し寄せる、今朝の夢のせいだろうか



「今日は切り上げて残りは明日にしましょう…」ウルファングはそう呟やいた直後
地下道の反対側から歩いてくる誰かと通話するぷっしーきゃっつの姿らしきものを認めた
ウルフファングは反射的に近くのラーメン屋の暖簾をくぐり奥の席に隠れる



「いらっしゃいませ、お冷はセルフサービスになってます」ウルフファングは店主に会釈した、暖簾の前を猫耳女が通り過ぎていく
誰かの視線を感じた気がしたが無視し、空のコップを手に取りながら耳を澄ます、ぷっしーチェッカーの判定の結果が出る
彼女はぷっしーきゃっつではなく、ただの猫耳不良女子高生であった、そも彼奴の正体を考えればこんな所に居る筈もない



要らぬ心配から解放された反動か、先ほどまでの数倍の疲労感が押し寄せてきた、水を口に含むと、やや乱暴にコップを置く
「何にしましょう」「いつもの」ウルフファングは上の空で答えた、店主は、手際よくドンブリにタレを注ぎ、アジタマを一つ手に取り
一瞬考えるようなしぐさをした後、再びズンドウ・ナベに向き直った



店内に流れるのは連日連夜報道されている大災害のラジオ放送、その合間を流れる公共機構のワンパターンなCMと
ズンドウの湯が煮えたぎる音、そして店主が自家製チャーシューをまな板の上でスライスする音だけ、入る時には気が付かなかったが
後ろ、入口寄りの席にもう一人だけ客が居た、トレンチコートの下に魔法少女の匂いを纏ったポニーテールの女が




【ファウルティ・チェイサー/パスト・チェイス・バイ・ファング】#1




どうやら先ほど感じた視線はあの女の物らしい、彼女はこちらの視線に気づくと会釈をしてきた、会釈を返す
「はいお待ち」注文した品が運ばれてくる、見ると湯気と共に香る味噌の香り、スープの表面に浮かぶラード、アジタマの半熟も見事だ
そして… おお… ゴウランガ!器の三分の一を覆うチャーシューは適切な厚みにスライスされ、脂は適温に保たれ透き通っている!



初めて来る店だったがどうやら当たりのようだ、あの腐れ雌猫似の不良女子高生には感謝するべきだろうか
レンゲでスープを口に運ぶ、悪く無い、なんとなく懐かしい味だ、「フゥーッ!フゥーッ!」箸を手に麺に取り掛かる
「ズルッ!ズルズルッ!ズルズルッ!」麺もコシがしっかりしていてスープも良く絡んでいる



「ズルズルッ!ズルズルーッ!」次はアジタマだ、キミの具合を見るに良いタマゴを使っているのだろう
出汁の染み具合も最適だ*1



「ズルズルッ!ズルズルーッ!」次はチャーシューだ、予めカットし冷蔵庫で保管という手順を踏まず
その時の分を注文たびに塊から切り出す事により脂が冷え固まらず、スープの温度を下げる事もない
手間はかかるが店主のこだわりを感じられる、そのチャーシューを箸でつまみ、咀嚼せんとした…その時である



ウルフファングは背後から不穏な視線を感じた、先ほどのトレンチコートの女である、その目からは光が失せ
得体の知れない危険なアトモスフィアを漂わせている、敵対魔法少女か




ウルフファングは店主に気取られないよう密かに懐の武器に手を伸ばした、相手はまだ変身していない
ならばこちらも変身はしない、死んだ魚のような目でこちらを見つめ続けるトレンチコートの女
膠着状態が続くかと思われたが転機は唐突に訪れた、不意に、店が、ラーメン屋が炎上している!



「これは…!?」ウルフファングはとっさに変身し周囲を見渡す、店主もトレンチコートの女もこと切れていた
操られていた捨て駒という事か、魔法少女の認識速度すら超える火災の延焼、間違いなく魔法であろう
「それにしても、この私が火攻め程度で殺せると思われていたとは、些か不愉快ですね」



ウルフファングは地下通路に向け跳躍しようとした、次の瞬間!「イヤーッ!」三枚のカトン・スリケンが飛来!
「ツァーッ!」ウルフファングは檄を激しく回転させ防御!しかし店内の構造物が障害となり回転速度低下!
一枚のスリケンがウルフファングの肩口を浅く焼き切る!「小癪な!」ウルフファングはエアライフルを発砲!Cashoo!



