最終更新:ID:aW5PdH8jBA 2016年12月09日(金) 19:41:33履歴
登場キャラクター:レッサービリーバー
レッサービリーバー前日譚
まだ、あの日のことは覚えている。
その日、息子夫婦が妻を連れて久々の家族旅行に出かけて行った。
「すまん!何か手違いで親父の分だけ部屋が取れてないとかで、えぇと……」
「いいさ、こっちとしちゃあ顔見してくれるだけで十分よ。母さんの分は取れてるんだろ?それで行って来たらいい」
俺はあの日の選択を後悔しているんだろうか。ついて行けばよかったと。
「あれ?爺ちゃん行かないんだ」
「すまんね、なんか適当に土産とか買ってきておくれ」
「いいけど……本当に適当に選ぶよ?」
「ハハ、構わんさ」
あるいは俺が我儘を言って日取りをずらしてもらえば、あいつらは死ななかったのかもしれない。
「次のニュースです、○○県○○市で大規模な火災が発生し――」
過ぎてしまった事態はどうやったって変えられはしない。
「芥さんですね?申し訳ありませんが、御遺体の確認を」
噂では、空を跳びかう何者かが一帯に火を放ったという。まるでお伽噺だ。しかし、火災は起こったことは事実で、さらにそれが原因で何人もの宿泊客が亡くなったということも事実だ。行方不明者も出たらしい。
その中には、息子夫婦と妻の名前もあった。
遺品の整理をしている時のことだった。
持って行った荷物の量が単純に多かったことに加え、向こうで買ったと思われるものもたくさんあった。一旦全部家に持って帰って、細かい分け方はそれから考えよう、そう思った。
「こんにちは!マスコットキャラのファヴだぽん!あなたは本物の魔法少女に選ばれたぽん!」
アラームか。携帯電話等の通信機器はまとめておいたから、最初は誰のものかわからなかった。
画面が光ってるものがある。これは孫娘のものだ。
「芥強平(きょうへい)。あなたには魔法少女として活躍する才能があるとファヴは判断したぽん!」
魔法少女、か。そういえば孫はそういうソーシャルゲームに凝っているとか聞いたことがある。完全無料で、結構時間を食うけどわりと面白いと言っていた。息子は勉強に専念できなくなるからできればやめさせたいと愚痴ってはいたが。
「元の持ち主の芥秋穂が亡くなったので、代理として魔法少女になる権利を与えるぽん!」
もう真面目に聞く気も失せていた。幻聴の類か。それもそうだ、歳も歳だしな。通信機器の類は結構あったため、ダンボールに一まとめにしておいてある。携帯ゲーム機とかタブレット端末もまとめてだ。それを持って別の部屋へ移動している最中、目に入ったものがあった。
姿見。これは妻のものだった。俺は男だからその価値はわからないが、あいつが六十の誕生日に息子夫婦が選んで買ったものらしい。ちなみに俺は東京土産で茶を濁された。
そこには、孫の秋穂の姿があった。
白いコート姿に、中学生になったばかりのそこまで大きくはない体。見間違うはずもない、秋穂だ。
「なぜ……そこに……」
わかっている。わかっているはずである。彼女はもう死んだ。遺体だって確認した。もういないのだ。
わかっているはずなのに。
涙が止まらなかった。
周りの音すら聞こえないくらいに。
理屈では何となく理解はしていた。自分が孫の姿をしていることくらいわかっていた。
声だって、自分の発している声ではないとわかっていても、それは自分が出している、知っている声だった。
「ここに、いるのか……秋穂……」
俺には何も残っていない。
それでも、俺だけは生かされた。俺はどうすればいい。孫の姿をした、俺はどうすればいい。
どれだけ時間が立ったのか。
冷静になった頭を切り替え、あのよくわからない生き物の話も聞いた。
事情はだいたい理解した。その上で今俺が。
私がしなければならないことは。
ただ、ひたすら善に生き善に逝く。
魔法少女として、恥じない生き方を。もし、秋穂が魔法少女になっていたら、こうするだろう。
死ぬまでのわずかな時間を、生きるのだ。
「魔法少女に復讐するとかそういうことを期待したのに……とんだ的外れだったな」
「ん?何か言ったか?」
「気のせいぽん!」
