img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:ナハト=クレーエ メガデス・Eちゃん リトルリトル

 出来心だったんです。
本当はもうしばらく我慢するつもりでした。
 でも好きすぎて、大好きで大好きで。
 つい、手を出してしまいました。

 一撃で決めるつもりでした、手加減なしです。
 だけどワタシの全力を込めて頚椎を叩き折ろうとした触腕はギリギリで躱されました。
出来れば苦しまないように一撃で殺めてあげたかったのですが、残念。

「…どういうつもりです?」
 困惑顔でメガデス・Eちゃんさんは尋ねてきます。
「Eちゃんさんはワタシの大切なお友達ですから…我慢できなくなったんです!」
 ワタシは本心をぶちまけます。
「? どういうことです? 友達だから殺すっていうのです?」
「はい! 大切なお友達だからです!」
 Eちゃんさんの困惑顔が深まります、こいつは何を言っているんだろうという顔です。
そりゃあそうでしょう、普通は意味がわからないでしょう。
 私自身にとっても新鮮な感情すぎて巧くコントロール仕切れないほどです。判って貰おう
とは思っていません。
 なのでとりあえず横薙ぎに触腕を振るいます。

 避けた所を他の触腕でトドメを…と思っていたらまさかの直撃。
Eちゃんさんは盛大に吹き飛んで勢いのまま壁を貫く…かと思ったら急停止、
私の体がつんのめります。
 触腕が掴まれてる!
がっちりガードされた上に攻撃した私の触腕はそのまま掴まれています。
だけどそれが何だというんでしょう? 彼女の体勢が崩れたのは間違いなく
そのまま残りの触腕で貫いて終わ

「つーかそっちが死んでみるのですよ、とりあえず百遍くらい」

 目の前にワタシがいます。近づくワタシを目に恐怖に満ちて逃げようとする私がいます。
砕かれた右足が痛い、逃げ切れない。そのまま触腕に首を掴まれ、ごきり。と嫌な音と痛みが
体内に響いて呼吸が出来ない。脳への酸素の供給は途絶え私の意識は消えます。
 目の前にワタシがいます。突然現れたワタシを見て呆然とする私の頭をいともたやすく
触腕が砕きます。私の意識は消えます。
 見上げる上にワタシがいます。穴の底にいる私に伸びた触腕、かわそうとするも狭い穴の中で
躱しきれるわけもなく刺し貫かれ、動きを封じられた後に頭を砕かれ
 道を歩いていた私がいました。明日の遠足を楽しみにしていた私がいました。
残業に疲れ果てた私がいました。寝ている私がいました。パチンコで勝ったと上機嫌の私がいました。
蚊として生きていた私がいました。青虫として葉を食べていた私がいました。

 36人もの私と星の数程の人間ではない私が何度も何度も繰り返し繰り返し繰り返し
ワタシに殺されて殺されて殺されて殺されて殺され殺



 メガデス・Eの魔法、触れた相手に誰かの死に際を追体験させる。
触腕と言えどそれはリトルリトルの一部である。メガデス・Eはそれをしっかりと捕縛していた。
 メガデス・Eの命を刈ろうとしていた残りの触腕は力無く地に落ち、
その根本であるリトルリトル自身 棒立ちになって虚空を見つめている。
メガデス・Eの魔法の効果は効果を受けて正気でいられる人間はいない。
 どんな人間だって何の命も奪った事も無い人間はいないし、
死を追体験してまともでいられる人間もいないだろう。

「どーしたものですかね…?」
 掴んでいた触腕を投げ捨てながらリトルリトルの処遇を考えあぐねるメガデス・E、
そもそもなぜ突然襲い掛かってきたのか自体がわからない。
わからないが本気で殺しに来ていたことだけは確かだ。
 メガデス・Eにとってリトルリトルは仲の良い友達だと思っていた。
だがその友達が唐突に殺しに来た、理解出来るわけもない。
 最初の一撃を躱せたのだって正直運が良かっただけだ。
メガデス・Eは正面切って戦うようなタイプではない。メガデス・Eの魔法では
これ以上の事は出来ない。それこそ魔法で呆けてる間に殺すなりなんなりという
物騒な力技に訴えかけない限りはやれることがない。
魔法少女に対して通常物理の拘束など意味も無い。
 これは打つ手が無い、さっさと逃げて助けを求めよう。そう決めて動き出そうとした時
「ありがとうございます」
 感謝の声が聞こえた。

「…いくら魔法少女でも早すぎるです」
 人間なら正気ではいられない、しかし魔法少女は精神的にも強化されている。
だが、それにしたって正気に戻るのが早すぎる。
「ワタシは命を戴いて生きています。命を戴いている以上こちらが奪われることだってあるでしょう。
だからいつでも死ぬ覚悟は出来ています、出来ていました。でもそう思い込んでいただけでした」
 感極まったように言うリトルリトル、メガデス・Eは困惑しかない。
「Eちゃんさんの魔法で死を追体験して、死と言うものがどれだけ恐ろしいものか、
どれほど虚無なのかわかりました。思う存分理解しました!」
「答えになってねーです…」
「だからこそ、ワタシはこれからもっと命を大切に出来る!
Eちゃんさんを美味しく食べる自信しかなくなりました!」
「食べるです? Eちゃんをです? あなたがです?」
「はい! ワタシの大切なお友達であるEちゃんさんをです!」
 一切の曇りの無いまっすぐな赤い瞳でこちらを見つめてくるリトルリトル。
 曇りの無い真っ赤な闇という表現が頭によぎる。
これは駄目だ。完全にわかりあえないやつだ。理解出来ないという事を理解するメガデス・E。
「本当なら声なんて掛けずに不意をついて苦しまないように一撃で殺めて差し上げるべきだった
そう思うんですけど、Eちゃんさんにはどうしてもお礼を言わなきゃって…。
 Eちゃんさんのおかげで死という物が理解できて…ワタシ、これからもっともっと料理うまくなります!
大切な命を! お友達をもっともっともーーーーっと美味しくいただけるように!
大切にしなきゃって! ワタシがんばります!」