現れた影はマッシュルーム型の弾を無言でつまみとり潰すとアイサツを繰り出した
「ドーモ。ウルフファング=サン。ファウルティマギアです、貴女を殺しに来ました」
魔法少女だ!魔法少女のニンジャである!



「一般人を巻き込むとは下賤な… 貴女を討伐しなければなりませんね」ウルフファングはアイサツなど気にも留めない
一瞬の沈黙の後、先手を打ったのはファウルティマギアだ!「イヤーッ!」カトン・スリケン投擲と同時のカトン加速による右ストレートだ!
「ッツァーッ!」対するウルフファングはスリケン回避後檄を捨てタイチー*2・カラテの迎撃技、化勁でこれを弾く!



「ッツァーッ!」ウルフファングはさらにファウルティマギアの右腕を引き、首に腕を絡ませ自らの膝上に引き倒した
金剛搗碓の構えである!「イヤーッ!」ファウルティマギアはウルフファングの接点から火炎を放出し転がるように脱出
目標を失ったウルフファングの拳が床を砕く!「ッツァーッ!」コンクリート床粉砕!



「イヤーッ!」ファウルティマギアは左腕を軸に低空旋脚でウルフファングの脚を狙うがウルフファングはこれを跳躍回避!
立ち上がったファウルティマギアを二起脚が襲う!「ッツァーッ!」「イヤーッ!」右腕で一撃目をガード!
「グワーッ!?」しかし二撃めがファウルティマギアの脇腹を捉えた!タツジン!



吹き飛ばされ倒れ込むファウルティマギアの隣に片膝を床に突くウルフファングあり、まさか介抱しようとでも言うのか!?
否!あれは臥するものに無慈悲な一撃を見舞う血も涙もないタイチー・カラテの暗黒技!撃地捶である!「ッツァーッ!」「ンアーッ!」
だが次の瞬間吹き飛ばされたのはウルフファングであった!読者の中に魔法少女動体視力をお持ちの方が居ればお気づきになっただろう



まず床に伏せたファウルティマギアは床と接した肘からカトン・ジェットを噴出、床と肘に挟まれたカトン・ジェットは
表面効果により爆発的な推力を発揮、寝そべりながらでも十分な加速を発揮した対空ポムポムパンチでファウルティマギアはウルフファングの鳩尾を殴りつけたのだ!
「イヤーッ!」ファウルティマギアはウルフファングを追撃!「ッツァーッ!」ウルフファングも即座に体制を立て直し迎撃!



「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」
「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」
「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」



「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」
「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」
「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」「イヤーッ!」「ッツァーッ!」



「ッツァーッ!」膠着を破るべくウルフファングが抉るような纏絲勁左フックを狙う!ファウルティマギアは回りながら上体を屈め
頭を地面すれすれまで下げてこれを躱す!同時に回し蹴りを繰り出す、中世に海を越えて南米に伝搬した暗黒カラテ蹴り、メイアルーアジコンパッソである!
ウルフファングは即座に対応し地面すれすれまで体を倒し込みこれを回避しつつファウルティマギアの下半身目がけ体当たりをした!



タイチー・カラテの禁止技!七寸靠だ!「ッツァーッ!」「イヤーッ!」ファウルティマギアはそのまま反り返ると
ハンドスプリングしこれを回避!「イヤーッ!」五枚のカトン・スリケンを空中から投げ放つ!「ッツアーッ!」ウルフファングは檄を拾いなおすと
スリケンを薙ぎ払う!カトン・スリケンの小爆発が両者の視界を奪う!店内は煙に覆いつくされ戦闘続行は困難!



「イヤーッ!」先に店外へ躍り出たのはファウルティマギアだ!彼女は地下通路に離脱すると瞬時にマイナス温度で燃えるカトン・コリ・ケンを生成し
煙の中で蠢く標的に向け突撃した!「死ね!ウルフファング=サン!死ね!イヤーッ!」キィィィィイインという鋭い音と共に、コリ・ケンは砕けた
「馬鹿な!」灰色の剛毛に包まれた腕が煙の中から現れる「GRRRRRRR!」「グワーッ!?」ファウルティマギアの左脇腹がえぐり取られる!