終
レッサービリーバー前日譚
まだ、あの日のことは覚えている。
その日、息子夫婦が妻を連れて久々の家族旅行に出かけて行った。
「すまん!何か手違いで親父の分だけ部屋が取れてないとかで、えぇと……」
「いいさ、こっちとしちゃあ顔見してくれるだけで十分よ。母さんの分は取れてるんだろ?それで行って来たらいい」
俺はあの日の選択を後悔しているんだろうか。ついて行けばよかったと。
「あれ?爺ちゃん行かないんだ」
「すまんね、なんか適当に土産とか買ってきておくれ」
「いいけど……本当に適当に選ぶよ?」
「ハハ、構わんさ」
あるいは俺が我儘を言って日取りをずらしてもらえば、あいつらは死ななかったのかもしれない。
「次のニュースです、○○県○○市で大規模な火災が発生し――」
過ぎてしまった事態はどうやったって変えられはしない。
「芥さんですね?申し訳ありませんが、御遺体の確認を」
噂では、空を跳びかう何者かが一帯に火を放ったという。まるでお伽噺だ。しかし、火災は起こったことは事実で、さらにそれが原因で何人もの宿泊客が亡くなったということも事実だ。行方不明者も出たらしい。
その中には、息子夫婦と妻の名前もあった。
遺品の整理をしている時のことだった。
持って行った荷物の量が単純に多かったことに加え、向こうで買ったと思われるものもたくさんあった。一旦全部家に持って帰って、細かい分け方はそれから考えよう、そう思った。
「こんにちは!マスコットキャラのファヴだぽん!あなたは本物の魔法少女に選ばれたぽん!」
アラームか。携帯電話等の通信機器はまとめておいたから、最初は誰のものかわからなかった。
画面が光ってるものがある。これは孫娘のものだ。
「芥強平(きょうへい)。あなたには魔法少女として活躍する才能があるとファヴは判断したぽん!」
魔法少女、か。そういえば孫はそういうソーシャルゲームに凝っているとか聞いたことがある。完全無料で、結構時間を食うけどわりと面白いと言っていた。息子は勉強に専念できなくなるからできればやめさせたいと愚痴ってはいたが。
「元の持ち主の芥秋穂が亡くなったので、代理として魔法少女になる権利を与えるぽん!」
もう真面目に聞く気も失せていた。幻聴の類か。それもそうだ、歳も歳だしな。通信機器の類は結構あったため、ダンボールに一まとめにしておいてある。携帯ゲーム機とかタブレット端末もまとめてだ。それを持って別の部屋へ移動している最中、目に入ったものがあった。
姿見。これは妻のものだった。俺は男だからその価値はわからないが、あいつが六十の誕生日に息子夫婦が選んで買ったものらしい。ちなみに俺は東京土産で茶を濁された。
そこには、孫の秋穂の姿があった。
白いコート姿に、中学生になったばかりのそこまで大きくはない体。見間違うはずもない、秋穂だ。
「なぜ……そこに……」
わかっている。わかっているはずである。彼女はもう死んだ。遺体だって確認した。もういないのだ。
わかっているはずなのに。
涙が止まらなかった。
周りの音すら聞こえないくらいに。
理屈では何となく理解はしていた。自分が孫の姿をしていることくらいわかっていた。
声だって、自分の発している声ではないとわかっていても、それは自分が出している、知っている声だった。
「ここに、いるのか……秋穂……」
俺には何も残っていない。
それでも、俺だけは生かされた。俺はどうすればいい。孫の姿をした、俺はどうすればいい。
どれだけ時間が立ったのか。
冷静になった頭を切り替え、あのよくわからない生き物の話も聞いた。
事情はだいたい理解した。その上で今俺が。
私がしなければならないことは。
ただ、ひたすら善に生き善に逝く。
魔法少女として、恥じない生き方を。もし、秋穂が魔法少女になっていたら、こうするだろう。
死ぬまでのわずかな時間を、生きるのだ。
「魔法少女に復讐するとかそういうことを期待したのに……とんだ的外れだったな」
「ん?何か言ったか?」
「気のせいぽん!」
終
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