img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:新・宮古 アリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーン

「あー、うー、テストテストー。聞こえますかー?こちらはARTPM。ご村内の行政無線放送をお借りして、これから始まります深夜のラジオ超特急。
本日お送りいたしますのは、アンドリューズ・シスターズ&ダニー・ケイの1947年のナンバー、シヴィライゼーション。
いいですよねーハイカラですよねー。さて、ここから重要なお知らせです。
約3分間の演奏が終わった後、お近くの変電所から計3回ガンマ線が照射されます。いいですかーガンマ線ですよー放射線ですよー。
このガンマ線は直ちに人体への影響が出るものではありません、が!その後のことは一切保証いたしかねます!どうすればいいのでしょう…!?答えは簡単です!
この放送をお聞きになったら直ちに村を棄てて都会で暮らしている親戚縁者を頼って避難して下さいねー。しーゆー!」

ここは入り組んだ海岸線に面した日本の寒村。
かつては漁民が僅かな魚を獲るばかりの貧しい村だったが、昭和40年代に原子力発電所建設地の白羽の矢が立って以来、その有様は大きく変容した。
文字通りの流血沙汰と訴訟合戦の果てに建設され、今や海辺に威容を構える原子力発電所は、村と住民たちに甚大な税収と電力会社からの補償金をもたらした。
半ば廃墟と化していた村はたちまちに蘇り、かつて村民の誰一人として夢見ることすらしなかった富と繁栄を手にした。
原子力発電の栄光を称えて、村の中心部のアーケードには「原子力 平和に使って 明るい未来」の文字が掲げられ、夜になれば原子力の光で燦然とライトアップされる。

「いやー、いいねぇ。痺れるねぇ。人類のサイエンスとテクノロジーとマネージメントシステムの末路を感じるよ」

魔法少女アリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーンはこの村に文明の終焉を見出していた。
核による環境汚染と荒廃。旧時代が遺した空虚なプロパガンダ。彼女が求める暗黒郷と黙示録の世界の萌芽がそこには眠っているように映った。
そうして彼女はこの村を訪れ、発電所裏の雑木林に身を隠して村内放送の無線を乗っ取り、独り歴史の終わりの空想に浸る―はずだった。

彼女の発した電波が往年のリズム・アンド・ブルースの軽快な調べを流し出した時、傍に並ならぬ気配を覚えた。
間違いない。自分のほかに魔法少女がいる……

アリスが気配を察するや、その魔法少女は彼女の背後に回り、両腕を強く締め上げている。
何の格闘技の術か知らないが、腕のみならず体幹も制圧されたようで、脚で後蹴りにすることも叶わない。

「随分と…懐かしい曲をおかけになるじゃありませんの。進駐軍の放送を楽しみにしてた頃を思い出しますわ。ねえ、アリス…ラジオテレフォンショッカー…さん、だったからしら?」
龍眼と龍尾の魔法少女、新・宮古だった。

「あら、おばあ様ごきげんよう。今日はお散歩…ではありませんようね。貴女がアンチ・ニュークリアの方とは存じませんでしたわ。」
身動きを封じられたアリスは歪んだ笑みを浮かべて皮肉の一つを返してみせるが、額からは脂汗が流れ出ている。

「いえね、そんな難しい話ではありませんの。私はただ訳もなく人を騒がせ生活を脅かす貴女の悪質ないたずらが気に入らなくて、……!?」
言葉を言い終えぬうちに、宮古の瞳を白光の一閃が襲う。反射的に瞼が閉じるのとともに、アリスを抑えていた両腕の力も一瞬緩む。
光と電磁波を操るアリス&ラヂオテレフォニックサイコマシーンの魔法である。

「…結構なご挨拶ですこと……だけど飛び道具に頼っていては、いつか身を滅ぼしますわよ?」

一般人であれば虹彩を焼かれて失明を免れない強烈な光であっても、魔法少女相手には目眩ましに過ぎない。
まして老練の魔法少女である宮古相手であれば、ほんの一時しのぎの小細工でしかない。
既に宮古は隙を突いて逃れたアリスとの間合いを詰めている。

「へえ、ご忠告痛み入ります。ですけどね、こんなところで荒事ってわけにもいかないでしょう?」

アリスが逃げ場に選んだのは原発施設に張り巡らされた金網だった。
これを破ってしまえば直ちに警報が鳴って大事になるだろう。そればかりか、力加減を一つ誤れば核惨事にもなりかねない。
接近戦で劣る彼女に採り得る唯一の選択肢であった。

「これで形成逆転…のおつもりかしら。」
「さて…どうするの?お得意の火でも吹いてみる?どっかに温熱センサーがあるかもしれないけどね」
「あら、言ったでしょう?飛び道具に頼っていては、いつか身を滅ぼすってね!」

途端、アリスの意識が暗くフェードアウトする。
原発施設近くまで逃げ込んだアリスの姿を認めた時点で、宮古の拳は彼女の顎を正確に捕捉していたのだ。
「物を壊さなくたって、相手一人を倒すくらい容易いことですのよ。要は技の使いよう……今日のことは体でよく覚えておくといいわ」
村内を流れていた音楽は最後のメロディーを残してぷつりと途絶えた。
原子力発電所の計測器には何らの異状も確認されなかった。

「いったぁ……こりゃ魔法少女じゃなかったら絶対死んでるわ……」
アリスが意識を取り戻した頃には、既に宮古の姿はなかった。
先の戦闘によるダメージですっかり消耗し切ってしまって、ガンマ線照射どころか目眩ましの光だって出せるかどうか怪しい。このまま無事帰れることを祈るしかない。
まさに完敗である。アリスは屈辱と挫折感とともに、自分でも説明の付かない高揚感を覚えていた。
「剥き出しの暴力と死の危険が支配する世紀末……そこで面白おかしくやっていくには、ちっとは鍛えておかなきゃ、かなぁ……ふふ、ふふふ…」
まだ脳震盪の影響は抜け切っていない。アリスはふらつく体に鞭打って雑木林の中に身を隠し、夜の闇に紛れて消えていった。

午前4時30分。満月は既に西に傾き、東の空は曙光の兆しを見せ始めていた。
深夜の騒ぎなど夢幻であったかのように、人々は早くも一日の生活を始めつつあった。

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