 頑張る方向が間違っているです…。そう思いながらメガデス・Eは逃げ出す方法を探る。
 現在地は廃ビルの3階。
廃墟でネコを殺している輩がいるという話を聞いて来たそのビルのフロアはがらんどうで
とっさに隠れる場所も無くどう考えてもこちらが不利。
 だがあちらの魔法も直接攻撃でしかも体を伸ばすタイプなので魔法の相性自体は悪くない。
相手の攻撃はそのままこちらの攻撃に繋がる
 リトルリトルへの効きが多少悪いらしいとはいえメガデス・Eの魔法が発動してる間、
リトルリトルの意識は確実に彼岸に飛びその体は無防備になる。
 そう思っていたのに触腕がまた躊躇無く振るわれる。

「ッ!! こりねーです!?」
 先程と同じようにガード、吹き飛ばされながらも触腕を掴み取る。それと同時に魔法を発動。
が、手応えが無い。以前試しに無機物に魔法を使ってみた時と同じようなスカスカの感覚が帰ってくる。
「何が起きたです!?」
吹き飛ばされながらリトルリトルに視線を向けると振るった触腕をそのまま自らの手で引きちぎっているのが見えた。

「ええ、こりましたから」

 あの腕は普通に触覚も痛覚も走っているとか言ってた気がするのだが、
それが事実だとしたら正気の沙汰ではない。
だが吹き飛ぶ方向は窓、この勢いのまま飛び出れば逃げられる。
そう思ったメガデス・Eの体を窓の下から突然伸びた黒い影が包み込んだ。

 リトルリトルはメガデス・Eを縛り上げた触腕を引きちぎる、ちょう痛い。
保護色に包まれ視認しづらくなっていたその触腕はちぎられたことで機能を失い元の白に戻る。
 メガデス・Eとの会話はリトルリトルの感謝の表れであったのは事実だがそれと同時に背景色に
馴染ませた触腕を伸ばして配置している事をメガデス・Eに気づかれないためのカモフラージュでもあった。
縛り上げたメガデス・Eが地に落ちると同時にさらに追加で一本、がっちりと縛り上げて引きちぎり、
ダメ押しとばかりにもう一本追加してまた引きちぎる。めちゃくちゃ痛い。

「すいません…」
 メガデス・Eを吹き飛ばしたその最初に引きちぎった触腕を右手に握り、リトルリトルは
拘束され動けないメガデス・Eへとゆっくり近づく。
「意志の通ってない触腕だとこんな手段しか無くて…Eちゃんさんの魔法だとワタシは触ることすら出来なくて…
でも道具を使って大好きなお友達の命を戴くだなんて事ワタシにはとてもできませんから…だからすいません」
 振り上げた触腕を鞭のように振り下ろしながらリトルリトルは謝罪を口にする。
だがそれは無用な痛みを与えてしまっている事に対しての謝罪であり、命を奪う事に対しての謝罪では一切無い。
 リトルリトルは友達が苦悶の叫びを上げていることが辛くて辛くて。悲しくて悲しくて。

 その、振り下ろす手を強めた。



 ちょっと疲れたし小腹も減ったし。と、皆のごはんにと持ってきたが残ってしまったピカタを食しながらEちゃんさんだったお肉の髪を撫でる。
 かわいいなあ、と。
そして、こんな傷つけたく無かったなあ、味が落ちちゃう。
とも思った。

 さて、休憩終わり。お肉の下処理に入ろう。
早くしないと味が落ちる。
 手慣れた作業に移りながらリトルリトルは思考する。
今回はあまりにも衝動的に行動してしまった。
 Eちゃんさんとワタシが二人きりで行動していることをナハトさんが知ってしまっている。
ワタシの嗜好がばれること自体はどうでもいいのだが、それが原因で他の皆と友情が育めなくなるのが困る。
そう考えると今夜中にナハトさんを何としといたほうがいいのかな…。
 一晩で二人はちょっと多すぎる。味が落ちる前に食べきる事ができない。
どうしたものかと考えていると。窓の外から大きな羽音が聞こえる。

 ああ、この音はナハトさんだ。
 見られてしまう、困った。
すでに魔法少女のEちゃんさんではなくなってごく普通の少女になっているお肉。
血抜きを終え腸を取り除く作業の途中だ。この惨状はちょっとばっかり言い訳しづらい。
 これはしょうがないな。
困っているはずなのに口が笑ってしまっていることをワタシは気づいている。
大切なお友達を同時に二人もお迎え出来るのだから嬉しくないわけがない。

 ワタシはナハトさんとお別れをする為に立ち上がった。

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