おお… 見よ!丸太めいて逞しい腕!血に飢えた黄金色の瞳!大地を踏みにじる恐ろしい爪を備えた双脚!全てを喰いちぎらんとする牙!
戦いと死の主神オーディンを食らう神話の大狼めいたウルフファングのヘンゲ・ヨーカイジツである!コワイ!
「GRRRRR!」「グワーッ!?」「GRRRRRR!」「グワーッ!?」ウルフファングの爪がファウルティマギアの装束を血に染め直していく!



「GRRRRRR!!」「アバーッ!?」ウルフファングは露出した鉄パイプを引き抜くとファウルティマギアに突き刺し
壁に縫い付けた!勝利を確信したウルフファングの毛が抜け落ち、狼耳尻尾貧乳魔法少女の姿に戻る、ファウルテイマギアが呻く
「ア… アバッ… げに恐ろしきは獣の底力よ… フフ… ヤンナルネ… 黄泉の世に/何れ至るは/人が故…」


「さぁ、洗いざらい話してもらいましょうか?貴様がなぜ食事中の私を襲撃したのかを」ウルフファングは近づく
だが、ファウルティマギアは突如爆発四散した、「サヨナラ…!」と言い残し爆死したのだ
魔法による自爆である、ウルフファングは壁に残ったシミを睨み… 背後を振り返ると… 舌打ちをした



―――――――――――――――



「私の顔に何か…?」ウルフファングの声が、黒髪の女の耳に届く。「ひゃぉう!?」
彼女はなにやらの妄想から醒めると、一呼吸遅れて不意に話しかけられたことに驚きレンゲを取り落としかけた
戦闘は、実際のところ起こらなかった、店主がこぼれたスープを見てふきんを手渡す



「あっ… すいません、えと… 美人さんがこんな… アッ!すいません! でも珍しいなって思って…」黒髪の女は取り繕う
店主は苦笑した、「はぁ…?」少なくとも、先ほどまで漂っていた得体の知れぬ、何をするかわからぬ狂気のような物は消えている
それからウルフファングは一瞬考えるようなしぐさをした後、再びラーメンに向き直った



黒髪の女は既に空になっていたドンブリに奥ゆかしく手を合わせ「ゴチソウサマデシタ」と呟くと
二人分の料金を支払い地上の闇へと消えていった…

―――――――――――――――


imgソレナリニタカイビルの屋上に一人の女が居た、彼女のトレンチコートが風にあおられ突如炎上する、一瞬の煌めきの後
そこに立っていたのは… 先ほどよりやや背の低い忍者装束を身にまとった魔法少女であった、魔法少女ファウルティマギアである
「やはりカラテ重点の魔法少女相手は厳しいですね」実物を目撃した上で、そのインスピレーションから得られたシュミレーションを思い返す



「ウルファング 「」ァヴが定めた"週替わりの10班"の内の22組に所属 固有魔法はヘンゲ・ヨーカイジツめいた身体強化魔法
服の下に幾つかの武器を隠し持つ 推定される正体にしてはかなり控えめで邪悪ではない魔法少女 別人か 現在の拠点は…」
ファウルティマギアは暗黒非合法手段で入手した情報をニューロンの内で反芻しながらスタンドオフ端末に記録を残す



記録は重要だ、前回の事件でも彼の魔法少女の身辺が明確であれば、他の魔法少女の連携が少しでもマシであれば
被害はかなり減らせた筈だ、だが表立って指示こそされていないが殺し殺されるよう仕組まれたデスゲームの中で
情報共有など出来ようはずもない、故にニンジャではなく、そう、忍者のようにに秘密裏に事を運ぶ必要がある、何時かに備えて



ファウルティ・マギア… ホワイトハッカー シラキ シノブがそう名付けた怠惰な魔術師、それがこんなにも走り回って情報を集めている
「おかしいと思いませんか?あなた」誰に問いかけるでもなく夜の風にコトダマが溶け込む、ヤンナルネとimg街の月が呟いた気がした





【ファウルティ・チェイサー/パスト・チェイス・バイ・ファング】#1終わり #2へ続く

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