img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:美王 プリティー・ハート カムイカナ スカイブルー カンナ・ピース ゼノちゃん 四色八代子


 悪役になって正義の味方と戦いたい。





 戦いたい、というのは正確ではない。
 どちらかと言えば永遠終わること無くじゃれ合っていたい、それが魔法少女であるゼノの夢であり、信条だ。

 自分が活躍する姿、それを華麗に潰すヒーロー。
 そんな光景を思い描きながら、月の光を背負いながら夜の街を跳ね回る。

「今日は魔法少女が少ねエな」

 ビルの屋上に建てられた看板に腰を下ろし、周囲を見渡す。
 いつもなら、これだけ飛び跳ねてれば魔法少女一人くらいは見つけられるが運が悪いのか見つからない。
 内心、美王と一緒にプリティ・ハートをからかって時間を潰すかカムイカナに魔法少女が居そうな場所を聞いておけば良かったと後悔する。

「はぁ〜〜、でもなア……あの二人は苦手なんだよなァ」

 最近ゼノ達の組に入ってきたスカイブルーと、カンナ・ピース。
 前者はそもそも趣味が合わなかった。
 ゼノが魔法で造った機械も生き物も、少し油で汚れてたり薄汚れている事が殆どだ。
 それはゼノの趣味でそうしているのだが、スカイブルーは"善意"で綺麗に、それこそ自分の顔が映るほど綺麗に磨き上げる。
 "黒い油を吐き出す掃除機"を綺麗にされた時は何が起きたか分からず、数分ほど固まってしまった。

 そしてカンナ・ピース。
 彼女は、怖い。
 "悪役"が好きな彼女は色々な悪役のパターンを見ている。
 彼女は身内に居るとヤバいタイプの悪役であり、魔法少女だ。
 その上愛と平和で満たすのが夢だと言っていた。
 まず反りが合わない。
 そういうのとは距離を置くに限る――どうせこの組なのももう直ぐ終わりだ。

 ゼノは暇そうに両腕の巨大な鉤爪を、座っている看板に向かって振り下ろす。
 甲高い金属音と火花が散り、深い裂傷が刻まれる。
 今の音で下を歩いていた奴の何人かがコチラを見たが、どうせ認識できやしない。

 ファヴが「認識阻害の魔法が掛かっているから平気だぽん」と言っていた。
 初めこそ魔法少女モノアニメに出てくるマスコットキャラみたいで大嫌いだったが、これが中々の悪党だ。
 白黒の饅頭のような風体だが、それは中身も同じようで腹の底はドス黒い。
 コイツの意図を酌んでいれば魔法少女同士の戦いで不利益を被る事は減るだろう。

 ――ぼんやりとそんな事を考えていると、傷付けた裂傷から黒い線が伸び始める。
 黒い線は金属を侵食し、ボロボロと剥がれ落ち始める。
 剥がれた金属は徐々に形を半球状に変え、六本の脚を生やす。その姿は天道虫のようだ。
 唯一の違いは大きさがバレーボールほどあり、頭の変わりにドリルが付いてる事だろうか。
 ゼノはそれを見て、ドリルはカッコイイなと内心で呟く。
 これがゼノの"悪戯をする為に機械や生き物を造り出す"魔法だ。
 剥がれ落ちる看板からビルの屋上にゼノが降りる。足元には無数の鋼の天道虫が蠢き、既に溢れ出している。

「下準備は出来たっ……と」
 時計を確認する、深夜一時半。
 大体この時間になれば真っ先にあの魔法少女が現れる。
 刀を持った和装の魔法少女。
 それは既に巫女なのでは? と頭を捻ったのは一度や二度ではない。
 そして彼女に自分の悪戯を邪魔されたのも三度や四度ですらない。

 ――四色八代子。

 弱気な癖に正義感が強く、いくら痛め付けられても立ち上がる。
 大体二人一組で活動しているが、この時間ならまだ一人だ。
 襲いかかるなら丁度いい、からかうには十分だ。
 ゼノが右腕――巨大な機械式の鉤爪――を持ち上げ、それを夜の街を駆ける魔法少女に向ける。

「理由なんていらない。アタシが"悪"で、アンタが"正義"なら、やり合おうじゃない! ハハハ!」
 彼女の笑い声と共に、甲高いドリルの音と耳障りな羽音を無数に響かせて鋼の天道虫が週末の街に飛び出す。

 週末の、街。
 ……週末?
 ゼノはああ、と呟き手を打つ。




 今日は魔法少女の休日だったな、と。

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